インクル145号 2023年(令和5)年度7月25日号 特集:合理的配慮を考える Contents 令和4年度事業報告書 2ページ 改正障害者差別解消法への期待~蝋細工ではない真の共生社会の実現を 4ページ 「助けてあげる」ではなく「助け合える」社会に 5 雇用分野での合理的配慮 6ページ 訪問看護と合理的配慮 7ページ リウマチと合理的配慮 8ページ 「表皮水疱症にとっての合理的配慮」を考える 9ページ 「あゆみショップ」について 10ページ 布しばい(なにぬの屋)の合理的配慮 11ページ キーワードで考える共用品講座 第135講 12ページ 日本トイレ協会 ノーマ研がめざすこと 13ページ 新刊出版記念企画「インクルサロン」「良かったこと探し」から始めるっていいね 14ページ クリエーターのための共用品読本 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 2ページ 令和4年度事業報告書 アフターコロナ時代のアクセシブルデザイン  共用品推進機構は、共用品・共用サービスの調査研究を行うとともに、共用品・共用サービスの標準化の推進及び、共用品・共用サービスの普及啓発を図っています。 さらに製品及びサービスの利便性を向上させ、高齢者・障害のある人々を含めた全ての人たちが暮らしやすい社会基盤づくりの支援を行うことを事業の目的としています。 目的に従って令和4年度に行った主な事業は、以下の通りです。 1.調査研究  より多くの人々が、暮らしやすい社会となるために必要な事項を、ニーズ把握、製品・サービス・システムに関する配慮・考慮点の基準及び普及に関しての調査・研究プロジェクトを設置して行った。 (1)障害児・者/高齢者等のニーズ把握システムの構築・検証 ①障害児・者/高齢者等の日常生活環境における不便さ等の実態把握(調査方法)の検証・実施  前年度までに行ってきた「地域における良かったこと調査」を参考に、新たな地域において「良かったこと調査」を実施した。 その他、障害当事者団体、NPO、企業等からの依頼で各種調査を行った。 ②共創システム及びモニタリング調査システムの構築・検証  これまでに行ってきた共用品モニタリング調査を基に、障害当事者団体・高齢者団体等と連携し、関係業界、関係機関(業界団体、企業、公的機関等)が 共用品・共用サービス・共用システムに関するモニタリング調査を簡易に実施するための支援システムを実施し、更にこの支援システムを恒常化するために必要な事項の分析を行い、合理的且つ有効なモニタリングの実施方法を構築した。 ③コロナ禍による新しい生活様式における不便さを解消している製品・サービスの調査  令和2年度に実施した新型コロナウイルスの感染拡大の状況での障害のある人々への不便さ調査を基に作成したガイドラインに沿って、不便さを解消している製品・サービスに関しての確認を行った。 ④共用品・共用サービスに関する国際調査  アジアを中心に各国の共用品・共用サービスの普及状況を確認した。 (2)共用品市場調査の実施  令和3年度までに実施してきた共用品市場規模調査及び手法に関しての分析を引き続き行い、調査対象の範囲並びに、今後共用品を普及するために必要な事項の課題抽出を行いながら実施した。 また、共用サービスにおける市場規模の調査の可能性を検討した。 2.標準化の推進  アクセシブルデザイン(高齢者・障害者配慮設計指針)の日本工業規格(JIS)及び国際規格(IS)の作成を行った。 また、その作成に資するため、国内外の高齢者・障害者配慮の規格に繋がるための調査・研究・検証を行った。 (1)規格作成 ①アクセシブルデザイン(高齢者・障害者配慮設計指針)国際規格の作成及び調査・研究  国際標準化機構(ISO)内のTC173(福祉機器)及びTC159(人間工学)に提案し承認された案件を、国際規格制定に向けて作業グループ(WG)で審議した。 ⅰ.福祉用具―一般通則と試験方法 ⅱ.福祉用具―感覚機能に障害のある人のための福祉用具に関するユーザーニーズ調査のガイドライン ⅲ.新しい生活様式におけるアクセシビリティ配慮設計指針 ②アクセシブルデザイン(高齢者・障害者配慮設計指針)JIS原案作成及び調査・研究  アクセシブルデザインの共通基盤規格、デザイン要素規格のJIS原案作成における全体像の検証及び整理を行った。 また、日常生活における不便さ・便利さ調査の標準化に向けた作業を行った。 ③共用サービス(アクセシブルサービス)の国内標準化に向けた調査・研究  共用サービス(アクセシブルサービス)に関する規格作成に向けて、職場、店舗、消費者窓口、医療、公共施設、イベント等の共用サービスに関する既存のガイドライン及び各種ニーズ調査等を整理分析した。 これを基に、開発すべき共用サービスの共通並びに個別規格の体系図を作成し、アクセシブルサービス(共用サービス)規格(JIS)の作成を行った。 (2)関連機関実施の高齢者・障害者配慮設計指針規格作成及び調査研究に関する協力  アクセシブルデザイン(高齢者・障害者配慮設計指針)に関係する調査・研究並びに規格作成を行っている機関と連携し、アクセシブルデザイン標準化(事務機器等)への協力を行った。 3.普及及び啓発  開発・販売・市場化された共用品・共用サービス・共用システムを広く普及させるため、データベース、展示会、講座、市場規模調査、国際連携等、令和3年度までに実践してきた事項を基に行った。 (1)共用品普及のための共用品データベースの実施  令和3年度までに行ってきた共用品のデータベースの試行を基に、障害のある人を含む多くの消費者が、的確な共用品を選択できる仕組みを構築するため、使いやすさや検索のしやすさについて検討した。 その後、データベースを構築し試行を開始した。 (2)共用品・共用サービス展示会の実施  「高齢者・障害者配慮の展示会ガイド」を活用する展示会主催者に協力し、展示会における高齢者・障害者配慮の実践を継続した。 また、共用品の展示会を実施し、より多くの人たちに共用品及び共用品の考え方を普及した。(国際福祉機器展等) (3)共用品・共用サービスに関する講座等の実施・検証  共用品・共用サービスに関する講座に関して①対象(企業、業界団体、アクセシブルデザイン推進協議会=ADC)、一般市民、就学前の子供~大学院生等ごとに、 ②伝える事項(コンテンツ)、視覚的ツール(共用品のサンプル、PPT、ビデオ等)、③配布資料等を用意し、対面及びオンライン講座を実施した。 (4)障害当事者等のニーズの収集  障害のある人達を対象としたニーズやアイディアを継続的に収集しながら、共用品の重要性を深め普及を促進する教材を作成した。 写真1:事業イメージ図 写真2:共創システム及びモニタリング調査システムの構築・検証 4ページ 改正障害者差別解消法への期待~蝋細工ではない真の共生社会の実現を おおごだ法律事務所 弁護士 大胡田誠(おおごだまこと) 1 現在の障害者差別解消法の問題点  障害者差別解消法が施行されたのは2016年4月、今から7年前のことである。 それまで障害者に対する差別を禁止するという明確なルールのなかった我が国に、「不当な差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供義務」という新たなルールを導入する画期的な出来事だった。 しかし、いくつかの課題を抱えたままの船出だった。  その課題とは次の2つだ。  1つ目は、民間事業者の合理的配慮の提供が努力義務にとどまったということ。 合理的配慮とは、障害者が障害のない人と平等に社会に参加するために必要となる施設の改良、補助手段の提供、ルールの変更などであって過重な負担を伴わないものをいうが、 行政機関についてはその提供が法的義務とされた一方、民間事業者については努力義務とされたのである(7条2項、8条2項)。  2つ目は、障害者が差別されたり、合理的配慮の提供を受けられなかった場合に、相談をしたり、相手との間に入って問題解決の支援をしてくれる機関の位置づけが不十分なことだ。  来年4月に施行される改正法では次に述べる通り、これらの課題の解決が試みられている。 2 民間事業者の合理的配慮の義務化について  現行法の第8条第2項では、民間事業者の合理的配慮は「しなければ」ならないものではなく、あくまで「するように努めなければ」ならないものだとされている。 その結果、障害者が合理的配慮の提供を求めても、民間事業者側がそれに対して真摯に向き合わないこともあった。 また、法的義務ではなく努力義務であるために、行政の担当者などが事業者に配慮を行うよう指導する場合、いわば「お願いベース」での指導しかできず、指導の実効性が上がらないという問題もあったようである。  今回の改正では、民間事業者の合理的配慮が法的義務になることで、これらの問題が解決に向かうものと思われる。  まず、合理的配慮が法的義務になったということのインパクトはかなり大きく、改めて差別解消法の存在を社会に対して周知し、社会的変化につなげていくきっかけになるはずである。  さらに、合理的配慮を提供しない事業者に対して、行政としても、強力な指導を行うことができるようになり、問題解決の実効性が高まることが期待される。  一方、法的な側面でいえば、障害者は、合理的配慮を提供してくれない事業者に対して、裁判を起こしてその違法性を追及することができるようになる。 3 差別や合理的配慮に関する相談体制の充実  差別解消法施行の際には、相談や紛争解決について新たな機関は作らず、既存の窓口、具体的には法務局の人権擁護窓口や各地方自治体の障害者福祉担当の窓口が相談等に当たることを想定していた。  一部の自治体では、独自の条例を作って相談や紛争解決の体制を整備し、成果を上げているが、多くの自治体では残念ながらほとんど差別などに関する相談もなければ、何らかの問題解決につながったという実績もないようである。  このような現状を変えていくため、改正法では、①政府の作るガイドラインである「基本方針」に、相談体制の拡充に関する内容を定めること、 ②相談にあたる人材の育成や確保を国や地方自治体の責務とすること、③国と自治体が連携・協力して差別の解消の推進に当たること、④相談事例を適切に収集、整理することなどが定められた。 4 終わりに  これまで障害当事者としても弁護士としても、差別解消法は「理念は素晴らしいのだけれど、実際にはあまり使えない」という思いを抱いてきた。 飲食店の店頭に飾られた、おいしそうに見えるけれど食べられない蝋細工のようなもどかしさがあった。  改正法施行によって、私は今度こそ、カフェやレストランで、地下鉄やショッピングモールで、学校や病院で、心行くまで共生社会の果実の味をかみしめたいのである。 5ページ 「助けてあげる」ではなく「助け合える」社会に 弁護士・聞こえないきょうだいをもつSODAソーダの会代表 藤木和子(ふじきかずこ) 耳が聞こえない弟は「対等な相手」  私は、耳が聞こえない弟と一緒に育ちました。 子どもの頃から、周囲の大人から「お姉ちゃんは聞こえない弟を助けてあげて」とよく言われていました。 しかし、そのような考え方は、「聴覚障害」というものを大きくしてしまう気がしていました。 当時の私にとって、弟は本気でテレビゲームで勝負や取っ組み合いのケンカをする「対等な相手」。 テレビゲームは視覚で楽しめ、セリフが文字で出るものが多かったのです。 耳が聞こえる・聞こえないを考えずに夢中になって遊べました。 声や音を文字で表すなど、耳が聞こえないことに関係する部分には助けが必要だけど、それ以外は特にいらない、しないのが平等(公平)。 子どもなりに考えたことですが、これが私にとって合理的配慮の原点だったかもしれません。 民間事業者について合理的配慮が義務化  合理的配慮がめざしているのは「障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」(障害者差別解消法第1条)です。 これは「聞こえる姉」と「聞こえない弟」という見方ではなく、それぞれを「一人の人間」として見てほしかった、という私の思いにも通じます。  令和6年4月1日からは、民間事業者についても合理的配慮が努力義務から法的義務になります。 親切な人や思いやり頼みではなく、法律で「(予算や人員について)負担が重すぎない範囲で合理的配慮をする」ことがルール化されていることが重要です。 国・自治体と市民という関係の場合と比較して、企業・お店とお客さん、団体と参加者等の関係の場合は、互いの事情を相互に理解した上で、「互いにWIN-WINになるには?」「どんな選択肢があり、どんな工夫ができるか?」を一緒に考えていくこと、建設的対話がより求められてくると思います。 