インクル アクセシブルデザインの標準化 Contents 令和6年度共用品推進機構事業計画~時代に合わせた情報提供・情報発信~ 2ページ アクセシブルデザインの標準化動向と経済産業省の取組 4ページ ISO 6273 発行!~ISO/TC 173/SC 7の取組み 6ページ アクセシブルサービスJIS 3部作発行へ~環境を整えて共生社会の実現を目指す~ 8ページ 包装における新たなアクセシブルデザインのJIS規格 10ページ 公共トイレの操作系設備配置等の標準化と普及に向けた取組み 11ページ キーワードで考える共用品講座 第140講 12ページ 「みんなのまつり」解決ヒント集~杉並区共生社会しかけ隊の取組第2弾~ 13ページ “その道のプロ”が「共用品」をテーマに作品を作ったらどうなる? 14ページ 台湾で見つけた共用品的な工夫 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 2ページ 令和6年度共用品推進機構事業計画 ~時代に合わせた情報提供・情報発信~  令和6年(2024年)3月、理事・監事の書面審議により、令和6年度の事業計画が承認されました。  共用品推進機構事業の大きな三つの柱、「調査研究」、「標準化」、「普及・啓発」とともに、コロナ下を経て得た情報提供・発信の在り方についても新たな取り組みを始めます。  本誌ではその一部を紹介します。 調査研究  より多くの人々が、暮らしやすい社会となるために必要な事項をニーズ把握、製品・サービス・システムに関する配慮・考慮点の基準及び普及に関しての調査・研究プロジェクトを設置して行うことを検討します。  継続して実施している「地域における良かったこと調査」については、調査範囲を全国に拡大するために、新たな地域・分野の調査を行います。  また、約30年間継続して実施している共用品市場調査においては、調査の分析を引き続き行い、調査対象の範囲並びに、今後共用品を普及するために必要な事項の課題抽出を行いながら実施します。 具体的には、「情報機器に関する調査の検討」、「製品種ごとの共用品率に関する調査」等を実施します。  さらに新たな取り組みとして、共用品モニタリング調査を基に、障害当事者団体・高齢者団体等と連携し、 関係業界、関係機関(業界団体、企業、公的機関等)が共用品・共用サービス・共用システムに関するモニタリング調査を簡易に実施するための支援システムの在り方を検討し、 当該システムを恒常化するために必要な事項の分析、合理的且つ有効なモニタリング方法について調査研究を行います。 標準化の推進  アクセシブルデザイン(高齢者・障害者配慮設計指針)の日本産業規格(JIS)及び国際規格(IS)の作成を行います。作成に資するため、国内外の高齢者・障害者配慮の規格に繋がるための調査・研究・検証を行います。  令和5年度までに行ってきた国際標準化機構(ISO)内のTC173(障害のある人が使用する機器)及びTC159(人間工学)等に提案し承認された案件や、 新規案件「新たな日常生活におけるアクセシビリティ配慮設計指針」などの国際規格の制定に向けて審議します。  さらに、新規に開発したアクセシブルサービス(共用サービス)の検証を行うとともに、職場、店舗、消費者窓口、医療、公共施設、イベント等の共用サービスに関する既存のガイドライン及び各種ニーズ調査等を整理・分析します。 開発すべき共用サービスの個別規格の体系図を基に、関係する業界団体等と連携して、新規のアクセシブルサービス(共用サービス)ガイドライン作成の検討を行うとともに共用サービスのパンフレットを作成します。 普及・啓発   今年度は、コロナ下で制限が多く実質的に開催が困難だった展示会での情報提供等に積極的に参加します。  共用品の展示に関しては共用品展示セットを作成し、関係機関と連携した展示会を実施しより多くの人たちに共用品及び共用品の考え方の普及を行います。  国内では、視覚障害者向け総合イベント「サイトワールド」(東京都・墨田区)への出展や、「全日本盲学校教育研究大会」(熊本県・熊本市)での活動紹介等を行います。  普及・啓発の一環である講座・講義に関しては、一般の方々、就学前の子どもから大学生ごとに、コンテンツ、ツール(共用品のサンプル、PPT、ビデオ等)、配布資料等を用意し、対面及びオンライン講座の充実を図ります。 さらに、より多くの機関で、共用品講座を行えるような仕組みを構築し継続して検証します。  また海外においては、連携のある台湾の団体を中心に共用品の調査、普及を行います。  調査結果や取組みにおける成果は、情報誌『インクル』をはじめ、ウェブサイトやメールマガジン、報告書など複数の方法を用いて、 より多くの方々が、可能な限り自由に閲覧できるようなアクセシビリティに配慮した仕様になるよう検討を続けていきます。  今年度もどうぞよろしくお願いいたします。 4ページ アクセシブルデザインの標準化動向と経済産業省の取組 経済産業省国際標準課 我が国は、高齢化率において世界で最も高い水準にあるとともに、2050年には65歳以上の人口比率が40%近くになるという見込みが示されており、国際的にみても急速に高齢化が進行しています。 高齢者・障害者の自立した生活や社会活動を促進するため、高齢者・障害者に配慮した製品・サービス及び生活環境の整備に必要なルール作りを進めていくことは、バリアフリー社会の形成に向けた重要な施策のひとつです。 これらのルール作りにおいて、標準化の役割が大きく期待されており、経済産業省においてもこれまで様々な取組を行ってきたところです。 国際標準化機構におけるアクセシビリティを考慮した標準化の推進 高齢者・障害者配慮(アクセシブルデザイン)の標準化は、国際標準化機構(ISO)においても、世界の人口高齢化及び障害者の社会参加がさらに進むとの認識から、重要テーマのひとつとして推進されています。 2001年には我が国のリーダーシップの下に、「高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針(ISO/IEC ガイド71)が発行されました。 