インクル147号 2023(令和5)年度11月25日号 特集:戻ってくる「集い」 Contents 第50回国際福祉機器展(H.C.R.)「みんなの会議」 2ページ 学生サポーターの感想 4ページ トークイベント 本の街で心の目線を合わせる  世界でいちばんリクエストの多いくつ屋さんって? 5ページ アクセシブルデザイン推進協議会 設立20周年記念シンポジウム 開催報告 6ページ 地域のまつり 8ページ 千代田区「第21回ふれあい福祉まつり」へ共用品出展 10ページ キーワードで考える共用品講座 第137講 11ページ ウクライナから日本へ 12ページ 耳育プロジェクト~耳の遠い高齢者にやさしい街づくり~ 13ぺージ UD絵本のクラウドファンディング、達成! 14ページ サッカー台にあるビニール袋 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 表紙写真:H.C.R.2023 実演「みんなの会議」の様子 2ページ 第50回国際福祉機器展(H.C.R.)「みんなの会議」 国際福祉機器展(H.C.R)  H.C.R.は、ハンドメイドの自助具から最先端技術を活用した介護ロボット・福祉車両まで世界の福祉機器を一堂に集めたアジア最大規模の国際展示会です。 第1回は1974年、今年2023年で50周年を迎えました。同展示会は、380社の企業・団体が出展するとともに、いくつかの主催者企画で構成されています。 その一つが『「みんなの会議」伝え、伝わる工夫展』、主催者からの依頼で共用品推進機構が企画・運営し、9月27日~29日の3日間、東京ビッグサイトの東1ホールで行いました。 みんなの会議とは  2014年、国際標準化機構(ISO)は、日本から提案された「アクセシブルミーティング(みんなの会議)」を、国際規格として発行しました。 同規格では「みんなの会議」を「高齢者及び障害のある人々が会議に参加できるように、支援者、支援機器などを配置及び活用して安全かつ円滑に運営する会議」と定義しています。  元になった規格は、2010年に発行された同名の日本産業規格(JIS)です。当事者の声を聞かずに製品を作ったために不具合が生じ、後から莫大な費用をかけ修正するといった例が、過去に見受けられました。 新たに製品・サービスを作る際、企画段階から障害のある人たちが参加しニーズや身体特性を知ることで、多くの不具合は回避できます。 同規格では、1.誰もが理解できる案内文、2.アクセス可能な会場、3.資料のアクセシビリティ化、4.発言者の話が伝わる、5.誰もが意見を伝えられる、といった要素が整った会議のことを「みんなの会議」と定義しています。 みんなの会議コーナー  今回のH.C.R.では、下記の3つに分け、来場者に「みんなの会議」を伝えました。 (1)製品展示  主に対面会議、オンライン会議で使う製品と、点字、触図、立体模型で作られた資料を30点展示しました。 筆談器、指点字で伝える機器、音声を文字に変換するソフトとそれを表示する機器、高さがボタン一つで変えられるテーブルなどに多くの人が関心を示してくださいました。 (2)バリアフリービデオ  2つ目は、バリアフリービデオの上映です。共用品推進機構が花王(株)、(一財)日本児童教育振興財団と作成した3本のビデオを来場者に見ていただきました。 ①見えない眼で歩いた街 高橋玲子たかはしれいこさん(全盲)が、帽子に小型ビデオカメラを付け、街や駅などで出会ったことを紹介しています。 製作:花王(株) ②見えない世界・聞こえない世界 宮城子好(みやぎよしこ)さん(全盲)と、野邊美恵子(のべみえこ)さん(ろう)の二つの家族の生活を映像で紹介しているビデオです。 それぞれの生活の中での不便さ、工夫を紹介しています。 製作:花王(株) ③みんなの話し合い ある国のある街に、みんなが利用しやすいコンビニエンスストアを作る話です。その国の王様が議長となり、さまざまな人を交えた話し合いを行い「みんなのコンビニ」を作ります。 制作:(一財)日本児童教育振興財団 (3)みんなの会議 実演  3つ目は、どうすれば障害の有無に関わりなく参加できる会議になるかを、会場で実演しました。  議長はユニバーサル落語の推進を行っている落語家、春風亭昇吉(しゅんぷうていしょうきち)師匠に、司会はNTTクラルティの中野志保(なかのしほ)さんにお願いし、 視覚、聴覚、肢体に不自由のある方3名との計5名で、毎日3つのテーマごとにそれぞれ30分の会議を行いました。 テーマは、27日(水)がコンビニ、住まい(玄関・リビング)、住まい(風呂・トイレ・洗面所)、28日(木)がみんなの会議、交通機関、宿泊施設、29日(金)が飲食店、観光、落語です。  初日のテーマ、コンビニでは、コーナーに取り付けられている鏡が、聴覚障害者、車椅子使用者にとって便利なことや、セルフレジが人とのコミュニケーションがいらないので便利という聴覚障害者に対して、 タッチパネル式なので操作が困難という視覚障害者の意見が出ました。他の8つのテーマでも異なる立場から、どうすれば誰もが使いやすい製品や機器になるのか、多くの場面に応用できる意見が出ていました。 会場で配布したパンフレット『みんなの会議』は、英語、中国語、韓国語にもなっています。多くの会議が、「みんなの会議」になればと願います。  今回、サポーターとして早稲田大学・藤本浩志(ふじもとひろし)研究室の大学院と学部の学生さん8名が、製品説明、誘導・案内等に力を発揮してくれました。8名の感想を一部ご紹介します。 4ページ 学生サポーターの感想  学生サポーターとして活動しつつ多くのことを学ばせていただきました。当事者の皆様から困ったことや嬉しかった出来事について聞けた点が印象に残っています。 