インクル128号 2020(令和2)年9月25日号 特集:コロナ下と共用品・共用サービス Contents 遠隔手話通訳サービスとその標準化に関して 2ページ 法制化される電話リレーサービスのこれから 3ページ コロナ禍での働き方 4ページ 活き活きと働く(株)高齢社の高齢者 5ページ コロナ禍で広がる「オンライン授業」、日本福祉大学の対応と今後 6ページ コロナ禍での大学教育-オンライン授業における情報保障の取り組み 7ページ デジタルシフトするイベントに思う 8ページ コロナ禍で何か出来る事を 9ページ コロナ禍におけるガイドラインと当事者団体の要望 10ページ キーワードで考える共用品講座第118講 11ページ 玄関ドアをリモコンで開閉できる自動ドアへかんたん改修 12ページ 井村屋 防災備蓄用「えいようかん」に点字表示 13ページ 共用品のご紹介と講座のお知らせ 14ページ 岡山県 UDアンバサダー講座 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 表紙写真:感染症対策の透明板(そば処 桂庵 水道橋店) 2ページ 遠隔手話通訳サービスとその標準化に関して 慶應大学 川森雅仁(かわもりまさひと) 1.遠隔手話通訳サービスとは  遠隔手話通訳サービスとは、ろう者等が聞こえる人と対話する場面に、映像通信などの通信手段を用いて遠隔から手話通訳者が通訳を行うことを言う。 ろう者と聞こえる人がオンライン会議ツールなどを使って対話しているところに、手話通訳者がオンライン通訳を行うことも遠隔手話通訳の一種である。  日本では、障害者総合支援法により市町村が手話通訳者派遣によりろう者等の意思疎通支援を行うことを必須事業と定めており、 以前から厚生労働省は、派遣が困難な場合には遠隔手話通訳を行うことを省令等により可能としてきたが、一般にはまだ浸透していなかった。 今年になって、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、手話通訳者が対面で通訳を行うことに健康上の懸念がある、ということから、 意思疎通支援事業強化の一環として補正予算をつけ各自治体での導入と強化をすすめることになった。 2.遠隔手話通訳の標準仕様化 このような背景と、コロナ禍対策でのリモート化推進の中でろう者等が取り残さないためにも、遠隔手話通訳サービスを標準的な形で提供できることが求められていた。 これに対処すべく、当事者団体、有識者等が協議会を結成し協議を重ね、関係団体とも調整した上で、電気通信技術委員会(TTC)において、標準仕様化を行い、 TS-1024「遠隔手話通訳サービスシステム仕様書」として公開した。TTCは、1985年に創設された国内の情報通信の標準化を扱う機関で、総務省により認定された民間の非営利団体である。 本仕様は手話通訳者の負担軽減と安全確保と、ろう者等にも手話通訳者にとっても運用しやすく安全な枠組みを提供することを目指した。 特に、現行の手話通訳派遣制度のワークフローに沿うことで、経済的にも社会的にも今までの体制を壊さないことを主眼とした。 当事者の簡便性と安全性、将来性等を勘案して、国際標準である、WebRTC(Web Real TimeCommunication)技術を採用した。 この技術は、音声、ビデオ、文字を用いたコミュニケーションを、特別なソフトをダウンロードせずに、ウェブブラウザだけで可能にする技術である。 個人端末で共通端末でも、端末上のブラウザを使い、手話通訳用の特別ソフトをダウンロードする必要がなく、今すぐ遠隔手話通訳サービスを開始することが可能である。 機種変更後も何の変更もなしに使い続けられる。同技術は、国の制度として来年開始される電話リレーサービスでも採用されているだけでなく、 オンライン診療、遠隔授業などの他の遠隔サービスとも整合性が高い。 3.今後の展望 本仕様の背景には「トータル・カンバセーション」という考え方があり、手話を使うろう者だけでなく、文字を主に使う難聴者や高齢者、 映像情報をもとに音声での説明を必要とする視覚障害者、そして外国人など、同じ標準仕様に従って、多くの人たちのコミュニケーション支援に共通に使うことが可能である。 今後、コロナ禍対策だけでなく災害やインフルエンザなど、その他の感染症対策にも遠隔手話通訳サービスは有効である。この仕様書に従った実装が増え、 遠隔手話通訳サービスによってろう者と手話通訳者の利便性と安全性が向上し、意思疎通支援事業がますます強化されることが期待されている。 図1:遠隔手話通訳サービスの 図2:オンライン・サービスと遠隔手話通訳の併用例イメージ 3ページ 法制化される電話リレーサービスのこれから 一般財団法人日本財団電話リレーサービス 専務理事 石井靖乃(いしいやすのぶ) 電話リレーサービスを知っていますか?  電話は仕事や日常生活の様々な場面における大切なコミュニケーション手段です。 しかし、聴覚障害者や発話困難者は電話が使えず不便をしいられてきました。 電話リレーサービスとは通訳オペレーターが手話や文字と音声を通訳することにより、 これまで電話を使うことが困難だった人も電話を使えるようにするサービスです。 世界では既に25カ国で公共サービスとして提供されていますが、日本では制度が確立されていませんでした。 そこで日本財団は2013年よりモデルプロジェクトを実施するとともに、制度化に向けて積極的に働きかけを行ってきました。 ところが関係者の理解を得ることは想像していたよりも困難でした。 電話のアクセシビリティは通信の課題なので総務省の所管であり、一方で手話通訳やパソコン通訳は厚生労働省の課題で、なかなか所管官庁がはっきりしませんでした。 また「チャットを使えばよい」と言った意見、さらには「数年後には人工知能が手話通訳を行うので人間が通訳するシステムは時代に合わない」といった意見もあり、 すんなりとは電話リレーサービスの必要性や有効性を認めてもらえませんでした。 相次ぐ緊急通報がきっかけとなり法律制定へ  しかし、2017年から聴覚障害者の海や山での遭難と電話リレーサービスを使った緊急通報が相次いだことから、国会でこの問題が何度も取り上げられました。 その結果、2018年11月に安倍首相が「電話リレーサービスは大切な社会インフラ、総務省を担当として制度化を進める」と答弁し事態が一気に動き始めました。 そして2020年6月「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」が成立し、いよいよ日本でも法律に基づいた電話リレーサービスが始まることになりました。 日本財団がモデルプロジェクトを開始してから7年かかりましたが、この間、利用登録者は1万1千人にまで増え、リレーサービス提供回数は年間30万回を超えて、 既に日本になくてはならないサービスとなっています。 