インクル155号 2025(令和7)年度3月25日号 特集:アクセシブルサービス Contents 利用者と提供者が共に考え一緒に作る「アクセシブルサービス」の普及を目指して 2~3ページ 究極の江戸市井体験~深川江戸資料館 4ページ 帝国ホテルのアクセシブルサービス 5ページ 東京都中途失聴・難聴者協会主催の集いでのアクセシブルサービス 6ページ なごや福祉用具プラザのアクセシブルサービス 7ページ 新宿区立戸山図書館のアクセシブルサービス 8ページ 東京都障害者総合スポーツセンターのアクセシブルサービス 9ページ レストラン「リラッサ」のアクセシブルサービス 10ページ 「日本点字図書館のアクセシブル対応」 11ページ シアター・アクセシビリティ・ネットワークのサービス 12ページ 患者の意思決定を重視し、聞こえにくさの受容を支持する外来 13ページ キーワードで考える共用品講座 第145講「アクセシブルサービスの浸透策」 14ページ みんなの社会に向けて 合理的配慮って何だろう? 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 2~3ページ 利用者と提供者が共に考え一緒に作る「アクセシブルサービス」の普及を目指して  令和6年(2024年)3月21日に「アクセシブルサービスJIS3部作」が発効されました。 第150号(2024年5月25日号)の『インクル』では、アクセシブルサービスJIS作成の経緯と今後の取組をご紹介しました。  発効されてから、弊機構では関係の皆さんにご協力いただきながら、普及に尽力しているところですが、いくつか課題が見えてきました。 アクセシブルサービスJISの活用における課題  アクセシブルサービスJISは発効されてから1年経過した新しい規格ですので認知度は低いことは予想していましたが、アクセシブルサービスJISを説明する際に手助けになる既存のアクセシブルデザインJIS規格も一般社会において広く認知されていないということが分かりました。  アクセシブルサービスJIS作成時にも「JIS規格認知度の問題」が挙がっていたこともあり、これらの課題を明らかにするための一つの方法として、2020年度から2022年度までの3年間に開催されたアクセシブルサービスJIS規格作成に関する委員会及び分科会の議事録からコメントを抽出し内容分析を行いました。  そこで明らかとなった主な課題は次の通りです。 (課題1)日本産業規格(JIS)の認知度が低く活用されていない。専門用語が多く難しいイメージがある。 (課題2)障害のある人の社会参加の場を提供する企業や教育機関等で積極的に活用されていない。 (課題3)サービス利用者とサービス提供者のコミュニケーションの場であまり活用されていない。 解決策の例  課題を解決するための方法については複数ありますが、ここでは二つご紹介します。 (解決策1)関連JIS規格を親しみやすく分かりやすい言葉を用いて、パンフレットやウェブサイトなどで紹介すること (解決策2)サービス利用者とサービス提供者の円滑なコミュニケーションが図れるような研修プログラムの作成、検証、運用、再構築等を行うこと  いずれも調査などを行わなくても当たり前のことだと思われますが、内容分析を行って得た結果と合致したことにより、普及における喫緊の課題ということが明確になりました。  特に(解決策2)についてはアクセシブルサービス普及においての解決策を示していますが、(解決策1)はすべての関連JIS普及の要件といえるかもしれません。 パンフレット作成、研修プログラム案の作成  (解決策1)として、令和6年度はアクセシブルサービスJISをより身近に感じていただくために「みんなのモール」と題してパンフレットを作成しました。  アクセシブルサービスJISは配慮する場面(タイミング)を大きく以下の四つ、①目的の場所又は会場に到着する前(事前)、②入場又は入場する時(前)、③来場中又は来館中(中)、④退出する時(後)に分け、それぞれ行う配慮要素を記載しています。  今回作成した外三つ折り(Z折り)パンフレットは、表紙を①(事前)、パンフレットを右側に広げると、②(前)から③(中)、そして裏返しにすると③(中)が続き、④(後)に進みます。  退出する時や退出した後も、「また来たい」という気持ちが続けば、何度でも訪れたくなる場所(お気に入りの場所)になります。  みんなのモールは実際の施設だけはなく、オンライン上の店舗などにも応用可能です。まず情報を収集し、利用し、決済を済ませ、後日商品を受け取るまでの流れが円滑だと、またそのショップを訪ねようと考えます。 トラブルが起こっても、サービス提供者が解決するための配慮要素を理解していれば、サービス利用者のニーズに速やかに答えることができます。 すべての事柄を解決することは難しいかもしれませんが、基本的な配慮事項を身につけるだけで、円滑なコミュニケーションが図れるようになります。  次年度以降、共用品推進機構では(解決策2)を実践するために、サービス利用者とサービス提供者の円滑なコミュニケーションが図れるような研修を実施することを計画しています。是非、ご参加いただけますと幸いです。  「みんなのモール」はウェブサイトでも公開中です。音声版、デイジー版は順次公開します。 森川美和(もりかわみわ) 図1:アクセシブルサービス循環図 図2:「みんなのモール」パンフレット イメージ QRコードURL:https://www.kyoyohin.org/ja/research/accessibleservice.php 【引用・参考文献】 ・「アクセシブルサービスに関するJIS開発成果報告書」  (経済産業省委託 令和2年度から4年度までの産業標準化推進事業委託費(戦略的国際標準化加速事業:産業基盤分野に係る国際標準開発活動による)) ・「障害者の社会参加を促進する日本産業規格(JIS)の活用における課題─アクセシブルサービスJIS規格を中心に」(森川・芳賀),日本発達心理学会第36回大会発表論文集,2025.3.p267. 