また、3年生が非常に積極的に取り組んでおり、より多くの人に見てもらうための工夫をしていた姿に刺激を受けました。 コロナを機に交流がなくなってしまった方々とも久しぶりに再会でき、また交流を続けていくきっかけになりました。 またお手伝いの機会があれば、ぜひ参加させていただきたいです。(岡田樹乃)(おかだみきの)  大変なことも多かったが、お客さんに展示品について興味を持っていただけるように説明することができて、やりがいと楽しさがあった。 パンフレットを配るのも大事であるが、それよりも展示ブースの方に力を入れた方が、お客さんの印象も良いと感じた。 想像以上に海外の方が多く、アプリの翻訳機能が役に立った。動く椅子で実演して集客しようとしても、遊んでいるように見えてしまい難しかった。 休憩時のお弁当が美味しかった。(生田屋佑麻)(いくたやゆうま)  普段は全くしたことがなかったお仕事だったので良い経験になりました。展示品をレンタルできるか聞かれました。春風亭昇吉さんとツーショットも撮ることができました。 お弁当も美味しかったです。機会があれば来年もぜひ参加させていただきたいです。(玉井千尋)(たまいちひろ)  どのブースも先進的な製品、既製品を組み合わせた福祉機器が多く見受けられ、新鮮さを感じた。また、来場者の中にはもちろん、何らかの障害を持っている人や海外の方も来られる。 その方達への配慮として、筆談、英語等を駆使してコミュニケーションを図るツールを習得すべきであると感じた。(川松拓真)(かわまつたくま)  三日間を通して、個人的にすごく成長することができたと思います。パンフレットを配るような仕事は初めてで、最初はどう声をかけたらいいかわからなかったこともあり緊張していましたが、 やっているうちにすぐに慣れていき、最後は楽しく仕事を行うことができました。様々な人と接して沢山の学びもあり、メンタルも強くなって、いい経験をさせていただいたなと思いました。(山本健介)(やまもとけんすけ)  1日だけではありましたが貴重な経験をさせていただきありがとうございました。パンフレット配りは初めてやったので想像以上に大変でした。声が小さくなってしまうので治したいです。 また共用品推進機構の方が用意してくださった製品は普段の生活では触れることができないものばかりで大変興味深かったです。(佐藤龍)(さとうりゅう)  楽しかったです。大変でしたが、人として成長できたと思います。例えば、実演や展示などで福祉分野の学びとなりましたし、呼び込みや応対などで言葉遣いや配慮といった人間力の成長につながりました。 学生として、共用品の皆様に甘えてしまったりして、至らない所もあったと思いますが、最後まで、私たちがサポーターなのに、私たちのサポートをしてくださってありがとうございました。 今回の体験は、一生忘れません。また、機会がございましたら、お会いできると嬉しいです。(佐々木美空)(ささきみそら)  様々な便利品に実際に触れることができたことに加え、なんらかの不自由を抱えている方にもたくさん出会いました。これは日常では体験できない、貴重な経験であり、非常に学びになりました。 3日連続立ち仕事で体力的には大変な部分もありましたが、丁寧な指導で働きやすかったことや、貴重な体験をすることができたため、 機会があればまた藤本研究室一同でお手伝いさせていただきたいと思いました。(稲葉琢朗)(いなばたくろう) 星川安之(ほしかわやすゆき) 写真1:製品展示 写真2:みんなの会議 パネル 写真3:みんなの会議 実演 写真4:みんなの会議 会場図 5ページ トークイベント 本の街で心の目線を合わせる 世界でいちばんリクエストの多いくつ屋さんって? イベント再開  この9月に、合同出版から出版された絵本『世界でいちばんリクエストの多いくつ屋さん』のトークイベントが、10月5日、神保町にある絵本専門店ブックハウスカフェで行われました。 イベント名は「本の街で心の目線を合わせる」、数年前に開始、今年度から合同出版、ブックハウスカフェ、そして共用品推進機機構が共催で行っていくことになりました。 今年度2回目の今回は、前回に引き続きハイブリッド方式で行い合計65名の方々が参加してくださいました。 絵本の概要  合同出版から出版される実話に基づいた絵本の第3弾である物語の舞台は、香川県にある徳武産業です。手袋メーカーであった同社に「高齢者が転びにくい靴」の開発依頼から、物語はスタートします。 当時社長だった十河孝男(そごうたかお)さんと、副社長だった十河ヒロ子(そごうひろこ)さんは、2年間かけて転びにくい靴を開発しましたが、2年間に出会った人の約1割が、左と右の足のサイズが異なる人だったのです。 「みんな違ってみんないい」という金子みすず(かねこみすず)さんの詩のように、靴は整備されていません。さて、この難題に、徳武産業はどう取り組んだかが、この絵本の読み応えのあるところになります。 今回のイベントでは、司会であるブックハウスカフェ店長の茅野由紀(ちのゆき)さんが前半部分を朗読して、イベントがスタートしました。 企画を受け取った時  今回のトークイベントの登壇者は、十河夫妻と絵を担当したイラストレーターの本田亮(ほんだりょう)さん、はじめに絵本の話があった時のことからスタートしました。 今までにビジネス書は何冊か出しているけれど、徳武産業のことを絵本にするという提案に十河夫妻は、はじめピンとこなかったとのことです。その後、本田さんは現場を見るために香川県の徳武産業を訪問しました。 誰もが履ける靴に仕立て上げる部署は特に熱心に見学し、担当の人たちから細かな工程まで話をうかがい、写真や動画に収め絵本のイラストを描くモードになっていったそうです。 