電話リレーサービス専門組織の設立  このような経緯があり、電話リレーサービスを専門に行う「一般財団法人日本財団電話リレーサービス」が設立されました。 この組織はモデルプロジェクトをより完成度の高いサービスへと発展させることに取り組んでいます。 例えば、迅速、確実な緊急通報を実現すること、また聴覚障害者等からの架電を実現すること、そして24時間365日のサービス体制を整えることなどです。 さらに自動音声認識技術を活用した字幕表示機能付電話の実用化を進めることもこれから取り組まなければならない重要な課題です。 なお、人工知能や機械学習の進歩は目覚ましいですが、電話音声の自動認識はなお一層の認識率向上が必要で、 当面は誤認識をオペレーターが修正するような機械と人を最適に組合わせた方法を見出すことが課題となっています。 らに日本の技術力があれば、世界的にも高い水準の電話リレーサービス提供システムを実現できます。 その経験を活かして世界の国々における電話リレーサービスの普及を支援することも長期的には重要な活動になるでしょう。 写真:手話で電話リレーサービスを利用している様子。手前が通訳オペレーター、モニターの中に写っているのは利用者。 4ページ コロナ禍での働き方 NTTクラルティ株式会社 中野志保(なかのしほ)  弊社はNTTグループの特例子会社で、6月1日現在340名の障がいのある社員が働いています。 NTTグループからの受託業務を中心として、その業務内容は多岐にわたり、ロケーションも6都道県に展開しています。 特に私の所属する営業部は、車椅子を使用する肢体不自由者から、視覚、聴覚、内部といった身体障がい者、 精神障がい者や知的障がい者など、様々な障がい特性の社員が働いています。 本稿では、このような職場がコロナ禍でどのように対応してきたのかをご紹介します。 環境整備  4月上旬の緊急事態宣言発出以降ほぼ全員が在宅での業務となりましたが、まだリモートワークの環境が完全には整っておらず、 社内ネットワークへ接続できない一部の社員は、会社が用意したe-ラーニング講座などを受講し自学自習やスキル習得を行いました。 6月末には在宅勤務に適した職種の営業部社員全員の環境整備が整い、自宅で業務ができるようになりました。 現在も、在宅勤務を基本としつつ、業務内容に応じて時差出勤を取り入れ出社し業務遂行しています。 『業務』の工夫  ここからは、主な障がい特性別に工夫をしてきた点を記載します。 ・視覚障がいの社員は、主にウェブサイトのバリアフリー(アクセシビリティ)診断、各種記事執筆、オフィスマッサージ、研修講師などに従事しています。 これらの社員が使うPCには音声読み上げソフトをインストールし貸与しました。 ・聴覚障がい者は、口話や手話通訳の口の動きを見て内容を確認するため、数種類のフェイスシールドや透明マスクを試し、対面時に着用しています。 ・精神/発達障がいの社員は、在宅勤務や時差出勤などの不規則な出勤による生活リズムの乱れや通勤不安、業務再開時の適応不安などの解消・軽減に向け、 社内の有資格者の専門チーム(精神保健福祉士、臨床心理士、社会福祉士など)で編成する「つなぐ相談室」が個別相談に応じてきました。 ・知的障がい社員約50名が働く手漉き紙製作の職場では、一時は全員を自宅待機としましたが、その後は「三密」を避けるために、 2チームが交代で一日おきに業務に従事する体制を実施し継続中です。なお、自宅待機中は、報道や自粛要請の延長による不安感の増大と生活リズムの乱れを防ぐために、 課題を出すと共に各家庭へ手紙を出し協力を求めました。 『会議』の工夫  会議や打合せの方法もリモート対応へ見直しを行いました。様々なウェブ会議システムが存在していますが、障がい特性を考慮して検討を重ねました。 視覚障がいではシステムが音声読み上げに対応し自力で会議に接続できるのか、 聴覚障がい者は、リモート接続されたPC上で会議参加者と手話通訳者の両方とコミュニケーションをとる必要があるため、画面越しでも手話が見やすいかなどが重要なポイントとなります。 その結果、現在はそれらに適用するCisco Webex Meetings を中心に利用しています。 ポストコロナ  コロナ禍は人々の日常を大きく変えてしまいました。 その変化の多くは、できれば経験したくないものでしたが、視点を変えることで思いのほか前向きになれる話もありました。 例えば、段差があって入ることができなかった飲食店がデリバリーやテイクアウトを始めたおかげで、その味を楽しむことができるといった話や、 小学校がICTを活用してリモート授業を始めたことで、不登校だった発達障がいの児童が、 画面越しだとクラスメイトと打ち解け、コミュニケーションを取り戻せたという嬉しいニュースもありました。 新型コロナは、健常者や障がい者の別なく脅威となり、個人の特性に応じた対応が求められています。 ポストコロナでは、このコロナ禍をネガティブな側面だけでなく、 ポジティブに捉えていき、社会全体をより働きやすく暮らしやすくするために、さまざまな角度からの議論が必要だと感じます。 写真1:ゆうゆうゆうより:編集部員座談会「変わる働き方:前後編」 写真2:ゆうゆうゆう 働き方検索 5ページ 活き活きと働く(株)高齢社の高齢者 株式会社高齢社 代表取締役社長 緒形憲(おがたけん) 高齢社の概要  株式会社高齢社は、高齢者のための人材派遣会社です。登録者の平均年齢は70・3歳。 「一人でも多くの高齢者に働く場と生きがいを」との理念を掲げ20年間、お陰様で昨年度の売上げは7億円にまで成長しました。 実際の派遣先の仕事は、「電話・店口受付け」、「ガス点検」、「営業」、「家電サービス補助」、 「寮・マンション管理人」など多岐に渡り、週2~3日仕事をし、月に8~10万円の収入を得ています。 高齢者の特長(人財)と仕事  弊社で働く高齢の皆さんの特長は、「真摯」・「仕事に前向き」・「謙虚」そして「健康」です。 昨今の労働力不足と、人財不足、そして人生百年時代、定年退職後に時間を持て余している有能なシニアに仕事と生きがいを提供し、 健康を維持して社会に貢献していると自負しております。 お客様に求められるのは専門性とともに、現場力と人間力です。人を思う、相手を思う、障害のある方に寄り添う、 そんな社会を築いていくことに貢献している高齢社の皆さんは派遣先からの信頼が厚く、誇りに思うとともに、このことが新しい仕事の獲得に繋がっています。  《高齢者が働くメリット:働くから元気になる》高齢社で働くメリットは『今日、用(きょうよう)がある嬉しさ』です。 社会(若い人)と繋がりを持ち、健康維持だけでなく心の交流、感謝され、役に立つ喜びを得られることです。 