4ページ 究極の江戸市井体験~深川江戸資料館 共用品推進機構個人賛助会員 芳賀優子(はがゆうこ)  私が深川江戸資料館を訪れるようになったのは、盲学校の先輩からの衝撃的な話がきっかけでした。 江戸の深川佐賀町という街並みそのものが再現されて、それが博物館の展示だというのです。  「街並みが入るようなサイズのガラスケースなんてあるんですか?」  「そんなの、あるわけないでしょ!長屋とか、商家に上がって、中のものにも触れる、そういう博物館だよ。とにかく、行ってみな」  当時はまだ、清澄白河駅がない時代でしたが、半信半疑で数名の友人と出かけてみました。 まず私を驚かせたのは、博物館には必ずあるロープも、「立入禁止」「展示物に触れないでください」の立て看板も、展示品が陳列されているガラスケースもないこと。 チケットは買ったものの、勝手に進んでしまってよいものかどうか迷いながら、展示室におそるおそる向かいました。  「へい、いらっしゃい!!船は無理だけど、どこの建物にも上がってみられるからね。 中のものも、広小路の屋台のお寿司も天ぷらも触っていいよ。ちなみに俺は八百屋だけどさ、ここも見ていきな」  スタッフも心地よい江戸ことばで、ちゃきちゃきと教えてくれます。音と光の加減で、深川の街の一日が再現されています。 朝は鶏としじみ売りの声で始まり、夜は火の用心の見回りの声で終わります。もう、落語の世界そのものに入ったようなものです。  想像したよりもすべてのサイズが小さいことも、体で感じることができます。天水桶の陰にしゃがんでみたのですが、私の体格ではどこか一部が見えてしまいます。 これでは、天水桶の陰に隠れて待ち伏せなんて、洒落たことはできません。  一方、大店の主人の座布団に腰かけたときは、机や鉄瓶が重厚なので、思わず背筋がシャキッと伸びました。  当時の風習や深川のことについて説明をしてくださるボランティアの方も、何名か常駐しています。 わからないことや迷ったときには、気兼ねなく質問することができるのも、とても安心して楽しめる仕組みです。 こちらも、皆さん江戸ことばで情緒たっぷりに説明してくださいますから、臨場感満点です。 また、私が視覚障害だとわかると、さりげなくいろいろなものをどんどん手に触れさせてくださるのも、嬉しいお心遣いです。  また、この博物館には、レクリレーションホールや小劇場もあり、いろいろな催しが行われています。 小劇場で定期的に行われる落語会は、私にはとても魅力的です。常設展示をしっかり見学した後で聞く落語は、まさに等身大で体感することができる至福の時間です。  これまで私が訪れた「建物そのものを体感して、触れて楽しめる展示」は、深川江戸資料館と兵庫県出石にある永楽館という芝居小屋の2軒だけです。 それは、「障害者への特別な配慮」でも「合理的配慮」でもありません。この博物館のコンセプトそのものが、「誰もが体感して、触れて楽しめる」なのです。 完全に私の既存イメージを覆した、アクセシブルな博物館です。  忙しく靴を脱いだりはいたり、長屋に寝転んで、部屋の広さを自分の体を使ってに測ったりしていたら、 ここが博物館であることも自分がロービジョンであることもすっかり忘れて、あっという間に時が過ぎました。 深川江戸資料館 https://www.kcf.or.jp/fukagawa/ 写真:常設展示の長屋(提供:江東区深川江戸資料館) 5ページ 帝国ホテルのアクセシブルサービス 帝国ホテル 東京 総支配人室 広報課  1890年開業の帝国ホテルは、2025年11月3日に開業135周年を迎える。135周年のスローガン「美しい驚きを創る。」には、伝統に縛られず大胆に、 けれど、帝国ホテルらしく美しく。未来へ向け、これからもお客様へ新しい価値を創造したい想いが込められている。  そんな世界各国のお客様をお迎えする帝国ホテルは「誰ひとり取り残さない」共生社会の実現に向け、 障がいの有無に関わりなく、年配の方、乳幼児連れの方、外国人など、全てのお客様が心地よく過ごせる空間づくりを目指している。 それを達成するために「心のバリアフリー」実践のための3つのステップに取り組んでいる。 心のバリアフリー ①障がいの社会モデルの視点でバリアを理解する ②お客様とコミュニケーションをとる ③適切な配慮を行う  この3つの視点を理解するため、毎年開催している「介助サポート力向上セミナー」を2007年より東京・大阪の事業所で開催し、累計800名の従業員が受講している。 セミナーでは、車いす体験、実際にアイマスクを着用し白杖を使用した視覚障がい体験、手話などのコミュニケーションを学ぶ聴覚障がい体験、加齢体験を行っている。 実際に受講した宿泊部の従業員の声を聞いてみた。  帝国ホテルでは車いすや白杖を使用した方などさまざまなお客様の利用があるが、セミナーの受講前はそのお客様に合ったサポートしか認識していなかった。 ただこのセミナーで自分が実際に体験することで一般知識に加え、お客様の気持ちやどのように介助を行えば良いかを学べたという。 例えば、街中でよく見かけるスロープは勾配が緩いように見えるかもしれない。ただ実際に車いすで通るとかなり登りきるまでにきつく、実際体験した時、転びそうになったという。  ほかにも丁寧なサービスに見えて、実際は過剰なサービスと感じる障がい者も多い。その声を聞いて客室への案内方法を改めた。 丁寧ではあるが障がいのない人と同様に日常会話をすることを意識した。  一方でどこに気を配るべきかも知ったという。白杖を使用する方と歩く時は自分が思っている以上にゆっくり歩くべきだと認識した。 どんなに忙しい時間でも対応中のお客様に集中し、お客様から歩く速度について要望があるまでスピードは変えないということだ。  今回話を聞いた従業員は宿泊部のベルデスクに配属された男性と女性。力仕事が多いこの部署は2019年まで男性従業員しかいなかった。 しかし2020年以降女性従業員も配属されるようになった。女性従業員は仕事の中で重い荷物を運ぶ時や介助をする時もあまり苦労しないという。 それは館内に段差がないためである。