インクル140号 2022(令和4)年9月25日号 特集:事務局 Contents 「妹が生まれなかったかもしれない世界」 2ページ 日本おもちゃ大賞「共遊玩具部門」とは? 3ページ みんなが望む在宅ケアをめざす日本訪問看護財団の活動 4ページ 事務局を交流の要に-情報とつながりを大切に- 5ページ 日本障害フォーラム事務局について 6ページ 視覚障害当事者団体事務局としての役割と思い 7ページ 本部事務所の役割は基盤づくり人材づくり 8ページ おもちゃの図書館全国連絡会の事務局を担って 思っていること 9ページ 日本通信販売協会の事務局とは 10ページ 事務局は、脚本家 11ページ 国際福祉機器展の特性と、事務局の運営の基本 12ページ キーワードで考える共用品講座第130講 13ページ 「きつねとたぬきプロジェクト」への想い 14ページ 目からウロコの共用品 ご存じですか? 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 2ページ 「妹が生まれなかったかもしれない世界」 ~出生前診断と向き合って~  NHK名古屋局が制作した、「目撃!にっぽん“妹が生まれなかったかもしれない世界 ~出生前診断と向き合って~”」(2021年11月放送)が今年6月、第48回放送文化基金賞 最優秀賞を受賞した。 ダウン症の妹がいるディレクター、植村優香(うえむらゆうか)氏が、自身の家族や、出生前診断で胎児にダウン症などの可能性が高いとわかり、産むかどうかの決断をした女性たちに話を聞いている。 植村氏は、「妹と共に歩む自分の経験を伝えていくことが、何かの役に立つかもしれない」と考えた。妹の彩英(さえ)さんは放送当時18歳。今年、社会人になった。 新型出生前診断(NIPT)  妊婦の血液を検査し、ダウン症など胎児の染色体異常を調べる新型出生前診断(NIPT)が2013年から始まった。 それ以前に行われていた検査方法よりリスクが低く精度が高いため、検査数は増加している。 そして、胎児に障害がある(検査結果が陽性)とわかった妊婦の9割が中絶を選んでいる。 「あのときの自分なら産まなかったと思う」 植村氏の両親へのインタビューから、ダウン症の子供を産むことの現実を知る。彩英さんの妊娠がわかった当時、NIPTが普及していたと仮定した質問に、「(NIPTを)受けていたと思うよ。(中略)あのときのママだったら生まなかったと思う」と答えている。 植村氏は衝撃を受けた。見ている側も、だ。そして、「自分がどういう不幸になるのか、そういうことばかり考えてた」。 しかしその後で、「あのとき、そういう検査が一般的じゃなくて良かった」「いまは彩英がいないとダメだし。結局、家族になっていくんだよね」と続いた。  検査で障害があると知った女性たちへのインタビューも紹介されている。 子供を産む選択をした人は、「事前に障害があることがわかっていたので、妊娠中に出産後の準備ができてよかった」と言った。 産まない選択をした人は、「植村さんの両親の話を聞いていたら産んでいたかもしれない」と、自身の選択を後悔しているように見えた。 出産を躊躇しない社会  ダウン症の子供を育てている様子は、ブログなどで見ることができる。しかし、その子が成人した後の生活や、支援のための福祉情報はあまりなく、宿った命をどうするかという重大な決断をするには、情報が乏しい。 もしも子育てにサポートを受けられ、夫婦が共働きでもダウン症の子供を育てている人がいることを知れば、中絶率9割が、8割、7割と下がるかもしれない。  番組は、成人したダウン症の男性が働く様子や、NIPTの結果が陽性だった親で、中絶した人、しなかった人の話を聞けるよう、中立の立場で親を支えるNPO法人「親子の未来を支える会」を紹介している。 彩英さんに放送内容をどこまで見せるか、家族で考えたそうだ。しかし、当の本人は自分で録画を再生し、テレビに出たことを喜んでいるという。社会に出た彩英さんの仕事ぶりなど、これからの成長も見てみたい。 金丸淳子(かなまるじゅんこ) 写真:植村氏(左)と彩英さん(右) 画像出典:NHK WEB特集 3ページ 日本おもちゃ大賞「共遊玩具部門」とは? トイジャーナル編集局(東京玩具人形協同組合)  玩具業界では、多くの人におもちゃを「知ってもらおう」「楽しんでもらおう」という目的で「日本おもちゃ大賞」(主催:一般社団法人日本玩具協会)を開催しています。 今年で14回目となる「日本おもちゃ大賞2022」が6月14日に発表され、7部門・35点の大賞・優秀賞が決定しました。 その1つに「共遊玩具部門」があります。選考基準は、「目や耳の不自由な子もそうでない子も、障害の有無に関わらず楽しく遊べるよう『配慮』がされた玩具」となります。 直感的な操作ができる工夫  今回大賞に輝いたのは「アンパンマン 光るドレミファ♪マジカルボンゴ」(アガツマ)です。 目が見えなくても直感的に操作できるように、機能によって形状の異なるスイッチボタンや、触って識別しやすいキャラクターのレリーフの付いた打面、 さらに鍵盤のタッチパネル部に貼ることのできる点字シートを希望者に無償で配布する配慮なども高く評価されました。 また、音に合わせて3つの打面が光るので、耳の不自由な方もリズムが分かってメロディが楽しめます。  この商品を開発したアガツマ・開発部係長の竹内まや(たけうちまや)さんは、「最初から共遊玩具を目指していたわけではなく、以前から楽器玩具に感じていた不親切さや不便さを解消して、単純に楽しく遊びやすくしたいという思いで配慮を重ねた」と語っています。 手触りや音声で遊びをサポート  そして、優秀賞を受賞したのは以下の4商品です。  「アンパンマン PUSHでふくらむ♪プクプクふうせんやさん」(セガトイズ、写真①)は、触って識別できるようにすべての風船が異なる形をしているほか、ふくらみ具合の確認を促す楽しい掛け声やメロディも盛り込まれています。  「おさつでスイスイ!セルフでピピッ♪アンパンマンレジスター」(セガトイズ、写真②)は、ボタンの形状や操作音の違いで直感的に遊べ、スロットにガイドを付けることでカードの挿入操作がとてもスムーズにできる点もポイントです。  「光る!まわる!カラフルライトできみはスター!おうちでアンパンマンカラオケ」(バンダイ、写真③)はピカピカ光るカラフルなライトの中でカラオケ遊びが楽しめ、ボタンの形や位置などアンパンマンの声による音声ガイダンスで簡単に操作ができます。  