インクル141号 2022(令和4)年11月25日号 特集:「伝える」 Contents キーワードで考える共用品講座第131講 2ページ 国際福祉機器展2022 日常生活支援用品コーナー「新たな日常に活かすアイデア・工夫用品展」報告 4ページ 共用品を伝える 地域活動から生まれた工夫 6ページ 第20回ふれあい福祉まつり(千代田区) 7ページ 2022日本パッケージングコンテスト入賞作品にみるパッケージの配慮・工夫 8ページ 公益社団法人 日本網膜色素変性症協会協会内に「共用品ワーキンググループ」が発足 9ページ 公共交通で「伝える」in スウェーデン 10ページ 障害者権利条約の日本への総括所見を読んで 12ページ 2025年デフリンピック 史上初の日本(東京)開催決定! 14ページ 『お好み書き 見えない人の「ちょっと世間話』水谷昌史 著 15ページ 『白い杖、空を行く』田中徹二 著 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 表紙写真:国際福祉機器展 主催者特別企画「ご存じですか『新たな日常に活かすアイデア・工夫用品展』コロナ時代の流儀」ブース正面写真 2ページ キーワードで考える共用品講座第131講 「独REHACARE2022―主催者視点からの展示会―」 日本福祉大学 客員教授・共用品研究所所長 後藤芳一(ごとうよしかず) 今年のREHACAREは  ①38(43)カ国から691(751)社が出展し、3万5千(3万9千)人が来場(カッコ内は2019年〈直近〉)、②コロナ前に比べると、出展者数や来場者数はやや減ながら健闘、 ③介護用ベッド、電動車椅子、コミュニケーション機器(入力補助装置)の品揃えが深い、④入場は有償で事業者間の取引を重視、⑤自然光の入るメーンの会場には主要企業や団体による大規模の出展を配置、 ⑥アジアからの出展は中国や韓国が中心、⑦障害者の芸術作品の展示やスポーツ、福祉団体の出展に大きいスペース、⑧事業者向けと一般向けで日を分けているが、前者でも障害当事者の来場が目立った―。  9月14~17日に独デュッセルドルフで開かれたREHACARE2022を訪ねる機会がありました。 新型コロナで2年続けて中止となり、3年ぶりの開催でした。 REHACAREは、福祉用具の分野で世界最大とされる展示会です。 今回訪ねたのは、保健福祉広報協会からの派遣によるものでした(筆者は協会の評議員を務めています)。 協会は国際福祉機器展(H.C.R.)を主催しており、協会の職員(土谷一貴(つちやかずたか)さん)に同行しました。 H.C.R.はアジア最大の規模といわれます(2022年の来場は8万9千人)。こうした背景から、H.C.R.と比べつつ展示会運営の目線からみました。 H.C.R.と比べると  その視点からは、REHACAREは日本を含む68カ国に代理店等をおいて出展勧誘し、国際展示会としての求心力を築いている(上記の①に対応、以下同じ)、 実地の確認を要するという福祉用具の性格からリアル展示の重要性を引き続き重視している(②)、 出展されている機器は、本稿の冒頭に記した機器以外である自動車(完成車)、階段昇降装置、住宅設備、手すり、入浴(施設、在宅)、リフト、介護雑貨、見守りセンサ、ロボットは、H.C.R.の出展の方が幅が広い(③)、 アジアからの出展の存在感は、日本:台湾:韓国:中国=1:2:3:8~10(筆者の感覚)であり、中国の存在感の大きさと日本(出展は2社)の小ささが印象的(⑥)でした。  展示会が開かれたドイツと日本には、介護を保険制度で行い、かつ、ほぼ同時期に始めたという、世界でまれな共通点があります。 一方、ドイツの制度には年齢制限がない(65歳未満でも利用できる)という違いがあります。こうした状況を反映してか、 H.C.R.(1974年開始)は当初、障害者のリハビリテーションを中心に始まり、その後今日にむけて高齢対応の展示が増えました。  一方、REHACARE(77年同、当初の名称はREHA)には、障害者の自立関係の機器(例:起立補助)や当事者団体、公的機関の出展が多くありました。補助犬も活躍していました(⑧)。 特に、会場入口の最初の広場(15メートル平方ほど)に障害者の芸術作品を展示(団体が運営)し、次の会場(30メートル平方)は、すべてを障害者スポーツにあてていました(地元NRW州の協会が運営)(⑦)。 芸術は絵画が中心であり、スポーツはバドミントン、テニスやスキーを障害のある人とない人がともにプレーしていました。 「伝える」の未来へ  今回訪ねた目的は、H.C.R.が来年50回をむかえるのに際して交流の機会を探るためでした。 REHACARE側は総責任者であるH・ニーマン氏が対応し、翌日も予定外の時間を割いて自ら会場を案内してくれました。 障害者芸術の団体ともつながりを築くことができ、今後H.C.R.の企画に活かせる関係やアイデアを得ることができました。  みて、さわって、たしかめる…福祉用具の「伝える」には、利用する人の心身との相談が必要です。 一般の流通がネットへ移るなかで対面を基本にする姿勢は、REHACAREも同じでした。 一方、障害福祉に比重を置く姿勢は、高齢者数がふえてニーズが広がった、機器の技術が進歩してできることが増えたことを考えると、 H.C.R.としてもさらに深く不便さ対応に踏み込む、国際的なネットワークを活用するという原点を再確認する必要を感じました。 その際は、共用品も日本からの寄与として重要な役割が期待されます。来年のREHACAREは9月13~16日、H.C.R.は同27~29日、ともに乞うご期待です。 