絵本になる実感  何度も編集会議を重ねていくうちに、十河夫妻の中には、ビジネス書では伝えきれない大事なことが、絵本には伝える力があるのではないかという気持ちの変化が生まれてきました。  それを確証したのは、全社員が集まる全社会議で、それまで社内で公にしていなかったこの絵本に、司会者が言うまで開封しないでくださいというメッセージをつけて封をし、配布したのです。 会議も終盤、司会者が「どうぞ封を開けてください」と言うと、いたるところで歓声があがり、中には涙ぐんでいる人も一人二人ではありませんでした。 絵本の力  転びにくい靴「あゆみシューズ」を履いた人たちから、今まで3万通を超える感謝の手紙が届いています。 その感謝は、さらなるリクエストにもつながり、合理的配慮という言葉が存在する遥か前から、多様なリクエストに応えることを徳武産業は実践してこられたのです。 絵本は、次の社会を作っていく子どもたちの琴線にも響くことができる媒体です。この絵本が一人でも多くの子どもと大人に届くことを、心から願っています。 写真:トークイベント概要 星川安之 6ページ アクセシブルデザイン推進協議会 設立20周年記念シンポジウム 開催報告  2023年10月30日(月)、アクセシブルデザイン推進協議会(ADC)は「設立20周年記念シンポジウム2023」をハイブリッド(現地参加とオンライン参加)開催しました。 出版クラブホール(東京都千代田区)には約40名にご参加いただき、オンラインでは約90名にご参加いただきました。本誌では当該シンポジウムの概要をご紹介します。 「アクセシブルデザイン推進協議会(ADC)」とは  2003年に発足した当協議会は、(一財)家電製品協会、(公財)交通エコロジー・モビリティ財団、(公財)テクノエイド協会、(一社)日本ガス石油機器工業会、(一財)日本規格協会、 (公社)日本包装技術協会の幹事団体とともに弊機構も参画し、兼務で事務局を担当しています。 ADCは、異なる業界団体が集まり、アクセシブルデザイン(AD)・福祉用具関連の調査、開発、標準化、普及、国際化等の事業について、業界横断的に情報共有を行っている任意の団体で、 主に年に1回、その年にふさわしい(ニーズのある)テーマを設定し、シンポジウムを開催しています。  会の冒頭では、菊地眞きくちまこと初代会長に替わり、2022年度より就任した青木和夫(あおきかずお)会長が発足から今日までの主な取組みを紹介し、講演者、参加者への謝辞を述べました。 テーマは「ポストコロナ時代」  設立20周年のテーマは、「ポストコロナ時代における、私たちが取り組むべき課題」としました。基調講演は、筑波大学の落合陽一(おちあいよういち)准教授より、 「ITの現在地~身体機能を補完するテクノロジー・情緒ケアを支えるテクノロジー~」についてご講演いただき、 東京大学大学院経済学研究科の丹羽太一(にわたいち)氏、中央大学研究開発機構の丹羽菜生(にわなお)氏から、 「ユニバーサルデザインからインクルーシブデザイン~ライフタイム・ホームズから考える~」についてご講演いただきました。 「ITの現在地」  落合氏からは、先進のアクセシブルデザインのコンセプトと実施例をご紹介いただきました。音が聴こえない方でも楽器の演奏を楽しめる方法や、 視覚の代わりに音での道案内、車椅子ユーザーがどこへでもアクセスできる解決策、開発途中の技術やプラットフォーム等もご紹介いただきました。 来場者からは、「最新技術を活用した障害者に関わる研究の意義やその成果、可能性について知ることができた」、 「研究者として,社会に役立つモノづくりのことにもっと力を入れなければならないと感じました」、 「情報量が非常に多い講演でした。自身の率直な考えも添えて話をしてくださり、切り口がシャープな印象を持ちました」等の感想をいただきました。 「ライフタイム・ホームズ」  丹羽太一氏、丹羽菜生氏からは、「アクセシブルデザイン」という考え方に建築でどこまでできるかという視点で、日本やイギリスの状況を踏まえてご講演いただきました。 参加者からは、「建築の分野でのアクセシビリティについて、あまり知識がなかったため、とても勉強になりました」、 「非常に誠実な講演で、安心して聴くことができました。自分の中での概念の整理にもつながった」と感想がありました。 「ADC20年の歩み」  星川安之ADC幹事が、ADC全体の活動報告と所属幹事団体の取組みについて紹介及び報告を行いました。 参加者からは「当事者の声を集めるために様々なイベントを開催したり、考案・協議した後は、社会に根付くようにJIS標準化したりする取組みに感銘を受けました。 今回の、AI、住まい、モノ、社会に関するものは工夫することによって使いやすいものを考えていかないといけないと思いました」、 「各業界を巻き込んで進めてこられた活動について、理解を深めることが出来ました」等の感想をいただきました。  今回のシンポジウムにご参加いただけなかった方々からのご要望もあり、今年度のADシンポジウムを期間限定でオンデマンド配信する予定です。 準備が整いましたら、次のウェブサイトで公開しますので楽しみにしていただければ幸いです。 http://www.ad-council.org/symposium2023videorecord.html 写真1:青木和夫会長の挨拶 写真2:落合陽一氏 写真3:丹羽太一氏 写真4:星川安之ADC幹事 写真5:ADシンポジウム2023動画視聴サイト 森川美和(もりかわみわ) 8ページ 地域のまつり 再開された「集い」  新型ウイルスの蔓延により「集う」ことができなくなって3年、感染者の減少と症状の軽症化でこの夏、各地の「集い」がゆるやかに再開されました。 まつりもその一つ。花火大会、阿波踊り、ねぶた祭、野外コンサートなどの大規模な集まりばかりでなく、町内会等が主催で行われる「盆踊り」などのまつりにも、 多くの人が3年間の鬱憤をはらすように、仕舞ってあった浴衣等を着て、集っていました。 