仕事帰りに一杯やれない現在は我慢・忍耐の日々です。一方お客様のメリットはコスト削減と良き見本になっていることと考えています。 コロナウイルス蔓延の影響7月現在稼働は20%程度落ちています。お客様はこの状況下、派遣を停止する案件が増えて仕事は社員へと転化。 また派遣登録者のご家族からは「仕事(東京)に行かないで欲しい」と いう声も出ています。稼働人数は3月460人から、8月は370人以下と減少しています。コロナウイルス蔓延が収まることを心より祈念しております。 共用品推進機構様との関係・今後の抱負  共用品推進機構様とは、2012年9月の「国際福祉機器展」において「片手で使えるモノ展」が最初。 翌年に「高齢社会におけるニーズ調査」のご依頼をいただきました。 共用品普及推進のためには高齢者のニーズ調査も必要とされ、ご指導をいただきつつ各種ご協力をさせていただいております。 高齢化が進展する日本で活き活きと働くシニア達、そんな方々が働く環境整備のため、必要な提言も発信しつつ、 共用品推進機構様と共同歩調をとりながら高齢者の働く場の確保と社会貢献に寄与していきたいと思います。 写真1:高齢社の登録者年齢分布(2020年7月現在) 写真2:高齢社 社長賞受賞のみなさまと 6ページ コロナ禍で広がる「オンライン授業」、日本福祉大学の対応と今後 日本福祉大学 榊原裕文(さかきばらひろふみ)  新型コロナウイルスの感染拡大を受け、学生・教職員の健康を守りつつ教育の質を保つ策として、 今年度は全ての科目で「Zoom」を用いたオンライン授業を実施することになりました。 今回は通学課程における準備から実施状況、そして今後の展望についてお伝えします。 質の高い授業を目指してオンライン授業の準備は大学を閉鎖した4月上旬から慌ただしくスタートし、 まずは学生に対して、受講に必要な端末の有無、自宅の通信環境などを確認するアンケートを実施しました。 デジタルデバイスを持っていない学生にはノートパソコンを貸与した他、その他の必要物資を購入する際の支援として一律給付(3万円)を行いました。  機能を駆使し、学習の質を保障基本的には時間割に沿ったリアルタイム配信をしていますが、 授業は必ず録画して通信回線のトラブル等で視聴に支障があった学生にはオンデマンドで学習してもらえるようにしました。 科目の特性や教員のスタイルによって授業の進め方はバラエティに富み、投票機能の使用や、ブレークアウトセッション機能でディスカッションする等、 あらゆる機能を駆使して学習の質を落とさないよう工夫を凝らし、最も学習効果が高いものを探っていきました。 障害学生への配慮  本学には多くの障害学生が在籍しています。字幕機能やUDトークを使用するため、教員にはいつも以上にゆっくり・はっきり話す、 電子資料の事前提供の徹底、ディスカッション時のチャット使用等の配慮を求めました。 また、多くの学生ボランティアの協力もあり、対面授業と大差なく対応できています。 新たな学びのスタイルを  オンライン授業については問題なく進められた一方で、対面でしかできない教育があると実感したのも事実です。 大学の設備を使用して行う実験・実習は一部再開していますが、地域に出て学ぶフィールドワークは未だできていません。 本学は「地域に根ざし、世界を目ざす『ふくしの総合大学』」をコンセプトにしていますから学生が地域に飛び出し、 実践的に学ぶフィールドワークはいわば生命線です。新たな方法で実施できないかと未だ検討・調整中です。 新型コロナウイルスの一日も早い収束を願うばかりですが、今後も災害等で対面授業が叶わなくなる可能性もあります。 オンライン授業実施の効果測定や他大学とも情報交換をしながら、時代に即した大学教育、新しい学びのスタイルを模索していきます。 写真1:Web システムを使用した授業の一例 写真2:フィールドワーク学習の様子(2019年実施) 7ページ コロナ禍での大学教育−オンライン授業における情報保障の取り組み 日本大学芸術学部 長瀬浩明(ながせひろあき)  コロナ禍の影響により本学では前学期の授業のほとんどが異例のオンライン(遠隔)授業となり、我々教員は突然与えられた試練に手探りで向き合うことになった。 その中で、本学で試みているオンライン授業における情報保障の取り組みついて紹介させていただく。  筆者が所属する学科には現在耳の不自由な学生が在籍している。本学にはこのような配慮が必要な学生をサポートする部署があり、 これまで通常の授業ではUDトークを使って教員の講話を文字に変換してタブレットに表示したり、 ノートテイカーがついて必要に応じて授業内容を文字起こししたりして彼らの学びをサポートしてきた。 しかし、オンライン授業となりこれまでとは勝手が異なることに気付かされる。  まず、UDトークを使ったりYouTube動画の音声を字幕で表示したりする機能など既存の技術を試した。 しかし、音声や映像の収録環境の条件によっては音声文字変換の精度に問題があったり、ネット環境によっては接続のトラブルが発生したりと、 その都度サポートスタッフが別の通信手段で直接本人にチャットで講義内容をフォローする場面もしばしばである。  また、本学特有の演習系の授業ではGoogle MeetやZoomなどのビデオ通信で授業を行うことが多いが、前述のような文字変換やネット環境の問題に直面する中で、 同僚の教員がGoogleの音声文字変換機能を使ってタブレットに簡単かつ高精度で音声を文字に変換して画面に表示させられることを見つけた。 そして、そのタブレットごとビデオ通信のWebカメラに写し込めば話の内容を簡便に文字で伝えられることを『発見』した。 最先端の音声文字変換というAIテクノロジーをアナログ的に画面に写し込むというローテクながら大変有効な方法としてこれを活用している。  さらにネットを調べていくとタブレットも使わなくて済むような方法に行き着いた。ライブ映像に音声を文字に変換してリアルタイムで挿入する方法である(写真1)。 それは次のとおりである。 ①Google Documentを使い「音声入力」コマンドで音声を文字に変換してウィンドウに表示 ②OBS Studio(以降OBSと略す)という画像配信のフリーソフトでビデオ通信用のカメラの画像にGoogle Documentで音声入力されて表示される文字を合成  (クロマキー処理で文字だけを画面に重ね音声字幕として表示) ③OBSで合成している画像をZoom等のビデオ通信に使用するために、OBSのプラグインのVirtual Cameraを使用 ④Zoomを起動してカメラの設定でVirtual Cameraを選択すれば講師のカメラ画像と音声字幕を合成しリアルタイムで同時配信することが可能  しかしこの方法はビデオ通信やライブ配信では有効であるが、Power Pointなどの画面共有ほか別の手段では上手くいかないなどまだまだ課題は多い。 