議論の過程においては、日本で進んでいる高齢者・障害者配慮の事例を数多く紹介するなど、我が国がガイドの作成に大きく貢献しています。その後、2014年にISO/IEC ガイド71の第2版が発行されました。 我が国の国内におけるこれまでの対応 国内においては、2001年のISO/IEC ガイド71の発行後、これと整合した国内規格としてJIS Z 8071が2003年に制定されました。 その後、ISO/IEC ガイド71の第2版が発行されたことを受けて、JIS Z 8071も2017年に改正されました。 これは、高齢者や障害のある人々の社会参加の機会や、訪日外国人等を含めた多様な人々が過ごしやすい社会を実現しようという機運がますます高まる中、 近年のアクセシビリティ配慮の実践や社会状況の進展を踏まえて改正されたものです。改正のポイントは、対象となる人が、「高齢者及び障害のある人々」から、 「日常生活に何らかの不便さを感じているより多くの人々」に拡大されたとともに、規格の名称も「高齢者及び障害のある人々のための指針」から「規格におけるアクセシビリティ配慮のための指針」に変更されました。 その他にも、各種規格の作成者が、規格の様々な使用状況における多様なユーザーのアクセシビリティ・ニーズを特定できるように、 新たに「アクセシビリティ到達目標」という箇条の設定や、多様な人々の身体特性とアクセシビリティ・ニーズを考慮し、 規格を作成する際の留意事項を解説した箇条(規格でアクセシビリティ・ニーズ及び設計配慮点を考慮するための方策)の追加、といった改正が行われました。 JIS Z 8071に基づくアクセシブルデザイン関連JISの制定 JIS Z 8071は、各種の製品やサービス、生活環境の整備を目的とした規格の作成に際し、アクセシビリティに関連する要求事項や推奨事項を取り入れる際の指針となる「基本規格」として制定されています。 本JISの制定とあわせて、日本工業標準調査会(当時)から、「高齢者・障害者への配慮に係る標準化の進め方」が提言され、政策の方向性が示されました。 同提言を踏まえ、アクセシブルデザインに関連するJISが順次制定されており、2024年5月現在、48規格が制定されています。 これらのJISには、「基本規格」の他、様々な製品等に共通の規格としての「共通規格」、さらに個別の製品や環境ごとの規格があり、 その分野は包装・容器、消費生活製品、施設・整備、情報通信、コミュニケーション等、多岐にわたります。 産総研における人間工学研究を基盤としたアクセシブルデザインの標準化 高齢者・障害者にとって使いやすい製品やサービスの必要性が広く認識され、規格においてもアクセシビリティへの配慮が求められる中、 高齢者・障害者配慮規格の開発を進めるに際しては、年齢等に伴い人間の身体機能がどのように変化するか等の技術的知見が不可欠です。 こうした観点から、従来、高齢者・障害者配慮に関しては、人間工学、心理学、医学、福祉工学など人間に関する種々の学術領域において、様々な研究機関による研究が進められてきました。 とりわけ、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)においては、高齢者・障害者配慮規格の策定への取組が開始された当初より、当時はまだ知見が少なかった高齢者の感覚特性に関する研究がいち早く開始されており、 研究から得た計測実験データを基盤として、データに基づいたアクセシブルデザインの標準化活動が行われてきました。 産総研では、高齢者・障害者への配慮について、製品等の設計に利用可能な推奨値や具体的な参考情報の裏付けとなる人間工学的な観点からの知見など、 高齢者や障害者を含む人間の特性を示すデータに関する研究が継続されており、直近でも、これらのデータを元にアクセシブルデザインの規格開発が推進されています。 アクセシブルサービスJISの制定 近年、国際標準化機構(ISO)等において、製品だけではなく、サービス分野等の規格が制定されるようになり、このような環境変化に対応するため、 2019年7月に産業標準化法が改正され、JISの対象にデータ、サービス等が追加されました。アクセシブルデザイン関連規格においても、これまで製品に関する規格が多く策定されてきましたが、 2024年3月にアクセシブルサービスJIS3件が制定されるなど、アクセシブルデザイン関連JISにおいてもサービス規格が制定されました。 JISの対象がサービス分野等にまで拡大されたことにより、今後も様々な内容の規格が開発されることが期待されます。 今後の取組 これまで、関係者の尽力の下に、ISO/IEC ガイド71及びJIS Z 8071を基本規格としたアクセシブルデザイン関連規格の体系的な整備が進められてきました。 経済産業省では、我が国の標準化活動の在るべき姿や課題・取組事項の整理のため、2023年6月に「日本型標準加速化モデル」を公表しており、 その中で、アクセシブルデザイン関連の標準化は、安全・安心を中心とした高品質な製品・サービスを支えるための基盤的活動に位置づけられています。 近年、消費者の価値観の多様化等により、製品やサービスの価格や品質のみではなく、例えば、リサイクルなどの環境配慮がなされている、原材料の調達や生産において人権が尊重されている、 高齢者アクセスやジェンダーが意識されている、といった多様なニーズへの対応が求められるようになっています。 今後、市場においてもアクセシビリティへの配慮が重要となることが予想される中、これらのニーズへの対応を付加価値につなげていくという意味において、より戦略的な標準化活動も期待されます。 経済産業省としても、社会状況等の変化や技術の進展、それに伴うニーズの変化に適切に対応すべく、国内外の動向やニーズの把握を進めていくとともに、引き続き関係機関と連携しながら標準化活動に取り組んでまいります。 図:アクセシビリティに関する規格体系 6ページ ISO 6273 発行! ~ISO/TC 173/SC 7の取組み  3月11日、「ISO 6273:福祉用具 . 