インクル136号 2022(令和4)年1月25日号 特集:研究と共用品・共用サービス Contents 第22回共用品推進機構活動報告会 報告 2ページ 研究の『定義』について 4ページ 作業療法と自立支援機器 5ページ 福祉工学から共用品へ 6ページ 私のアクセシブルデザイン研究 7ページ 音響工学と共用品・共用サービス 8ページ 人間工学と共用品・共用サービス 9ページ モビリティと共用品・UD 10ページ 概念定義と共用品の市場規模 11ページ キーワードで考える共用品講座第126講 12ページ ご存じですか? 13ページ 国際福祉機器展 日常生活支援用品コーナー報告 14ページ 令和3年度千代田区「障害者週間」記念理解促進事業 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 2ページ 第22回共用品推進機構活動報告会 報告  2021年12月15日(水)、第22回共用品推進機構活動報告会をオンラインで開催しました。 2回目となるオンライン報告会には約70名の法人賛助会員の皆様にご出席をいただきました。 はじめに、富山幹太郎(とみやま かんたろう)理事長が開会のあいさつを行い、 続いて星川安之(ほしかわやすゆき)専務理事が令和2年度の活動報告と3年度の進捗について報告を行いました。 二つの講演のテーマは「多様性」 今年度のオンライン活動報告会は、「多様性」をテーマに、先般閉会した「パラリンピック」と、 多くの機関が力を注いでいる「STEM」を中心にご講演をいただきました。 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会パラリンピック統括室長代理の仲前信治(なかまえしんじ)様からは、 「活力ある共生社会の実現を目指して~東京2020パラリンピックを通して~」と題して講演をいただきました。 講演の内容は『インクル』135号の内容をさらに詳しく実体験を踏まえながら、多くの写真や事例を用いてわかりやすくご報告いただきました。 パラスポーツの魅力を感じられる内容となりました。 東京大学先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎(くまがやしんいちろう)様からは、 「インクルーシブなSTEM研究環境の構築~誰ひとり取り残さないインクルーシブな環境を~」をテーマにご講演をいただきました。 当事者研究の重要性をわかりやすく研究事例を用いて説明されたり、「問」を立てて参加者が共に考えていけるような構成にしてくださったりして、有意義な講演となりました。 閉会では、望月庸光(もちづき のぶあき)理事と森田俊作(もりた しゅんさく)評議員がそれぞれ講演者の方々、法人賛助会員の皆様に向けてあいさつを行いました。 「法人賛助会員等活動報告 ウェブサイトで展開」  今年度の法人賛助会員の活動報告はウェブサイトにて期間限定で行いました。 時間の制約を受けずいつでもアクセスできる状況での公開は好評でしたので、今後は個人賛助会員をはじめ、多くの関係者の方々にもご覧いただけるようにウェブサイト(ページ)を作成したいと考えています。 写真1:仲前様の講演の様子 写真2:熊谷様の講演の様子 写真3:法人賛助会員等活動報告のウェブサイト 4ページ 研究の『定義』について NPO支援技術開発機構理事長 山内繁(やまうちしげる) ベルモント・レポートの衝撃  「『研究』という用語は、仮説を検証し、結論を導き出すことを可能とし、それによって、一般化可能な知識を開発したり、そのような知識に貢献したりするように考案された活動を意味する。」 前記は、アメリカにおける被験者保護の研究倫理の基本原則を確立したベルモント・レポート(1979年)において、診療と研究とを区別するために定めた研究の「定義」である。  この定義を初めて読んだとき、非常な衝撃を受けた。それまで私の従事してきた「工学研究」においては、予備実験の終了時において結果が「一般化可能」であることは当たり前すぎることであり、「検証」は理論的考察によっていたからである。  しかし、よく考えてみると、生物医学研究や社会科学の研究においては観測された事実がそのまま一般化可能であるとは限らない。特定の個人や集団のみに見られる現象であるかもしれないからである。 被験者保護のためのベルモント・レポートの原則  ところで、ベルモント・レポートというのは、アメリカにおける被験者保護のための原則として、人格の尊重、善行、正義の三つの原則を定めたものである。 この原則は、大統領の諮問機関である「被験者保護のための国家委員会」がボルチモアの南西約12kmにある「ベルモント・コンファランス・センター」における集中審議で決定したものである。 アメリカのみならず、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの他、世界医科学団体協議会による国際倫理指針の基本原理としても採用されている。 EUの指針も表現に多少の相違はあるが同様の原理に基づいて構成されている。  ところが、日本政府の指針(人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針:2021)には、そのような原理が明示されていない。 順守すべき事項が、守るべき主体・要件を中心として分類されているが、何らかの原則に基づくことなく列挙されている。 原理・原則への志向  日本政府の指針に原理・原則が明示されていないことは、日本人の思考の中に「一般化可能性」への志向が弱いことを示しているのではないかと感じる。  より一般的な原理や原則を追求する代わりに、ケーススタディや事例報告、記述的観察研究で事足れりとしている例が多すぎる。 