インクル139号 2022(令和4)年7月25日号 特集:共用品推進機構の「事業」 Contents 令和3年度事業報告書 アクセシブルな新しい日常生活を目指して 2ページ コロナ禍での新しい生活様式に関する調査 4ページ アジア15か国「新しい生活様式に関する不便さ・ニーズ等」調査 6ページ モニタリング調査 7ページ ISO/TC 173/SC 7/WG 7 WD 6273の進捗状況について 8ページ 「アクセシブルサービスに関するJIS」規格の作成に向けて 9ページ アクセシブルデザイン(共用品)検索(ADDB)運用開始 10ページ 共用品教材セットに新しい工夫が仲間入り 11ページ 国際福祉機器展での展示 12ページ キーワードで考える共用品講座第129講 13ページ 日本点字図書館 新館長に立花明彦氏が就任 14ページ 広がる良かったこと調査 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 2ページ 令和3年度事業報告書 アクセシブルな新しい日常生活を目指して  共用品推進機構は、共用品・共用サービスの調査研究を行うとともに、共用品・共用サービスの標準化の推進及び、共用品・共用サービスの普及啓発を図っています。 さらに製品及びサービスの利便性を向上させ、高齢者・障害のある人々を含めた全ての人たちが暮らしやすい社会基盤づくりの支援を行うことを事業の目的としています。 目的に従って令和3年度に行った主な事業は、以下の通りです。 1.調査研究  より多くの人々が、暮らしやすい社会となるために必要な事項を、ニーズ把握、製品・サービス・システムに関する配慮・考慮点の基準及び普及に関しての調査・研究プロジェクトを設置して行った。 (1)障害児・者/高齢者等のニーズ把握システムの構築・検証  製品・サービス・システムに対して、障害児・者、高齢者のニーズを把握、確認するためのアンケート調査、ヒヤリング、モニタリング調査を実施し、製品・サービス・システム供給者と需要者が連携できる仕組みを構築した。 ①障害児・者/高齢者等の日常生活環境における不便さ等の実態把握(調査方法)の検証・実施  「地域における良かったこと調査」を、全国に広げる準備として、平成30年度から令和2年度まで行った「地域における良かったこと調査」 (杉並区・練馬区・千代田区・岡山市・沖縄県)を参考に、アジア15か国「コロナ禍での新しい生活様式に関する不便さ・ニーズ等」を実施した。 ②共創システム及びモニタリング調査システムの構築・検証  これまでに行ってきた共用品モニタリング調査を基に、障害当事者団体・高齢者団体等と連携し、関係業界、関係機関(業界団体、企業、公的機関等)が共用品・共用サービス・共用システムに関するモニタリング調査を簡易に実施するための支援システムを実施した。 更に、この支援システムを恒常化するために必要な事項の分析を行い、合理的且つ有効なモニタリングの実施方法を構築した。 ③コロナ禍による新しい生活様式における不便さ、工夫、要望調査  新型コロナウイルスの感染拡大の状況で、障害のある人たちがどんな不便さを感じ、どんな工夫をし、どんな要望があったかを、障害当事者団体と共に調査し、解決のためのガイドラインの素案を作成した。 (2)共用品市場調査の実施  これまで実施してきた共用品市場規模調査及び手法に関しての分析を引き続き行い、調査対象の範囲並びに、今後共用品を普及するために必要な事項の課題抽出を行いながら、令和3年度の共用品市場規模調査を実施した。 また、共用サービスにおける市場規模の調査の可能性を検討した。 2.標準化の推進  アクセシブルデザイン(高齢者・障害者配慮設計指針)の日本工業規格(JIS)及び国際規格(IS)の作成を行った。 また、その作成に資するため、国内外の高齢者・障害者配慮の規格に繋がるための調査・研究・検証を行った。 (1)規格作成 ①アクセシブルデザイン(高齢者・障害者配慮設計指針)国際規格の作成及び調査・研究  国際標準化機構(ISO)内のTC173(福祉機器)及びTC159(人間工学)に提案し承認された案件を、国際規格制定に向けて作業グループ(WG)で審議した。 ⅰ.AD使用性評価(TC159/WG2) ⅱ.視覚障害者用取扱説明(TC173/WG12) ⅲ.ユーザーニーズ調査に関するガイドライン(TC173/SC7/WG7) ②アクセシブルデザイン(高齢者・障害者配慮設計指針)JIS原案作成及び調査・研究  アクセシブルデザインの共通基盤規格、デザイン要素規格のJIS原案作成における全体像の検証及び整理を行った。 また、日常生活における不便さ・便利さ調査の標準化に向けた作業を行った。 ③共用サービス(アクセシブルサービス)の国内標準化に向けた調査・研究  共用サービス(アクセシブルサービス)に関する規格作成に向けて、職場、店舗、消費者窓口、医療、公共施設、イベント等の共用サービスに関する既存のガイドライン及び各種ニーズ調査等を整理分析し、 開発すべき共用サービスの共通並びに個別規格の体系図を作成した。 また、アクセシブルサービス(共用サービス)規格(JIS)の素案作成を行った。 (2)関連機関実施の高齢者・障害者配慮設計指針規格作成及び調査研究に関する協力  アクセシブルデザイン(高齢者・障害者配慮設計指針)に関係する調査・研究並びに規格作成を行っている機関と連携し、アクセシブルデザイン標準化(住宅設備機器等)への協力を行った。 3.普及及び啓発  開発・販売・市場化された共用品・共用サービス・共用システムを広く普及させるため、データベース、展示会、講座、市場規模調査、国際連携等、令和2年度までに実践してきた事項を基に行った。 (1)共用品普及のための共用品データベースの実施  令和2年度までに行ってきた共用品のデータベースの試行を基に、障害のある人を含む多くの消費者が、的確な共用品を選択できる仕組みを構築するため、使いやすさや検索のしやすさについて検討した。 