福祉用具およびサービスに関する感覚に障害のある人のニーズを調査するためのアクセシビリティ・ガイドラインおよび要求事項」が発行となりました。 本規格審議が新規プロジェクトとして開始したのが2021年3月17日、3年の月日を経て、ついにこの規格は完成しました。 ISO/TC173/SC7のこれまでの道のり  はじめに、この規格の作成を行った委員会を紹介します。ISO(国際標準化機構)は、スイス・ジュネーブに本部があり、170以上の国をメンバーとしています。 ここでは約270もの委員会を組織し、国際規格を作成しています。TC173は福祉用具の技術委員会で、共用品推進機構(以下、「機構」という。)が事務局を担当する分科委員会のSC7はこの中にあります。 SC7は2010年に日本からの提案で設立し、設立当初の分科会の名称は「アクセシブルデザイン」でした。 この名称が、それぞれの分科会で作成する規格内容を表しており、SC7で作成した7つの規格のうち、6規格は「アクセシブルデザイン」に関する規格です。  しかし、2017年に、SC7の名称が変わり、ここで作成する規格の内容が、アクセシブルデザインから「感覚機能に障害のある人のための福祉用具」に変更されました。 これはTC173の方針転換に起因しています。2017年以降、いくつかの新規案件を提案しましたが、いずれも福祉用具に直結した規格ではなかったため、良い評価は得られませんでした。 そこで本規格については、規格のタイトルを変更したり、規格案を大幅に書き直したりした結果、ISOでの投票により承認されました。 ISO 6273の概要  福祉用具メーカーが製品を開発する時や既存製品に関する情報収集をする時などに、視覚障害、聴覚障害の人に対してユーザーニーズ調査を行うことがあります。 この規格は、その調査の際に、視覚、聴覚に障害のある人がスムーズに質問を受けたり、答えたりすることができるようにするための配慮事項を規定したガイドラインです。 これは日本からの提案で開発された規格です。これまでの6規格は、日本のJISを翻訳し、それを基に審議を行いましたが、今回は規格原案を一から作りました。 規格作成への思い  この規格をISOへ提案したのは、製品を企画開発する前に、障害のある人の意見を取り入れてほしいという思いがあったからです。 2006年に国連で「障害者権利条約」が採択され、日本は国内の法律を整備し、2014年にこの条約を批准しました。 条約の起草において、障害当事者の間で使われているスローガン「“Nothing About Us Without Us”(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)」のとおり、障害者団体も同席し、議論に参加しました。 この「私たちのことを、私たち抜きに決めないで」は、障害のある人がモノづくりに参加することにもつながります。 障害のある人の意見を製品開発に役立てることで、それまで見えなかったその製品の短所や、長所までも明らかになることがあります。 障害のある人への配慮事項に沿った調査方法を国際標準にすれば、世界共通のルールで、障害のある人への調査ができると考えました。 規格の中で紹介された不便さ調査  当機構は調査を得意としています。前身団体のE&Cプロジェクトの時代から、13件の障害のある人や高齢者に関する「不便さ調査」を実施してきました。 現在は、不便さ調査から一歩進んだ「良かったこと調査R」を行っています。そのノウハウを生かして、規格原案を作成する前に、日本国内の障害のある人21名に、「調査に関する調査」を行いました。 障害のある人が調査に参加する際に、調査企画・設計者や調査実施者に望むこと、避けてほしいことなどについてアンケートによって意見を求め、その結果を規格に盛り込みました。 機構の不便さ調査自体も一つの調査事例として、「日常生活における不便さ調査」というタイトルで規格本文の「6.3 新規の福祉用具のためのユーザーニーズ」の中に明記されました。 ワーキンググループの活動  規格に関する議論を行うために、ワーキンググループ(WG) 7を設立しました。日本をはじめ、韓国、スペイン、ドイツのメンバーで、オンライン会議を行い、規格を完成させました。 メンバーはすべて初対面。初めは、オンラインのみで本当に議論できるのか心配しましたが、驚くほど連携を図ることができました。 ドイツからのエキスパートは全盲で、長い間、ISOの規格開発に携わっており、たよりになる存在でした。WG設立当初は、メンバー不足や調整の難しい場面もありましたが、次第に意気投合し、最後は離れがたく感じるほどでした。 ISO 6273の今後  2006年に国連が「障害者権利条約」を採択して以来、福祉用具による障害のある人への支援が広がりました。障害のある人が使う製品を利用しやすくするために、障害当事者のニーズを取り入れることは合理的です。 また、今年の4月から、「改正障害者差別解消法」が施行されました。合理的配慮が事業者にも義務化され、一般企業の障害者配慮に対する考え方も変わることが予想されます。 福祉用具に限らず、一般製品においても活用できるため、この規格は障害のある人たちの生活により役立つものと期待しています。 金丸淳子(かなまるじゅんこ) 写真:ISO 6273 写真:会議の様子 表:SC 7で作成した規格 No. 規格番号 規格内容 発行年 1 ISO 17049 点字表示 2013年 2 ISO 17069 アクセシブル・ミーティング 2014年 3 ISO 19026 公共トイレの操作設備 2015年 4 ISO 19027 コミュニケーション支援ボード 2016年 5 ISO 19028 触知案内図 2016年 6 ISO 19029 公共施設の音声案内 2016年 7 ISO 6273 ユーザーニーズ調査のためのガイドラインと要求事項 2024年3月 表:会議の経過 年月 実施内容 2021年3月 新規プロジェクト承認  同 4月 新WG7設立  同 6月~2023年10月 第1回~第10回会議開催 2023年11月~2024年2月 ネイティブチェック、編集 2024年3月11日 発行 8ページ アクセシブルサービスJIS 3部作発行へ ~環境を整えて共生社会の実現を目指す~  令和6年(2024年)3月21日に日本初の「アクセシブルサービス」に関するJISの3部作が発行されました。 