インクル142号 2023(令和5)年1月25日号 特集:いろいろな居場所 Contents 第23回共用品推進機構活動報告会 報告 2ページ 放課後等デイサービス「くじら」 4ページ おもちゃ図書館という居場所 5ページ デイサービス「つむぎ」の日常 6ページ 地域住民の居場所「まちナカ・コミュニティ西荻みなみ」 8ページ キーワードで考える共用品講座第132号 9ページ 共用品 in スウェーデン 10ページ 失語症と共用品・共用サービス 12ページ 落語家 春風亭昇吉さん UDに目覚める! 14ページ 千代田区「障害者週間」記念理解促進事業で共用品を展示 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 2ページ 第23回共用品推進機構活動報告会 報告  2022年12月9日(金)、第23回共用品推進機構活動報告会をオンラインで開催しました。 3回目となるオンライン報告会には約60名の法人賛助会員及び関係者の皆様にご出席をいただきました。  はじめに、富山幹太郎(とみやまかんたろう)理事長が開会のあいさつを行い、続いて星川安之(ほしかわやすゆき)専務理事が令和3年度の活動報告と4年度の進捗について報告を行いました。 「共生社会の実現」に向けて  今年度のオンライン活動報告会では、「アクセシブルデザイン関連の標準化と推進」と「共生社会に深くかかわる出産を躊躇しない社会として、ダウン症の子供の出生前診断」を中心とした講演を行いました。  早稲田大学人間科学学術院教授の倉片憲治(くらかたけんじ)氏からは、「標準化とは何か」、「日本産業規格(JIS)『高齢者・障害者配慮設計指針(アクセシブルデザイン)』」、 「JISから国際規格化された規格」、「最近の標準化活動」についてご講演をいただきました。  参加された方からは「アクセシブルデザイン関連の標準化と事例を交えた内容でより理解が深まりました」、 「アクセシブルデザインの規格については知りたいと思っていましたが難しく感じていました。 今回のお話をうかがいよく分かりました」という感想をいただきました。  NHK報道番組センター ディレクターの植村優香(うえむらゆか)氏のご講演は「妹が生まれなかったかもしれない世界~出生前診断と向き合って」をテーマに、弊機構の金丸淳子(かなまるじゅんこ)課長と対談形式で行いました。  参加された方からは「新型出生前診断(NIPT)が産婦人科などの認定病院以外でも実施されその後のフォローもされていないことにびっくりしました。 またこの診断により9割が出産をあきらめる実態や選別される命があることなどをうかがい、〝誰もが生まれてきていい、世界になるように〟との言葉が強く印象に残りました」という今回の講演の本質をついた感想もいただきました。  閉会では、長岡英司(ながおかひでじ)評議員が講演者の方々、法人賛助会員の皆様に向けてあいさつを行いました。 「法人賛助会員等活動報告 ウェブサイトで展開」  今年度の法人賛助会員の活動報告はウェブサイトにて期間限定で行いました。 時間の制約を受けずいつでもアクセスできる状況での公開は好評でした。 個人賛助会員をはじめ、多くの関係者の方々にもご覧いただけるようにウェブサイト(ページ)を作成したいと考えています。 写真1:早稲田大学人間科学学術院 倉片憲治氏 写真2:共用品推進機構 金丸淳子課長(写真左)、NHK報道番組センター ディレクター 植村優香氏(同右) 写真3:法人賛助会員等活動報告 ウェブサイトで展開 4ページ 放課後等デイサービス「くじら」 はじめに 放課後等デイサービスは、平成24年4月に児童福祉法に位置づけられた新たな公的支援で、6歳~18歳までの障害のある子どもや発達に特性のある子ども達が、 放課後や夏休みなどの長期休暇に利用できる福祉サービスです。 開始されてから10年たちますが、その間に全国に広がり、現在では約1万7000か所にも広がっています。 平均的な一日の流れ  各放課後等デイサービス事業所の一日に来る子供の定員は10名(重症心身障害児の定員は5名)となっています。 平日は学校が終わる時間(午後2時~3時)に、事業所が学校に迎えにいくところからはじまり、17時になると多くの事業所が終了します。 長期休暇の時は午前9時~11時からはじまるところがあります。 事業所にいる時間は、個人個人のプログラムで過ごすことになります。 音楽、工作などの文科系、ダンス、ストレッチなどの運動系、語学、散歩、各種行事、グループワークなどのコミュニケーション系など、 それぞれの事業所がそれぞれに工夫してプログラムをたてています。 医療的ケアが必要な子ども達には、常時医療従事者がケアする必要があります。 東京杉並区和泉にある放課後等デイサービス事業所「くじら」には、看護師5名が在籍しており、医療的ケアの必要な子ども達を受け入れています。 放課後等デイサービス「くじら」  早野節子(はやのせつこ)さんが理事長を務めるNPO法人かすみ草は、障害のあるお子さんをもったお母さんさん達3人で立ち上げたNPOで、訪問介護事業、居宅介護支援を行っていましたが、 平成30年から放課後等デイサービス「くじら」を立ち上げました。 早野さんは、1980年から20年間、板橋区にある重度心身障害者入所施設で、療育士として数多くの障害のある人達の人生に関わってきました。 NPOかすみ草の設立時には、依頼を受け当初から深くかかわり、施設から在宅への仕事の幅を広げていきました。 