このことは、最近の介護ロボット関連の「実証試験」の報告書を見た時にしばしば痛感するところである。これで「実証」できたと考えるのはどのような頭の構造をしているのかと疑いたくなる。  事例報告や記述的研究が不要だと言っているのではない。これらは、新規の事実や規則性の発見を導くためには不可欠の作業である。  「検証」の最終段階が推測統計学による「仮説・検定」であるとすると、これらの観察研究は「仮説創出」にあると位置づけられる。最近流行の「質的研究」も同様である。  しかし、このようなレベルにとどまっている限り、高いレベルのエビデンスを得ることも、将来の発展性への展望を切り拓くこともできそうにない。設定した仮説は検証が求められる。  ひょっとすると、小学校の理科、社会科の「自由研究の宿題」以来、注意深く「観察」することが強調されてきた。 それはそれで大切なことではあるが、観察にこだわることが研究であるとの固定観念が刷り込まれてしまっているのかもしれない。  単なる観察にとどまらず、その結果の一般化と、より高度の立場からの意味付けを考えることを習慣づけたい。 5ページ 作業療法と自立支援機器 大阪河﨑リハビリテーション大学 副学長 寺山久美子(てらやまくみこ)  「作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。 作業とは、対象となる人々にとっての目的や価値を持つ生活行為を指す」。  日本作業療法士協会は、作業(occupation)=生活行為の内容として、図1のような5つの花びらに表現した。「人は作業をすることで元気になれる」は作業療法の根底にある言葉である。 このような作業活動ができなくなったとき、できなくなりそうなときに、できるようにするために、寄り添って技術を提供して専門的な介入をすることが作業療法である。作業療法士が提供する自立支援技術としては、 ①対象者の「できない」を「できる可能性があるか」評価し、「できる」まで学習を促し、生活の中での定着を行なう、②代償機能を使うなど方法を変えて学習を促す、③自助具・福祉用具・共用品を導入する、 ④生活環境整備を行う、⑤「できない」部分に対しては人的物的介護導入を提案する、⑥疾患・障害により異なる特性を配慮した自立支援プログラムを提案する、などがある。 サリドマイド児への電動義手訓練からの学び  サリドマイドは1950年代末から60代始めに、世界の十数カ国で販売された鎮静催眠薬で、妊娠初期に服用すると、胎児の身体に奇形を起こす。 「サリドマイド薬害事件」であり、日本では数千人の胎児が被害にあい、これにより生存した309人の被害者が認定されている。 この薬は1962年販売停止にされ、国は被害児達の幼児期から、手術、義手の開発、就学問題を約束した。筆者は、彼らの幼児期から義務教育終了頃までリハビリテーション施設に於いて係わった。 まずは、「義手の開発と訓練」であった。国からの全額支給による電動義手(図2)を使った日常生活訓練は、 結果的には「重くて、訓練場面だけの用具」に終わり、彼らの生活場面では、残存する足、口、顎等を代償的に器用に使った方法を自分で見つけ、実用性に繋げていった。 電動義手は進歩しているが、その機能は未だ部分的である。「代償機能も含めた生活行為」を見極める事を彼らから学んだ。 その後、彼らの発達段階の節目毎にフォローアップしたが、中学入学前訓練では学校でのトイレ、生理の始末、制服の着脱、足指による教室での学習等を、 代償等による方法の変更や自助具の導入等による方法を彼らと話し合いながら開発していき、自立に繋げ、普通校への入学を果たしていった。  生活行為の自立手段の答えは対象者の日々の生活にある。作業療法士は、対象者に寄り添い、疑問を共有し、解決策を話し合いながら見つけていく人と理解して欲しい。 作業療法士は多くの自立支援機器を考え治療訓練に導入するが、それは「できる」から「実際の生活場面でしている行為」になることを究極の目標にしている。 図1:作業療法士の仕事 図2:サリドマイド児への電動義手訓練 6ページ 福祉工学から共用品へ 東京大学名誉教授、北海道大学名誉教授 伊福部達(いふくべとおる)  私が福祉工学を本格的に始めたのは1972年頃なので、それから半世紀が経った。本稿では研究を始めた初期の話から、なぜ福祉工学を目指したかを述べ、この間に私の想いを著した本を紹介したい。  当時、北大に「メディカルエレクトロニクス(ME)部門」という、電子工学を医療に活かす研究室があった。私はその魅力的な名前に惹かれて、北大の電子工学科にいたときにME部門の門を叩いた。 そこでは人工心肺といって、最近話題の「ECMO」の研究が主流であり、私もそのお手伝いをした。研究所の地下に動物飼育室があり、私は実験に使われるイヌを引きずり出しては麻酔を打った。 イヌの胸を切り開き、大量の血が飛び交う中で人工心肺を血管に繋いだ。人工心肺がどこまで維持するかを調べるため、当然、イヌの最期を看取った。 しかし電子工学の理論を学んでから、血まみれになってイヌと格闘する研究は私には合わないと思うようになった。  修士2年目に入って教授に相談したら、「君は耳が良さそうだから聴覚障害の研究をしたら」と言ったので、研究テーマを変えた。 最初に取り組んだのは、音声を触覚刺激に変えて聴覚障害者の指に与える「触知ボコーダ」という研究であった。 何とか装置ができ上がったところ、NHKテレビが「指で聴いたアイウエオ」(1976年)と題したドキュメンタリー特集で研究を紹介してくれた。 ただ、その時に、折角出来上がっても装置を普及させるには2つの大きな壁があることを実感した。 1つは、本当に触覚を介して言葉が分かるのかという基本的な疑問である。もう1つは、例え役に立つにしても使う人が少数なので、どこの企業も製品にはしてくれないことである。  