インクル 第130号 2021(令和3)年1月25日号 特集:コロナ禍での工夫 Contents 第21回公益財団法人共用品推進機構 Zoomオンライン活動報告会報告 2ページ コロナ禍の聞こえない人の工夫と現状 4ページ コロナ禍における全難聴の課題と要望 5ページ 新しい生活様式での戸惑いと期待 6ページ 日本点字図書館の工夫 7ページ 神保町シアターのコロナ禍での工夫 8ページ サクラホテルのコロナ禍での工夫 9ページ レストラン『サランチェ』の工夫 10ページ キーワードで考える共用品講座第120講 11ページ アクセシブルデザイン推進協議会(ADC) 幹事団体情報交換会令和2年度ADフォーラム報告 12ページ 千代田区「『障害者週間』理解促進事業」にて共用品を展示 13ページ すぎなみ地域大学「心のバリアフリー」について学ぶ 13ページ オンライン 国際福祉機器展 福祉機器Web2020 14ページ 絵本『ゆうこさんのルーペ』を描いて 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 写真:YMCAアジア青少年センター2階にある 韓国料理店『サランチェ』 2ページ 第21回 公益財団法人共用品推進機構 Zoom オンライン活動報告会報告 共用品推進機構の取り組みと今後の課題  共用品推進機構は、2020年12月1日(火)にオンライン会議システムZoomを活用し、活動報告会を開催しました。 例年7月に対面式で行っていましたが、新型コロナウイルス感染症の予防のため開催を見送り、インターネット環境や設備機器等考慮し、少人数での開催となりました。  総合司会は共用品推進機構事務局の金丸淳子(かなまるじゅんこ)が務め、当日は45名の参加をいただきました。  冒頭、富山幹太郎(とみやまかんたろう)理事長より、「コロナ禍の今だからこそ、必要なことは何なのか、私たちがやるべきことは何なのか、 今までの『当たり前』が通じないということを再認識して一歩でも、半歩でも前に進んでいかなければならないと思っています」と挨拶がありました。 続いて星川安之(ほしかわやすゆき)専務理事より、令和元年度事業報告と共に、コロナ下において新たに取り組みを始めた事業、変わらず継続して行っている事業の報告をしました。 今年度のテーマは「真の共生社会に向けて~モノ・サービスそしてコミュニケーション」  今年度は、テーマに則して、講演とトークイベントを行いました。  講演は、NPO法人日本障害者協議会代表の藤井克徳(ふじいかつのり)さんに、トークイベントは、イラストレーターで、漫画家のTokin(トキン)さんにご登壇いただきました。  藤井さんは「真の共生社会に向けて~私と共用品思想、障害者権利条約を礎に新たな地平を~」と題して、障害者権利条約と共用品の思想、共用品の発展への期待として、 「私たち抜きに私たちのことを決めないで」、「困難度の高い人に照準を」、「共用品開発と公的支援」の3つの視点から、分かりやすくご講演をいただきました。 Tokinさんは、星川専務理事とのトークイベントという形で、ご自身の精神障害(解離性障害、双極性障害)を中心に、障害特性や日常の出来事など、新たな視点で「共生社会」を考えるきっかけを提示してくださいました。 法人賛助会員の方々による情報交換  活動報告会での法人賛助会員企業・団体のみなさんの情報はとても参考になることが多く、毎年好評で、今年度は18の企業・団体様がご参加くださいました。  閉会では、「超高齢社会の中では、健常者でもいろんな障害を迎える。共用品の活動を、もっと広範囲の人達に伝えなくてはいけない。今後ともご指導、ご鞭撻の程よろしくお願いします」と森田俊作(もりたしゅんさく)評議員より挨拶がありました。  オンライン開催は地域を選ばず様々な場所から参加が可能ですが、インターネット環境、設備機器、また会議システムの手順やセキュリティについては課題が多くあります。 2021年においても、この状況は続くことが予想されますので、みなさまに安定した情報がご提供できるよう、これまで以上に検討を重ねて参ります。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。 森川美和(もりかわみわ) 写真1:活動報告:星川安之専務理事 写真2:開会挨拶:富山幹太郎理事長 写真3:総合司会:金丸淳子藤井さんからの質問に答える星川専務理事 写真4:講演:藤井克徳さん 写真5:トークショー:Tokinさん×星川専務理事 写真6:プレゼンテーションスライドイメージ 写真7:閉会挨拶:森田俊作評議員 4ページ コロナ禍の聞こえない人の工夫と現状 一般財団法人全日本ろうあ連盟 本部事務所長 倉野直紀(くらのなおき)  新型コロナ「第3波」の襲来により、不要不急の外出自粛や常時マスク着用の推奨など、これまで当たり前のように自由に外出や会話をしていたことができないという不自由さや孤独感を、多くの人々が経験したのではないでしょうか。  聞こえない人の生活はさらに大きな影響を受けています。例えば、聞こえない私たちにとっては、相手の顔の表情や口の形を読み取れることがコミュニケーション上でとても大切なのですが、 日常生活や職場、公共交通機関、飲食店等あらゆる場所で、表情や口の形がマスクで見えなくなったために、大変な思いをしています。  しかし、SNS等で透明マスクやフェイスシールドを着用した手話通訳者のことが周知されたことにより、 聞こえない人にとって表情や口の形が見えることは大切なことだと多くの人々に知っていただくきっかけとなったのは、とても嬉しく、また思わぬコロナ禍の影響でした。 オンライン会議・面談  「テレワーク」や「オンライン会議」が新しい生活様式として定着するにつれ、当連盟も多分に漏れず、面談や会議・打合せはほとんどオンライン開催となりました。 