そんな中、社会では放課後等デイサービスの事業が法制化されると共に、さまざまな特徴のある事業所が設立し始めました。 しかし医療的ケアの必要な子ども達が通える事業所はほぼない状況でした。 人工呼吸器使用、吸引が必要、胃ろう(胃瘻)などの子ども達を受けいれるためには、障害のことを知った医療従事者がスタッフとして必須です。 早野さんは、20年間で培ってきた信頼のおける看護師さんたちに声をかけ、「くじら」のメンバーになってもらいました。  私が「くじら」を訪問した時は、3人の看護師と2人の療育士が、それぞれ個別のメンバーに食事のケアをしている場面でした。 手足を自由に動かすことの困難な子ども達が、それぞれ自分が表現できる方法で、この場に居られる喜びを担当者に伝えているのが、強く強く伝わってきました。  放課後等デイサービス「くじら」にいると、国連が提唱した「完全参加と平等」、障害者権利条約が推奨する「合理的配慮」、 ICFの「社会モデル」、最近ではSDGsが提唱している「誰一人取り残さない」を、夢物語でなかったと実感できるのです。 星川安之 写真:放課後デイサービス「くじら」パンフレット 5ページ おもちゃ図書館という居場所 はじめに  現在日本全国に広がっているおもちゃ図書館は、1963年スウェーデンで障害のある子どもを持つ二人の母親がおもちゃを交換したことが始まりと言われています。 その後、スウェーデンからヨーロッパ各地に「トイ・ライブラリー」の名称で広がりイギリスで大きく発展しました。  日本のトイ・ライブラリーは1975年大阪で、西ドイツで研修を積んだ辻つじい井正ただしさんによって開設されました。 スウェーデンの「レコテク」をモデルに、おもちゃによる治療療育を目的にしたものです。 ボランティアが運営するおもちゃ図書館第一号は、国際障害者年の1981年、東京都三鷹市に誕生しました。  当時は、障害のある子どもは訓練や療育が中心で、気軽に遊べる場がほとんどありませんでした。 障害のある子どもとその兄弟姉妹が安心して遊べる場、保護者が気兼ねなくほっとできる場を求める声が高まり、おもちゃ図書館は全国各地に広がりました。 広がっていくに従い、情報の共有を行うための仕組み・組織が必要になってきます。 その目的で設立されたのが、おもちゃの図書館全国連絡会です。1983年に設立されたおもちゃの図書館全国連絡会には、令和4年10月現在、全国のおもちゃ図書館のうち約350館が加盟しています。 そのうちの一つが、荒川おもちゃ図書館です。 荒川おもちゃ図書館  このおもちゃ図書館では、公的事業の「子育て交流サロン」と合わせて行っています。 オープンしているのは、月曜午前9時~11時30分、火・木・金曜9時~15時30分、水曜9時~15時、土曜9時30分~15時30分ですが、週によって、「パパと遊ぼう」という日があります。 コロナ禍によりそれぞれの時間帯は4組となっており、感染予防に努めています。  子ども達と接する人の他に、この図書館を支えている人がいます。 「エプロンおばさん」という名称の人達は、布で玩具を作ることをボランティアとして行っています。  また毎週一回、ベテランのトイドクターが集まり、おもちゃ病院を開いています。 このベテラン達は、どんなおもちゃも直してくれるのです。 まとめ  同じ目的をもった複数の機関が存在する分野では、情報を共有することが、その分野の発展に大きく関わってきます。 コロナ禍は、全国のおもちゃ図書館の運営にも大きな影響を及ぼしました。 一時的な閉鎖、人数の制限、貸し出しの制限などですが、それぞれのおもちゃ図書館が、どのように工夫していったかを連絡会のホームページに載せたり、 オンラインでの講座を行うことで、情報の共有をしながら、コロナという難敵にも対応していったのです。  また、それぞれのおもちゃ図書館では、地域のさまざまな機関との連携が、活動を進める際に大きな力になっています。  長い経験をもとに広がっていくおもちゃ図書館、そしてそのおもちゃ図書館を支える機関が、更に連携を深め、これからも子ども達の居場所であり続けてくれることを願っています。 星川安之 写真:荒川おもちゃ図書館のスタッフ(写真上)、エプロンおばさんが作った手作りおもちゃ(同下) 6ページ デイサービス「つむぎ」の日常 はじめに  東京都杉並区にあるデイサービス「つむぎ」には、平日の毎日午前9時~午後5時30分まで、認知症のある利用者12名とスタッフ4名が集まります。 車での送迎で利用者が集まると、そこでは普通の生活が始まります。 普通の生活と書いたのは、デイサービスと聞いて想像する「みんなで歌を歌う」「みんなで風船バレーをする」といった、今までの生活になかった特別なことが、プログラムとして組まれているわけではなく、掃除、洗濯、外出、洗濯、買い物、趣味、特技、そして調理など、利用者が今までの日常生活でのことを行えるようになっているからです。  私が「つむぎ」を訪問したのは11時、利用者全員が居間に集まり、その日の昼食の準備を全員で行っているところでした。 スタッフの一人が「お客さんが来られたわ」と利用者さんたちに伝えると、その中の一人が、お茶をだしてくれました。 スタッフが「お客さんに、お茶をだしてください」と、その人に伝えたわけではありません。 お茶をだしてくれたその人は、おそらく認知症になる前、お客さんにお茶を出すことが日常だったと想像します。 けれど、家族といる自宅での生活では、その役割を担っていないことも想像できます。 調理  「つむぎ」が大切にしている「日常生活の実践」は、利用者が認知症になる前に長年行ってきたことであるため、受け身ではなく能動的に実施できる要素がたくさんあります。 