聴覚障害の場合は、筆談、コミュニケーションボード、行政の福祉サービスの手話通訳派遣・要約筆記派遣、音声を文字にするアプリ(誤変換は修正が必要)、 電話リレーサービスという手話や文字チャットを使い、通訳オペレータ(手話・文字⇔音声)を介して電話ができる公的サービス等があります。 役割を免除するのは「親切」?  最後に質問です。民間事業者には、例えば、町内会やPTA等の団体も入ります。 その役員や当番などを「障害があって大変だから」と免除することは「親切」でしょうか?実は面倒だからでしょうか?免除された方が楽でいいでしょうか?それとも免除されることはずるいでしょうか? 私の意見ですが、法律が「共生社会の実現」をめざしていることから考えると、「助け合っていくためには、どのような合理的配慮や工夫、役割分担が必要か」と考えていく方向が適切であり、平等(公平)だと思います。 「何が平等(公平)か」ということは状況によっては正解のない難しい問題ですが、やはり大切なのは建設的対話です。 障害の有無に関わらず、誰もが必要な時に助けが得られ、社会全体で助け合っていけるように私も微力ながら頑張っていきたいです。 写真:「聞こえるきょうだい」視点で活動しています。 6ページ 雇用分野での合理的配慮 医療機関の障害者雇用ネットワーク 依田晶男(よだあきお)  「合理的配慮」の考え方は、障害の「社会モデル」に基づき、障害者権利条約で示されたものです。 この考え方は、条約の批准に伴い国内法にも取り入れられ、障害者差別解消法の制定と障害者雇用促進法の改正に結実されました。  障害者差別解消法では、行政機関等及び事業者に対し、その事務・事業を行うに当たり、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、 その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮を行うことを求めています。 民間事業者の場合は、この合理的配慮の提供はこれまで努力義務でしたが、令和6年4月1日からは法的義務に移行します。  障害者差別解消法の合理的配慮は、もっぱら事業者がサービス提供等の事業を行うに当たり配慮するものです。 一方で、同法第13条では、「事業主」としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、障害者雇用促進法の定めによるとしています。 障害者雇用促進法の合理的配慮は、既に法的義務となっていますが、ここで留意すべきは、サービス提供等の場面と雇用の場面とでは、合理的配慮の目的にも違いがあることです。  その背景には、雇用の場面では障害者も労働の対価として賃金を得る労働者であることがあります。 障害者雇用促進法では、基本的理念として、障害者である労働者に対して「職業に従事する者としての自覚を持ち、その能力の開発及び向上を図り、 有為な職業人として自立するように努めなければならない」(第4条)とした上で、事業主に対しては「障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有する」(第5条)としています。  障害者雇用促進法で示された基本理念を受け、厚生労働省が策定した雇用分野における「合理的配慮指針」では、採用後における合理的配慮は「職務の円滑な遂行に必要な措置」であり、 「障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために講ずる」ものとしています。 雇用場面ではサービス提供等の場面とは異なり、「労働者としての能力の有効な発揮」のために合理的配慮が求められているわけです。 両者の違いについては、雇用の現場では混乱していることも多いようです。 「障害があるので働けないのは仕方ない」として、能力が発揮されるための工夫をしないまま、雇用率を維持する目的で「来てくれるだけで良い」といった扱いをしている職場もあるようです。 これは決して合理的配慮ではありません。  雇用の世界は、福祉サービスの世界ではありません。 賃金を得て働く一人の労働者として、能力を最大限に発揮して職場に貢献することで、働く本人の自己効力感や周囲の評価も高まり、安定的な就労につながります。 能力が発揮されるための工夫は、雇用分野の「合理的配慮指針事例集(第四版)」でも多数紹介されています。 高齢・障害・求職者雇用支援機構の「障害者雇用事例リファレンスサービス」(https://www.ref.jeed.go.jp)でも様々な合理的配慮の事例が検索できます。 こうした事例を参考に、障害者が能力を発揮して職場で貢献できる取り組みを目指したいものです。 写真1:障害者雇用事例リファレンスサービス 7ページ 訪問看護と合理的配慮 公益財団法人日本訪問看護財団 佐藤美穂子(さとうみほこ)  2016年に施行された「障害者差別解消法」が2021年に改正され、2024年4月1日に施行されます。 障がいのある人に対して、不当な差別的取り扱いを禁止し、「合理的配慮」を提供するもので、2023年度までは行政だけに義務化され、事業者は努力義務とされてきましたが、事業者にも義務化されます。 訪問看護ステーションなど介護保険施設・サービス事業所も該当します。  合理的配慮とは、障がいのある人が社会の中にあるバリアによって生活がしづらい場合に、何らかの対応の意思表示をされたときは、過重な負担にならない範囲で対応することです。 障がいのある人は実現不可能なことを要望するのではなく、また、事業者サイドは単なる気遣いや心配りのレベルを超えて、障がいのある人と話し合い、お互いに理解し合いながら、 ともに対応案を検討することが重要と考えます(内閣府作成リーフレットを参照)。 訪問看護等の合理的配慮の例  訪問看護ステーションにおける合理的配慮の例を挙げてみましょう。  訪問看護の対象者は疾病や障がいのある人々で、もともと、「合理的配慮」を提供してきたと、私は思います。 例えば、難病の方とコミュニケーションをとるために文字盤やトーキングエイドを活用します。 聴覚や視覚障害のある人の訪問看護でもコミュニケーションの取り方や文字の大きさなどを工夫しています。 認知症の方には、同じ看護師が担当しユニフォームの色も同じにして、決まった曜日や時間帯に訪問する場合もあります。 医療の専門用語はわかりやすい言葉に置き換えるなど、その人の状態に合わせた配慮を行っています。 誰もが安心して医療機関を利用  厚労省が2022年に行った「身体障害者補助犬法」に係る補助犬ユーザーの実態調査の結果では、約25%が医療機関の拒否を経験したと報告されています。 