その後、データベースを構築し試行を開始した。 (2)共用品・共用サービス展示会の実施  「高齢者・障害者配慮の展示会ガイド」を活用する展示会主催者に協力し、展示会における高齢者・障害者配慮の実践を継続した。 また、共用品の展示会を実施し、より多くの人たちに共用品及び共用品の考え方を普及した。(国際福祉機器展等) (3)共用品・共用サービスに関する講座等の実施・検証  共用品・共用サービスに関する講座に関して①対象(企業、業界団体、アクセシブルデザイン推進協議会=ADC)、一般市民、就学前の子供~大学院生等ごとに、 ②伝える事項(コンテンツ)、視覚的ツール(共用品のサンプル、PPT、ビデオ等)、③配布資料等を用意し、対面及びオンライン講座を実施した。 (4)障害当事者等のニーズの収集  障害のある人達を対象としたニーズやアイディアを継続的に収集しながら、収集したニーズを基に共用品の重要性を深め、普及を促進する教材の検討を行った。 (5)共用品・共用サービスに関する情報の収集及び提供  本財団の活動や収集した関係情報を掲載した機関誌、電子メール、ウェブサイト、各種媒体などで情報を継続的に提供した。 不便さ調査報告書の冊子を希望者に実費配布し、個人・法人への啓発を行った。 4ページ 「コロナ禍での新しい生活様式に関する不便さ・ニーズ等」アンケート調査 新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、3密の回避や人との距離の確保等の「新しい生活様式」が求められています。 しかし、障害のある方や高齢の方が実施するには、困難な点も多くあります。 そのため、共用品推進機構では「新たな生活様式における製品・サービスの障害者・高齢者配慮に関する標準化にむけた調査」を実施しました。 ここでは、一部の地域、一部の障害者団体が行っている「新型ウイルス感染拡大での障害者・高齢者が感じている不便さ調査」で抽出された製品・サービスに関する配慮事項と現状を把握するため、 全国規模の当事者団体である日本障害フォーラム(JDF)の加盟団体のご協力を仰ぎ、同フォーラム加盟の当事者団体の方々にコロナ禍における不便、便利、希望するモノやコトに関してアンケート調査を行いました。 調査概要 【調査形式】ウェブ入力と用紙による記入式アンケート調査 【対象者】日本障害フォーラム(JDF)の加盟団体11団体 【回答者属性】アンケートは356名の方にご回答いただきました。 障害及び身体特性については次の通りです。  全盲100名、弱視33名、ろう39名、難聴・中途失聴34名、盲ろう57名、上肢障害2名、下肢障害8名、上下肢障害、12名、パーキンソン病2名、知的障害20名、発達障害17名、精神障害18名、認知症1名、その他・無回答13名。 ここではいただいた回答の一部を場面ごとにご紹介します。 1.買い物 ①不便なこと ・レジに並ぶ位置を示す足マークがわからず不便。(全盲60代女性) ・店員さんがマスクなので話していることがわからない。(ろう30代女性) ②良かったこと ・コロナの感染リスクがある中でも、嫌な顔を全くせずにスーパーの店員さんが買い物につきあってくれる。(全盲50代女性) ・店先に消毒薬が置かれているところが多く、安心だった。(精神障害20代男性) ③あったら嬉しいこと ・「カードありますか」などの指差しで意思疎通できるシートをレジの台などに貼ると嬉しい。(ろう20代男性) 2.外食 ①不便なこと ・タブレットで注文するのが難しい。(全盲60代男性) ・マスクで互いに声が聞こえにくく、注文違いがしばしば起きる。(難聴・中途失聴50代男性) ②良かったこと ・店員による声掛けがあることで、スムーズに座席への誘導や注文、食事を行うことができた。(弱視40代男性) ・耳が聞こえないと言ったら、筆談で応対してくれた。(ろう30代女性) ③あったら嬉しいこと ・質問やメニューの説明を文字などで表示したボードなど。(難聴・中途失聴40代女性) ・タッチパネル注文方式で、パネルに音声がのってくれたらありたい。(弱視70代女性) 3.交通機関 ①不便なこと ・声掛けや誘導してくれる人が減り、こちらからもお願いしにくい。(全盲50代男性) ・つり革やポールに触るのが不安だった。(精神障害20代男性) ②良かったこと ・コロナ禍でも駅員の方や周りの方が、声をかけてくれる。(全盲40代女性) ③あったら嬉しいこと ・手話が出来る運転士がいれば嬉しい。(ろう20代男性) ・窓を開けて換気をしていると安心して電車に乗れます。(発達障害20代男性) 4.娯楽・スポーツ ①不便なこと ・インターネットのライブ放送などに字幕がついていない。(難聴・中途失聴60代女性) ・活動する人数を制限するために、日数や時間が減った。(知的障害) ②良かったこと ・入り口での非接触の検温や手指消毒など、係の方がサポートしてくれた。(弱視50代女性) ・コロナの中でも素敵な音楽や芸術、スポーツに頑張る人たちをみて元気をもらえたこと。(精神障害 30代女性) ③あったら嬉しいこと ・会場に入れない人へのネット配信などのシステム。(上下肢障害30代女性) ・映画やスポーツ観戦などですべての施設で音声ガイドがついてほしい。(全盲50代男性) 5.イベント ①不便なこと ・ガイドヘルパーなどと多くの人が集まる所に出掛けられないこと。(全盲60代女性) ②良かったこと ・オンラインでの参加の時、視覚的、聴覚的情報の提供をしてくださる、盲ろう者向け通訳・介助員。(盲ろう60代男性) ・オンラインでは遠方のイベントにも参加しやすいので、地方に住んでいる者としてはありがたいと思っている。(発達障害30代女性) ③あったら嬉しいこと ・文字によるアナウンスやガイドの表示。(難聴・中途失聴40代女性) 6.仕事・勉学 ①不便なこと ・複数人での会議の内容が分からない。(ろう30代女性) ・オンライン会議ツールを利用する機会が増えたが、アクセシビリティが高いものばかりではなく、操作に手間取ることがある。