調理もその一つ。朝、利用者が集まると、その日の昼食の献立を何にするかを、利用者が意見を出し合って決めていきます。 献立が決まると、コロナ禍になる前は、皆で食材を買いに行っていました。 現在は「つむぎ」の冷蔵庫や食料棚にある食材を確認しながら、メニューを決めていきます。 食材が入っている棚には、扉がついていません。 その理由は、扉が閉まっていると、中に何が入っていたかを忘れてしまうからとのこと。  その日のメニューは、メインがキャベツ、ピーマン、人参、玉ねぎ、豚肉の炒め物、箸休めがさつまいもの甘煮、大根、小松菜、しめじ、マイタケのはいった味噌汁、それにごはんに決まりました。 決まったメニューは持ち運びできる小さな白板に書かれ、途中で忘れてしまっても、すぐに見られる状態になっています。  メニューが決まると、食材を洗う、切る、ご飯を研ぎ炊くが分担して始まります。 ここでは四人のスタッフが重要な役目を担います。 その役目とは、料理が苦手という演技をすることです。 その演技は、利用者さんが「スタッフにまかせてられない、だから自分が行う」に、直結するのです。 それは、その場に必要な自分を自分で確認することでもあるのです。  食材を切る時には包丁が必要ですが、「つむぎ」で使う包丁は、角が鋭利にならないように、予めグラインダーで丸みを帯びさせています。  食材を切り終わると、味噌汁を作る、メイン料理を焼く、できあがったものを皿に盛るといった一連の作業が、普通に行われていきます。 利用者の顔はずっといきいきしたまま、会話も弾みます。 私にもお皿にのった昼食セットを持ってきてくれました。 メインから味噌汁まで、どれも普通に美味しい! 定食屋「つむぎ」を今日開店しても多くの常連客がつくだろうと、お世辞抜きに思いました。  それは、楽しんで作るから、自信を持って作るから、自発的に作るから、仲間と共に作るからなど、いろいろな要素が組み合わさっての結果と想像しました。 なぜ、この「つむぎ」での昼食が美味しいか、なぜ、利用者さんが普通にいきいきして料理をしているかを知りたくなり、この「つむぎ」を作った責任者の島田孝一(しまだこういち)さんに、話をうかがいました。  「私のデイサービスは、ご覧いただいたように、利用者さんに自炊をしてもらっています。 家には、専業主婦のお嫁さんがいたりすると、台所にはもう立たなくなっていて、でもデイサービスに来たらお味噌汁を作る。 それを息子さんにお伝えすると、家では作らないのにと驚きます。 そこでその方が作られたお味噌汁を容器に入れて、ご家族に持っていってあげると多くの息子さんが『これ、母親の味だ』って言うんです。 本当にお母さんの作り方だったかどうかは僕らには分からないのですか、確かにお味噌入れる時とか、お味噌の溶き方、今だったら、どぼんって入れてから混ぜれば今の味噌は溶けるんですけど、ちゃんとあの茶こしみたいなものと菜箸でぐりぐり溶かしながらやって、出汁は普通の粉じゃなくて、煮干からとったりされます。 そういう本人の作り方は、『久しぶりに母の味噌汁の味』という息子さんの感想に繋がっていると思います。 後日、伝えてくれたりします。 そのため、何かをやめさせるとか、もうできなくなっちゃったということを伝えていくよりも、まだまだたくさんできていることがありますよと、伝えることは大きな意味があると思っています。  私たちスタッフは、利用者さんに、料理をしてもらう時、自分が利き手ではない左手で野菜などを切って見せることにしています。 利き手ではないので、わざと危なっかしく切るところをお見せします。 それでも気づいてくれなかった場合は、『痛っ』とか言って、指を切っていないのに、指を舐めてみたりします。 そうすると、目の前の認知症の人が『あなた危ないから貸しなさい』という流れになり、『男の人には無理よね』って、隣の利用者さんたちが切ってくれるのです。  最終的には自信とか尊厳の保持って言えばいうんですかね。 尊厳っていうものを僕らが価値あるものですよって与えるのではなくて、感じ取ってくれる。 それが自信として表れてくるんです。」と、貴重な種明かしをしてくれました。 星川安之 写真:扉のついていない棚 写真:本日のメニュー 写真:丸みを帯びさせた包丁 写真:利用者さんたちが作った昼食 写真:島田孝一さん 8ページ 地域住民の居場所「まちナカ・コミュニティ西荻みなみ」 西荻みなみ  2018年10月1日、東京杉並区の西荻窪に「まちナカ・コミュニティ西荻みなみ」という「居場所」がオープンしました。 オープン以来、地域住民のさまざまな活動の場として広く利用されています。 きっかけ  2011年の東日本大震災後、地域内コミュニケーションの大切さが確認され、杉並区では「きずなサロン」活動が各地で始まりました。 西荻窪地域では、神明通りであさ市が行われる第3日曜日に、地域の集会所で、毎月行われ、毎回、50~60名ほどの人たちが集い、近況報告やイベントの告知などを行っていました。 その西荻きずなサロンを、中心に行ってきたのが綾部庄一(あやべしょういち)さん(82才)です。  綾部さんは、自動車メーカーに長年勤務、会社員時代は、地域で活動する時間もなかったとのこと。 定年退職を機に時間にゆとりはできたけれど、地域でのつながりがなく、活動のきっかけもつかめなかったといいます。 それが、民生委員・児童委員になったことで地域とのつながりができ、地域でのつながりの大切さをあらためて思い「きずなサロン」を始めたのです。  