私は専門を、医療工学から障害者・高齢者を技術で支援する分野つまり福祉工学(Assistive Technology)に変え、2つの壁を超える方法論を築く決心をした。 また、「福祉」は、技術を経済発展に活かす「工学」とは相反することは周知であったが、それらを融合した学問は、将来、出番が出てくると思った。 当時は、安保(日米安全保障条約)反対と叫びながらゲバ棒を持った学生たちが建物を占拠し、研究所も襲われるのではと危機感を抱きながら研究をしていた時代である。  触知ボコーダの次に、マイコンを使った聴覚障害者のための「音声タイプライター」の開発を行った。これは誰もが使える「共用品」であることから大手の企業も関心を示してくれた。 また、最初の著書「音声タイプライターの設計」(CQ出版、1984年)」の出版に繫がり、そこで聴覚・音声の生理学と工学を融合する方法論について述べ、やがてロボットや人工知能に活かされることを書いた。 それからは、私の方法論を実証するために「人工喉頭」、「スクリーンリーダ」、「超音波メガネ」、「音声同時字幕システム」などの共用品・共用サービスに発展させていった。 その過程は拙著「音の福祉工学」(コロナ社、1997年)と「福祉工学の挑戦」(中公新書、2004年)で述べた。 その後、高齢社会を豊かにするための技術・システムの創成を目的としたJST(科学技術振興機構)の10年間(2010~2019年度)プロジェクトを牽引する役を任された。 ただ、それを実現するには福祉工学に加えて、行政や政治の協力が不可欠となることを強く感じた。  そこで、この分野を広く知って貰うために「福祉工学への招待」(ミネルヴァ書房、2016年)を上梓した。 さらに教科書として「福祉工学の基礎」(コロナ社、2017年)を、海外でも認めてもらうために”Sound-based Assistive Technology”(Springer, 2018)を書いた。  半世紀前に描いた夢は道半ばであるが、拙著を読んで私が辿ってきた道をさらに進めてくれる人が出てくれば幸いである。 7ページ 私のアクセシブルデザイン研究 産業技術総合研究所名誉リサーチャー 佐川賢(さがわけん)  三十にして立つとは論語の一節。私も30歳の頃から自立した視覚研究者としての道を歩み始めた。以来、60歳退職までの30年間、ほぼ十年単位で3つの研究テーマに取り組んだ。その最後のテーマがアクセシブルデザインである。 前の二テーマが自主的に選択した課題に対し、アクセシブルデザインは経産省から委託されたもの。言われるまま遂行するのは研究職人であり、私の敬遠するところであったが、しかし皮肉にもこれが私のライフワークとなった。  アクセシブルデザインはニーズ先行型の研究課題。障害者や高齢者の不便さを理解し、技術的に解決する道を探る。最先端の科学技術とは言えないが、社会的意義は大いにある。 そう思っていざこの研究に取り組んでみると、あまり新規性のあるテーマはない。たとえば、私の専門の視覚研究では、高齢者は小さな文字が見えにくいという課題がある。 どのくらいまで読めるかについては、研究は山ほどあるものの、問題はまだ解決されていない。人間そのものを対象とすると、複雑な要因が絡む。詳細な研究を積み重ねても、全貌が見えない。 そこで、大量データに基づく主要因の分析を始めた。だが、やることは視力測定と文字判読の実験という、極めて古臭い研究である。ハイテクも何もない。「いまどき視力計測ですか」と言われた。  それでも研究を続けていると、データの全貌と主要な要因が見えてきた。まとめると、様々な条件の中で高齢者が読める文字サイズが推定できた。ポイントはやはり大量のデータである。 数人のデータでは見えないものが百人では見えてくる。今で言うビッグデータかもしれない。  私のアクセシブルデザイン研究は、基本的には人間特性データの収集。高齢者や障害者の機能を数値化することである。 研究から見ると、同じデータをたくさん集めても芸がないかもしれない。しかし奇を衒う研究よりも着実である。 もちろんこれは一つの進め方であり、華麗な研究は他にもたくさんあるだろう。しかし私はこの芸のない研究をひたすら進めた。  前述した経産省からの委託事業はISO/IECガイド71を研究面から支援すること。まず、人間特性のデータベースを作ることを提案した。 規格ではなく技術資料なので、経産省はやや不満の様子。しかし、良いデザイン規格を推進するには良いデータが必要と説得した。 その後、この技術資料を基に多くの規格が生まれた。もちろん、私だけでなく、聴覚や身体機能の研究グループ全体の成果である。  その研究成果の一部 (感覚機能)とデザインの考え方をまとめたものを最近出版した。「アクセシブルデザイン」(㈱NTS)である(図表紙参照)。  アクセシブルデザインは、研究とは何かについていろいろと考えさせられる。研究は、まず成果を必要としている人がいること。いわゆるニーズ対応である。 当たり前であるが、研究者自身ではなかなか客観的に見えない。本当に役に立っているか、冷静な目が必要である。もう一つは研究もセールスが必要であること。 アクセシブルデザインの研究も、社会に浸透していかなければならない。規格はその手段である。 ゴールははまだ先であるが、今後、アクセシブルデザインの人間工学規格を通して、様々な不便さが解消される日を願う。 『アクセシブルデザイン」表紙 8ページ 音響工学と共用品・共用サービス 早稲田大学人間科学学術院 倉片憲治(くらかたけんじ) 消費生活用製品の報知音  自分でも、ここまで長いことこのテーマに携わることになるとは予想していなかった。消費生活用製品の報知音(お知らせ音)の設計指針の検討である。 高齢者に報知音が聞こえない  私が高齢者・障害者対応技術の研究に取り組み始めた1990年代の中頃、「報知音が高齢者に聞こえない」ことが問題となっていた(日経新聞夕刊、1996年11月2日)。