(弱視40代男性) ②良かったこと ・筆談をしてくれるから助かる。(ろう20代男性) ・資料のテキストデータ事前配布。(全盲70代男性) ③あったら嬉しいこと ・手話・字幕の用意があるとうれしい。(難聴・中途失聴50代男性) ・行っている配慮を検索できるサービスがほしい。(弱視50代女性) 7.情報取得・発信 ①不便なこと ・文字の情報が少ない。(ろう30代女性) ・触手話なので、都度消毒が必要で困る。(盲ろう30代女性) ②良かったこと ・Zoomの扱い方を覚えたら、出かけていかなくてもシンポジウムなどに参加できるようになった。(全盲50代女性) ③あったら嬉しいこと ・もっといろいろなサイトで、アクセシビリティーが進むと良い。(全盲50代男性) ・生放送で手話通訳設置あったら嬉しい。(ろう20代女性) 8.検査・ワクチン接種 ①不便なこと ・接種券などの書類の内容が読めない。(全盲50代女性) ・予約方法が分かりにくい。(難聴・中途失聴70代男性) ②良かったこと ・かかりつけ医でのワクチン接種ができたこと。(盲ろう60代男性) ・ワクチンの接種会場にて、手引きや代筆を自ら頼まなくても、進んで手伝ってもらえた事はとてもうれしいです。(全盲40代男性) ③あったら嬉しいこと ・ワクチン接種の案内を点字対応でお願いしたい。(全盲70代女性) ・受付などで筆談ボードを用意してくれたらありがたい。(ろう30代女性)  今後はこの調査を現状と課題にまとめ、解決案を提示していく予定です。 田窪友和(たくぼともかず) 6ページ アジア15か国「コロナ禍での新しい生活様式に関する不便さ・ニーズ等」調査  新型コロナウイルス感染症の拡大により、日本はもとより世界各国は新しい生活様式の導入が求められました。  日本提案で制定されたISO/IECガイド71、国内ではJIS Z 8071(規格におけるアクセシビリティ配慮のためのガイド)では、高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針について43種類の関連規格が発行されています。 しかし、各種ウイルス等の感染及び感染拡大の状況下は想定されていません。  共用品推進機構では、新しい生活様式に対応できる方法の可視化を確認するために、国内調査をすすめていました。 しかし、冒頭で述べたように、感染症の拡大は世界で共通の課題のため、今回アジア15か国に向けてその実態調査を計画し、実施しました。  ここでは、その調査結果の一部をご紹介します。 調査概要 【調査形式】  アジア各国の障害者団体との連携が深い佐野竜平(さのりゅうへい)教授(法政大学)ご協力のもと、障害当事者・家族・専門家へ記入式アンケート及びオンラインでの聞き取り形式で調査を行いました。 【回答者属性】  アンケート対象国は15か国(アフガニスタン、バングラデシュ、ブルネイ、カンボジア、インド、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、ネパール、パキスタン、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)。 障害及び身体特性については次の通りです。 視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、知的・精神障害、(自閉症を含む)発達障害。 【改善が必要な項目】  新しい生活様式において配慮が必要と思われる場面やモノ・コトは次のとおりでした。 ①場面 ・店舗/交通機関/イベント・他 ②機器等(モノ) ・感染予防に関する機器、製品 ・手を触れて使う機器、製品 ・コミュニケーション用機器等 ③情報 ・音声、音情報 ・文字情報 ・街頭情報(音声・他) ・緊急情報 ・嗅覚情報 ④サービス(人的応対) ・声かけ ・説明 ・誘導 またこのアンケートから、次のような要望があることが分かりました。 ①感染予防のために使用する機器が、どこにあるか、どのように使うか、障害者、高齢者がわかるようにしてほしい。 ②感染予防のために行う「人と人との距離をとる」等のルールは、障害者、高齢者も実行可能な方法にしてほしい。 ③複数の人が触れる機器等に関しては、ウイルスが付着しないようにしてほしい。 ④各種情報は、障害者、高齢者が理解できる方式で提供してほしい。 ⑤各種サービス(人的応対を含む)は、対象とする障害者・高齢者のニーズにあっているものにしてほしい。 ⑥感染蔓延により通常の方法で行うことが困難な集まりを代替様式で行う場合(例:会議→オンライン会議)は、障害者・高齢者が利用できる様式で行ってほしい。  どのような対応が必要か、さらに分析し、まとめていく予定です。 なお、詳細は共用品推進機構調査報告でご覧いただけます。 木原慶子(きはらけいこ) 共用品推進機構調査報告 https://www.kyoyohin.org/ja/research/report_goodthings.php 7ページ 共用品推進機構の事業 モニタリング調査 本人に聞く意味  1981年、国連が提唱した国際障害者年のテーマ「完全参加と平等」は、それまで障害のある人とない人の距離が離れていたことに改めて気づかされるきっかけとなりました。 距離を縮めるために、各種製品企画・開発者、サービス提供者の中で、障害者のニーズを知る必要があった人たちの多くは、障害当事者ではなく、 障害に関する専門家や周りの人に障害者のニーズを聞くことで、ニーズを理解したと思っていました。私もその一人です。  専門家の話や文献は、知識を豊富にするのには大変役立ったのですが、目の前にいる障害者が今、どんなニーズを持っているかには、かえって邪魔になる知識でもありました。 患者が目の前にいるのに、目の前の顔色、表情は見ずに、パソコン画面に映し出されている患者のデータだけみている一部の医師とよく似た状況です。 