地域施設を借りるには2カ月前に申し込みますが、抽選にはずれてしまうと、せっかくきずなサロンを楽しみにしていた人の期待にこたえられませんでした。 地域の交流の場  そんな時、神明通りで乾物屋を大正12年から開いていた店が閉じることになり、お世話になった地域住民の人たちに店を使ってもらえたらと、綾部さんに相談したのです。 二人の思いが合致し、4年前にオープンしたのが、「まちナカ・コミュニティ西荻みなみ」です。 サロンの場所を管理する団体を、綾部さんを中心に40~70代の33人で結成、自分たちで壁を塗り替えるなどして、オープンにこぎつけました。  広さは約70平方メートルの西荻みなみでは、今までのサロンに加えて、さまざまな集会、相談会に加え、各種教室、駄菓子の販売、バザーなども催され、毎回活気にあふれていました。 ハロウィンのような季節ごとのイベントを実施したり、一時間1500円でのスペース貸し、月2000円で商品を展示・販売できるレンタルBOXなども行われました。 コロナ禍で  しかし、2019年の後半から感染拡大が始まったコロナ禍は、西荻みなみにも襲いかかってきました。 せっかくつながった絆ですが、3密の回避の下では、今まで実施してきたことが行えなくなりました。  知恵を出し合い、各家庭に電話をし、便りを西荻みなみの窓に貼りだし励ましあいました。 時には定員を半分以下にし、覚えたてのオンラインも使い、繋がりを継続していったのです。 学びのカレッジ  居場所を活用し、住民が学びあい気づきをまちに還す、そういう人づくりまちづくりができないかと生まれたのが「学びのカレッジ」。 エコ・環境、防災、地域ふれあいという3つのテーマを掲げ、地域の課題を抽出し、解決案を創出する事業です。  地域住民の居場所があると、多様な知恵が集まり、さまざまな課題も突破していくことを示してくれています。 星川安之 写真:まちナカ・コミュニティ西荻みなみ 9ページ キーワードで考える共用品講座第132講「居場所とは」 日本福祉大学 客員教授・共用品研究所 所長 後藤芳一(ごとうよしかず) 1.居場所とは何か  居場所とは、人や生物、モノが存在するのに収まりがよい場所や状態である。 収まりがよいとは、静的な安定とは限らない。 動的な平衡がよいときもある。 仏教では勿体・もったい(モノのあるべき姿、本質的なもの)、全機(機はハタラキ、もって生まれたハタラキをあまさず発揮)という。 その人やモノのあるべき姿と調和していることである。  以降は人について考える。 収まりの良否は、①人(収まろうとする側)の欲求、②受けとめる(居場所を提供する)側の状況、③環境(取りまいて影響を与える)の3つで決まる。 物理的な場に限らず、人間関係や社会的役割も含むことになる。 2.居場所はどうなってきたか  人の欲求は、個々の個性やライフスタイル、取りまく環境との関係で決まる。 よって、社会のあり方との相互作用で創られ、変化する。  例えば、親族や地域の代々のつながりは全生活/全人的なつながりを持ち、深く安定(定常的)していた。 経済成長、産業構造が1→2→3次化、都市化、自動化・情報化・ネットワーク化が進み、それに対応するため仕事も暮らし(例:消費やサービス)も高い機能を集めることでなり立つようになった。 その結果、専門分化が進んだ。 雇用も流動化しつつある。 結果的に人と人・社会の接点は全人的→面→点に狭まり、短期・流動的になった。 定常的に収まる場が減ったことが居場所の「ない」ことを気づかせ、改めて居場所を意識させることになった。  オリヒメ(操縦ロボット)は、障害者の活動空間を拡げた。 今後は自分の意識がサイバー上のアバターに同化し、居場所も時空を超えて抽象化する可能性もある。 ここから先は、いまの一般のことを考える。 3.今の居場所を捉える視点  居場所は、それを求める側の欲求(1の①)、対応する側(同②)と周りの環境(同③)で決まることから、Y軸=個人の内外(社会との関わりが前提(Y1)か、個人(Y2)か)、と、X軸=時間(短期(X1)か、持続(X2)か)で整理できる。  社会との関わり(Y1)については、人は他の人や社会との関わりのもとで成り立つ(社会的存在)、所属の要求、役割を担う、承認欲求、周りへの作用・反作用から自分を確認する。 個人(Y2)については、心身の事情で外とつながりにくい状況を強いられる時がある一方、自己実現欲求、自分と向き合うことで自身を探求、そのため外界と遮断して内省の機会を創る時もある。  短期(X1)は、暮らしの一部への対応のために優れたサービスを揃える場合や、一時的にしのぐ場合。 非定常(例:進化の継続)が安定という場合もある。 持続(X2)するには、暮らしや社会活動の全般を受け止めるとき、「良いとこ取り」でなくどこをみても及第点、切れ目がない、結果の予見性、持続的・循環的な関係(エコシステム)などが必要になる。 4.事例  Y軸とX軸(上記3)をもとに整理する。 各軸は2つに分かれるので、組み合わせると4とおりになる。 社会との関わりが前提の時(Y1)は次の①と②がある。 ①社会・短期(Y1・X1)の事例は、高齢・障害のデイサービス、おもちゃ図書館、障害者就労移行支援事業所、こども食堂、ドナルド・マクドナルド・ハウス。 地域の催しや祭もこれに当たる。  ②社会・長期(Y1・X2)は、療育施設、支援学校、就労継続支援事業所、高齢・障害者のグループホーム、障害者運動、共用品の普及。 地域のコミュニティ、職場(従来型)、趣味の会、宗教(例:教会)もこれに当たる。  