その際、聞こえる人との手話言語での会話には手話通訳者が必要です。オンライン開催でこの環境をどう整えるか、試行錯誤してきました。  オンライン画面の手話通訳は、見やすさ・聞き取りやすさが大切な点です。 手話通訳者も一人一画面とし、バーチャル背景を使用しない(背景に手がかかると抜けてしまい手が見えなくなる)、 音声が聞き取りやすいように発言者以外の参加者はミュート(音声オフ)にする、参加者は一人ずつ発言する、 参加者は発言終わりをきちんと告げるなど、少しずつルールが整いつつあります。  ろう者と手話通訳者が同じ場所にいても、ろう者用と手話通訳者用のモニターはそれぞれ必要です。 モニターで他の参加者の様子を視野に入れながら、ろう者は目の前の手話通訳を見て、手話通訳者は通訳します。  通信環境とともに、機能性の高いWebカメラや集音マイクなどが準備できると、より良い通訳環境となります。 とはいえ、やはり対面で生の手話を見る方が、ストレスもなく理解しやすく通じやすいというのがろう者たちの本音です。 対面での会議・面談  当連盟は20名以上いる職員の中に聞こえない職員が5名おり、コロナ禍においてもお互いの表情や口の形が見える環境を作っていくことが、「コロナ禍における働き方改革」と言えると思っています。 事務所の職員会議は対面式ですが、全員透明マスクやマウスシールドを使用しています。 会議室は扉も窓も開放していますが、もちろん手話言語でのやり取りとなるため、声が外部に漏れることは笑い声以外はあまりありません。 ただし体調管理は必須です。  来客の際にはマウスシールド着用に加え、向かい合った両者の間にアクリル板を設置します。 手話通訳は来客側におり、やはりマウスシールドを着用します。 このように、日常生活や活動、働き方の大きな変化に、皆がやりづらさや戸惑いを感じているのではないでしょうか。  しかし、つらつら考えるに障害のある人々はコロナ禍以前からさまざまな場面で困難を抱えてきたのです。 障害のある人々が前々から経験している生きづらさや働きづらさ(障壁)を、一般の人たちが実感することになったのがコロナ禍なのかもしれません。  コロナ禍による社会の変化を、障害のある人もない人も共に暮らせる新しい生活様式に、そして共生社会へつながることに希望を託したいと願っています。 写真オンライン会議の様子 5ページ コロナ禍における全難聴の課題と要望 一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 小川光彦(おがわみつひこ) 1 全難聴の要望 コロナ禍で全難聴でもこれまでの解決方法が通用しない場面にしばしば直面し、改めて危うい環境で綱渡りしていることを痛感させられました。 具体的には次のような諸課題について、要望しています。 ①新型コロナウイルスに関する要望(声明)3月25日 ・相談窓口・保健所・医療機関等は、難聴者もやり取り可能なFAX、メール連絡先を・マスク着用時の筆談対応 ・意思疎通支援者へのマスクの提供 ・テレワーク、リモート学習などインターネット利用の音声情報への字幕付与の推進 ②新型コロナウイルスに関する要望 その2(声明)4月20日 ・国や自治体の知事会見などのテレビ放送やネット動画(ライブ)に字幕を、アーカイブ動画には正確な字幕を ・オンライン診療での音声情報の文字化をはじめ、医療場面での情報保障を行うこと 2 ネット上の情報保障の課題 特に会合に影響がありました。2月から新型コロナウイルス感染拡大のため、実際に集まって会合を持つことが難しくなり、 ほぼ社会全体がネット上のビデオ会議、ウェビナー等の開催に大きくシフトしていきましたが、中途失聴・難聴者の集まる場の情報保障には、見てわかる要約筆記が必要です。 システム上、ネット上で要約筆記を実施する方法が未整備のため、加盟協会の会合実施に多大な困難がありました。 要約筆記派遣の根拠は障害者総合支援法で定められています。地域生活支援事業の意思疎通支援事業という位置づけですが、ここでは要約筆記をネットで用いることは制度運用上認められていなかったのです。 4月に全難聴の加盟協会にアンケートをとったところ、2月から3月にかけて中止・延期になった行事が25協会で238件のうち131件(55%)、会議が96件のうち43件(45%)。 この間、ネット上で代替開催・会議を実施したことがあるのが5協会、検討中なのが4協会という状況でした。また加盟協会から、ネット上の情報保障に要約筆記派遣ができるようにしてほしいという意見がありました。 3 ネット上の要約筆記派遣 そこで4月末に全難聴および特定非営利活動法人全国要約筆記問題研究会とで、ネット上の要約筆記を試行した上で、厚労省にネット上の要約筆記派遣の実現を要望しました。 結果厚労省にも状況を考慮いただき、ネット上の会合等の際の要約筆記も、意思疎通支援事業の要約筆記派遣として実施して構わない、という判断が示されました。 実現のためには派遣元や自治体、実施する要約筆記者、依頼する中途失聴・難聴者等それぞれに運用方法の検討、環境整備等が必要なため、関係者の懸命の調整がありました。 東京都の場合ネット上の要約筆記派遣が実現したのは9月初旬でした。 その後10月に全難聴から加盟協会に、ネット上での要約筆記利用に関するアンケートを実施したところ 「協会行事や理事会をWeb上で行うときに要約筆記派遣が意思疎通支援事業として認められている」のが18協会、 認められていないのが5協会、検討中が10協会でした。  制度環境は整ってきましたが、運用側の準備ができていなかったり、ネット上での開催のスキルやWi-Fi等の機材の用意ができていなかったり、当事者が慣れていなかったりなど、さまざまな困難があります。 中途失聴・難聴者の会合参加を守るため、引き続き関係者がチャレンジを続けています。 