ロビーから客室、客室からレストランと様々な通路があるが、エレベーターもあるため館内はバリアフリー対応であり、さまざまなお客様が利用しやすい環境と話す。 写真:帝国ホテル 東京 本館1階ロビー 写真:セミナーの様子 6ページ 東京都中途失聴・難聴者協会主催の集いでのアクセシブルサービス きこえない、きこえづらい人の集い  2月8日(土)東京の大田区産業プラザPiOで、東京都中途失聴・難聴者協会主催で、「第36回 東京都中途失聴・難聴者の集い」が開催されました。 構成は、式典、17社が参加する聴覚障害の人たちのための機器展示、NHKのアナウンサーを40年以上務めている後藤繁榮(ごとうしげよし)さんの講演、そして落語家桂蝶の治(かつらちょうのじ)さんの字幕付き落語(演目は動物園)と、多岐にわたり、実に見ごたえ、聴きごたえのある五時間半でした。  冒頭の記念式典では、実行委員長の小川光彦(おがわみつひこ)さんから、今回のテーマ「コミュニケーションで紡ぐ多様性」には、当事者交流・学びの場と共に、聞こえの問題を社会に向け発信するという強い思いが込められていることを、250名を超える参加者に語りかけました。 情報保障  式典、講演、落語が行われたメイン会場には、四つの情報保障が常時行われました。 一つ目は要約筆記、講演者の両脇に設置された大きなスクリーンに、話す人の言葉が表示されました。 大きな文字で、しかも間髪いれずに話者の言葉が表示されるため、聞こえない人、聞こえづらい人、聞こえる人が同時に笑ったり、うなずいたり、講演者からの質問に挙手で答えることができていました。  二つ目の情報保障は、手話通訳です。手話通訳者は、どの位置からも見やすいように舞台の両端に配置され、2名が10.15分ごとに交代で通訳を行いました。  三つ目は、ヒヤリングループです。今回はメイン会場の椅子席全てに、誘導磁界を発生させるためにループを床に設置し、補聴器、人工内耳のモードを切り換えると、難聴の人たちは、話し手がマイクに向かって話す言葉が直接、補聴器、人工内耳に届くようになっていました。  そして四つ目は、「要約筆記」、「手話通訳」という表示を付けたフロアにおけるコミュニケーションサポートのための通訳の方々です。 17の企業ブース  メイン会場及びロビーホールに、聴覚障害のある人の情報保障になるモノやコトが17の企業や団体ブースで紹介されました。 複数の企業から透明画面に、話す言葉が文字で表示される機器が出展されました。 画面が大きい、感情(美味しい、楽しい等)の言葉が雰囲気にあったフォントや色で表示される、複数の言語に対応しているなど、当事者ニーズを把握しながら開発されていることが伝わってきました。  時計を中心に扱っているアデッソ株式会社では、振動による目覚まし時計に加え、セットした時間が近くなると徐々にランプの灯りが強くなっていく時計も紹介されました。 シアター・アクセシビリティ・ネットワークのブースでは、演劇での手話通訳、要約筆記を情報保障として付ける取り組みが紹介されました。 日本聴導犬協会のブースでは、聴導犬の育成の仕組みや、利用する聴覚障害者とのマッチングから認定試験までの流れの詳細を聞くことができました。 これらの展示に関して、実行委員会の機器展示担当の小谷野依久(こやのいく)さんと廻り、各企業の担当者を紹介してもらうと同時に、聴覚に障害のある彼女がどのようにその製品を利用しているかの奥行ある説明を聞くことができました。  そして、各ブースに聴覚障害者が立ち寄ると、「手話通訳」「要約筆記」の腕章をしたスタッフの人たちが、すぐに近づき、出展者の人が話す言葉を通訳している光景は、まさにアクセシブルサービスの神髄をみることができた心地よい集いでした。 星川安之(ほしかわやすゆき) 写真:ボードを掲げる通訳の方 7ページ なごや福祉用具プラザのアクセシブルサービス 社会福祉法人名古屋市総合リハビリテーション事業団 なごや福祉用具プラザ 濱中広江(はまなかひろえ) 地域の相談機関の役割  「一人ひとりの生活スタイルに合った安心・安全なくらしを応援します」というコンセプトのもと、福祉用具や住環境整備の実例を展示しています。 障害者、高齢者、家族、支援事業所の職員など、さまざまな立場の方からの相談を受け付けています。また、福祉用具を活用する研修や市民向け教室も開催しています。 名古屋市から事業委託を受け、社会福祉法人名古屋市総合リハビリテーション事業団が運営しています。 アクセシブルな設備  館内には次のような設備があります。 ●福祉用具展示場…移動、排泄、コミュニケーション等暮らしの場面ごとに使用をイメージできる。職員作成の展示カードにより、メーカーや定価、使用方法がひと目でわかる。 ●工房…自助具について市販品では合わないときに改造や製作を依頼できる。製作・改造にボランティアとして携わることも可能。 ●研修室…デジタルワイヤレス補聴援助システム設置により補聴器や人工内耳使用者が音声を聞き取りやすい。 ●バリアフリートイレ…移乗用手すり、簡易ベッド、オストメイト用シンクがある。  他にも館内には住環境整備例としてモデル住宅があり、段差解消機やいす式昇降リフトの展示設備を使用して誰でも中に入って見学できるようになっています。 「やりたいこと」を実現するためのサポート  福祉用具の相談で大切なのは、当事者が「どのような生活を送りたいのか」を明確にすることです。 さらに身体状態や住環境、支援する人の体制によって使用できる用具がその人ごとに異なります。 もし福祉用具だけでは希望する生活を実現できない場合、他の支援機関との連携を通じて、実現したい暮らしへのアドバイスや調整を行います。 相談は自分のペースで  相談は、来所、電話、FAX、メール、オンライン、訪問(市内)など、さまざまな方法で受け付けています。 対応する職員は、リハビリ、看護、介護、建築、福祉制度等の知識や支援経験を持つ職員が福祉用具を実際に試す場面に付き添います。 排泄に関する相談など、プライバシーに配慮した空間での対応も行います。  いかがでしょうか。望む生活をもっと快適に、福祉用具で安心を叶えてみませんか。皆様のご利用をお待ちしております。 