腹を割って話す人  私が盲児の玩具開発を始めた40年以上前、朝日新聞に「盲と目あき社会」を連載されていた論説委員の藤田真一(ふじたしんいち)さんから、 「あなたがその仕事を続けるのであれば、何でも話せる障害のある友人を少なくとも一人もつべきです」と言われました。 その言葉は今でも引き出しにあり、事あるごとに開けては確認しています。  全盲の人の家に招かれ、私以外の3人は全盲、点字付きトランプで4人一緒に昼からゲーム。 時間も忘れ熱中していると、徐々に陽が落ち始め部屋の中が暗くなり、目でカードの数字を確認していた私だけ、「数字が見えない」状況になりました。 しかし、全盲の人達との付き合いが浅い私は「電気つけていいですか」を聞くことが失礼にあたると勝手に思いこんでいました。 短い時間ではありましたが、全く見えなくなり蚊の鳴くような小さな声で「電気、つけてもいいですか?」と言う と、全盲の3人から同時に「なんでそんなことを早く言わないんだ!」と、笑いながらもこっぴどく責められました。 その時、藤田さんの言ったほんとうの意味が分かった気がしたのです。 で、距離は縮まったか?  国際障害者年の後は、同じく国連の「障害者権利条約」、そして、日本では「障害者差別解消法」が制定され、合理的配慮の推進、さらにはSDGsの「誰一人取り残さない社会」がまくら言葉のように使われ始め、 時代は共生社会に舵がとられているように見えます。  確かに、各種バリアフリー、アクセシビリティのガイドラインは整備され、障害の有無の距離は縮まったかのように見えます。 大きな前進とは思いますが、距離があることは、多くの場面で感じます。 感じる距離を縮める方法の一つが、共用品推進機構の事業でいうとモニタリングです。 できあがってしまった製品ではなく、企画段階、試作段階で、さまざまな当事者に話を聞く、実際に使ってもらう、率直な感想を聞く、修繕可能なことは改善するという一連のプロセスです。  機構では、モニタリング調査の相談、依頼を受けることが多くあります。 口頭でなく用紙に記載してもらうところから始めています。必要であれば、ご相談ください。 星川安之(ほしかわやすゆき) 写真:ご依頼記入シート 8ページ ISO/TC 173/SC 7/WG 7 WD 6273の進捗状況について  共用品推進機構が事務局を担当するISO/TC173の分科会SC7において、昨年の3月に、新規規格作成プロジェクトが動き始めました。 このプロジェクトのために設立したWG7のその後の状況を報告いたします。 *TC:技術委員会 SC:分科会  規格名は、「WD6273 感覚機能に障害のある人が使用する福祉用具のユーザーニーズ調査に関するガイドライン」。 障害がある人が使用する福祉用具に関する調査をする際に、配慮する事項を規定したガイドラインです。 規格の特徴 ①日本での調査結果を採用  この規格原案を作成するため、当機構で調査を行いました。 対象は、視覚、聴覚、言語に障害のある人、車椅子、杖使用者、色覚異常の人です。 その人たちにインタビューし、アンケート調査などを行うときに考慮すべき項目を集めました。 ②調査の分析には言及しない  この規格は、障害のある人たちへの調査の際に必要な配慮事項を規定することが目的です。 そのため、企業、教育機関などが調査を行った場合、結果をどのように分析するかは、調査対象者が障害のある人の場合も、一般の人とかわらないため、分析に関しては、規定しないこととしました。 エキスパートの数が足りない!  この規格は3年がかりで国際提案が承認されましたが、軌道に乗るまで、プロジェクトが停止することが何度かありました。  規格の審議に必要なエキスパートの数は、SC7の場合は4名。 承認時はその数を満たしていましたが、その後、WGへの登録をしない、または国の事情でWGを抜けざるをえないエキスパートがいて、この4名を下回ることがしばしばありました。  そのたびに、ISOの中央事務局に相談したり、いくつかの国と交渉してエキスパートを推薦してもらったりしながら、3月に再スタートするまで、何度も山を乗り越えてきました。 現在の参加国は、スペイン、ドイツ、韓国、日本です。 次のステージへ  この規格は現在、ワーキング・ドラフト(WD)というスタートの段階にありますが、間もなく、次のステージに進みます。 この段階では、WGだけでなく、SCのメンバーからも、規格に関する意見が集まります。  プロジェクトを続けられる喜びとともに、これからもWG、SCメンバーと協力し、プロジェクトのマネジメントを行っていきたいと思います。 金丸淳子(かなまるじゅんこ) 写真1:ISO/TC 173構成図 写真2:オンライン会議 9ページ 「アクセシブルサービスに関するJIS」規格の作成に向けて ~共に考え、共に創ることの大切さ~  令和元年度より、アクセシブルサービスを推進するため、調査及び標準化の推進を行っています。 アクセシブルサービスとは  「アクセシブルサービス」とは、「障害のある人々及び高齢者などの利用者とサービス提供者が共に考え、協力して創るサービス」のことを言っていますが、 これは共用品推進機構の前身団体「E&Cプロジェクト(E&C)」の理念を引き継いだ考え方です。 弊機構は当初より、バリアフリー社会の実現を目指す人達と「共に考え、共に創る」ことを大切にしてきました。 そこで考え出された数々の配慮は、これまでいくつもの共用品(=アクセシブルデザイン)に反映、また規格として採用され現在のモノ作りに活かされています。 一方、アクセシブルサービス(共用サービスともいう)は、サービスの「無形性」、「同時性/不可分性」、「異質性」、「消滅性」そして「変動性」という特性から統一が難しい状況でした。 しかし、E&C時代から調査を重ね標準化、普及・推進を進めてくるうちに、サービスの特性を踏まえたうえで標準化できることが分かりました。  