最後に、世界中の人々が様々な立場で新型コロナウィルスと悪戦苦闘してきたであろう。我々大学教員一人ひとりのパフォーマンスが試された半年でもあった。 しかし、その戦いはまだ始まったばかりなのかもしれない。ウィズ・コロナの中で大学教員としてどうするべきか手探りの日々は続く。 写真1:Zoom の画面表示の事例 8ページ デジタルシフトするイベントに思う 株式会社MICE 研究所 月刊イベントマーケティング編集長 樋口陽子(ひぐちようこ)  新型コロナウイルス感染拡大によるイベント等自粛の経済的影響については、3~5月の全国での経済損失が3兆円と推計されています(日本政策投資銀行より)。 中止・延期数は1万5206件。調査対象イベントは、音楽・文化、フェスティバルなどのエンタメ、プロ野球・Jリーグ・Bリーグのプロスポーツイベント、 国際会議・見本市・展示会等のMICEと総称されるビジネスイベントですので、地域の祭や花火大会、学校行事等も含めるともっとです。 また、実際には国内では2月から中止・延期の影響は出ていて、いまもなお続いています。 6月以降、イベント主催者は、政府や自治体からの緩和策を参考に制限付きで実施。その方策の一つが上限人数の設定(百名、千名、5千名と3段階)です。 新様式とイベントガイドラインを守りつつ、少しずつリアル開催の道のりを模索している、というが6月から8月末現在のイベント界隈の現状です。 デジタル化で進化するイベント中止や延期とするイベントがある一方で、開催の機会をオンラインへ移す主催者もふえています。 3月以降、開催形態は日を追うごとに高度化して、受講型のウェビナー、双方向型のオンラインイベント、 没入感のあるバーチャルイベントといったように、方法の選択肢はツールの種類も含めると、電子マネーのごとく、一気に増えました。 電子マネーがおさいふのデジタル化なら、オンラインイベントは時空間のデジタル化です。 共通点は、感染症対策の一つの非接触であることで、活用が広がりました。  もともとリアルイベントの価値は、時空間を共有して得られる未知の学びと出会いにあります。そして、情報・モノ・ひとと、つながりを介して得る発見性、 遠くにあったものの一次情報やリソースに五感でアクセスができる身体特性が学びと出会いにイノベーションを起こす装置となっています。 イベントがオンラインになったことで、五感の伝達が視覚や聴覚に制限されたり、熱気や一体感といった空気感といったものが軽減したり、 伝わる質の低下というデメリットはあるものの、メリットもあることがわかってきています。 多様化対応へ再設計  オンラインイベントのメリットは会場収容制限がないこと、移動がないことです。 そのため物理的な距離の制約や移動の時間的・コスト的制約がなくなり、さまざまな参加者が参加できるようになりました。 主催や登壇側の自由度も上がっています。デジタルオンラインイベントを主催している私も、東京にいながら、急遽、神戸在住のゲストを迎えて実施し、 札幌や沖縄から視聴参加いただくという、リアルでは困難なことも、オンラインイベントならではのメリットを感じ、広がりを体感しました。  これからのイベントは、リアルが再開したとしても、リアルとオンラインの双方のメリットを生かし、デメリットを補完しあうような開催形態となることが予想されます。 間口が広く、参加ハードルも低くなったイベントは、どんなひとにも届く仕組みが必要になります。それは当然、高齢者や障害者の方々に対しても同様です。 たとえば、イベントガイドラインでは、まだカバーされていないオンラインイベント参加について配慮することも、 リアルでの開催時には感染予防対策としてコミュニケーション支援用ボードを活用することも、 参加者視点で全員が楽しめるようなイベントに再設計するチャンスの時でもあるのではないでしょうか。 写真:都市型フェスティバル「078KOBE」オンラインイベント 9ページ コロナ禍で何か出来る事を 白山印刷株式会社 田辺友浩(たなべともひろ) フェイスシールドが出来るまで  さかのぼる事今年4月初め、国の緊急事態宣言発令により多くの経済活動が停止となりました。 そのひと月前の3月時点ではまさかここまでになるとは予想もしておらず、私も日々の業務に取り組んでおりました。 弊社は印刷会社をやっておりますが年間を通じて年末や年度末付近などは繁忙期となり多くの印刷物を動かしております。  イベント関係の引き合いも多く販促グッズやノベルティ関連なども手掛けており、2月初旬の時点では目に見える仕事の変化はありませんでしたが、 3月頭で受注案件の一時キャンセルが起こり始め、その十日後にはかなりの案件が延期や取り消しとなりました。 ちょうどニュースでも感染者増加とイベント自粛が連日報道されている頃でした。その後社内でも在宅勤務が推奨となり、 平日休日問わずステイホームの生活へ突入し、連日の報道の様子からこれは先の見えないトンネルに突入したのだと改めて確信を持ちました。 その後は受注減少の日々を送っていましたが、社内(部内)で今うちが出来る事はないのか、今だから出来る事は何があるのだろうか、 そんな話があがりその中から感染抑制に役立つ物はないのか?となり、その結果透明素材のフェイスシールド製作はどうだろうかという話になりました。 ただフェイスシールド製作は初めての事だったので部内でも形状や特徴の持たせ方などで苦労はあり、 数パターンの形状と素材の絞り込みでは、社内各所で使用したり自宅で付けて実際に生活して検証しました。 幸いにもグッズ関連でクリアファイルや透明素材への印刷と加工は長年取り組んでいましたので、ベースを決めてからの試作まではスムーズに進行し、無事量産1号が出来上がりました。 白山フェイスシールドの特徴  弊社フェイスシールドの主な特徴としては、防曇加工(曇り止め)、軽量、簡易組み立て式、 またマジックテープ式の装着とフェイス面のスライド方式が挙げられます。 組み立ては付属の取説を見て工具不要で約2~3分で完成出来ますし、スライド方式により眼鏡の方でも圧迫感なくご使用いただけます。 また透明部分に印刷も可能なのでイベント販促品としても使える特徴があります。 その後の活動について  新たな生活スタイルとより多くの人たちの感染抑制を見据え印刷技術と抗菌処理製品の増強、そして抗ウイルス処理製品開発にも取り組んでいます。 今回のコロナ禍を皆が経験し多くの事を学んだ事だと思います。  「止まない雨はない。」いずれは新型コロナウイルス感染症もワクチンが出来上がり、インフルエンザと同じような扱いになる日が来る事を信じています。 しかしその日をただ受動的に待つよりも、自分達に出来る事が少しでもあり、それがより多くの人達のプラスになるのなら能動的に活動していきたいと思います。 