3年ぶりの地域のまつりはどうなっているか、インクル編集部は分担して9か所のまつりに参加してきました。その内の2か所はまつりのタイトルに「盆踊り」がありました。 盆踊り  夕方から始まるいくつかの盆踊りで、中央に設置されたやぐらの最上段に太鼓を叩く人が登り、その一段下の台には、手本になる踊りを披露する人や、上で踊りたい人たちが主催者のアナウンスに従って階段を上っていきました。  東京では東京音頭から始まり、それがアンパンマンやドラえもん音頭に曲が変わると、主催者のアナウンスで、順番になった子どもたちが嬉しそうに階段を上って壇上にあがり、 音頭に合わせてやぐらの上で手足を合わせ踊りながらゆっくり回ります。 やぐらへの動線  やぐらを中心にした広場では、スピーカーから流れる大音量の各種音頭に合わせて、多くの人たちが踊りながらゆっくり、楽しそうに回っていきます。  中心の広場から外側に進んでいくと、車椅子に乗って介助者に押されながらやぐらを目指す人、杖を突き介助者に支えられゆっくり歩きながらやぐら辺りを目指す人がいました。 その光景を見ながら、やぐらに登るのには階段しかなかったことを考えていました。  そんなことを考えていると、片麻痺で杖を突きながら介助者に支えられ歩く高齢の男性は、混みすぎた通路をぬって踊り場まで行くのをあきらめ、今来た道を二人無言で戻っていきました。  法律により、多くの段差はなくなりましたが、その法律が及ばない場所があることと、目には見えない段差はまだ残っていることを無言で戻って行く二人を見ながら思い知りました。 行列と表示  まつりの楽しみは、帰省してきた友や孫や子ども、近所の知人たちと、思いで話に花咲かせたり、屋台ならではの飲み物、食べ物を味わったり、各種ゲームに熱中したりなどです。 どの店、出し物にも長い待ち列ができていました。それも複数の列ができているため、どの列が何の列かが分からないまつりも多くありました。 しかし、中には写真のように「やきそば・最後尾」と表示された札をかざしている人が最後尾にいるところもいくつかのまつり会場で見受けられました。  さらに大きな規模のまつりでは、迷子になった子どもたちを探すのも工夫が必要です。ここでも活躍していたのは人が頭上にかざす看板でした。 その看板には、迷子になった子どもの特徴が書かれていて、看板を掲げた人が会場内を歩きまわっていました。 その会場には、手話で会話する人も来ていたので、その人たちにも看板の表示は情報を伝えることができるのです。 参加する遊び  まつりというと、「金魚すくい」が思い浮かびますが、現在のまつりでは、水を張ったビニールプールに直径2~3センチほどのスーパーボールが浮かべられ、 金魚すくいで使用する薄い紙が貼られた網を使っていくつすくえるかを競う遊びです。  他にも「お菓子のつかみどり」に、子どもたちの行列ができていました。  楽しそうな子どもたちを見ながら、この行列の中に障害のある子どもたちが含まれていないこと、そしてこれらのゲームにどんな工夫があれば、障害のある子どもたちが遊べるのかを思っていました。 展示 「まつり」の中には、市民活動の成果を展示する部屋を設けている所もありました。ステンドグラス、習字、押し花、絵などです。 全盲の人と行った展示室では、一枚一枚の絵を言葉で説明すると、「へ~、すごい!」、「そこはどんな色?」と会話がはずみました。  別のまつりでは、白杖をもった人が、顔を近づけて「押し花の作品」を見ているところにでくわしました。すると、係りの人が近づき、声をかけます。 「私はここの展示の係りですが、作品を紹介させていただいても良いですか?」「よろしくお願いします」とのやりとりが聞こえてきました。  その光景を見ながら、どうすればまつりが「みんなのまつり」になるのかと改めて考えた次第です。 写真1:地域の祭り 写真2:やぐらの階段 写真3:やぐらに向かう二人 写真4:最後尾を示す看板 写真5:迷子の看板 写真6:お菓子のつかみどり 写真7:展示をみる 星川安之 10ページ 千代田区「第21回ふれあい福祉まつり」へ共用品出展 ふれあい福祉まつり  千代田区は、毎年秋に「ふれあい福祉まつり」と題したイベントを区役所並びに向かい側にあるかがやきプラザで行っており、10年ほど前から、共用品推進機構もブースを設け参加しています。 このイベントは、それまで障害者を対象にしていたイベント、ボランティアのイベント、区民のイベントなどいくつかのイベントを一つにしているため、約50の多種多様なブースが設けられています。 第21回ふれあい福祉まつり  21回目の今回は、10月14日(土)午前10時~15時まで行われ、開始から終了まで、老若男女、障害の有無に関わりなく多くの人が参加しました。 主催の千代田区社会福祉協議会からブース参加する団体には、出展者の事業紹介だけでなく、来場者が参加できる企画にしてほしいとのリクエストがありました。  車椅子体験、アイマスクをしての視覚障害体験、手話オンライン教室、パラリンピックの競技にもなっているボッチャなど、普段の生活ではなかなか体験できないことを体験できるブース、 認知症のチェック、医療ソーシャルワーカーの紹介、介護に関する相談、民生委員・児童委員、シルバー人材センターの紹介、そしてステージではヘルマンハープ、フルート、ゴスペル、民謡などに加えて、 介護予防、フレイル体操なども繰り広げられ、会場内活気のあふれ続ける時間となりました。 共用品のブース  今年は、「まちがい探し」ではなく「ちがい探し」というタイトルで、2つの似たモノを6種類、計12個展示し、その違いをクイズ形式にし、 全問正解すると、景品と共用品のパンフレットを渡すという企画で行いました。