写真1:REHACARE 2022会場入口 写真2:REHACARE 2022 障害者アートの展示 写真3:REHACARE 2022 スポーツ(バドミントン)(7aホール) 写真4:REHACARE 2022 Hannes Nieman Project Director との面会(ゲストルームにて) 写真5:REHACARE 2022 Hannes Nieman Project Director による会場案内(6ホール) 4ページ 国際福祉機器展2022 日常生活支援用品コーナー 「新たな日常に活かすアイデア・工夫用品展」報告 2022年10月5~7日、国際福祉機器展(H.C.R.)が東京ビッグサイトで開催され、共用品推進機構は主催者特別企画コーナーの1つである日常生活支援用品コーナーの企画・監修を担当しました。 概要  機構は2010年から、同コーナーの企画・監修に携わっており、11年までは、展示コーナーをキッチン、水回り、トイレ、食堂、衣服などに分け、高齢者、障害者用製品全般の展示を行いました。  12年からは、タイトルを「片手で使えるモノ展」、「旅を楽しむ『10のコツ!』と便利なグッズ展」、「元気に働く10のコツ展」として行ったところ、たくさんの方が立ち寄ってくださいました。 昨年は、コロナ禍で人々の生活に欠かすことができなくなった「マスク」をテーマに、一般社団法人日本衛生材料工業連合会、杉並区障害者団体連合会、 杉並区のご協力のもと「新しい日常・多彩なニーズ~伝わるマスク展~」と題して展示しました。  本年は、コロナ禍でのアイデアをテーマに『ご存じですか?「新たな日常に活かすアイデア・工夫用品展」』というタイトルで展示しました。 展示製品  展示製品は、共用品推進機構が日本障害者フォーラムの加盟団体に協力してもらい実施したアンケート調査『新型コロナ禍における「困ったこと」「工夫」「良かったこと」「要望」調査』から、 ご意見のあった製品の中で、アクセシビリティに配慮された製品を国際福祉機器展に出展している企業を中心に選定を行いました。  製品は、アルコールが苦手な人にでも消毒できるノンアルコールタイプの消毒液やウェットティッシュ、手をかざすと霧状の消毒液が出てくるディスペンサー、 持ち運びできる消毒液、手でも足でも押せる消毒スタンド、振動で検温結果を知らせる非接触の体温計、検温結果の温度で液晶パネルの色が変わる体温計、 消毒と検温が一度にできる非接触式のディスペンサー、透明度が高く低遮音のパーテーション、人と人との距離が分かりやすい足跡マーク、 コンビニエンスストアのレジカウンターに貼る耳マークを表示した指差しシート、マスクが着用できない方の意思表示バッジ、口元が見える透明なマスクなどを展示しました。 レイアウトとパネル  コーナーは「消毒する」、「測る」、「伝える」の3つに分け、展示台には製品と製品説明カードを配置しました。パネルは歌舞伎のデザインで表現しました。 今年は、「読まれるパネル」「関心を持たれるパネル」を考え、コロナ禍の不便さや工夫していること、使いやすいモノを、スマートフォンの画面でSNSを表示しているようなデザインにしました。 来場者の感想・意見  各種製品・サービスが、コロナ禍以降の新しい日常では、どのような配慮が必要かを確認するために、スタッフが来場者に話を聞きました。 来場者のご感想やご意見の一部を紹介します。 「消毒商品が多数あり、色々なニーズに応えられる選択肢があるのはとてもいい。」 「消毒に関してこんな色々なタイプがあるのを知らなかった。」 「一見何の展示コーナーか不思議な感じがしたが、この様な展示方法は面白いし勉強になった。」 「とにかくシンプルで間違いなく測れるタイプのものがいい。」 「体温計の種類の多さに驚いた。」 「体温を測るのを嫌がる高齢者がいるので短時間に測定できるタイプはありがたい。」 「以前よりも「特性」を表現しやすくなったように思える。」 「話した言葉を文字に変換される機器の需要がある。」(言語療法士) 「スマホのアラーム機能のように、一度セットすると、毎日同じ時間にアラームがなる時計があると良い。」(言語療法士) 「口元の見えるマスクは高価なので、消毒して何度も使うことになると思う。」 まとめ  今回はテーマである「新たな日常に活かすアイデア・工夫用品」は、コロナ禍が終わった後も活用できるコトやモノが多く、次回の展示に活かしていけたらと思います。 田窪友和(たくぼともかず) 写真1:説明カード 写真2:「消毒する」「測る」「伝える」パネル 写真3:当日の様子 6ページ 共用品を伝える 地域活動から生まれた工夫  東京都杉並区には、7つの地域区民センターがあり、講演会場、会議室、イベントホールなどが、地域住民の各種交流に利用されています。  9月10日、井草地域区民センターで年1回の大きな行事「井草センターまつり」が行われました。 コロナ禍になって初めての開催となり、模擬店、ゲーム、各種イベントには多くの人が集い楽しみました。 その中の1つ、ユニバーサルデザイン(UD)、共用品を紹介するコーナーには、午前10時の開始と同時に、来場者が多数訪れ、終了する午後3時まで途切れることがない人気コーナーになりました。 展示の企画と運営は、西荻地域区民センター協議会のメンバーでした。協議会は、地域でさまざまな活動をしている人で構成され、 イベントや講座などを開催し、地域住民に必要な情報を伝える役目を担っています。 3年前の展示  西荻地区ではコロナ禍の前、2019年3月に有志で集まり、UD・共用品の展示を西荻地域区民センターで行いました。 多くの人が興味深く見学してくれましたが、課題も多く残しながらのコロナ禍となり、イベントを行うこともできなくなりました。 