写真1:入口の点字ブロック 写真2:相談カウンターの様子 8ページ 新宿区立戸山図書館のアクセシブルサービス  図書館に係る総合的な仕事を生業とする図書館流通センター(TRC)は、周囲に障害者関連の施設が多い新宿区立戸山図書館の指定管理を周りの機関と連携し14年間続けている。 国立国際医療研究センター病院の医師たちもこの図書館を訪れるうちに、図書館利用者に向けた医療講座を開くようになった。「家族が癌になったら」、「救急車の乗り方」など、興味深いテーマばかりである。 イベントの開催  イベントは、現図書館長の矢部剛(やべたけし)さんによってさらに進化している。専門団体と連携したイベントは、多くの視覚障害者が参加をしている。 元木章博(もときあきひろ)教授協力の元、鶴見大学と連携した「さわって楽しむ東京名所めぐり」は、3Dプリンターで作ったスカイツリーや東京タワーなどに触れ、興味津々の時間となった。 日本野鳥の会とは「耳で楽しむバードウオッチング」を実施した。室内で大きさや色など野鳥の特徴と鳴き声を学び、クライマックスは、図書館近くの公園で、耳を澄まして野鳥の声を探すことだった。 矢部さんは、クライマックスが成功することを願い、事前に野鳥の存在を確認したが、視察初日、二日目はカラスだけ、三日目は、カラスさえ姿が見えず、ヒヤヒヤどこではなかったと話している。 しかし、当日は奇跡がおき、数種の野鳥が現れた。その話を矢部館長から伺い、「他人を楽しませるとは」を改めて学ばせてもらった。 14年前のこと  TRCが初めて指定管理に着いたのは14年前。館長に就任した大城澄子(おおしろすみこ)さんは、障害者サービスを行った経験のある川口泰輝(かわぐちやすてる)さんと共に、 それまでにこの図書館を利用したことのある視覚障害者にどんな本を音声図書にすることを希望されているかを確認した。 音声化の希望が多かったのは、墨字(※)本しかない針灸マッサージ(三療)を行うのに必要な医学書。 次に行ったのは、それまでに作られてきた音声図書も整理して、これまで利用していない視覚障害者にもその情報を届けることだった。  しかし、個人情報保護の壁があり公的機関から連絡先を聞くことはできない。そのため、 大城さんたちは障害のない図書館利用者に、音声図書の情報を機関誌等で伝えた。 それは大きな功を奏し、視覚障害のある利用者が増えていった。音声(録音)図書を個々に作ってくれていた人たちとは「声の図書館研究会」を発足し、会長が誕生、ベテラン勢は新たな朗読希望者への指導役にもなってくれた。  技術の進歩により、デジタルで記録した本を音声で聞くことのできる媒体が普及しているがそれには機器の操作が必要である。間髪入れずに取り組んだのが機器操作の講習会、技術の進歩を共有することができた。  戸山図書館は、建物としては最新ではなく、不便なところもある。入口から中全体を見渡せないこともその一つ。しかしその不便があるゆえに、初めて利用する人は受付で「聞く」ことをされる。 その時のコミュニケーションで、どんな支援が必要かどんな支援を提供してもらえるかをさりげなく、お互いが確認できるのである。 メッセージ  児童室に入ってすぐの一番目立つコーナーには、「知りたい障害のこと」のパネルと共に、300冊以上の関連本が置かれ、しかも常設となっている。 このコーナーを常設にしている戸山図書館のメッセージは、必ず全国に広がっていくと思った次第である。 星川安之 写真1:「知りたい障害のこと」コーナー ※墨字:点字に対して平面に印刷・手書きの文字 9ページ 東京都障害者総合スポーツセンターのアクセシブルサービス  JR十条駅南口から点字ブロックに沿って行くと約10分でセンターに辿り着く。 日曜の昼過ぎ、障害のある人たちが、談笑し受付に向かう。利用者は受付で、その日行うスポーツ施設名が書かれた利用証を受け取り、その場所に向かう。 トレーニングの希望者はトレーニング室へ、バドミントン、バスケットボール等は体育館へ、ゴールボール、ボッチャ等は多目的室など。プールのプールサイドは車椅子使用者も容易に入水できる高さになっている。 各施設にはスタッフがいて利用の目的や障害に応じて一緒にプレーなどを行う。見学時、運動場ではスタッフを含めた3名がグランドゴルフに一喜一憂、笑い声が響いていた。  トレーニングルームの各器具には、スタッフが利用者と一緒に考え手作りした補助具が器具の一部となり、多様な人が使えるように生まれ変わっている。  左麻痺用には右側に、右麻痺用には左側に手すりが付いている多機能トイレを両方兼ね備えている。壁に表示されたポスター類に画鋲は使われていない。 画鋲が取れ床に落ち、車椅子のタイヤに穴をあけないためと教わった。サービス推進課の金丸恭子(かなまるきょうこ)係長は「ハード面の工夫とソフト面のサービスは、このセンターでは車の両輪のように補いあっている」と話してくれた。 はじめてでも、一人でも  障害者が利用する場合、事前予約が条件の施設が多い中、同センターは、「予約なしでも」、「はじめてでも」、「一人でも」の「でも」をすべて受け入れている。 「ここに来たいと思ったその時が大切。予約となるとその間に熱が冷めてしまう可能性がある」と副所長の増田徹(ますだとおる)さんがその理由を教えてくれた。 マニュアル  同施設を運営する東京都障害者スポーツ協会と東京都生活文化スポーツ局が作成した「障害者のスポーツ施設利用促進マニュアル」には、 障害別の配慮のポイント、ホームページ、受付、各施設、ICTの活用などと共に、「初回利用」について示されている。 「個人利用申込書」に、障害の程度、利用目的の他に病気、怪我、薬などの状況を聞き、場合によっては看護士と話し、やりたいこと、やれることを、スタッフは利用者と共に見つけていくことが重要とある。  同センターは都内の複数の区と共に「地域交流教室」を実施、「みんなで交流卓球・バドミントン」などを同センターの経験と知見を活かし協力、継続して実施している。 いつでも どこでも いつまでも  同センターの利用者層は幅が広い。