インクル 第114号 2018.5.25 特集:共用品とマーク 目次 平成30年度共用品推進機構事業計画 2、3ページ 共用品とマーク 4ページ 国際シンボルマークとその課題 5ページ 2020年に向けた共用品関連ピクトグラム 6、7ページ 手話マークと筆談マークについて 8ページ 鈴愛ちゃん、「耳マーク」を使ってね 9ページ 「UDFマーク」について 10ページ CUDマークの作成経緯・意義・今後の発展 11ページ 利用者から見たマーク・あったら良いマーク 12ページ キーワードで考える共用品講座 第104講 13ページ かしわ餅が表紙の共用品パンフレット 14ページ 触って分かるかしわ餅パンフレットは2つの印刷技術の融合 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16 ページ 表紙写真:かしわ餅 江戸時代のかしわ餅は、こしあん、つぶあん、味噌あんなどを、葉の表裏で区別しています。 葉の表裏の手触りは、目の不自由な人も、触って区別できます。 2、3ページ 平成30年度共用品推進機構事業計画~分かりやすい情報発信~ 平成30(2018)年3月7日の第15回定時理事会にて、平成30年度事業計画が承認されました。 今年度は、「調査・研究」、「標準化」、「普及・啓発」の三つの柱で取り組みを行います。 調査・研究 (1)障害児・者/高齢者等のニーズ把握システムの構築・検証 製品・サービス・システムに対して、障害児・者、高齢者のニーズを把握、 確認するためのアンケート調査、ヒアリング、モニタリング調査をシステム化し、 製品・サービス・システム供給者と需要者が連携できる仕組み案を構築し検証する。 ①障害児・者/高齢者等の日常生活環境における不便さ等の実態把握(調査方法)の構築検証・実施 「良かったこと調査」として、「地域における良かったこと」を実施する。 さらに、これまで行ってきた障害のある人・高齢者のニーズ等を把握するために不便さ調査及び良かったこと調査等のアンケート項目を分析する。 また抽出した共通の質問項目及び質問事項の有効性を、実施方法、対象者等の違い等を加味し、実践を通じて検証する。 ②共創システム及びモニタリング調査システムの構築・検証 これまで行ってきた共用品モニタリング調査を基に、障害当事者団体・高齢者団体等と連携し、 関係業界、関係機関(業界団体、企業、公的機関等)が共用品・共用サービス・共用システムに関する モニタリング調査を簡易に実施するための支援システムを試行し、 さらにこの支援システムを恒常化するために必要な事項の分析を行い、 合理的且つ有効なモニタリングの実施方法を検証する。 (2)共用品市場調査の実施 これまで実施してきた共用品市場規模調査及び手法に関しての分析を引き続き行い、 調査対象の範囲並びに、今後共用品を普及するために必要な事項の課題抽出を行いながら、 今年度の共用品市場規模調査を実施する。 標準化 (1)規格作成 ①アクセシブルデザイン(高齢者・障害者配慮設計指針)国際規格の作成及び調査・研究 これまで行ってきた国際標準化機構(ISO)内のTC173(障害のある人が使用する機器)SC7(アクセシブルデザインを取り扱う作業部会)に、 新規規格作成の提案を行うための調整と共に提案を行い、審議を開始する。 ⅰ.AD使用性評価、ⅱ.視覚障害者用取説、ⅲ.不便さ調査等共通設計指針等に関してTC173/SC7のメンバーとコミュニケーションを強化し、提案説明を行う。 ②アクセシブルデザイン(高齢者・障害者配慮設計指針)JIS原案作成及び調査・研究 アクセシブルデザインの共通基盤規格、デザイン要素規格のJIS原案作成における全体像の検証及び整理を行う。 また、日常生活における不便さ・便利さ調査の標準化に向けた作業を行う。 (2)関連機関実施の高齢者・障害者配慮設計指針規格作成及び調査研究に関する協力 アクセシブルデザイン(高齢者・障害者配慮設計指針)に関係する調査・研究並びに規格作成を行っている機関と連携し、アクセシブルデザイン標準化へ協力する。 普及・啓発 (1)共用品普及のための共用品データベース作成・維持・発展 平成29年度までに行ってきた共用品のデータベースの試行を基に、障害のある人を含む多くの消費者が、 的確な共用品を選択できる仕組みを構築するため、使いやすさや検索のしやすさについて検討を行い、 データベースを再構築し試行を開始する。 試行の際、これまでに作成してきた高齢者・障害者配慮設計指針の日本工業規格(JIS)、ISO/IECガイド71、関係業界の高齢者・障害者配慮基準等、 関係機関と協議し作成した共用品(=アクセシブルデザイン)共通基準(素案)を基に作成した共用品の使用性評価制度を基に検証する。 (2)共用品・共用サービス展示会の実施 平成22年度に作成した「高齢者・障害者配慮の展示会ガイド」を活用する展示会主催者に協力し、展示会における高齢者・障害者配慮の実践を継続する。 また、共用品の展示に関しては、展示会を実施しより多くの人たちに共用品及び共用品の考え方の普及を継続して行う。 (3)共用品・共用サービスに関する講座等の実施・検証 これまでに実施してきた共用品・共用サービスに関する講座に関して ①対象(企業、業界団体、アクセシブルデザイン推進協議会=ADC)、一般市民、就学前の子供~大学院生等ごとに、 ②伝える事項(コンテンツ)、視覚的ツール(共用品のサンプル、PPT、ビデオ等)、配布資料等を用意し、講座を実施する。 さらには、より多くの機関で、共用品講座を行えるような仕組みを構築し検証する。 また、平成29年1月1日に発足した共用品研究所と、共用品に関する研究の情報共有を図る。 (4)施設における共用サービス・共用品の普及・啓発 これまでに実施してきた施設における共用サービスの普及事業を、各種施設で実施する。 (5)国内外の高齢者・障害者、難病等関連機関との連携 国内外の関連機関と連携をし、各種情報を共有し、共用品・共用サービスの普及を図る。 (6)アイディアコンテストの実施 これまでに実施してきた障害のある人達を対象としたアイディアコンテストを実施し、アイディアを通して共用品の重要性を高め、普及を促進する。 (7)共用品・共用サービスに関する情報の収集及び提供 本財団の活動や収集した関係情報を掲載した機関誌、電子メール、ウェブサイトなどで情報を継続的に提供する。 