そこで障害や高齢について専門的な知識を持った方々や、業界団体のAD専門家やADを学術的に研究している先生方にご協力をいただき委員会を設立、 経済産業省や(一財)日本規格協会の支援をいただき審議を行っています。 みんなの良かったことは、多くの人の良かったことにもつながる可能性がある  この規格のベースになっているのは、多くの障害団体や高齢者団体、業界団体などが共に作成してきたマニュアル(窓口マニュアルや万博、パラリンピックのアクセシビリティ指針など)や、 これまで誌面でもご紹介してきた「良かったこと調査®」結果、さらに1990年代から行っている「不便さ調査」の中に眠る「良かったことの声」など、ADに携わる人達の生きた経験です。 「良かったこと」の声を反映させて普及しそれが定着していくことで、また新たな良かったことにつなげていくことが可能になると考えています。 アクセシブルサービスの役割  アクセシブルサービスは、「ゼロからプラスへ、プラスからさらなるプラスへつなげること」という良さがあります。 次の行動へ、そしてそれをきっかけにさらに広く深く様々な活動に参加することができるようになったり、参加することが楽しくなったりすることにつながればと考えています。 他方、これまで実施してきた不便さ調査も引き続き行っていき、アクセシブルデザインやアクセシブルサービスの活用時また普及時に生じた不十分な事項について、 不便さ調査を用いて検証していく必要があると考えています。 森川美和(もりかわみわ) 図:アクセシブルサービスを提供するに当たり,配慮する要素の構成イメージ 10ページ アクセシブルデザイン(共用品)検索(ADDB)運用開始  共用品推進機構は、令和4年度より「アクセシブルデザイン(共用品)検索(ADDB)サイト」の一般公開を開始しました。 本検索サイトは、アクセシブルデザイン(共用品)が検索できるサイトを目指して開設した「共用品データベース(2009年)」のリニューアル版です。  ADDBは、障害のある人達が「自分たちにあった製品が知りたい」、「購入する前に情報を得たい」等のご意見を基に、 利用者(障害のある人達)と提供者(企業・団体)の皆さんと共にアイディアを出し合いながら、現在の技術の中で可能な共用品検索システムを作成してきました。 ADDBに掲載する共用品の配慮は、JIS S 0020「アクセシブルデザイン―消費生活用製品のアクセシビリティ評価方法の配慮事項」を参考にしています。 配慮事項は主に「本体」、「表示」、「操作」、「取り扱い説明(書)」に分け、それぞれどのような配慮があるかを示しています。  今後はみなさんのおすすめの共用品についてもご意見をうかがう機会を作りたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。 田窪友和・森川美和 図:検索、登録画面イメージ(https://addb.kyoyohin.org/) 図:登録手順画面イメージ(https://kyoyohin.org/addb/ADDB_manual.html) 11ページ 共用品教材セットに新しい工夫が仲間入り ~さりげない配慮を見つける喜び、そして誰かに伝える楽しさ~  共用品推進機構は発足当初より、幼児から大学生を対象とした共用品授業・講座等を展開してきました。 授業を行う上で、特に児童・生徒向けに作成した「共用品教材セット」は、配慮を見たり触ったりすることができるため、子ども達にとって分かりやすく好評です。 新しい共用品教材セットの選定  長らく愛用している教材セットですが、作成から15年経過し、共用品の配慮も日々新しく増え続けていますので、昨年度事業として、 基本的な共用品に新たな視点を持った共用品を加えることにしました。 新しい共用品を選定するにあたってはワーキンググループを設置し、3名のメンバーにそれぞれ視覚障害のある人、聴覚障害のある人、 車椅子を使用している人などが使いやすい共用品という視点で選定していただきました。 さらにその中から、現役の教員に学校現場で活用しやすい共用品を選択していただきました。 共用品の配慮がより身近に  振動や報知光、字幕などの配慮は、十数年前にはいくつかの製品に採用されていたものの、一般的に入手しやすい状況に遠く、 そのため子ども達が容易にイメージできるような状況ではありませんでした。 しかし現在は身近なものも増え、配慮を伝えるだけで、その配慮のある製品や、活用されている場所など様々な意見が聞かれるようになりました。 共用品の魅力  共用品授業の醍醐味は何と言っても子ども達の姿です。さりげない配慮を見つけた時の表情や声、それをすぐに誰かに伝えようとする仕草や動きを見る度に、共用品の底力のようなものを感じます。 共用品の配慮を知ることで、周りの様々なことにも気付きやすくなるので、社会モデルの在り方を自然に身につけることにもつながると考えています。 子ども達の可能性  子ども達の中には、共用品に触れ、共用品がどうやってできているのか知りたくてうっかり分解してしまう子もいます。 大人の視点に立つと一見「壊した」と取れるような行動も、実は飽くなき探求心の結果生じたものもあるように感じます。 子ども達の多くは、共用品の配慮を知ることで、街中にある点字、音声や文字での案内表示の意味や、それを使う人に心を寄せ、大切に扱おうとします。 やがて社会を担う子ども達が、共用品の配慮やそれを作る人達の思いを知ることは大切な要素の一つで、そこに共用品授業を継続することの意義があるように思います。 森川美和 写真1:従来の共用品教材セット(シャンプーの「きざみ」、牛乳パックの切り欠き、アルコール飲料の点字など) 写真2:追加した共用品教材(光、振動、話す室温・湿度計など) 12ページ 国際福祉機器展での展示 新しい日常・多様なニーズ~伝わるマスク展~  2021年11月10日~12日の3日間、国際福祉機器展〈主催:(一財)保健福祉広報協会、(福) 全国社会福祉協議会〉が、東京ビッグサイト青海展示棟で開催され、 最新の福祉機器等が数多く出展されました。  