インクル 第112号 2018(平成30)年1月25日号 1ページ 特集  私のイチ推し、共用品 Content 特集、私のイチ推し、共用品 2ページ 私の一品 3ページ 片マヒのプロが選ぶ“私のイチ推し共用品” 4ページ 「もっとコミュニケーションを楽しむ」ツール 5ページ マヨネーズかケチャップか、それが問題 6ページ 皮膚が剥がれる難病患者の生活の工夫 7ページ 当時、買わなかったテトリスで 8ページ ロービジョンでも使いやすいお役立ち品 9ページ 日々の暮らしの逸品 10ページ LEDヘッドライト・補聴器用乾燥ケース 11ページ キーワードで考える共用品講座第102講 12ページ 共用品と地域連携とのつながりを深める ふれあいフェスタ2017、文京ボランティアまつり2017出展報告 13ページ おもちゃ博物館と「ドラえもんと共用品展」 14ページ インバウンド不便さ調査 15ページ DebRA国際会議に参加して 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 写真:ケチャップの容器に隠された秘密とは?(詳しくは特集ページをご覧ください) インクル 第112号 2ページ 特集、私のイチ推し、共用品 使い手が見つける使い方 使い手のニーズにあった製品の工夫は、時に作り手の意図しないところで生まれる場合がある。 20年ほど前に主流だったカセットテープの多くは表のA面にはA、裏側のB面にはBと印刷されていた。 しかし印刷は平らな文字のため目の不自由な人たちには触って読むことが困難である。 けれども多くの人は、A面・B面を区別できていた。 それは、メーカーの違いに関わらず、A面側の4隅と下側中央、合計5つ、ネジをとめるための穴がありその凹みを触って区別できたのである。 当時、全盲の知人はそのことを、全盲仲間の口コミで知ったとのことであった。 その状況を知ったメーカーは、さらにそのテープが何分テープかが分かるように、両面の右下に△印の凸点を付けた。 二等辺三角形の頂点が、時計の3時を指していると30分テープ、6時は60分、9時は90分、12時は120分テープとしたのである。 時計の文字盤で場所を示すのも、そのメーカーは目の不自由な人の家に訪問し、お茶を出された時に、場所を伝えるやり方を質問した時に、教えてもらった方法を応用した。 3時の方向に味噌汁、6時の方向に箸、9時の方向にご飯といった伝え方である。 玩具メーカーのトミーで作っていた目の不自由な子ども達も一緒に遊べるおもちゃの声のカタログでは、その工夫がされているカセットテープが使用されていた。 Sさん夫婦の居間のTV 現在、共用品推進機構では、日常生活においてさまざまな不便さのある人に、その不便さを解決している便利な製品を容易に探せるデータベースの作成の準備を行っている。 その作業の一環で、多くの家庭訪問をさせてもらっている。 ろう者のSさん夫妻の日常会話は、手話。 機構の理事であり手話通訳士の信井洋子(のぶいようこ)さんに通訳をお願いしてのインタビューでは、家庭訪問でしか分からないことも沢山知ることができた。 居間には2台の大きな地デジのテレビが並べておいてある。 それは、お二人のテレビの趣味が違うからとのこと。 具体的には、だんなさんはプロ野球が好きで、奥さんは韓国ドラマが好きとのことで、1台だとチャンネル争いになってしまう。 その結果、2台を並べておくことにしたのである。 2台のテレビが同時に違う番組を放映していると一般的には、音がうるさくなるが、Sさん夫妻の居間の2台のテレビは、常に音が消されている代わりに、字幕がでているので、お互いを邪魔することがない。 さらに、奥さんが見るテレビには、小さな緑の丸いシールがついている。 そのマークは、奥さんが使用するテレビのリモコンにもつけてあり、間違ってだんなさんのテレビを操作してしまうことがないように自分で工夫しているのである。 実は、だんなさん、プロ野球の合間合間に、奥さんが見ている韓国ドラマをチラチラと見て、時に涙するのはだんなさんの方だと奥さんが教えてくれた。 今回の特集では、使用者側からの「共用品、この一品」を、冒頭の意図で紹介してもらっている。 いずれ、「私が選んだ共用品大賞」のように発展したらいいなと思っている。 星川安之(ほしかわやすゆき) 写真1:凸点がついた「トミーおもちゃのカタログ」テープ 写真2:居間に2台あるテレビ インクル 第112号 3ページ 私の一品 共用品ネット 太田黒弘子(おおたぐろひろこ) 私は機構の前身、E&Cの頃から、共用品や共用サービスについて仲間と学び、時に提案を行っています。 自身も筋ジストロフィーという難病を抱えていることもあり、日常から腕力が弱くても使い易いという視点で、汎用品を選ぶシーンが多くあります。 今日はそんな汎用品の中から、私が長年愛用していてかつ、共用品的な要素があると考える一品たちを紹介したいと思います。 真空断熱ケータイマグ ステンレス製の真空断熱マグは、好みの温度で飲み物を長く楽しめる便利グッズとして愛用されている方も沢山いらっしゃる品です。 私が愛用しているのはサーモス社製の250ミリリットル容量の物です。 もっと容量の大きいものもあるのですが、飲み物を入れた重さを考慮すると、私の力で楽に持ち上げられるのがこのサイズでした。 このシリーズにはワンタッチでふたの開閉が出来るタイプもあります。 ですが元々両手でないと持ちきれない私にとっては、片手で全ての操作が完了するギミックは、残念ながら無用の長物でした。 またワンタッチの物は飲み口が一か所になっているのと比べ、これは周囲どこからでも飲めるようになっています。 このため前者に比べ、飲み口に対する空気穴も大きくなるせいか、小さな傾きで少しずつ飲むのが楽に出来るように思います。 ソニッケアー電動歯ブラシ こちらも私が長年愛用している一品です。 一応、元歯科業界の者として断っておきますと、歯磨きにはほとんど力は必要ありません。 ただしブラッシングに力は不要でも、ブラシを正しい角度で持ち続けるには、上腕の保持力が必要なことに、病気になってから気付いた次第です。 