原因は、加齢による聴力低下である。  人は、年を取るにしたがって高音の聴こえが悪くなっていく。そこで、高齢者に聞こえる音の範囲と当時使用されていた報知音の音響特性とを重ね合わせてみたところ驚いた。 あまりに多くの報知音が、高齢者の聞こえない音の領域に入っていたのである。  原因が明らかになれば、解決は容易である。聴力の年齢差が小さい、より低い音に変えればよい。若い人にもお年寄りにも聞き取りやすい報知音になる。 やはり聞こえない報知音  この研究結果はJIS(日本産業規格)にも反映され、周波数の高い報知音を採用した製品は次第に少なくなっていった。そこで私は、「報知音が聞こえない」問題はとっくに解決 したものと考えていた。ところが最近、「報知音が高齢者に聞こえない」と、再び問題視され始めたようである(京都新聞、2019年3月9日)。  理由はよく分からない。かつての聞き取りにくい音が、また使われ始めた訳でもなさそうである。高齢者人口が増えたからか、それともSNSで苦情が拡散しやすくなっただけなのか。(理由をご存じの方、いらっしゃいますか?) 報知音の意味が分からない  報知音にまつわるもう一つの問題は、鳴らされた音の意味が分からない、いろいろなパターンの音があって混乱する、というものであった。 これも家電製品協会と協力して研究にあたり、報知内容ごとに音のパターンを整理して分かりやすい報知音を作成した。  ところが、時が経過すると製品ニーズも多様化し、新しい種類の報知音が求められるようになった。それらを盛り込んだ報知音のJISが10年振りに改正され、まもなく制定される見込みである。 まだまだ続く報知音の研究  私の中ではすっかり〝オワコン〟化していた報知音の設計指針。次々と問題が出てくるところを見ると、「これぞ共用品」と言える報知音を完成させるには、もうしばらく研究を続けなければならないようである。 参考文献:日本騒音制御工学会編「バリアフリーと音」(技報堂出版) 図:JISで新たに導入が検討されている「操作無効音」のパターン(案) 9ページ 人間工学と共用品・共用サービス 早稲田大学人間科学学術院 藤本浩志(ふじもとひろし)  人間工学には人間中心設計という考え方があり、身の回りの機器等を含めた広義の環境整備が重要な課題であり、この考え方はWHOが提唱するICFの環境因子の考え方にも通じると言える。 そのためにまず①人間の感覚特性を人間工学的な研究手法で明らかにし、②その知見に基づいた設計や標準策定を目指すことになる。 JISでは『障害者・高齢者配慮設計指針』シリーズが従来から整備されてきており、共用品の考え方が強く反映されている。 1.触知案内図(JIS T 0922)  図1は勤務先の最寄駅(小手指駅)に設置されている触知案内図である。バリアフリー法の施行と共に多くの駅や公共施設で設置が進んでいる。 墨字印刷に加えて凸形状の触知記号や点字が付されており、このJIS策定の際に委員長として原案作成に関わった。前述の①の研究面を簡単に補足する。 私の研究室では触知覚特性解明の一環として、様々な形状やサイズの触知記号を作成して評価実験を実施してきた。 結果は、見ると触るとでは大違いで、例えば○△□等の記号は墨字印刷であればほんの数mmのサイズでも容易に識別できるが、触知記号の場合は5mmを超えるサイズでも識別が難しいことが判明した。 これらの知見は②の触知案内図のJISで適切な触知記号を定める際に不可欠である。 2.凸記号(ISO24503)  図2は大分前の研究であるが、いわゆるガラケー携帯電話の5キーに付された凸点の高さの効果を評価する実験装置である。 テンキー操作を時系列データとしてパソコンに記録できる装置を自作し、5キーの凸点の高さを4種類の条件で効果を評価した。 親指で各ボタンを押すと、パソコン画面上の対応する輝線にパルスとして現れ、時系列で記録される。手元を見ないで数字列を入力し、エラー率と所要時間を指標として分析した。 結果としては凸点が低すぎても高すぎても操作性が低下し、凸記号には適切な高さがある事が確認できた。 この①の研究成果であるエビデンスを携えて、新たにISOに国際標準として提案することになり、筆者はその提案者として関わった。 標準策定は②のフェーズとなるが、数回の国際投票とコメントへの対応もコンビナの山内繁先生や事務局の共用品推進機構のスタッフの方々のご尽力のおかげで約3年かけて認められた。 この標準では、凸点をスタート、凸バーをストップという原則も定めてあり、身の周りの家電製品でも確認いただけるが、数年前に海外でこの凸記号が付されたシャワートイレを使った際には嬉しい思いがした。 ISOの専門家委員会では、面倒なやり取りも経験したが、北欧の専門家が日本は凸記号の研究データを持っていると言って議論に向き合ってくれたことが大変印象に残っており、②の制定のために①の研究の重要性を改めて実感した。 ところでガラケーはその後に劇的にスマホに取って代わられた。凸記号の有用性は一般家電に対しては変わらず有用だが、現在研究室ではタッチパネルでも使える振動刺激に着目した触知覚特性の活用を目指して①を進めている。乞うご期待。 図1 駅の触知案内図(小手指駅) 図2 5キーの凸点の評価実験装置 10ページ モビリティと共用品・UD 東京大学名誉教授 鎌田実(かまたみのる)  モビリティの分野で共用品やUDが意識され始めたのは1990年代になってからで、特に2000年の交通バリアフリー法の制定から、社会での普及が加速した。 各所に点字ブロックが敷設され、駅などで段差解消にエレベータが整備され、文字表示や音声案内も進んだ。  車両面では、1997年にノンステップバス(低床バス)が登場した。