「カラーオセロ ビタミンオレンジ/インディゴブルー/パールブラック」(メガハウス、写真④)は触ってストレスなく色が識別できるようなオセロ石の形状で、盤面に仕切りがあることで石がずれにくくなっている、などの配慮がされています。  おもちゃ大賞を通じて、優れた共遊玩具の数々を多くの人に知ってもらうとともに、さらなる開発につながっていくことも期待されています。 写真1:共遊玩具部門の大賞を受賞した「アンパンマン 光るドレミファ♪マジカルボンゴ」(アガツマ) 写真2:共遊玩具部門 優秀賞4点 4ページ みんなが望む在宅ケアをめざす日本訪問看護財団の活動 日本訪問看護財団 常務理事 佐藤美穂子(さとうみほこ)  都道府県知事等の指定を受けた「訪問看護ステーション」から看護師等が住まいに出向いて看護を行う制度ができたのはちょうど30年前のことです。 そして22年前には介護保険制度が始まり、訪問看護ステーションは健康保険法等医療保険のみならず介護保険法にも則り、すべての在宅療養者に訪問看護を保険で行うようになりました。 訪問看護ステーションは全国に約1万4千か所あり、その6割近くは会社が経営しています。 職能団体としての活動  私たちができることは、訪問看護の職能団体としての役割です。当財団は、訪問看護師を増やし、質を高め、働きやすい職場環境づくりの好循環をめざしています。 4か所の当財団直営の事業所を含め現場の意見を取りまとめて、制度改正や報酬改定の要望を厚生労働省の保険局や老健局に提出します。 訪問看護関連情報を当財団機関紙やホームページ、会員通信サービス、雑誌等に掲載します。 現場が必要とするセミナーは現在、オンデマンドとWeb開催により、受講者の利便性を図っています。 現場を支援する無料電話相談は年間約7千件受けています。 とにかく訪問看護サービスは医療も介護も特定疾病や精神通院医療、生活保護などの公費負担医療にもかかわっており、複雑です。 縦割りになっている行政の窓口では解決せず当財団が代わって相談を受けているようなものです。 利用者からのクレームもありますが、私たちは行政ではないので指導権限はなく、工夫などを一緒に考えて助言します。 コロナ禍での現場支援  2020年からコロナのパンデミックが日本にも押し寄せマスク生活が始まりました。現場では感染防護具が入手困難な時に日本財団等からの寄付金で購入して無償配布をしました。 また、ワクチン優先接種者から訪問看護師が外れていたので国に要望して打てるようにしました。2年間に5回会員調査を行いコロナの影響をまとめて関係者に情報提供してきました。 自宅療養者への訪問看護師向けマニュアルを作成し全国に無償配布などもしています。 これからの取組の課題  2024年度の医療・介護・障害福祉のトリプル改定に向けて準備します。ICT活用をさらに広げて、間接的な業務の効率化を図り、訪問看護に専念できる時間を増やしたいと考えています。 写真1:コロナ禍で利用者からの相談を受ける訪問看護師 写真2:厚生労働省保険局長への要望書の手渡し 5ページ 事務局を交流の要に-情報とつながりを大切に- 認定NPO法人日本障害者協議会事務局 荒木薫(あらきかおる) ゆるやかなつながりを大事に  日本障害者協議会(略称JD)には、現在61団体が加盟しています。当事者、家族、リハ・医療や福祉の専門職、研究者、事業者など、障害に関わる多様な団体が横につながる組織です。 これらの団体が、JDの原点である国際障害者年(IYDP)のテーマ「完全参加と平等」実現をめざして42年前に大同団結して以来、加盟団体の内訳は変遷しながらも、 強い結束ではないけれどゆるやかにつながりを続けることを大切にしており、そのことを常に肝に銘じて事務局に携わってきました。 情報交流の要かなめとしての事務局  今は昔ですが、インターネットが普及する前は、沢山の郵便物を毎日のように出していました。現在は、障害に関わる様々な情報を、加盟団体・関係者に随時メールで発信しています。  情報提供は事務局の大事な役割であり、事務局は情報が行き交う要でありたいと思っています。 事務局からの情報提供だけではなく、各団体の声や意見、セミナー等催事の告知などを事務局に知らせてもらうよう、折々に呼びかけています。 JDは障害の種類、立場、考え方の違いを越えた団体で構成していますので、各団体の情報を拡散し合うことでお互いを知り合い、理解し合うことにつながると思うからです。  時代の趨勢がICTになり、伝達方法が変化(進化)しましたが、情報と人とのつながりが最も重要ということは、おそらくどの分野においても不変だと思います。 とはいえ情報過多の現代ですから接する情報は限られ、選択も必要ですが、JDやJDの枠を越えて広く知ってほしい情報をできるだけわかりやすく伝えることを心がけています (早く届けたいため素のまま発信、ということもあります…)。 情報交流により、運動が活性化されることも期待しています。 活動の基盤作り  様々な場面で法人格が求められるようになりましたので、2012年、JDはNPO法人となりました。活動の基盤作りは、言うまでもなく事務局の根幹です。 日常の会議等でも、事務的なことに気をとられることなく、核の部分を存分に議論できる土台作りを担うのが事務局の役割だと思います。 紙の資料作りは試行錯誤の連続ですが、文字が判読できて見やすいように、めくりやすいように、と考えながら作ります。 視覚障害などの理由で活字が読めない方向けに、可能な範囲ですが、文書のテキストデータ化もJD事務局の大切な仕事です。 反響は事務局の醍醐味  活字媒体もJDは大切にしており、毎月『すべての人の社会』を発行しています。本文16頁に、最新情報から普遍的な課題まで織り交ぜています。 加盟団体を思い浮かべながら、障害の種類などが偏らないように企画・編集しています。 最近では、7月の参院選に向けて始めた投票バリアフリーキャンペーンへのマスコミの反響が望外に大きく、各社で取材・広報を展開され、投票所の環境が改善されたとの成果の声も届きました。 運動体の事務局としてとても嬉しいことです。 8月には、国連での障害者権利条約の日本審査をウェブTVで視聴できることを再三発信しました。今後の障害政策に関わる貴重な場面を自宅でも視聴できるという情報です。  運動の生命とも言える情報交流をこれからも大切にしていきたいと思います。 