インクル116号 2018(平成30)年9月25日号 目次 ユニバーサルデザインで農業は強くなる! 2ページ 情報を伝え、知ること~京王プラザホテルの取り組み~ 4ページ 盲ろう者に情報を伝える 5ページ 映画の音声ガイド制作者として伝えていること 6ページ ふれる博物館 7ページ ダイアログ・イン・サイレンスの「伝える」 8ページ 分かりやすく伝えるには? 9ページ 妖精インクルさんがやってきた 10ページ キーワードで考える共用品講座第106講「伝える」と共用品 11ページ 国立科学博物館 2018夏休みサイエンススクエアに参加! 12ページ てこの原理でさらに!「エアかる」/プラス(株) 14ページ マニュアル・書籍紹介 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 2ページ ユニバーサルデザインで農業は強くなる! 京丸園株式会社 鈴木厚志(すずき・あつし) 農業と福祉の融合から誰もが参画できる新しい農業がデザインされている。 限られた人しか農業参入できない時代が長く続いたことで日本の農業人口は減少し遊休農地が拡大、自給率低下という状況。 この問題を解決する糸口が農業のユニバーサルデザインである。多様な人達が活躍できる産業には多くの知恵が集まり工夫が生まれる。 障がい者雇用をきっかけに農業活性化のヒントが見えてきた。 ユニバーサル農業 特別支援学校の先生が「そんな作業指示を出しているから農業が衰退するのだ!」と叱られた。 知的障がいのある生徒が農園に実習に来た時の出来事。トレー洗いの仕事であれば簡単と思い実習生に作業を頼んでその場を離れた。 1時間後どれくらいの数を洗えたかと確認に戻って驚いた。最初に手にした1枚をずっとスポンジで擦り続けていたのだ。 この状況をすぐに先生に伝えると、先生から「生徒にどんな作業指示を出されましたか?」と質問された。 「トレーをきれいに洗って下さい」と指示したことを伝えると先生から予想外の返事が返って来た。 「まさかそれが作業指示だと思ってないでしょうね!作業指示は、具体的であり相手に伝わらなければ何の意味もありません!」と。 先生は、もう一つ事例を挙げた。「農家の人たちは、苗に水かけ作業して欲しい時『ちょっと水かけといて』と言いますが、 これで作業を理解できる人がいると思いますか?」と。 水かけ作業を指示するのなら、「8時30分に、根元から3cm離れた場所に10cc水を与えて下さい」と 具体的に誰でもわかるように伝えなくてはいけませんと教わった。 「抽象的な伝え方をしていたら誰も的確な作業はできないし、作業を手伝ってもらえなくなりますよ」と指摘を受けた。 この時はじめて農業が特殊な産業であり農業現場を改善し、作業指示の出し方を学ぶ必要があると自覚した。 誰もが参画できる農業を目指すために福祉の視点に学び新しい農業に挑戦しようとユニバーサル農業が誕生した。 作業指示を具体的にせよ 障がいのある人達が活躍できる場(働きの場)をつくることができれば老若男女、多様な人達に農業に参画してもらえ、 障がい者雇用を行えることになる。特別支援学校の先生からのアドバイスは農業活性化の大きなヒントとなった。 「トレイをきれいに洗って」→「スポンジで5回こすって下さい」とすれば具体的な作業指示となると教わった。 実際生徒に試してみると一枚を5回こする動作をくり返すことが出来た。 思い返すと、現場では抽象的な言葉ばかりであった。「だいたいこんな感じで」と指示して正確な作業ができるのは奇跡だ。 そして、抽象的な言葉を使っている以上この作業を習った人が次の人に教えるときもまた曖昧な言葉が使われる。 技術の継承には程遠い。農業衰退の理由が良くわかる。 福祉の方々は、色々な特徴を持った人達が作業できるよう言葉を選ぶ。抽象的なものをどんどん具体化・数値化していく。 数値化することはお互いが理解できる共通語が生まれること。農業は自然という言葉を使ってすべてを曖昧にしてしまった。 福祉は、教える相手中心に徹底的な数値化、作業分解を進め一人でくり返し作業できる仕組みを作り上げていく。 福祉の方々の取り組みを農業に用いることは農業=自然という思い込みから農業=科学と現実的な産業に変化するきっかけとなる。 作業効率を上げ給料アップ 具体的な作業指示が出せるようになり障がい者雇用が始まった。