電動歯ブラシは普通の歯ブラシよりも重量は重くなりますが、手磨きよりも早い時間(2分間)で、利き手側も反対側も偏りなく磨けます。 手磨きに自信のない全ての人にお薦めできる便利グッズです。 様々なメーカーから出ている電動歯ブラシの中で、私がソニッケアーを選ぶ大きな理由は、カドペーサー機能という磨き時間を30秒ごとに知らせるタイマーがあることです。 歯を上下・左右の裏表で4分割し、タイマーのお知らせで磨く部位を変えていくと、2分できちんと磨き終えられます。 またお知らせと共にブラシの振動が一瞬止まるようになっているので、聴覚でなくても振動の変化で部位を替えるタイミングが分かります。 これは大変優れていると思います。 替えブラシについても、大きさや素材で好みの物を選べるようになっています。機種によって磨きモードの選択が可能な物もあるようです。 写真1:サーモス真空断熱ケータイマグJMK251(生産終了。現行品はJNO251) 写真2:フィリップス・ソニッケアー イージークリーン インクル 第112号 4ページ 片マヒのプロが選ぶ“私のイチ推し共用品” 岡田正敏(おかだまさとし) 私は、脳出血で倒れ左手足が思うように動かない半身マヒになりました。 その生活も十年になりますので、プロと名乗れるレベルだと自負しております。 そんな半身マヒ生活プロの私がイチ推しする共用品をご紹介したいと思います。 ①持ち運べるドアホン まず最初のイチ推し商品は「ワイヤレス子機付 テレビドアホン」(パナソニック)です。 実は私、家にいる時に足の装具を脱いでのんびりくつろいでいる事が多いのですが、一人でいる時の一番の恐怖は、宅配便でした。 それは、玄関のチャイムが鳴っても直ぐに対応する事が出来ないからです。 足に装具を装着しないと、玄関にもドアホンの受信機がある所にも行けませんし、片手での装具の装着は焦れば焦るほど時間がかかってしまうのです。 やっとの事で対応しても、既に誰も居ず、不在連絡票だけが寂しく残されている状態で、何度も悔し涙を流していました。 そんな私を救ってくれたのが、このドアホンです。 子機を手元に置いてさえいれば、不意のチャイムにも宅配便の人に待ってもらうようにを伝えて、無事に宅配物を受け取る事が出来るようになったのです。 ②ゲームカードホルダ 次のイチ推し商品は、「プレイカードDXホルダ」(Piatnik)です。 遊び好きの私が片手生活になってから一番さみしくて悔しかったのは、トランプや花札等のカードゲームで皆と遊ぶ事が出来なくなった事でした。 片手でカードを持つ事は出来ても、その中から一枚を抜く事や一枚を加える事が出来ないからです。 しかしこのホルダを使えば、カードを持つ事なく相手に見えないように置いておけるので、片手で普通に遊べます。 カードホルダは他にもいろいろ発売されているのですが、私がこのホルダを押す理由は、アーチ型なのでカードをコンパクトに設置出来る事と、取っ手があるのでババ抜き等の相手に抜いてもらう場合でも、簡単に差し出す事が出来る事です。 ③ブックホルダ 最後のイチ推し商品は、「ブックスタンド」(actto)と「ブックストッパー」(トモエ)です。 本があまり好きでなかった私ですが、半身マヒになってから何故か無性に読みたくなりました。 しかし皮肉な事に片手では本を押さえる事とページをめくる事が困難で、読むのにとても苦労していました。 これもいろいろと試してみたのですが、本の厚みの微妙な変化に対応できるのは、このブックスタンドしかありませんでした。 また大きな雑誌等は、このブックストッパーで押さえながら読むのが一番楽でした。 以上、ご紹介した商品は、私のような障害者でなくてもきっと便利だと思います。是非お試しください。 写真1:ワイヤレス子機付 テレビドアホン「VL-SWD210K」(パナソニック) 写真2:「ブックストッパー」(トモエ)864円 写真3:ブックスタンド(actto) インクル 第112号 5ページ 「もっとコミュニケーションを楽しむ」ツール 聞こえる世界と聞こえない世界をつなぐユニバーサルデザインアドバイザー 松森果林(つもりかりん) 私は中途失聴者です。小学四年で右耳を失聴し、中学から高校にかけて左耳も徐々に聴力を失いました。 聴力と同時にコミュニケーションも失いましたが人とのつながりの中で筆談や手話、読話などで少しずつ取り戻していきました。 聞こえる世界から聞こえにくい世界、そして聞こえない世界。 これらを十七年間で経験したことになります。 現在はこの三つの世界を知ることを強みとして、講演、執筆、NHK「ワンポイント手話」に出演するほか、羽田空港や成田空港のユニバーサルデザインなどに関わっています。 個人事業主ですので、毎日違う場所で様々な人に会います。 委員会や会議等仕事の場面では手話通訳などを活用しますが、プライベートの場面で手話ができない人とのコミュニケーションはどうしていると思われますか。 私にとって最強のアイテムを紹介したいと思います。 音声認識アプリ「UDトーク」(Shamrock Records) 話したことがそのまま文字化される「会話の見える化」アプリです。 聞こえない私にとってはまさに夢のようなツール。 1対1の会話から多人数の会話や会議、講演会まで、無制限に活用できるのです。 常にピンマイクとガンマイクの二種類を持ち、手話ができない相手に使ってもらっています。 特に便利だと感じるのは、視覚障害の友人や、四肢障害があって筆談ができない友人と話すときです。 また多言語翻訳もできるので、電車で隣り合わせた外国人から道を尋ねられ、UDトークで会話をしたりもします。 そしてコミュニケーションをもっと面白くするためにと、話したことが大阪弁に変換される機能も搭載されました。 テレビの天気予報では『今日もよう晴れとりまっせ。次は鉄道の情報やで』と。標準語なのに。 情報の意味は変えずに受け取り方を変えるだけで、コミュニケーションに笑いが生まれ、コミュニケーションのハードルが一気に下がるのです。 聞こえない私にとってのコミュニケーション革命です。 誰でも無料でインストールできますし、法人プランもあるのでぜひ一度試してみてください。 