医療の妨げになる場合など特殊な事情がない限りは合理的配慮の義務化に違反する恐れがあり、受診抑制にもなりかねません。 安心して受診できるように医療機関への啓発が必要と思います。 欠格条項から相対的欠格事由への改正で看護師として活躍  去る4月に解放社から発刊された「障害のある人の欠格条項って何だろう Q&A」の出版記念オンラインシンポジウムを視聴しました。 保健師助産師看護師法が2001年に改正され、欠格条項は相対的欠格事由となり、心身に障害があっても業務を行うことができる場合は免許を取得できるようになりました。 視覚や聴覚障害、てんかんなどがあっても第一線で活躍されている方の話に勇気づけられ、また、そこには合理的配慮の提供があると思いました。 お互いに尊重し合える共生社会をめざして  人生100年時代、高齢者の雇用や就業の分野においても、障害者雇用促進法のもと、働くことがいきがいとなるような合理的配慮(・募集・採用時・採用後)が事業者に求められます。 これからますますデジタル化が進む中、デジタルデバイスに明るくない高齢者が増え、合理的配慮が必要になると考えます。 私も苦手世代ですが、職員の配慮で、今なお楽しく仕事ができて感謝しています。  当財団が11月に開催する「訪問看護サミット2023」のテーマは、「自由で豊かな共生社会の構築」。「認知症基本法」の成立も後押しになります。 共用品推進機構の星川氏をはじめ、認知症の方や有識者、共生社会の担い手である訪問看護師の講演や対談、鼎談からヒントを得て、みんなが笑顔になる社会づくりに貢献できることを願っています。 8ページ リウマチと合理的配慮 公益社団法人日本リウマチ友の会 門永登志栄(かどながとしえ)  “リウマチ”とは、患者数も多いので聞いたことのある病気という方もおられると思います。 では具体的にどのような病気なのか。ただ「痛い、痛い」と言っている病気との理解が多いのではないでしょうか。  リウマチは寛解から治癒を目指すことも可能になってきました。が、難病と障害を併せ持ち、関節をはじめ全身が痛み、関節が変形して力が入らなくなるという症状が出るという、多くの患者がその経験をしている全身の病気です。 リウマチに限らず年を重ねるとともに生じてくる症状と似ています。  高齢化に伴う社会は高齢者に優しい社会を目指しています。 リウマチの症状も高齢者が感じる症状と似ていることもあり、リウマチ患者も含めた症状の方に対して優しい社会になりつつあると感じています。 役所・郵便局・銀行の窓口、宅配便の受領書などの書類に印鑑を押さないといけない場合、「指に力が入らなくて押しにくいのでお願いします」と、声掛けすれば快く代わりに押してくださいます。 これはひとつの例ですが、できないことの声掛けをして援助をお願いすれば、気持ちよく応えてくださる場面が増えています。  また旅行へ行った時など、ホテルのベッドのシーツがぴったりしていて、足指・足首に痛みや変形のあるリウマチ患者はそのシーツの間に足を入れるのも困難です。 そういう時は前もってホテルへ「シーツを緩めておいてください」とお願いしています。  生活の中で当たり前となっている駐車場の障害者用スペース、公共交通機関の優先席も広い意味での「合理的配慮」となるのではないでしょうか。  しかし、日本リウマチ友の会が5年ごとに発行している『2020年リウマチ白書』では、社会への要望として“社会環境や交通機関の整備”を希望する声がまだ多いのも確かです。  患者の声として「地方の駅には階段しかないところが多い」「エレベーターが設置してあってもホームの一番奥にあり足が悪い人が使用するには不便」等の声があります(図1)。  今、治癒を目指せるようになり、「働きたい」「健常な人と同じように過ごしたい」という人も増え、「リウマチに理解のある就労支援を充実してほしい」との声もありますが、 痛みは数値化されないので第三者には理解されにくく、「就労しても休みたくても休めない」「通院したくても通院できない」のが現状で、職場に理解を求めたいところですね(図2)。  障害は見た目だけで分かるものばかりではなく、自分の周りを見て人を思いやることを広げていくことが大切です。 「私はリウマチ患者で○○ができないので、お願いできますか」という声掛けができる勇気と、その声を受け入れてくれる社会が、リウマチ患者にとって合理的配慮のある社会となっていくのではないかと思います。 図1 社会への要望 図2 職業生活への影響 9ページ 「表皮水疱症にとっての合理的配慮」を考える NPO法人表皮水疱症友の会DebRA Japan 代表理事 宮本恵子(みやもとけいこ) 『皮膚障害』で障害者手帳はとれません  私は生まれた時から全身の皮膚や粘膜が脆弱という希少な指定難病を持って生きています。 僅かな刺激や摩擦であっという間に水疱ができ皮膚が剥がれる、そうした日々の繰り返しが日常の生活に多くの支障をもたらすので身体障害手帳も取得していますが、身体障害認定基準には皮膚の項目がありません。 身体障害者障害程度等級数表により主に上肢・下肢を含む肢体不自由の指数を加算します。  身体障害者の自立と社会的経済活動への参加の促進が目的の身体障害者福祉法の理念に鑑み、認定基準に合致する永続する機能障害がある場合は認定できる… つまり、原疾患である皮膚機能障害によって手足の棍棒化や関節可動域の制限、筋力握力低下等、永続または確実に進行するものと診断されるなら合理的ですが、 人間の生存を左右する最も重要な皮膚機能の障害を欠落させている制度に差別すら感じてなりません。 障害と謳うより誰にとってもメリット享受できるのが合理性  障害者が働くための合理的配慮は、同情や憐れみ、個人の思いやりなどにより動くべきものではない。 変わるべきは多数派のために作られた社会のシステムの方だと思うようになったのは、やはり患者会を15年にわたって啓発活動して見えてきたことです。 障害者のための配慮ではなく、宮本個人のためにでもなく、この社会で生きる多様性を謳うなら、画一的な社会構造にはなっていないはず。 誰のための?こんなものもあるんだ、という存在意義の一例を紹介します。  2020年、表皮水疱症の患者さんのためにと一人の医学生が独力で開発した世界一やさしいチョコレートandewがあります。 表皮水疱症で口や食道粘膜も弱くて口から十分に食べられない、でも特別な栄養食ではなく家族や友達と一緒に食べる喜びが欲しい。 