共用品推進機構は、主催者コーナーの一つである「日常生活支援用品コーナー」で「新しい日常・多様なニーズ~伝わるマスク展~」と題して企画・運営を行いました。  このコーナーでは今までに「片手で使えるモノ展」、「いつまでも元気で働く『10のコツ』展」、「マイサイズ展」、「十人十色展」などを行い、多くの方に来ていただいています。 21年は、コロナ禍で人々の生活に欠かすことができなくなった「マスク」をテーマに、(一社)日本衛生材料工業会および杉並区障害者団体連合会にご協力いただき行いました。 コロナ禍の不便さ・ニーズ調査  「伝えるマスク展」は、杉並区障害者団体連合会が所属団体の会員に行った「コロナ禍における『不便さ・ニーズ調査』」のさまざまな声が基になっています。 この調査結果とともに、マスクに関する日本産業規格(JIS)をパネルにして紹介しました。 アクセシブルなマスク  展示したマスクで、障害のある人たちも使いやすい特徴は次のとおりです。 ・耳の不自由な人の中で、相手の口の形を読んで理解している人のために、口があたる部分は透明のシートになっているマスク ・眼鏡をしている人の眼鏡が曇りにくいマスク ・耳にゴムをかけることが困難な人のために、頭の後ろで留めるタイプのマスク マスクの周辺のモノ  マスクをすることで困難になるコミュニケーションを、筆談器やコミュニケーション支援ボードを使い補完することを紹介しました。 その他にも、マスクをはずした時にも首にかけておけるネックストラップや収納するためのマスクケースも紹介しました。 展示会の様子  3日間の展示会では、多くの人がブースに来られました。来られた方のうち約200人に、「どんなマスクがあったら良いですか?」と、質問したところ、 ・耳が痛くならないマスク ・自分の顔のサイズに合うマスク ・眼鏡をかけていても曇らないマスク ・ずれて鼻がでないマスク ・かぶれないマスク ・口の形が分かる透明なマスク などがあげられました。  来場者の多くはマスクのJISができたことを知らず、基準ができたことを歓迎する声が多くありました。 聴覚に障害のある人からは、口の前が透明で、口の形が見て分かるマスクを、周りの人が着け始めてくれたとの話も聞くことができました。  欠かすことのできなくなったマスクへの関心は高く、タイムリーな展示となりました。  より多くの人が使いやすいマスクや、コミュニケーション方法が研究され、発展していけばと思った次第です。 田窪友和 写真1:「アクセシブルなマスク」「マスクのJIS」パネル 写真2:伝わるマスク展の会場様子 13ページ キーワードで考える共用品講座第129講「共用品と生活支援工学」 日本福祉大学 客員教授・共用品研究所 所長 後藤芳一(ごとうよしかず) 1.日本生活支援工学会  私事ながら、6月21日に開かれた総会と理事会を経て、日本生活支援工学会の代表理事(会長)を申しつかりました。 何卒よろしくお願い申し上げます。  「生活支援工学」は、暮らしの不便さを補いそれを支える技術ですので、共用品や福祉用具もこのうちに入ります。 共用品の関係者では、山やまうち内繁しげる先生が三代目の会長を務められました。 このように共用品にも関わりの深い学会ですので、この機会に少しご紹介させていただきます。 2.学会設立の背景と政策  学会は2020年に設立20年をむかえました。 今年の総会の際に記念講演会を開きました。 経済産業省、厚生労働省などが参加、経済省医療・福祉機器産業室長から基調講演いただきました。  この学会は「学会同士の連携や、学会と福祉実務者のつながりが不足、社会から見て学界の窓口がわからないなどの課題に対応するため、 社会への学界の代表窓口、異なる専門分野の連絡・協力、この分野の学術に体系を与える」(斎藤正男〈さいとうまさお〉初代会長「設立主旨」、学会ホームページ〈意訳〉)という目的で設立されました。  背後には、福祉用具法(1993年施行)で始めた福祉用具産業政策のもとで「①政策と②知見を蓄積・共有するしくみが“車の両輪”として必要」という問題意識がありました。 幅広い省庁から設立時に出席、学会誌に寄稿いただくなど、学会はこの分野の窓口の役割を担ってきました。  学会は元は工学やリハビリテーションの関係者が中心でしたが、筆者の前任の大野子(おおのゆうこ)会長(大阪大・看護)の代で看護や医療関係者の参加が増え、学会の中核を担いつつあります。 学会は、福祉用具の倫理審査を受託するなどの事業をしてきました。 20周年に合わせて、若手を中心とする「未来構想タスクフオース」が10年戦略(2020年)をまとめました。 ①社会実装、②エビデンス、③それを支える思想性が柱です。 21年度には、若手への研究助成制度を設けました。これらを受けて会員数は増加に転じました。 3.学会の役割と可能性  学会の役割の第一は、新しい学理を創る。複合する課題を多分野の知で解くアプローチは、学術として新しい領域です。 第二は、社会課題の解決です。暮らしを支え事業機会を創り、政策に反映させる。実践の学として社会に働きかけます。  第三は、エビデンスです。福祉用具の活用はまだ実力に見合うものでなく、供給側が効果のエビデンスを示せていないことが一因です。 産業界でエビデンスを整理する取組みが始まりつつあり、学会も寄与をめざしています。 第四は、産業界との協力です。 一部主要企業経営者が新しく学会運営を担いはじめました。川下(需要)に続き、川上側との連携を深めます。  第五は、他の分野への寄与です。環境、労働ほか社会課題が山積です。 高齢化で世界に先行する目本発の策は、お手本として国内外の他の分野に寄与できる可能性があります。 分野の土台を作るところに加われば、研究も事業も、他にない競争力を持てます。 4.共用品との関係  共用品の考え方は日本が世界に先がけて発案し、実践を中心に世界をリードしてきました。 その特徴をより明確に説明し、さらに広く深く普及させるためには、理論的な整理や利用効果のエビデンスが必要です。 