自分の話を視覚化することによって、話し方が上達するという効果もあります。 筆談アプリ「UD手書き」(プラスヴォイス) 聞こえない私にとっては筆談も大事なコミュニケーション手段のひとつ。 筆談ボードや筆談アプリは数多く出ていますが、できるだけシンプルで簡単なものを使いたいと思います。 「UD手書き」はスマートフォンやタブレットで立ち上げて指で書くだけなので、ペンや紙を用意することなくすぐに使えるのが良いところ。 書いたものは保存でき、拡大したり縮小したり、切ったり貼ったり!画面を二分割して対面式にしたものを公共施設の案内カウンターで見ることもあります。 写真をはりつけたり、音声認識機能も追加されましたが個人的にはシンプルな筆談が一番好きな使い方です。 誰にでもムリなく容易に使える、これがポイントですね。 聴覚障害者にとってコミュニケーションのバリアをなくすだけでなく、「コミュニケーションをもっと面白くする!」そんな遊び心ってとても大切だと思うのです。 写真1:「UDトーク」画面 写真2:芳賀優子さんとUDトークで会話 写真3:UD手書きでの筆談とUDトークを交えての様子 インクル 第112号 6ページ マヨネーズかケチャップか、それが問題 筝曲家 河相富貴子(かあいふきこ) 今日は、手触りの似ているマヨネーズとケチャップ容器について書かせていただきます。 マヨネーズは、幼いころ、自宅で家族で作っていた味に近いキユーピーを使い、ケチャップは、その時々で買える物にしていました。 マヨネーズは口が太く、ケチャップは口が細いというのがそれまでの印象でした。 ある時、ミートソースを作ろうとケチャップは?と探し始めました。 手に当たったのは、口が細く、その下の容器まわりがするっとしたものではなく、縦に出っ張り・へこみのある容器でした。 これはわかりやすくて良いなあと思い、使っていました。 後で聞いたことですが、デルモンテというメーカーの物だったそうです。 そこで、他のメーカーはどうなっていたかなあという疑問がでてきて、私は、マヨネースのキユーピーと味の素、ケチャップのデルモンテ、カゴメ、ハインツを買い求めて比べてみました。 あら大変!マヨネーズもケチャップも手触りはてんでんばらばら。 見ない方が良かったかなあと思いました。 まずマヨネーズ。 キユーピーは見慣れているずどーんとした形。 味の素は、あら!口が細く、容器の下半分がカクカクしています。 マヨネーズは口が太いという比べ方ができなくなりました。 ケチャップはというと、ハインツは四角のビン型なのですぐにわかります。 デルモンテとカゴメの違いは、あくまでも手触りの違いですが、口の下の部分の容器まわりに凹凸があるかないかのように思います。 これまでなにも考えずになんとなく使っていた自分のいいかげんさを思い知りました。 しかし使い始めるとカゴメのケチャップ容器に点字でケチャップと書いてあるではありませんか。感動!でした。 こうなると私は、マヨネーズは好きな味のキユーピーを、ケチャップはデルモンテでもカゴメでも、だれの目も借りなくて良いことになります。 ハインツは他のメーカーの物よりも値段も良い代わりに濃厚で味も違うとヘルパーさんに聞きましたので、楽しみに使ってみようと考えております。 先日、ひょんなことからトマト缶をケースで買いました。 これからケチャップを使ったメニューが我が家のテーブルに載る回数が多くなるのではないでしょうか。 レパートリーが増えますね、うれしいことです。 写真1:マヨネーズとケチャップの容器 写真2:カゴメのケチャップ(左)、デルモンテのケチャップ(右) インクル 第112号 7ページ 皮膚が剥がれる難病患者の生活の工夫 NPO法人表皮水疱症友の会DebRA Japan代表理事 宮本恵子(みやもとけいこ) 表皮水疱症という現実 私は、表皮水疱症(ひょうひすいほうしょう)という、全身の皮膚が少しの刺激や摩擦で剥がれ続ける、という遺伝性の難病を持って生きています。 たとえば、寝返りをうつ、手をぐいっと引っ張られる、物や人にぶつかるなど、普通であればなんでもないような日常が、全身の皮膚にダメージを与えます。 それは、水疱(みずぶくれ)やびらん(ただれ)となって、日々痛みと闘うことを強いられるわけです。 なんで私が、なぜこんな体に、と嘆いている余裕はほとんどありません。 なぜなら、毎朝毎夕、体のどこかに水疱はないか、びらんはないかと、その処置に向き合う必要があるからです。 水疱は出来たら素早く注射針や替え刃メスで潰さなければ大きくなるばかりです。 びらんは、皮膚の真皮まで剥がれるので、傷口を洗浄し、表皮水疱症患者にもっとも適した被覆材(軟膏剤もテープも包帯も必要のない湿潤療法の医療材料)を直貼付します。 加えて、その症状は火傷のⅡ度、Ⅲ度の状態に似て、常に脱水や貧血、倦怠感、栄養不良を招き、感染症や皮膚ガンのリスクも高く、髪の毛や爪、歯の欠損、指の癒着、食道狭窄など、日常生活の不便さは事欠きません。 皮膚が脆い故の日常の困難 本来、皮膚の機能は内臓器官をガードし、体温を調整し、病原菌や外圧などから身を堅牢に守る役割がありますが、表皮水疱症ではその役目が欠落しているため不便さに直結します。 私の場合、両手の指がほとんど癒着しているのでドアノブをつかめない、スマホを片手で持てない。 爪がないから落とした物を拾えない、指に力をいれられないので薬やお菓子の袋を開けられない、靴紐を結べない、蛇口が使えない、ペットボトルが開けられない、タオルを絞れない、包丁やハサミが使えない、外出時は自販機や発券機のコインが取り出せない、電車など長く立っていられない、など。 患者会を作る以前、迷惑をかける人間と思われたくなくて、この病気を知られることや一人での旅行や外出は避けるようにしていたものでした。 少しの工夫、あるある発見 私の生活の質が向上したのは患者会活動を通して、便利なモノ情報を得られたおかげです。 ICカードは小銭を取り出さずに済むので外出の機会が増えた一番の便利ものです。 伸縮性のものもポイントで、脱ぎ履きが簡単な結ばない靴ひも「キャタピラン」はスニーカーやブーツにも使います。 