6ページ 新しい生活様式での戸惑いと期待 日本視覚障害者団体連合 組織部 佐々木宗雅(ささきむねまさ)  コロナウイルス感染症の拡大は社会の隅々まで影響を及ぼし、人々は対応に苦慮している。 中でも視覚障害者は、その障害特性故により厳しい対応を余儀なくされている。 特に新しい生活様式の推奨には、戸惑うばかりである。3密の回避が喧伝されているが、視覚障害者の社会生活維持には密着、密接を除くことはできない。 安全な外出をするため多くの視覚障害者はガイドヘルパーを利用する。その際、ガイドヘルパーの肘を掴むか、肩に手を乗せる。これが難しくなった。 このように密接して歩くことに対する世間の目は厳しくなり、同時にガイドヘルパー自身も自らの判断や家族の意見もあり、ガイドヘルプを自粛する例も出てきた。 たちまち視覚障害者は外出しにくくなってしまった。そこで本連合ではガイドヘルパーの単独利用を国や関係機関に働きかけ、 一部制限はあるものの薬品の受け取りやスーパー等の買い物を代行してもらえるようになった。  また、弱視者はスーパー等の買い物の際、商品を手に取ったり顔を近づけたりして価格等を判読するが、この方法も今では難しい。 何とか打開策を講じたいところだ。健常者からの声かけが少なくなったことも最近の傾向だ。  視覚障害者が単独で外出する場合、記憶の地図で動いている。換気のために店の扉が開きっ放しにされていたり、 人の動きが制限されて車のエンジン音や人の音が減ったりして耳で覚えた音と変わってしまい、迷うという事態も生じている。 昨年11月、東京メトロの駅ホームから視覚障害者が転落し、電車にはねられて死亡する事故があった。実に悔しく残念なことである。 何らかの誤認が原因と推察されている。そこで、本連合では視覚障害者に対する声かけサポート運動の強化を改めて呼びかけるに至った。 迷いや誤認を解消するのに効果的であることを強調しておきたい。 こうした日常生活のみでなく、視覚障害者の生業とも言えるあん摩マッサージ指圧・はり・きゅう業に従事している者の多くは、患者の激減に窮している。  本連合では、国や自治体の救援策を求めて運動を展開しているものである。 内部的に本連合が工夫したことがある。オンライン会議の導入と、そのスムーズな運用に向けた取り組みである。 企業をはじめ多くで採用されているところであるが、昨年6月の正副会長会議を皮切りに理事会、各種会議に用いている。 その後、試行錯誤を繰り返し、およそ3か月かけてスムーズな会議進行を実現できるまでに至った。導入に際して主催者側として留意したことは、 URLをはじめ必要な情報を参加者にメールで簡潔に送信すること、事前のテストに心を配ったこと等。会議に入ってからは、挙手のボタン操作、 チャット操作などを排し、リアル会議と同様に参加者の意思表示は手を挙げる、声を出すことで済むようにしている。 オンライン会議は窮余(きゅうよ)の一策であったものの、導入したことの利点は少なくない。 参加者は移動の手間と時間を省け、会議参加者の出席率を高められた。特に遠方の方へ顕著に表れており、全国組織としてこの辺りの効果は大きい。経費を軽減できる見通しもある。  けれども、改善の余地は大きく、より良きものを求めて模索を続けることになろうが、その際、オンライン会議に用いるソフトウェアについて、 開発会社には、画面読み上げソフトで全ての操作を行える、誰でも使えるアクセシビリティの高いソフトの開発を期待している。 写真:オンライン会議の様子 7ページ 日本点字図書館の工夫 社会福祉法人日本点字図書館 伊藤宣真(いとうのぶざね) 対策のはじまりは消毒  東京高田馬場にある日本点字図書館(日点)は、視覚に障害のある人のために、点字図書、録音図書の制作・貸し出し、用具の販売、歩行・生活訓練等を行う機関で、視覚障害者が日々、訪れていました。  2月中旬、コロナウイルスの感染が始まった当初は、階段、手すり、ドアの取っ手、エレベータや自動販売機の押しボタンなどの消毒を行いました。 緊急事態宣言  4月7日に、緊急事態宣言が発出されると、利用者等全ての来館を原則禁止とし、電話とメール、郵便と宅配便によるサービスだけに切り替えました。 ただし、白杖の修理など緊急を要する場合は例外としました。4月中旬からは一部の職員の在宅勤務が行われました。 緊急事態宣言の解除後  5月25日、緊急事態宣言が解除されるに伴って、日点も制約を解除していきました。 もとに戻す場合にも、来館によるサービスは予約制での再開としています。  再開後は毎日職員が一名入口に立ち、来館者に、マスクの着用と手の消毒を求めています。 一般の店舗には、マスクの着用、手の消毒、人との間隔をポスターなどで表示されていますが、視覚障害者にはそれを見ることができません。 さらに、一人で行った時には、どこに消毒液があるのか、間隔をとるにも前の人との距離を把握することが困難です。 その困難さを、日点の入り口では人的応対により、解決しているのです。 各部署での工夫  点字図書・録音図書のほとんどが郵送貸出です。緊急事態宣言中、出勤している職員が少ないため録音図書の希望受付タイトル数を一回に10タイトルから5タイトルにし、継続させました。  録音図書の制作は、日点のスタジオで録音していたボランティアの人たちは、自宅でのパソコン録音に切り替えると共に、パソコンでの操作が分からない時の対応にも応じて、滞りなく制作できました。  また、対面朗読(リーディング)は、ボランティアと利用者が別の部屋に入り、オンラインで会議ができるソフトであるZoomを利用して、再開することができました。  訓練事業においてもマンツーマンの指導が多く密になりやすいので、ICT訓練や点字訓練はリモートで実施しました。 用具販売  店頭での販売は、緊急宣言解除後、予約制にしたため、電話での注文が殺到しました。 