これは当時の運輸省で、 人にやさしいバスの議論がなされていたが、当初は車椅子使用者のためにリフトバスを普及させる議論であったが、 床高が変わらないと高齢者等の乗降性は何ら変わらないため、低床化こそがUDとして重要であると、筆者は各方面に働きかけ、途中からノンステップバスの開発企画になっていった。 低床化は乗り降りしやすいため、乗降時間の短縮にもつながり、バスの定時性維持にも貢献するはずと、被験者実験をやったこともある。 ただ、登場時には、ノンステップバスは福祉対応の特別車との位置づけで、価格も高く普及台数が限られており、2000年頃から、標準化の取り組みを国の事業として実施した。 そこでは、次世代普及型と称して、ユニバーサルデザインを意識して、手すり等の色や降車ボタンの位置などの標準仕様を定めた。 2015年には、2社からはノンステップ一本化も図られ、普及がさらに進んでいる。  タクシーについては、ロンドンタクシーのような車椅子でも乗れる一般タクシーを目指し、国での検討が2回なされた。 2回目では、自動車メーカー2社が開発に乗り気になり、NV200、JPNタクシーといった商品が登場するに至った。 その検討では、車椅子使用者を横から乗せるか、後ろから乗せるかで議論になり、一長一短があるため一本化できなかったが、道路構造や使い勝手の点から選択できるのはよかったとも言える。 UDタクシーが一般化すると、数が少ない福祉限定タクシーではなく、流しのタクシーでも車椅子使用者が使えるようになり、 すべての車椅子への対応は困難なものの、利便性が向上するし、大型やストレッチャータイプの車椅子使用者が福祉限定タクシーを利用できる機会も増した。  公共交通のUD化が進められたとしても、人々の移動のすべてをカバーするのは困難で、マイカー移動が特に地方地域では主流である姿は当面変わらない。 その中で、高齢ドライバの事故の問題が顕在化している。筆者は、近所での下駄代わりの移動具として、超小型電気自動車が役立つと考え、1998年に試作車を作成し、評価を行った。 その後もこの種の車両がもっと使えるようにと、国の超小型モビリティの議論に関わってきた。最近ではこのカテゴリの型式指定制度も整えられ、量産車が登場している。 また、自動運転技術を用いた高度運転支援に関しても、JSTsイノベで10年近く研究開発に取り組んできた。 どんなにIT化が進んでも、移動することが無くなることはない。移動具がさらに進化していくことを望みたい。 写真1:バスの乗降性評価実験 写真2:試作した高齢者向け超小型電気自動車 11ページ 概念定義と共用品の市場規模 日本福祉大学 客員教授・共用品研究所 所長 後藤芳一(ごとうよしかず) 1.定義と市場規模(共用品)  共用品の市場規模は2019年度に3兆638億円、毎年機構が公表している。市場規模を調べるには、何が共用品であるかという定義が必要だ。 そこで、一般製品と専用福祉用具の中間として図のⅡ~Ⅳで定義した。さらにその前に、どの要件を満たすものであるか、という概念の整理を要した。 具体的には「製品の所在の認知性」など6つの条件のいずれかを満たし、かつ、視覚、聴覚、肢体、高齢のうち2つ以上に対応することを要件とした。  これらは通商産業省からE&Cプロジェクトへの委託事業で検討し、同省機械情報産業局「福祉用具産業政策’98」(福祉用具産業懇談会第3次中間報告)(98年5月)に収載した。 2.福祉用具の市場規模(共用品の位置づけ)  福祉用具の市場規模は、通産省による福祉用具産業政策の一環として「福祉用具産業懇談会」が、「福祉用具(狭義)」と「同(広義)」として定義した。 前者(狭義)は専用福祉用具(例:義肢装具、車いす)、後者はその外縁を加えたもの。  外縁は後で共用品を充てた。前者(狭義)の規模は日本福祉用具・生活支援用具協会(JASPA)が公表している。 福祉用具(狭義)と共用品の規模の合計が福祉用具(広義)になる(4品目重複する(例:温水洗浄便座)ので、合計から除く必要がある)。 3.福祉用具産業政策との関係  福祉用具法の施行(1993年)を機に福祉用具産業政策を始め、筆者は通産省(医療・福祉機器産業室)で担当した。基本の枠組から創る必要があり、福祉用具の概念の定義と市場規模の公表は中心的な作業の1つだった。  鍵は3つあった。①「福祉用具」には多くのもの(例:義肢装具からメガネまで)が含まれうる一方、既存の定義はなかった、 ②よって概念を決めるところから始める必要があった(数値<定義<概念をセットで決める必要があり、福祉用具(狭義)も共用品と同様に概念の定義から行った)、 ③早さと正確さを共に要した(市場規模は産業のバイタルサインとして政策の初動から必要だった)。その対策として、初回を速やかに公表し、翌年以降の調査で必要な修正を加え、数値は遡って修正した。 福祉用具(狭義)は1996年(93年度の市場規模)から公表し3年で定常化させた。外縁部分は当初(94年度分)は概数を表示し、95年度分から共用品の数値を調査・表示した。 4.研究との関係(政策の評価)  政策で行った判断は検証を要する。初期の福祉用具産業政策ではビジョンの策定、業界や学会の組織化などを行った。定義や統計はその1つ、共用品はその一部だった。 検証は第3者が行うことが多いが、政策の立上げ期は逐次の結果が次の打ち手に直結したため、数年後に概観する評価では詳細を追えない。 よって政策を担当した筆者が自ら行い、結果は「福祉用具産業政策の評価に関する研究」(2001年3月、東京工業大学学位論文(博士後期)、同大図書館から公開)にまとめた。  定義と市場規模は、拙論の全8章中の第4章「福祉用具の定義付けと市場規模の把握の並行的な推進策」にある。 社会課題対応に際して新分野(例:環境)の産業政策を始めることは今後も考えられ、3の①~③の要請は同様に生じると考えられる。 