課題の解決  そうした中、西荻地域区民センター協議会、地域交流部部長の吉田優子(よしだゆうこ)さんは、障害の有無・年齢の高低にかかわらず、 ともに使えるUD・共用品を、来場者にストレスなく見てもらい、もっと興味をもってもらうことはできないだろうかと考えたのです。  側面と上部にギザギザがあって、目の不自由な人や、髪を洗う時に目をつぶる多くの人が、リンス容器と触って識別できるシャンプー容器、 上部の開け口と反対側に半円の切り欠きがあり、他の飲料と触って識別できる牛乳の紙パックなどは、UD・共用品の代表的なモノですが、 展示会場では、立てて展示をしていると、ちょっと手が触れただけで倒れてしまいます。 また、弱い力で開閉ができるクリップは、実際に体験してみないと、実感することができませんが、トレイに比較するクリップが混ざっていると、どれが軽い力でできるものなのかが、分からなくなります。  吉田さんは、多くの人に知ってもらうという観点から、どうやったら来場者に、展示品が倒れる心配をさせず、さらには、興味を今まで以上に持ってもらうにはと考えました。  その結果、考え出したのが、パネルに製品を貼り付けることでした。 しかし、シャンプー容器、リンス容器、牛乳パックをそのままパネルに貼ると、ギザギザや切り欠きが強調されません。 そのため、斜めにカットしてパネルに貼りました。  また、クリップは、軽い力で開くクリップと、従来通りのクリップに、紐を付け、その紐をパネルに付けました。 工夫の効果  9月10日に行われたUD・共用品の展示コーナーで工夫したパネルは、来場者に大きな関心を持ってもらう役目を見事に果たしていました。 星川安之(ほしかわやすゆき) 写真:吉田さんと共用品の立体パネル(写真上) 写真:会場の様子(同下) 第20回ふれあい福祉まつり(千代田区)  2022年10月15日、東京の千代田区役所と高齢者総合サポートセンター「かがやきプラザ」で、第20回福祉まつりが開催されました。 台風や新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となっていましたが、4年ぶりの福祉まつりです。 しっかりとした感染対策でこの日を迎えました。 ふれあい福祉まつりって?  ふれあい福祉まつりは、千代田区に住み、働き、学ぶ人が出会いを通じてともに支え合うことを目的としたイベントです。 長寿会・町会・ボランティア・NPO・企業などの千代田区内の福祉を支える地域団体が数多く参加しました。 ちよだボランティアセンター発表によると当日は3000人を超える方が来場されました。 笑顔のわけ  人との交流や外出が叶わない状況下とあって、会場からは「久しぶり!」「元気だった?」「また会えて良かった!」など久しぶりの再会を喜ぶ声もたくさん聞こえてきました。  また、10か所まわると駄菓子詰め放題か福引きができるスタンプラリーも大人気。  機構では「片手で使えるモノ」、「触って中身がわかるモノ」を中心とした展示と、ユニバーサルデザイン(UD)を知ってもらうクイズを展示。 クイズに答えるとスタンプをもらえることもあり、大勢の方が挑戦してくださいました。 中でもワンプッシュで1本ずつ出てくる楊枝入れは、便利なことに加え「ボタンを押すと出てくるシンプルなしかけが楽しい」と子供にも大人にも好評でした。  私たちの身近にあるUD・共用品の定番ともいえる、シャンプーボトルのきざみ、リンスやボディソープ容器の工夫(触って中身がわかる)を知らない人がまだ多くいることが分かりましたが、 説明をするとみんな「なるほど!」「そうだったんだ!」。家に帰って家族に、学校で友達に伝えますという声も印象に残りました。 より多くの方々に広まって誰もが知る工夫になったらと願います。 また「どうしてかしわ餅がユニバーサルなの?」といった質問も多く、子どもから高齢者まで足を止めていただき、大盛況なブースとなりました。  集える嬉しさを改めて、実感した一日でした。 木原慶子(きはらけいこ) 写真1:ふれあい福祉まつりプログラム 写真2:楊枝入れ 写真3:会場の様子 8ページ 2022日本パッケージングコンテスト入賞作品にみるパッケージの配慮・工夫 公益社団法人日本包装技術協会 竹内攻(たけうちおさむ) 日本パッケージングコンテストとは  「日本パッケージングコンテスト」は、優れたパッケージとその技術を開発普及することを目的として毎年開催しています。  本コンテストは、材料、設計、技術、デザイン、ロジスティクス、販売促進、アイデア、環境対応、適正包装等あらゆる機能からみて、 食品、医薬品、化粧品、日用品・雑貨、トイレタリー・電気・機器、大型・重量物等の部門における年間の優秀作品を選定する我が国の最大のパッケージのコンテストです。  本年度も6月に審査会が行われ、383件の応募作品の中から、13件のジャパンスター賞を含む132件の入賞作品が決定しました。  全ての入賞作品は、10月開催の当会主催展示会『TOKYO PACK2022』の特別ブース「2022グッドパッケージング展」への出品資格が与えられ、一般公開されました。 本年度入賞作品は  上位賞であるジャパンスターの中の一つに、身体的な特性や障害にかかわりなく、より多くの人々が共に操作・利用しやすく、安全にも配慮されたものに与えられる「公益財団法人共用品推進機構理事長賞」があります。 今回は『つかんで瞬開! V-Linkジッパー』(レンゴー㈱)が受賞しました。 この商品は、菓子、レトルト食品、スパウト付パウチ入ゼリーをはじめとする商品の集積に使用される中間箱で、誰もが簡単に一瞬で開封でき、開封後のハーフトレイをきれいに切り取ることができます。 背面の開封口をつかみ押すと、両側面に開封力を伝えるV字構造が形成され、その状態から開封の力をかけると、小さい力で簡単に確実に開封できます。 