不便さ調査報告書の冊子を希望者に実費配布し、個人・法人への啓発を行う。 これまでに収集した資料、情報を整理してより多くの人達に情報提供すると共に、 新たに入手する情報に関しては、内容、体裁、発行頻度を再検討し、より効果的な形で配信する。 配信した情報は、項目ごとに整理し今後の共用品・共用サービスに関するあるべき姿を検討するために分析を行い、 各委員会等の資料として提供し、さらにウェブサイトに共用品推進機構の活動や共用品情報を掲載し広く活動を知らせる。 写真1:サイエンススクエア(国立科学博物館)での共用品の学習講座 写真2:アイディアコンテストのチラシ 4ページ 特集:共用品とマーク はじめに 今回の特集を「共用品とマーク」にしたきっかけは、2020年東京オリンピック・パラリンピックにむけて、 日本工業規格(JIS)で定められているマーク(図記号)を、国際標準化機構(ISO)で定められているマークに合わせる検討が行われたことであった。 JISをISOに合わせるというニュースでは、日本が昔から使っている湯気が3本出ている温泉マークが、 人が3人入っている国際マークに変わるのかと報道されたが、共用品関連のマークも議論されていた。 車椅子の図記号で示されている国際シンボルマークもその一つであり、 今回の特集では同マークを作成したリハビリテーションインターナショナルとも繋がりがあり、 共用品関係の国際規格を作成する委員会の議長でもある山内繁(やまうちしげる)さんに、同マークについて紹介していただいている。 さらに、国内外の公共のマーク(図記号)を数多く作成し、 さらには国内外のマークの委員会でも活動されている児山啓一(こやまけいいち)さんに、 2020年に向けての国内外の動きに関してご紹介いただいている。 また、具体的な例として手話と筆談に関してのマークを全日本ろうあ連盟の小椋武夫(おぐらたけお)さんに、 耳マークに関して全国難聴者・中途失聴者団体連合会の小川光彦(おがわみつひこ)さんからご紹介いただいている。 さらには、日本介護食品協議会の藤崎享(ふじさきとおる)さんには、食に関するマーク、 伊賀公一(いがこういち)さんには、色弱に関するマークに関してご紹介いただいている。 それぞれが、どのような経緯で作られ、どう使われているか、共通する部分と異なる部分も知っていただけたらと思う。 共用品推進機構のマーク 共用品推進機構の団体としてのマークは2012年に、同機構の理事でありGKデザインの創始者であった栄久庵憲司(えくあんけんじ)さんが 筆で共用品の共の字を書いて下さったものである。 当初は、「共用品」そのものを表すマークをと考えていた。 しかし、目の不自由な人、耳の不自由な人、車椅子使用者、高齢者では、ニーズが異なり、 一つのマークで表すことは困難であると当時は考え、共用品のマークではなく、団体のマークにした経緯がある。 名刺やパンフレットに「共」のマークを掲載したことで、初対面の人ともこのマークで話が弾むこともしばしばである。 数年前から、障害当事者団体及び個人の方から、「共用品や共用サービスが増えてきたことは大変、喜ばしいことであるが、 自分が使えるモノがどれか、また、どんな工夫がしてあるのかが分からない」との声をいただくようになった。 また、複数の業界団体の人たちから、「せっかく共用品の配慮をしたのに、当事者に共用品や共用サービスの情報が届いていない」という声も届いている。 共用品推進機構では、今までに発行されている40種類の共用品関連のJISを使い、それぞれの企業が販売する共用品が、 誰に対して、どのような工夫があるかが分かるようにチェックできるリスト作りを行っている。 多くの関係者と意見交換を繰り返しながら、より多くの人の利便性に繋がるものにしていきたいと思っている。 そのチェックリストが本格的にでき上がる時には、「共用品マーク」を作成し、さらに目的の製品・サービスを探しやすくできたらと思っている。 星川安之(ほしかわやすゆき) 写真:「共」のマーク 5ページ 国際シンボルマークとその課題 NPO支援技術開発機構 山内繁(やまうちしげる) 国際シンボルマーク 「国際シンボルマーク」という言葉は聞かれたことのない方が多いかも知れません。 しかし、図の車椅子マークは駅のトイレなどで見たことがあると思います。 このマークは国際リハビリテーション協会(RI)の福祉機器委員会が学生の公募作品に基づいて選定し、同協会総会で1969年に採択しました。 障害者が利用可能であることを示す方法が各国で模索され、様々なマークが使われ混乱が始まっていたのです。 これを避けるために、障害者が利用可能であることを示すマークとしてRIが制定したものです。 このマークについては、濃い青の地に白を使用すること、 「(視覚障害などを含め)移動に制限のあるすべての障害者」にとって 利用可能であることなどの指針が決められています。 このマークは日本障害者リハビリテーション協会に日本での著作権があり、 指針は障害保健福祉研究情報システム(DINF)のホームページで見られます。 障害者専用? 国際シンボルマークの意味は障害者も利用可能であることでしたが、 制定当初から、乗用車や看板に貼り付けられるなど指針が守られず、 RIでは指針の普及のための努力を重ねました。 最近では混乱がますます拡大しています。 一番大きいのが障害者以外は利用禁止かどうかという問題です。 欧米では、駐車場では登録された障害者以外は利用禁止の場合が多いようですが、 我が国では自治体によって解釈が違うようです。 トイレについても、「だれでもトイレ」にしたことで何らかの不自由があるだけで利用する人が増えてきたため、 車椅子ユーザーにとっては却って不便になったとの話も聞きます。 一方では、新幹線では男子用の小便器を無くして、残り半分を障害車専用のトイレとしたため、 一般用のトイレに行列が出来るようになりました。 国際標準のデザイン 国際シンボルマークはISO 7000の中に国際シンボルマークのデザインが2004年に登録されています。 ところが、似たマークがISO 7001の中で制定されてしまいました。 これは、スウェーデンが2007年に、他の公共空間用マークとともにトイレ用として提案したものですが、 ISOの委員会で拡大解釈されてしまったようです。 