特に、訪問先で体温の確認が義務づけられるところが多いため「音声体温計」の注文が大幅にあがり、注文待ちの状態になっています。 電話がつながりにくくなったため、インターネットでの注文もできることを伝えたことで、その利用者も増えてきました。  日点が行っている工夫は、他のどんな施設でも直面する課題であり、工夫と思います。 写真1:自動販売機の消毒 写真2:パーティション 8ページ 神保町シアターのコロナ禍での工夫 神保町シアター支配人 佐藤奈穂子(さとうなほこ)さんにうかがう  東京・千代田区神保町のすずらん通りからの小路にある神保町シアターは、13年前にオープン、懐かしい邦画を中心に上映され、幅広い年代に人気です。 神保町を特集したインクル109号でもお話をうかがった支配人の佐藤奈穂子さんに、今回のコロナ禍での状況をおうかがいしました。 * * * * 初めに、受付の工夫をからお聞かせください。  受付カウンターには、アクリルパネルを設置しました。当初、ビニールシートで対応していましたが、長期戦になることが見えてきたため、 簡易的なものではなく、思い切ってアクリルパネルに変更しています。 入場時の工夫を、教えてください。  通常では、ご入場時にチケットを劇場スタッフがもぎりますが、コロナ後は、お客様自身で半券を切っていただき、 スタッフが持つ回収箱に入れていただく形をとっています。 座席はどうされましたか?  緊急事態宣言後は休館していましたが、6月1日より営業再開、政府の方針で、座席は1席ずつ空け、定員は全体の半数以下での営業でしたが、 9月に改正され、定員を満席にできるようになりました。 しかし、当館はご常連のお客様がたがシニア層ということもあり、検討した結果、定員99名のところ65名まで収容することにしました。 お客様が少ない場合には問題ないのですが…。席数に関しては、今後も状況により変更する場合があります。 その他に、工夫されていることはありますか?  トイレには今まで、送風で手の水をとるジェットタオルを使っていましたが、コロナ禍になってからは、感染対策としてジェットタオルの代わりに紙タオルを設置しています。 また、座席の消毒も入れ替え時に積極的に行っています。 お客様の反応はどうですか?  満席にできるようになってからも定員を3分の2におさえていることに対しては、好意的なご意見をいただきます。 お電話で「どういう感染予防策をとっているか」の問い合わせがよくありますが、これまでは、ほぼご納得いただいております。 従業員への配慮・工夫は?  営業再開後、スタッフには、接客という面から精神的につらいと思うようなら遠慮なく言ってくださいと声掛けしていました。 消毒清掃の方法やお客様への注意喚起の仕方など業務上、気になることは意見交換しながら改善していくなどしました。 結果的には皆たくましく働いてくれています。 * * * *  お忙しい中、工夫の状況をお知らせいただきありがとうございました。 一日も早くコロナ禍が収束し、神保町シアターが、懐かしい映画のファンの人達で、毎日満席になることを祈っています。 星川安之 写真1:間隔を空けた座席 写真2:感染対策の紙タオル 9ページ サクラホテルのコロナ禍での工夫  94年に神保町にオープンした「サクラホテル」には、年間約1万人の外国からのお客さんが宿泊されていましたが、コロナ禍により、多国の多様な人たちは来られなくなりました。 その中に車椅子使用者もいることが入口のスロープで分かります。 コロナ禍で  来日ができないだけでなく、日本から自国に帰れない人もでてしまいました。  航空会社に問い合わせても埒があかず、ワーキングビザが切れかかっている人は当局への連絡がうまくいかずなど、大弱りの状況の人が神保町及び姉妹店の浅草のサクラホステルにもたくさんでたのです。 その人たちにとって頼りになったのが当ホテルの従業員達でした。バンクーバーでの経験この12月から神保町店の支配人になった平山舞(ひらやままい)さんは、日本のレストランで接客業を3年、 その後カナダのバンクーバーで接客業を経験しました。もともと行動的で社交的でしたが、バンクーバーでは、英語がスムーズに伝わらず、苦労のしっぱなし。異国での心細さや、何が必要か身をもって体験しました。 そんな中でも前向きになれたのは、勉強中の英語にも関わらず現地のお客さんの多くが「あなたの英語は、とても上手よ、自信を持って!」と言ってくれたことでした。 人を前向きにできる人に自分もなりたいと、帰国した令和元年12月、入社したのがサクラホテルでした。意気込みいっぱいで入った浅草のサクラホステルでしたが、入社後すぐにコロナという試練が彼女たちに襲い掛かりました。 コロナからみんなを守る! 東京オリンピック・パラリンピックの延期が決まると、常に満室だった部屋のキャンセルと共に、新たな予約が激減し、会社は大きな打撃を受けましたが、最優先は、今宿泊されている方々を、感染から守ることでした。 入口には自動の検温器と消毒液を設置、カウンターとカフェの受け渡し口には、アクリルとビニールによる透明なガード板を設置し、飛沫感染を防ぎました。 さらに宿泊されている多国の人への感染防止に関する注意事項は、英語でも表示されていますが、心配ごとや相談ごとに関しては、平山さんたちが、親身になって聞いて解決にむけて支援しています。 願いは… 海外で受けた現地の人たちの温かさは、サクラホテルで働く平山さんの原動力になっており、外国の人だけでなく、宿泊される障害のある人たちの安心感にもつながっています。一刻も早くコロナ感染が終息し、多くの人がまた、サクラホテルを訪れることを祈っています。 星川安之 写真1:入り口のスロープ 写真2:飛沫感染を防ぐアクリル板 写真3:感染防止に関する注意事項 写真4:支配人の平山舞さん 10ページ レストラン『サランチェ』の工夫 コロナ禍は、外食にも大きな変化をおこしています。