福祉用具と共用品で行ったこととそれをめぐる研究は、先例として活用できると考えられる。 図:福祉用具、共用品、一般製品の関係概念図(「福祉用具産業政策'98(福祉用具産業懇談会第3回中間報告)」1998年6月通商産業省機械情報産業局) 12ページ キーワードで考える共用品講座第126講「研究と共用品・共用サービス(総括)」 日本福祉大学 客員教授・共用品研究所 所長 後藤芳一 1.実践と研究  例えば不便さに対応する際、すぐの結果が必要であれば「実践」によって目の前の課題に応える。 手順はサービス提供者が経験を活かして工夫する。  一方、社会全体の視野でみると、①各地で大勢の人が関わる必要があり、②個々の事例から学んで進化する必要がある。 それには個々の対応の結果を整理する、予め整理する体系を用意しておく、整理した事例を分析する、分析結果を共有する。 共有した知見を専門職の手順、社会の制度、モノやサービスの基準に織り込む。課題の原因を見つけ、対応の選択肢を考え、根拠ある判断を行い、結果から学ぶ。こうした流れを支えるのが「研究」だ。 原因は同じでも環境が違うと別の現象になる、その逆もある。たまたま当たり、の先へ行くには、仮説(事前の想定)と結果の検証が要る。 事業や政策も、結果オーライでなく論理とエビデンスを求めるようになった。こうして研究は実務にも不可欠になっている。 2.実用性と普遍性  急ぐ対処と根本の解明は背反することがある。状況に合わせて、短・長射程の研究法がある。 ただ、当分野でありがちな「(すぐ)役に立ってこそ研究」というのは短絡だ。病巣をたたく解決には根本の解明が要る。 動作解析、MRI、バイオ医薬、社会の骨格を作る制度など、誰かが築いた基礎があって即効の策が効き、応用の範囲は基礎の深さが決める。 基礎は研究が築いてきた。常に成り立つのか、特殊な場合か、特殊とはどの範囲か、と追求してきた(本号の寄稿、山内(敬称略))。  一方「福祉」といいつつ工学の学びにとどまった、では困る(例:ロボット)。使えると確認した技術を持ち込みたい。当分野にはその先の、現場や利用者への適合に多くのするべきことがある。 3.研究に取り組む人  研究に必要な資質は何か。真の原因を求める→見えるもので満足しない、論理が通るかをみる→結論が常識的かは問わない、納得できるまで追求する→ 周りと合わせるために妥協しない、判断を明確に言い切る→生じる成果も責任も自分が背負う、自分が生み出した成果とそうでないことを峻別。真理の探求に帰依するとこうなる。 和を尊び、私はと語れば自己主張とされる国では、少し違う自分を育てる必要がある。  それをするのは精密機械のようになることか。本号の各寄稿者の取組みが参考になる。障害の課題が生じた(寺山)、高齢化で課題が増えた(佐川、倉片)、 政策や制度を作る裏打ちが必要だった(鎌田)、標準化の必要が生じた(藤本)、専門性を模索して課題と出会った(伊福部)…各研究者の生きた時代や社会背景、時々の出会いが動機になる。 普遍と抽象を極める数学でさえ、研究は研究者の個性を写すという。成果の後ろに生身の研究者がいる。 4.福祉用具、共用品と研究  不便さのある人を支えるこの分野は、現場の工夫を中心に実の要に応えてきた。課題が広がり、取り組む人の厚みが増し、技術の活用も進んだ。 より根本からの対応をめざして研究への取組みも進んだ。1990年代後半には福祉用具法を契機に通商産業省による福祉用具産業政策が始まり、学術は産業と車の両輪として振興対象になった。 日本福祉用具・生活支援用具協会(JASPA)(業界団体)とともに日本生活支援工学会が設立された(山内と寺山は同学会の会長を務めた)。本号の寄稿者は福祉技術の各分野を率いてきた人たちだ。 歩みはそのまま各分野の研究の歴史だ。  不便さの原因を押さえるのは福祉系や人間科学。共用品はそれを元に仕様を工夫してきた。今後に向けて共用品からも寄与できるよう、共用品推進機構は2018年に共用品研究所を設けた。 優れた研究は独自の着眼点と質のよいデータから生まれる。機構には優れた元データがあり、国際標準化をリードしてきた人と組織のネットワークがある。 幅広い研究者に参加いただいて「共用品発の理論」を輩出することを期待している。 13ページ ご存じですか? クリーンコットンアイ  目のまわりを衛生的に保つ拭き取り用脱脂綿です。四方どこからでも開封することができる個包装で、1枚ずつ目まわりの洗浄又は清拭ができます。  主に医療機関(眼科)で使用されていたものが市販され、手軽に購入できるようになりました。 いつでも清潔に無駄なく使用でき、1回に使用する分だけ滅菌包装されています。  また、視覚に障害のある方にもこの商品が何であるかがわかるよう、パッケージ天面には点字で「クリーンコットンアイ ニマイイリ」と表記がされ、 さらには文字やイラストが読みやすいデザインとなっています。 問い合わせ先:アルフレッサ(株) 写真:クリーンコットンアイ http://www.eiyosyokuhin.com 誰でも見やすい色分けラベル  100円ショップでは、多くの人が使える共用品を探す楽しみがあります。先日発見したのは直径が17ミリの色付きのシール。 1枚のシートに、あお、あか、きいろ、みどり、そらいろ、くろの丸いシールが、5枚ずつ、シートは10枚入っています。 色覚の個人差を問わず、情報ができるだけきちんと伝わるよう、色使いに配慮したシールとなっており、カラーユニバーサルデザイン推奨配色セットの色が使われています。 店舗によっては品揃えが異なり、在庫がない場合もあるとのことです。 問い合わせ先:DAISO 写真:誰でも見やすい色分けラベル https://www.daiso-sangyo.co.jp/ タッチレスグローブディスペンサー  コロナ禍では、不特定多数の人が使うモノに、直接手で触れないことが推奨されています。 