インクル131号 令和3(2021)年3月25日号 特集:教養としての共用品 Contents 地域における良かったこと調査報告 2ページ 新型コロナウイルス感染症による影響についてのインタビュー調査結果 4ページ コロナ禍での困ったこと、工夫に関する調査 実施 5ページ 特集 教養としての共用品 6ページ  パッケージ 7ページ  触ってわかる 8ページ  日用品 9ページ  玩具 10ページ  カード 11ページ  いろいろ 12ページ  共用品・E&C 13ページ キーワードで考える共用品講座第121講 14ページ 『目の不自由な人をよく知る本』合同出版より発刊 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 2ページ 地域における良かったこと調査報告 2013年から本格的に開始した良かったこと調査も8回目を迎えました。 良かったこと調査は、心地よい人やモノとのかかわりを、日々の暮らしの中や様々な地域で広げていくことを目的としています。 本誌では2020年度に行った「地域における良かったこと調査」から、沖縄県(沖縄編)、岡山市(岡山編)の結果を一部ご紹介します。 沖縄編 NPO法人バリアフリーネットワーク会議(沖縄県沖縄市)が中心となって、沖縄県、沖縄県内の障害者団体、関連団体13団体にご協力をいただき調査を実施しました。 調査概要は以下の通りです。 全回答者数:71名 (内訳)  1.性別:女性33名、男性34名、無回答3名、その他1名  2.年代:10代5名、20代6名、30代9名、40代8名、50代18名、60代15名、70代5名、無回答5名  3.居住地:沖縄市24名、那覇市21名、宜野湾市6名、八重瀬町5名、うるま市3名、南風原市2名、糸満市2名、中城村・読谷村・西原町・浦添市それぞれ1名ずつ計4名、無回答4名 【駅や交通機関】 ・毎週バスに乗るのですが、弱視でバスの番号が見えなくて、通るバス1台1台にとまってもらって番号を聞いていましたが、今では運転手さんが私のことを覚えてくれて、バスの番号を放送して停まってくれるようになりました。(弱視10代女性) ・モノレールで駅を出るまで段差がないので移動しやすい。(精神障害50代女性) ・他の人がいたけど、降り終るまでまっていてくれた。急がしたりせずまっていてくれた事が嬉しかった。(下肢障害40代男性) ・沖縄イコール観光地と言う事で、色々な所にスロープ、多目的トイレが大きかったり広かったりと、きれいに設備されてきて助かります。(10代下肢障害のお子さんの母親) 【飲食店】 ・回転寿司等、車椅子用のテーブルが用意されていてうれしいです。(10代下肢障害のお子さんの母親) ・行きつけのお店で、自分達を障害者ではなく、普通のお客として接してくれたこと。(弱視・上下肢障害30代男性) 【スーパーやコンビニエンスストア】 白杖をもって入店すると店員さんがぱっと出てきてなにかお手伝いしましょうかと聞いてくれる。(全盲50代男性) 【全般】 場所問わず、子供を連れて行きやすくしてくれているのは、お母さん達にとっては、とても助かりますし、その場所に行く事によって親子連れで楽しめたらすごくうれしいですね。 今後、そのような所がもっと増えるといいですね(^^♪ (10代発達障害のお子さんの母親) 岡山編 NPO法人まちづくり推進機構岡山(岡山県岡山市)が中心となって、岡山市、岡山市内の障害者団体8団体のご協力をいただき調査を実施しました。 調査概要は以下の通りです。 全回答者数:83名 (訳内)  1.性別:女性55名、男性28名  2.年代:10代2名、20代4名、30代2名、40代10名、50代8名、60代24名、70代26名、80代7名  3.居住地:岡山市北区31名・中区25名・東区12名・南区7名、倉敷市3名、瀬戸内市・備前市それぞれ1名ずつ計2名、無回答3名 【駅や交通機関】 ・バスで空席に案内してくれる。駅では駅員さんが誘導してくれる。一般の人も声をかけてくれる。(全盲60代男性) ・バスの運転手さんが、バスカードの残金を言ってくれる。(弱視70代女性) 【飲食店】 ・マスクをかけたまま話す店員さんがほとんどなので「耳が聞こえません」と(身振りで)話したら、気づいて筆談して下さる店員さんもいて良かったと思った。 昔は聴覚障害者に対するコミュニケーションとか、あまり理解できない人もほとんどでしたが、今は時代が変わり伝達方法を考えて応じて下さる人も多くなったと思いました。(ろう60代女性) 【スーパーやコンビニエンスストア】 ・高い棚の上の物を取ってくれる。レジのカウンターの外に出てきて、買った物を渡してくれる。 (下肢障害20代女性) ・写真の現像の時やFAXの仕方を何十分もかけて教えていただき、とてもありがたかったです。(精神障害50代女性) ・行きつけのスーパーでは、私の事を耳の聞こえない人と知っているので、QRコードで支払いの時、「『ピッ』と鳴ったよOK?」と身振りで言ってくださるのが嬉しい。(ろう40代女性) ・「おつりは千円札だけにしましょうか?」と尋ねてくれた。 5千円札が混じると間違えることがあるので、ほかの店ではこちらから要求しているが、応じてくれる店とくれない店がある。店員さんから言われたのでうれしかった。(全盲60代女性) 【商店街】 ・洋服店で、車いすが入ることができる試着室が多くなった。(下肢障害20代女性) 良かったこと調査(沖縄編、岡山編)の詳細は、供用品推進機構ウェブサイトにて2021年5月以降に公開予定です。 