次の課題は彼らの給料アップ。 一つは、彼らが手を早く動かして1時間当たりの処理数を増やす方法、簡単に言えば彼らが頑張るということ。 もう一つは、我々農業現場が変わることで彼らの作業効率を高める方法である。 ユニバーサル農業は、ユニバーサルデザインで農業を変えようというのだから選ぶのは後者である。 障がいのある人達に農業参画していただく目的は新しい農業をデザインするためなのだ。 私たちは、手洗いのトレー洗い作業を機械化することにした。 「きれいにする」→「5回こする」→「洗浄機に2回投入する」洗浄機を製作したことで「きれいにする」という作業が 誰が行っても同じ精度となる標準化を達成し作業効率も向上することができた。 この機械の製作によって作業量を増やせたばかりでなく、 今までスポンジで5回が理解できなかった障がい者もトレー洗い作業要員として迎い入れることとなる。 数年後、さらなる給料アップに挑戦しようと新型機械の開発を行った。2回の投入を1回にすること。 洗浄後カゴに52枚数える作業をなくすことを目標とした。 52枚を正確にそろえるため2度確認作業をしていた。そこで、機械にセンサーを取付け52枚トレーが通過するごとに音楽を流しカゴ交換を知らせる機 能を装着した。徹底的な数値化により抽象的な農作業から誰でもできる職場に変化できることが分かった。 手洗いでは1時間50枚だったものが、1号機の導入で100枚、2号機の開発で150枚処理できるようになった。 機械をよりユニバーサルデザイン化することで重度障がいの方にも仕事を手伝ってもらえるようになった。 新しい農業をデザイン 特別支援学校の先生からの指摘から24年、障がい者雇用を通じて自分たちの農業を変化させる取組みを行ってきた。 当時家族家営で10名の農家だったが現在、最高齢者82歳最年少者18歳、老若男女障がい者24名、合計100名が働く農業法人となった。 農業=科学ととらえ人に合わせて作業分解し、適切な作業指示の出せる農業には人と知恵が集まることが実証された。 多様な人達が活躍できる産業として農業が期待されている。 農業がよりユニバーサルデザインの導入をはかることで各地に面白いアグリビジネスが展開されることだろう。 写真:トレーの手洗い 写真:トレーの手洗い1号機 写真:トレーの手洗い2号機 写真:京丸園で働く従業員 4ページ 情報を伝え、知ること~京王プラザホテルの取り組み~ 京王プラザホテル 宿泊部 客室支配人 中村さおり(なかむら・さおり) 京王プラザホテルは、1988年のアジア初のリハビリテーション世界会議の開催に際し車椅子での利用が可能な客室を設置し、 これを機に長年にわたりユニバーサルサービスに努めております。これまでホテルをご利用いただけなかった方にもお越しいただけること、 また、長年ご愛顧いただいているお客様に1日でも長くご利用いただくことを目指しております。 2013年には「全国障害者スポーツ大会」のオフィシャルホテルとして多くの障害のあるお客様を、 2017年には「日本盲導犬協会創立50周年記念式典」で600名の出席者のうち182名の盲導犬ユーザー様と パートナーである180頭の盲導犬をお迎えし、この時は約半数の90名程のユーザー様の宿泊もございました。 大きなイベントに限らず数多くの多様なお客様をお迎えし、多くのお客様からの声を大切に、 全てのお客様が安心・安全で快適なホテルライフをお過ごしいただけるように取り組んでおります。 お客様に快適なホテルライフを満喫していただく為に大切なことは、施設面と並んでホテルの様々な情報をお伝えし、 サービスとして提供することであると考えています。ホテルをご利用のお客様の中には肢体や感覚そして精神や知的に障害がある方、 ご高齢の方、妊婦様や小さいお子様連れ、海外のお客様など多様なお客様がいらっしゃいます。 例えば宿泊予約の際、「車椅子ご利用」と判れば、単にユニバーサルルームをご紹介するのではなく、 着脱式の手摺りや段差解消の備品などを具体的にご説明し、滞在時のご要望など幅広くお話しが出来ます。 当社ではご用意が難しいもの、それに代わるもののご提案もお伝えしております。物理的には難しいことも正直にご案内します。 敢えて「マイナス面」もご案内することにより代案も含め私達スタッフがお客様のお気持ちに寄り添って少しでも快適にご滞在いただけるように努めることが 何より大切であると考えます。 