最近では、国際シンボルマークが差別的であるとして、様々なデザインが提案されました。 ニューヨーク州では2014年に国際シンボルマークの代わりに上に示した「活動的な」マークに変更しました。 マークだけを変えてみても障害者を区別することは変わらないし、活動的ではない車椅子ユーザーの差別につながりかねません。 その意味で筆者はこのマークには疑問があります。ISO事務局も否定的です。国際シンボルマーク制定以前の混乱状態に戻ることは避けるべきであり、人類の共有財産としての共通のマークと使用指針となるよう願っています。 写真1:国際シンボルマーク 写真2:ISO 7001のトイレマーク 写真3:「活動的な」マーク 6、7ページ 2020年に向けた共用品関連ピクトグラム 株式会社 アイ・デザイン 児山啓一(こやまけいいち) ピクトグラムはISOやJIS規格では図記号と呼ばれ、一目でその意味が分かるため、 難しい字や専門的な用語を知らない人や言葉が違う国の人にも簡単に理解でき、 また高齢者や障害者配慮の点でも世界共通のユニバーサルデザインとして役立つと云われている。 始まりは1964年? 国内では1964年の東京オリンピック開催時に、 外国人とのコミュニケーション手段として競技用・会場用合わせて約40種類のピクトグラムが開発されており、 これが日本のピクトグラムの始まりと言われている。 その後、70年の大阪万博、72年の札幌冬季オリンピックでも同様に多数のピクトグラムが開発された。 また国内外で急速に発達する交通需要に対応するために、国鉄(今のJR)や成田、羽田をはじめとする全国の空港でも使われ始めた。 そして2000年の日韓ワールドカップサッカー開催を契機に、外国人観光活性化の観点から統一ピクトグラムの必要性が論議され、02年に110種類がJIS Z8210案内用図記号として制定された。 JIS Z8210案内用図記号 案内用図記号は02年の制定後も年々改良が加えられている。 そのうち共用品=アクセシブルデザインに関連する内容では、 細かいことだが10年に「身障者用設備」の名称を「障害のある人が使える設備」に、 「車椅子スロープ」の名称を「スロープ」に変更して、障害者に限らずみんなが使える設備であることを強調した。 また14年には、全国バラバラのデザインで使われていた優先設備、優先席関連の図記号10点を追加して、 誰でも、より分かりやすく、より気持ちよく使える環境を整えた。 さらに14年には「コミュニケーション」という図記号も追加された。 この図記号は、「コミュニケーション支援ボード」の表紙の「おたずねします」「どうしましたか?」という絵記号を題材にしている。 当初は案内所などで外国人観光客が会話の際に利用可能な言語を示す目的で制定されたが、 その後、17年には「筆談対応」を示す図記号も検討され、交通エコロジー・モビリティ財団で標準化された。 このピクトグラムは今後、困ったときの相談所や日本のおもてなしの気持ちを示す温かい図記号に発展する様々な可能性を秘めている。 20年に向けたJIS改訂では主に外国人観光客の利便性向上のために、 「充電コーナー」「自動販売機」「コンビニエンスストア」「海外発行カード対応ATM」 「無線LAN」など11種類の一般案内用図記号と「列車の非常停止ボタン」やホームドアの注意に関する図記号など 5種類が追加されるとともに、ISOとJISとの整合性を図るために「駐車場」など6種類の図柄が変更された。 その他のピクトグラム ところで、案内用図記号以外にも私たちの身近なところで、まさに共用品として使用されるピクトグラムがあるので、いくつか紹介したい。 一つはレトルト食品を開ける際の注意ピクト。公益社団法人日本缶詰びん詰レトルト食品協会では、 レトルト食品を温めるときと開けるときに手指の事故が多いことから、 「けが注意」「やけど注意」「蒸気注意」のピクトグラムをパウチ(袋)や化粧箱へ表示している。 次は、石けん、洗剤などを間違いなく使うための注意ピクト。 日本石鹸洗剤工業会は、命に関わるトラブルに結びつく誤飲事故や、 皮膚や目のトラブル等を未然に防止することを目的として、 「子どもの手の届くところに置かない」「使用後は手を洗う」など、消費者に分かりやすく、 より適切な注意喚起に繋がる製品安全表示図記号(10種類)を新たに開発した。 この図記号は、ISOとJISの図記号原則に基づいてデザインされ、 同じく「JIS S 0102消費者用警告図記号―試験の手順」に準拠して理解度と視認性の評価を行い、 高齢者・障害者を含む様々な消費者に図記号の意味が正しく伝わることや見やすいことが確認されている。 これらの表示は18年より順次、洗剤や漂白剤などの家庭用製品ラベルに表示されている。 最後は、日本の技術を世界に発信する温水洗浄トイレの図記号。 一般社団法人日本レストルーム工業会では、「だれでも安心して使えるトイレ環境」を目指し、増加する外国人観光客に対するサービス向上や、 今後、日本の温水洗浄便座が国際的に普及する際の表示をあらかじめ統一しておくことを目的として、 17年1月に「便器洗浄」「おしり洗浄」「便座開閉」など8種類のトイレ操作パネルの標準ピクトグラムを策定した。 これにより、外国人観光客を含むあらゆる方に、観光・宿泊施設や公共のトイレを安心して分かりやすく利用いただけるようになることが期待される。 なお、これらのうち6種類は18年1月に国際規格として登録され、さらに18年度内にはJIS消費者用図記号としても登録される予定。 以上のように、ピクトグラム=図記号は、日々の暮らしに役立つとともに、ことばや障害の壁を越えたコミュニケーション手段として重要な役割を果たしている。 多少の絵心があれば誰にでも作れそうで、どこでも見かけるピクトグラム。 これからのコミュニケーションはますます電子化や自動化が増えていくと思われるが、 単純で分かりやすい図記号を、日本だけではなく海外での更なる普及と共用化促進を目指す文化発信ツールの一つとして、これからも大切にしていきたい。 写真1右:コミュニケーション支援ボード表紙 写真1左上:コミュニケーション図記号 写真1左下:コミュニケーション:筆談図記号 写真2:レトルト食品注意ピクト 写真3:石けん洗剤注意喚起ピクト 写真4:トイレ操作パネルピクト 8ページ 手話マークと筆談マークについて 一般財団法人全日本ろうあ連盟 理事 小椋武夫(おぐらたけお) ろう者、難聴者、中途失聴者といった聞こえない人、聞こえにくい人(以下、ろう者等)にとり、コミュニケーションバリアの問題は永遠の課題です。 