個人で行うもの(Y2)には③と④がある。 ③個人・短期(Y2・X1)は、訪問看護・介護。 これらを組み合わせてつぎめのない環境にすればX2にもなる。 瞑想、参禅、ヨガもこれに当たる。  ④個人・長期(Y2・X2)は、終の棲家としての高齢者施設やサービス付き高齢者向け住宅。 趣味・読書・宗教(それぞれ単独)もこれに当たる。 10ページ 共用品 in スウェーデン 東洋大学 高橋良至(たかはしよしゆき)  2022年10月某日、コロナウイルス感染症拡大の最中、1年間の在外研究をスウェーデン王立工科大学で進めるため、ストックホルムに赴きました。 そこで、スウェーデン滞在中に目にした共用品的なモノについてご紹介します。 スーパーにて  海外でスーパーの陳列を眺めるのは、結構楽しいものです。 見たこともない食材もありますが、日本の醤油やインスタントラーメン、チョコレート菓子などを見つけることもあります。  スウェーデンの乳製品大手、Arla社の牛乳のパッケージは、牛乳の脂肪分の違いを色で表しています。 3.0%を赤色、1.5%を緑色、0.5%を青色として、さらにパッケージ下部の線の本数をそれぞれ変えています。 色でも、線の本数(太さ)でも区別ができるようになっています。 屋根型のテトラパック容器ですが、注ぎ口はパックの端を開くのではなく、屋根状になった部分にスクリューキャップがついた注ぎ口があり、子どもや高齢者など、手先の細かい作業が難しい人でも開けやすくなっています。 ヨーグルトの容器も同じ容量(1000ml)と形状ですが、牛乳より粘り気があるため、注ぎ口は大きめになっていてキャップの大きさが異なるので、キャップを触れば、牛乳とヨーグルトの区別ができます。 ちなみに、日本にある「牛乳」を示す切り欠きはありません。  紙パッケージのミシン目や、ビニールなどのパッケージは、日本の製品の方が開けやすくなっています。 「ここから開ける(OPEN)」と書いてあっても、ベロ状の部分がどうしてもつかめなかったり、開けている最中にちぎれてしまったりして、きれいに開けることは容易ではありません。 そもそも切り口がないものも多く、その場合は引っ張ってもびくともしないので、素直にはさみを使うようになりました。 海外製のオープナーをよく見かけるのは、そのためかもしれません。 その点、どこからでも開けられる包装がある日本の方が、細やかな配慮がされていると感じました。  この他に、コープ(Coop)の自社ブランド品や、GARANT社のパッケージは、大きな文字や単純化したイラスト、カラフルな色使いになっており、品物や種類の違いが分かりやすいデザインになっていました。 薬局にて  最近の日本では、薬以外の化粧品や食品を多く扱うドラッグストアが増えたようですが、スウェーデンの薬局は、処方箋や市販薬などを中心に扱っていて、日用品などは販売していません。  薬局で扱われる商品のパッケージは非常にシンプルで、文字と抽象的な図形などのデザインが多い印象です。 日本の「第二類医薬品」に相当する風邪薬などは、それに加えて点字表示もあります。 医薬品のパッケージデザインは、スウェーデン医療製品庁による承認が必要なようですので、EUの規制やスウェーデン国内の条例による制約で、このようなデザインになっていると思われます。 しかし、ほとんどがスウェーデン語表記のみなので、何の薬か分かりません。 そのような時は、薬剤師に聞いて教えてもらいます。 副作用などのある薬を間違って買わないように、専門的な知識を持つ人を介することは、意味があると思いました。  ちなみに、医薬品でないものなどは、絵が描いてあったりしますし、点字表記もありません。 福祉用具店にて ストックホルムには、福祉用具を販売する店舗がいくつかあるので、ストックホルム中央駅に近い、Varsamという店に行ってみました。 ここは、ベッドや枕、車いすやクッション、杖、片手で調理するためのまな板やびんのオープナーなどの福祉用具だけでなく、共用品と言えるような製品も扱っています。 ベッドでも使えるクッション書見台、裏に滑り止めがある靴下、指に通して使う皮むき、食材を切った後に曲げてボウルなどに投入できる柔らかいまな板など、スウェーデン製に限らず、日常生活の不便さを解消する道具などが揃っていました。 人間工学に基づく持ち手のデザインで知られる、フィンランドのフィスカース社製のハサミも置いてありました。 デジタルと共用サービス  スウェーデンでは、キャッシュレス化が進んでいて、非接触型キャッシュカードやデビットカード、スマートフォンで支払いを済ませられます。 滞在中に現金で支払いをしたことはありませんでした。 店によっては、スマートフォンから支払いが行える、Swishと呼ばれる電子決済しか受け付けないところもあります。 現金の扱いがないので、手先の細かい操作が難しい人には便利と思われます。 デジタル機器が苦手な人もいますが、高齢者でも多くの人がスマートフォンを持って利用しています。 手続きや認証のしやすさといった、ユーザーインターフェースを上手に設計することで、デジタルへのアクセシビリティが高まり、共用サービスの向上につながると感じました。 写真:Arla社の牛乳パック(写真上)点字のある薬(解熱剤)のパッケージ(同下) 写真:ベッドでも使えるクッション書見台(写真上)Swishによる決済(同下) 12ページ 失語症と共用品・共用サービス 東京高次脳機能障害者支援ホーム 言語聴覚士 小堀香織(こぼりかおり) 共用品との出会い  2022年10月に開催された国際福祉機器展に参加しました。 