写真1:毎月の情報誌の変遷 6ページ 日本障害フォーラム事務局について 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 君島淳二(きみじまじゅんじ)、原田潔(はらだきよし)  現在当協会を含む13団体で構成される日本障害フォーラム(Japan Disability Forum)(以下、JDFと略す。)が設立されたのは2004(平成16)年です。 3年後の2007年にそれまでの設置規程が見直され定款となりました。 2007年は障害者権利条約に日本が署名した画期的な年で、定款への格上げは未来志向の現れと言えるでしょう。 その後の条約を取り巻くJDF活動の詳細は省きますが、本年8月のつい先日、条約批准国に課せられた実施状況報告(建設的対話=対日審査)がスイスのジュネーヴで行われ、 市民側の意見を集約したパラレルレポートを携え、JDFの構成団体の代表が現地に赴き、日本の障害者が置かれている現実をプレゼンテーションしました。 後日この審査を受けて日本にどのような勧告がなされるか大いに気になるところです。  JDF定款の第35条に事務局についての定めがあり、正会員団体の一つに事務局を置くこととなっています。 当初は3年間で持ち回る発想があり、その旨の記載もあるのですが、結果的に現在まで当協会がその任を引き受けています。 このたびの対日審査のように時と場所とその目的がはっきりしているミッション(使命、任務)があるときは、事務局の役割は非常に明確であり、その存在も価値も高まりますので、裏方から表舞台に出ざるを得なくなります。  事務局の機能として最も重要なものは、時間軸を前提とした過程(プロセス)の管理、いわゆる日程調整、日程管理だと認識しています。 計画どおりに物事を動かすというのは当たり前に見えて神経を使うものです。 特に、時間という万人に共通に与えられている貴重なものの一部を切り取らせて、その間、他の社会的活動を制約させて、その時間中は特定のミッションのために組織や人のスキル(技能)を使わせるのですから、考えてみれば、とんでもなく絶大(不遜?)な権限を行使しているとも言えます。  「段取り8分(はちぶ)、仕事2分(にぶ)」と教えられて今まで人生を歩んできました。今で言えば、「準備8割、本番2割」とでも言うのでしょうか。それはよく大工仕事に例えられました。 家を建てるにあたっての設計、材料、人区、工具を揃え、塗装、水まわり、植栽など全ての手配をする。昔はこれを行うのが棟梁と呼ばれる人でした。 大工の棟梁というのは大工の親分であるだけでなく、家を建てる(ミッション)についての全責任者でもあったわけです。 棟梁の頭にある計画策定、人的手配、進捗管理、危機管理の全てが段取りと言われるものです。棟梁は大工以外の仕事においてもその仕事の達成に関する重要なポイントを把握し指示する能力も持っていました。 材料に不備があれば交換させます、塗装にムラがあればやり直しさせます。 大工職人には家でしっかり鉋かんなの刃を研いでおけ、と個別指導(アドバイス)したとも言います。  私は人生経験の浅い頃は、自分の役割がいつも段取りばかりやらされていると愚痴を漏らしたものです。しかしそれは誤解でした。 本当に実力のある人、様々な人から信頼を得る人、脚光を浴びる人というのは、実は段取りにおいても一流の実力の持ち主だということがわかったのです。 気配り、目配り、配慮の塊のような仕事をしないと、とても8割を達成することも難しいということに気づかされました。  一流の事務局を担うにはまだまだ未完成な協会と言わざるを得ませんが、せいぜい、少なくともJDFの皆様の潤滑油となる程度のお役には立ちたいと思っています。今後のご支援をよろしくお願いします。 7ページ 視覚障害当事者団体事務局としての役割と思い 社会福祉法人 日本視覚障害者団体連合 組織部長 三宅隆(みやけたかし)  日本視覚障害者団体連合(以下、本連合)は、全国47都道府県ならびに13政令指定都市の視覚障害者団体の連合組織です。  本連合の最も大きな役目としては、視覚障害者の生活向上と社会参加を促進するため、さまざまな諸課題の解消に向けた要望を取りまとめ、国や関係機関に働きかけています。  要望書を取りまとめて提出する流れとしては、まず、本連合の加盟60団体と、青年、女性、音楽家、スポーツ、あはきの協議会から要望内容を提出してもらいます。 事務局では、提出された要望内容を確認し、職業、バリアフリー、生活のカテゴリーに振り分けていきます。 そして、振り分けた要望内容案を基にして、カテゴリーごとに加盟団体と協議会の代表者が参加する検討会を開催し、内容について協議します。 検討会終了後は協議された内容を基に、事務局で提出した団体や協議会にも確認した上で修正を行います。 そして、年に1度開催している全国視覚障害者福祉大会内で行う団体長会議において団体長の了承を経て、各府省庁や関係機関に提出する陳情書として整理し、陳情活動を行います。  このような一連の流れの中で、事務局としては全国の視覚障害者団体の要望がスムーズかつ適切に国や関係機関に届くために注力しています。  まず、各団体から提出された要望を基にカテゴリーごとの検討会を開催するまでに、材料となる資料を作成していきます。 資料は、参加する視覚障害者が使いやすいものを選択できるよう、通常の文字の大きさ、ポイントを上げフォントも変えた拡大文字のもの、さらにテキストデータを用意します。 全国視覚障害者福祉大会の団体長会議用としては、これに点字の資料も加わります。  以前は、検討会や団体長会議などは、いわゆる対面形式で行っていましたが、昨今のコロナ禍により対面形式で行うことが難しくなっているため、オンライン会議ツールを併用しての開催としています。 対面形式とは違って、オンライン会議では会場の雰囲気を感じられないので、発言するタイミングを取ることが難しくはなっていますが、会場に直接出向くことがないため、 会場まで移動する時間や、移動そのものの困難さが軽減されるため、かえって参加しやすくなってきています。  とはいえ、オンライン会議ツールを使って会議を行うためには、参加する方が操作に慣れてもらう必要があります。 そこで、事務局として、会議の当日までに会議への接続や必要な操作について練習してもらえるよう接続テストの機会を作って個別に対応しています。 写真1:第75回全国視覚障害者福祉大会(名古屋大会)で、オンライン会議を併用して開催した団体長会議のサポートを事務局職員が行っている様子 写真2:陳情活動の一部として、鉄道会社に陳情書を提出し意見交換を行っている様子 8ページ 本部事務所の役割は基盤づくり人材づくり 一般財団法人全日本ろうあ連盟 本部事務所長 倉野直紀(くらのなおき)  本部事務所の役割は?