手の大きさの個人差によらず誰もがつかめ、力をかけやすいよう開封口は天面側から近い位置となっています。 開封後の切り口は丸みを帯び、接触しても痛くなく、見栄えも悪くなりません。 商品を購入するお客様だけでなく、陳列作業を行う従業員の作業性と安全性を考えた素晴らしいものでした。  その他、視覚障害者等にも商品の識別がしやすい適切な工夫・配慮がなされているものに与えられる賞に「アクセシブルデザイン包装賞」があります。 今回は、『アルージェ シナモロール限定デザイン陳列什器』(全薬工業㈱/㈱TANAX)、『レンジでチンするハッピーレシピ』(キユーピー㈱/凸版印刷㈱)、 『「オロナミンCドリンク」易開封陳列ケース』(大塚製薬㈱)の3作品が選定されました。 それぞれ、開封性、安全性、加齢による握力や視力の低下への対応、適切な使い方への誘導、内容物の視認性、取り扱い性の向上等が積極的に行われている点が評価されました。(全入賞作品は当会HPに掲載) 今後の包装に求められるもの  内容物を保護し、取扱いを容易にし、情報を表示することが包装の基本的な役割ですが、現代では、SDGs(持続可能な開発目標)の達成のため、 全ての人に平等で分かりやすく使いやすい包装が求められ、包装デザイン・包装設計に反映されています。 最終的に商品を手にする消費者のみならず、店舗や倉庫など作業従事者の立場も配慮し、業界ではますます研究開発が進められています。 本コンテストを通して、細やかな消費者ニーズに応えた、全ての人々に喜んでいただける包装が生み出されることに期待しています。 写真:公益財団法人共用品推進機構理事長賞 9ページ 公益社団法人 日本網膜色素変性症協会 協会内に「共用品ワーキンググループ」が発足 日本網膜色素変性症協会  公益社団法人 日本網膜色素変性症協会(JRPS)は、中途失明の原因となることが多い網膜色素変性症(RP)及び類似疾患の自立支援を目的に設立され、 治療法の研究促進の助成活動、QOL(クオリティオブライフ)の向上、社会への啓発活動を主に行っている団体です。 会員は全国に約4千人、それぞれのメンバーは、各地域の協会に所属し、各種活動を行っています。  同協会には6つ事業があります。①患者との相互扶助及び情報提供、②患者や家族からの相談対応、③治療法の研究及び推進支援、 ④自立促進用具の開発及び普及支援、⑤正しい情報の啓発、⑥国際網膜協会等との協力及び情報共有です。 ⑤の中にあるQOL向上推進委員会には、次の4つの作業部会(WG)があります。共用品、福祉、UD家電、就労の4部門です。 共用品WG  JRPSでは、2022年6月に総会が行われ、新たな理事、常任理事が選出されるとともに、新しく事業を始めるための新たなWGが発足しました。  その中の一つが「共用品WG」で、新たに理事を仰せつかった筆者の私が、そのリーダーに任命されました。  理事に就任したのは、私が東京都杉並区で地域活動をしている中で、JRPSの会員や役員の人達と出会い、 網膜色素変性症の人達の日常生活の不便さを聞き、それらがどうやったら解決するかを話し合ったことがきっかけです。  その不便さは多岐に渡っていました。家での食事、外食共にテーブルのどこに何があるか分からないから始まり、 掃除道具のコロコロのテープの剥がす場所が分からない、スライスチーズを剥がすテープの色が分かりにくいなどを、複数の会員の人達とオンラインで話し合いました。 テーブルのどこに何があるかを知るためには、テーブルに手頃な大きさの懐中電灯があったらとの提案が出ました。 確か100円ショップで手頃なものがあったと思い、購入したものをオンラインで不便さを提示した人たちに送り、使い勝手を確認してもらったりしました。 そんなことが何回か続くうちに、参加していた同協会のメンバーが私を理事に推薦するとともに、新たなWG、共用品WGの発足も提案し、総会でその提案が承認されたのが、発足の経緯です。 目的と計画  共用品WGでは、初めにメンバーの募集をかけたところ、北海道、兵庫、滋賀、東京、神奈川から私を含めて9名のメンバーが集まり、8月より毎月一回オンラインで会合をはじめました。 第1回の会合では、WGの目的と計画について、議論をし決めました。 目的は2つ。1つは、会員の人達が抱えているモノやサービスに関するニーズを明らかにし、便利なモノやサービスに関して、会員内で情報を共有することです。 便利なモノやコトには、自ら工夫していることも対象にする予定です。 そして2つ目は、会員が使いやすいモノやサービスを提供している企業や機関に対して、会員が「便利に使っていること」を伝えることです。 その伝え方は、これからの検討ですが、「感謝状を渡す」などのアイディアも出ています。 プレ調査の実施  発足以来、今までに4回のWGを開催していますが、目的が決まったので、会員にアンケートを実施するために、 プレ調査として、WG内のメンバーにモノやサービスのニーズに関するアンケートを実施しています。  8人だけの調査ですが、各種製品・設備機器の表示や操作の方法が分からないなどとともに、さまざまな工夫も出ており、これからが楽しみです。 星川安之 10ページ 公共交通で「伝える」 in スウェーデン 東洋大学 高橋良至(たかはしよしゆき)  2022年10月某日、コロナウイルス感染症拡大の最中、1年間の在外研究をスウェーデン王立工科大学で進めるため、ストックホルムに赴きました。 研究テーマは、新しいデザイン手法の開発や、パーソナルモビリティビークルの開発などで、ここではその一つである、ストックホルムの公共交通におけるアクセシビリティについてご紹介します。 街の様子  ストックホルムはスウェーデンの首都で、目抜き通りなどは常に人が行き交っています。 しかし、日本ほど混雑はしていません。 