その想いを叶えてくれた口溶けのいい完全栄養チョコは、食の制限を持つ人たちにも喜ばれています。 困っている人のためにという発想と熱意ある行動が広く受け入れられる、これも確かな合理的配慮だと自信をもって紹介したいことです。  もう一つ、最近、両手指の棍棒化が進行し、一人で沸かせる電気ポットを求めて量販店へ。 すると店頭に並んでいるポットはすべて握り取手。 唯一、アーム型取手のポットは英国製。 グーの手で引っ掛けて持つ需要はないから?しかも、丸み型が主流だけど使い勝手とそこに私好みのシャープさを求めると選択肢は限られる現実。 合理的配慮にも多様性はあるべきです。 写真1:医大生が独力で開発した世界一やさしいチョコレート 写真2:電気ポット、このデザインはこの英国製だけ 10ページ 「あゆみショップ」について 徳武産業株式会社 あゆみショップ 店長 石川明美(いしかわあけみ)  高齢者の為の履物「あゆみシューズ」として平成7年に販売開始しました。 当初メーカーとして直接販売しないという方針でしたが、2006年頃どこで買ったらいいかわからないお客様が会社の住所を調べてこられ、「取りあえず今だけ」ということで「会社の玄関先での接客」が始まりました。  玄関先で座り込んでの靴選び計測フィッティングと1時間に及びます。 玄関先ショップがその後5年と続き、年間400人を超え、さすがにどうにかしなければと駐車場の一角にプレハブ2棟が設置され初めて「あゆみショップ」の看板が上がり7年経過、 2018年には皆様に集っていただける「あゆみショップ」として明るく広くオープンしました。  高齢者の足と靴の事情は大変複雑で、老老介護の現実もあり、靴選びには困難を極めました。 症状の多様性としては、魚の目タコの痛み、O脚、X脚、脚長差、外反母趾、内反小趾、リウマチ、糖尿病、パーキンソン、膝の痛み、股関節の痛み、圧迫骨折、 脊柱管狭窄症、先天性の病気、難病、捻挫、交通事故、転倒骨折、麻痺、痺れなどなど、加えて高齢に伴い、筋力の衰え、介助、介護の問題、その症状は一人一人様々な問題を抱えています。  ご来店のお客様に「笑顔」でいらっしゃいませと安心していただける空間つくりに心を配り、なんでも安心して話ができるような心配りを意識しました。 最初はためらいながら「恥ずかしい足」「汚いから」…実はといろいろな過去の病気、事故など話が広がります。 安心感から靴下脱いで「見てください」と積極的な気持ちが現れます。 その上、家族の話や趣味にまで及び会話は生き生き活発になっていきます。 その生き生き感の延長で、足の骨格の説明、3つのアーチの役割、歩くことの大切さ、靴選びのポイントなど説明すると、「ええこと聞いた」「講演聞きに来たみたいやなあ」「ここに来たら安心や」と笑顔がこぼれます。 初めての計測に思い込んでいたサイズと違うとびっくり。足に合わせてみると「あ~ぴったり。歩きやすい」「軽い」「ええなあ」「来て良かった」と笑顔。家族の会話が満足感に溢れます。 硬いプラスチックの装具になると足の関節のように装具が動かないので、大きいサイズ、巾の広いサイズが必要です。 靴選びに1時間…「あ~入った」と安ど感。でもベルトが短いね。甲の幅が足りないね…問題は次々と発生します。 ではベルト長くしましょう。甲の幅を広くしましょうとあゆみの特注対応の説明に「あ~そんなこともできるんや」と喜んでくれます。 リウマチやその他の病気や事故での変形や痛み…あゆみの特注では対応できない…個別の症状問題については、お客様相談室のご案内です。 今年で相談室も11年目。県外からの問い合わせも増え、毎月のドイツ国家資格整形外科靴マイスターのリーヒエ・カーステン氏によるマイスター相談室は予約で満席です。 それだけ足と靴に困っている人が多いということですね。  日本と欧米とでは足と靴の文化や学問の歴史が違います。 日本は150年以上は遅れていると言われます。 「痛みが軽くなった」「ふらつきがなくなった」「歩きやすい」「旅行に行けるようになった」「疲れにくくなった」「魚の目タコがいつの間にか消えた」「足が温かくなった気がする」私達スタッフは、お客様の笑顔が支えです。 あゆみショップでは「来て良かった」と言っていただける顧客満足こそが会社の理念に沿った目標です。 写真1:あゆみショップ 11ページ 布しばい(なにぬの屋)の合理的配慮  5月5日、東京の代々木公園では複数のイベントが開催され、多くの人で賑わっていた。 その中で子ども達が目を輝かせながら釘付けになっていたのが渋しぶさわ沢やこさんが演じた「紙芝居」ならぬ「布芝居」。 お手玉を手にした彼女は、「私がお手玉を上に投げて、受け取るまでみんなは、何回拍手できるかな~?」と問いかけ、子どもも大人も夢中になって拍手、 一瞬にしてその空間での一体感が生まれ、ブラジル民話をベースとした『亀のこうらはひびだらけ』の布芝居が彼女の手と言葉によって始まった。  紙芝居と違い、布で作られた布芝居は、場面に登場する人達には立体感があり、次の場面に移動できるだけでなく、観客の子ども達にぐっと近づけ、目の不自由な人の希望があれば触ってもらい、目や鼻も触って確認してもらっている。 きっかけ  「なにぬの屋」は、2006年、舞台俳優の渋沢さんが「子どもがいるところどこへでも」をモットーに作った日本で唯一、布芝居を演じる劇団。 全国のイベント、保育園、幼稚園、児童館、特別支援学校などで催している。 中には、障害のある人達も数多く含まれている。  神奈川県相模原市で幼少時をすごした渋沢さんは、年に数回街にやってくる演劇が大の楽しみだった。 観客席には、近くの作業所で働く障害のある人達もいたことを覚えている。 演劇を観ながら話の続きを自分なりに想像していた。 いつしか、観る側から演じる側になり、多くの人達に自分が幼少時に出会った演劇の「楽しさ」を伝えたいと思うようになった。  大学では保育士、特別支援学校の教諭免許を取得し、手話も学んだ。 卒業してからは世田谷のプレイパークで、さらに多くの子ども達と出会うと共に、児童演劇の研究所で演劇を学び、その後舞台俳優としても活躍するようになった。 プレイパークでは、多くのイベントの企画・運営と共に演じ、参加した子ども達からの確かな反応も受け取った。 しかし、この場に来ることができない子ども達がいることは、幼少時の観劇の時に、同じ空間にいた障害のある人達からも学んでいた。 