と問われると、うまく説明できませんが、私は『駅』のようなものだと思っています。  駅は、街の玄関口であり、街の顔です。  また、インフラとしても、街や社会の発展に重要な責務を負っています。そして、電車を目的地に正確に走らせなければなりません。  当連盟は結成から70年を超えました。現在、社会情勢はかなりの速度で進み、障害当事者を取り巻く環境も同様にかなりの変化を遂げています。 その中、当連盟の活動や中心となる当連盟の二十数名の理事、そして加盟団体を支えていく本部事務所も、スピード感をもって対応する力が求められています。  事務所は組織の活動を支える重要な役割を持っていることを、いつも痛感しながら、以下のことを心掛けるようにしています。 理事たちを支える基盤を  理事たちは、いつも本部事務所にいるわけではありません。また、本業の傍ら、当連盟活動をするのは、かなりの負担となります。  職員は様々な情報や資料、データを分析し、理事たちが効率的に活動できるよう支える必要があります。職員は理事の伴走者なのです。 そのためには、理事と職員が良い関係のチームを作れることが必要であり、所長はそのマネジメント力が必要です。 また、様々な人や組織を見極め、つなぐ力も必要です。  そして、理事たちが、理事会や評議員会の活動方針や目標に沿って活動に邁進できる基盤を作っていくことを心掛けています。 基盤づくりは人材づくり  本部事務所は、理事や連盟の活動を支える重要な役割を果たしていますが、そのためにもっとも重要なのは「人材」なのです。  組織はそこに関わる一人一人が集まった集団で成り立っています。だからこそ、本部事務所の職員一人一人がスキルアップしていくことが、組織にとっても大変重要です。  職員には、理事に言われたからするのではなく、その仕事の意義や重要性を認識し、その仕事の「面白さ」を感じてもらえればと思います。 職員も活躍できる場を作ることが大切なのだと思います。そうすれば、理事と職員のコミュニケーションが高まり、良いチームプレイができるのです。 また、職員にその気づきを与えることや、外部と関わる機会を増やしていくことで、理事や職員の視野が広がり、スキルも高まります。  それが当連盟の活動の活性化ひいては社会へきこえないことや手話言語に対する理解促進にもつながると考えています。  私は子供のころの夢の一つに、宮大工になりたいというのがありました。宮大工に関する本を読み漁りました。  あこがれた「法隆寺の鬼」と呼ばれた宮大工棟梁の西岡常一(にしおかつねかず)氏の言葉で忘れられないものがあります。  「塔組は、木組み。木組みは、木の癖組み。木の癖組みは、人組み。人組みは、人の心組み。」  今も改めてかみしめている言葉です。 写真1:全日本ろうあ連盟 本部事務局 9ページ おもちゃの図書館全国連絡会の事務局を担って思っていること 認定NPO法人おもちゃの図書館全国連絡会 増田ゆき(ますだゆき)  おもちゃ図書館は「障害のある子どもたちにおもちゃの素晴らしさと遊びの楽しさを」との願いから始まったボランティア活動です。 情報交換と交流を目的に、1983年におもちゃの図書館全国連絡会が設立され、現在全国のおもちゃ図書館345館が加盟しています。  2014年にNPO法人を取得し、理事は全国各地でおもちゃ図書館活動を行っているボランティアにより構成されています。 事務局は、活動の情報収集と情報発信、研修会の開催、おもちゃ図書館設立の相談支援、活動を支えてくれる様々な企業、個人、社会福祉協議会等との連絡調整などを担っています。 各地のおもちゃ図書館では  おもちゃ図書館は運営主体が多様なため、開館の日数や場所、対象も様々です。でも、「おもちゃがあって、ボランティアがいる。誰もが、ほっとできる場所」を合言葉におもちゃ図書館活動を行っています。 ボランティア活動のため活動費の予算が少なく、新しいおもちゃを購入することが難しい館もたくさんあります。  事務局では、おもちゃ等の寄贈を企業へお願いし、新設や希望する館へおもちゃを配布する機会を作れるように努めています。  おもちゃショーでは、新しいおもちゃの情報を得られるとともに、たくさんの企業から展示紹介されたおもちゃをいただくことができ感謝しています。  寄贈されたおもちゃは、全国各地のおもちゃ図書館に希望をとり送っています。毎回希望が多く、抽選となるほどです。  またコロナ禍、おもちゃの消毒は?どのように開館したらよいか?等の相談を受けました。 全国のおもちゃ図書館に活動状況等の調査をし、つながり続けるための工夫や、開館の工夫等、ホームページやお便りで情報提供をしてきました。 地域の居場所として  全国各地から届く「おもちゃが届きました。みんな大喜びです ありがとう」の写真の添えられたお便りは、ご支援いただいた企業の皆さんからの思いも一緒に届けられたと実感でき、私たち事務局スタッフにとって大きな励みとなっています。  全国連絡会の結成から来年度は40年を迎えます。  子どもも、大人も、ボランティアも一緒に遊び、おしゃべりをし、笑う場が必要です。  おもちゃ図書館は、そんな地域の居場所として、これからも広がっていってほしいと願っています。 写真1:おもちゃ図書館情報誌トイ・ポストは年3回発行 写真2:おもちゃ図書館ではボランティア研修会を実施 10ページ 日本通信販売協会の事務局とは 公益社団法人日本通信販売協会 専務理事 万場徹(まんばとおる)  (公社)日本通信販売協会は、1983年10月に設立されました。当時は通商産業省の所管、1988年には訪販法(現在は特定商取引法)において法的に位置づけられた自主規制の団体となりました。 その後、2012年には公益社団法人となり今日に至っています。設立当初から現在まで消費者保護と業界の健全な発展をめざすという事業目的は変わっていません。 会員の構成は、通信販売を展開している事業者である正会員427社、その周辺を支えていただいているメディア、広告代理店、印刷会社、配送会社など賛助会員172社で構成されています(2022年9月現在)。  設立当初の事務局スタッフは、専務理事、事務局長、プロパー職員、会員社からの出向者3名、そして設立の翌年から新人の小生が加わり総勢7名の小所帯でした。  事務局として最初に取り組んだのは、設立目的である消費者保護です。 