これもまた共用品の精神の一つと言えるのではないでしょうか。 写真1:白山フェイスシールド 写真2:アマビエマスクケース(両面抗菌処理) 10ページ コロナ禍におけるガイドラインと当事者団体の要望 業界団体のガイドライン  新型コロナウイルスの感染防止に向けて、さまざまな業界団体からガイドラインが出されています。 内閣府のホームページには、1.劇場、観覧場、映画館、演芸場、2.集会場、3.展示場、11.食堂・レストラン・喫茶店等、 15.冠婚葬祭、18.金融、23.行政サービスなどに分かれ、9月11日時点で、23種の業種で、約165が掲載され、誰もが見られるようになっています。 一例として、日本博物館協会が5月25日に公開したガイドラインには、政府の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(令和2年3月28日〈令和2年5月4日変更〉)を踏まえ作られ、 「全国の博物館について、施設を開放(開館)することとする場合の前提となる感染防止対策に関する基本的事項を定める」とあります。  基本的な考え方として、①密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、②密集場所(多くの人が密集している)、 ③密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる)という3つの条件のある場では、感染を拡大させるリスクが高いと考えられ、 本ガイドラインは、こうした場の発生を防ぎ、自己への感染とともに、他人への感染を徹底して予防することとあります。 それに続いて清掃、消毒、換気、人と人との間隔、対面で飛沫を避けるアクリル板やビニールカーテン、マスク着用などが、入口、通路、展示室など、場所ごとに書かれています。 ここでは、博物館をとりあげましたが、他のガイドラインもおおむね同じ構成になっています。 当事者団体の要望  一方、障害当事団体は、関係機関それぞれにコロナ禍における状況を踏まえて、要望書を提出しています。 13の障害関係団体が加盟する日本障害フォーラム(JDF)では、左記5項目のもと要望を行っています。 それは、①一人取り残さない対策と障害当事者の参画、②予防・検査・医療体制、③情報提供と相談体制、④サービスの継続確保・障害者支援事業所等の支援、⑤障害者の生活支援、人権擁護等の5項目です。  次に、障害別の各団体の要望を紹介します。全日本難聴者・中途失聴者団体連合会では、相談窓口・保健所・医療機関等の連絡先には必ずFAX番号や、やり取り可能なEメールアドレスを記載してほしい。 マスク着用時の筆談対応の徹底、テレワーク、リモート学習などでのインターネット利用における音声情報への字幕付与の推進などを、あげています。  全国手をつなぐ育成会連合会から、自宅待機が続くことによる疲弊状況への家族支援(孤立化防止)、分かりやすい情報提供、 在宅での支援が困難な場合の対応、障害者差別や事業所に対する風評被害の阻止などがあがっています。  日本視覚障害者団体連合からは、新型コロナウイルスに係る情報は、必ず視覚障害者も入手できる方法(点字、音声、拡大文字、テキスト等)で情報提供されることや 同行援護事業を継続させるため、事業所の経営安定化に向けた支援策の実施などがあがっています。  以上、ご紹介した要望は極一部ですが、生活していくために必要な切実な要望ばかりです。 今回、当事者の要望書を読みながら、業界のガイドラインを読むと、当時者の要望が伝わっていない部分もあることに気づきます。 コロナ禍だからこそ、情報の共有がさらに必要と感じます。 星川安之(ほしかわやすゆき) 写真1:業界団体ガイドライン(作成:内閣府) 11ページ キーワードで考える共用品講座第118講「コロナ禍と共用品・共用サービス」 日本福祉大学 客員教授 後藤芳一(ごとうよしかず)  新型コロナも半年を経た。第2波が収まりつつあるなかで我に返ると、 暮らし、学び、働き方、社会の仕組み、置かれた立場によって別の景色を見ているかも知れない。 海にもぐってしばらく進んで、水面に出ると皆ばらばらの位置にいたという感じ。 変わったこと、変わらないこと、変わるか戻るか模索中のことが分かれてきた。 1.変わったこと(その1:変化や動きが加速)  変わった、元からの動きが加速した、しばらく元へ戻らないなどである。 学びに遠隔を入れたのは、大学では緊急の補完(▲=負を補完)、小中学校では遅れていたデジタル化を加速させている(●=前進)。 密を避け家の時間の重みが増して宅配やドライブスルーが対応した(●)。  AIの活用で「×(かけ算)」の事業モデル(例:建設×IT)が進んだ(●)。 業態の選別が進み(例:百貨店、アパレル)、第4次ベンチャーブーム(事業会社が資金提供)は急ブレーキがかかった(▲)。  市民や社会は、衛生に感度が増した(●)、感染への恐怖は小売やサービスの消費を抑える(▲)。個人も組織もデジタル対応が進んだ(●)。 2.変わったこと(その2:新しく生じた)  緊急対応が不文律だったことの修正を求めている。会議や用談は対面しばりの慣行が消え(例:初対面も営業もWEBで)(●)、 同業が協力(例:菓子の老舗が組んで通販)(●)、規制緩和を実験(例:オンライン診療)(▲か●)、伝統様式の修正を試行(例:歌舞伎やオーケストラ)(▲か●)など。  1と2は非接触、移動の制限、密を避ける、そこで生じる負を補う。その過程で暮らしや働き方、社会の慣行、伝統も変える可能性がある。 3.変わらないこと  変わりたくて変われないこと、変えない方がよいこともある。働き方ではジョブ型雇用や成果主義が唱えられるが、 一部の例外(例:数値で管理できる作業やプロジェクト)を除き導入は容易でない。コミュニケーション方法、成果評価、処遇は日本型雇用(年功制、終身雇用)とセットだ。 成果主義ブーム(1990年代~2000年代初め)は失敗しネットの普及でも変わらなかった。一部の業種や職種の導入にとどまろう。  教育は遠隔では補えない部分が大きい。状況の回復と共に対面中心に戻ろう。 4.模索中のこと  着地点を探るものも多い。ウィズコロナを織り込んで対応するものもある(例:就活やインターンシップのオンライン化)(▲)。 部分的(例:情報系、スタートアップ)で限定的に進むものもある(例:リモートワーク、ジョブ型雇用、都心オフィスの減少、地方移住)(●)。 伝統的な組織運営とセットなため容易でないものも多い(例:業務のデジタル化や行政のオンライン化)(●)。  沈静化すれば課題も見える。緊急に導入したものの選別される(元に戻る、限定利用)ものもでよう(例:遠隔講義)(▲)。 5.