こうした問題意識から、共用品推進機構は2017年に共用品研究所を設けました。 機構に蓄積されてきた実践の事例や情報をもとに、国内外のハブとして研究を後押しするためです。 研修事業などを行ってきました。  研究の成果は、人類共通の財産として社会に寄与します。 確立した知であることを検証するのが学会であり、認知された知の姿の代表は論文です。 学会はメディアの性格も持ち、学術という共通の言語で交流や発信する媒体になります。 日本生活支援工学会は、共用品の研究成果の発信先として活用をお待ちしております。 14ページ 日本点字図書館 新館長に立花明彦(たちばなあけひこ)氏が就任  東京・高田馬場にある社会福祉法人日本点字図書館(以下、日点という)。本年4月1日、同館理事長、館長の人事が発表された。 館長に立花明彦氏、前館長の長岡英司(ながおかひでじ)氏は同館理事長に、前理事長の田中徹二(たなかてつじ)氏は会長に就任した。  今回は、新館長となった立花氏を紹介したい。 みんなと同じ道ではつまらない  立花氏は広島県出身。10歳で緑内障を発症し、盲学校に転校した。現在の視力は0・01。弱視者である。 前職は静岡県立大学短期大学部社会福祉学科教授。大学で教鞭をとりながら、20年以上、図書館情報学の研究を続けた。  大学進学時、視覚障害者の多くは、職を得やすい社会福祉学を専攻する。 しかし、みんなが進む道はつまらないと、先輩に勧められた図書館情報学を学んだ。 職員140名の生活を支える覚悟  実は立花氏、過去に10年間、日点に勤務していた。日点を退職し、大学で研究を続けていた昨年、日点から館長就任の依頼があった。  館長就任を依頼されたとき、日点職員140名の生活を支えることができるか考えたという。 そして、強い覚悟を持って依頼を承諾。館長就任は「結婚よりも大きな決断」だったという。  館長として日点に戻る決心をしたのは、まだ視覚障害者の読書環境は不十分であると感じているからだ。 環境を整えるために、これまで自身が続けてきた点字図書館利用者のニーズ研究が、日点の底上げに役立つと考えている。 また、日点利用者数を増やすことも検討している。 日点の役割  立花氏は、視覚障害者の読書環境について、もっと研究者に関心を持ってほしいという。 日点は多くの貴重な資料を収蔵しており、それらを研究者に提供し研究に貢献することができる。 また、本来図書館は、文化伝承の機関でもある。盲人文化を次の世代に伝える責任を全うしながら、日点を運営していく方針だ。 インタビューを終えて  立花氏は、インタビューの中で、何度か「私は日点を去った人間だったから」と口にした。 彼の館長就任を切望した人たちは、その「去った人」に日点に対する客観的な評価を期待しているのではないかと感じる。 新館長の取り組みは始まったばかり。利用者にとって、これからどのような魅力が日点に加わっていくのか、共用品推進機構としても楽しみである。 金丸淳子 写真1:立花明彦氏 写真2:日本点字図書館 15ページ 広がる良かったこと調査 那覇市の良かったこと調査  「地域における良かったこと調査」は、東京の杉並区からはじまり、沖縄県、岡山県と続いた。 そして2021年度はNPO法人バリアフリーネットワーク会議が、那覇市地域福祉基金の補助を受け、「那覇市の良かったこと調査」を実施した。  「公共交通」「外出・観光」「防災」の3つを柱に、質問項目は①飲食店、②スーパー・コンビニ、③ホテル等宿泊施設、④観光地、⑤公共施設、⑥公共交通機関、⑦防災関連の7項目となっている。  この冊子は、那覇空港、那覇バスターミナルにある「しょうがい者・こうれい者観光案内所」、那覇市役所、那覇市社会福祉協議会、首里城、公共交通機関に設置、配布されている。 回答の良かったモノやコトの一部を紹介する。  「首里城に行った時、城内はエレベーターがないので困っていたところ、昇降機があり、車イスはスタッフが持つのを手伝ってくれたので、楽しく見学できた。(20代男性、上下肢障害)」、 「中央公民館は急な階段です。入口に『介助が必要な方は職員が対応する』という貼紙があり、心遣いが感じられました。(70代女性)」、 「メニューの字が大きくて見やすかった。(60代男性)」、 「杖を使ってレジで会計していると、レジの店員さんが会計終了後、他の店員を呼んで袋づめをしてくれてとても助かった。(60代女性、下肢障害)」など、 貴重な良かったの声が寄せられた。 木原慶子 写真:那覇市良かったこと調査 良かったことを題材に  3月28日、事務所にNHKのディレクターをしている小林大我(こばやしたいが)さんから電話で、「共用品推進機構が行っている『良かったこと調査』を、 NHKのEテレで新たに始まった『リフォーマーズの杖』という番組で取り上げたい」と連絡があった。 お笑い芸人さんが現場を取材し、その映像を元にスタジオで「良かったこと調査」の意味を検証する企画。  電話の翌日、小林さんが来所、今までの良かったこと調査報告書を前に、意見を出し合った。 その結果、ロケは近くに国立障害者リハビリテーションセンターがあり、さまざまな障害者が多く訪れる新所沢東口商店街に決定。 小林さんに商店街会長を紹介すると、すぐに訪問し撮影の許可を得るとともに、撮影する店には事前に伝えずシナリオなしの撮影にも了解を得ることができた。 撮影は5月2日、芸人のもぐらさんが、ベビーカーに乗せた幼児を連れて買い物をする時に出会った店の人、すれ違う人たちのさりげない気遣いが、6月27日にオンエアされた番組では冒頭に紹介された。 買い物をし、ベビーカーを押して外に出ようとすると、店の人が扉を開けてくれた映像に続いて、「杉並区の良かったこと調査」のイラスト版報告書の該当ページが映し出され、 スタジオの芸人さんたちが「良かったこと調査」について感想や意見を話し合った。 「いいとこ探すって、精神衛生上すごくいいんです」というもぐらさんの感想に、芸人さんたちが「良かったこと調査」を紹介してくれた意味を改めて感じた。 