皮膚への刺激を軟らげるものではシリコン製のキーカバー「Key Keeper R」(アッシュコンセプト)や、襟にタグのないTシャツ(GAPやユニクロなど)、縫い目のないスキンウエア・インナー(キレイラボグンゼ)も最近は多くなりました。 蓋の開閉がワンプッシュのタッパーは100円ショップで購入します。 便利なモノ発見は楽しいけれど、本来はさまざまな人に使いやすいモノづくりの発想がもっと多様に広がると同時に、なにか困った時は、近くにいる人に声をかけ、手助けしてください、とお願いする勇気をもち、また気軽に対応してくれる社会であってほしいと思います。 写真1:結ばない靴ひも「キャタピラン」 写真2:シリコン製キーカバー 写真3:「キーキーパーR」 写真4:襟にタグのない柔らか木綿Tシャツ インクル 第112号 8ページ 当時、買わなかったテトリスで 久保智(くぼさとし) 私は全盲です。小学6年生だった35年程前、盲児用玩具のモニターをしたのが玩具メーカー、トミーとの出会いです。 今は、マッサージの仕事の傍ら、音楽活動も行い、がん具メーカー、はなやまが開発した、ゲームロボット50のサウンドを担当しています。 視覚障害者が遊べるものをみつけると、メーリングリストなどに投稿しています。 以下の文章は、私がフェイスブックに投稿した内容を再掲したものです。 * * * * * * * * * * 玩具メーカー、トミーによって発売されていた『対戦型テトリス』というゲームを入手した。 テトリス全盛期に発売されたボードゲーム盤で、ルーレットを回すことでテトリーノを決めていく。 そのルーレットの出目を触覚できるため、目の不自由な人が見える人と一緒に遊べる「共遊玩具」の第1号に認定され、パッケージには、そのことを示す「盲導犬マーク」が表示されている。 当時、ぼくは音大生だった。 学内の休憩所で、ロシア民謡の「コロブチカ」(行商人)のメロディーに乗せた電子ゲームで遊んでいる人をよく見かけるようになり、何だろうと思っていたら、それが「テトリス」のゲームボーイ版だった。 でも、自分は画面が見えないから遊べない。見えていたら仲間に入って遊びたいのに。 ボードゲーム版テトリスは、盲人用具の購買所などでも販売されているのを知っていたが、あのころはゲームボーイの全盛期でもあった。 「コロブチカが聴こえない~」という、疎外感を抱いてしまい、とてもそれで遊ぶ気にはなれなかった。 最近、ボードゲームが好きな視覚障害者と友達になり、「ブロックスデュオ」というゲームを、自分達で遊べるように改造して遊んでいる。 そんな中で、同じような形のブロックを使う対戦型テトリスに急に興味がわいてきた。 しかしネットを調べてもどこにもない。 30年も前の製品、自分で敬遠していたのだから仕方がないよなと諦めかけていたら、ヤフオクに出品されているのを見つけ、家族の力を借りながら思わず購入。 こうして、昨日わが家にやってきた30年前の名作。 パッケージこそあちこちつぶれていたけど、中身は傷一つないきれいな状態だった。 そして、一昔前のゲーム本体を触るうちに、目の不自由な子供たちにテトリスの面白さを味わってもらえればというトミーの開発者の方々の優しさが伝わってきた。 そして、障害の有無に関係なく遊べるゲームが発売される今にあって、その原点ともなったこのゲームを手にした時、強い感動を覚えた。 ぼくのボードゲーム友達は、テトリスがとても好きだった。 テトリス全盛期のころは、まだ画面を見ながら遊ぶことができたため、液晶版を遊んでいたという。 しかし、ゲームが盛り上がるころになって、いつも妹さんに横取りされ、よく喧嘩になったという。 その友人の目の状態も次第に悪くなり、今では画面で遊ぶことは叶わなくなった。 そして、その妹さんも、もうこの世にはいない。 新たに入手した「対戦型テトリス」によって、お互い新しい思い出を作っていけたらいいなと思っている。 写真:共遊玩具第1号「対戦型テトリス」(トミー〈現タカラトミー〉) インクル 第112号 9ページ ロービジョンでも使いやすいお役立ち品 国際視覚障害者援護協会 芳賀優子(はがゆうこ) 私は、海外旅行と落語が大好きな55歳の主婦。生まれた時から弱視&色覚障害です。 右目は光を感じるだけ、左目は0.02の視力で、視野が50度ぐらい。 色は白黒テレビのように見え、例えば、黒と紺と赤の違いは全く分かりません。 そんな私の「イチ推し共用品」をご紹介します。 ・倒れにくいキャンドルホルダーとティーろうそく、100円ライター まずは、東日本大震災による計画停電の時に、我が家を救った共用品たちです。 ちょっとやそっとでは倒れない写真のキャンドルホルダー。 一般的に使用されている細くて長いろうそくは、倒してしまう恐れが高く、芯を手元に近づけにくいのでうまく火をつけられないなど、私には使いにくいものです。 代わりに重宝しているのが、写真のティーろうそく。 倒れにくい形状、火をつけるべき芯が手元で見やすい優れものです。 火をつけるのに重宝しているのが、写真のライター。 発火するライターの先を、ティーろうそくの芯にあらかじめ手で確認しながら合わせて、セットします。 スイッチをスライドさせてオンにし、火をつけます。 この方法で確実に、安全に火をつけることができるのが大きな魅力。 100円ショップで見つけて以来、ずっとこれを使い続けています。 お蔭で、計画停電の暗い夜も、優しいろうそくの光で和やかに過ごすことができました。 ・糸通しいらずの〝セルフ針〟 母は裁縫が得意ですが、情けないことに私は全くダメ。 ボタン付けと雑巾縫いがなんとかできるレベルで、しかも不器用ときています。 そんな私の強い味方が、写真のセルフ針。 針の先端に糸を合わせて下に引っ張れば、糸通し完了! !糸通しを使うよりも簡単に、しかも確実に糸を通せます。 なかなか糸が通らないというフラストレーションからも解放されました。 ・色が表記してある〝ホワイトボードマーカー〟 マーカー、マジック、ボールペン、色なんて見ればわかるじゃん!そうできれば本当に便利だと思います。 でも全色盲の私にはどう頑張っても不可能。 そこに現れた助っ人が、このマーカーです。 