そのため、まずは、「通信販売倫理綱領、同実施基準」を学識者、弁護士、消費者団体、関連業界団体、通商産業省(当時)の方々からなる倫理綱領制定委員会を組織し策定しました。 当時も今も会員企業の事業規模は大から小まで様々、制定委員会のメンバーも立場は色々です。 あっちの主張を立てれば、こっちは立たずなど侃々諤々の議論のすえ、消費者保護の視点に基づき自主規制を行っていくという理念の下、最終的に全会一致で決定したものです。 事務局として大きな初仕事で、会員企業からなる倫理委員会のメンバー、出向者の強力なサポートをいただき、まとめ上げました。  一方、消費者からの苦情相談を協会としても受け付けようということになり、1984年5月から「通販110番(現在は消費者相談室)」を立ち上げました。 当時は専門の相談員はおらず、専務理事以下、事務局総出で受け付けていました。 その後通販業界の市場規模の伸びとともに相談件数も増えてきて、1987年頃には消費生活アドバイザーの有資格者が相談を受ける体制に整え、現在に至っています。  当協会は、事業者団体ですから会員同士は競争相手でもあるわけです。机の上では握手するが机の下では足の蹴りあいと、一般に業界団体の会議を象徴するように言われます。 しかし、通販業界は近年、ほぼ年々二けたで成長を遂げてきており、それに伴って消費者トラブルも増加し、行政当局の業界に対する規制強化が相次いでいます。 一部の悪質業者のために大半の真っ当な事業者が負担を強いられるのは避けたいのが本音です。そのためには、小異を捨てて大同につく、業界のスタンダードを業界自らが策定し内外に公表していくという作業が重要です。 そうしたことを業界に対してはもちろん、一般消費者や消費者団体、行政機関、関連団体に対して理解してもらうことこそが事務局の大きな役目であり、やりがいではないでしょうか。  自主規制ばかりでなく、「通信販売酒類小売業免許」や今では当たり前の「フリーダイヤル」導入、最近では「機能性表示食品制度」の導入など、 業界団体として一致団結して業界のニーズを当局に訴え実現したことが沢山あります。最近、事務局として取り組んでいることは、消費者教育、なかでもそれを実践している教職員向けのオンライン講座です。 現在主流になりつつあるネット通販、しかしそれはまさに玉石混交で、詐欺的ネット通販も横行しています。 そこで、学校教育において通販の上手な利用方法などを将来のお客さんである若い人達に教えていただこうという試みです。  このように、事業者団体の事務局としては業界のさらなる発展を目指し、かつ主要なステークホルダーたる高齢者・障害のある人たちも含めた消費者の保護という観点を忘れず、 両者のバランスをとりつつ事業を展開することが何より大事だと思っています。 写真1:ジャドマ正会員に付与されるジャドママーク。消費者教育でも認知を進めている。 11ページ 事務局は、脚本家 NPO法人しずおかユニバーサル園芸ネットワーク事務局 鈴木厚志(すずきあつし)  私達の組織は、2006年に設立し農業や園芸に福祉・教育・医療等を融合させ新しい仕組みを作り出そうと活動を続けています。 活動の中から「農福連携」「ユニバーサル農業」が誕生し多様な人達が活躍する場が広がり農業活性化・経営強化に繋がる事例が出てきました。 行政、企業、農業団体からの委託を受けて調査・研究・普及を行っています。  現在の活動の中心は、農業と福祉を融合し新しいアグリビジネスの構築に力を注いでいます。 具体的なワードに絞ると「農作業改善・障がい者雇用・経営強化」となります。 問いに応える  事務局に電話やメールで問い合わせが入ります。私達の仕事が始まります。特徴としては、分野が広いところでしょうか。  行政や大学からも分野が農業、福祉、医療、経済、環境等様々。 企業からは、障がい者雇用や農業参入について、福祉施設からは、農業技術・マーケティングについてそれぞれの立場からユニバーサル農業への期待や可能性を持たれています。 相手の意図を汲み取り私達に何ができるか考えます。この最初のやり取りがとても重要で最初にボタンを掛け違うと出口のないループに入り込んでしまいます。 立場や業種が違う人たちに同じ説明は通用しませんから言葉を選んで慎重に進めます。大げさなようですがこの対応が仕事の八割を占めると言っていいでしょう。 「問題を課題化する」抽象的な問題が具体的な課題項目に置き換えることができれば後は行動あるのみ。事務局の大きな仕事と捉えています。 広い視野・繋ぐ力  組織名にネットワークとあるように人や組織を繋げる土台作りが私達の仕事です。新しいビジネスや仕組みを作り出すには違う物質同士が混じり合いそこに化学反応を起こさせる必要があります。 農業と福祉の化学反応から健康を創造する新産業が誕生するかもしれません。この化学反応のお膳立てが脚本づくりではないかと思う理由です。 この農業者には、ここの福祉施設や支援機関を紹介しようという段取りが事業の脚本を書いているようで面白い。 実際は、お会いしてみないとどうなるかわかりませんが、この脚本がなければ出逢うこともないのですから大事な役割だと思っています。  脚本を書き続けるために事務局は広い視野とお互いを繋ぐ力を身に付ける必要があります。調査・研究事業が事務局の武器となります。 毎年シンポジウムを行い仲間を募り繋げて行きます。電話が鳴ると腕が鳴る。新たな脚本づくりの始まりです。 写真1:「ユニバーサル農業シンポジウムinはままつ」 写真2:シンポジウム会場様子 12ページ 国際福祉機器展の特性と、事務局の運営の基本 一般財団法人 保健福祉広報協会  国際福祉機器展(以下、H.C.R.)は2023年で50周年を迎えます。H.C.R.はハンドメイドの自助具から最先端技術の介護ロボットまで国内外の福祉機器を一堂に紹介する展示会です。 本年のH.C.R.2022は10月5日~7日、東京ビッグサイト東ホールにて開催。 H.C.R.の基本は、障害者や高齢者、その家族、福祉・介護施設、在宅サービス関係者等が福祉機器を実際に見て聞いて触って試して、比較し選ぶための情報を得られるリアル展の特性です。 さらに福祉機器の開発や需要をリサーチできる機会であり、開発研究者やメーカーが最新情報を共有する場です。 とくに1992年以降、H.C.R.を国際展示会として継続してきたことにより、欧米企業の参加が定着し、アジアからの参加も増え、内外の福祉機器の開発と普及に資する役割を30年にわたり果たしてきました。 また、総合展示会としてのH.C.R.