パラスポーツ競技への出場を目指す障害当事者、健康増進、余暇、人との交わりなどの目的で利用される障害当事者に加えて、 それらの目的をかなえるために同行する家族や介助者等、様々な方のニーズにこたえる場となっている。所長の早崎道晴(はやざきみちはる)さんは、この場が、どんな障害者にとっても「ほっとする場であり続けたい」と、笑顔で話してくれた。  日本産業規格(JIS)では、アクセシブルサービスの定義を「サービス提供者が,障害のある人々,高齢者などのサービス利用者と共に考え,協力して作る利用しやすいサービス」とある。 日々「共に考え」を実施されている「東京都障害者総合スポーツセンター」には、多くの人・機関がめざしている「共生社会」の大切な要素が、ハード・ソフトのいたるところに盛り込まれている。 星川安之 写真1:名前はひらがな表示 写真2:だれもが使える器具への補助具 10ページ レストラン「リラッサ」のアクセシブルサービス  東京ドームホテル三階にある、スーパーダイニング「リラッサ」は、洋・中・和の料理・スイーツがブッフェスタイルで提供されるレストラン。水道橋駅からも近く、コミュニティバスもあり平日・休日共に賑わっている。  リラックスを意味する「リラッサ」は、広々としており、東京ドーム側の席からは、東京ドームと遊園地が臨め、開放感あふれる空間である。赤ちゃん連れも多く、幅広い年齢層と多様な国籍の人々が楽しそうに過ごしている。  受付で、杖ホルダーが提供されている様子が目に留まった。さりげなく、必要な支援を把握するスタッフは、ユニバーサルマナー講習を受けており、杖ホルダーの必要性の有無も、ちょっとしたコミュニケーションを通して判断しているとのことだ。  レストラン統括支配人兼リラッサ支配人の伊東芳則(いとうよしのり)さんに話を伺った。 伊東さんは、現在三人の未就学児の父親、親子五人で外食をする時の大変さが身に染みている。ブッフェスタイルのレストランでは、乳児を抱きながら、片手に皿を持って料理をとることは難しい。 一方、大人と同じように、自分で好きな料理を選んで皿にとりたい子もいる。そうかと思えば、眠くなってぐずりだす子もいる。 親子連れで「ゆっくり楽しむ」のは困難であることを実感し、その経験をもとに、「子ども連れにとって便利なモノ」をリラッサで導入したと話してくれた。 その第一号がブッフェカートの導入である。乳児を抱きながらカートを移動させることができ、片手で、料理を皿にとることができる。 伊東さんは、スタッフ全員に、カート導入提案の背景とその思いを丁寧に話した。同じ経験をしたスタッフも多く、共感、賛同を得て、まずは五台が導入された。  五台のブッフェカートは、意図した乳幼児連れの方々にも好評だったが、杖を使用している高齢者、片手が不自由な人たち等にとっても、便利を通り越し、必須のモノとなった。 伊東さんの提案は、乳幼児連れ親子から、障害のある人たちへのニーズへと広がり、導入して二年経ち、現在は二十台のカートが毎日稼働している。  続いて、車椅子専用のトレイアジャスターも導入された。これは、ひざの上では不安定なトレイが固定できるもので、便利さを確認しながらのさらなる展開を計画されている。 もう一つの課題、「乳児の寝る場所がない」は、普段家の中で使う簡易のベッドの役目をするバウンサーで解決した。バウンサーは、椅子と違い角度を変えられ、揺らして寝かしつけることができる。 同ホテルの他のレストランにも導入され、需要は広がっている。  ブッフェで提供される料理は、宗教的に食べられない食材がある方、アレルギーのある方、嚥下食の必要な方など、予約時にリクエストを受け、対応されている。 より多くの方に安心して食事を楽しんでほしい、そのための工夫が次々と展開される「リラッサ」には、年齢の高低、障害の有無、家族構成の違い、宗教の違い等に関わらず、様々な人々の姿があり、温かな空気が流れている。 事務局 写真1:ブッフェカート 写真2:ベビーバウンサー 11ページ 「日本点字図書館のアクセシブル対応」 日本点字図書館 渡辺明(わたなべあきら)  今年で創立85年を迎える日本点字図書館はメインの事業である点字図書、録音図書の製作・貸出のほか、視覚障害者の生活を便利にする品々を扱う販売部門「わくわく用具ショップ」 そして白杖やパソコン、スマホの使い方などを指導する訓練部門。また別棟では「ふれる博物館」といった多岐にわたる事業を行っています。 販売部門は取扱商品そのものがアクセシブルと思われますが、今回は図書館部門のトピック2点を紹介します。 カードの切り欠き  点字図書館から図書を借りる方法は、図書館へ来館するよりも読みたい図書を電話等で図書館に伝え、郵送で読者宅へ届ける方法が昔からのスタイルです。(送料は郵便法の規定で無料です。)  返却も郵送で行われますが、郵送の際に使われるのが住所カードです。カードの両面に宛名が書かれ、角が1か所斜めに切れています。切り欠きが右上にくれば読者の住所、左上にくれば図書館の住所がおもて面になります。 カードの切り欠きの位置を指で確認すれば裏表がわかり、図書を返却することができます。  この切り欠きの方式は点字のみでの裏表の識別に変わって1982年4月から始まりました。そして同じ年の12月にはカード式公衆電話とテレホンカードが登場します。 当初テレホンカードに切れ込みはありませんでしたが、視覚障害者が公衆電話を使用する際、カードを差し込む向きがさわってわかるようにして欲しいと当時の職員らが電電公社に陳情しNTTに変わった1985年5月からカードに凹みがつくようになりました。 テレホンカードの凹みは住所カードからのアイデアだったと職員OBは述懐しています。 ダウンロードサービス  郵送での貸出方法は現在も続いていますが、時代の変化と共に(法改正も行われ)インターネットを利用した図書の貸出方法が加わりました。 サピエ図書館と呼ばれるもので、国の補助を受けて2010年に稼働しました。サピエ図書館には全国の点字図書館の図書データが集約されているほか、開館時間、郵送時間、貸出の順番に左右されずに読みたい図書を読むことができます。 