そこで、思いたったのが「子どもがいるところどこへでも」。 それが布芝居を行う「なにぬの屋」の発足につながった。  始めて今年で17年、さまざまな工夫がうまれた。 発達障害のある子ども達の教室で行った時には、途中で教室から出て行ってしまう子どもがいた。 最初に先生方に「生徒が途中で教室を出ていっても、戻ってきたくなる子どももいるので、教室の扉は閉めないでおいてほしい」とお願いした。 閉まった扉では、再入場は難しいが、開かれていればまた戻ってこられる。  屋外のオープンスペースでは、音声に加えて「手話」を使って布芝居を演じていると、耳の不自由なお母さんが「私も楽しめると思った」と、子どもを連れて観客の輪に加わった。  さまざまな人達に楽しんでもらいたいという思いで、工夫が増えてきた。 けれど、同じ障害でもその工夫を望まない人もいる。 そのため、押しつけでなく、それぞれの人が楽しめるそれぞれの人にあった工夫を常に考え、作り出していくことが、合理的配慮なのかなと渋沢さんは思っている。 星川安之(ほしかわやすゆき) 写真1:「なにぬの屋」渋沢やこさん 12ページ キーワードで考える共用品講座 第135講 「合理的配慮」 日本福祉大学 客員教授・共用品研究所 所長 後藤芳一(ごとうよしかず)  基本になる論点を整理しよう。 1.不提供は差別  ①「障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む」(障害者権利条約第2条)。 合理的配慮の真の「テーマ」は、不便さの先にある差別だ。 ②来年4月に事業者にも合理的配慮が義務化されるのは、改正障害者差別解消法(2021年5月成立)による。 ③差別解消法(13年6月成立)は、権利条約(14年1月批准)を国内で実施するために作られた。 効力の強さは、憲法>条約>国内法の順だ。条約の批准を直前で止めて、先に差別解消法を作った経緯がある。  ①~③から、合理的配慮は来年からすべての機関に義務づけられ、不提供は差別になる。 2.差別「禁止」をめぐる国際動向  ①日本の法律名は「解消」だが、国際標準は「禁止」だ。 ②人権条約は障害者権利条約の前に多くあり、障害者もそれらの条約で対応できた。 ただ、課題が多く残されていたため障害者について独立に作ることになった。 ③条約の前に差別禁止の国内法を作っていた国も多い。 米国のADA法(障害を持つアメリカ人法、1990年7月成立)を代表に仏(90年)、スウェーデン(99年)、EU(00年)、独(06年)、英(10年)など。  ①~③から、国内の人権意識で進めた国と、条約で啓発されて対応した国がある。前者は米(公民権意識)など、日本は後者だ。 3.日本の位置づけと特色  合理的配慮は障害者の人権や権利条約からみれば手段だ。 上位目標である人権への意識は国ごとに異なるので、合理的配慮も個々の事情に合わせた推進が必要だ。 「人権に問題意識があり/闘って得た/主張して維持/理念主導(トップダウン)/独立・競争指向」という国と、 「人権の自覚なし/外来で意識/コストなしに与えられる/積上げ(ボトムアップ)/調和指向」の国という両極がある。  日本は後者だ。権利の意識が薄い、言語化が弱い、同質の小集団を作りその内外で線引きする、関心は求心的に内に向く。 その結果、無関心・消極的動機・不作為の差別を生み、外的環境を創るために自ら働きかける発想がない。 利点は、権利意識が低い分積極的な差別意識は薄い、競争や身分による格差や分断は比較的穏やか、ボトムアップなので制度が作る規範や線引きは柔軟に越えていく、当事者の主張がなくても気遣うなどである。 4.今後と日本の寄与  人権への山の登り方はいろいろ。各国の文化を投影することで独自の寄与ができる。 条約も差別解消法も共通化が必要なため内容は途上だ。 ①強制力は、法で罰則>同義務(罰則なし)>同努力義務>ガイドライン>……>社会の慣習の順に強い。 ただ罰則担保するには判別のための線引きを要し、対象外を置き去りにするジレンマを生む。 ②提供義務が「障害者が意思表明した場合」(改正差別解消法要約)では、主張しないと動かない社会になる。 ③合理的配慮は、基盤となる障壁の解消(条約では「ユニバーサルデザイン」)をした先で行う(条約第2条)。  ここに日本が寄与する余地がある。日本は福祉用具法(93年)を契機とした取組みの結果、物理的障壁への対応は世界水準にある。 ただ、バリアフリーが進んでも個別対応(合理的配慮)は必要だ。かくて日本では突き詰めた形での合理的配慮を磨ける。 汎用品を合理的配慮へ一歩進めたのが共用品だ。 共用品に取り組んだのは世界の先駆的な国が差別禁止法を作り始めた初期(E&Cプロジェクトは91年発足)だ。 共用品の開発と普及は障害当事者が欠かせない役割を担ってきた。 条約の理念である「決定への当事者の参加」も、当然に実践してきた。 強制でなく、共に暮らす社会への寄与や人への気遣いの意識の高さを推進力に、「もう一つ」の山の登り方(深い意味のソフト・ロー)を示している。 権利条約や人権を先へ進める際には、さらに役割が増しそうだ。 13ページ 日本トイレ協会 ノーマ研がめざすこと 一般社団法人 日本トイレ協会 ノーマ研究会 代表幹事 山本浩司(やまもとこうじ) 1.日本トイレ協会  一般社団法人 日本トイレ協会は、トイレ環境の改善とトイレの文化の創造を活動の目的とし、トイレ問題を社会全体として取り組んでいます。 トイレを真面目に考える団体としては世界初ともいわれています。 2.ノーマ研  ノーマライゼーション研究会(以下、「ノーマ研」という。)は、日本トイレ協会の専門研究会の一つで、人が自立して暮らす上で、 大きなウエイトを占めるトイレを軸にしながら、障害の有無にかかわらず、すべての属性のトイレ利用者が、社会生活を営む上で不可欠なトイレのあり方、安心して使えるトイレはどうあるべきかについて考える活動を展開しています。  今年度、ノーマ研では、人の属性、五感や動作能力、トイレに求める多様なニーズなどの違いを考慮したうえで、「トイレ利用者の属性」をどの様に考えるかの調査を実施しています。 3.共生社会とトイレ  ノーマ研では、障害の有無にかかわらず、すべての属性のトイレ利用者が、お互いの人権や尊厳を大切にし、支え合い、 誰もが生き生きとした人生を送ることができる社会(以下、「共生社会」という。)をともにつくっていくことが望ましいと考えています。  