このJIS規格では、まず、サービス提供者がどのようにアクセシブルサービスを提供するのかを明確にしました。  タイトルは以下の通りです。 アクセシブルサービス―第1部 サービス提供者の基本的配慮事項(JIS Y 0201―1) アクセシブルサービス―第2部 コミュニケーションに関するサービス提供者の基本的配慮事項(JIS Y 0201―2) アクセシブルサービス―第3部 誘導に関するサービス提供者の基本的配慮事項(JIS Y 0201―3) 「共に考え、共に作ること」  アクセシブルサービスとは、「アクセシブルサービスを利用する人と提供する人が共に利用しやすいサービスについて考え協力して作るサービス」のことです。 共用品推進機構は任意団体E&Cプロジェクトの頃から今まで一貫して「共に」ということを第一に考えてきました。時には双方の意見調整が必要な場面もありますが、 対話を繰り返し幾多の課題を解決してきました。様々な調査研究、国内標準化(JIS化)、国際標準化(IS化)、普及啓発などの事業成果は、日本全国、世界各国の仲間との連携によって得られたものです。 しかし「共生社会の実現」に向けては未だ課題も多く残っています。  その一つに、施設などを利用する時のサービス提供の在り方があります。サービスには表1のAに示したように、無形性、同時性/不可分性、異質性、消滅性そして変動性という特性があります。 これらユニークな特性は、提供の仕方(演出の仕方)によっては唯一無二の思い出深いものになりますが、いつだれが利用しても変わらない質で安心して利用したい場合には不安定な特性になります。 そこで「アクセシブルサービス」の出番です。 「不便さ調査」から「良かったこと調査」へ、そして「アクセシブルサービス」に  アクセシブルサービスを規格化するにあたり根拠としたものは、「不便さ調査」から得た利用しやすさが進展した「良かったこと調査」です。 さらに、様々な団体や企業、国や地方自治体等の取り組み事例やガイドライン等の調査も行い、障害のある人や高齢者等が関わり、「良いサービスとは何か」について、サービス提供者側と共に考えて導き出した事項についても分析し、配慮要素を抽出しました。 これらの調査結果から「アクセシブルサービス」の標準化の必要性が認められ、経済産業省の事業として、(一財)日本規格協会より再委託を受け「アクセシブルサービス原案作成委員会」を設立し、3年間の審議を経て発行に至りました。 「基本的配慮事項」  「アクセシブルサービス」3部作のそれぞれの箇条4に「基本的配慮事項」の記載あります。これが各規格の根幹となる考え方です。  例えば「アクセシブルサービス―第1部」の基本的配慮事項は以下のようなものです。 a)サービス提供者は、サービス利用者の人格、尊厳及び選択の意思を尊重する。 b)サービス提供者は、自身の経験、技能及び主観に過度に依存しない。 c)サービス提供者は、サービス利用者の特性を理解し、適切にサービスを提供する。 d)サービス提供者は、提供可能なサービスを明確にし、サービス利用者が選択することを可能にする。 e)サービス提供者は、サービス利用者のニーズを把握することに努め、適切なコミュニケーションを図る。 f)サービス提供者は、サービス利用者が手話通訳者又は介助者を同伴している場合であっても、最初にサービス利用者とコミュニケーションを図り、意思を確認する。 続く箇条5は「サービスを提供するための配慮要素」を「提供するタイミングごと」に記載しました。 施設などの利用では、目的の場所又は会場に到着する前(事前)、入場又は入館するとき(前)、来場中又は来館中(中)、退出するとき(後)が挙げられます。 ここでは表を用いて、それぞれの場面毎の配慮を記載しました。 参考として、これらの配慮要素があると利用できる/利用しやすい「利用者」も示しました。利用者の特性は、身体的な機能の障害による特性や、疾病や認知機能に関連する特性など様々です。 一つの配慮を行うことによって、特性の異なる利用者も利用できようになることを示しました。  例えば、第2部のコミュニケーションに関する規格の配慮要素に「急な服薬、血糖値調整などに伴う飲食可能な場所を確保し、その旨を知らせる。」というものがあります。 この配慮要素は、精神障害の団体の委員から、「既存の配慮で、あると良いもの」として提案をいただいたものですが、視覚障害、盲ろう、肢体不自由、高齢者、リウマチやパーキンソン病など様々な利用者にとっても実は重要な配慮要素であることが分かりました。  実際に配慮の機会は少ない施設等もあるかもしれませんが、この配慮要素を知っているだけで、事前の準備ができますし、急な応対も円滑にできる可能性が高くなります。 何より利用者にとって、提供者がこの配慮を知っているということが安心の一つになります。  このようなことから、本規格には記載できなかった潜在的な利用者にとっても応用ができると考えています。 さらに良いものに  アクセシブルサービスJISは、共通規格ですので汎用性が高い規格です。そのため実際に活用いただく際にはそれぞれの場所に合うよう実用的なものに調整していただければと思います。  今年度はアクセシブルサービスの推進とアクセシブルデザインを連携させた取組みを行いますので、ご協力のほどよろしくお願いいたします。 森川美和(もりかわみわ) 表1:アクセシブルサービスの規格化における課題点の整理 A.サービスの特性 B.通常の有形製品と異なるサービスの持つ特性 C.アクセシブルサービスの規格化における課題点 1.無形性 形がなく、サービス内容・工程・違いが分かりにくい。 アクセシブルサービス提供者の行為に形がなく、どの場面でどのようなサービスを行えばよいか分かりにくい。 2.同時性/不可分性 生産と消費が同時に発生する。 