展示した商品は次の通りです。 1.食堂などで飛沫を遮るための透明な板と話した言葉が文字で表示される板 2.通常のマスクと口の前が透明になっているマスク 3.通常のクリップと軽い力で開けるクリップ 4.スーパーマーケットで購入後、サッカー台で品物を入れる2種類のビニール袋 5.白色のまな板と黒色のまな板 6.通常の電気プラグと片手で抜ける電気プラグ みんなのまつり  このまつりには、他のまつりに比べ、障害のある人、高齢の人たちが多く来場するとともに、障害のない老若男女も数多く来場し、それぞれが参加型のブースで楽しんでいる様子が見受けられました。 実行責任者である千代田区社会福祉協議会の廣木朋子(ひろきともこ)さんに聞くと「実行委員会に障害当事者が複数入って企画を立てているからと思います」との答えが返ってきました。  廣木さんの話をききながら、障害者権利条約が制定される時、障害当事者が言った「私たち抜きで私たちのことを決めないで」という言葉が頭に浮かびました。 写真1:ふれあい福祉まつり 写真2:ブース風景 星川安之 11ページ キーワードで考える共用品講座 第137講「戻ってくること、変わること」 日本福祉大学 客員教授・共用品研究所 所長 後藤芳一(ごとうよしかず)  新型コロナから活動が戻った。今の時代における意味を考えよう。 1.「再び」の意味と形態  活動が再開して人と再び集う。「再び」ということばには、元に戻る、繰り返すという意味がある。 では、全く同じところへ戻って同じことをするのか。これにはX(元と同じ)と、Y(同じではない)という両面がある。  同じ人と会い、同じ会合や組織で活動するときは見かけは同じだ。祭や盆踊りなど伝統を繋ぐこと、不便さに対応する活動も目的は変わらない(X)。 一方、人と会うことや集会は社会的な活動であり、自分、相手、周りのすべてが同じままということはない。一つ一つが一度限りのことである(Y)。 Xであっても、活動は社会の環境と呼応して変わる。よって全く変わらないものはない。 Xのうちで変わる部分とYを合わせると、世の中のほとんどの部分、「戻る」「再び」とされることも、多くは元どおりではない。 2.2つの「変わる」  変わる、には、①(一度限り、今の時代に固有)の変化と、②(常に生じ続ける)変化がある。 ①については、新型コロナでテレワークやWEB会議が当たり前になり、暮らし・働き方・生き方が変わった。 第4次産業革命(2010年代半ば~)、生成AIの普及(今年~)は未曽有のイノベーションによって生じた。 国際政治学者のI・ブレマーは新型コロナ初期(2020年6月)に「これからの1年半ほどで、5年から10年分の変化に直面するだろう」と予言した。実際にそうなった。  ②には第1に、「流れ」こそが生命現象であると考え、世の中の変化は先に向いて進むと捉える見方がある。それは同時に無常さを際立たせることでもある。 「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。」(「方丈記」鴨 長明)。800年前の指摘だが、元々我々には生得的にある感覚だ。 第2に、輪廻思想(古代インド)も広く受け入れられている。生と死の繰り返しから抜け出せないことを、輪が廻って元の位置に戻ることに例えた。 ただ、全く同じ一生を繰り返すとは言っていない。 「らせん階段をのぼる人を上から見ると円を回っているように見えるが、1階の窓から見る森と2階の窓から見る森は景色がまったくちがう(意訳)」(「『非まじめ』をきわめる」森 政弘)という感覚である。 我々が「再び」と思っている活動は、こうした視点からも、中身が変わっていることが分かる。 3.「その先」と共用の視点  みてきたX(元と同じ)とY(同じではない)は、意識せずに、または外から与えられる環境によって決まる性格があった。それらとは別に、自分で決める(Z)という方法がある。 Zには変革をめざして手順を変えるなどの方法もあるが、ここでは心理療法などの分野で用いられるナラティブという方法をもとに考えよう。  セラピーとしてのナラティブは、過去の経験がマイナスの組み合わさり方をしてクライアントを抑圧しているのを、視点を変えるよう促すことで、同じ経験から違う物語の再構築を導く方法だ。 これを敷衍すると、日ごろの活動の際にも、自分の周りにある材料の意味づけを組み替えることによって、新しい意義をくみ出すことができる。 経験、経緯や材料が導く結論や価値は1つに限られるものではなく、意識の向け方しだいで、何通りもの意味を持つ可能性があるということである。  主題である集い・再開・再会も、YやZの意味〈=「再」ではあるが新しい(Y)、1つのことに過去や未来に向けて複数の意義を持たせうる(Z)〉を加えて活用できる。 共用品は元々、不便さのない人とある人のそれぞれの専用品だけでは足りない領域があるのではと考えた。モノやサービスの側からは、用いる人や用いる状況を一義に規定せず拡げる意味があった。 元からあるモノに少し工夫を加えると新しい輝きを放つ。共用品が実践してきた意味である。 12ページ ウクライナから日本へ  イェブトゥシュク・ナタリアさんは、現在東京杉並区役所内にある「コミュかるショップ」で、販売の仕事をしています。 ナタリアさんは、ウクライナ西部のリュボムリに家族と共に暮らしていましたが、2022年2月のロシアのウクライナ侵略により、同年4月に、次男とともに長男の住む杉並に避難してきました。 ウクライナで玩具店を経営  ナタリアさんが、20年前からポーランドの国境近くのリュボムリという街で、夫とともに営んでいるのが、入場ゲートを意味する「ヴイズナブラマ」という店名のおもちゃ屋さんです。  