なお、共生社会についての理解を深めるため、令和5年5月20日、公益財団法人 共用品推進機構 専務理事 星川安之さんによる講演を開催しました。 講演では、①共生社会とモノ、②共用品を作る、③良かったこと調査、④共生社会とコトの構成で、お話を伺うことができました。 特に、③良かったこと調査では、「不便さ調査は、製品サービスの不便な点を明らかにすることで、マイナスだったところをゼロに戻す役割を担ってきたこと、 また、不便さ調査は様々な障害ごとに行っていたため、相反する意見を具現化することは困難であること、このような課題を解決するために、 共用品推進機構では、より多くの人達が使える製品やサービスが創出できるように良かったこと調査を実施したこと」などについて、語っていただきました。  講演で得られた知見などを踏まえ、ノーマ研では、「すべての属性のトイレ利用者の相利※をはかるマネジメント」を実施することにより、 社会生活を営む上で不可欠なトイレのあり方、みんなが安心して使えるトイレはどうあるべきかについて考える活動を進めていきます。 ※共有の目標を作り、達成することで、お互いがそれぞれ異なる自分のしたいこと(目的)を実現すること。 引用元:「協力のテクノロジー」松原明・大社充 著 写真1:ノーマ研の活動 写真2:講演 14ページ 新刊出版記念企画「インクルサロン」 「良かったこと探し」から始めるっていいね  『「良かったこと探し」から始めるアクセシブル社会』(星川安之著)の出版を記念して、5月29日(月)に「インクルサロン」をオンラインで開催しました。 ゲストには、『インクル』の名付け親で、共用品推進機構の前身団体E&Cプロジェクト時代から、新鮮な風を吹き込んでくれる山やまな名清きよたか隆さんをお招きしました。  ここでは、対談の一部を編集して誌面再現したいと思います。 「インクル」命名  「インクル」は、1999年7月の情報誌『インクル』創刊号でお披露目された妖精の名前です。 (星川)「インクル」は「他人を思いやる、モノ作りを楽しめる人の前に現れる妖精」です。 暗闇の中でうっすらと、けれども、確かに光を放つ妖精「インクル」が、これから先の様々なモノづくりやコトづくりの道標になればと願って命名されました。 これ覚えていますか? (山名)覚えています。(E&Cプロジェクト時代から)毎週毎週、その時のメンバー20名くらいで議論して熱くなり、夜中まで、未来はどうあるべきかってことを話している人達と一緒に過ごした尊い時間。 誰も求めていない、先も見えないところに突き進んで、そして話し合うってことのすごい尊いエネルギーを感じたのね。 それはただ熱いだけとか、そう言うものじゃなくて、優しさとか、そう言うことをね、表現したかった。 (星川)そういうことをすべて考えて、分かりやすく、なじみやすい表現にしたっていうのがすごいよね。 「良かったこと」にはドラマがある (星川)良かったこと調査を実施した後に、意見をまとめて委員会で報告するとき、とても温かい空気が流れるんですよね。 (山名)良かったことってさ、ちょっとドラマがあるよね。良かったことってさ、良いとか悪いとかだけの話じゃなくて、そこに人間のドラマがあるじゃない? その話を聞いたりしたら、じんわり来るんだよね。「良いことパス」ね。それが伝播する、連鎖するって言うね。人に話したりしてね。人が喜んでくれてんだって言うことが一貫したらいいね。 「インクルサロン」YouTubeにて配信開始  インクルサロンは、共用品推進機構が銀座一帯を舞台にした展示会、山名さんが取り組んでいるプロジェクト、山名さんが考える「いい会議のあり方」について、エピソード満載でお届けしました。 当日参加できなかった方々の要望を受け、YouTubeにて配信を始めました。是非ご覧ください。 YouTube「インクルサロン」 https://www.kyoyohin.org/ja/publicity/salonvideo.php 写真1:インクルサロン「良かったこと探し」から始めるっていいね 写真2:「良かったこと」のキャッチボールは楽しいと言う星川専務理事 写真3:発信元に求められることは「チャーミング」であることと話す山名清隆さん 15ページ クリエーターのための共用品読本 はじめに  共用品推進機構では、令和5年度事業に『クリエーターのための共用品読本』(仮称)の作成をあげています。 まだどんな体裁、ページ数、内容にするか詳細は固まっていませんが、どんな背景で、どんなものを作ろうとしているか、少し紹介させていただきます。 『共用品読本』とは?  多くの人たちの努力、尽力で、共用品・共用サービスは始めた当初の1991年に比べて、市場規模は6倍にも増えてきましたが、残念ながら共用品が日常生活に当たり前に存在するまでには至っていません。 もしくは、存在していても「シャンプー容器側面のギザギザは、何のためについているの?」との疑問を持っている人、疑問さえも持っていない人も、まだ多くおられます。  共用品の普及事業を始めてから30年、初めの10年は障害者・高齢者等の日常生活における「不便さ調査」を行い、次の10年は調査から明らかになった課題を解決するための検討を行い、合意した解決案を日本産業規格(JIS)及び国際規格(IS)にしていきました。 そして、次の10年では不便が解消されたモノやサービスを「良かったこと調査」で確認する作業に力を注いできました。  並行して、各種調査の結果や制定された規格、市場に登場した共用品・共用サービスを、展示会、講座、シンポジウム、インクルを含む各種媒体、テレビ、ラジオ、ビデオなどで紹介してきました。 大学、企業、自治体などから依頼を受け共用品の話をするたびに、さりげなく認知度を確認してきました。 シャンプーのギザギザについては、徐々に認知度があがっていきましたが、どの会場も半数の人以上が知っていることはめったにありませんでした。 そうこうするうちに、小学校四年生の教科書に「点字がついているモノ」、「触って識別できるモノ」などが紹介されるようになり、「子どもは知っているけれど親が知らない」といった現象が始まりました。  共用品推進機構に、缶詰を作る会社の人が「娘に、なぜお父さんの会社が作る缶詰には点字がついていないんだ?と言われた」と、来られたこともありました。どうすれば、共用品、共用サービスの存在を知ってもらえるのか?の一つの答えに出会った気持ちでした。  さらに先日、週刊誌の連載小説を読んでいると、上部に点字で「おさけ」と表示された缶ビールのイラストが掲載されていました。 