店に入る前の検温、手の消毒、間隔をあけての着席、5人以上での会食並びに大声での会話の自粛、 さらには口に食べ物を運ぶときだけマスクを外すなどの新しい生活様式が推奨されました。 人気のあるバイキング形式の食事は、コロナ禍による非常事態宣言が出ると中止する店が相次ぎました。 その後、宣言が解除されると、バイキング形式での食事も感染予防の工夫が各店舗で生み出されました。 『サランチェ』 東京千代田区神田猿楽町にあるYMCAアジア青少年センターの2階にある韓国料理店『サランチェ』では、ランチメニューとして、 ビビンバ、プルコギ、参鶏湯、各種チゲ等に加えてシェフ(ホン・コンファさん〈同店社長〉)が富士山の頂上で食べて忘れられない味だった山菜麺を韓国風にアレンジした一品など、精魂こめて作った料理が、人気を集めています。 人気を集めているもう一つの理由は、コロナ禍でも安心していただくためのさまざまな工夫が行われているからです。 入店の際の検温では、耳が遠くなった人にも、口の動きが分かるように、マスクの代わりにマウスシールドを付けました。 非接触の検温を行ったあとはその体温を、目の不自由な人を含めた全ての人に言葉で伝えます。 また、耳が不自由な人だと分かると体温が表示された画面を示しています。 バイキングでの工夫  この店では、ランチメニューを1つ頼むと、カウンターに並べられた約15の大皿に入った料理を、バイキング形式で食べることができます。 これは、手持ちのお金が少ない時でもお腹一杯食べてもらいたいという店の方針からの実施です。  感染防止の工夫も行っています。皿に料理を移すためのトングを持つ前に、利き手にビニールの手袋をすることをお客さんにお願いし、複数の人が使うトングからの感染を防いでいます。 そして重なっている皿の一番上にはラップをかけてあり、「2枚目からお使いくださいませ」も感染防止の一環です。 実際に利き手に手袋をはめて、スープを注ぐお玉を利き手で持ち、柄のついたスープ皿に注ぐと違和感はなく、感染への不安が払拭されました。 また、韓国料理店では、コロナ禍以前から使用前のスプーンにも、箸袋ならぬスプーン袋がついていることに改めて気づきました。  コロナ禍で新しい生活様式は、国境を超え、多くの知恵と工夫で進化していることが必要と、サランチェさんの美味しい料理を食べながら思った次第です。 星川安之 写真1:ホン・コンファ社長 写真2:バイキング形式の料理 写真3:お皿とスプーン 11ページ キーワードで考える共用品講座第120講「コロナ禍での工夫」 日本福祉大学 客員教授 後藤芳一(ごとうよしかず) 1.新常態と対応の進化  コロナ対応が1年近く続いて一過性でないと分かった。暮らしの意識や社会のあり方が変わり、対策も当座の回避策から、①深掘りした対応、②2次的状況への対応、③新用途の開拓、④新商品の創出が生じた。 こうした取組みから、共用の対応を進化させる工夫も生まれている。 2.事例1(対応の工夫) ①対応の深掘り  接触や密を避けるため、暮らし(例:スワニーは通年用の手袋、パナソニックは洗浄前に自動で蓋を閉めるトイレ)、 食事(例:帝国ホテル東京は高級洋食を弁当に)、小売(例:電子レシート・レジレスなど小売店自動化、フライヤーは非接触の立ち読みコーナー、東急ハンズは化粧品販売をアバターで接客)、 サービス(例:不動産のオンライン内覧、アートコーポレーションはZoomで引越しの見積もり)、交通(例:東急は列車ごとの混雑を表示、JR西日本は時差乗車にポイント追加)、 集積(例:東武は浅草などの混雑を配信、オンライン法事、インスタで除夜の鐘、分散初詣、バンダイはフィギュア展示会をVR開催)で対応が広がっている。 ②2次的状況への対応  巣ごもり生活支援(例:ノーヴェのヘアカットブラシ〈お手軽美容〉)、テレワーク支援(例:簡単調理・片手可能なテレワ食、アドバンテッジリスクマネジメントは休業者の復帰をオンライン支援)、 店舗の工夫(例:清潔・安全の見える化、スーパーのレジ前で間隔を空けて並ぶのに合わせレジ横棚正面に主力商品)、交通の活用(例:タクシーやJRで食品輸送、新幹線に貨物車両を検討)など。 3.事例2(イノベーションを生む) ①新用途の開拓 別用途(例:表示装置をスマホやTVから各種モニターに活用)、別の販路(例:三菱食品は近隣飲食店の弁当を食品スーパーで販売、マッチング、東京ばな奈は全国のコンビニで限定販売)。 ②新商品・サービスの創出 働き方支援(例:ヤフーは副業人材を活用、セレンディップは書籍要約で異分野への気づきを支援)や、コミュニティ(例:「神保町ブックフリマ」、スポティファイほかeスポーツが拡大)が創られている。 4.事例3(共用につながる工夫)  モノやサービスの仕様(X)と利用者(Y)について、仕様や用途が特定(高齢、障害、感染、防災:X1とY1)か共用(X2とY2)かの組合せで整理しよう。 ①特定仕様(X1)・特定利用者(Y1)  日本航空と全日本空輸は乗客支援の共通ガイドを作った。感染対策の一方、障害者や高齢者には近くでの会話が必要なため、両社の知見を持ち寄った。 ピーシーデポは今夏から専用車両による移動店を始める。ネット通販が拡がるなかIT知識の少ない高齢者が取り残される。在庫は持たず相談中心とし販売はネットで行う。消費者の近くで販路を開拓できる。 メガネスーパーも新規出店は検眼や加工機を積んだ大型車両中心に替えた。 ②特定仕様(X1)で利用者が拡大(Y1→Y2)  埼玉の公立図書館は、高齢者や障害者を考え電子図書館を運営してきたが、コロナ休館中も続けたところ、一般の利用者に貸出しが急拡大している。 ③特定利用者(Y1)向けながら仕様を拡大(X1→X2)  コンビニはコロナ失職者の受皿になっている。ローソンは急な空きを埋める単発アルバイトの紹介を500店で始めた。3月に全国へ拡げる。3時間単位で利用でき、加盟店も働く人も柔軟な対応が可能になった。 ④仕様も利用者も特定から共用へ拡大(X1Y1→X2Y2)  震災で広がった応援消費は、皆が困るいま、助けることが自分をも助けるという意味を持って活用されている。アトレ竹芝にある「対話の森」は無音・暗闇で不便さを疑似体験する。 コロナで誰もが不安ななか、不便さを体感し五感をフル活用し「ソーシャルエンターテインメント」として多様性や支え合う必要性を考える機会になっている。 サイゼリヤは来店客に手書きを求めて注文を取り、接客時間を縮めた。会話の不自由な人にも利用が広がっている。 12ページ アクセシブルデザイン推進協議会(ADC) 幹事団体情報交換会令和2年度ADフォーラム報告 アクセシブルデザイン推進協議会事務局 森川美和(もりかわみわ)  アクセシブルデザイン推進協議会(以下「ADC」)は、日本の人口の急速な高齢化に対応するため、政府、学会、産業界が互いに推進している高齢者・障害者に関する標準化、調査研究、研究開発等の施策について情報を共有し、 高齢者・障害者配慮の施策を促進することを目的として平成15年10月16日に設立した任意の団体です。共用品推進機構は、平成19年度から事務局を担い活動を続けています。  現在ADCの事業は主に二つです。一つは、幹事団体を中心に情報交換を行う「ADフォーラム」、二つ目は幹事団体を中心に、時代に合ったテーマを設定して広く情報提供を行う「ADシンポジウム」です。 残念ながら毎年2月頃に開催している同シンポジウムは、新型コロナウイルス感染症拡大のため次年度に延期することとなりましたが、ADフォーラムはオンラインで開催することができました。 コロナ下での活動報告  昨年11月に開催したADフォーラムは、コロナ下での活動報告となりました。 この状況下での会議運営、各団体主催のセミナーやイベント開催、オンラインでの情報提供方法は参考になるものも多く、すぐに実践できるものもありました。 当日各団体報告用資料は、ADCウェブサイトの「ADマガジン」のコーナーよりPDFで一部ご覧いただけます。  引き続き、様々な業界団体の取り組みを紹介していきたいと思っています。 アクセシブルデザイン推進協議会幹事団体一覧(順不同) ①(一財)家電製品協会 ②(公財)交通エコロジー・モビリティ財団 ③(公財)テクノエイド協会 ④(一社)日本ガス石油機器工業会 ⑤(一財)日本規格協会 ⑥(公社)日本包装技術協会 ⑦(公財)共用品推進機構 写真1:アクセシブルデザイン推進協議会ウェブサイト http://www.ad-council.org/ 写真2:『ADマガジン』(イメージ) http://ad-council.org/magazine.html 写真3:ADフォーラムの様子 13ページ 千代田区「『障害者週間』理解促進事業」にて共用品を展示  千代田区では毎年、障害者週間に合わせて、区の福祉サービスや障害者支援団体等の活動内容を、パネル展示等で紹介する『「障害者週間」理解促進事業』が行われています。 本年は12月3~10日、区役所1階の区民ホールで行われ共用品推進機構も昨年に続き出展しました。  昨年は、パラリンピック競技用車いすの試乗体験やVR(バーチャルリアリティ)旅行体験などがありましたが、今年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、展示や掲示を中心としたイベントとなりました。  機構は毎年、共用品の体験を行っていましたが、本年は来られた方に手袋を着用していただくことや、触れた共用品をその都度消毒する感染症対策が難しいため、ガラスのショーケースでの展示となりました。  展示した共用品は、シャンプー・コンディショナー・ボディソープ容器など触って識別できる代表的な共用品のほか、 プッシュ式の定量で出てくる洗たく用洗剤や、軽い力で操作できるホチキス、ダブルクリップ、コミュニケーション支援ボードや筆談器を展示しました。  今回は、実際に体験していただくことできませんでしたが、引き続き出展を行い、情報発信をしていきたいと思います。 田窪友和(たくぼともかず) 写真:千代田区展示様子 すぎなみ地域大学「心のバリアフリー」について学ぶ  東京都杉並区では、年間20ほどの講座を杉並区在住・在勤在学の人向けに実施しています。  その一環で「心のバリアフリー」について学ぶボランティア講座が、12月13日(日)に区役所内で行われ、人数を制限し50名の方々が参加され行われました。 前半は、「インディペンデント・リビング」を紹介するドキュメント映画ショートバージョンの上映と監督である田中悠輝(たなかゆうき)さんと 共用品推進機構の星川との対談、後半は「共生社会の実現に向けて」と題して、星川から講演を行いました。  映画は、在宅で暮らす重度の障害者の生活を通じ、自立とは何かを観客に問いかけています。  後半の講座では、はじめに、社会を相撲の土俵に例え、登れない人がいること、その要因がハード・ソフト両面であることに関し、具体例を示しながら説明しました。  聴講者は、東京オリンピック・パラリンピックの際にボランティアを行う人が過半数をしめていたため、 共用品推進機構が行ってきた「不便さ調査」と「良かったこと調査」を集計・分類した中で、①声掛け、②説明、③誘導に関する事例を紹介させていただきました。 この3つはコミュニケーションを構成している要素です。同じコミュニケーションでも、思い込みや、関心や、気持ちに上下関係をつけると、情報は伝わっても意思は伝わらないといった内容を、 これもそれぞれに事例を用いて話しました。その事例の一つが15ページに紹介している「ゆうこさんのルーペ」、当日も芳賀優子(はがゆうこ)さんがエピソードを話してくれました。 その結果、分かりやすい講演だったとのコメントを多くいただくことができました。 