協力:一般財団法人日本児童教育振興財団 4ページ  新型コロナウイルス感染症による影響についてのインタビュー調査結果 (公財)交通エコロジー・モビリティ財団 竹島恵子(たけしまけいこ)  2020年4月7日、政府は新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐため、緊急事態宣言を発令し、約2ヶ月間外出自粛期間となりました。 今回のインタビュー調査では、緊急事態宣言前(2020年4月7日以前)、緊急事態宣言中(4月7日~5月25日)、緊急事態宣言解除後(5月25日以降現在)において、 日常生活や活動においてどのような影響があったのかを、有識者・障害当事者へ伺い、整理しました。調査は、2020年8月~10月にオンライン形式(Zoom)で実施し、16名の方にご協力いただきました。 インタビュー項目  ①日常生活、②移動、③情報収集方法の変化、④新しい生活様式に基づいた接遇介助方法について等お伺いしましたが、ここでは、①、②をご報告します。 ①日常生活への影響  職場・学校、買い物、通院、会合、娯楽等の場面毎にお伺いしたところ、職場・学校では、オンライン化により在宅勤務等が可能となり、 時間を有効活用できるようになったが、通信環境や情報保障など環境を整える必要があった。 また、オンライン会議のシステムが視覚障害者は使いづらいといった意見もあげられました。 特別支援学校が休校となった場合の保護者の対応、発達障害児の生活リズムが狂ったことでのパニックなどもあげられました。 買い物ではまとめ買いや宅配注文が増え、買い物回数が減った。 聴覚障害者は店舗のレジ等でのマスク着用やビニールカーテン越しのコミュニケーションの難しさ、視覚障害者はアルコール消毒の場所やレジの並び方がわからないといった意見があげられた一方、 発達障害者はレジの立ち位置シールで並びやすくなった、セルフレジが増えて発語せずに買い物ができるのは楽という意見もあげられました。 通院では、通院回数を減らすため処方量を増やしたり、オンライン診療に切り替える等の工夫を進める反面、通院介助を断られるケースも見られました。 また、聴覚障害者にとって電話予約は難しく、メール等の予約方法も検討してほしいという意見があげられました。 会合では、対面方式や講演会等はほぼ中止となりオンラインや書面に切り替わり、オンライン化で以前より会合に参加するようになったという意見もありましたが、 通信環境や情報保障などの問題をクリアにしていく必要があるとの意見もあげられました。 またマスク着用、距離を取ると発言者がわからないため、挙手や名前をいうなどのルール化の共有も必要との意見があげられました。 娯楽では、人と直接会えないストレスを感じる一方、健康のために散歩をする方も多く、近所の新たな発見につながる楽しみ等の意見があげられました。 ②日常生活に伴う移動について  交通事業者等の声かけ等の変化は特段感じないが、以前よりも丁寧になったという意見もあげられました。 一方、一般の方に対しては、サポートを求めてよいのか躊躇する声やエレベーターでの同乗拒否や譲り合いの雰囲気がなくなったという意見もあげられました。 継続するコロナ禍に備えて  お話を伺う中で感じたことは、新しい生活様式をはじめ様々な環境の変化に皆さんが柔軟に対応されていることでした。 そうはいっても、オンライン利用を考えると、偏りのない発言機会を設けることや参加のための技術的、経済的な支援の必要性、在宅時間が長くなることによる当事者だけでなく、 家族への支援の必要性等課題が残されています。この調査結果が、コロナ禍における新しい生活様式に対応していくための一助となれば幸いです。 参考:インタビュー調査結果 http://www.ecomo.or.jp/barrierfree/report/data/2020_12_corona.pdf 5ページ コロナ禍での困ったこと、工夫に関する調査 実施  新型コロナウイルス感染拡大に伴い普及した、ソーシャルディスタンスの確保、マスクの着用、手指消毒などの感染拡大防止対策は、 コロナ禍における新しい日常のための生活様式として、今後も取り入れていく必要があります。そのためには、この状況を把握していく必要があります。  杉並区障害者団体連合会では、杉並区保健福祉部障害者施策課及び共用品推進機構と共に、そういったコロナ禍において感じた「困ったこと」、コロナ禍ならではの「工夫」、 新しい日常において「良かったこと」、さらには「望むこと」の事例など皆さまからお聞きし、課題や有効な工夫などを共有することで、少しでも不便さを解消できるよう、解決策を多方面から検討していきたいと考え、 コロナ禍におけるアンケート調査を、杉並区障害者団体連合会の会員団体の会員を中心に行いました。 調査結果 概要  調査回答者は、杉並区障害者団体連合会に所属する15の当事者団体並びに、杉並区障害者会館の利用者、各種イベント参加者等、合計204名、期間は令和2年8月から10月までの3か月間で行いました。 障害種別では、知的障害関連が74名、聴覚障害が30名、視覚障害が29名、肢体不自由28名、失語症9名、高次脳機能障害7名、難病4名、精神障害3名、その他と無回答が19名でした。 今回の設問である「困ったこと」、「工夫したこと」、「良かったこと」、「望むこと」に対するコメントは、大きく3つの項目に分類できました。 (1)感染予防について  多くの人が、マスクが必要な時に購入できなかったことをあげています。マスクをしないと外出や買い物ができずストレスをためた人も多くいました。 