では、介護・福祉・リハビリ・保健・医療等で取り組むべき課題をテーマに国際シンポジウムなどを開催し、有益な情報を発信してきました。 たとえば、日本での介護保険導入に先立ちドイツの介護保険の実態やアメリカの医療・介護の動向、またヤングケアラーなど先駆けて取り上げ国際シンポジウムを開催してきました。 必要となる福祉専門職への情報提供と利用者支援  コロナ禍の影響で2年ぶりのリアル展となったH.C.R. 2021には一般来場者が36%と高い割合になりました。 多種の福祉機器の選択と利用のための20年にわたり「選び方使い方」セミナーや公益事業での利用テキスト頒布を進めてきました。 しかし、個人のADLやニーズに添う選択とマッチングには専門的な知識と相談支援が必要です。 そのために福祉用具専門職、ケアマネジャー、OT・PT、リハビリ・医師、看護師、社会福祉士、介護福祉士、建築士など専門職に向けた情報発信がますます必要です。 障害のある方や高齢の方々が質の高い福祉機器を利用することで、自立や社会参加を広げる可能性が高まるわけですから、利用と普及のために専門職向けセミナーなどを充実させることが今後の課題です。 2040年に向けたH.C.R.の課題  さらに、少子高齢化、人口減少社会に向かう2040年問題への対応が課題です。介護現場では、221万人(2019年)の1・3倍の287万人の介護従事者が必要と見込まれています。 利用者にとってのケアの質の向上と、介護職の負担軽減はますます重要な課題です。 H.C.R.では、常に福祉・介護制度の動向を踏まえつつ、近年、ICTの活用や腰痛などを軽減させる支援ロボットの開発が期待されるなか、新たな開発を働きかける特別展示も行ってきました。 さらに、高度情報化社会にあって、いつでも、どこでも情報を得られるICT環境整備が必要です。 コロナ禍での2021年には、H.C.R.WEB展をリアル展と併催し、来場できない方々が、福祉機器情報を必要なときに得られるICTの利便性を活用できるH.C.R.の情報環境整備に取り組んできています。 企画立案から開催までのH.C.R.事務局の役割  現在にいたるH.C.R.の経過のなかでの事務局の役割は、福祉・介護施設や在宅でのあらゆる場面でのエンドユーザーのニーズや、福祉施設・在宅サービスの現場でのケアの向上のための福祉機器の利用の状況を踏まえつつ、 ①福祉機器の開発と普及を担う国内外の幅広い企業・団体への情報提供と情報収集を図り、展示会参加を働きかけること、 ②専門家の協力により、H.C.R.全体の企画内容の立案をはかること、 ③H.C.R.の開催告知・広報などを図り、展示会等の運営までのすべてを担っていることです。 また、福祉・介護・障害、リハビリ・医療・看護などの制度の動向や課題を踏まえつつ、セミナー等の企画と関係機関への協力要請の調整を行っています。 開催後には、来場者や出展企業等のアンケートや関係者へのヒアリングにてH.C.R.の評価と課題を明確にし、次年度への改善につなげることも事務局の大事な役割です。 13ページ キーワードで考える共用品講座第130講「事務局」 日本福祉大学 客員教授・共用品研究所 所長 後藤芳一(ごとうよしかず) 1.原則  使命や目的が組織のあり方を決め、運営のあり方を決め、事務局の役割を決め、充てるべき人を決める。 組織を適切に動かすには、①リーダー、②事務局、③構成メンバー、④組織・活動の枠組が揃う必要がある。 事務局はリーダーを支えつつ構成メンバーの意見を調整、情報を集散、組織内の資源を有効活用する。  運営は、メンバーが自分で行う/中核組織に委ねる/分散して行う形がある。「事務局」とは中核組織をおく場合である。 事務局の運営は、組織や事業の規模が大きい・場を作るのが目的・持続性を求める際は組織的に運営、同小さい・限られた目的遂行・時限的なときは属人的に運営するのが理にかなう。 2.事務局の類型  事務局の性格を、①活動の長さ:時限(X1)←→恒久(X2)と、②組織の目的:個別目的の達成(Y1)←→場の形成(Y2)という2つの軸で整理する。 (1)時限(X1)・個別(Y1)(Ⅰ型)  課題が明らかで、始期と終期が明確ならばプロジェクトだ。品質、納期、コストで管理する作業だ。 効率第一で要員を充てるので、長い視点での人の育成は目的外だ。事務局はプロジェクトマネジメントとして管理と統制を行う。 障害者権利条約のパラレルレポートを期限内に作るため、選抜メンバーで作業チームを作るなどがこれに当たる。 (2)時限(X1)・場の形成(Y2)(Ⅱ型)  課題が新しい、課題か明らかでないなどの際は、まず場を設けて探索的に考える。ほぐれればプロジェクト(Ⅰ型)に落とし込むか、取組みを続ける(Ⅲ型やⅣ型)。  市民団体として活動していたE&Cプロジェクト(共用品推進機構の前身)がこれに当たる。 事務局には、実験的な活動を後押しするため、最低限の管理をしつつ、鉱脈が見つかれば柔軟に組織全体をそれに合わせるといった運営ができる技量が必要だ。 (3)恒久(X2)・個別(Y1)(Ⅲ型)  活動が続くと課題対応のしくみができる。限られた分野のため解決できなかったものが、同じ立場でつながることができ、声を合わせることで外へ働きかけられる。  障害当事者の団体や業界団体、本号では日本視覚障害者団体連合、全日本ろうあ連盟、おもちゃの図書館全国連絡会がその例だ。 事務局は、グループ内の事情に通じて個別に深く調整する必要がある。個人の能力と魅力でけん引することで、属人的運営になることも多い。 (4)恒久(X2)・場の形成(Y2)(Ⅳ型)  活動が定着すると、広い課題を持ち込んで調整し価値を生む場(プラットフォーム)になる。 本号には日本訪問看護財団、日本障害フォーラム、日本障害者協議会、日本通信販売協会、ユニバーサル園芸ネットワーク事務局、共用品推進機構の例がある。 社会的存在として続ける責任があり、次の人材を育てるエコサイクルが要る。事務局は、属人から組織運営への脱皮が発展性を決める。(3)は特定分野の攻め、(4)は広域で受けて立つ強さが要る。 3.原則の先  現実は原則どおりにいかない。その影響の第1は、負の面。例えば「目的→組織のあり方→…→充てる人」という原則(上記1)に対し、現実は既にいる人が事務局になる。 活動や組織と適性が合わず、無意識のうちに、その人の個性や器の範囲に活動を囲い込む結果を生む。第2は、事務局を担うには格段の能力を要し、活動が発展して経緯が重なると益々個人依存になる。 第1と第2は必然として生じがちなジレンマで、結果として活動を私することになる。  