アクセシブルサービス利用者は、アクセシブルサービス提供者と一緒でなければ、そのサービスを利用することができない。 3.異質性 品質を標準化することが難しく、バラツキがある。 アクセシブルサービス提供者のスキルによって、サービス内容に差が生じる。 4.消滅性 在庫の保存ができない。 アクセシブルサービスを提供した後に消滅し、保存ができない。 5.変動性  季節や時間帯によって需要が変動する。 アクセシブルサービスの利用頻度は一律でない。 写真:アクセシブルサービスJIS 3部作 https://www.kyoyohin.org/ja/research/japan/jis_Y0201.php 10ページ 包装における新たなアクセシブルデザインのJIS規格 公益社団法人日本包装技術協会 平井純一(ひらいじゅんいち) 包装における新たなアクセシブルデザインJISの制定  包装のアクセシブルデザインに関するJISについては、同名のISO規格をもととしたJIS S 0021―1(包装―アクセシブルデザイン―第1部:一般要求事項)、JIS S 0021―2(包装―アクセシブルデザイン―開封性)、JIS S 0021―3(包装―アクセシブルデザイン―情報及び表示)及びJIS S 0021―4(包装―アクセシブルデザイン―第4部:取扱い及び操作性)が整備されている。これらJISでは、日常生活で目にする多くのアクセシブルな包装事例を提案してきた。  このたび、さらに誰もが利用しやすく安全な容器・包装を普及促進させるため、日本発でJIS S 0021―5(集合包装用段ボール箱の重量に関する情報の表示)及びJIS S 0021―6(詰め替え容器)を提案し、令和6年3月21日にアクセシブルデザインの包装・容器個別規格としてアクセシブルデザインの規格群に加わった。 JIS S 0021―5(集合包装用段ボール箱の重量に関する情報の表示)の制定経過  平成25年6月18日付で厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課から通知の“職場における腰痛予防対策指針及び解説”、作業様態別の対策に“荷姿の改善、重量の明示等”として、取り扱う物の重量はできるだけ明示することが腰痛予防対策の指針に示されている。  現在、多くの集合包装用段ボール箱の重量に関して情報表示されていないが、食料品をはじめ多くの商品において、一つ当たりの総重量が重い集合包装品の購入が大型店舗、通販などで増加傾向にある。このような背景から一般消費者及び事業者並びに物流センター、量販店などでの開梱こん者に対し、あらかじめ重いことを示す情報を集合包装品に表示し、重量物であることを認知させることによって、使用者の身体的保護・安全面に寄与することを目的としてこのJISを制定した。 JIS S 0021―6(詰め替え容器)の制定経過  令和元年9月の東京都生活文化局の“洗剤類のつめ替え、移し替えにおける安全性に関する調査”報告によると、洗剤類の詰め替え時に危害及びヒヤリ・ハットの事例があり、特に“こぼす”“切り口、角などで指を切る”などの原因による安全性の課題が示されている。  近年、容器の再利用の促進、廃棄物の減少と経済的であることなどから、様々な詰め替え用製品が流通し2017年における洗剤類の詰め替え用製品は同製品出荷量の79%と高く生活に密接に関わっている状況である。  このような背景から包装のアクセシブルデザインに基づいて、詰め替え容器における設計上の配慮事項を規定することで、高齢者及び視覚障害者だけでなく、全ての消費者に対し操作性に配慮された詰め替え容器を普及させ、安全性及びプラスチック使用量の削減に貢献することを目的としてこのJISを制定した。 今後の包装アクセシブルデザイン規格の展開に向けて  包装のアクセシブルデインの規格は人間工学的データ知見をバックボーンとし、様々な人による様々な場面における認知能力及び行動に関して考えられる要素をもとに、一般の生活者及び高齢者並びに感覚機能、身体機能及び認知機能の低下している全ての人々に対し、有用かつ使いやすい包装を提案している。今後、この考えはさらに進展し、包装設計の現場でも生かしていかなければならない。  そのためにも、アクセシビリティの高い包装事例を時とともに新たに見出し、追加することによって、よりいっそう包装―アクセシブルデザイン規格を更新、充実させていかなくてはならないと感じている。 写真:JIS規格の代表的包装事例 容器に取り付けられた取っ手 11ページ 公共トイレの操作系設備配置等の標準化と普及に向けた取組み 一般社団法人日本レストルーム工業会 ユニバーサルデザイン委員会  一般社団法人 日本レストルーム工業会は、2015年「一般社団法人 日本衛生設備機器工業会」と「一般社団法人 温水洗浄便座工業会」が合併した衛生陶器や温水洗浄便座など、トイレに関する製造メーカーを会員とする団体です。  工業会では、国内の需要喚起やレストルーム空間の質の向上、「安心・安全」「省エネ・節水」を推進するとともに、国内はもとより国際的な技術課題や規格化などにも積極的に取り組んできております。 公共トイレ操作部の規格化  公共トイレでは、さまざまな設備が充実し利用者にとって便利になってきています。しかしその一方で、壁面に設置される操作系設備が煩雑になり、操作がわかりにくいという問題も出てきています。 そこで、当工業会が中心となり標準化検討WGの中で全国の視覚障害者や車いす使用者をはじめ多様な方々の検証により「逆L字型の配置」を見出し、 共用品推進機構ご指導のもと操作系設備の使いやすい共通ルールを定めた「JIS S 0026(※)」が2007年に制定されました。  このJISは、高齢者・障害者が初めて利用することも多い外出先のトイレで「流し方がわからない」「洗浄ボタンと間違えて呼出しボタンを押した」などの問題が起こらないよう、 大便器まわりの操作系設備配置等の共通ルールを定めたものです。 普及に向けて  本規格は、建築設計標準等のバリアフリー法関連設計ガイドラインにも盛り込まれ、建築物や旅客施設等のトイレへの普及が徐々に進んできています。 