生活のあらゆる場面で聞こえる人とのコミュニケーション手段は音声が基本です。 ろう者等は音声に代わる、視覚的な手段でのコミュニケーション方法、手話や筆談が必要です。 ここ数年、IT技術が発展し、音声情報を光や文字に変える機器等が普及しており、聞こえない人は視覚から情報を得る機会が多くなっています。 また、近年、ろう者等への理解は徐々に広がり、役所や公共施設の窓口等で筆談や手話で対応してもらえる例も見られるようになりました。 ろう者等にとって「手話で対応できる」「筆談で対応できる」ことが一目でわかると、安心して公共施設等を利用することができます。 そこで、全日本ろうあ連盟は誰にでも一目でコミュニケーション手段のわかる「手話マーク」・「筆談マーク」を策定しました。 右図の手話マークは国外への普及も考え、5本指で「手話」を表す形を採用し、輪っかで手の動きを表現しました。 右下の筆談マークは相互に紙に書くことによるコミュニケーションを表現しました。 手の色は遠方などからも識別しやすい青色をメインに採用し、手の動きの色を手の色とはっきり区別するためにオレンジにしました。 青には開放感・気持ちよさ・公平・信頼・思いやりといったイメージがあります。 手話マークの対象はろう者等、手話を必要としている人で「手話で対応をお願いします」「手話で対応します」 「手話でコミュニケーションできる人がいます」という意味を表します。 筆談マークの対象はろう者、音声言語障害者、知的障害者、外国人など筆談を必要としている人で、 「筆談で対応をお願いします」「筆談で対応します」といった意味を表します。 活用方法は、役所、公共及び民間施設等の窓口やお店など、手話対応、筆談対応できるところでの掲示、 イベント等の会場で手話ができる、筆談対応する案内係等スタッフがネームプレートで携帯することができます。 また、ろう者等自身がマークを携帯し、コミュニケーションの配慮を求めるときに提示することができます。 ろう者等は視覚から情報を得るための一目でわかるマークは大変有効です。 またこのマークには、広く社会に手話や筆談での情報アクセス・コミュニケーション保障の必要性を伝える重要な役割があります。 街には聞こえない等の理由で交通機関の事故等、突発的な出来事に対して臨機応変に対応することが困難な方や、速やかな情報取得が困難な方がいます。 さらにこのマークは災害時に、情報取得やコミュニケーションが困難な方々が安全に避難するために掲示が必要です。 2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。 外国人へのコミュニケーション保障だけでなく、国内のろう者等へのコミュニケーション保障も必要です。 全日本ろうあ連盟では2016年より「手話マーク」「筆談マーク」を普及し、 ろう者等に対するコミュニケーション手段の配慮について理解を広めるために全国の仲間とともに活動をしています。 また将来的には世界に通用するコミュニケーションマークを日本から発信し、国際標準マークとして普及を図っていきたいと考えています。 手話マーク、筆談マークが街にあふれ、ろう者等も含め自由にコミュニケーションの取れる社会を目指し、 マークの趣旨をご理解いただき、ぜひ皆様の地域でも普及、活用を進めていただきたくよろしくお願いいたします。 写真:手話マーク(上)、筆談マーク(下) 9ページ 鈴愛(すずめ)ちゃん、「耳マーク」を使ってね 一般社団法人 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会(全難聴)理事 黒田和子(くろだかずこ) 「半分、青い。」 現在NHKで放映されている連続テレビ小説「半分、青い。」。 小学三年のヒロイン・鈴愛(すずめ)が、ふらつきや耳鳴りをきっかけに、 「ムンプス難聴」で左耳が聞こえなくなっていることを告げられる場面がありました。 耳鳴りを「こびとが耳の中で歌って踊る」と表現していました。 作者の北川悦吏子(きたがわえりこ)氏も、片耳難聴の脚本家だそうで、リアルな描写になっています。 小学一年のときに結核治療薬・ストレプトマイシンの副作用で難聴になった筆者は、感情移入しながらこのドラマを観ています。 難聴問題の啓発にも役立ってくれたら嬉しいなと願いつつ。 「耳マーク」の制定と意義 耳が不自由な障害は外見からは分かりづらいという特徴があます。 それゆえ困っていること、不自由していることを「見える化」することが重要です。 「耳マーク」は、外見からは分かりづらい聴覚障害者の生活上の不安や不便を解消しサポートするために作られました。 耳が不自由なことを表すと同時に、聞こえない・聞こえにくい人への配慮を表すマークとしても使われています。 では、どういう配慮が必要なのでしょうか? ゆっくりはっきり話す、通じにくい言葉は簡単な言葉に言い換える、 傍へ来て呼ぶ、筆談する、身ぶりを入れる、マスクを外す、など。 昭和五十年にこのマークが制定されて以来、全難聴や地域の難聴者協会では、 さまざまな耳マークグッズを作成し、普及啓発に力を入れてきました。 今では、厚生労働省など国の機関の窓口や公共施設の窓口、内閣府ホームページへのアップ、障害者白書への掲載、全国各地の行政機関、郵便局、 公共交通機関、医療機関、金融機関、商業施設の窓口、バスやタクシーの中にも掲示され、聴覚障害者の社会参加を後押しするマークとなっています。 ただ、掲示したり設置したりするだけでなく、聴覚障害者が積極的に身に付けたり使ったりすることが、広めるパワーになるのです。 高齢社会は難聴社会 高齢社会の加速で、加齢性難聴が増えています。六十五歳以上の40%は加齢による難聴者(推定一千万人以上)といわれています。 年とともに聞こえにくくなる人が、この先も増えていくことでしょう。 聞こえにくくなった人たちが、誤解されたり、不利益を被ったりすることのないように、耳マークを上手に活用したいものです。 メディア・行政・民間こぞって「高齢社会=難聴社会」といわれている現象に、きちんと向き合ってほしいものです。 