スウェーデンの国土面積は概ね日本と同じですが、全人口は東京都の人口と同じくらいです。 街なかでは歩行車を使用する高齢者を見かけることが多く、車いすや電動カートで移動する人もいました。 ただ、白杖を使用している視覚障害者を見かけることは、日本に比べて少ない印象でした。 ストックホルムの公共交通  ストックホルムの公共交通は、ストールストックホルムス・ローカルトラフィク(SL)というストックホルム県の株式会社が運営しています。 地下鉄や、バス、路面電車、ライトレール、通勤電車、渡船の路線があり、すべて一つの会社で運営されていることから、全路線で統一された方針で、アクセシビリティへの取り組みがなされています。 それぞれの交通や場所に対応するために異なるところはありますが、案内板などは世界的な賞を受賞したデザインで統一されており、見やすく分かりやすくなっています。 触覚で「伝える」  地下鉄や通勤電車などプラットホームの端、階段などの段差の始まり、エスカレータの手前、エレベータの手前の床には、白いタイルが貼られており、周りの床とのコントラストで注意を伝えています。 路上には誘導ブロックはほとんどありませんが、駅構内には、誘導や警告のための棒状の突起が敷設してあります。  バス停には、歩道の段差に沿って白いタイルが貼られています。 前方で白いタイルがT字になっていて、交差部に黒い突起のあるタイルが貼られています。 バスはそこに乗車扉(前扉)がくるように停車するので、視覚障害者はその位置に立ってバスを待ちます。 SLは、独自の誘導案内敷設ガイドラインを持っていますが、将来的には日本とも共通化を図り、世界的に統一されることが望ましいと考えます。 視覚と聴覚で「伝える」  鉄道駅の改札、プラットホームには、次の列車の行き先や到着までの時間などの情報が表示されていて、時々読み上げがされます。 車内では、次の停車駅や乗り換え案内などの表示があり、自動音声でも読み上げされます。 アナウンスの前にはチャイムやブザー音が鳴り、聞き逃しにくくなる工夫がされています。 また、アナウンスに合わせて、車内の情報表示も変わります。 ドア閉めのときには、注意のブザーと同時にドア上にある赤色のランプが点灯し、視覚でも聴覚でもドア閉めが分かるようになっています。 最新の地下鉄車両では、ドアの上部が帯状に光ります。 開く前は緑、閉まる前は赤く光り、開く側のドアの案内、ドアが閉まる注意がされています。  バス停は、標識のみ、あるいは、ガラス張りの待合所が設けられています。標識のみの場合でも、市中心部であれば行き先とバス到着までの時間案内が設置されていることも多いです。 ボタン(点字あり)を押すと、案内の内容を読み上げてくれます。 バスの車内前方には、行き先、停留所案内表示があり、次の停留所を音声とともに案内します。 停車ボタンが押されると、ベルやブザーで知らせると同時に表示がされます。  近年は情報表示に液晶ディスプレイが用いられ見やすくなっています。 グラデーションなどの装飾がなく、他言語表記も少ないため、文字も大きくシンプルで、見やすい印象を受けました。 また、駅名などは日本のように英語で読み上げ直すことはありません。 現地での呼び方で十分という判断なのでしょう。 アクセシビリティ向上への取り組み  帰国前に、SLのアクセシビリティ担当の方にお会いして取り組みについてお話を伺うことができました。 チケットの有効化を行う機械や新型地下鉄車両の開発にあたり、高齢者や障害当事者も参加して、試作を評価しながら改良を重ねた事例を紹介してもらいました。 近年は、ハードウェアによる支援には予算や工期がかかることから、ソフトウェアによる支援に力を入れているそうです。 人的に案内や補助を行うことに加えて、情報ディスプレイなどで「伝える」ことに力を入れているとのことでした。  ストックホルムでの事例は、すでに日本でも実施されているものも多くありました。 日本の大都市はとても混雑しているので、簡単に比較することはできませんが、同じ規模の地方都市などでは、参考になると思われます。 情報を絞って伝えるなど、取捨選択の上手さ、システム設計の考え方に、文化の違いを感じました。 写真1:地下鉄駅のサインと誘導案内 写真2:バス停の待合所と誘導案内 写真3:バス車内の案内表示 写真4:当事者による評価が反映された改札機 12ページ 障害者権利条約の日本への総括所見を読んで 日本障害者協議会理事・日本社会事業大学名誉教授 佐藤久夫(さとうひさお) 障害者権利条約の総括所見とは  総括所見とは、この条約の締約国の条約実行状況を障害者権利委員会(条約の締約国会議で選ばれた18人の専門家で構成される)が審査し、評価できる点と懸念・勧告事項を指摘した報告のことである。 写真:委員会は、締約国からの文書報告を検討し、政府代表との対面による審査を経て、総括所見を採択する。この過程では障害者団体などからの文書報告や対面での要望なども検討する。 新型コロナ感染症の蔓延でこの2年ほどはオンラインの審査となっていたが、今年の8月からジュネーブでの対面審査が復活した。  今年10月半ば時点で、184カ国と1地域(EU)がこの条約に加盟しており、109本の総括所見が採択されている(うち9本は早くに審査された国に対する2回目の総括所見)。 これらの総括所見とその基礎となった諸文書は、委員会のサイトで公表され、対面審査の録画も国連テレビで見ることができる。日本審査の録画では日本語の同時通訳も聞ける。 このうち25カ国・地域の103の文書が日本障害者協議会の「JD仮訳」のコーナーで日本語で紹介されている。  日本は2014年に批准し、16年に初回締約国報告を提出した。 