2015年には「ISO 19026」として承認され、国際規格となりました。工業会の日・英それぞれのホームページ上で設置事例を含めた同規格の紹介、 「日本ロービジョン学術総会」での実機展示説明、国際的な視覚障害者団体の活動紙(メルマガ)での周知活動等を昨年度より実施してきています。  しかし、街中にはJISに合致しないトイレも依然多く、国際規格においても採用国が数カ国にとどまる等、普及には更なる努力が必要と考えています。 今後の展開  国内外の視覚障害者からも、本規格の実際の現場での実現を要望する声が多数寄せられています。 また、昨今の公共建築物においては、計画・設計段階において、利用当事者が声を上げる場も用意されてきています。  工業会としては、建築主、設計者等へのプラン提示や情報提供はもとより、利用当事者への本規格の周知促進の両輪での活動を今後も続けていきたいと思います。 図1:配置の考え方 図2:配置と設置寸法 工業会ホームページ上での紹介 https://www.sanitary-net.com/trend/standard.html ※JIS S 0026:2007 高齢者・障害者配慮設計指針-公共トイレにおける便房内操作部(便器洗浄ボタン及び呼出ボタン)の形状、色、配置及び器具の配置 写真1:配置等説明用の実機展示台(左) 写真2:日本ロービジョン学術総会での実機展示説明風景(右) 12ページ キーワードで考える共用品講座 第140講「共用品と標準化」 日本福祉大学 客員教授・共用品研究所 所長 後藤芳一(ごとうよしかず)  標準化は、提供するモノなどの基準(規格としては需要)、規格自体を作る(同供給)、標準化の枠組を創る(思想、政策)の3段階で見ることができる。 前二者は実務の作業であり他に情報も多いので、本稿は最後の点を考える。 1.標準化の論点  標準化の対象は、経済的な財(例:モノ、サービス、デザイン、ソフトやデータ)と、それ以外(例:表現法、文化、慣習)がある。 前者には仕様の規格があり、後者には宗教、茶道、武道、琳派、方言などの様式や流派がある。  放置するとどうなるか。対象の性格や環境(例:競争、シェアの傾斜)により、①1つの仕様に収斂(求心的)、②・①の反対に違いが増す方へ発散(遠心的)、③・①と②の中間(状態が変わらない)になる。  介入する際は、X同じ方向に揃える(求心的)、Y仕様を散らす(個別化・分断策)、Z放置がある。Xがいわゆる「標準化」である。 Yは農畜産物の産地や種の差別化、江戸期の薩摩弁、映画「天地創造」にはバベルの塔を建設する人々へ神の怒りが言語を混乱させる場面がある。 2.標準化の功罪  経済面の利点には①効率化(例:需給コストの削減)、②市場拡大(例:国際標準による貿易障壁を除去)がある。 欠点は①初期投資の増加(規格の開発や、仕様に対応のため投資が必要)、②競争激化(参入が容易に)がある。  非経済面の利点には①品質・安全、②相互理解(情報共有)への寄与がある。欠点は①多様性を失う(画一化して個別ニーズへの対応が低下)、②革新の抑制(新発想や技術の導入を妨げる)がある。 3.標準化の要素と政治学  標準化には仕様の共通化(コミュニケーション)、複数関係者の利益(公共性)、活動の持続(事業性)が条件になる。 「コミュニケーション」は、公的機関(例:ISO)が制定する標準(デジュール)以外に、慣習で用いるもの(例:ビデオのVHSやWindows)もある(デファクト)。 「公共性」は、業界内や域内の国(例:EU)としての公共性もある。その場合、参加者には共通化の利点を提供する一方、外部を排除する機能(参入障壁)も持つ。 どこまでを内側として仲間に含めるかは戦略で選ぶ。複数社<(製造)業界<(需給)業界<分野横断<社会全体となる。公共は社会全体と限らない。  規格を作り運営するにはコストがかかる。個別規格はコストの回収、運営機関は持続が必要だ。 前者は『売れる』こと(「広いニーズ」と説明)、後者は機関間の競合(ゼロサム競争)がある。社会的責任(CSR)は早く着目したISOが主導した。 その過程では国際機関(例:ILO)、NGO、NPOは激しいさや当てを行った。参加と権限の確保が目的だった。その後はMDGsとSDGsを掲げた国連がリードする。 障害者の権利も既存の条約で対応できていたが、条約化を主張する国があって専門の条約ができた。  整理すると、標準化が将棋の「駒」とすれば、それを用いる「指し手」がいる。指し手には利益動機(エゴ)がある。 規格には適性があり、例えばデジュール規格(例:ISO)は経済財・仕様や様式が定義しやすい・市場が大きい、が揃う(限られた)場合の手段になる。 4.共用品と標準化  共用品はどうか。アクセシブルデザインとして国際化するにはISOは便利だ。ただ、共用の思想はそれだけか。不便さの有無を問わず利用できるモノやコトは手段であり、包摂することが上位の目的ではないか。 文化や思想(本稿1)であり、非経済(同2)であり、社会全体の公共性(同3)だ。世界初の試みである共用品には、枠組自体を創る次元の寄与も期待される。  なお筆者は経済産業省で政策面から標準化に関わった。責任者として担当した規格で発行したのは社会的責任(ISO26000)、行動規範(ISO10001)、苦情対応(ISO10002)、組織外紛争解決(ISO10003)である。 (ISOは大型規格にするものは切りのよい番号にするといわれる〈例:ISO9000、同14000〉) 13ページ 「みんなのまつり」解決ヒント集 ~杉並区共生社会しかけ隊の取組第2弾~ 杉並区保健福祉部障害者施策課  杉並区では、障害のある人が地域生活を送るうえで関わる様々な場所の「もやもや」をなくすため、障害当事者や支援者等から構成する「共生社会しかけ隊」を結成し、一緒に話し合い解決する取組を、令和4年度から行っています。  本来、誰もが予約なしに集まることができる「まつり」。しかし、障害のある人が参加するには多くの課題がありました。  