耳マークグッズ 耳マークグッズには表示板、ポスター、診察券などへ貼るシール、名札、バッジ、ブローチ、ストラップ、旗、メモ帳、FAX用紙などがあります。 外出する時には、バッジやブローチ・名札などを身に付け、メモ帳を差し出して筆談してもらったり、傍へ来て呼び出してもらったりします。 耳の不自由な人たちの存在と困難に対する社会一般の認知を広め、コミュニケーションの保障と聴覚障害者の人権を守るために耳マークが有効に使われることを願っています。 「半分、青い。」の主人公鈴愛ちゃんも、いつか、この耳マークを利用してくれるかな。 写真:耳マーク標示板 10ページ 「UDFマーク」について 日本介護食品協議会 事務局長 藤崎享(ふじさきとおる) 「UDF」とは ユニバーサルデザインフード(UDF)の登録数は、2002年の日本介護食品協議会設立以来、 毎年増え続け、2018年3月末現在2000品目が登録され流通している。 レトルト食品をはじめ、冷凍食品、チルド食品、乾燥食品(とろみ調整食品)等、様々である。 UDFとは、協議会が定めた「自主規格」により、「利用者の能力に対応して摂食しやすいように、 形状、物性および容器等を工夫して製造された加工食品および形状、物性を調整するための加工食品」と定義している。 これを会員企業76社が遵守し、市販、業務用等幅広く製品を供給している。 マーク作成経緯と基準 介護用加工食品の分野は、90年代を黎明期として、以降参入企業が相次いでいる。 一方、これに伴い製品を受け取る利用者の混乱が懸念され始めた。 例えば、食品の「食べやすさ」についてA社、B社がそれぞれ「やわらかい」と表現した場合、 利用者の立場からすると「どちらがどのようにやわらかいのか?」について判断がしにくい。 そこで、この問題を解決するため当時の主な介護食品製造販売企業が集結し、 食品の食べやすさについて共通の基準を作成・運用することが提案された。 これが協議会の設立とUDFの生い立ちである。 以来、UDFは、食品のかたさ(物性値)を基礎に、「容易にかめる」「歯ぐきでつぶせる」 「舌でつぶせる」「かまなくてよい」の4つの区分に統一した表現と、ロゴマークを製品に表示している。 これにより利用者は、メーカーの異なる製品においても、食品の状態を客観的に判断し選択することができるようになった。 UDFの特徴 「口から食べる」ことはQOLの維持・向上にとって不可欠であるが、UDFが他の加工食品と異なる大きな特徴は、管理された物性の他にも栄養への配慮を備えていることである。 昨今、高齢者の低栄養が要介護状態への引き鉄として叫ばれているが、会員企業では、食べやすさはもとより不足しがちなエネルギーや栄養素を加えた製品も多く開発している。 さらに、食品としての「おいしさ」も備える必要がある。五感のうちの「味覚」が満たされることはもちろん、特に介護食品は「視覚」への配慮が重視される。 すなわち、「見ても食べてもおいしい食事」が求められており、各メーカーはここにもそのノウハウを費している。 今後の課題 団塊の世代が75歳以上となる2025年問題にみるように、今後行政主導で一層の在宅介護が求められる時代に差し掛かっている。 しかし、UDFの認知率はまだまだ低い。今後益々増加する需要に対し、売り場の整備拡大は目下の急務となっている。 今後、協議会と会員企業は、UDFが利用者のあらゆるニーズに応えられるよう、一層の研鑚を重ねていく所存である。 写真1:ユニバーサルデザインフード区分表 写真2:ユニバーサルデザインフード表示例 11ページ CUDマークの作成経緯・意義・今後の発展 NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構 副理事長 伊賀公一(いがこういち) NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構とは 2002年ごろ自らも色弱者である東京大学准教授伊藤啓(いとうけい)と東京慈恵会医科大学教授岡部正隆(おかべまさたか)(※肩書きは当時)は、 科学者向けに多様な色覚への配慮「カラーバリアフリー」を啓発する活動を行なっていました。 両氏の活動は学会の外へと広がりを見せ、やがて色弱者、色彩学者や眼科医、デザイナーなどが賛同し協力して企業・自治体・団体等に対して科学的で実用的な助言を行なうようになりました。 さらに幅広い理解を得つつ継続的な活動を行う組織として充実を図るために2004年特定非営利活動法人カラーユニバーサルデザイン機構(以後 CUDO)を設立するにいたりました。 団体は色覚に関する 一、調査・研究事業 二、資料・情報提供事業 三、啓発・普及事業 四、相談・助言事業 五、モニター検証事業 六、認証マーク発行事業 七、その他の事業  を行い社会が色覚の多様性に配慮したものとなるように活動しています。 配色についてCUDOは「情報デザインに使用される配色は色弱の当事者にも見分けやすい物(カラーユニバーサルデザイン〈以後CUD〉)とすべき」 という主旨を掲げており企業団体賛助会員57社、会員数266名、色弱の協力者150名余によって構成されています。 CUDマークの作成経緯・意義 商品の品質・安全性などの指標となる認証マークには多くのものが有ります。 しかし障碍を持つ当事者が本来の性能を理解しながら共用品としての評価をするものはあまり見当たらず、特に色覚に関する評価試験や認証制度は世界でも皆無でした。 こうしたことからCUDOではCUDの必要性や理解をすすめるために、配色の工夫を行い、多くの人にわかりやすい色で使いやすく、美しい物を評価する制度「CUD検証」を設定しました。 「CUD検証」では印刷物・機器類・施設等での色使いを、製品などが実際に使われる環境下でCUD検証員 (色覚専門の眼科で色覚精密検査を受け、評価試験のための研修を受けた各色覚タイプの色弱者など)による感性試験によって評価します。 この評価試験で基準値をクリアした物だけに「CUDマーク」が表示されます。 CUD検証評価レベル 1 見分けが出来ない 2 非常に見分けにくい 3 見分けにくいことがある 4 見分けられる 5 見分けやすい 6 非常に見分けやすい 不合格になった物を改善する場合はこれらをすべて4以上に改善する提案をします。 合格した製品に掲示され多様な色覚に配慮した物や事を表すのが「CUDマーク」です。 