星川安之 写真:ボランティア講座 14ページ オンライン 国際福祉機器展 福祉機器Web2020 コラム「コロナ禍におけるアクセシブルな製品・サービス」  国際展示会の中止から毎年秋に行わる国際福祉機器展は20年、コロナ禍で中止となりました。 共用品推進機構では、12年から主催者である一般財団法人 保健福祉広報協会の「高齢者・障害者に優しいモノコーナー」の企画・運営への協力をさせてもらっています。 12年からはコーナー名に副題を付けたことで、より多くの人に足をとめてもらえるようになりました。 12年の副題は、「片手で使えるモノ」、13年度は「目からウロコ展」、19年度は「十人十色展」などです。 20年度の企画を立て始めようとしていた時に、主催の方から「残念だけれど、今年の国際福祉機器展は中止とします。 ついては、製品展示の代わりに、Webでの開催を行うので、そこで共用品を紹介することを考えてほしい」との宿題をもらいました。 Webでの開催  主催者側が考え実施したWebのコンテンツは、オンラインによるセミナー、出展社の製品紹介、そして「レポート」の3種類です。 セミナーと製品紹介は今年オンラインでの開催によって、遠方のため、もしくは障害等により、今までは会場に来ることが困難な人たちも、自宅または職場から聴講・見学できるという利点も生まれました。 レポート  3つめのレポートは、世界の福祉現場、コロナ禍における施設・製品、そして子どものバギー・車椅子の選びかたに分かれました。 共用品推進機構には、「コロナ禍におけるアクセシブルな製品・サービス」というシリーズ名をいただき、毎週、1カテゴリーずつ合計、10のコラムを書かせていただきました。 コロナ禍における共用品  このレポートでとりあげたのは、マスク、消毒液、インターホン、宅配ボックス、オンライン講座(ヨガ)、電話リレーサービス、コミュニケーションボード、筆談器、共遊玩具などです。 このコラムを書くにあたって、障害のある知人たちに、コロナ禍での不便さ、工夫、要望を、オンラインでの会議ソフトを使いながらインタビューをしました。 このオンライン会議で使ったソフトはコロナ禍以前から存在していましたが、必要性をあまり感じていませんでした。それがこの状態になると、既になくてはならない存在になっていることに気づきました。 コロナ禍での製品というと感染を防ぐために、非接触による操作であったり、人との距離をとるようにとのポスターだったりの表示が、出発点ですが、 障害のある人によっては、表示が見えなかったり、操作が困難なものも出てきています。 コラムでは、障害のある人への工夫なども紹介しています。 21年3月末まで公開されているので、是非ご覧いただけたらと思います。 星川安之 写真:コロナ禍におけるアクセシブルな製品・サービス https://www.hcr.or.jp/web2020/report#accessible 写真:福祉機器展web2020 https://www.hcr.or.jp/web2020 15ページ 絵本『ゆうこさんのルーペ』を描いて 絵本作家 多屋光孫(たやみつひろ) 『ゆうこさんのルーペ』について・製作過程など  弱視の芳賀優子さん(ゆうこさん)が、読書をしていた時に使っていたルーペに興味を持った子どもと、ゆうこさんにルーペについて直接「きいてみたら?」と促した父親との実際のエピソードを元に描いた話です。 作中に登場する主人公のはやたくんがルーペを通して覗く世界も車椅子使用者の海老原宏美(えびはらひろみ)さん(ひろみさん)の実体験やゆうこさん自身の体験などの実話を元にしています。  はやたくんは、ルーペを通していろんな世界(登場人物の過去)を覗き、色々な事を見て学んでいきます。はやたの行動は、「知らないことを知らないままにしておかない」ことの大切さと、 その先にある「知ることのよろこび」を伝えています。制作中、ゆうこさんやひろみさん、この絵本を作るきっかけとなった星川安之さん、監修の藤井克徳さんと繰り返しの打ち合わせをしました。 毎回、色々なお話や経験を聞かせていただいて、作者である私自身の思い込みや先入観が消えていき楽しい気持ちで描かせていただきました。絵本の説教くさくなくハッピー感のある世界観は、今回の製作の過程で生まれたものです。 絵本の反響(個展・学校で)  11月23日より銀座ゆう画廊で開催した私の個展で「ゆうこさんのルーペ」の原画と本を展示・販売しました。初日に偶然、目の手術を控えた方が来られ、作中のゆうこさんの様子に「勇気づけられ(手術を控えた)不安な気持ちが消えました。」 と絵本を購入していかれました。ある男性は、前述の父親に共感し「自分もこうありたい」と振り返りました。作中のゆうこさんの幸せそうで自然体な部分や力強さに励まされた方も大勢いました。  個展の翌週、都立工芸高校の国語表現の授業で早速「ゆうこさんのルーペ」を取り上げていただき一クラス分の感想文が届きました。以下抜粋です。 ―「ゆうこさんは目が悪く、不便なことも多いだろうが、それをハンデ、だとは思わず、自分の歩数も数えていたり、ゆうこさんから見える世界は、私とはまた違う視点から見ているのかなと思いました。 しかも、それが人の役に立つことが素晴らしいと感じました。」「相手を知ろうとすることの大切さを学ぶことができました。 『ゆうこさんのルーペ』は人の価値観に影響を与えるようなとても素晴らしい絵本だと思いました。出会うことが出来てよかったです。」「私もそのルーペ欲しいです」等。 この絵本で聞いてみることや知ることのよろこびを、もっと多くの方に感じていただけるとうれしいです。 写真1:個展会場 写真2:会場にてゆうこさんと 16ページ コロナ禍での平等とは 【事務局長だより】星川安之  見えない、聞こえない新型コロナウイルスは、ある意味平等に、襲い掛かってきている。 けれど、感染予防のやり方となると、障害の有無によって有利・不利が既にでてきており平等とは言えない。  