商品本体に、商品名と「黒」「赤」といった色が表記されています。 見て色がわからなくても、文字で書いてあることでわかり、色を間違えて使うことも避けられます。 色覚障害の影響を少なくしてくれる、その心遣いが嬉しいです。 そして、トリはやっぱりルーペ。 10倍を超える高倍率のルーペを、ロービジョンの私たちは文字を読むために、精密機械、出版などで写真を扱うプロの人たちは仕事の道具として使っています。 どちらも「小さくて見えにくいものを大きくして見る」ための必須アイテムで、手放せない共用品なのです。 写真1:倒れにくいキャンドルホルダー 写真2:ティーろうそくとライターをセットする様子 写真3:糸通しいらずの「セルフ針」 写真4:色が表記してある「ホワイトボードマーカー」 写真5:必須アイテムの高倍率のルーペ インクル 第112号 10ページ 日々の暮らしの逸品 公益社団法人 日本リウマチ友の会 会員 原稿の依頼を受け、日々の生活で「私のイチ推しとは?」を考え(探し?)ました。 あるのですね。自分の動きが悪くなった箇所を補う物を何気なく購入していました。 取っ手付き茶椀(メーカー不明) これは10年くらい前、比較的リウマチが落ち着いている時でしたが「指がこわばっていて茶椀が持てない時に重宝するよ」と同じリウマチを患っている友人に勧められて購入しました。 ネットではプラスチックの物が多く、購入を躊躇しましたが、探せばあるのですね。 国産で漆塗り、そして安価な物(汁椀)を購入しました。 取っ手の部分が広くて下が空いているので指が炎症を起こして腫れていても入り、茶椀を抱えることが出来ます。 同じ頃、同居している夫の母が介護認定を受け日常の動作が不便になってきたこともあり、私と同じこの茶椀を購入して使っていました。 最初はどのように使ってよいか分からないようでしたが、私も使っているので同時進行で慣れていきました。 しばらくして母は施設へ入りましたが、施設へも持って行き自分で食事ができる間は使用していたようです。 現在の私は寛解に近い状態で、この茶椀の出番はなくなりました。 しかし、陶器の碗は重くて落としやすいので軽い漆の椀を使用しています。 本来、この器は介護用品として販売されているようです。 優火スリム(ライテック) 私の住んでいる鳥取県の冬は雪が降り寒いので、石油ストーブを点けています。 ストーブに火を点ける時チャッカマンの出番なのですが、押しボタンの硬いチャッカマンでは私は火を点けることが出来ずにいました。 たまたまホームセンターで「力の弱くなった高齢者向けのチャッカマン」というものを見つけました。 コンパクトで、力を入れなくても私でも着火できました。 ネーミングがちょっと気になりましたが、冬場にはなくてはならない物となりました。 この品は、2015年グッドデザイン賞を受賞しているそうです。 車いす対応洗面化粧台(リクシル) 歯磨きの時に立ちっぱなしが辛くて椅子に座って歯磨きをしている時期があり、洗面台の扉に足が当たって真っすぐに座ることが出来なくて腰が痛くなっていました。 一昨年、家の水回りをリフォームすることになり、入院していた時に使い勝手が良かった洗面化粧台の下に足が入る、車いす対応のものをカタログで探しました。 収納箇所が少なかったのですが、歯磨きの短い時間でも立つことが出来なくなった時、また先々車いすになった時に重宝すると思い、決めました。 お金がかかりましたが、ゆったりしたスペースでの歯磨きは、ゆったりした気持ちになります。 以上が、日々の生活に無くてはならない私の逸品です。 写真1:取っ手付き茶椀 写真2:優火スリム 写真3:車いす対応洗面化粧台 インクル 第112号 11ページ LEDヘッドライト・補聴器用乾燥ケース 社会福祉法人全国盲ろう者協会 庵悟(いおりさとる) 私は、50代の弱視難聴の盲ろう者。 補聴器をはずしたら何も聞こえません。 少しでも騒がしいところでは補聴器だけでは聞き取れませんので、FM補聴システム(棒型マイク+耳掛け式補聴器内蔵受信機)を使用してコミュニケーションをとっています。 目は、「網膜色素変性症」により、五円玉の穴を覗いているような視野の狭さに加え、人の顔の表情や動きがあまりよく見えません。 こんな私のイチ推しの共用品を2つ紹介します。 1.LEDヘッドライト 私は、山登りが趣味です。山歩きに慣れている通訳・介助者のサポートを受けながら登ります。 山道を歩いていると、杉林など木々が密集しているところはとても暗くなり、足元が見づらくなります。 また、特に冬場に予定より下山時間が遅くなり、日が薄暗くなっていしまうことがあります。 そこで、便利なのがGENTOSのLEDヘッドライト(乾電池式・連続18時間使用可。多種あり)です。 頭にライトのついたバンドをはめ、足元や前方の山道などを照らしながら歩きます。 これは、山登りの者には必須の道具でもあります。 ところが、最近、部屋の中でも便利に使えることを発見しました。 私の目は、ある程度の光量がないと、照明の明るい部屋の中でも自分の見たい物がよく見えません。 例えば、ご飯を炊く前に炊飯器の内釜にお米を入れて研いだ後、水を入れる時、内側についている水量を計る目盛りがよく見えません。 ご飯をおいしく食べたいので、ヘッドライトで目盛りを明るく照らしながら、水量を確認できるようになりました。 また、電子レンジや洗濯機の操作パネル等に表示されている文字を照らすことで、すぐに操作できるようになりました。 さらに、部屋の中で探しものをする時、以前は手で探ることが多かったのですが、とても時間がかかってしまいます。 ヘッドライトで明るく照らすことですぐに見つけることができ、時間の節約にもなります。 2.補聴器用乾燥ケース 以前は、寝る時に、両耳につけている耳掛け式補聴器とボタン電池を無造作に枕元やテーブルの上に置いていました。 ところが目覚めて、補聴器とボタン電池を取ろうとすると、思いも寄らない場所に散らばっていたりして、あげくのはてに補聴器を踏んづけて壊してしまうことがありました。 ボタン電池もいつの間に行方不明になっていたりしていました。 そこで、補聴器屋さんで販売されている、「補聴器用乾燥ケース」がとても便利です。 