CUDO理事長の武者廣平がデザインしました。 一年間に数百件のお問い合わせをいただき、検証を行ったうえで合格した品にマークの表示許諾を提供してきました。 文科省の検定教科書や企業の株主報告書、多くの機器類やATMなどが認証されています。 CUDマークの今後の発展 いつかそう遠くない時期に製品やサービスに使われる配色は多様な色覚に対する配慮をするのがあたりまえになるでしょう。 その日が来るまで、よりよい配色の見本を提案し続けながら一日も早くその日が来ることを願っています。 写真:CUDマーク 12ページ 利用者から見たマーク・あったら良いマーク 国際視覚障害者援護協会 芳賀優子(はがゆうこ) 私はさいたま市在住の主婦です。 先天性弱視で、右目は光を感じる程度、左目は0.02の視力。 弱視は一人一人見え方が違い、私の場合、眩しさにめっぽう弱く、色は白黒テレビのように見えます。文字を読むのに15倍のルーペを使っています。 それでも一度に眼に入るのは、3文字×2行が限度です。そんな私にとって、一つでいろいろなことを教えてくれるマークは、頼もしい道しるべです。 こんな風に使っています 毎日何気なくたくさんのマークを見ていますが、大きく分けると次のような使い方をしているように思います。 1.ある一定の基準を満たしているので安心 JISマーク、エコマーク、プライバシーマーク、日本通信販売協会会員マークなどがこれに当たります。 安心して製品やサービスを利用したいときに、然るべき組織が認定した基準をクリアしているというのは、私にとってはとても重要です。 2.一目で探したい会社名、団体名、場所がわかるので便利 企業のロゴマークやピクトグラムがこれに当たります。 「東日本旅客鉄道株式会社」の文字列を探すより、「JR」マークを探すほうが断然早くて楽です。 外出すれば、案内所の「i」マークが生命線です。 3.おすすめがわかって便利 スーパーやコンビニ等のプライベートブランドマークがこれに当たります。お得な製品選びの一つの参考にしています。 4.自分だけの目印につけるマーク 最近は100円ショップなどで、触ってわかるかわいいシールがたくさん販売されています。 自分だけの目印や識別のために、気軽に購入して、かっこよくつけられるのが大きな魅力です。 せっかくのマークですが、背景色とのコントラストや明度差が低いと私には非常に見えづらく感じてしまいます。 また、製品によってマークの位置が違うのも四苦八苦の原因です。 箱や袋をひっくり返し、回転させて、ようやくマーク発見というのは日常茶飯事です。 お気に入りのマーク あるスーパーの「みなさまのお墨付き」マークが、とても気に入っています。 これは、販売されている商品の中から、お客様に特に人気の高い商品を自社の基準で精査してつけたマークです。 実際に使ってみると、これがなかなかいけるのです。 「企業のおすすめ」ではなく、「消費者のおすすめ」というのが親近感を感じさせます。 また、「消費者参加→企業がそれに協力=マーク」というのも、これまでありそうでなかったことではないでしょうか? 共用品にも、このような使い手と作り手が共同でつけるマークがあったら、どんなにいいかと思います。 そのためには、作り手、使い手双方に、「国内外や業界団体の基準をクリアしているから共用品」「視覚障害者にも使える商品はないかな?」という受け身の姿勢ではなく、 「ここにこだわって、こんな風に便利に開発した」「実際に使っているけど、ここがこんな風に便利」というポジティブな発信が求められます。 今よりももっと使いやすくするために、双方が一緒に協力して、納得しあって、それが「共用品マーク」へとつながっていく…、これが夢です。 まとめ マークは作る人、販売する人、使う人をつなぐ頼もしい架け橋ですし、そうあってほしいと思います。 そのために、私も一人の消費者として、みなさまと協力しながら、前向きな発信を続けていきたいと思います。 写真:みなさまのお墨付きマーク 13ページ キーワードで考える共用品講座 第104講「マークの意味」 日本福祉大学客員教授 後藤芳一(ごとうよしかず) 社会では多くのマークが運営・利用されている。マークは単にある基準に叶うことを示すだけでなく、他の機能を担う場合もある。 さらに、こうした意味や役割を考えると、視覚的に表示する以外にも、各種の役割を担うものがある。 これらを整理して改めて共用品の意味を考える。 ▼1.マークの役割 マークを設計して運営する際には、ある目的を達するため、何かの機能を担わせるため、理念や価値の象徴として、 それを示す形や方法の選択、制定・運営する組織の公共性の程度(例:国、業界団体、非営利組織)、国際的な共通性など、多くの要素がある。 個々のマークはそれぞれの目的に合わせて、こうした要素の固有の組合せを選んでいる。 要素の組合せとマークの性格を往復しながらみると、個々のマークの性格がわかる。 ▼2.マークの種類(その1:枠組みから) マークはその用途や機能によって分けられる。マークの性格を決める3つの基準(X、Y、Z)に注目して、それぞれの基準のあり方を見よう。 「目的(X)」には、誰にも分かる(例:公的制度への適合)(X1)、あるグループの内と外を分ける(例:社章や会員章)(X2)、 グループ内で情報を共有する(例:材質や型番)(X3)、自分のため(例:目じるし)(X4)がある。 「社会的な仕組みとの関係でみた機能(Y)」には、表示して識別(Y1)、何らかの措置とリンク(例:被害発生時の補償)(Y2)、 法的に適合を義務化(例:法的基準に適合しなければ供給を禁止)(Y3)、生活様式や文化活動の流儀や社会規範(例:江戸しぐさ、所作、民族衣装)(Y4)がある。 「形態や手段(Z)」には、基準(例:数値によるしきい値)だけを決める(Z1)、形式的に識別できる表示(例:視覚に対応する図案)(Z2)、 形式をとらずにあるグループとして認識する(例:烙印〈スティグマ〉)(Z3)がある。 個々のマークは、これら3つの基準の各要素(例:X1)と対応づけられ、それら要素の組合せ(例:X1、Y1、Z1)によって特徴を示すことができる。 ▼3.マークの種類(その2:事例から) 身の回りの事例では、製品安全のSGマークは一般消費者向け(X1)で事故発生時には損害賠償措置があり(Y1)、そのしくみを持つことをマークで表示している(Z2)。 