既に述べましたようにホテルはレジャー、ビジネスなど様々な目的で多様なお客様がご利用になられます。 その全ての方々に完璧な設備をご提供することは難しいかもしれません。 それぞれのお客様が望まれることは様々です。 私達が出来ること、それはまず「知ること」です。どのような状態なのか、どのような対応が適切なのか、 何がお困りなのか、そこから理解を深めてお声掛けをしてみる、その方にあった接客方法を考えてみることです。 知らなければ対応に躊躇してしまう、きっとこれが一番だろうと決め付けた接客をしてしまうという結果になります。 簡単な入り口の情報を豊富にすることでお客様へのコミュニケーションが取りやすくなり自然な対応に繋がります。 私達は医療従事者でも介護の専門職でもありません。だからこそホテルマンらしい、時には見守り、時にはお声かけをしてお客様とのコミュニケーション を取り、マイナスも含めた情報の提供、知らなかったことを知ること、これらを最大限に活かせばより良いユニバーサルサービスの発展となることでしょう。 写真:ラグジュアリーデラックスツイン(ユニバーサルデザイン)47.0平方メートル※完成予想イメージ 5ページ 盲ろう者に情報を伝える 東京都盲ろう者支援センター 前田晃秀(まえだ・あきひで) 盲ろう者の実態 「盲ろう者」とは視覚と聴覚の両方に障害のある人のことをいいます。 身体障害者手帳に視覚と聴覚の両方の障害が記載されている盲ろう者は全国に1万4千人ほど存在することが確認されています。 視覚障害者と聴覚障害者の人数の推計からすると、概ね視覚障害者の20人に1人は聴覚障害があり、聴覚障害者の20人に1人は視覚障害があると考えられます。 手帳を交付されている盲ろう者は65歳以上が8割近くを占め、平均年齢は76歳となっており、加齢に伴い盲ろうになる人が多いことが考えられます。 盲ろう者が抱える困難 視覚と聴覚に障害を負うことで、他者と円滑に会話することが難しくなり、新聞やテレビ等での情報も得られず、 単独で安全に外出できないといった困難に遭遇する盲ろう者は少なくありません。 そのことから、盲ろう者は「コミュニケーション」、「移動」、「情報入手」の3つの困難を複合して抱えていると言われています。 盲ろう者の5人に1人は会話・外出の頻度がそれぞれ月2日以下、 4人に1人は情報入手の頻度が月2日以下という状況に置かれていると示す調査もあります。 盲ろう者の障害の状態 一言で「盲ろう」といっても、様々な見え方・聞こえ方があります。 そこで、「全盲ろう」「弱視ろう」「全盲難聴」「弱視難聴」という4つのタイプで把握されることが多くあります。 この4つのタイプを把握することで、現在(もしくは今後)、 どの感覚を活用してコミュニケーションや読み書きをするのかを大まかに見通すことが可能になります。 盲ろう者のコミュニケーション 他者の意思を受け取る手段としては、全盲難聴や弱視難聴であれば補聴機器も使いながら、残存する聴力の活用を検討します(音声)。 弱視ろうでは聴覚の活用が困難であるため、残存する視力・視野を活用することになります(弱視手話・文字筆記等)。 聴覚も視覚も活用が困難な全盲ろうの場合は、触覚を活用したコミュニケーション手段を使用することになります(手書き文字・触手話・指点字等)。 図1:盲ろう者の推計人数(社会福祉法人全国盲ろう者協会「平成24年度盲ろう者に関する実態調査」、厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査」より) 図2:4つのタイプ 図3:コミュニケーション手段 6ページ 映画の音声ガイド制作者として伝えていること 音声ガイド制作 松田高加子(まつだたかこ)(Palabra株式会社) 私は、主に映画の音声ガイドを書くという仕事をしています。 音声ガイドとはどういうものかと申しますと、視覚を使わずに映画鑑賞をしても映画にちゃんとついていけるように、 セリフとセリフの間(尺と呼びます)に映像を説明するナレーションをいれることを指すのですが、 主に視覚に障害のある人が安心して映画を楽しめるよう用意されるものです。 「伝える」サポート この原稿の依頼をいただいて、いざ「伝える」ということについて書こうと考えを巡らせた時に、 私自身が何かを伝えているという意識を持っていないことに気付きました。 