読書用のアプリケーションソフトを入れたパソコンやスマホ、あるいは専用端末をインターネットに接続して利用しますが、機器の取り扱いが不得手な方もいらっしゃいます。 そのような方にも読書を楽しんでいただくために、サピエ図書館が始まった翌年から「ダウンロードサービス」という読書の方法が始まりました。 これは読者所有のメモリーカード等に図書館スタッフがダウンロードを代行する(1回10冊分まで)もので、メモリーカード等に図書データを入れたあと読者宅へ郵送します。 読者は普段使っている録音図書再生機や点字を表示する携帯端末にメモリーカード等を差し込んで、サピエ図書館の図書を読むことができますので、機器操作のハードルが低くなりました。  以上のように日本点字図書館では最先端のデジタル技術を取り入れつつ、アナログ的な方法も使って見えない、見えづらい方が読書をするお手伝いをしています。 写真:郵送ケースに載せた住所カード 12ページ シアター・アクセシビリティ・ネットワークのサービス NPO法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク 廣川麻子(ひろかわあさこ)  ろう者・難聴者が聴者と「一緒に」楽しむことが難しい場所はどこでしょう?その一つが、舞台芸術シーンだと思っています。 今でこそ、テレビは日本語字幕がほぼ付くようになりました。CMでも昨年からようやく字幕がつくようになり、ろう者・難聴者にとって初めて「商品のセールスポイント」がわかるようになっています。 そんな状況ですから、文化芸術が如何に、ろう者・難聴者にとってハードルが高いかがお分かりいただけると思います。 英国で受けた衝撃から  でも廣川が留学した英国では2009年の時点で、多くの、舞台公演に字幕や手話がついていました。滞在1年の間に50本ほどの作品を楽しむことができたのです。 これらは大手劇場、有名ミュージカルでの話です。ロングラン公演では定期的に字幕や手話がつく回を提供していました。当時、台本貸し出しすら苦労していた日本の現状から見ると雲泥の差でした。 そこで帰国後に団体を立ち上げ観劇サポート環境の向上を目指してきました。 アクセシビリティ公演情報サイトを運営  私たちは字幕や手話を直接担当するというよりも啓発を主眼に活動しています。その一つが、「アクセシビリティ講演情報サイト」の運営です。 英国ロンドンの劇場組合が運営している公式の公演情報サイトの中に、アクセシビリティに特化したページがあります。これを参考にして日本版を作成しました。  2014年当時の日本では英国のように手話や字幕などほとんどないに等しかったため、「すぐできる小さなこと」から取り組めるよう、サポートを細かく分けました。 例えば「受付で筆談対応」「メールで問い合わせ対応」など。当初は私たちが公演情報を探しては掲載して良いか営業メール(?!)をしていました。 10年経過した今、おかげさまで1780件に達しました。ここ数年はサイトの知名度が上がり、団体から積極的に掲載依頼いただけるようになっています。 もちろん、掲載は無料ですし、新着情報を中心にしたメールマガジンも無料で発行。メールアドレスだけで気軽に登録できるようにした結果、740名以上の方に登録していただけています。  サイトにはデータベースとしての機能があり、例えば昨年1年間、東京で字幕つき公演が何件あったか、ということも瞬時に把握できます。 件数はここ数年、間違いなく増加しており、障害者差別解消法改正などの法的な追い風が「一緒に」を実現していると言えます。 写真1:アクセシビリティ公演情報サイト 写真2:データベースとしても活用 13ページ 患者の意思決定を重視し、聞こえにくさの受容を支持する外来 東京みみ・はな・のどサージクリニック 市村恵一(いちむらけいいち)、市村順子(いちむらじゅんこ)  当施設は耳鼻咽喉科領域における短期滞在手術を行う診療所で、2019年11月に開院しました。手術の他に一般外来、さらに高齢難聴者を主対象の「補聴外来」を設けています。  補聴外来の構成は、医師1名、言語聴覚士(ST)1名、認定補聴器技能者(技能者)2名(異なる補聴器販売店から派遣)で、常に4名で患者さんに対応します【図1】。  医師は患者さんの診察と純音聴力検査の結果から、病態と難聴の程度や問題点、それへの対応等を概説し、補聴が必要と思われる場合は、STによる患者さんの聞こえにくさや補聴器の詳細な説明を受けることを勧めます。 受けるか否かは患者さんが決定し、希望者には追加検査して予約を取ります。  STは医師の作成した診療情報提供書を参考に、患者さんが記載した質問紙の内容と訴える悩み・不安・疑問から問題点を整理して回答します。 そして、各種聴力検査結果、難聴の状態や程度、予想される聞こえの支障度、補聴器の基礎知識、補聴効果(可能性と限界)、装用に対する考え方、装用訓練の概略、コミュニケーションの要領、試聴/貸出等について患者さんに情報提供します。 そして、補聴器の試聴/貸出を希望するか否かは患者さんが決定します。  試聴/貸出の希望者に、2名の技能者それぞれが、問診結果、検査結果等の情報をもとに、適切と思われる機種を選定して一回目の調整を行います。 次回からその試聴器が提供され、試聴/貸出が開始されます。  開始後、医師は診察ごとに患者さんの装用報告から問題点を整理し、STと技能者に指示を送り、STは指示内容の確認のため問診を追加し、技能者に指示します。 技能者の調整後、STは必ず装用した聞こえの状態を測定・評価し、患者さんに測定結果及び調整内容を説明し、補聴効果を高めるアドバイスをします。 また患者さんの様子や反応から補聴効果を確認し、不備や不具合を認めたら直ちに微調整します。医師はSTと技能者からの報告後に患者さんとの会話や態度を観察し、必要な場合は再調整を指示します。 このようにして、3カ月間ほど試聴/貸出を行ってきて、患者さんが装用に慣れたら最終適合検査を行い、適合判定がなされた段階で、補聴器を購入するか否かを患者さんが決定します。  患者さんの補聴効果への不満や愚痴は、自分が思い描いた聞こえ方との違いに起因する「受容」までのプロセスです。