100平米ほどのお店には、0歳から大人までを対象に、ぬいぐるみ、人形、ミニカー、模型、レゴブロックなど多くの種類の玩具が並んでいます。  「20年間、続けてこられたのは、店に並んだおもちゃを手にした時の子どもたちの、何とも言えない嬉しそうな笑顔が見られたからです」と、スマホで撮った店内の写真を見せながら話してくれました。  「リュボムリの街では、障害のある子どもたちは学校に行かず、先生がその子どもたちの家を訪問して勉強を教えていました。それが、3年前から障害のある子どもたちも学校に行けるようになりました。 店を始めた当初から、障害のある子どもたちも普通にきてくれていました。どんなおもちゃが良いか、一緒に探すのも楽しみの一つでした。 けれども今は、戦争の危険から逃れるために、店を守る夫を残して日本に避難し、子どもたちの笑顔に会うことができません」 桜を見て  日本に避難してきて約一年、住んでみてのことを聞きました。「日本語は、難しいです。『家(いえ)』の話をするつもりが『いいえ』と言ってしまい、みんなに「?」という顔をされました(笑)。 区役所のショップでは、翻訳する音声認識ソフトの入ったスマホに、ウクライナ語と日本語を変換して表示し、コミュニケーションをとることも行っています。 普段は、日本ウクライナ友好協会NPO Kraianyが運営する三鷹のウクライナ料理を出す店「クラヤヌィ」でボルシチなどを作っているので、『じゃがいも』、『キャベツ』、『たまねぎ』、『人参』などの言葉は真っ先に覚えました。 杉並区のイベントでも、ウクライナのブースを出して、ウクライナ料理を作って、交流をさせてもらっています。 それと、桜。前から日本の桜が満開になっているのを見るのが夢だったのですが、今年、井の頭公園で見ることができたんです。感激して、自然と涙が出てきました」 黄色い線  「人がとても優しいと強く感じています。仕事を一緒にしている人たち、お客さん、交通機関の人、お店の人、街で出会う人など。感謝にたえません。そしてその優しさは、街にある工夫にも反映されています。 道に敷かれている、黄色い線(点字ブロック)や、段差を解消するためのスロープは、リュボムリの街で見たことはありません。戦争が終わってウクライナに帰ったら、自分が学んだ「優しさ」を広げられたらと思っています。 その「優しさ」、まずは自分のおもちゃ屋の入口に「スロープ」を付けるところからはじめたいと思っています」と、笑顔で話してくれました。 写真:ナタリアさん 星川安之 13ページ 耳育プロジェクト~耳の遠い高齢者にやさしい街づくり~ CLEAR JAPAN代表 宮谷真紀子(みやたにまきこ) 活動のきっかけ  難聴者が困る場所として、交通機関、病院、職場が常に上位に挙げられている。そこで、当時、薬剤師として勤務していた病院で医療従事者を対象に難聴に関する意識調査を行ったところ、 『大声で話せば伝わる』『補聴器をつければ理解できる』という誤った認識が広がっていることが明らかになった。 これをきっかけに、国内外で難聴に関する情報収集を始め、難聴の聞こえ方を体感できる映像を制作したところ、難聴者、聴者の双方から大きな反響が寄せられた。 以降、各方面から接遇研修の依頼を受けるようになった。 耳育プロジェクト  日本人の約10人に1人に聴力の低下が認められると言われる。手話を言語とするろう者の多くは、障がい者手帳を保持し、行政や企業からサポートを受けている。 しかし、手帳の交付基準に届かない軽度中等度難聴者は、サポートの対象外であり、難聴関連の情報に接する機会が少ない。 さらに、聴者と同様に話すことができるため、難聴を抱えていることが理解されず、職場や学校、家庭で孤立しているケースが非常に多い。  難聴に起因するコミュニケーション障害を社会的課題として捉え、解決の方向に導くためには、軽度中等度難聴者に対して聞こえに関する理解を深め、自らの難聴の自覚を促すことが肝要である。 また、将来、聴力が低下する可能性がある聴者も、聞こえに関する理解を深めることが良好なコミュニケーションに不可欠である。  そこで、CLEAR JAPANでは、聞こえに関する理解を深めることを目的に、『耳育プロジェクト』を始動した。 これまでに、企業、行政、教育機関等に耳の遠い高齢者への接遇研修を提供するとともに、高齢者向けのサービスや商品の開発を企業に提案している。 研修参加者からは「難聴であることをずっと誰にも言えなかった」と研修後に涙ながらにカミングアウトする人も少なくない。 また、聴者からは「これまでの対応が間違っていた」「祖父母が亡くなる前にもっと早く知りたかった」というお声をたくさんいただいている。 今後の展望  今後は、研修の対象をさらに広げ、難聴者自身のケアから難聴を抱えるお客さまの耳にやさしいサービスの提供につながるよう、実効性の高い耳育プロジェクトを展開していきたい。  ぜひ、多くの方に「感音難聴」の世界を体感していただき、耳の遠い方向けのサービスの向上や商品の開発に役立てていただきたい。 そして、誰もが聞こえにかかわらずコミュニケーションを楽しめる空間を増やしていきたいと考えている。 写真1:企業研修の様子 写真2:DVD教材~耳の遠い高齢者の聞こえ方~ 14ページ UD絵本のクラウドファンディング、達成! 一般社団法人 落語ユニバーサルデザイン化推進協会 落語家 春風亭昇吉(しゅんぷうていしょうきち) 落語のユニバーサルデザイン(UD)絵本を制作したい!  今回、このプロジェクトを立ち上げたのは、私の学生時代の思い出がきっかけです。 今から15年前、大学の落語研究会に所属していた私は、高齢者施設や医療少年院、ホスピスなど、ボランティアでいろんな施設で落語の公演をしていました。 盲学校での公演の時のこと。先生からは「子どもたちには古典落語は難しいかもしれませんね」と言われていました。