ほとんどの補聴器メーカーさんで扱っています。 私が使っているものは、フォナック社のものです。 ケースには乾燥剤の上にスポンジが入っていて、そこに耳掛け式補聴器を2つ収納します。 ふたを閉めてから、ふたの上にある磁石にボタン電池を載せておけば固定されます。 これなら、安心して寝ることができます。 写真1:LEDヘッドライト 写真2:補聴器用乾燥ケース インクル 第112号 12ページ キーワードで考える共用品講座第102講「私の一推し 共用品とは」 日本福祉大学客員教授 後藤芳一(ごとうよしかず) 自分が強く推す共用品――自分が利用したり介助する際に利用した経験(X)、身体機能などの専門知識を用いた判断(Y)、人権や社会制度の面から提供されるべきだとの主張(Z)、こうしたことを背景として、お薦めしたい共用品がある。 薦める主体(誰が)と薦められる側(誰に)という枠組で考えよう。 1.考える枠組:「誰が」 社会で暮らすとき「自分」の役割は時と場合で変わり、同時に複数を担うこともある。第1は利用する立場(X)。 不便さのある当事者(例:不便さのある個人、当事者の団体)(X1)と介助者(例:家族)(X2)がある。 第2は提供する立場(Y)。 医療・福祉など身体機能の専門知識をもって助言したり本人を代弁する人(例:医療・福祉の専門職)(Y1)、モノやサービス自体を作る、利用者に適合させる人(例:義肢装具士、流通事業者)(Y2)がある。 第3は環境整備(Z)。 整えるべき水準を定めてそれを推進する人や組織や制度(例:行政、政治、支援機関、制度や基準、啓発を行う組織)である。 うした「自分」の役割(X~Z)を背負いながら薦めることになる。 2.考える枠組(その2:「誰に」) 薦められる側にもいろいろな役割がある。 1.と同じ分け方をしよう(X~ZをA~Cに読み替える(当事者が推す立場の時はX1、受ける場合はA1である))。 利用者(A)については、本人のもつ情報は限られても、他から薦められた共用品や利用法を活用することで不便さが抑えられる。 供給者(B)は、優れた共用品の条件や例を知ることで一歩先の共用品を提供し、共用品が進化する。 社会環境(C)は、優れた共用品を薦められると法律や制度、モノ作りの標準に反映して普及を促すことになる。 3.事例 福祉機器コンテスト(リハビリテーション工学協会主催)には当事者が応募した機器が入賞することがあり、モノ作り企業にヒントを提供している(利用当事者X1→モノ作り企業B2〈矢印は「推す」ことを表す、以下同じ〉)。 作業療法士による自助具の制作や選定(Y1→A1)、研究・教育者が学会で知見を共有(Y1→B1)。 義足などのメーカが利用者と密接にすり合わせつつ義肢装具や座位保持装置を提供(Y2→A1)、福祉用具メーカがロボット(例:眠りセンサ)を提供して介を質的・量的に改善(Z→A2)、政策によって福祉用具の研究開発を支援(Z→B2)、標準(例:標準治療法、工業標準)を定めて提供するモノやサービスの水準を確保(Z→B1とB2)、高齢者や障害者への公的制度(例:介護保険、補装具給付)の対象として給付(Z→B2)、法令等(例:障害者権利条約、改正障害者基本法、障害者差別解消法、バリアフリー法)を通じて事業者や行政にバリアフリー環境の整備を求める(Z→B2やC)などを行っている。 4.共用品推進機構の役割 機構の活動は利用者の不便さや便利さを調査(X1→B1とB2とC)、共用品を開発(例:紙パック容器の凹みで識別)(X1とY2→B2)、モノやサービス(例:シャンプー容器や公共トイレや会議の手順)の標準化(X1とY2→B2)などを中核機関として進めている。 機構には幅広い関係者が参加することでX~Z、A~Cを網羅している。 各分野の関係者(例:個人から専門家)が知見を持ち寄り、かつ、個人として参加するので立場にとらわれず発言できる。 その結果、分野間の調整や、取組みの最初から多分野の関係者ですり合わせられる。 当事者の利便、事業性、政策や制度との親和性などを調和させた共用品や標準を持続的に生むことができているのは、こうした仕組みが寄与していると考えられる。 自身の体験による「一推し」は迫力がある。 ただ、社会を変えるのは本人の体験だけではない。 情報、介護者や医療・福祉サービス提供者のニーズ、学術的知見、制度や基準・標準にも役割がある。 それらに関わる人たちは利用者以外にもいる。 一推しを聞いてみたい、多くの「私」がいる。 インクル 第112号 13ページ 2018.1.25 共用品と地域連携とのつながりを深める ~ふれあいフェスタ2017、文京ボランティアまつり2017出展報告~ 「Think it globally, act locally」 世界単位で考え、地域的観点で行動することは、共用品・共用サービスの普及にも当てはまります。 5年前から、機構の事務所のある千代田区、4年前からは、水道橋の駅を挟んだ文京区、そして本年度から、総武中央線で繋がる杉並区でも共用品の輪を広げる活動を始めました。 ふれあいフェスタ2017 きっかけは、15の当事者団体で構成される杉並区障害者団体連合会の高橋博(たかはしひろし)会長並びに、杉並区障害政策課の出保裕(でほゆうじ)次課長に、共用品並びに、共用品推進機構の活動を紹介させていただいたことでした。 その際、杉並区で行っているイベントへの参加を勧めてくださり、その最初が前号で紹介した「すぎなみフェスタ」、そして今回の「ふれあいフェスタ イン すぎなみ」です。 このイベントは、杉並区障害者団体連合会と杉並区が共催で開くイベントで、12月3日(日)に、セシオン杉並という会場で行われました。 当事者団体、福祉作業所、関連施設が、作品、飲食などのブースを出し、ダンス、手話コーラスなどのイベントと共に、最後は障害のある人ない人が一緒になって第九よろこびの歌を歌いフィナーレとなりました。 機構は、美術展示コーナーの一角に約20点ほどの主だった共用品を展示させていただきました。 杉並でイベントをするために作った柏餅が表紙のパンフレットを配布すると共に、表紙をパネルにして掲示したこともあり、「何だこれは?」