STはこれを傾聴し、問題点の整理、受け止めと寄り添い、プロセスの見守りを行い、必要に応じてアドバイスします。 これを繰り返して患者さんは補聴器を通した音になじんでいきます。  補聴にあたっては医療的(心理的を含む)部分と器械的部分の両面からのアプローチが必要で、これに応える外来でいようと頑張っております【図2】。 図1:補聴外来の構成プロセス 図2:医療的部分と機械的部分の両面からのアプローチ 14ページ キーワードで考える共用品講座 第145講「アクセシブルサービスの浸透策」 日本福祉大学 客員教授・共用品研究所 所長 後藤芳一(ごとうよしかず)  アクセシブルな環境を実現するうえで、サービスはモノとともに欠かせない。浸透させるには、サービスの特性を踏まえた策が必要だ。 1.サービスの特性  サービスの品質を考えるとき、モノと比べて5つの特性がある。 ①無形性 (形がないので、利用者が事前に内容や質を確認できない)、 ②異質性(または変動性)(提供する人によってサービスの性格や質が変わる)、 ③消滅性(「作り置き」できないため、繁閑が生じると提供する効率に影響する)、 ④同時性(生産と消費が同時、かつ、同じ場で生じるため、送り手と受け手が立ち会う必要がある)、 ⑤受け手の参加(サービスの受け手が参加することが、サービスの品質に寄与する)。 (注:一般には①~④がいわれる、⑤は筆者が注目する点である) 2.サービスの品質確保と普及策  サービスの品質を確保して普及させるには、その特性(上記1の①~⑤)を踏まえた策が必要だ。 ①サービスの品質を保証する方法が要る(無形性)。品質を測るモノサシ、品質の測定、測った品質を表示する方法が要る。 ②品質を揃える策が要る(異質性)。サービスの満足は事前期待と事後評価の差で決まる。それには、ばらつきを抑える、受け手の期待を超え続ける必要がある。ばらつきを抑えることは、アクセシブルサービスでは特に鍵になる。 ③繁閑を緩和する策が要る(消滅性)。それには提供体制を柔軟にするとともに、利用者に働きかけて利用を安定させる必要がある。 ④サービスの送り手と受け手をつなぐ方法を工夫する(同時性)。技術によって、対面、人と人という制約を取り除く例が出つつある。 ⑤サービスの受け手が適切にニーズを伝えるよう導き、送り手はそれを引き出す必要がある(受け手の参加)。 3.アクセシブルサービス(供給の側面)  供給の形態として、3つの視点をみることができる。第1は、提供者が素人であり、個人として行う場合だ。 限られた場で特定の受け手が相手だ(例:家族へのケア)。専門知識が限られる一方、受け手のニーズに個別対応できる。需給の形態として原型である。  第2は、利用が増して、効率や高度な対応が求められると、サービスが事業として専門的に提供される。業とは、反復継続して不特定多数に提供すること。それには利益を生む必要がある。 サービスの特性(上記)は、モノ(大量生産で価格を低減)とは異なる策(上記2)を要する。  第3は、技術の進歩により、相対かつ人対人という制約が克服されつつある。 各種のロボット(協働/サービス/コミュニケーションロボット、うちコミュニケーションロボットであるオリヒメは、障害者が遠隔操縦して飲食店の接客サービスを提供)が活用され、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、AIの活用が期待される。 4.アクセシブルサービス(浸透策と標準化)  普及・浸透策として力の強い方から弱い方に並べると、義務(罰則あり)(Ⅳ)>義務(罰則なし)(Ⅲ)>基準を示して誘導(Ⅱ)>自発で任意(Ⅰ)となる。 受け手の広がりは、同じ組織や近い関係者(X)>比較的社会に広がる(Y)に分けられる。  アクセシブルサービスの代表的な浸透策には、強い順に、法的規則(例:交通規則)(ⅣY)>社内や館内規則(ⅢX)/業界のガイドライン(ⅢX)/障害者差別解消法(合理的配慮)(ⅢY)>日本産業標準(ⅡY)/ユニバーサルマナー検定(ⅡY)がある。慣習やマナー(ⅢY~ⅣY)もある。  外的強制力が強い(例:法による規則)ほど一律の浸透に効果的な反面、規定を満たした先へ深まらない、現場の気づきが反映されないという限界もある。 一方、緩やかな方法(例:産業標準)は、自発的な取組みを促すという点で持続的な進歩が期待されるものの、認知度の向上や動機づけに工夫を要する。 事業で行う際も、サービスの基本は相手への気遣いだ。アクセシブルサービスには、サービス全体を牽引する役割がある。 15ページ みんなの社会に向けて 合理的配慮って何だろう? 杉並区保健福祉部障害者施策課  杉並区では、合理的配慮の提供を地域に広げる取組として令和4年度から「共生社会しかけ隊」の取組を行っています。 本取組は、障害のある人が地域生活を送るうえで関わる様々な場所に出向き、その場所のスタッフ(職員)と話し合い、 施設を利用する障害当事者と施設のスタッフ(職員)それぞれが感じている困りごとや何をどうすればよいのかわからないこと(〝もやもや〟)を共に工夫して解決するというものです。 令和4年度は「スポーツ施設」、令和5年度は集会施設で催される「まつり」をテーマに取り組み、〝もやもや〟を解決するためのヒントをまとめた「解決ヒント集」をそれぞれについて作成しました。  令和6年度は、改正障害者差別解消法の施行により合理的配慮の提供が全国で義務化されました。区は、これを良い機会と捉え、合理的配慮に関するガイドブックを作成することにしました。 作成にあたっては、事業者等の合理的配慮の提供についてのハードルを少しでも低くしたい、このガイドブックを手にとっていただく方々にとって理解しやすい表現で合理的配慮を説明したい、という想いを大切にしています。 ガイドブックの特徴  本ガイドブックの特徴は、両側から読めることです。左開きで読んでいくと「合理的配慮提案サイド」の内容で障害当事者や支援者の目線になっています。 右開きで読んでいくと「合理的配慮実施サイド」の内容で事業者等の目線になっています。