また、人形玩具「リカちゃん」シリーズの中のお風呂セットについている高さ2センチほどの玩具のシャンプー容器の側面には、リンス容器と触って識別できるようにギザギザが付いています。  それらを思い浮かべながら、機構だけでの普及を考えるのではなく、モノやコトを作り出すさまざまな分野のクリエーターに共用品を知ってもらい、興味を持っていただき、それぞれの分野でアレンジしながら紹介してもらうことができたらと思ったのです。  まずは、絵本作家に賛同してもらうことは可能かどうかを複数の編集者に話したところ、さっそく絵本作家に意見を聞いてくれました。返ってきた答えは、「賛同します。ただし、参考になる冊子があると取り組みやすい」とのことでした。まずは、手に取りたいものにするところからじっくり考え、絵本作家、作家、テレビ・ラジオ関係、SNS関係、映画、まんが、アニメ、落語、お笑い、CM関係、教科書、各種広報、各種教師、製品、サービス企画、他多数に、「!」と唸ってもらえるものを今年度中に、第一弾を完成させる予定です。 星川安之 16ページ 病との怒涛の半年 【事務局長だより】 星川安之  昨年の6月、脈拍が180を示すようになり、かかりつけ医で心不全と診断され虎の門病院を紹介された。 待ち時間は覚悟していたが、採血、心電図、エコー検査など、ほぼ待ち時間なく進み、最後の担当医による診察は、3分と思いこんでいたが30分。 「検査した結果、心房粗動といって心臓に送る電気信号の箇所が正常に働いていないため、その部分を治す必要があります。 治す方法として、カテーテルアブレーションといって足の付け根から血管を通して管を入れ、心臓の後ろまで持っていき正常ではない電気信号をアブレーション(焼く)方法と、薬による方法があります」と丁寧に説明してくれ、その場で手術を選択。 2週間後に入院、その翌日の全身麻酔による手術は、約2時間で無事終了。麻酔がきれ意識が戻ると、手術前まで高速で振動していた脈が正常に戻っていた。  病は続く。手術をした同じ12月の26日、夕食時、右顔面に違和感を覚えた。 翌朝かかりつけの眼科の紹介で耳鼻科を受診、聴力等、いくつかの検査を受けさらには、「瞬き」、「ウィンク」、「ほほを膨らます」、「あ~、い~、う~」と言う時の顔の表情などを診てもらった結果、顔面神経麻痺と診断された。 この病は、脳から顔面に繋がり瞼、頬、口などの動きをつかさどっている神経が損傷し、瞼が閉じない、食べ物がうまく噛めない、麻痺した側の顔が動かない・動きづらいという特徴があると説明を受けた。 10日間くらいは、目や口などの症状は悪化を辿るが、その後は回復に向かうこと、回復は、神経の損傷度によっても異なるが、早い人で半年、長い人では2年間くらいかかって回復する人もいると丁寧な説明を受けた。 さらに、東京大学医学部附属病院の耳鼻咽喉科には「顔面神経麻痺外来」があり、患者の症状を検査して、それぞれの人がどのような回復経路を辿るかを示してくれると共に、リハビリテーション科や鍼灸も同科の中にありそれぞれ連携していると教えてもらい、紹介状を書いてもらった。  1月の半ば、紹介された顔面神経麻痺外来に出向き、詳細の検査をおこなってもらった。 麻痺の状況を数値で分かりやすく説明してくれると共に、リハビリテーションを行ってくれる理学療法士(PT)につないでくれた。 仕事ではPTやOT(作業療法士)の人たちとはよく会っていたが、患者の立場で今の自分に最適なリハビリテーションの方法を教えてもらえるのは、この病の先が読めない私にとっては、何よりも心強い一言一言であった。  そんな心強い人たちに支えられ、困惑の発症時から3か月で完治となった。 その他、4月13日は3年前に左目を治療した「黄斑円孔」の手術を右目に行い、それが一段落すると、6月18日にはコロナに感染となり、1週間、発熱、咳、喉の痛み、倦怠感に苦しんだが、この文章はその回復期に、怒涛の半年で学んだことを思い出しながら書いている。 共用品通信 【イベント(オンライン)】 インクルサロン 「良かったこと探し」から始めるっていいね(5月29日、星川) 【会議】 第31回通常理事会(書面審議) 第18回定時評議員会(書面審議) 理事・監事・評議員オンライン意見交換会(6月30日) 【講義・講演】 日本トイレ協会(東京) (5月20日、星川) 日本福祉大学(大阪)(6月3・4日、森川・星川) 【報道】 時事通信社 厚生福祉 5月19日 郵便受けの鍵 時事通信社 厚生福祉 6月13日ウクライナのナタリアさん 時事通信社 厚生福祉7月4日 顔面神経麻痺 日本ねじ研究協会誌 4月号 優子さんのルーペ 日本ねじ研究協会誌 5月号 高橋秀子さんから聞いた話 トイジャーナル 6月号 ウクライナのおもちゃ屋さん トイジャーナル 7月号 紙芝居劇団 どろんこ座 福祉介護テクノプラス 6月号 良かったこと探し 福祉介護テクノプラス 7月号 共用品国際普及調査 高齢者住宅新聞 5月3・10日 点字の名刺 高齢者住宅新聞 6月14日 左利きでも使いやすく シルバー産業新聞 7月10日 ナタリアさん 包装技術 6月号 アクセシブルデザイン関連規格の現状 アクセシブルデザインの総合情報誌 第145号 2023(令和5)年7月25日発行 "Incl." vol.24 no.145 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2023 隔月刊、奇数月25日に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:https://www.kyoyohin.org/ja/ 発行人 富山幹太郎 編集長 星川安之 事務局 森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、木原慶子、田窪友和 執筆 石川明美、大胡田誠、門永登志栄、後藤芳一、佐藤美穂子、藤木和子、宮本恵子、山本浩司、依田晶男 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙 Nozomi Hoshikawa 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。 その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。