と、関心をもって下さる方も多く、効果的な展示になりました。 星川安之 文京ボランティアまつり2017 11月18日(土)、「文京ボランティアまつり2017」に3度目となる共用品のブースを出展しました。 今年も昨年度好評だった共用品の工夫をクイズにした問題を解く内容にしたところ、盲学校やろう学校に通う子供達、区内にある大学に通う学生達がたくさん参加してくれました。 工夫を見つけては笑みを浮かべ、何度も挑戦する子供もいて、ブースは和やかな楽しい雰囲気でいっぱいになりました。 地域における情報発信については、その地域の方々と共に協力して行うことが効果的ですので、今後も地域を広げ継続して出展していきたいと思います。 森川美和(もりかわみわ) 写真1:展示した共用品(ふれあいフェスタ) 写真2:説明する様子(ふれあいフェスタ) 写真3:子供達とクイズをする信井洋子理事(文京ボランティアまつり2017) 写真4:学生に説明する様子(文京区ボランティアまつり2017) インクル 第112号 14ページ おもちゃ博物館と「ドラえもんと共用品展」 壬生町おもちゃ博物館 館長 久米井靖裕(くめいやすひろ) おもちゃ博物館 栃木県の壬生町と言っても知らない人が多いでしょう。 でもここはかつて日本最大の玩具工場団地があった町なのです。 そして「おもちゃのまち」という住所があり、本当に「おもちゃのまち駅」や「おもちゃのまち交番」「おもちゃのまち郵便局」が実在する町なのです。 そんな壬生町に「おもちゃ博物館」があります。 プライベートコレクション おもちゃ博物館では昨年より個人が所有している自慢の玩具を来館者に見ていただく「プライベートコレクション展」を開催しています。 先日は第5弾として共用品推進機構の星川安之専務理事のコレクションを「ドラえもんと共用品」というテーマで展示させていただきました。 コレクションはおもちゃ博物館の入口正面に展示して、すべての来館者に見てもらえるようにしました。 ドラえもんを見つけた子どもたちは一様に「ドラえもんだ~!」と駆け寄り嬉しそうに見入っていました。 2世代キャラクターなので大人にも人気があり、子供さんと一緒に楽しそうに会話している親御さんの姿がたくさん見られました。 そして展示期間中には約4万人の来館者があり、ドラえもんの魅力に触れていただきました。 共用品と共遊玩具 今回は共用品のギザギザの付いたシャンプーと付いていないリンスも展示して共用品推進機構の活動もアピールしました。 気が付いた親御さんからは「そうだったんだ」と感嘆の声も聞かれました。 おもちゃ博物館では共遊玩具を常設展示して遊べるようにしています。 障害のある子も無い子もみんなが遊べる玩具のコーナーなので「みんなのひろば」という名前にしました。 ここでは共遊玩具の紹介ビデオを放映し、共遊玩具のカタログをいつでも持って帰れるようにしています。 そしてアンケート用紙を置いていますが、このコーナーへ来て初めて共遊玩具を知ったという回答をよく目にします。 そして応援したいという温かいコメントもよく目にします。 バリアフリー 施設としては、段差をなくしてスロープに手すりを付けたり、車いす対応エレベーターや多目的トイレを設置するなどバリアフリー化に取り組んでいます。 受付には筆談用具を用意するなどの配慮もしていますが、すべてのことができているわけではありません。 でも最高のバリアフリーは笑顔と「おはよう」「こんにちは」の挨拶から始まると考えて、日々の運営を行っています。 写真1:プライベートコレクション展 写真2:ドラえもんコレクションを眺める子供たち 写真3:みんなのひろば インクル 第112号 15ページ インバウンド不便さ調査 海外から日本に訪れる外国人は2016年には2万4千人。 2012年と比較すると約3倍に増加しています。 来日した人たちを取材する番組、日本を愛してやまない外国人を、日本に招待する番組もあり、世界が日本に注目していることが伺えます。 では、実際に日本にやってきた一般の外国人は日本のことをどう思っているのでしょうか。 10月から11月にかけて、神保町にある「サクラホテル」にご協力いただき、日本で感じた不便さをアンケート調査しました。 回答数は24名。 ヨーロッパ、アジア、北米など11の国と地域の方が含まれています。 不便なことが知りたかったのですが、「日本で嫌な経験をしたことはない。みな親切。電車は清潔だし、時間通りにやってくる」といった良い面が多く書かれていて、困りながらもうれしく感じました。 良くないこととして数が多かったのは、宗教、文化の問題として、制限のある食材をつかったハラールやベジタリアンのレストラン、宗教上必要な祈祷室があまりない、などでした。 他には、電車が込んでいる、駅の出口がたくさんあって分かりにくい、現金しか使えず困った、といった回答がありました。 空港の搭乗口で帰国便を待つ訪日外国人に不便さ調査をする方法も有効かと思います。 もっと多くの不便さが聞けて、2020年に向けての改善点が見つかるかもしれません。 金丸淳子(かなまるじゅんこ) 写真:宿泊客の写真 DebRA国際会議に参加して NPO法人表皮水疱症友の会DebRA Japan 宮本恵子(みやもとけいこ) 11月24日から26日までニュージーランドの首都ウエリントンで開催されたDebRA International Congress 2017に参加してきました。 DebRAとは、世界80カ国以上が加盟している表皮水疱症(EB=Epidermolysis Bullosaの略)の治療研究と患者家族支援、啓蒙活動等を推進する民間非営利団体です。 日本からは新潟大学の新熊悟(しんくまさとる)准教授や北海道大学表皮水疱症外来チームが参加。 今年は太平洋アジア圏で初開催、台湾、シンガポール、中国からの初参加が目立ちました。 参加総数は200名を超え、冒頭、日本のDebRA発足に尽力してくれたハンフリー・ヘンリーが「EBと生きる人々のために」と題し力強いプレゼンテーションで拍手喝采。 続いて皮膚科医EB専門医、EB治療ケアナース、歯科医、小児科医、栄養士など最新の治療研究報告が発表され、とくにドイツの9歳の子供の遺伝子治療の成果が注目されました。 