共用品・共用サービスの役割  暮らしや社会に大きく急な変化が生じ、要求水準が上がった(例:デジタル化、会議ツールの活用)。 一方、対応できないと格差が増す。格差は不便さのある人に重くなる。加えて、情報や人がいないと、周りも本人も変化に気づけない。 障害種別、年齢(例:高齢)、経済状況、地域で代表できた不便さが、社会的条件ごとに1人ずつ固有になった。水面に浮かぶと別々のところにいた―、である。  共用品・共用サービスの役割は大きく2つ。第1は、コミュニケーションの機会を広げて障壁をなくす(例:Web会議)(●)。 国連障害者権利条約でいう「ユニバーサルデザイン」だ。新型コロナ対応でも大きく寄与した。対面しばりが薄れたことも背中を押した。 第2は、固有性を増した不便さに入り込んで支えること。権利条約の「合理的配慮」だ。これまで共用品・共用サービスは第1の点ですそ野を広げてきた。 ここでもう一歩、第2の部分を担えるかが問われている。 12ページ 玄関ドアをリモコンで開閉できる自動ドアへかんたん改修 電動オープナーシステム「DOAC」新発売 株式会社LIXIL 大澤知自(おおさわともじ)  株式会社LIXILは〝家族みんなが、笑顔で出かけたくなる毎日”を目指し、独自開発のワイヤレスシステムにより今ある玄関ドアに簡単に後付けでき、 リモコン操作ひとつで鍵の施錠・解錠はもちろん自動開閉まで可能にする玄関ドア用電動オープナーシステム「DOAC」を今月9月1日より発売開始しました。 商品開発のきっかけ  高齢化の進展に伴い加齢による心身機能の変化に合わせ、住環境の改善ニーズが顕在化、社会課題となるなか、 LIXILではコーポレート・レスポンシビリティ戦略における優先取り組み分野の一つとして「多様性の尊重」を掲げ、 障がいの有無や使う人の能力などに関わらず、より多くの人が利用できる製品・サービスの提供に取り組んでいます。 国内の既築玄関ドアのほとんどは開き戸で、車いすユーザーが外出・帰宅する際は、「家族やヘルパーの手助けが必要」 「狭くて車いすの向きを変えられない」「開閉するのに時間がかかる」「仕方なく庭から出入りしている」など、大きなハードルとなっていることが伺えます。 また、ドアから引戸への改修は建築的・費用的に負担が大きく、マンションやアパートでは変えること自体ができません。 そこで、みんなが使えて、一緒に暮らす全ての人が笑顔になる商品づくりを目指し、たった1日あればできる新しいバリアフリーリフォーム製品を開発しました。 タッチレス化への対応  感染対策として〝非接触”に注目が集まる中、DOACは玄関ドアに触れることなく、リモコンで鍵の施錠・解錠からドアの開閉までボタンひとつで操作できるので、 ハンドルに触れる必要が無く安心して外出や帰宅ができる、新しい時代を見据えた商品です。 リモコン操作により、車いすユーザーが、開き戸であっても誰かの手を借りたり、ドア周りのスペースに制約されることなく外出することができます。 また電池切れや停電時の手動操作への対応、さらに40万回におよぶ耐久試験をクリアした優れた耐久性の実現など、長年に渡って安心・安全にお使いいただけるよう設計にこだわりました。 インクルーシブデザイン 商品開発にあたり、社内外の車いすユーザーのみなさまに開発プロセスにご参画頂き、ヒアリング・インタビューを繰り返しながら開発をすすめました。 おひとりおひとりの声に耳を傾け、当たり前として諦めてしまっていた毎日の生活の中に存在する課題を抽出するプロセスを通し、 障がいのあるユーザーや高齢者が家族と共に笑顔になっていただくためにあるべき製品の形を追求しました。 ベビーカーや重たい荷物を持った時でも楽々と開けられること、〝タッチレス”=〝非接触”とすることで誰もが安心して使えることなど、 すべての人の暮らしを快適にできるインクルーシブな製品として普及していくことを期待しています。 製品ウェブサイト https://www.lixil.co.jp/lineup/entrance/doac 写真1:DOAC キービジュアル 写真2:操作方法イラスト 13ページ 井村屋 防災備蓄用「えいようかん」に点字表示 備蓄用食品への挑戦  いつ起こるかわからない自然災害に備えて食品会社である井村屋は2004年に、備蓄用食料の開発に取り組み始めました。  同社の主力商品である「羊羹」を、当時の備蓄食料の賞味期限である3年を目標に、まずは調査から開始。 備蓄用食料を保管している場所を調べると、学校では体育館、会社では会議室が多いことが分かりました。 どちらも夏は暑く、冬は寒いため、乾パンやビスケットなどの備蓄用食料の定番に比べ、水分の多い羊羹を備蓄用にするには、いくつもの課題が待ち構えていました。  気温や湿度を調整し、賞味期限を調べることのできる機器を導入し羊羹の試作をいくつも作って試したところ、糖分を増やすことで、備蓄用としての精度を高めることができました。 けれども糖分を上げすぎると、おいしさが損なわれることが分かりました。それを解決したのは「昔ながらの製法」でした。 大量の水を使って長時間かかけてじっくり練り上げながら糖度をあげていくことで、弾力あるおいしい羊羹になったのです。 次に取り組んだのが包装材料でした。食品の劣化を進める「熱・光・酸素」を遮断できるフィルムの開発を、専門企業に依頼し、試作されたフィルムに羊羹を詰めて実験を繰り返しま した。そして完成したフィルムは何と四層構造となりました。それが2007年のことです。しかし、開発開始と異なり備蓄用食料の賞味期限は3年から5年に伸びていたのです。 再び同社の研究は行われ、3年後に、フィルムの構造を高度化することで、賞味期限を3年から5年にすることに成功しました。 その間に、フィルムを材料とするパッケージに備蓄用食料ならではの工夫が盛り込まれ、2011年4月に発売開始となりました。 備蓄用食品ならではの工夫  1つ目の工夫は、備蓄用の備の字が、ホログラムになっていて、暗い部屋でも懐中電灯で照らした時に見つけやすくなっています。  2つ目の工夫は、暗い部屋でも分かりやすいように、開け口のつまみは、触るだけでわかるようになっています。  3つ目の工夫は、災害時に直接相手に電話が通じない時に利用する災害用伝言ダイヤル171の利用方法が書かれていることです。  そして4つ目の工夫が、点字表示です。平面に印刷された文字を読むことが困難な目の不自由な人に、中に羊羹が入っているかを伝えるために、 商品名と入り数(5本)が、点字で表示されています。この点字に関しては、同社の近くにある三重県視覚障害者支援センターの協力のもと作られました。 えいようかん(良い羊羹)  商品名の「えいようかん」は、名古屋弁で良いを意味する「えい」と、「栄養」と、羊羹を組み合わせたもので、 災害時でも栄養を羊羹でとってほしいという同社の願いが伝わってきます。