工夫としては、マスクを手作りする人、マスクをするのを嫌がる子どもに意味や付け方を教えたりといったことが報告されています。 また、耳の不自由な人たちからは、マスクをしている人の話は、口の形が見えないので話している内容が分からないとの意見もありました。 その課題を解決できる透明なマスク、マウスシールドやフェースシールドなどは、ルールによって使わない窓口もあったとの報告もありました。 (2)家の外  多くの人が外出を控えたと答えています。けれども、食料などの必需品などで買い物に行かなくてはいけない時には、 マスク、消毒はもちろん、現金に触らないようにカードで買い物をすませるといった工夫の報告もありました。 (3)家の中  多くなった家の中での時間をもて余す人も多く、運動不足から体重が増えたという人が多くいました。 一方、感染予防に注意を払いながら、人と接触しないように近所を散歩したり、部屋の中でできる体操を始めたりといった人も多くいることが分かりました。 まとめ  コロナ禍であがってきた困ったことに対して、工夫して解決できること、逆に個人の工夫では解決できないことを、明らかにしていきながら、多くの人が共有できるガイドラインに発展できればと思っています。 現在、今回の調査結果をイラストを入れながらサマリー版を作成しているところです。 星川安之(ほしかわやすゆき) 写真:マスクで困ったことサマリー版 6ページ 特集 教養としての共用品 ご存知ですか? 共用品・共用サービス講座  障害の有無、年齢の高低に関わりなく共に使える製品・サービス(共用品・共用サービス)を、紹介する機会が増えています。 話の内容は、(1)ある人並びに高齢の方々への日常生活における不便さ・良かったこと調査、(2)抽出された課題の解決に向けた検討、 (3)使う側・作る側・中立者が合意した解決策に関する標準化、(4)展示会・講座・機関誌等での普及、(5)その他関係事項です。 講座を聞いて下さる方々  講座やシンポジウムで、共用品・共用サービスを紹介し始めたのは、共用品推進機構の前身である市民団体E&Cプロジェクトが発足してすぐなので、かれこれ30年ほどが経過しています。 企業、大学、行政、障害当事者団体、市民団体、業界団体など、国内だけではなく海外からも依頼が、今でもあります。 講座で紹介する事例  共用品のことを話し始めた30年ほど前は、骨組みだけを懸命に話すのが精いっぱいで、聞いて下さった方に「一生懸命さ」は伝わっても、 「これは、面白そう! すぐに自分でも取り組んでみよう!」には、結びつかなかったように思います。  それが年々、さまざまなところで共用品・共用サービスに関する活動が広まっていくと、「なるほど!」という製品やサービスが生まれてくるようになりました。  講座やシンポジウムでは、その後、骨組みに加えて「なるほど!」の事例を紹介し始めると、「自分の所属している機関でもできる!」と思って下さる方が増えていきました。  事例は、新たに作られたモノだけではなく、共用品の言葉が誕生する以前のものも、含まれています。今回は、その中からいくつか紹介していきたいと思い特集を組みました。 かしわ餅、種類の識別  江戸時代の風俗研究家であった喜田川守貞(きたがわもりさだ)氏(1810~?)が書いた「守貞謾稿」の中に、かしわ餅に関して、 「江戸には味噌餡(砂糖入味噌)もあり、小豆餡は葉の表、味噌餡は葉の裏を出した由。」とあります。  これは、味噌餡と小豆餡のかしわ餅を見て区別することができるだけでなく、目の不自由な人が触って区別ができるのです。つまり、日本には江戸時代から共用品があったのです!  共用品推進機構では表紙に味噌餡とこし餡を載せた共用品のパンフレットを作っています。 2種類のクロワッサン クロワッサン。フランス語で「三日月」を意味しているパンです。フランスでは、2つの油脂、バターとマーガリンが使われています。両端がまっすぐなものは「クロワッサン・オ・ブール」。ブールはバターを意味しています。一方、両端が曲がっている三日月形は「クロワッサン・オルディネール」。オルディネールは、日常の意味があり、マーガリンが使われています。この形の違いは触っても区別できるため、目の不自由な人にとっても貴重な情報です。曲がっている方がマーガリンと覚えておくと忘れません。 7ページ パッケージ 六角は、コアラのマーチ!  岡山県主催で共用品の展示を行った時、全盲の方が「コアラのマーチ、パッケージが六角形なので、すぐわかるんです!」、さらに、「上部の開け口は2カ所あって、左利きの私も、開けやすいんです!」と教えてくれました。 コアラが行進してくるマーチング・バンドのイメージから名付けられたお菓子「コアラのマーチ」は、84年にロッテ(株)から発売されました。六角形のパッケージですが、試験シーズン限定で、合格の語呂合わせで五角形のものも販売されました。 牛乳パックの切り欠き  100%生乳の牛乳紙パック上部に、他の紙パック飲料と触覚で識別するための半円の切り欠きが付き始めたのは、01年12月。 きっかけは、92年に行った「不便さ調査」に寄せられた多くの目の不自由な人たちの声でした。市民団体で検討した結果は、農林水産省等の関係機関にバトンが渡り、実現に至りました。 包装・容器の日本産業規格(JIS)にも掲載されています。JISは強制的なものではありませんが、キャップ付きのものにも、しっかり半円の切り欠きが付いています。 ゆかりの点字、2カ所の訳  70年に三島食品(株)から発売されたふりかけ「ゆかりR」は、01年にパッケージ上部に点字で「ゆかり」と表示されました。 