安全玩具のSTマークも同じだ。ウールマークは(X1、Y1、Z2)であり、JISマークは(X1、Y1、Z2)である。 特に危険性のある製品は基準に適合しないものの供給を法律で規制しており、PSEマーク(電気用品安全法)とPSCマーク(消費生活用製品安全法)は適合していることを示す(X1、Y3、Z2)。 形式的な表示以外では、特定の姿勢や動作に固有の意味を持たせる(例:歌舞伎のにらみや見得など)という記号的な機能を持つ場合もある。 茶道、武士道、宗教では、用具・動作・建築・儀式の手順(X3、Y4、Z3)などがある。 共用品の代表例は個別の商品ではシャンプー容器(X1、Y1、Z2)、枠組みでは晴盲共有玩具(同)などになる。 ▼4.共用品の意味 共用品の取組みは、機能(Y)との関係によってその性格を分類できる。 消費財では表示と識別自体が目的(Y1)のものが中心(例:シャンプー容器(再掲)、家庭電化製品)である。 公共建築や交通機関のうちで一定規模等以上のものは、バリアフリー法で共用対応が義務づけられている(Y2)。 障害者差別解消法では差別(不当な差別的取扱いと合理的配慮の不提供)を禁止している(Y3)。 社会の成熟とともに意識が高まり、法によって義務づけることを社会が許容するようになった。 共用品の取組みは、不便さがあることや、優れた取組みの例を示すことで社会全体の意識の向上を進めてきた。 諸制度を充実させる基盤として寄与してきたといえる。 他方、本来は法で求めなくても自発的に対応できること(例:道徳やマナー化すること)が、より優れた姿ともいえる。 法による措置が充実した先には、気づきと自発的対応という共用品の取組みが、改めて手引き役としての意義を増すと考えられる。 14ページ かしわ餅が表紙の共用品パンフレット きっかけは杉並区 昨年、東京・杉並区の障害者施策課の出保裕次(でほゆうじ)課長に、共用品に関して説明する機会がありました。 「貴重なコトですね」と評価して下さり、杉並区主催のイベント「すぎなみフェスタ」の同課ブースで、 一枚もののパンフレットがあれば、多くの人に共用品を紹介することができますとの嬉しい話をいただきました。 そこでパンフレットを使ったのですが、講演などで話す「かしわ餅」の話は、 多くの人の「へ~」、「知らなかった」に繋がっていることを思い出し、かしわ餅をそのパンフの表紙にすることにしたのです。 かしわ餅の話は、江戸時代の風俗研究家であった喜田川守貞(1810~?)が残した「守貞謾稿」の中に、かしわ餅に関して、 「江戸には味噌餡(砂糖入味噌)もあり、小豆餡は葉の表、味噌餡は葉の裏を出した由」とあります。 これは、味噌餡と小豆餡のかしわ餅を、葉の裏表の違いを見て区別することができるだけでなく、 目の不自由な人に触ってもらったところ、触って区別ができるとのこと、日本には江戸時代から共用品があったといえるという話です。 パンフの表紙に味噌餡とこし餡、2つのかしわ餅の写真を大きく載せ、そこに「江戸時代のかしわ餅、『こし餡』は葉の表側が、『みそ餡』は、葉の裏側が表になっています。 葉の表裏で目の不自由な人も触って分かります」と書きました。 そして観音開きになっている表紙を開くと、上部と側面にギザギザが付き、 目が不自由でも、目をつむって髪を洗う大多数の人でもリンス容器と触って区別できるシャンプー容器をはじめ、家電、文具、バス、電車などの共用品を紹介しました。 イベントに間に合ったかしわ餅が表紙のパンフレットは、多くの人の手に渡りました。 神保町の和菓子屋さん このパンフを委員会やイベントでも配布したところ、多くの人の「へ~」に繋がったのです。 それならばさらにと、考えたかしわ餅のシーズン、和菓子屋さんの店頭にこのパンフレットを置いてもらったら、「なんだろ?」と思うお客さんとお店の人との間でも、 「へ~」の会話となり、ひいては共用品を知ってもらうことができるのでは?と考えました。 千代田区商店街連合会の会長である髙山本店の髙山肇(たかやまはじめ)さんに相談したところ、 神保町にある和菓子屋さんに同行して下さった結果、「文銭堂」さんと、「亀澤堂」さんが、かしわ餅のシーズンにパンフレットを店頭に置いて下さったのです。 全国和菓子協会へ その後、このパンフレットを、全国和菓子協会の藪光生(やぶみつお)専務に紹介させていただいたところ、福祉にも造詣の深い専務は、「有意義な活動をされていますね。 和菓子のかしわ餅と繋げてもらったこと、とても嬉しく思います。もしよかったら、全国の和菓子屋さんが読む媒体にこのことを書いても良いですか?」と、 とても嬉しいお話をいただき即座に「どうぞよろしくお願いします」と答えました。 「ところで、一つだけ文章を変えていただけたら、全国の和菓子屋さんに、このパンフレットを配布できるのですが」と藪専務。 全国の和菓子屋さんの中には、かしわ餅の葉の裏表を、江戸時代の文書とは逆に行っているところもあるので、 味噌餡は裏と決めつけないで、味噌餡、こし餡を、葉の表裏で区別していると表現を変えてもらえると、全国の和菓子屋さんにも紹介しやすいとのことでした。 ルールは、守られることではじめて効果が発揮します。けれども、そのルールの許容範囲が狭すぎると、誰もそのルールを使おうとしません。 使われるルールの意味を、藪専務に改めて教えていただきました。 さっそく、そのか所を「江戸時代のかしわ餅は、こし餡、つぶ餡、味噌餡を、葉の表裏で区別しています。葉の表裏の手触りは、目の不自由人も、触って区別できます。」 と変えたものを作り、3000部、届けさせていただきました。 全国の盲学校へ さらに続きがあります。目の不自由な人が応募できる「アイディアコンテスト」で、 ご協力いただいている全国盲学校校長会の事務局をされている八王子盲学校の國松利津子(くにまつりつこ)校長に、 このパンフレットのことを話したところ、全国の盲学校の校長先生が集まる六月の会合で配ることができると言って下さったのです。 そして、さらに嬉しい出会いがありました。 それは、白山印刷の田辺友浩(たなべともひろ)さんの、「凸印刷ができる機械を購入したんです」との一言でした。 星川安之 写真:かしわ餅が表紙のパンフレット 写真:亀澤堂さん、文銭堂さん 15ページ 触って分かるかしわ餅パンフレットは2つの印刷技術の融合 白山印刷(株) 田辺友浩(たなべともひろ) 触って分かる印刷とは1枚の紙にカラー印刷と新たな厚盛りデジタル印刷、この2つの異なる印刷方式の融合によって生まれた物です。 