中間までいくと両者が出会い、対話をする場面となります。 ここでは、お互いが歩み寄り対話することの重要性、お互いが納得した実施可能な案をみつけるという合理的配慮の考え方で最も重要な建設的対話の姿勢を説明しています。 両者が出会うページは観音開きで開けるようになっており、開くと合理的配慮が広がる社会における配慮の事例を紹介しています。 また、開いた左側には誰もが使いやすいモノに興味を持ってもらえるよう「社会に広がる便利なもの」としてシャンプーとリンス等のボトルの見分け方の紹介、利き手に関係なく使えるトランプなどを紹介しています。 右側には、はじめは合理的配慮で対応していたものが、一般化し共生社会の一部となったモノの紹介をしています。エレベーターの歴史、牛乳パックの切欠きの意味など「そうなんだ!」と思える豆知識を掲載しています。 ガイドブックへの期待  ガイドブックは障害の有無に関わらず多くの方に読んでいただきたいです。 お互い話し合い物事を決める、困ったときは一緒に話し合い解決策をみつけていく。 このような場面が地域で増えていくことで、さらに暮らしやすい杉並になることを期待しますし、そのために区も力を入れて普及啓発に取り組んでいきます。 最後に、本ガイドブックの監修に携わっていただいたNPO法人日本障害者協議会代表の藤井克徳(ふじいかつのり)さんに心より感謝申しあげます。 写真1:お互いが歩み寄り「対話」をする場面 写真2:社会に広がる便利なもの 16ページ アクセシブルサービスの実現は 【事務局長だより】 星川安之  2024年4月に発行された日本産業規格(JIS)「アクセシブルサービス」の定義は、 「サービス提供者が,障害のある人々,高齢者などのサービス利用者と共に考え,協力して作る利用しやすいサービス」とある。  東京の高田馬場には視覚障害関係の施設が多くあり、視覚に障害のある人を駅や街そして飲食店で見かけることも日常である。 その昔「まねぎや」という夫婦で営む小さな食堂が、高田馬場駅から日本点字図書館へつながる道の途中にあった。 夫婦はそれまでの人生で、視覚障害者と接する機会もなく、コミュニケーション方法を学んできていない。 触らぬ神に祟りなしと、店の前を行き交う視覚障害者に声をかけることはなかった。  そんなある日、常連の目の見えるお客さんが、全盲の女性を連れ立ってやってきた。 店の名物である「五目納豆」は、醤油をかけずにテーブルに置き、お客さんが自分で醤油を適量をかけ、混ぜて食べる。 しかしこの店の醤油さしは、傾けるといつまでも醤油がでるため、全盲の人が適量をかけることは困難である。 常連の目の見えるお客さんは、五目納豆に「適量」をかけ、かき回し、全盲の女性に渡すのを、店の夫婦は見ていた。 全盲の彼女は五目納豆の美味に感動し、それを店の夫婦に伝えたところから話が弾んだ。  全盲の女性はその後、別の全盲の女性と二人で訪れ名物を頼んだ。 「混ぜといたよ」の一言と共に適量の醤油で混ぜ終わった「五目納豆」が運ばれてきた。  今回、「アクセシブルサービス」に関して、イベント、飲食、スポーツ施設、図書館、宿泊施設の方々に直接、話をうかがうと、 さまざまな工夫が、それぞれの経緯をたどって実施されていた。  聴覚障害を対象とした展示会では、主催者が手話通訳と筆談を行う多数のスタッフを、会場内に配置した。 聴覚障害者が出展ブースに向かうとそれに合わせて、通訳者もそのブースに向かい、出展者とのコミュニケーションをフォローする場面が、全体に広がっていた。 スポーツ施設では、通路等の壁にチラシやポスターに貼る時に「落ちて車椅子のタイヤに穴をあけないために画鋲は使わない」と聞いた。 図書館で実施している視覚障害者へのサービスの情報を、視覚障害者に知ってもらうために、「障害のない人に伝えることからはじめた」ことは、 共生社会は、障害の有無に関わらず共に築くものとのメッセージを受け取った。 共用品通信 【イベント(対面)】 ゼロからぼら活!~一緒にさがそうあなたの一歩~(文京区)(2月16日) 日本発達心理学会ポスター発表(3月4日) 【委員会】 令和6年度第2回新たな日常生活における障害者・高齢者アクセシビリティ配慮に関する国際標準化委員会(1月23日、星川・田窪) 第2回TC159AD委員会(1月29日) 第1回AD国際標準化委員会(本員会)(2月5日、森川) 【講義・講演】 ワークショップ合理的配慮提供のポイント(杉並区)(1月28日、星川) 共生社会への山登り (筑波大学)(1月9日、星川) 共生社会への山登り (杉並区)(2月28日、星川) アクセシビリティリーダーキャンプオンライン講演(広島大学)(2月28日、森川) 共用品・共用サービス(アンデコール)(3月18日、星川) 【報道】 トイジャーナル 1月号 サイトワールドに14年ぶりの出展 トイジャーナル 2月号 インクルで振り返る機構の25周年 トイジャーナル 3月号 左利きの人も使いやすく 高齢者住宅新聞 2月号 公共トイレ 流すボタンの位置 シルバー産業新聞 3月号 フードコートの呼び出し器 アクセシブルデザインの総合情報誌 第155号 2025(令和7)年3月25日発行 "Incl." vol.26 no.155 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2025 隔月刊、奇数月25日に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:https://www.kyoyohin.org/ja/ 発行人 富山幹太郎 編集長 星川安之 事務局 森川美和、木原慶子、櫻井眞季、小林友美子、田窪友和 執筆 市村恵一、市村順子、後藤芳一、芳賀優子、濱中広江、廣川麻子、渡辺明、杉並区保健福祉部障害者施策課、帝国ホテル 東京 総支配人室 広報課 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙 NozomiHoshikawa 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。