しかし、切り取ってしまうとわからなくなるとの声から、04年に右側部分にも点字で「ゆかり」と表記されています。  現在のところゆかりの商品にだけ表記されていますが、その他の商品へも順次検討を進めているとのことです。 また、16年以降のパッケージの角は丸みが付き、角にあたっても痛くないようになっています。 ワインの点字、発案者は?  日本リカー(株)から販売されているシャプティエのワインのラベルには、点字で商品名と生産者名が書かれています。 M.シャプティエ社はフランスのローヌ地方にあるエルミタージュという地区にあるワイナリーで、同じエルミタージュに畑を所有していたモーリス・モニエ・ド・ラ・シズランヌ氏は、点字の短縮版を発明した人物でもありました。 彼に敬意を表すとともに、障害を持つ方々すべてのワイン愛好家にワインを届けたいという思いで点字表示がされています。 8ページ 触ってわかる 電話の数字の位置  電話は1926年、番号を入力するだけで相手にかかる自動交換方式が始まりました。最初の番号入力はダイヤル方式、目の不自由な人には、数字を探すのに時間がかかる不便さがありました。 そのためダイヤル中央に3、6、9を凸線で示す盤の取り付けが70年に開始され、目の不自由な人の不便さが緩和されました。一方、時代は技術の進歩によりアナログからデジタルへ。 69年にダイヤル式からプッシュホンへと移行が始まり、82年、プッシュホンの5番ボタンの上に凸点が付けられました。 カセットテープの録音時間  91年、共用品推進機構の前身の市民団体E&Cプロジェクトは、目の不自由な人の家庭を二人一組で訪問、日常生活での不便さや工夫を聞き、定量調査につなげました。 訪問調査がきっかけで生まれたのが、ソニーの触って録音可能時間が分かるカセットテープ(HF‐BTシリーズ)です。A面に凸点を付け、右下に60分は▼、120分は▲というように、 時計の文字盤に対応した数字の位置を、凹の二等辺三角形で示しています。当時、この工夫を追従する他社も現れました。 カバーのない秤  東京高田馬場にある日本点字図書館には、用具事業課があり、数多くの盲人用具を販売しています。 目の不自由な人たちの不便さの一つが、凹凸の無い文字や図を読むことです。文字は、点字や音声の本になり同館から貸し出されています。  用具の中では、各種秤の目盛りの部分に工夫が必要です。目盛りと針を触るために、まずはカバーをとり、目盛りの部分に凸点を付けました。 さらに測定した時の針の位置を止めておく工夫もされました。この工夫は、体重計にも応用されています。 自転車の鍵  自転車の鍵は、錠前にさして開けるタイプが主流で、問題は鍵を失くした時です。自転車屋に相談すると、鍵なしの錠前を勧められました。 2列×5段の凸状のボタンが数字の表示と共に付いています。4桁の暗唱番号が付与されていて、その数字のボタンを押して凹ませると、鍵が開く仕組みです。 元の状態に戻す時は、ボタンが飛び出た裏側に指を入れ、裏側から押します。  購入から、既に6年たちますが、紛失の苦い思いからは、解放されています。 9ページ 日用品 楕円傘の背景  この「楕円傘」と出会ったのは20年前、イタリアのミラノの、盲人協会の盲人用具店でした。開いてみると大きな傘のさらに1・5倍、しかも楕円。 驚く私に店員さんが「盲導犬ユーザーが傘をさす時、真ん中でさすと両方とも片方ずつ濡れてしまうためこの傘を開発した」と説明してくれ、すぐさま購入。 同行してくれたミラノの日本貿易振興機構の職員も「海外からの要人をエスコートする時に便利!」と購入、盲導犬ユーザー用に開発された楕円傘は、国際交流にも役立っています。 炊飯器、指一つで60年  1960年、台湾の大同股有限公司で生まれた炊飯器。発売当時から嫁入り道具として定番中の定番で、60年間で約1600万台以上が出荷され、 台湾の家庭や、海外に留学、赴任している家庭で毎日「さまざまな仕事」をしています。今風に言えば「多機能型料理調理器」、お饅頭や小籠包を蒸したりふかしたり、ゆで卵、煮物などもできます。 しかも、正面やや下にあるボタンを指一本で下げればスイッチが入り、さまざまな仕事をこなしてくれます。 マスクでの工夫いろいろ  コロナ禍の初期、マスク不足が深刻化しました。以前マスクといえば何度も洗って使える布製でした。 学校が休校となる中で、家での時間を利用し、500枚もの布マスクを手作りし、高齢者施設に寄付した小学生がマスメディアで紹介されました。  アメリカでは、聴覚障害の友人が通常のマスクでは口の形が分からず会話が困難と知り、口の部分を透明シートにしたマスクを女子大生が作ったそうです。 緊急事態の中でも、貴重な工夫が生まれています。 片手でネクタイの選択  種類も結び方も多様なネクタイですが、片手が不自由だと、選択の幅が狭まるのでは?と疑問が浮かび、コロナ禍以前、数軒の百貨店を訪問しました。  一軒目には「片手で装着できるネクタイコーナー」があり約20本が並んでいました。次の店では、種類は多いものの片手のコーナーはなく、 店員さんに尋ねると「ここに並んでいるどのネクタイも片手で装着できる仕様に改良することができる」との答えが戻ってきました。ネクタイも、多様な人のニーズに沿っているのが分かりました。 10ページ 玩具 メロディボール  1980年9月トミー工業(現タカラトミー)に、障害のある子どもの玩具の研究・開発を行う部署が新設されました。 発足初年度は、多くの子どもたちに接した結果、誰もが遊べる万能なおもちゃを開発するのは至難の業と頭を抱えました。 二年目からは目の不自由な子どもに対象を絞り、公的な機関から紹介された20軒のお宅を訪問しました。