ふだん仕事でお会いしている高次脳機能障害をお持ちの方に使えるアイテムやアイデアはないか、と考えながら回っていました。 その際に、共用品推進機構が企画・運営している主催者ブースに立ち寄ったことが共用品との出会いです。 「伝える」コーナーがあり、コミュニケーション支援ボードや、磁気の筆談具などふだん活用しているものも並んでいました。 コンビニのレジにある、聴覚障害の方が指さしで意思表示するためのイラスト入りシートが目にとまり「これをいただけませんか」とお願いをした覚えがあります。 失語症をお持ちの方に使えそうだと思ったからです。  私は高次脳機能障害の方を対象とした入所施設で働いています。 高次脳機能障害には記憶障害や注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害…など様々な症状がありますが、そのうちの一つが言葉の障害である失語症です。 言語聴覚士という立場で、失語症をお持ちの方への訓練や、コミュニケーション方法について提案・支援することを専門としています。 失語症をご存じですか  失語症は、言葉の障害の一つです。 一般の方々にとっては、名前を聞いたことがある程度、または全く知らない方がほとんどなのではないかと想像します。 言葉の障害と聞いて多くの方が真っ先に思いつくのは聴覚障害ではないでしょうか(聞こえない→話せない→手話・筆談)。 または喉頭ガンなどで声帯を失った方が(声を出せない→話せない)と想像することは難しくないでしょう。  一般的に言語障害という言葉は、このように「話すことが難しい」ことを指すことが多いように思いますが、失語症は少し違います。 失語症の難しさ  失語症は脳の言語野という部分が損傷されて起こる症状です。 主な原因は脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、または事故による脳外傷などです。 言語野の損傷によって「聴いて理解、読んで理解、話す、書く」の言語の4様式すべてに障害をもたらします。 ですから「話すことが難しい」だけではなく、誰かに言われたことが理解できなかったり、言いたいことを代わりに書くことも難しくなる場合があります。 逆に、うまく言えない代わりに単語を書いて伝えるほうが得意な方もいますし、漢字は理解しやすいけれど平仮名は分かりにくい…など症状や重症度は、脳損傷の部位や大きさにより実に様々で、まさに十人十色です。 したがって、その方それぞれに合わせた配慮や代償手段が必要となるのです。 コミュニケーションの工夫  失語症は見た目では全く分かりません。そして失語症をお持ちの方は自分の言語障害について説明することも難しく、また、自分から支援を求めることも容易ではありません。  そこで、外出時に何か周囲の方に頼らざるを得ないトラブルがあった時のためにカードを持ち歩いていただく事があります。 ご自身で提示したり、周囲の方に気づいていただくことが目的です。 失語症によって言葉が不自由であること、して欲しい配慮、緊急連絡先などを記載します。 最近はヘルプマークと一緒に鞄や車椅子に付けることが多いです。 (ただ、なかには失語症と知られたくない方もいらっしゃるので、その辺りは慎重に判断しています)  それから、意思表示用に前もってカードを用意することもあります。 コンビニのレジでチャージするために「チャージお願いします」。 車椅子で電車に乗るための「スロープお願いします」「〇〇駅までお願いします」など。 福祉機器展で見かけたコンビニのイラスト入りシートには「レジ袋いりません」というものがあったので、買い物時に持っていたら便利かもしれないと思いました。 「筆談具あります」だけでは…  この数年、役所や駅、お店などで「筆談具あります」という表示を見かけることが多くなりました。 「話せない」だけなら筆談具を用いることで、やりとりは成立するかもしれません。 ですが、残念ながら失語症をお持ちの方に筆談具を用意するだけでは十分とは言えません。  少し雑な例えかもしれませんが、自分が突然見知らぬ外国に連れていかれてしまった、と想像してみてください。 先ほどの「4つの言語様式を自由に使いこなすことが難しい状態」がイメージしやすくなると思います。  失語症の方とやりとりをする場合には、言葉にプラスしてジェスチャー、絵、地図や写真など、言語以外の方法を併用すると、コミュニケーションを取りやすくなります。 また選択肢を用意したり、YES・NOで答えられるような尋ね方をすることも有効です。  コミュニケーション支援ボードが用意されている場所も増えました。 タブレットやスマホアプリも便利なものがこの先も増えていくでしょう。 世の中の道具が充実するとともに、それらを使う方々の理解や工夫、想像力が伴って初めて、有効なコミュニケーション手段となるのだと考えています。 共用品の役割  私が働いている施設は、高次脳機能障害をお持ちの方の入所施設であり、社会復帰や地域生活に戻るための訓練をする場所です。 ご本人の機能や能力を上げる訓練はもちろんですが、入所中、そして退所後の地域生活で利用者様が日々の生活を送りやすい環境や方法、道具を提案することも、大きな仕事の一つです。 それぞれの方に合った、より良い方法を提案できるようスタッフ皆で知恵を出し合い、試行錯誤しています。  生活をする上では、わかりやすい表示の方法、便利な道具の活用、シンプルに覚えやすくすることなど、さまざまな目線に立って想像してみると、いろいろな工夫・改善の余地があることがわかります。 