星川安之 NHK Eテレ リフォーマーズの杖6月27日午後7時~オンエア https://www2.nhk.or.jp/school/movie/bangumi.cgi?das_id=D0005270097_00000 16ページ 共用品推進機構の事業 【事務局長だより】 星川安之  共用品推進機構は、誰もが暮らしやすい社会の実現という途方もない目的に向かって、3つの事業を行っている。 3つの事業の1つ目は、現状を知ること、2つ目は現状を知って見つかった課題の解決策をねること、そして3つ目は、 1つ目の現状、2つ目の解決策及び解決策から生まれたモノやコトを広く社会に知ってもらう各種普及事業である。  この3つは、1つ目の調査が終わると、2つ目に取り掛かり、2つ目が終わると3つ目の普及に取り掛かるといった順に行っている。 順に行ってはいるが、1つ目の調査で出てきた課題は、たいてい四方八方に広がっているため、2つ目の課題解決は同時並行で複数進めていく場合がほとんどだ。  共用品推進機構の前身である市民団体のE&Cプロジェクトの活動を例にとると、始まりは視覚に障害のある人の朝起きてから夜寝るまでの生活を、視覚に障害のない人たちで聞くことからスタートした。  聞いた約30名のメンバーはさらに深く知るために、二人一組となり、視覚に障害のある人の家庭訪問を繰り返し行った。 20名のヒヤリング結果をもとに、アンケート項目を作り、それを約300名の視覚に障害のある人に回答してもらった。 この回答は、パンドラの箱をいくつも開けたように無数の「応用問題」が出題された状態となり、途方にくれた。  家の中の不便さ、家の外の不便さ、モノに関する課題、サービスなど無形のコトに関する課題など、まさに四方八方に分かれた課題であった。  さらに、対象を聴覚に障害のある人達、肢体に障害のある人達に広げると、四方八方にランダムに広がっていくと思われた課題が、 製品であれば、表示、操作性、パッケージなどに集約できることに気づいた。  集約できることが分かると、共通の解決方法が見つかりはじめた。 例えば、それまでは「表示」というと目で見るものとばかり思っていたところ、触って分かる、聞いて分かるなども「表示」ととらえることができる思考になってきたのである。  その共通の解決方法は、それまで遠い存在であった日本産業規格(JIS)を身近なものにした。 しかもそれは、JISに留まらずに、国際標準化機構(ISO)までも、身近に手繰り寄せることになった。  そこまでにも多くの人が、後ろから押し、前から引っ張ることを繰り返し行った結果、今までにJISは43種類発行されるに至っている。  今回の特集は、調査、ルールづくりの次の「普及」を、どのようにしていけば良いかを考えるための中間報告の意味合いもある。  共用品の普及事業を始めて30年がたち、31年目に突入しているが、四方八方に広がった事業を、連携させながら、 誰もが暮らしやすい社会という途方もない目標に近づくことを続けていきたいと思っている。 共用品通信 【イベント】(オンラインイベント)アーカイブ配信あり 本の街で、こころの目線に合わせる~「障害」ある人の「きょうだい」と考える~(6月10日) 【共用品推進機構 会議】 令和3年度会計監査(5月25日) 理事・評議員・監事意見交換会(6月30日) 【委員会】 第5回ISO/TC173/SC7/WG7 WD6273規格作成会議(5月16日・26日、金丸) 第6回ISO/TC173/SC7/WG7 WD6273規格作成会議(6月27日、金丸) 第1回AD国際標準化委員会(7月22日) 【講義・講演】 ネパールにおける指導員の養成講座(6月12日、星川) NTT西日本(6月21日、星川) 東京都杉並区立高井戸第四小学校 オンライン共用品授業(6月29日、森川) 西荻窪地域区民センター講座(7月5日、星川) 早稲田大学(7月16日、星川) 【報道】 NHK「リフォーマーズの杖」(6月27日) 時事通信社 厚生福祉 5月20日 民生委員の経験や工夫から学ぶ 時事通信社 厚生福祉 6月7日 「フェア」の連鎖が産み出す声掛け 事通通信社 厚生福祉 6月28日 クレヨンと社会モデル  日本ねじ研究協会誌 4月 障害のある人がいるが普通の街 日本ねじ研究協会誌 5月 ハイヒール・フラミンゴ トイジャーナル 6月号 『共用品って、何だろう?』をWEBで公開 トイジャーナル 7月号 スマイルサッカー教室 福祉介護テクノプラス 6月号 パンフレット『共用品ってなんだろう』 福祉介護テクノプラス 7月号 アジアにおける新たな生活様式に関する調査 高齢者住宅新聞 5月4日 「つり革・商品棚」 高齢者住宅新聞 6月8日 96歳の時計店店主 シルバー産業新聞 7月10日 共用品の伝え方 アクセシブルデザインの総合情報誌 第139号 2022(令和4)年7月25日発行 "Incl." vol.23 no.139 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2022 隔月刊、奇数月25日に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:https://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 編集長 星川安之 事務局 森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、木原慶子、田窪友和 執筆 後藤芳一 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙作成 西川菜美 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。 その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。