20軒とも「しばらく音が鳴っているボール」を希望。 30秒鳴るICチップ「勝利の唄」を入れたタオル地のボールは、2年間で約3000人の手に渡りました。 バックギャモン  メロディボールを企画したトミー工業のメンバーは、家庭訪問を繰り返すうち、目の不自由な大人の人から「自分たちはウィンドショッピング」をすることが困難なので、自宅で楽しめるゲームがもっとあったらとの希望を聞きました。 将棋、囲碁、トランプは、既に盲人用があるため、西洋双六であるバックギャモンがやってみたい!の声から、相手と自分の駒を八角と丸にし、触って分かるようにしました。 マス目には棒を立て、触っても駒が隣のマス目に行かないようになっています。 点字付きウノとトレイ 点字付きのトランプは、日本点字図書館の創始者である本間一夫さんが、市販のトランプに一枚一枚点字をうち、販売していたと聞いたことがあります。 他のカードゲームにも点字を付ければ、目の不自由な人も一緒に遊ぶことができます。 トミー工業では、人気のカードゲーム「UNO」に点字を付けると共に、複数のカードを重ねておくためのトレイを木で作成しました。 バックギャモンとトレイを木で生産してくれたのは、東京練馬区にある旭出生産福祉園です。 盤ゲーム版 テトリス  日本玩具協会では、90年から障害の有無、年齢の高低に関わりなく共に遊べる玩具を、共遊玩具と称し、その普及に努めています。目の不自由な子どもたちが共に遊べる玩具のパッケージには、盲導犬をデザインしたマークが表示されています。そのマークが表示された第一号がこのテトリスです。テレビゲームのテトリスを対戦型の盤ゲームにしたもので、目の不自由な人にモニターをしてもらいながら、中央が分かるように凸点を付ける、表示を平面から凹みにするなどの工夫がされています。 11ページ カード ご不在連絡票  視覚障害者への調査で、自宅ポストに入ってくる紙が急を要するお知らせか、広告かの区別がつきにくいという声が多くあがりました。  3月11日現在、東京では緊急事態宣言が発令されており、宅配の需要が高くなっています。  黒猫のキャラクターで知られるヤマト運輸は荷物の届け先が留守の際、ポストに入れる不在連絡票には、97年8月以来、両側面にそれぞれ▲の刻みが二つずつあります。 横から触ると猫の耳と分かり、目の不自由な人たちにも、貴重な情報を伝えています。 プリペイドカード  市民団体E&Cプロジェクトが発足した91年頃は、公衆電話、電車の切符等に利用するプリペイドカードが全盛期を迎えつつある時期でした。 各カードは表裏、挿入方向が決まっていますが、それらを示す矢印は印刷されているため、視覚障害者には識別できず、改札口にテレホンカードを差し込むなどの不便さがありました。 E&Cではカード班を発足、電話は半円、交通系は三角、買い物系は四角の切り欠きを提案、その後、共用品分野の日本産業規格(JIS)第一号となりました。 会議用レッドカード  サッカーでは、選手がルールに著しく反していると審判は、警告のイエローカードか、退場を意味するレッドカードを示し、一時試合を止めることができます。  10年ほど前、ブリュッセルにある知的障害関連の機関を訪問した際、赤と黄に緑を加えた3種類のカードを紹介されました。サッカーではなく、各種会議で使用します。 発言者の言っていることが分からない時には赤、ゆっくり話してもらいたい時には黄色のカードで示します。サッカーと異なるのは、分かりやすい話に示す「緑」があることです。 熱い!を伝える  30年前当時、筑波技術短期大学で、聴覚に障害ある学生にデザインを教えていた松井智(まついさとし)助教授は、誰もが認めるアイディアマンでした。 聴覚障害の不便さを理解してもらうため、マンガの吹き出し部分の文字を赤色で印刷しました。そこに赤の透明シートをかざすと文字が消え、音がない状態を想像できます。  そんな松井さんが、レストランで見つけたのが、熱い鍋の柄に付いてきたこのカード。「熱いので注意」がイラストで示されています。これなら、聞こえない人にも分かる!と教えてくれました。 12ページ いろいろ 2センチの段差  バリアフリーの法律が整備され、多くの場所で、段差がなくなっていますが、段差を国のガイドラインで定めている場所があります。 それは、横断歩道手前の歩道と横断歩道との段差です。その段差は2センチと決まっていますが、国が勝手に決めたわけではありません。 車椅子使用者にとっては、段差はない方が良い、けれども白杖を使用する視覚障害者にとっては、段差がないと歩道と車道の区別がつかない。 お互いの安全を守るために検討を重ねた結果が、車椅子で乗降でき、白杖で識別できる2センチなのです。 左右兼用のトランプ  複数のトランプカードを右利きの人が、左手で扇形に広げると数字とスート(????)は見えます。しかし左利きの人が右手で扇形に広げると、数字とスートは消えてしまいます。 これは、数字とスートがカードの左上と右下の2カ所しか印刷されていないためです。左利き用に右上、左下にだけ印刷すると、右利きの人には使いづらいものになります。 両者使いやすくするためには、カードの四隅に数字とスートを印刷することですが、一度決まったことを修正するのは、大仕事となります。 喋る「塩・胡椒入れ」  各地の各種公園、スタジアムなどで週末行われているフリーマーケットには、さまざまな人がブースを出し、自分では使わなかったモノ、使ったけれど使わなくなったモノ、中古、新品などを安価で販売しています。  一般製品を共用品化するヒントになるモノに、そこで出会えることがあります。