まずベースカラー印刷で表裏の印刷をします。その後、厚盛りデジタル印刷(デジポコ※弊社オリジナルネーミング)で触図によるかしわ餅の葉の表裏の再現と点字を印刷しています。 またデジポコの厚盛り箇所は透明な色にしているのでベースのカラー印刷を損なう事なく1枚の紙にカラー印刷・触図・点字の3つが共存したデザインとなっております。 完成までの経緯 実は新設備導入の話を共用品推進機構の星川様、森川様にお伝えした事がきっかけになっております。 私が「この新設備はデジタルの印刷加工機で使い方次第では点字や触図の作製が可能な機械なんです」とお伝えし、 星川様よりかしわ餅の葉の表裏の盛り上げと点字も一緒に入りますかの問いに「やってみないと分かりませんが出来るかもしれません。やってみます」と答えました。 それからは試行錯誤でした。 触図と点字作成工程でも社会福祉法人日本盲人会連合にもご協力いただきました。 点訳では中山(なかやま)様、触図では三宅(みやけ)様、鷹林(たかばやし)様に試作した物を何度かお見せし実際に触ってアドバイスをいただきデザインの改良を加えました。 このように多くの方々の協力を得て、かしわ餅パンフレットの完成にいたりました。 写真:白山印刷(株)生産本部 第3工場 16ページ 調べる責任・伝える責任・解く責任… 【事務局長だより】星川安之 一昨年の8月から、月に一度、日本経済新聞の土曜日夕刊に「モノごころ、ヒト語り」というタイトルのもと、共用品に関してのコラムを書かせていただいている。 引き受けた理由は、この何十年かで習得した共用品に関しての情報を記事にすればと安易に考えてのことだったが、 2回目の連載が終了した後、日経デスクの「ライブ感を含めて」という指摘が大きな転機になった。 そもそも「ライブ感」とは、何を意味するか、もんもんとする時間が続いた。 もんもんとしながらも、3回目のテーマはデスクも了解のもと「温水洗浄便座」と決めており、今までの自分の中にある情報で文章を書こうとしていた。 しかし、「ライブ感」が頭にひっかかり、「そうだ!取材をしよう」と、記事を生業としている人にとっては当たり前のことにたどり着いたのである。 温水洗浄便座は、最初アメリカで開発され、TOTOが輸入し、日本に広がったという自分の知識は不十分であったことが、TOTOに取材に行って分かった。 痔の人のために医療機器としてアメリカで開発され、同社が輸入したことは確かであったが、一方、スイスで手の不自由な人のために、足でスイッチを入れ温水が出るタイプを、 TOTOより前にINAXが輸入していたのである。 不特定多数の人に伝える情報は特に、中途半端な知識だけではいけないことを学んだ。 消火器を紹介する時には、芳賀優子さんに東京池袋にある防災館に同行願い、元消防士の方に消火器の使い方を教わった。 「障害のある人には、まず先に逃げて下さいと言っているのですよ」と言う元消防士を説得し、弱視の芳賀さんに消火器の使い方を教えてもらった。 消火器はどのタイプも、「①黄色のレバーをはずす、②噴射口を火元に向ける、③レバーを強く握る」で、その教えをもとに芳賀さんは、 シミュレーションである台所の火の映像めがけ消火作業を行い、みごと火を消し止めたのである。 さらに、2004年7月から一般市民の誰もが使えるようになった医療機器であるAED(自動体外式除細動器)に関しては、 日本AED財団に、日本点字図書館の加藤満由美(かとうまゆみ)さん(全盲)と出向き、7社から発売されている機器を試してみた。 どの機種も、音声により操作方法を示すのだが、「図のようにパッドを胸に貼ってください」の説明では、目が不自由な人は、 どこにパッドを貼っていいか分からない。 日経デスクの「ライブ感を」のアドバイスは、回を重ねるごとに、その意味と必要性が身に染み込んでくる。 そして、知れば知るほど、それぞれのモノやコトの「共用」に関する課題が見えてくる。さて、新たな課題をどう解いていくか、楽しみである。 共用品通信 【会議】 第2回パッケージに関する良かったこと調査委員会(3月6日) 第15回共用品推進機構通常理事会(3月7日) 第11回共用品推進機構臨時評議員会(3月27日) 【講義・講演】 大阪市民公開セミナー(3月25日、星川) 慶應義塾大学 バリアフリー/ユニバーサル・デザイン入門(4月24日、星川) 日本消費者協会セミナー(4月26日、星川) 【報道】 保護帽 日本経済新聞(3月24日) AED 日本経済新聞(4月21日) UDタクシー 時事通信社 厚生福祉(4月3日) 八丈島から始まるUD 時事通信社 厚生福祉(4月17日) 第7版の広辞苑 月刊トイジャーナル3月号 手話フォンと電話リレーサービス 月刊トイジャーナル4月号 個性に応じた伝え方 エルダリープレス 高齢者住宅新聞 3月号 たかが爪楊枝、されど爪楊枝 エルダリープレス 高齢者住宅新聞 4月号 アクセシブルデザインの総合情報誌 第114号 2018(平成30)年5月25日発行 "Incl." vol.18 no.114 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2018 隔月刊、奇数月に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電 話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:http://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 集長 山川良子 事務局 星川安之、森川美和、金丸淳子、田窪友和 執筆 伊賀公一、小椋武夫、黒田和子、後藤芳一、児山啓一、田辺友浩、芳賀優子、藤崎享、山内繁 表紙デザイン ㈱グリックス 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。 その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 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