しかし実際にやってみると、予想外の大ウケ。会は非常に盛り上がりました。 音を頼りに生きている子どもたちに「声が聞きやすかった」と言われ、涙がでるほどうれしく、私の学生時代の忘れられない思い出となりました。 大学卒業後、私は落語家の春風亭昇太(しゅんぷうていしょうた)に入門し、前座、二つ目と修業を重ね、2021年に真打に昇進しました。 自分の中の思い出を大切にし、落語版のUD絵本を作りたいと、胸に抱き続けていました。 急展開、たくさんの支援!  私がいろんなところで「落語のUD絵本を作りたい」と言い続けていると、それを聞いた同じ大学のOBの方から星川専務理事を紹介していただきました。 それからというもの、さまざまなご縁につながり、絵本の構成や資金集め、イベントの開催など急速に進捗しました。 8月から9月に実施したクラウドファンディングでは、目標金額の300万円を大幅に超え、支援総額494万円を達成することができました。 この場を借りて、改めて、ご支援や呼びかけにご協力いただいた皆様に御礼を申し上げたいと思います。本当に有難うございます。 今は、目の見えない子も見える子も誰もが本当に喜んでくれる絵本づくりに真剣に取り組んでいます。題材は古典落語の『まんじゅうこわい』。 ただ点字を載せるだけでなく、触図や3Dプリンティングも使います。ただ、私は、自己満足のモノ作りは絶対やりたくないですし、不遜ですが、いい絵本を作る熱意と知識に自負をもっています。 触図を楽しんでもらうことは容易ではありません。どのような紙面構成にすればいいか、視覚障害のある方を含むたくさんのメンバーで打ち合わせを重ねています。 来年の春までに  完成した絵本は来年4月を目標に全国の盲学校と点字図書館に届ける予定です。 事業の継続を目的として「一般社団法人落語ユニバーサルデザイン化推進協会」という法人を設立しました。 落語家の団体とも協力して、全国の視覚障害者の施設にこの絵本と生の落語を届けたいと思っています。 さらに、今回の『まんじゅう怖い』だけでなく、二冊目、三冊目を出版し、誰もが楽しめる落語の笑いの世界を広げていきたいと思います。 また、視覚障害に限らず、聴覚障害、その他の障害、言語の壁など、さまざまなバリアを取り除く研究も行っていきたいと思っています。 種が育つ  私が思い続けていた夢が、多くの方のお力によって実を結ぼうとしています。重ねて深く、深く御礼を申し上げます。 15年間、胸に抱いていた夢の種が、この半年という短い時間に、あれよあれよと大きくなったことに大きな驚きをもっています。 感謝の気持ちと、初心を忘れず、大切に育てていきたいと思います。 写真:日本点字図書館でUD落語イベント 15ページ サッカー台にあるビニール袋 四苦八苦の末辿り着いたモノ  とある駅に併設されているスーパーマーケットは、24時間営業。コロナ禍もあり有人レジが減り、セルフレジが台頭、特に夕方はどちらのレジにも長蛇の列ができています。 有人とセルフレジの違いは、商品のバーコードのスキャンを店側か客側が行うかの違いはありますが、購入した商品をレジ袋に入れるのは多くの場合、お客さん側の仕事です。 レジからほんの少し離れた場所では、ロールになったビニール袋、セロハンテープ、鋏などの袋詰めに必要な七つ道具が置いてあるサッカー台でそれぞれ一心不乱に「袋入れ」作業を行っています。 ここで最近よくみかけるのは、比較的高齢の人たちが、密着したレジ袋やロールになったビニール袋を開けるのに四苦八苦している光景です。 おそらくその光景は、以前から目にしていたと思うのですが、私がその不便さを味わいはじめてから気になり出したのだと思います。  年齢を重ねると昨日までできていたことがある日突然、できなくなっていることに気づき、「そんなはずはない!、たまたま今日は指の水分がないんだ」と思い込んでも、 それが何日か続くと、現実を認め、対策を考えることになります。袋入れ七つの道具の中には、指に液体(おそらく水)をつけることができる道具がおいてありますが、コロナ禍では使用することは躊躇されます。  指を舌につけるのは、衛生面で気が進みません。こんな時の100円ショップと探してみると「指先のすべり止め」なる商品があり、即購入。 直径3センチ高さ8ミリ、蓋を回してあけると固形物が現れ、人差し指につけてレジ袋を開けると、スムーズにできた…のですが、 問題はこの直径3センチを持ち歩き、必要な場面でタイミングよく取り出し、さっそうと使うことができるのか。 もんもんとしていたところ、クイーンズ伊勢丹のサッカー台にあるビニール袋は、一枚取ると入り口が開いていて、指に水分が少なくなった人でも難なく購入したものを入れることができると聞き、 さっそく行ってみると、その情報通りのものがあったのです。この袋であれば、滑り止めを持ち運ぶことも、置かれている液を使うこともせずにすむのです。 メーカーさんに聞く  これを考えた人はどんな発想で開発したかを知りたいと思い連絡をとると、共用品推進機構の事務所に大中2種類の現物を持ってきてくださいました。 開発のきっかけは、レジ係りの人がお客さんのいない時に、ビニール袋の開け口を開き、何枚も重ねてお客さんのために準備していると聞いたことでした。 若い人でも何枚も開けていくうちに手の水分がなくなり、私と同じ状態になってしまう場合があります。そこで考えたのが、初めから開いているビニール袋でした。 最初はレジ用でしたが、サッカー台にあるビニール袋も初めから開いていると、お客さんにとって便利とわかり、採用してくれる店舗が増えているとのことです。 千代田区福祉まつり  そのような経緯もあり、今回10ページで紹介した福祉まつりでも紹介したところ、引っ張ったら既に口が開いていることに多くの人は驚き、「これはいい!」