共用品推進機構の共用品展示室で人気の「食卓用の塩と胡椒入れ」も、フリマで探してきたものです。 それぞれを持ち上げるとスイッチが入る仕組みで「私はお塩」、「私は胡椒」と喋ってくれます。 家電製品のデータベース  高齢者や障害のある人に配慮された家電製品は、(一財)家電製品協会のホームページで見つけることができます。 AV・情報家電(映像・音響・通信)、キッチン家電(調理・洗浄)、家事家電(洗濯・掃除)、空調・季節家電、美容・健康家電、照明・住宅設備・その他の6分野に分かれ、 同協会が作成したガイドラインの6つの配慮項目のどこに当てはまっているかが分かる仕組みになっています。 定期的に各社担当者がリニュアルしているので、常に最新の機種とその配慮点を知ることができます。 家電製品協会 http://www.aeha.or.jp/ud/ 13ページ 共用品・E&C E&Cプロジェクト  91年4月、日本点字図書館3階の集会室に、年代、業界、職種も異なる20名が集まりました。 その後定期的に会合を重ね、障害の有無、年齢の高低に関わらず共に使える製品・サービスを「共用品・共用サービス」と名付け、その普及に尽力しました。  障害者・高齢者の日常生活での不便さを調査し、課題を検討、合意した解決案を規格化しました。 それらの結果と過程を、展示会、シンポジウム等を通じて社会に伝え、99年発展的に解散、財団法人共用品推進機構として、再スタートをきりました。 バリアフリーは銀座から  E&Cプロジェクトと共用品推進機構は、93年、95年、97年、00年の計4回、東京銀座のソニービルで活動報告会を行っています。  そのうち97年に行ったのが、銀座界隈14カ所の企業等と連携した「バリアフーは銀座から」です。共用品・共用サービスに関する調査や規格を紹介し、展示。  さらにコンサート、シンポジウム、各種体験などのイベントも開催し、規模の大きい報告会となりました。2週間の会期中、約20万人が訪れ、多くのマスコミにも報道されました。 共用品とアクセシブルデザイン  共用品という言葉は、E&C発足当初、共用デザイン、共用製品などと言っていましたが、会合が進むうちに「共用品」に定着し、より多くの人が共に利用しやすい製品・施設・サービスと定義されました。 その後、共用品関連のJISを国際規格にするきっかけとなった国際標準化機構(ISO)から発行されたガイドで、共用品はアクセシブルデザインと訳されました。  さらに18年発行の広辞苑に、「障害の有無や身体特性に関わりなく誰もが利用しやすい物品」の語釈で掲載されました。 【参考文献】  29の「共用品の教養」ご存知ですか?を、お読みいただきありがとうございました。今後も毎号、いくつか紹介していく予定です。皆さまからの情報お待ちしています。 今回紹介するにあたり、次の文献を参考にしました。 ・(株)ロッテHP ・(一社)JミルクHP ・三島食品(株)HP ・『バリアフリーの商品開発』 ・『バリアフリーと広告』 ・『共用品白書』 ・(一財)家電製品協会HP ・(株)タカラトミーHP ・日本経済新聞 ・『ゲームガイドブック』 ・広辞苑(第七版) ・高齢者住宅新聞 ・シルバー産業新聞 ・日本点字図書館HP ・共用品推進機構HP ・福祉介護テクノプラス 14ページ キーワードで考える共用品講座第121講「共用品の基本を知る意味」 日本福祉大学 客員教授 後藤芳一(ごとうよしかず) 1.基本を知る意味(一般論)  基本を知ると応用がきく。「基本」→「応用」の関係は次のようになる。①なぜ生まれたか→生まれたものが背負う性格や意義が分かる(例:法令)、②定義→回りの環境や組合せが変わっても本来の意味が分かる(例:語義)、 ③包含関係→包まれる側のものは、自動的に包む側の性質を持つ(例:シャンプー容器は共用品に含まれる)、④歴史や流れ→先を予想できる(例:市況)、⑤因果関係→原因・結果の一方が分かれば他方が分かる(例:気候と季節)、 ⑥目的→手段と分けられる(例:持続と利益)。身を縮めることで飛躍する、冬を経た蕾が花になる。 2.ご存じですか(共用品の基本)  身近なことから順に拡げていこう(名称は当時のもの)。 (1)共用品と福祉用具(広義)  福祉用具(広義)の市場規模(X)は、福祉用具(狭義)(A)と共用品(B)の市場規模を合わせたものである。前者は日本福祉用具・生活支援用具協会(JASPA)、後者は共用品推進機構が公表している。 両者は4品目〈温水洗浄便座、乗用車、バス(低床)、ホームエレベータ)(C)〉が重複する。よって、X=A+B-Cであり、2017年度は42,083=15,107+29,744-2,768(億円)である。 (2)市場規模と福祉用具産業  市場規模は産業のバイタルサインである。通商産業省が福祉用具産業政策を始めるに際し、市場規模を定義した。 通産省機械情報産業局「福祉用具産業懇談会第2次中間報告」(1997年)で福祉用具(狭義)(車いす、介護用ベッドなど)の範囲を示し、市場規模を公表した。 同第3次中間報告(98年)では、福祉用具(狭義)の周辺領域に共用品を充てて、福祉用具(広義)を定義した。以後、この定義に基づいて、両組織から市場規模が公表されている。 (3)福祉用具産業政策と福祉用具法  福祉用具産業政策は、福祉用具法(福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律)のもとで始められた。福祉用具法は通産省と厚生省によって93年10月に施行された。 