第3は逆に、原則だけでは対処できない領域がある。経済社会が効率を求めてきた結果として生じた(残った)課題だ。それに気づき、課題の存否や解き方が見えなくても手が動く。そういう人が道を拓いてきた。  まとめると、まず必要なのはそうした人材だ。理論で飼い慣らされた人には難しい。一方、結果が出ればカリスマに陥らず組織に還元し、謙虚に原則を顧みる。(4)の先の飛躍は、それが条件になる。 14ページ 「きつねとたぬきプロジェクト」への想い 日本大学芸術学部 長瀬浩明(ながせひろあき)  それはひとりのつぶやきから始まった。 共用品推進機構の「事務局」を率いる星川安之(ほしかわやすゆき)専務理事を中心として、同機構の前身である「E&Cプロジェクト」発足当初からのメンバーらがオンラインで定期的に集まり、 E&Cの時のように自由に楽しく共生社会を創る取り組みができないだろうかと“井戸端会議”をしてきた。 ある時、その会議のメンバーのひとりが、『世の中には、多くのカップ麺があるけれど、目の不自由な人にとっては赤とか緑とか色や文字で「きつねうどん」か「たぬきそば」かを見分けるのはむずかしいでしょ』とつぶやいた。 このように視覚以外で中身の違いを織別するのが困難なケースは他にもたくさんある。 E&Cはかつて、飲料用紙パックで牛乳とそれ以外の違いを示すための「切り欠き」を提案し、それがJISに採用されたという前例がある。 しかし、カップ麺の中身の織別を視覚以外でできるようにすることはそう容易いものではない。 それでも会議では、容器を振って中身がわかるとか、スマホをかざせば種類や特徴を音声で教えてくれるとか、次々とユニークなアイデアが湧いてきた。 それはカップ麺の織別に止まらず、共生社会の実現に向けた新たなステージの取り組みに発展しそうな活動案へと展開しつつある。そこで、井戸端会議に端を発した活動を「きつねとたぬきプロジェクト」と称し、同プロジェクトの活動構想のほんの一端をご紹介したい。  はじめに、ユニバーサルデザインに関連した子供向けのイベントやワークショップ、社会人向けの講習会などを通じ、共生社会実現のためのヒト・づくり(人材育成)をぜひ行いたい。 また、ICTをはじめ様々な分野の専門家の連携のもと、新たな共用品・共用サービスの開発を推進するようなモノ・づくり(商品開発)の支援も行いたいと考えている。 きつねとたぬきの識別の件では、カップ麺の“おまけ”として触ってわかるきつねとたぬきのノベルティグッズ開発も検討中である(図1)。  かつて、目白の自由学園の講堂がE&Cの定例会議の会場となっていた。 そこは様々な企業や団体に所属する人たちの交流の場であり、そこから業界のスタンダードづくりといった素晴らしい取り組みの数々が生まれていった。 そこで、“共生社会”や“SDGs”などに関わる新たな連携のバ・づくり(連携・交流)もできるとよい。続いてミライ・づくり(調査・研究)である。 E&Cの『不便さ調査』、共用品推進機構の『良かったこと調査』ともに、私たちの未来がどうあるべきかを問うための取り組みであるといえる。 また、近年はICTやIoTといったデジタル技術の飛躍的な進歩が顕著となっている。 こうした私たちの未来の共生社会に向けた調査や新しい技術の導入に関する研究など、様々な分野の専門家のコラボで実現できないだろうか。 そして、共生社会の実現という志を同じくする仲間を集めるために、SNSなどのソーシャルメディアや従来からの出版や放送といったメディアを通じてナカマ・づくり(情報発信)をしていきたい。 最後に、きつねとたぬきプロジェクトが目指すこと。それは飲料用紙パックの織別方法のような標準化であり、そのキマリ・づくり(標準化)の取り組みの一助となりたいと考えている。  このように、ひとりのつぶやきからはじまった「きつねとたぬきプロジェクト」であるが、今後はご賛同いただける方々を募り、今回ご紹介したような取り組みを本格化していきたいと考えている。 図1:「きつねとたぬき」パズル(協力:章智敏) 15ページ 目からウロコの共用品 ご存じですか? あなたそっくりのコエで読み聞かせ  「出張や入院などで家にいられないときにも子どもに読み聞かせをしてあげたい。」 そんな願いに応える玩具「coemo」(コエモ)がタカラトミーから発売される。 最先端のAI音声合成技術「コエステーション」のスマホアプリ(コエステ株式会社が開発)の指示に従い短文集を読み上げて声を登録すると、 登録した声をもとに合成された本人とそっくりの「コエ(合成音声)」でたくさんの物語を聴くことができる。  複数の声を登録し、配役でコエを変えることも可能だ。昔話や世界の名作などがあり、コエの感情表現も豊か。楽しいBGMや効果音も豊富で、大人でもその世界に引き込まれてしまう。  物語を再生する玩具本体のボタンは凸レリーフになっており、灯るライトの明るさなども優しい効果音で伝えるほか、設定に使用する玩具連動のスマホアプリも「画面読み上げ機能(VoiceOver)」に対応している。 声の登録時に必要となる「コエステーション」アプリも、コエステ株式会社が「目の見えない人も操作できるように」との趣旨に賛同し、「coemo」の開発をきっかけにVoiceOverに対応した。 「coemo」は、目の不自由な子どもたちも一緒に楽しめるおもちゃとして日本玩具協会の審査に合格した「共遊玩具」。タカラトミーのHPでは、「coemo」の「テキスト版取扱説明書」も公開している。 写真1:coemo(コエモ) コロコロ(TM)の濃い線  20年前に網膜色素変性症と診断された土屋嶺子(つちやりょうこ)さんは、日本網膜色素変性症協会に入会、当事者がどんな不便を抱えているかなどを学んだ。 できていたことができずに気力を失ってしまった人がいることを知った。できないことではなく、何ができるかを考えようと思った彼女は、ダンス、歌、陶芸など、次々と挑んでいった。 活動には移動がつきもの。移動していると、視覚障害者にとって、危険な場所があることにも気づいた。駅の階段の段鼻が分からないと、踏み外し大けがをする。 彼女は、「黒い淵のある黄色のテープを階段の段鼻に貼っていただきたい」と、関係者にその理由を、理路整然と説明したことで、関係者の心を動かし2007年には多くの駅にそのテープが付くようになった。  家の中にも、識別が困難なものがある。掃除道具のコロコロは、粘着シートがロール状に巻かれ、取っ手を持って床などを転がすと、ゴミがそのロールについてくる優れものだ。 