そこで、令和4年度のスポーツ施設に引き続き、第2弾の取組として、昨年度区内7か所の「集会施設」で、まつりを主催する地域の人や施設の職員と、話し合いの場を持ちました。 声が解決のヒントに  「障害のある人が来たらどうしよう」「混んでいるところに車椅子で行ったら、迷惑かなぁ」まつりの主催者も、まつりに参加したい障害者も頭の中に、「もやもや」が渦巻いていました。しかし、その悩みを一緒に話し合うことで、お互いの困りごとに気づき、共有することで、工夫してそれぞれの「もやもや」を解決する方法が生まれました。 話し合うためのヒントとして  「まつりのちらしに、車椅子使用者などのイラストがあると、受け入れられた気がする」「気軽に声をかけやすいよう、ニコニコマークのビブスを皆でつけよう」「障害のある人が楽しめる場所をスタンプラリーで紹介しよう」「視覚障害のある人もわかるように、スタンプは浮き出るものがいい」。  この解決ヒント集は、このような話し合いの言葉のままで掲載しています。それは、「こうすればいい」というマニュアルではなく、それぞれに合わせた応対を、皆で話し合い考えていくためのヒントとして活用してもらいたいからです。手にしてもらいやすいよう、イラストで読みやすくしています。 そもそも合理的配慮って?  この「一緒に話し合って個々に合わせて無理なくできる工夫を考える」という共生社会しかけ隊の取組が、実は令和6年4月から障害者差別解消法の改正により、すべての事業者に義務化される「障害者への合理的配慮の提供」の出発点なのです。  話し合いでは、さらにこの配慮についても考えました。  「障害のある人は、サポートされる側なの?サポートする側、サポートされる側と固定しないことが大事」「特に障害のある人への配慮というよりも、誰もがお互いに配慮しあうようになればいい」障害のある人への配慮が特別なことでなく、あたり前のこととして、一緒に話し合うことから始める、これこそがこれからの社会が行っていかなければならないことなのです。 誰もが、しかけ隊の一員  杉並区では現在、取り組むテーマに合わせて「共生社会しかけ隊」を結成していますが、しかけ隊のメンバーは特定の決められた人ではありません。 障害のある人とない人との話し合いに参加した誰もが「共生社会しかけ隊」の一員です。  杉並区では、今後さらに共生社会しかけ隊を広げるため、一緒に話し合う仲間を増やしたり、しかけ隊の取組ポイントをまとめたりなど行っていきます。 そして誰もがしかけ隊の一員として共生社会の懸け橋となる、そんなまちづくりを目指していきます。 写真:ヒント集17.18ページ QRコード:↑みんなのまつり解決のヒントはこちら 14ページ “その道のプロ”が「共用品」をテーマに作品を作ったらどうなる? 紙芝居のプロに頼んでみよう!「いっしょに あそぼう」  共用品推進機構は、昨年度の取組みとして、「共用品」をより身近に感じてもらう取組みを始めました。  第1弾として、「想像と創造が世界を創る!」をテーマに、ミュージカル3D紙芝居を作成している「劇団どろんこ座」に「共用品」をテーマにした紙芝居の作成を依頼しました。  「いっしょに あそぼう」と題した物語は、主人公のモグラくんとキツネくんが、サッカーを通して、さまざまな個性のある仲間と「いっしょにあそぶ」ことを考えます。  ペープサートが飛び出し、ギターに合わせたリズミカルな音楽や言葉、踊りが紙芝居の楽しさを際立たせます。誰もが楽しめるミュージカル3D紙芝居をご覧ください。 写真1:撮影風景 写真2:撮影会場の様子 落語の師匠に頼んでみよう!「共用品落語」  第2弾は、「落語の師匠に頼んでみよう!」。  障害のある人もない人も、誰もが落語文化を楽しめるようにすることを目的に設立された一般社団法人落語ユニバーサルデザイン化推進協会の 代表理事を務める春風亭昇吉(しゅんぷうていしょうきち)師匠に「共用品」を演目にした落語を一席設けていただきました。  昇吉師匠ならではの“勉強になる共用品落語”と、共用品のエピソードを盛り込んだ演目があります。 どちらも軽快で何度聞いても見ても、いろんな「へえ」があります。  どうぞ最後までお楽しみください。 写真とQRコード:ミュージカル3D紙芝居・共用品落語の動画視聴はこちらから https://www.kyoyohin.org/ja/publicity/adfj_video_archive.php 15ページ 台湾で見つけた共用品的な工夫 台湾の共用品的工夫  コロナ禍の終息傾向に伴い台湾にいく機会が複数ありました。久しぶりの海外、共用品的工夫を見つけたので、いくつかを紹介していきます。  高雄国際空港で降り鉄道で台南に向かう列車では車両ごとに自動扉がありましたが、日本の新幹線と違って扉の前に立つと自動で開くタイプではなく、扉の右にあるボタンを押して扉を開ける仕組みになっていました。 そのボタンには、点字がついていました。  台南市内からバスで30分ほど行くと、海辺の町、安平に到着します。バスから降りると多くの親子がさまざまな遊具で楽しんでいる姿がありました。 ところどころに車椅子のマークがあり、障害のある子供たちが遊べる工夫がさりげなくされているのです。 通常腰の高さほどの場所にあるトランポリンは、地面を掘って埋め込まれているため、飛びながら外にはみ出して落ちる心配がありません。  台南の大きな書店「政大書城」では、教材コーナーに、磁石が先に着いたペンで、画面を移動させると、小さな鉄のたまが浮き上がり触って分かる玩具がありましたが43年前、盲児家庭20軒をたずね、 あったら良い玩具を聞いた時に全員が、書いて浮き出てまた消せる黒板を希望していたのを思い出させてくれました。  台北での会食、回転テーブルのある中華料理店でのこと、8人がけの丸テーブルにはそれぞれの席に、色の違う箸が一膳ずつ置かれていました。 なぜ?と聞くと一つは、大皿からとるためのとり箸とのことでした。  最後は、高雄空港のスターアライアンス待合室のトイレにあったものを紹介します。それは、手を洗った後に手を拭くための手拭きです。 今まで見たものは機械に挟まっている紙を両手で下に引っ張って取り出すものでしたが、そこで見たのは機械に手をかざすと手を拭くための紙が自動的に一枚出てくるものでした。 