バイキング形式の食事に登場したのが使い捨てのビニール手袋。箱から取り出し、利き手にはめれば、トングや菜箸にじかに触ることはなくなります。 さらに重なった複数のビニール手袋の上に手をかざすと、モーター音と共に一番上の手袋へ空気が送り込まれ、手袋が膨らみ、容易に利き手を入れることができる機器を設置している店舗もあります。 左利きの場合は、掌を上にすると装着できます。ニーズが高い「非接触」は多くの工夫を生みだしています。 取扱先(法人のみ販売)江部松商事株式会社 写真:タッチレスグローブディスペンサー 地域社会での出会いをつくる「となりに、いるよ」  「となりに、いるよ」展。知的な障害を持つ方の創作活動から誕生した作品・制作写真が、街なかの信用金庫、オフィス、高齢者施設、カフェなどで展示されました。 (株)アネックス代表の富樫純子(とがしじゅんこ)さんがはじめた日常生活の場で作品を鑑賞してもらう出前美術館です。 思いがけない出会いだった等の声もあったとか。実は同じ街で暮らしていることに気付いたり、小さいけれど大きい発見から思いやりが生まれます。共生社会実現への一歩です。 問い合わせ先:(株)アネックス 写真:「となりに、いるよ」展(城南信用金庫 九段支店)https://www.annex-inc.co.jp/index.html 14ページ 国際福祉機器展 日常生活支援用品コーナー報告 新しい日常・多様なニーズ~伝わるマスク展~  2021年11月10~12日、国際展示場青海展示棟にて国際福祉機器展(H.C.R.)が開催され、 共用品推進機構は主催者特別企画コーナーの1つである日常生活支援用品コーナーの企画・監修を担当しました。 経緯と概要  弊機構は2010年から、同コーナーの企画・監修に携わっています。11年までは、展示コーナーをキッチン、水回り、トイレ、食堂、衣服などに分け、高齢者、障害者用製品全般の展示を行いました。 12年からは、タイトルを「片手で使えるモノ展」、「旅を楽しむ『10のコツ!』と便利なグッズ展」、「元気に働く10のコツ展」として行ったところ、たくさんの方がお立ち寄りくださいました。  本年は、コロナ禍で人々の生活に欠かすことができなくなった「マスク」をテーマに、一般社団法人日本衛生材料工業連合会、杉並区障害者団体連合会、杉並区のご協力のもと 「新しい日常・多彩なニーズ ~伝わるマスク展~」というタイトルでの展示となりました。 展示製品の選定  展示製品は、杉並区障害者団体連合会と杉並区と共に実施したアンケート調査『新型コロナ禍における「困ったこと」「工夫」「良かったこと」「要望」調査』から出てきたマスクについて、 マスク工業会会員の製品を中心に抽出し、日本衛生材料工業連合会のご意見を伺いながら選定を行いました。 展示製品とパネル  展示した製品は、口元が透明になっていて話すときにも口の形が分かるようになっているマスク、マスクのひもが耳に当たらないようにフックがついていたり、ひもが頭の後ろで結べるようになっているマスク、 ひもがなく医療用の粘着テープで留めるマスクなど。マスク周辺のものとしては、耳掛けマスクにつけて耳にひもが当たらないようにするフックや、外したマスクを置くためのケース、 マスクと口の間に入れて、空間を作り息苦しくないようにするマスク用のインナー、マスクと一緒に使うと効果がより期待できるフェイスシールドなど現物を来場される皆様にご覧いただきました。  パネルは、「マスクのJISパネル」「マスクに関するパネル」「杉並区の障害者団体連合会及び杉並区と行った調査結果のパネル」を展示しました。 アンケート  新しい日常において、各種製品・サービスにどのような配慮が必要かを確認するために、ブースではスタッフが来場者に聞き取る形式でマスクに関するアンケート調査を行いました。  あったらいいと思うマスクについてお聞きしたところ、口元が見えるような透明なマスク、メガネやルーペを使用した際にも曇らないようなマスク、 耳がひもで痛くないマスクなど、既存の不便さが解消できるマスクを要望されていました。 まとめ  今回の展示では、マスクに関するご意見をたくさんの来場者からうかがうことができました。 感染症対策を引き続き注意しながら、今後もこのような企画展示を行っていきたいと思います。 写真:杉並区の調査結果パネルとJISパネル 写真:会場の様子 15ページ 令和3年度千代田区「障害者週間」記念理解促進事業  毎年12月、千代田区では障害者週間の3~9日に合わせて、障害に対する理解を促進するため、障害のある人と一般区民との交流を図ることを目的に、 障害者の方が作成した作品の展示や区内福祉施設の広報が、千代田区役所の1階区民ホールで行われています。  共用品推進機構は、2013年からこのイベントに出展しており、シャンプーやコンディショナー、ボディソープ容器などの触って識別できる代表的な共用品のほか、 軽い力で操作できるダブルクリップやホチキスに加え、今年は11月の国際福祉機器展の日常生活支援用品コーナーで企画展示した口元が見えるマスク、 耳が痛くないようにマスクのひもを後ろで結ぶようにしたマスク関連製品と、「マスクのJIS」、「アクセシブルなマスク」の2つのパネルを展示しました。  本年は、新型コロナウイルス感染症対策のため、昨年度に引き続き展示のみとなり、ショーケースの中での展示となりました。  今後もこのようなイベントに継続して出展し、共用品の情報提供に寄与していきたいと思います。 写真:展示の様子 16ページ 42年前、共生社会の実現を共に志した友 【事務局長だより】 星川安之  中村弘之(なかむらひろゆき)くんの訃報を聞いた12月4日は、闘病からの回復の兆しがあった彼と奥さんのひろみさんから、 大磯の中村家に招待されていた日、みかん狩りをし、積もる話をしているはずの日でした。  