しかし年間にこなせる審査件数の制限があるうえに新型コロナ感染症の影響もあって、ようやく今年8月に審査が行われ、9月に総括所見が採択された。 近いうちに外務省の仮訳が公表される。  総括所見では、勧告された事項の実施状況の報告を、第2・3・4回の合併報告として2028年2月20日までに提出するよう求めている。 初回報告は2016年だったので、定期報告と審査が規定通り4年ごとに行われていれば2028年は第4回定期報告の期限であり、「帳尻を合わせた」ものである。 とくに指摘された事項  総合的・横断的な面では、まず日本の法・政策が父権主義的アプローチだとされた。 障害者を人権の主体、平等な市民と見ていないとの批判である。 また、社会に優生思想が広がっているとし、国に津久井やまゆり園事件を検証しこの思想と闘うよう求めている。 さらに、医学モデルに基づく障害認定制度を見直し、すべての障害者が必要な支援を利用できるようにすべきだとした。 さらに、個人通報を可能にする選択議定書の批准や、政府から独立した国内人権機関の設立も求めた。 障害の有無で比較できる統計をすべての分野で整備することも勧告された。  分野別の課題では、まず精神障害者に関する政策の見直しが求められた。 強制的入院、治療、拘束の禁止や、精神科特例の廃止や監視体制の確立などである。 そのほか、差別解消法の相談・救済体制の確立、通常学級での支援の抜本的充実、障害基礎年金額の見直し、障害女性への複合的・交差的差別への対応、 手話言語の公用語としての認定、通勤・通学時の移動支援の実施、医療・教育・司法を障害者虐待の通報義務の対象範囲に加えること、などが求められた。 アクセシビリティ、ユニバーサルデザインへの課題  総括所見では、第9条(アクセシビリティ)で、「障害者団体と緊密に協議しながら、政府のすべてのレベルにわたってアクセシビリティを取り入れ、 ユニバーサルデザイン基準を定着させるために、行動計画およびアクセシビリティ戦略を実施すること。」、 また「建築家、デザイナー、エンジニア、プログラマー向けのユニバーサルデザインおよびアクセシビリティ基準に関する継続的な能力開発プログラムを強化すること。」が勧告された。  第20条(個人の移動)では、通勤・通学に移動支援が利用できないことや、特に大都市以外での交通アクセスの悪さが懸念され、改善が求められた。  さらに第21条(表現と意見の自由、情報へのアクセス)で、 「日本手話言語を国レベルの公用語として法律で認め、生活のあらゆる場面で手話言語へのアクセスとその使用を促進し、有能な手話言語通訳者を訓練し確実に利用できるようにすること。」、 「点字、盲ろう者向け通訳、手話言語、わかりやすい版、平易な言葉、音声解説、動画の字幕生成、字幕付与、触覚・補助・代替コミュニケーション手段など、 アクセシブルなコミュニケーション様式の開発、促進、利用のために十分な資金を割り当てること。」が勧告された。  なお、第9、20、21条以外のほとんどの条項でもアクセシビリティという言葉が登場する。 それは、この条約ではこれは、物理的環境、交通機関、情報の利用が保障されている状態であるばかりでなく、幅広い権利と参加の確保に関する概念であるからである。  例えば、「COVID-19の対応と復興計画において、…パンデミックの悪影響に対処するため、ワクチン、保健サービス、…への平等なアクセスを確保すること」(パラグラフ26f)、 「精神科病院における残虐、非人道的または品位を傷つける扱いを通報するためのアクセシブルな仕組みを設置し、…」(パラグラフ34c)、 「質の高い、年齢に応じた性と生殖に関する保健サービスおよび総合的なセクシュアリティ教育が、…アクセシブルであること」(パラグラフ54e)などである。 総括所見を生かす  日本への総括所見は、これまでの109本の中で際立っている。 1から33条のすべての条項で懸念と勧告が示され、19ページに及ぶ詳しさである。 15ページ以上は全部で21本、最長の19ページは日本と2021年のフランスのみである。 全条項をとり上げているのは日本と2019年のインドのみである。 しかも日本の総括所見は、他国にも書かれている一般的な記述は少なく、具体的なものが多い。 この権利委員会の努力に応え、ぜひ生かしたいものである。  日本の障害者施策は国際的影響とともに発展してきた。戦後のGHQの影響、そして1981年の国際障害者年の影響があった。 障害者権利条約はすでに差別解消法の制定、障害者基本法改正による理念規定や障害者の定義の改正、そして国・自治体での監視のための委員会の設置などをもたらした。  今回初めて国としての審査を受け、多くの勧告を受けた。 「政府」がその実施の中心となるが、国会、裁判所、地方自治体も締約国(国の統治機構の総体)の重要な構成員として、この勧告の実施が期待される。 総括所見もパラグラフ72で、「委員会は、締約国に対し、政府および国会のメンバー、関連省庁の職員、地方自治体、教育・医療・法律専門職などの関連専門職グループのメンバー、 ならびにメディアに……、検討および行動のために本総括所見を伝達するよう勧告する。」としている。  もちろん、障害当事者や支援関係者が取り組むことが重要であり、まずは学習であろう。 写真:日本の審査(国連欧州本部)原義和氏撮影 14ページ 2025年デフリンピック 史上初の日本(東京)開催決定!  障害者スポーツの国際競技大会には、デフリンピック、パラリンピック、スペシャルオリンピックスがある。 このうち、ろう者(聴覚障害者)の大会をデフリンピックという。  今年9月、このデフリンピックの2025年夏季大会の東京開催が決まった。 会期は2025年11月15日から26日。東京をはじめ、福島、静岡でも競技が行われる。 1924年にはじめてフランスで開催されてから史上初の日本開催。 