DebRA Japanの参加はこれで4回目。 日本の医療材料保険支給制度の確立は世界では恵まれた環境にありますが、医療者と患者家族、支援者たちが同じ情熱をもって、治療研究と同時に、表皮水疱症と向きあいながらどう楽しく生きるか、どう社会の中で自立できるか、そのための支援サポートでは遅れを実感します。 難病を持っていても堂々とした生き方を学べる世界の仲間たちとの交流には日本にいるだけでは決して得られないパワーを感じてなりません。 写真:DebRA International Congress 2017にて インクル 第112号16ページ 2018.1.25 褒められる立場から褒める立場へ 【事務局長だより】 星川安之 中学まで自分が書いた文章を、身内も含め褒められたことなどただの一度もなかった。 年一度生徒が一年を振り返って学んだ事を記録し提出する「まとめ」という提出物の作成は、苦痛以外の何物でもなかった。 提出した「まとめ」には、最後のページに担任教師の評が書かれる。 「起承転結のある文章にするように」とか「ものごとをちゃんと見て書くように」といった内容の評が中学3年間毎年書かれ続けた。 反面、数学、特に応用問題を解くのは好きで自分で言うのも何だが成績も良かった。 そのため、文章が下手と言われても、というよりも、褒められたことが一度もないので、気にならなかった。 高校にあがると、国語の教師は、私の最も苦手なタイプだった。 高校にあがっても続く「まとめ」を年度の終わりに書くのは相変わらず苦手だった。 それが、高校一年の時に提出した「まとめ」の最後のページに「君の文章表現は確かだ」とあったのだ。 しかも高校一年の担任は、最も苦手な国語の教員だったのである。 誰かの「まとめ」と間違えて評を書いたのではないかと思ったほどであった。 共用品の普及をめざし1991年に立ち上げた共用品推進機構の前身の市民団体「E&Cプロジェクト」は、障害のあるなし、年齢の高低に関わらず共に使える製品・サービスを、 共用品・共用サービスと名づけてその普及をめざし、異なる組織の異なる立場の人が、目的に共感し集い、道なき所に道を作る作業を8年間にわたって行った。 16名で始まった活動は8年たった時点で400名となり、障害のある人たちへの不便さ調査は、報告書そして書籍、日本工業規格(JIS)、配慮された製品・サービス(共用品・共用サービス)へ、展示会へと発展した。 1994年12月4日、日曜朝6時、古い知人から朝日新聞一面下の天声人語に、E&Cの活動が紹介されていると電話で知らされた。 最後は「共用品・共用サービスの実現に向けて貴重な努力が続いている」と書かれていた。 E&Cはその作業量の多さによって、1999年4月に市民団体から、財団法人となった。 財団になって作業量は10倍以上になったが、マスメディアに取り上げられる回数は半減した。 市民団体であったE&Cは、そのやんちゃぶりがマスメディアの興味を引いたが、財団になると「やって当たり前」に、マスメディアの目が変わったのだと思われる。 けれども、財団になってからの方が社会に伝えたいことが10倍増えている。 今、共用品推進機構では、10を超える各種媒体にご協力いただきながら、共用品のフィルターを通した各機関の事業、製品、サービスについて書かせていただいている。 文章を通じて、褒められる立場から、褒める立場になりたいと思っている。 共用品通信 【イベント】 文京ボランティアまつり(11月18日、信井理事、森川、田窪) 千代田区障害者週間展示(12月2~10日) 杉並区ふれあいフェスタ(12月3日) 【会議】 第2回ISO/TC173国内検討委員会(11月17日) 【講義・講演】 長野県丸子修学館高校共用品講座(11月10日、森川) 平成29年度第7回広域専門指導員等連絡調整会議講演(11月21日、森川) 青森県視覚障害者福祉会(11月26日、星川) 第2回介護・福祉機器開発ワーキンググループ講演(11月29日、星川) 東京大学教育学部附属中等教育学校 講座(12月5日、森川) 東京・九段小学校共用品授業(12月22日、森川) 難病ネット(12月23日、星川) 【報道】 弱い肌守る被覆材 日本経済新聞(11月18日) 電気式人工喉頭 日本経済新聞(12月16日) コレクティブハウジング 時事通信社 厚生福祉(11月10日) ふれあう博物館、東京にオープン 時事通信社 厚生福祉(11月28日) 訪日外国人の「便利」「不便」 時事通信社 厚生福祉(12月5日) より多くの人が楽しめるダーツ トイジャーナル12月号 重要なのは工夫を伝えること JADMA NEWS 最終回(11月・12月号) 家電製品アンケート エルダリープレス 高齢者住宅新聞 11月号 家庭内のそれぞれの工夫 エルダリープレス 高齢者住宅新聞12月号 アクセシブルデザインの総合情報誌 第112号 2018(平成30)年1月25日発行 "Incl." vol.18 no.112 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2018 隔月刊、奇数月に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電 話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:http://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 編集長 山川良子 事務局 星川安之、森川美和、金丸淳子、田窪友和 執 筆 庵悟、大田黒弘子、岡田正敏、河相富貴子、久保智、久米井靖裕、後藤芳一、芳賀優子、松森果林、宮本恵子、(公社)日本リウマチ友の会 会員 表紙デザイン ㈱グリックス 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。 その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。