ゴミの付着後、粘着シートを1周分剥がすと、中から真新しい粘着面がでてくるのだが、剥がす時に「剥がす場所」を探すのは、目が見えていても一苦労する時がある。 土屋さんは、コロコロの製造会社に電話し、めくり口に黒っぽい線をつけてほしいと頼んだところ、既に多くの人からの声もあり、濃い茶色の線で、切り口の場所がわかるものが発売されていることを知った。 ニーズに応えてくれる企業への感謝と共に、多くの人にこの製品を知らせたいと、彼女は今、思っている。 星川安之 写真1:濃い茶色の線が入っている『COLOCOLO5656』(ニトムズ) 16ページ 特集「事務局」について 【事務局長だより】 星川安之  今回『インクル』の特集を「事務局」としたのは、私が監事を仰せつかっている日本障害者推進協議会(JD)の荒木薫事務局長が、家庭の事情で札幌に移住することになり、 事務局の仕事を今までと同様に行うことが困難になったからでした。  JDには、約70の障害に関する団体が加盟し、年1回の総会、月1回の理事会、その他にも各種委員会の開催、行政等への陳情、機関誌の発行等に加えて、 内部、外部からの「あらゆる種類の問い合わせへの返答」、私が思いつくものだけでも、気が遠くなるような量です。  多くの人との繋がりをしっかり築き、継続する努力をしていないとどの仕事も、特に「あらゆる種類の問い合わせへの返答」に関しては、不可能です。 私も障害関係で分からないことがあると真っ先に、荒木さんに電話やメールをしていました。どんなに忙しい時でも親身になって答えてくれたり、適任者を紹介してくれました。 そしていつしか、それが空気のように、そこにいてくれるのが普通と思わせてもらっていました。そのため、事務局長ができなくなると聞いた時は茫然とし、しばらく言葉が出ませんでした。 茫然後に考えたのが、荒木さんはどうやって人脈・気脈を築き、組織の目標達成のためにあれだけの力を発揮してこられたかを知りたくなったのです。 事務局の役割とは何か、目的に向かって大事にしてきたことは何か、事務局を担っていての醍醐味とは、などなどです。 それをどうやって聞きだそうと考えついたのが、インクルで「事務局」という特集を組むことでした。 そのことを、JDの藤井克徳(ふじいかつのり)代表に話すと、「それは良い!」と賛同をいただけました。  特集ですので、複数の機関の事務局の人達に登場いただく必要があります。聞いてみたい事務局を有する組織をピックアップしたら30機関を優に超え一度の特集では収まりきらないことが分かり、 何度も検討し今回、9つの団体の事務局に声をかけさせていただきました。  電話をすると「事務局っていう特集は今まで、聞いたことがないけれど、確かに多くの人に知ってもらいたいことはあるし、他の機関の事務局のことも知りたいですね」と、 お願いした機関の人達は言ってくださり、今回の特集が成立した次第です。  そういう私も共用品推進機構の前身である市民団体E&Cプロジェクトの発足(91年4月)から今迄、31年間、共用品を普及する組織の事務局を担っています。 社会・理事・評議員・監事・会員各位からの意見をお聞きしながら、事業計画をたて、多くの組織、人達と共同で事業を遂行していくことは、至福以外の何ものでもありません。 けれど、その至福は次の人にリレーのバトンのように、つないではじめて達成すると、今、思っています。 共用品通信 【イベント】(オンラインイベント) 心の目線を合わせる(8月26日) 心の目線を合わせる(9月23日) 【委員会】 TC173/SC7/WG7/WD 6273規格作成会議(7月12日、金丸) 第1回TC173/SC7国内検討委員会(8月5日) 第1回TC159国内検討委員会(8月3日) 第1回アクセシブルサービスJIS原案作成委員会(9月2日) 【講義・講演】 教員のための消費者教育講座(8月2日、森川) 山形職業能力開発促進センター(オンライン)(8月9日、星川) 杉並視覚障害者会館福祉セミナー(9月10日、星川) 広島大学アクセシビリティセンター第22回アクセシビリティリーダーキャンプ(オンライン)(9月7日、森川) 杉並区方南大人塾講座(9月15日、星川) 台湾向け講座(オンライン)(9月21日、小林・星川・金丸・森川) 跡見学園女子大学インターンシップ(テレワーク)(9月5日~16日) 【報道】 時事通信社 厚生福祉 7月5日 スマイルサッカー教室 時事通信社 厚生福祉 7月22日 塩と砂糖の区別 時事通信社 厚生福祉 8月2日 ヨシタケシンスケ展かもしれない 時事通信社 厚生福祉 9月2日 妹が生まれなかったかもしれない世界 日本ねじ研究協会誌 7月 96歳の時計店 店主 トイジャーナル 8月号 点字付きの名刺 福祉介護テクノプラス 8月号 水戸川真由美さんが考えたこと・考えていること 福祉介護テクノプラス 10月号 スマイルサッカー教室 高齢者住宅新聞 7月13日 フリーマーケット 高齢者住宅新聞 8月24日「コロコロ」の濃い茶色の線 シルバー産業新聞 9月10日 駅前の花壇 朝日新聞 夕刊 8月24日 障害のある人に調査 アクセシブルデザインの総合情報誌 第140号 2022(令和4)年9月25日発行 "Incl." vol.23 no.140 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2022 隔月刊、奇数月25日に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:https://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 編集長 星川安之 事務局 森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、木原慶子、田窪友和 執筆 荒木薫、君島淳二、倉野直紀、後藤芳一、佐藤美穂子、鈴木厚志、長瀬浩明、原田潔、増田ゆき、万場徹、三宅隆、トイジャーナル事務局、保健福祉広報協会 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙作成 西川奈美 表紙絵 Nozomi Hoshsikawa 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。 その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。