旧薬事法(医療機器や医薬品を対象)が規制法であるのに対し、福祉用具法は振興法である。共用品の市場規模は、こうした手順で定義された。 (4)福祉用具法とバリアフリー関連法  福祉用具法を契機に、バリアフリー関係の法律の整備が進んだ。ハートビル法(高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律)(建設省、94年9月施行)、 交通バリアフリー法※(高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律)(運輸省、00年11月同)、改正ハートビル法※(国土交通省、03年4月同)、 バリアフリー法※(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)(06年12月同)である(※は措置や義務規程があるもの)。 (5)バリアフリー関連法と障害者差別解消法/国連障害者権利条約  一連のバリアフリー関連法の整備によって物理的障壁の除去が進んだ。国連障害者権利条約(障害者の権利に関する条約)が発効(08年5月)し、 日本は批准する準備として障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)(16年4月同)を制定した。 同法は、社会的障壁を取り除くために合理的配慮を求める(国等は義務、民間事業者は努力義務)。物理的障壁は社会的障壁に含まれる。日本は障害者権利条約を14年1月に批准した。 3.ご存じですか(共用品の概念の発展)  「ノーマライゼーション」(59年、北欧)→「バリアフリーデザイン」(74年。国連)→「インクルージョン」(94年、UNESCO)→「アクセシブルデザイン」(00年、ISO)と進んだ。 日本は「グレーの部分」(82年)→「共用品」(91年)を唱えて主導した。「ユニバーサルデザイン」(90年頃、米国)、「デザイン・フォー・オール」(欧州)の用語もある。機構は共用品を「思想」と位置づけた(11年)。 15ページ 『目の不自由な人をよく知る本』合同出版より発刊  1月20日、表題の書籍が合同出版から発行され、多くの公共図書館、学校図書館に届いています。A4版、オールカラーで104ページのこの本は、 1章が目の不自由な人のくらしのくふう、2章が生活と道具、3章が子どもの教育、4章が社会、そして5章でバリアフリー社会となっています。  題名の「よく知る」から、発行元の思いが伝わってきます。  その思いに対して、筑波大学附属盲学校で長年、目の不自由な子どもたちへの教育に従事し、その後、宮城教育大学で教師を目指す学生を指導されてきた猪平真理(いのひらまり)さんと、 長年、視覚障害当事者分野の向上に尽力されてきた日本点字図書館の理事長、田中徹二(たなかてつじ)さんが監修として協力されています。 アンケートから  この本の出発点は、視覚に障害のある人たちへのアンケート調査でした。  生まれつき全盲の人からは、家の中で聞こえるお母さんのスリッパのパタパタという音の違いで、機嫌の良しあしが分かることや、壁沿いに歩いていて開けた感じがすると交差点に出たことが分かること。 また、中途失明の人からは、見えているときは、『さわる』ことでしかなかった手が『見る』役目もはたすようになったといったアンケートが寄せられ、そんな生の声がこの本の冒頭に紹介されています。  はじめに当事者の声を聴くことで、目の不自由な人イコール〇〇のような、画一的な思考が払拭でき、1章の「目の不自由な人のくふう」が、まっさらになった頭に気持ちよく沁みこんでいきます。  冷蔵庫の収納では、みそ、ドレッシング、チーズ、作り置きおかずなど、どこに何をおくかを決めている。 なじみの美容師は、好みや生活パターンを理解してくれていて、髪の毛の状態や色の変化も指摘してもらえる信頼関係を大切にしている。  家電製品店に行く際には、前もってインターネットで欲しい製品のことを調べていくと、さらに深く広い情報を店員さんが教えてくれる。 手に刺さった棘をクリニックで抜いてもらったら、ぬいた棘を紙の上にのせてテープを貼って、上から触らせてもらった経験がある……などなど。 読んでいるうちに、他の場面でも使えそうなアイディアが次から次へと頭の中に浮かんできます。  今さら聞けないことも  2章の「目の不自由な人と道具」では、さまざま場面での福祉用具や、共用品が紹介されています。冒頭のページでは、「家の中では白杖なしでOK」とのキャッチコピーと共に、 「家の中ではどこに何があるかをおぼえているので白杖がなくても大丈夫」とその理由が書かれています。  この本の特徴の一つは、笑った顔の犬と困った顔の犬にセリフを言わせているところです。  お札の識別の場面に登場する困った顔の犬は、「ほとんどの目の不自由な人は、長さの違いでお札を見分けている。触るだけで分かるか確かめてみよう」と、読者に問いかけています。 社会モデル  題名に「よく知る」とあるのは、読み終わるとよく理解できます。目の不自由な人の生活のコツは、多くの人にヒントになります。 困った犬、笑った犬には、立ち止まって考えるチャンスをもらえます。多くの人に読んでいただきたい一冊です。 星川安之 写真1:『目の不自由な人をよく知る本』 写真2:笑った顔の犬(上)、困った顔の犬(下) 16ページ となりのおばちゃんとして 【事務局長だより】星川安之  数年前、東京上野にある東京文化会館から、従業員向けに、来館される障害のある人、高齢者に対しての応対マニュアル作成の依頼があった。 