デフアスリートたちの悲願がようやくかなった。 耳からの情報を視覚で保障する  一般のスポーツ大会との違いは、様々な情報を音ではなく、視覚で提供しているところだ。 ろう者が選手の場合、陸上競技の「位置について、ヨーイ、スタート!」は音ではなく「フラッシュランプ」を使用し、「位置について(赤)、ヨーイ(黄)、スタート(白)」と目からの情報で示す。 サッカーでは、審判は笛を鳴らすとともに、旗や手を上げて選手に知らせる。 競技ルールや参加資格  デフリンピックで行われる競技の数は21種目。デフリンピック独自の種目はない。 競技ルールもオリンピックと同じだ。参加資格は、補聴器又は体外人工内耳を外した状態で、55db以上の大きな音でないと聞こえず、かつ、各国のろうスポーツ協会に登録していること。 日本で開催されることの意義  日本で開催されることの意義とはなにか。 デフリンピック東京招致に尽力した全日本ろうあ連盟デフリンピック準備室室長補佐の倉野直紀(くらのなおき)氏に話を伺った。  デフリンピックとほかのオリンピックなどとの大きな違いは、ろう者自身が準備し開催する国際大会で、競技が行われる地域の人、ボランティアの協力で成り立つ点だ。 一般の人を巻き込むことによって、未知だったデフリンピックが社会に広まり、ろう者への理解が進むことが狙いだという。  東京開催によってろう者自身の活躍を知り、当事者のスポーツ参加が増え、デフアスリートのすそ野が広がる。 それによって競技人口が増え、選手の層が厚くなれは、強い選手が出てくる。 するとまた知名度が上がり、よいスパイラルが回ることが期待できる。 これはパラリンピックにも当てはまる。 共生社会を自らの手で  2020年6月に聞こえない人と聞こえる人を電話でつなぐ「電話リレーサービス制度」が確立した。 本年5月には「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が制定され、情報保障への取り組みは進んでいる。  デフリンピック日本開催を成功させられるかどうかは、ろう者自身がどのように一般の人に協力を呼びかけ、一般の人がどれだけそれに応えられるかにかかっている。 大会開催後に、また一歩、共生社会が進むことを期待したい。 金丸淳子(かなまるじゅんこ) 写真1:見てわかるスタートの合図 写真2:倉野直紀氏 15ページ 『お好み書き 見えない人の「ちょっと世間話」』水谷昌史(みずたにまさふみ) 著 お好み書き編集部 門田耕作もんだこうさく  80歳全盲、元点字ジャーナル編集長。自分のことを「何処にでもいる普通の老人B」と、中森明菜(なかもりあきな)の「少女A」をもじって言う筆者が、 月刊ミニコミ新聞「お好み書き」に2008年から連載しているコラム「ちょっと世間話」を再編集したのが本書である。  目が見えないという現実、事故・災害・コロナ禍、政治、社会、スポーツと、世の中の諸事万端に対し、ちょっと斜めから物申す。  「ハンディはない方がいい」「子の担任が全盲ならハズレ?」「点字ブロックが無用の長物に」「咳をしてもコロナ」「パラ五輪実施に賛否の議論なし」 「感動や勇気は与えられるもの?」「弱者救済が国家の第一義なのに」「波平が怒鳴らなくなった」「女性天皇を突破口に」「世の中障害者だらけ」……。  いずれも挑発的な書きっぷりにしては読みやすく、居酒屋談議のようにすんなり入ってくるのは、根底に、読む者に考えさせる深みがあるからだろう。 ユニバーサルな真のバリアフリーとは何なのか。  特化したテーマがなく、タブーなく何でも書くという、ミニコミらしくないミニコミとマッチし世間を斬ってきた筆者だが、 実は老境に入り、人に嫌われる恐怖心から周囲には極力自分の本音を隠してきたという。それが、本書の公刊で図らずも、嘘やごまかしは通用しないとの覚悟に至ったとか。  上梓直後の連載コラムでは、「本音を吐露するぼっち老人」として生きる決意を改めて、高らかに掲げている。 「老人B」の「B」は、「ブラインド」と「ぼっち」だったのだ。 写真:『お好み書き 見えない人の「ちょっと世間話」』水谷昌史 著 『白い杖、空を行く』田中徹二(たなかてつじ)著 (福)日本点字図書館職員 川島早苗(かわしまさなえ)  このタイトルをつけたのは奥様ですか?とご本人に、確信をもっておたずねしたところ、ご自身とのことでした。 田中会長のいつもの文章では、このやわらかな感じのタイトルは思い描けなかったからです。(ご一読いただければすぐにおわかりになります)  会長は、日本点字図書館の運営で多忙な中、視覚障害者の国際協力事業(第一章)や世界点字協議会(第二章)など、幾多の会議をこなし、コロナ以前とはいえ、四九か国、百以上の都市への訪問でたくさんの経験と人脈を作り続けてこられました。  特に、ドイツ(第三章)は大のお気に入りのようで、著名な方々との出会いや季節の美味しい物三昧の旅行は、ツアーでしか行けない者にとっては羨ましい限りです。  これらの内容は、その折々に、東京ヘレン・ケラー協会発行の「点字ジャーナル」という点字雑誌で掲載されたものが多く、墨字(活字体)では発行されておりません。 地球規模で視覚障害の著者が駆け巡る行動力には、改めて驚かれる方も多いと思います。  さて、これらの文章を書くのにあたり、みなさまに会長がどのように書かれているか、おしらせします。音声でパソコンを操作しますが、入力は点字入力(キーボードのアルファベット文字(s)(d)(f)、(j)(k)(l)を使用し、六点の点字入力で文字を書いていきます。 漢字も六点漢字で入力しますので、漢字を記憶していないと書けないのです。凄い事ですね。  そして、この本はフォントも大きく読みやすいのもおすすめの一つです。 