それらを考えていると同時に、それは私自身の生活にも活かされるアイデアであるとも感じていました。 「誰かの不便さ・便利さを、みんなの使いやすさに」という共用品推進機構のパンフレットのタイトルに大きく共感したのも、これが理由です。  そしてなにより、どのような障害をお持ちであれ、ご本人の不便さを解消し、自分自身で解決できるようになるということは、家族や支援者など周囲の人の時間や手間も解消することにつながるでしょう。 それは私たちの仕事と共通する考えであり、共用品・共用サービスがもたらす非常に大きなメリットだと感じています。 写真:ローソンの指差しシート 写真:説明のカードとヘルプマーク 14ページ 落語家 春風亭昇吉さん UDに目覚める!  落語家 春風亭昇吉(しゅんぷうていしょうきち)さん(以下「昇吉さん」という)。 日本テレビ「笑点」の司会でおなじみの春風亭昇太(しゅんぷうていしょうた)さんを師匠とし、現在は真打。 その昇吉さんをなぜインクルの今号で紹介するかというと、きっかけは昇吉さんが共用品のドアをノックしたことだ。 視覚に障害のある人によくわかるように落語を伝えたいというから、協力するしかない。 話はどんどん進んで、落語をテーマにした「昇吉UD絵本プロジェクト」が、視覚に障害のある人、印刷、出版の専門家たちの力を借りて進行中だ。 落語界初の東大卒  はじめにお伝えしておくと、昇吉さんは東京大学を卒業している。 高校卒業後に岡山大学に入学したが、講義も受けず、近所の本屋でアルバイトをしながら毎日本ばかり読んでいた。 そんな彼が予備校で東大を目指して勉強したら、合格してしまったというから驚きだ。  東大では落語研究会に所属。ボランティアで高齢者施設、八王子盲学校、ホスピス、医療少年院で落語を披露。 在学中に、第三回全日本学生落語選手権・策伝大賞に選ばれている。 このボンティア活動と策伝大賞受賞の二つの功績で、東京大学総長賞の総長大賞を受賞している。 八王子盲学校でUDに開眼  しかし、何が人の進む方向に影響するかわからない。都立八王子盲学校での落語のボランティアが、その後の人生を変えることになる。  盲学校の先生から事前に、「いろんな子どもがいるから、落語は難しいかもしれない」と言われたが、昇吉さんの落語はとにかく受けた。 その場にいた中学部の生徒たちの笑いが止まらない。 視覚障害の先生が、盲ろうの生徒に、手のひらを使って落語の内容を伝えていたのも衝撃だった。 また、昇吉さんの声は聞きやすかったと先生にほめられもした。 この初めての経験が、進路に迷っていた昇吉さんの背中を強く押し、UDの“沼”に落としたのだ。 人を排除しない「長屋」  落語には、複数の家庭が暮らす「長屋」が登場する。 少し思慮が足りない住民を大家が、「ばかだねぇ、お前は」などと揶揄することもある。 しかし、どんな住民も排除しない。 家族、個人の問題まで、みんなで解決しようと知恵をしぼる。 “誰ひとり取り残さない”温かみがある。まさにUDの精神だ。 昇吉さんは落語を始めたときからずっと、UDの考えを広めていたのだ。  UD絵本の方はというと、点字版、音声版、3Dプリンターを使った凸図入りなど、企画は広がっている。 絵本の試作も始まる予定だ。昇吉さんの力作を楽しみに待ちたい。 写真:春風亭昇吉氏 金丸淳子 15ページ 千代田区「障害者週間」記念理解促進事業で共用品を展示 「障害者週間」記念理解促進事業  共用品推進機構のある千代田区では、障害者週間に合わせて、障害に対する理解を促進するため、障害のある人と一般区民との交流を図ることを目的に、千代田区役所1階にある区民ホールでのイベント「『障害者週間』記念理解促進事業」を行っています。  このイベントでは、障害のある方に関する活動や施設・支援などのパネル展示、利用者さんの作品展示やイベントの案内のほか、人権週間講演会、明るい選挙推進ポスター展示会、区内中学生による人権標語展、LGBTs関連展示会を同時開催しています。  本年度は12月2日~9日まで行われ、ヘルマンハープ演奏会や障害のある方々の手作りの品の販売、東京2020パラリンピック競技大会の写真や競技で使用された車椅子の展示、東京に招致が決定したデフリンピック2025の展示などが行われました。 共用品の展示  共用品推進機構はこのイベントに2013年から参加しています。 2019年までは共用品を触って体験できるような展示をしていましたが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、2020年度からはショーケースでの展示となっていました。 本年度は、状況も踏まえ感染拡大を防止しながら、触って体験できる展示にしました。  共用品の代表的な触って識別のできるシャンプー・コンディショナー・ボディーソープの容器、従来よりも軽い力で操作できるホチキスやダブルクリップ、指さしで会話ができるコミュニケーション支援ボード、国際福祉機器展で展示した手のひらをのせて上から押すと泡が手のひらに出るハンドソープ容器や、口元が見える透明なマスク、ドアチャイムが鳴ったときに音が聞こえないために反応がないことを伝える玄関ドアプレートやマグネットなどを展示しました。  千代田区が行った来場者へのアンケート回答では、「シャンプー・コンディショナー・ボディソープに工夫がされていることを初めて知りました」、「使いやすい商品を提供している実体が少し分かりよかったです」などのご感想がありました。  