30年ほど前、ある鉄道会社がスイッチ部を液晶表示にした斬新な自動券売機を全駅一斉に導入した。 導入直後、白杖をつくTさんとある駅の改札を通りかかろうとすると、新しく導入された自動券売機への使い勝手に関するアンケートを求められた。 確か、とても使いやすい、使いやすい、やや使いやすいの3択で答えを求められたと記憶しているが、Tさんは「その3つではなく、使えないです」と、その理由を含めてコメントした。  アンケートを請け負っておこなっている人にとっては、まさかの答えで、しばし沈黙が流れた。アンケートをしていた人には何の落ち度もない。 それは、コロナ禍での応対でも同じことで、現場でお客さんや利用者に接する人は、会社が決めたルールを、伝えることが任務だからである。 「共生社会」を、国立特別支援教育総合研究所が、「これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会」と定義している。 正しい定義と思うが、コロナ禍の場合、「これまで必ずしも~」というわけにはいかず、一刻も早い段階で感染対策が、障害の有無に関わらず、平等に行えるルールが必要と思う。  そこで、共用品推進機構としてできることは何かと考えてみた。  第一は、このコロナ禍の状況で誰がどのように、不安、不便を感じているかを、不便さ調査の手法を参考に確認し、工夫していること、便利だったことなどを、良かったこと調査で確認することだ。  この調査は、必要に応じて多くの地域に拡散し、多くの地域で情報共有することが、前記の自動券売機での「作ってからニーズを確認する」ではなく、「ニーズを確認してから作る」に順番を入れ替えることができる。  不便さや良かったことを含む障害者・高齢者のニーズが集まったら、施設、施設設備、製品、備品などのハード面と、表示、人的応対等のソフト面に分けながら、 多くの場面に共通する事項と、個別事項に分け、それぞれの事項に関して、調査で出てきた「望むこと」を当てはめていくことができる。  当てはめた事項が、それぞれの場面でのハード・ソフトの解決案になるが、ここで重要なことは、それぞれの項目を、関係する当事者と共に確認することである。 確認された文書は、誰もが見られる形式にすると共に、新たな課題や解決案が、流動的に取り込まれることが必要である。 お詫びと訂正:129号のインクルーシブな公園の記事(P13)の中で、水戸岡鋭治さんのフリガナをえつじさんとありますが、正しくはえいじさんの間違いです。お詫びして訂正させていただきます。 共用品通信 【イベント】(オンライン会議システムZoom) 第21回共用品推進機構活動報告会(12月1日) 【会議】(オンライン会議システムWebex) 第1回障害者、高齢者等アクセシブルサービス検討委員会(10月29日) 第2回障害者、高齢者等アクセシブルサービス検討委員会(11月24日) 第1回AD関連業界団体アクセシブルサービス検討委員会(12月23日) 【講義・講演】 久我山つなぐ会(11月27日、星川) JDF全国フォーラム(12月7日、星川) 花王株式会社(12月8日、星川) こころの目線を合わせる(12月11日、藤井克徳氏・星川) すぎなみ地域大学(12月13日、星川) 東京大学教育学部附属中等教育学校(12月22日、星川) 【報道】 時事通信社 厚生福祉 11月6日 映画『咲(え)む』 時事通信社 厚生福祉 12月8日 目の不自由な人への説明 時事通信社 厚生福祉 12月15日 ホームからの転落事故 トイジャーナル 11月号 誰でも遊べる公園 オープン トイジャーナル 12月号  『ゆうこさんのルーペ』 トイジャーナル 1月号 国際福祉機器展のWebページ 福祉介護テクノプラス 10月号 感染拡大による不便さ・工夫・望むこと① 福祉介護テクノプラス 11月号 感染拡大による不便さ・工夫・望むこと② 福祉介護テクノプラス 12月号 感染拡大による不便さ・工夫・望むこと③ 高齢者住宅新聞 11月11日「 鍵」不要で紛失防止 高齢者住宅新聞 12 月9日 自動検温での工夫 シルバー産業新聞 11月10日 北風と太陽 日本ねじ研究協会誌 10月 その6 介護という言葉 日本ねじ研究協会誌 11月 その7 誰もが履きやすい靴 日本ねじ研究協会誌 12月 その8 共用品という言葉 朝日新聞 12月25日 障害者が働きやすい社会は皆が働きやすい アクセシブルデザインの総合情報誌 第130号 2021(令和3)年1月25日発行 "Incl." vol.22 no.130 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2021 隔月刊、奇数月25日に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGA ビル2F 電 話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:https://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 編集長 星川安之 事務局 森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、田窪友和 執筆 伊藤宣真、小川光彦、倉野直紀、後藤芳一、佐々木宗雅、佐藤奈穂子、多屋光孫 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙写真:レストラン『サランチェ』での検温の様子 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。 その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。