点字版と音声版はサピエ図書館でダウンロードできる予定です。 写真:『白い杖、空を行く』表紙 16ページ 「伝える」から「伝わった」に 【事務局長だより】 星川安之  「前に言ったよね!」は、子どもが自分の意図していないことをしたり、もしくはしなかった時に、親がよく使う?言葉・・です。 この言葉は、親だけが使う言葉ではなく、さまざまな場面で耳にします。 同じ言葉でも言い方によっては、軽い注意から、相手の非を強く責める場合にも使われます。  責める時に使う時には、責任は自分ではなく、相手にあると証拠固めのように使われます。 どちらにしても共通しているのは、前に言ったことが相手に伝わってなかったということです。  今回の特集の「伝える」は、誰に、いつ、どこで、何を、どのような方法で伝えるかで、相手に伝わるかどうかが大きく分かれます。  近くに国立障害者リハビリテーションセンターがある新所沢の東口商店街では、目の不自由な人達に場所を伝える時に「あっちにあります」とか、 「そっちの方面です」などとは言わず、「左斜め前にあります」とか、「右に20歩ほどいった右側です」など、電話で伝えるような言い方で伝えると教わりました。  聴覚に障害のある人の中には、相手の口の形を見て相手が何を言っているかを理解する人がいるため、相手に口の形を見せるために下を向いて喋ったり、 マイクを口の前に持ってこないように話すと教えてくれたのも、この商店会の人たちでした。  浜松で農業を営む京丸園では、新入社員にトレイ100個を洗ってもらうのに「ちゃんと洗っておいて」と指示を出し、1時間たって行ってみると、なんと最初の1つを丁寧に洗っていたとのことです。  「ちゃんと洗っておいて」を、「表をスポンジで2回こすって、次に裏返してこすって、洗剤を水で流したら次のトレイに移って」と、 伝え方を変えたら、新入社員は次から次へと、トレイを洗っていったのです。  新所沢商店会そして京丸園の例は、ほんの一例ですが、どちらも、相手のことを理解し、どうすれば伝わるかの方法を理解していれば、誰にでもできる伝え方です。  学生、行政、企業、業界団体、一般市民の人達に依頼されて、共用品・共用サービスの話をさせていただく機会が増えてきました。 シャンプー容器にギザギザが付き、目の不自由な人がリンス容器と触って識別できることを伝えると、「すごいですね!」、「知らなかった!」という人が毎回、複数います。 知らないことを伝えるのは、話す側からすると、伝える仕事をしたとの気持ちにはなりますが、伝え方の問題を毎回痛感しています。  伝えたい情報を、相手も知りたい情報にしていくことは、伝え方の技術だけではないように思います。  この仕事をはじめて31年、これからは、最も重要な「伝える」に焦点を絞り、「伝わった」にしていきたいと思っています。 共用品通信 【イベント】(オンラインイベント) 心の目線を合わせる(10月7日) FMすぎなみ(10月25日) 心の目線を合わせる(11月11日) 【展示会】 国際福祉機器展(10月5日~7日) ふれあい福祉まつり(10月15日) 西荻地域区民センター 共用品・UD製品展示(10月16日) 【共用品推進機構 委員会】 新たな日常生活アクセシビリティ配慮標準化委員会(9月29日) 新たな日常生活アクセシビリティ配慮標準化WG(10月24日) TC173/SC7/WG7/CD 6273規格作成会議(10月19日、金丸) 【講義・講演】 木更津市 あしたば学級(10月20日) 学習院女子大学(オンライン)(10月24日) 和光大学(10月25日) 東洋大学(10月26日) 国立特別支援教育総合研究所第二期専門研修(視覚)(11月10日) 大和グループリーダー研修(11月22日) 【報道】 時事通信社 厚生福祉 9月16日 放課後等デイサービス「くじら」 時事通信社 厚生福祉 10月21日 高尾山の新たな登り方 日本ねじ研究協会誌 8月「伝わるマスク」展 日本ねじ研究協会誌 9月 京丸園 日本ねじ研究協会誌 10月 温水洗浄便座 トイジャーナル 8月号 ヨシタケシンスケ展かもしれない トイジャーナル 9月号 点字付き名刺 トイジャーナル 10月号 出生前診断 福祉介護テクノプラス9月号 スマイルサッカー教室 福祉介護テクノプラス10月号 それぞれの居場所(1)放課後デイサービス 福祉介護テクノプラス11月号 おもちゃ図書館全国連絡会 高齢者住宅新聞 9月14日 「声掛け」の定着 高齢者住宅新聞 10月12日 「良い工夫」の伝え方 シルバー産業新聞 11月10日 高さ 福祉用具の日しんぶん 10月1日 「誰かの良かったこと」は次の誰かの「良かったこと」に アクセシブルデザインの総合情報誌 第141号 2022(令和4)年11月25日発行 "Incl." vol.23 no.141 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2022 隔月刊、奇数月25日に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:https://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 編集長 星川安之 事務局 森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、木原慶子、田窪友和 執筆 川島早苗、後藤芳一、佐藤久夫、高橋良至、竹内攻、門田耕作 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙作成 西川奈美 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。