新型コロナウイルスにより、製品やパネル展示のみでの参加となっていましたが、今後は感染拡大を防止しながら、共用品の体験ができる展示や情報発信をしていきたいと思います。 田窪友和(たくぼともかず)・木原慶子(きはらけいこ) 写真:展示概要パネル 写真:区民ホール 写真:展示した製品 16ページ 「居場所」について 【事務局長だより】 星川安之  言葉にするまでもないが、居場所には物理的な居場所と、気持ちや心など物理的ではない「場所」がある。  今回紹介したデイサービス「つむぎ」、放課後等デイサービス「くじら」、荒川おもちゃ図書館、まちナカ・コミュニティ「西荻みなみ」は最近、私が訪問した機関である。 地域、対象は異なっているが、話をうかがいながら浮かんだ共通の単語は、「居場所」だった。  私がおもちゃメーカーで、障害児のおもちゃを作り始めた時、多くの家庭を訪問させてもらった。 印象に強く残っているのは、義眼をしている幼稚園前の全盲の女の子の家で、お母さんから見せてもらったその子を撮った多くの写真。 成長期のため、義眼は大きさを変えることもあり、取り出しやすいように取っ手がついているものだった。 この写真は、いつどこで撮ったものと、一枚一枚を丁寧に説明してくれたのだが、全ての写真は、夜の誰もいない公園で撮影されたものだった。  もう一つ印象に残っているのは、中途失明者の更生施設で指導員から聞いた「中途失明した人の中には、外に出ることをしなくなってしまった人がいます。 家から出て10メートルのところにある店にも、見えなくなって以来行っていない人もいます」という話である。  どちらも30年以上前に聞いた話なので、状況は変わっているかもしれないが、聞いた時はもやもやしたこと、そのもやもやが消えなかったことを今でも覚えている。  私の仕事は、障害児が遊べるおもちゃ作りから、障害の有無、年齢の高低に関わりなく共に使える製品・サービスの普及にシフトしていったが、共通している目標は、より多くの人たちの居場所づくりだったと、振り返ってみると思う。 「より多くの人たち」と書いたのは、共用品の普及を始めた当初、「誰もが使えるものなんかあるのか?」と、厳しく指摘されたことで、論議を突破できずに、弱気で変更した記憶がある。 その後、2018年1月に発行された広辞苑の第7版で共用品が、「障害の有無に関わらず誰もが使えるモノ」の語釈で掲載された。 また、SDGsでは「誰一人取り残さない」を目標にかかげ、誰も派には追い風となっている。  話を元に戻すと、目指す居場所は、より多くの人ではなく、誰でも入れることと、今回の4機関を訪問して思った次第である。  ただし、ハード、ソフトが合わさったもしくは、それぞれの誰もが行ける居場所は、言葉で書くことの何十倍、何百倍の多様な工夫や知恵が必要ということは分かる。  さて、その目標が絵空事にならないために、改めて体制を整えながら、取り掛かっていきたいと思っている。 共用品通信 【イベント】(オンラインイベント) 共用品推進機構 オンライン活動報告会(12月9日) 【展示会】 千代田区障害者週間(12月2日~9日) 【共用品推進機構 委員会】 ISO/TC 173/SC 7総会(10月26日) ISO/TC 173総会(10月27日) 第2回アクセシブルサービスJIS原案作成員会(12月7日) 第2回新たな日常生活アクセシビリティ配慮標準化WG(12月19日) 第2回TC173/SC7国内検討委員会(1月23日) 【講義・講演】 文教大学(12月1日 星川) 日本福祉大学 香川(12月10日・11日、星川・森川) 実践女子大学(12月12日、星川) 筑波大学(1月5日、星川) 【報道】 時事通信社 厚生福祉 11月8日 おもちゃ図書館全国連絡会 時事通信社 厚生福祉 11月18日 デイサービス「つむぎ」 日本ねじ研究協会誌 11月 AED 日本ねじ研究協会誌 12月 私の知人 トイジャーナル 11月号 見せ方、伝え方の工夫 トイジャーナル 12月号 奥野かるた店 福祉介護テクノプラス12月号 デイサービス「つむぎ」 福祉介護テクノプラス1月号 「豊かな共生世界の実現へ」花王のモノ・コトづくり 高齢者住宅新聞 11月9日 室内用保護帽 高齢者住宅新聞 12月14日 コンビニの進化 高齢者住宅新聞 1月18日 芯が1ミリの3色ボールペン シルバー産業新聞 1月10日 コンサート アクセシブルデザインの総合情報誌 第142号 2023(令和5)年1月25日発行 "Incl." vol.24 no.142 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2023 隔月刊、奇数月25日に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:https://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 編集長 星川安之 事務局 森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、木原慶子、田窪友和 執筆 後藤芳一、小堀香織、高橋良至 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙作成 Nozomi Hoshikawa 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。 その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。