と、私と同じ感想を言う人が続出しました。 写真:初めから開いているビニール袋(写真左) 星川安之 16ページ 集いの新たな再開 【事務局長だより】 星川安之  コロナ禍以前のように、人が集まるイベントの企画・運営・参加する機会が増えています。 9月27日~29日に東京ビッグサイトで行われた国際福祉機器展(H.C.R.)では、主催者企画の一つ「みんなの会議」の企画・運営の依頼を受けました。 今までのH.C.R.では製品の展示のみでしたが、今回はそれに加えて障害があっても参加することができる「みんなの会議」の実演、バリアフリービデオの上映を行い、実に多くの人たちのご協力をいただきました。  共用品推進機構の前身である市民団体が、1993年、95年、97年に東京銀座のソニービルを中心に14か所で行った「バリアフリーは銀座から」等のイベントを思い出しながらの作業でした。 当時の会議は対面会議しかなかったため、異なる組織に所属する人たちが集まれるのは平日の夜か、土曜、日曜。 イベントが近づくにつれ、1週間に1度の会議が2度、3度になり、しまいには毎晩、会議と作業を行いながら当日を迎えていました。 コロナ禍により広がったオンライン会議は、異なる組織の人たちが集まり議論するには有効な手段と改めて思った次第です。  オンライン会議のツールもこの3年間で進化をとげ、字幕モードにすると話している人の言葉が画面に表示される精度が高くなってきています。 そのため、聴覚に障害のある人たちとの会議も以前よりスムーズにできるようになってきました。  3年前から神保町ブックセンターで始めた「本の街で心の目線を合わせる」という1冊の本を取りあげ著者と対談、 鼎談するイベントは、同じく神保町にある絵本専門店ブックハウスカフェに場所を移し、再開することができました。 このトークイベントも事前に打ち合わせをしますが、その時も活躍したのがオンライン会議です。 10月5日に行った「世界で一番リクエストの多いくつ屋さんって?」の登壇者は、香川県の徳武産業の会長・副会長である十河夫妻と、東京在住のイラストレーター本田亮さん、 事前打ち合わせもオンライン会議が当たり前のように活躍していました。 オンラインで準備したことを踏まえて本番では、対面の展示、対面のトークが繰り広げられます。  10月14日に千代田区役所で行われた千代田区の福祉まつりに、共用品推進機構はクイズ形式で6種類の共用品を展示し紹介しました。 実際に手にとって試していただくと「これ、すごい!」、「どこに売ってるんですか?」など、コロナ禍以前と同じ感想を聞くことができました。  会議、講座、各種イベントは、オンラインと対面会議を選択することも、両方同時に行うことも一般化してきています。  そして、どのイベントも当事者が企画段階から参加することの重要性を改めて実感した次第です。 共用品通信 【イベント(対面)】 第21回ふれあい福祉まつり(千代田)(10月14日) 【イベント(ハイブリッド)】 第1回 本の街で心の目線を合わせる(9月21日) 第2回 本の街で心の目線を合わせる(10月5日) 【会議】 網膜色素変性症協会 共用品WG(9月7日、星川) 網膜色素変性症協会 共用品WG(10月5日、星川) 第1回AD国際標準化委員会(本員会)(10月4日) 第1回TC159AD委員会(10月4日) 第10回TC 173/SC 7/WG 7規格作成会議(10月11日、金丸・森川) 第1回新たな日常生活における障害者・高齢者アクセシビリティ配慮検討小委員会(10月12日) 【展示会】 第50回 国際福祉機器展(H.C.R.2023)(9月27日~9月29日) 【講義・講演】 家電製品協会 講演会(9月14日、星川) 建産協 共用品講座(9月15日、星川) テクノエイド協会 講演会(10月10日、星川) 【報道】 時事通信社 厚生福祉 8月29日 なにぬの屋 時事通信社 厚生福祉 9月8日 UD落語絵本 時事通信社 厚生福祉 9月15日 どろんこ座 時事通信社 厚生福祉 10月6日 まつりの「段差」 日本ねじ研究協会誌 8月号 デフリンピック 日本ねじ研究協会誌 9月号 『株式会社特殊衣料』チャレンジを支える努力と工夫 トイジャーナル 10月号 ユニバーサル落語 トイジャーナル 11月号 国際福祉機器展 みんなの会議 福祉介護テクノプラス 10月号 紙芝居「どろんこ座」と、布芝居「なにぬの屋」 福祉介護テクノプラス 11月号 みんなの会議 高齢者住宅新聞 9月13日 みんなの会議 高齢者住宅新聞 10月11日 自動化の波 シルバー産業新聞 11月10日 UD落語 福祉用具の日しんぶん 10月1日 「誰かの「良かったこと」が製品やサービスの質を高める アクセシブルデザインの総合情報誌 第147号 2023(令和5)年11月25日発行 "Incl." vol.24 no.147 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2023 隔月刊、奇数月25日に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:https://www.kyoyohin.org/ja/ 発行人 富山幹太郎 編集長 星川安之 事務局 森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、木原慶子、田窪友和 執筆 後藤芳一、春風亭昇吉、宮谷真紀子 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙写真 国際福祉機器展『みんなの会議』 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。