それは、車椅子マークの表示された車椅子使用者も利用できるトイレにも付いていました。  コロナ禍の中でも、共用品的な工夫は産まれてきていることに、「時は止まっていなかった」と改めて思った次第です。 星川安之(ほしかわやすゆき) 写真1 車両の扉を開けるための点字付きボタン 写真2 高さのないトランポリン 写真3 浮き出る黒板 写真4 色の違う二膳の箸 写真5 手をかざすと紙が出てくる機器 16ページ 標準化 【事務局長だより】 星川安之  1991年4月に、共用品推進機構の前身E&Cプロジェクトが共用品・共用サービスの普及を目的に活動を始めた。  その活動のスタートは、視覚に障害のある人たちへの日常生活における不便さ調査、約300人からの回答は多種多様、想定を遥かに上回る数だった。  パンドラの箱を開けるとはこういうことかとも一瞬思ったが、プロジェクトの目的は、山積みになった課題の前で呆然とすることではなく、明らかになった課題を一つ一つ解決することと、意を強くした瞬間でもあった。  20名で始めたE&Cプロジェクトは月を重ねるごとに参加者が増えていった。そのため山積みの課題を分類し解決する班が複数誕生した。 同じ形状で中身の異なるパッケージを触れて識別できる方法を考えるパッケージ班、平らになったスイッチ(シートスイッチ)を視覚障害者でも識別できる方法を検討する班、 モノだけでなくコト(サービス)や空間(スペース)に対して考えていくスペース・サービス班、高齢者のことを考えるエイジフリー班、 当時全盛だったテレホンカードを含む各種プリペイドカードの種類と挿入する方向を触って識別することを検討するカード班などである。  各班は、対象のモノやコトを利用する視覚に障害のある人、企画・設計・デザインする人、その分野を研究している人、障害のない立場で意見やアイディアを出す人などで構成された。  各班とも議論と共にサンプルを作成し、そのサンプルを評価し、修正点があれば修正し、不便を便利に変える作業を繰り返し行った。  カード班を例にとると、不便さ調査であがった「カード種類の区別、表裏(挿入方法)が分からない」を、テレホンカード、交通カード、買い物カード、その他のカードに分け、 それぞれのカードの左手前に、触って識別できる異なる形の切り欠きをつけることをゴールに掲げた。  既に半円の切り欠きが付いていたテレホンカードはそのままにし、交通カードは三角、買い物系のカードは四角、その他のカードに関しては切り欠きをつけないことを、何度もモニターを行い導きだした。 これは良い!とプロジェクトの中では合意となったが、どうやって関係する多くの企業、業界に伝え、賛同してもらうかが次の大きな課題となった。  その時、メンバーの後藤芳一さんが、「日本工業規格、JISにしてはどうか?」とアドバイスをくれたのである。 途方にくれていたプロジェクトのメンバーが、現場からステップを踏めばJISを作ることを提案できると知った瞬間だった。 あれから30年、共用品関連のJISは48種類制定されるに至っている。そして、その中の多くは日本提案で国際規格にもなっている。 共用品通信 【イベント(ハイブリッド)】 本の街で心の目線を合わせる発達障害と生きづらさ(3月14日) 本の街で心の目線を合わせるUD落語の世界(4月25日) 【会議】 第32回通常理事会(書面審議)(3月29日) オンライン意見交換会(理事、監事、評議員)(3月29日) 網膜色素変性症協会 代表者会議(3月2日) 網膜色素変性症協会 共用品WG R5年度 第12回(3月7日) 網膜色素変性症協会 共用品WG R6年度 第1回(4月4日) 網膜色素変性症協会 共用品WG R6年度 第2回(5月9日) 網膜色素変性症協会 理事会(5月6日) 【委員会】 ISO/TC 173/SC 7総会(4月23日、金丸) ISO/TC 173総会(4月25日、金丸) 【講義・講演】 JRPS 代表者会議 講演(3月2日、星川) 朝陽科学大学(東京)(3月15日、星川・田窪) 経済法令研究会(4月10日、星川) 通用設計(共用品)標章検討講座(台北)(4月16日、星川) 朝陽科学大学(台中)(4月19日、星川) 東京池袋豊島東ロータリークラブ(5月9日、星川) 国際医療福祉大学(5月9日、星川) 【報道】 時事通信社 厚生福祉 4月2日 ロボットも「合理的配慮」? 日本ねじ研究協会誌 4月号 合理的配慮 トイジャーナル 4月号 文字や絵が浮き出る黒板 トイジャーナル 5月号 合理的配慮について 福祉介護テクノプラス 4月号 (公社)網膜色素変性症協会共用品WG 福祉介護テクノプラス 5月号 合理的配慮を考える 高齢者住宅新聞 3月号 便利な“タブレット”と合理的配慮 高齢者住宅新聞 4月号 当事者と施設職員が話し合う場 シルバー産業新聞 5月号 ターンテーブル SQオンライン日本規格協会ウェブサイト 3月 ISO 6273発行 アクセシブルデザインの総合情報誌 第150号 2024(令和6)年5月25日発行 "Incl." vol.25 no.150 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2024 隔月刊、奇数月25日に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:https://www.kyoyohin.org/ja/ 発行人 富山幹太郎 編集長 星川安之 事務局 森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、木原慶子、田窪友和 執筆 後藤芳一、平井純一、経済産業省国際標準課、杉並区保健福祉部障害者施策課、日本レストルーム工業会ユニバーサルデザイン委員会 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙 NozomiHoshikawa 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。