発売から、9年たちましたが、その間にも台風、コロナ禍などさまざまな災害が日本の各地を襲っています。 そんな大変な状況の中で、「えいようかん」は、栄養とおいしさを届け続けています。 星川安之(ほしかわやすゆき) 写真:えいようかん 14ページ 共用品のご紹介と講座のお知らせ ユニバーサルデザインのセデス® 塩野義製薬(株)CRS推進部野口万里子(のぐちまりこ)  塩野義は「常に人々の健康を守るために必要な最もよい薬を提供する」を基本方針に掲げています。 これを具現化する活動の一つに「コミュニケーションバリアフリープロジェクト」があります。 聴覚や視覚に障がいのある患者さまは、服薬情報を正確に受け取れないことがあるため、 「わかりやすい正確な製品情報をお届けする」ことを目指しています。 当事者目線の気づきをカタチに服薬までのコミュニケーションのバリアに気づいていただくため、 聴覚障がい社員が講師として、医療従事者や当事者へセミナー等の啓発活動を行っています。 今回、社内当事者から「自社製品をバリアフリー化できないか?」という提案をきっかけに、シオノギグループ全体でカタチにしました。 ユニバーサルデザインのセデス  「すべての人に、やさしく、使いやすい」製品を目指して解熱鎮痛薬セデスシリーズのパッケージのリニューアルに取り組みました。 新パッケージは、開封口が触ってわかり、服用時に必要な情報を大きく表示しています。また「アクセシブルコード」を導入し、 視覚に障がいのある方々は音声で、外国の方々は英語等の多言語でお薬の情報をご確認いただけるようにしました。 コードの位置が触ってわかるようにコードに凹加工を付けています。さらに、お薬の効能をピクトグラムで表現しました。 2020年4月より全国の薬局・ドラッグストア等にて順次販売を開始しています。 写真:新パッケージの特徴 共用品研究所講座2020  共用品研究所(後藤芳一所長)では、機構内外における共用品に関する学術的研究を進めることを目的として、毎年講座を設けています。 感染症拡大の状況に留意し、今年度はオンラインで2つの講座を開催することにいたしました。 ご自身のパソコンやスマホからの受講ですので、お出掛けが難しい方や遠方の方にもご参加いただけます。 講座A「共用品について学ぶ」  共用品・共用サービスについて、背景や経緯、施策、国内外の動向等を学びます。 お仕事や研究で関わりのある方はもちろん、興味をお持ちのどなたにでもご参加いただける内容です。 全3回(9月9日~11月11日、午後7時から1時間半程度)の講座で、講師は専務理事の星川安之です。ゲストをお招きすることもあります。 内容は、第1回「共用品・共用サービスの概要と調査」、第2回「共用品・共用サービスに関する標準化」、 第3回「共用品・共用サービスに関する普及事業」を予定しています。 講座B「論文スキルを学ぶ」  実務で得た経験は、整理することで論文にできます。研究や論文には、基本となる作法があります。 基礎的なことを学んだあと、社会人大学院(修士や博士課程)に進む道もあります。 研究の方法を身につけることで、長く続けられる知的趣味をもつことができます。その入口のお話をします。 全5回(9月23日~2月10日、午後7時から1時間半程度)の講座で、講師は後藤芳一所長(日本福祉大学客員教授、日本生活支援工学会副会長)です。 内容は、第1回「社会人の学びと研究」、第2回「研究と枠組」、第3回「論文と論証」、第4回「論文と文章」、第5回「研究と統計」を予定しています。 松森ハルミ(まつもりはるみ) 15ページ 岡山県 UDアンバサダー講座 はじめに  岡山県は平成31(令和元)年度、全10回にわたり「おかやまUDアンバサダー養成講座」を行いました。 UDはユニバーサルデザイン、アンバサダーは大使、UDを広げていくリーダーを育てる講座です。 この講座には、岡山県が16年間、継続して実施してきたさまざまな活動で得られた貴重な経験を集約し、 次のステージにあがるための目的で行われ、その結果大きなステップとなりました。  そして、令和2年度は、岡山県のUD活動が、ホップ、ステップの次の段階ジャンプに入るための、講座が15回シリーズで計画されました。 けれども、新型ウイルスコロナの感染拡大により、集まっての講座が困難となりました。 そこで代替案として出されたのがビデオオンライン形式による講座です。目や耳の不自由な人への情報保障も入念に準備され開講するに至りました。 第1回目のオンラインの講座の冒頭では昨年、おかやまUDアンバサダー養成講座を受講された人たちへの 「認定証」の授与が県庁のUD推進する課の課長さんより行われました。実際の証書は後日、郵送されました。  オンライン講座は、15回が予定され、最初の5回は、筆者の私が担当させていただきました。 岡山県 県民生活部 人権施策推進課の三原保江(みはらやすえ)さん、NPOまちづくり推進機構岡山(うぶすな岡山)の代表の徳田恭子(とくだきょうこ)さんたちと意見交換しながら、 基礎講座であるはじめの5回を「共生社会『支え人』というタイトルを付け、第1回「人」、第2回「コト」、第3回「モノ」、第4回「コミュニケーション」 そして5回は「質疑応答」のタイトルのもと、共生社会を相撲の土俵に例えながら行いました。次に第1回から第4回の骨子を紹介します。 共生社会と「支え人」  第1回は、『共生社会と人』。  社会ではさまざまな「人」が、さまざまな「場所」や「状況」の中で、暮らしています。 性別、年齢、身体特性、立場、障害の有無、使用する言語、専攻、職業、性格、価値観、趣味などが異なる人たちです。  異なる人たちが暮らしているのが「社会」です。多くの国は、多くの経験を重ね、ただの「社会」から、「共生社会」に変えていこうとしています。  第1回目の講座は、ユニバーサルデザインの視点で、人を中心に共生社会を一緒に考えていきました。  第2回の『共生社会とコト』では、いくらモノが多くの人に使えるようになっていても、そのモノの情報が届いていなかったり、 使い方が正確に伝わっていないと、そのモノを必要としている人が使うことができません。 反対に、その「モノ」を使いづらい人がいたとしても、使い方を工夫したり、人的な補助があると使えることもあるのです。 さまざまな場面で「モノ」を補完している「コト」について考えました。  第3回『共生社会とモノ』では、世の中にあるモノをユニバーサルデザイン・共用品、福祉機器、一般製品に分けて紹介し、共生社会におけるモノとはを考えました。  そして、第4回では、『共生社会とコミュニケーション』と題して、3回までのテーマをコミュニケーションで結ぶにはを、考えました。  