現場に出向き舞台から観客席を見ると、椅子の席の色が複数あり、しかもランダムに異なる色が配置されているため、誰もいない観客席ではあるが、舞台上から見ると、あたかも多くの人が入っているように見える。 担当者に聞くと、お客さんが少ない時でも演奏する人たちの気分が萎えることがないようにという工夫とのこと。 さらに聞くと、来場者のみならず演者にも思いを向けられる施設では、ハード面だけでなく人的応対でも、障害の有無、年齢の高低に関わらず多くの工夫が行われているとのこと。 しかし、残念なことにその工夫を、役職員全員で情報共有はされていないとのことだった。当初の依頼であった応対マニュアルのもとは既にそれぞれの職員の中にある。 そのため一人一人の中に秘めたマニュアルを、一度オープンにしてみるのはどうかとなり、全職員に向け、来場者に喜ばれたことに関するアンケートを実施した。 「桜の時期になると、『桜はどこで咲いていますか?』の質問があり、同館の来場者ではないけれど、せっかく上野にきてくださった方のためにと、いつも答えられるようにしています」から始まって、 開演前に客席をまわっていると「少し寒いわね」とお客さん同士の会話が聞こえたので、よろしかったらと毛布をお持ちしたら、びっくりされながらもとても喜ばれました」などなど、多くの良かったが上がってきた。 それら一つ一つのエピソードに、共用品推進機構の各種パンフレットの構成を担当してくれていた小松昌樹さんがあたたかなイラストをつけてくれた。 それは東京文化会館“流”おもてなしエピソード『アンサンブル』という題名の小冊子になり全職員に配布された。 26あるエピソードの中で一つだけ注意書きが付いているものがある。 それは、「白杖を使用されているお客様をお出口に案内する際、『21時を過ぎると上野駅公園交差点の青信号のメロディが鳴らなくなるのでとっても怖いんです』と伺いました。 一瞬迷いましたが、お客様と一緒に信号を横断し、改札の点字ブロックまでご案内いたしました。『本当にありがとう。また何度でも来ます』と言って下さいました。(ホール案内)」に対して、 囲みで「本来、ご案内は館内限定ですが、状況によっては『一人の人間として』お手伝いするケースも出てきます。責任者への連絡と安全の確保には充分注意しています」との注意書きである。  先日、ある自治体で、生活困窮者の相談にのり支援する役割の民生委員へのアンケートを見る機会があった。 14年続けている人から良かったこととして、「民生委員になる前よりも、いい意味でおせっかいになったこと」とあり、工夫したことには「民生委員は、ここまでやらないこととか、やっちゃいけないことなど、何回かありましたが、 これは『おとなりのおばちゃんとして!!』と言って、やって差し上げました。」とあった。前述の注意書きの解決方法は、とても身近なところにもある。 共用品通信 【イベント】 心の目線を合わせる『ゆうこさんのルーペ』(1月29日) 心の目線を合わせる『人は見た目!と言うけれど』(2月5日) 【会議】 第2回TC173/SC7国内検討委員会(1月25日) 第2回TC159国内検討委員会(1月26日) 第2回AD国際標準化委員会(本委員会)(2月4日) コロナ禍での不便さ報告 杉並区障害者団体連合会にて(2月25日) 【講義・講演】 筑波大学インクルーシブ・リーダーズ・カレッジ(1月14日、星川) 早稲田大学(1月16日、星川) 千代田区立九段小学校 共用品授業(2月3日、森川) 【報道】 時事通信社 厚生福祉 1月12日 『ゆうこさんのルーペ』 時事通信社 厚生福祉 2月19日 集合住宅の広報誌 時事通信社 厚生福祉 2月26日 キリンの食事時間 トイジャーナル 2月号 『障害者とともに働く』 トイジャーナル 3月号 絵本『てん』からのメッセージ 福祉介護テクノプラス 2月号 障害を知る本 福祉介護テクノプラス 3月号 共用品展示室 福祉介護テクノプラス 4月号 コロナ禍での課題と工夫① 高齢者住宅新聞 1月6日・13日 バイキングでの感染対策 高齢者住宅新聞 2月10日 障害がある人へ説明するとき シルバー産業新聞 1月10日 『障害者とともに働く』 日本ねじ研究協会誌 2月 その9 点字 アクセシブルデザインの総合情報誌 第131号 2021(令和3)年3月25日発行 "Incl." vol.22 no.131 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2021 隔月刊、奇数月25日に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電 話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:https://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 編集長 星川安之 事務局 森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、田窪友和 執筆 後藤芳一、竹島恵子 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙作成 関戸菜美  本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。 その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。  上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。