私が、中村に会ったのは、57年前の4月、自由学園初等部の入学式でした。それ以来学園を卒業するまでの16年間は、ほぼ毎日、顔を突き合わせていました。  初等部1年から始めたサッカーは、男子が11人だけだった我々のクラスは、補欠はなく、全員がレギュラーでした。 抜きんでた運動神経の持ち主の中村がフォワードで点を取りまくっていたことで、他校との試合も連戦連勝だったと記憶しています。  そんな彼は戦術家でもありました。いくら点をとっても、それ以上に点を入れられたら負けてしまう。初等部の4年の時、一緒にフォワードをやっていた私に彼は、 「守りのかなめになってくれないか?」と言ってきたのです。点をとることこそサッカーのだいご味と思っていた私にとっては、青天の霹靂でした。 でも、やってみるとこれが楽しいのです。中村が点をとって、私が相手のゴールを阻止する、それが高等科3年まで続きました。  初等部2年の時、私の父が仕事中、交通事故にあい他界しました。周りの人達は、腫物に触るように距離をおいていることが子どもながらにつらい時期でしたが、 中村は、それまでと何一つかわることなく、同じ空間で、同じ態度。その空間に、どれだけ救われたことか。それは、石神井公園の中村家に遊びにいったときの、彼の家族も同じでした。  学部に入ると二人して、社会学に興味をもち、卒業勉強は「老人の生きがい」でした。秋津の高齢者施設にいっては、長い時間議論を重ねていました。  その議論の終着点は、その頃つきあいはじめたひろみさんのこと、相談かと思って真剣に聞いていると、ただの「おのろけ」ということもありました。  そんな中、二人で行ったのが東京世田谷にある重度障害児の通所施設でした。言葉と手足を動かすことが困難な子どもたちが、必死でぼくらに何か言おうとしている姿に二人とも衝撃を受けました。  障害がある子どもたちが、普通に生きていくためには、自分たちに何ができるか。既に教育者になることを決めていた彼は教育の中で、 その答えを求め、私はおもちゃメーカーに入り、障害のある子どもたちが遊べるおもちゃづくりに、その答えを求めることにしました。 それは、初等部のサッカーでの点を取る役と、入れられないように守る役目が、そのまま社会に移行したようでした。  彼が教諭の場として選んだのは母校、自由学園の初等部、創設以来はじめて受け入れた車椅子使用の生徒の担任になった彼のクラスは 「みんな一緒『雅士の一学期』」というタイトルでのバリアフリービデオ(花王株式会社作成)に収められています。  あれから42年、中村君に教育を受けた、たくさんの生徒たちが、社会をよりよい社会にしています。心の底から、誇らしく思います。 ありがとう。また、会おう。 共用品通信 【イベント】(オンラインイベント) 共用品推進機構 第22回オンライン活動報告会(12月15日) 心の目線を合わせる「めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン」(12月17日) 【展示会】 千代田区「障害者週間」記念理解促進事業「伝わるマスク」展示(12月3日~9日) 【委員会】 第1回障害者・高齢者等アクセシブルサービス検討分科会(12月1日) 【講義・講演】 岡山県UDアンバサダー講座(11月20日、星川) 早稲田大学 浅田研究室共用品講座(11月22日、星川) タカラトミー共用品講座第2回(11月25日、竹島恵子・星川) 文教大学 共用品講座(12月13日、星川) 早稲田大学 藤本研究室(12月14日、星川) 【報道】 時事通信社 厚生福祉 11月30日 オンラインで考える共生社会 時事通信社 厚生福祉 1月7日 音の鳴る椅子 トイジャーナル 12月号 多様なニーズを受け止める公園 トイジャーナル 1月号 国際福祉機器展「伝わるマスク展」 福祉介護テクノプラス 12月号 住んでいる街で、元気でいるコツを教わる 福祉介護テクノプラス 1月号 国際福祉機器展 新しい日常・多様なニーズ「伝わるマスク展」 高齢者住宅新聞 11月10日 音が鳴る不思議な椅子 高齢者住宅新聞 12月8日 ビニール手袋装着器 シルバー産業新聞 11月10日 マスクをしていても すべての人の社会 11月号 進歩と根幹に一番大切なこと 東商新聞 東京の底ぢから 「共用品・共用サービス」で不便さ抱えている人を笑顔にする 保健福祉 10月15日 コロナ禍での不便さ・ニーズ調査 日本ねじ研究協会誌 10月 レコード 法友文庫だより 秋号 だれもが使いやすい製品・サービス アクセシブルデザインの総合情報誌 第136号 2022(令和4)年1月25日発行 "Incl." vol.23 no.136 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2022 隔月刊、奇数月25日に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:https://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 編集長 星川安之 事務局 森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、木原慶子、田窪友和 執筆 伊福部達、鎌田実、倉片憲治、後藤芳一、佐川賢、寺山久美子、藤本浩志、山内繁 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙 多屋光孫 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。 その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。