初めての経験の多いオンライン講座でしたが、受講された方々のスピーディな的を射た感想、質問が力となり、とても良い経験をさせていただきました。 星川安之 写真:養成講座チラシ 16ページ 交遊抄、「トランプ事件」の舞台裏 【事務局長だより】星川安之  8月3日、日本経済新聞の最終面にあるコラム、交遊抄に、「トランプ事件」というタイトルでコラムを書かせていただきました。 正確には、書いたのではなく日経の社会部の記者である金子冴月(かねこさつき)さんに、取材していただき、書いていただいた記事です。 交遊抄は、同じ会社、団体の現在及び元先輩、後輩、同僚ではない人ではないといったいくつかの条件のもと、 一人の知人をエピソードと共に紹介するコーナーで、私は30年以上前から親交のある全盲でお琴の演奏家の河相富貴子(かあいふきこ)さんを紹介させていただきました。  タイトルのトランプ事件は、大統領の名前ではなく、30年前に河相さんのご自宅で、私が全盲の人3人と点字付きトランプカードで遊んだ時のエピソード(事件)です。 その日、昼から始めたトランプは長時間に亘り行われ、夕方になってくると部屋も暗くなり、点字が読めない私だけ時間がかかり、 けれども、電気をつけて良いかを言い出せず、いよいよ見えなくなった時に蚊が鳴くような声で「電気つけても良いですか?」と言うと、 他の3人が「なんで、そういうことを早く言わないの!」と、言われたことを「事件」と称したものです。  その後も、共用品のことで、事あるごとに相談にのってもらっている河相さんに、交遊抄で紹介しても良いかと、最初の頃の原稿を電話で読んで伝えたところ、 途中2回ほど大笑いしながら、「面白いわね!」との返事で、紹介する人は決まりました。  コラムでは対象を一人に絞ることだったので、自宅でということで河相さんに焦点をあてましたが、その他の二人とも親交が続いています。 一人は、河辺豊子(かわべとよこ)さん、河相さんとは筑波付属盲学校時代の同級生で、当時は日本盲人会連合で点字の校正の仕事をされており2人の子供をもつお母さん。 半生を書いた『見えなくても愛』は、浜 木綿子(はま ゆうこ)さん主演のテレビドラマにもなりました。 歌もプロ並みの歌唱力。集まりの最後にはリクエストを受け披露される「河の流れのように」はいつも参加者に元気をくれています。  もう一人は地唄筝曲家の富田清邦(とみたせいほう)さん、国内外で演奏活動を行い数々の賞を受賞されています。 今でも日本点字図書館の評議員会でも毎回顔を合わせるたびに、奥さんを交えて冗談をいい合うのを楽しみにしています。  トランプ事件を読んで、多くの感想をいただきました。多くの感想の冒頭には「政治の話ではなかったんですね」でした。 日経の金子さんからこのタイトルが付いたゲラが最初に送られてきた時、「えっ?」と思い、何故このタイトル?とたずねると、 取材の時に私が言った言葉で、印象に残ったのでと回答。なるほど、このタイトルであれば今まで共用品に関心のない人にも読んでもらえるんだと、納得!  アメリカの大統領の話かと信じ、読んでくださった方々には、後ろめたさがないわけではありませんが、この手法、使える!と思った次第です。 共用品通信 【会議】 ISO/TC 173/WG 12 Zoom Meeting(8月4-6日、18-20日、金丸) 【講義・講演】 心の目線を合わせる オンライントークショー 第2回 性の多様性「先生や親に知ってほしいこと」遠藤まめた×七崎良輔(7月10日) 第3回 発達障害と仕事「当事者の就活、就職のストーリー」鈴木慶太×借金玉(同17日) 第4回 AS(自閉スペクトラム)「ASの人たちにコミュニケーションスタイルを学ぶ」綿貫愛子×藤野博(同18日) 第5回 会食恐怖症「人との食事が苦しい」朝来おかゆ×山口健太(同31日) 第6回 吃音「吃音でも社会福祉士として社会参加している私」小乃おの×菊池良和(8月29日) 岡山県UDアンバサダー養成講座 第2回共生社会とコト(7月29日、星川) 同3回 共生社会とモノ(8月8日) 同4回 コミュニケーション(同29日)総括 Web シンポジウム 「シチズンサイエンス・当事者研究が拓く次世代の科学:新しい世界線の開拓」 主催:日本学術会議 若手アカデミー 講演+パネリスト 星川(7月25日) 武蔵野美術大学講義(Web会議システムZoom Meeting)(8月7日、森川) 【報道】 時事通信社 厚生福祉 6月30日 補聴器と電池 時事通信社 厚生福祉 7月14日 ベビーカーおろすんジャー 時事通信社 厚生福祉 8月4日 点字の名刺 時事通信社 厚生福祉 8月25日 チャレンジド・ヨガ トイジャーナル 7月号 新型コロナ禍での変化 トイジャーナル 8月号 ベビーカーおろすんジャー 日本科学技術連盟 クオリティ・クラブ 7・8月号 アクセシブルデザインの目標 福祉介護テクノプラス 8月号 コロナ禍の中で 福祉介護テクノプラス 9月号 コロナ禍で広がるWebオンライン会議・講座 高齢者住宅新聞 7月8日 新型コロナ禍での機器操作 高齢者住宅新聞 8月5日・12日 温水洗浄便座 シルバー産業新聞 7月10日 コロナ対策の工夫は 日本経済新聞 8月3日 交遊抄 トランプ事件 生活支援工学会学会誌 Vol20 No1 解説 オリンピック・パラリンピックでのアクセシビリティ 日本ねじ研究協会誌 その5 補聴器と電池 アクセシブルデザインの総合情報誌 第128 号 2020(令和2)年9月25日発行 "Incl." vol.21 no.128 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2020 隔月刊、奇数月に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGA ビル2F 電 話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:https://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 事務局 星川安之、森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、田窪友和 執筆 石井靖乃、大澤知自、緒形憲、川森雅仁、後藤芳一、榊原裕文、    田辺友浩、長瀬浩明、中野志保、野口万里子、樋口陽子 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙写真:感染症対策の透明板(そば処桂庵 水道橋店) 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、 非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。