どういうことかと言いますと、映画自体が製作者の表現手段なので、何かを伝えてきます。 作品を鑑賞することでその表現を受け取るのです。 つまり、映画が何かを伝える際のサポートをするのが私の仕事なのだと思います。 たとえば日本映画であれば、視覚障害のある人もセリフや環境音を聞くだけでも楽しめるので、 音声ガイドがなくても鑑賞する人は大勢います。そういう場合、映像が見えなくて分かりづらい部分はあれども、 概ね大事なエッセンスは受け取っているように思います。 そういう話を聞くと、映画は視覚だけで鑑賞しているものではないと感じます。 では、私は何をしているのかと言いますと、「映像」で伝えていることを言葉にして映画を補完している、 ということになると思います。 何を優先するか たとえば、3秒尺の中に〈ヒロインの横顔〉〈窓の外の景色〉〈机の上に置かれた本〉のように3つの要素が見えた時に、 どれをガイドするのか?3秒であれば1つのことを言うので精一杯なので、まず、このシーンは何を伝えているシーンなのだろうか?と考えます。 母の言葉の後のシーンであれば、ヒロインの表情を見せたいのかもしれません。 ヒロインにはフォーカスが当たっておらず、窓の外の美しい山並みに焦点が当たっていれば、 監督は景色を見せたいのだろうし、事件のカギを握る本が机の上に置いてあることをさりげなく見せているだけのシーンかもしれません。 シーンの意図を読み取って、いま伝えるべき最優先の映像を言葉にすることになります。 時に音声ガイドがなくても分かる映画だったと言われることもあります。 それはそれで制作者のメッセージが伝わって楽しめたということなのだからいいのだと思いますが、 映像の説明がつくことで、映画に奥行を持たせたり、また同時性を高めることができます。 鑑賞後に、あのシーンにはきっとこういうものが映っていたのだろうな、と想像するよりも、 その時に分かる方が作品が伝えたいタイミングの同時性は保てるということです。 一緒に観るということ 私がこの仕事を続けている理由は、映画という誰かの表現作品をみんなで一緒に観たいという想いがあるからで、 音声ガイドがあることで映画からのメッセージが伝わって、新しいコミュニケーションが生まれたら、私も少しくらい役に立ったと思える気がしています。 写真:松田 高加子 氏 7ページ ふれる博物館 日本点字図書館 伊藤宣真(いとうのぶざね) 「なんだ、これは?」 小惑星イトカワの5千分の1の模型を手にした視覚障害者の驚きです。 星というと丸いものという観念からかけ離れた、細長いジャガイモのようなイトカワでした。 8月17日より、日本点字図書館附属池田輝子記念「ふれる博物館」では、「宇宙をさわる」というタイトルで企画展を開いています。 「ふれる博物館」は、さわること体験することを通じて、点字図書、録音図書からは得られない3次元情報により、視覚障害者の知識・教養を豊かにすることの手助けをしています。 個人で収集した模型等を以前より公開している「手と目でみる教材ライブラリー」の大内進(おおうち・すすむ)氏(国立特別支援教育総合研究所研究員)のご協力を得て、 今年4月にオープンしました。 ふれる博物館 オープンに先だって、昨年11月から試験的に「日本の城」展を行いました。 城という建築物に視覚障害者はどのようなイメージを持っているのでしょう。 150分の1の松本城天守閣の模型により石垣から屋根をさわっていただき、 よく耳にする天守閣という建築様式の典型を知り、姫路城の城郭をさわり敵からの攻撃に備える構造を知ります。 また名古屋城、大阪城、彦根城の同縮尺の天守閣を比較して触り、なぜ彦根城は小さいかを考えてもらいました。 4月からの本格オープンでは、「触って知るレオナルド・ダ・ヴィンチ」展を7月まで開きました。 「最後の晩餐」と「モナ・リザ」はイタリア・アンテロス美術館制作の石膏によるレリーフです。 専門彫刻家による半立体のレリーフは両手で全体を把握できる大きさに作られており、 「最後の晩餐」ではキリストの発言に驚く十二使徒のそれぞれの動きを触察し、また「モナ・リザ」では口角を触って微笑 みを確認していただきました。 現在開催している「宇宙をさわる」展では、国立天文台の協力により、 星の模型から、スペースシャトルやはやぶさ、すばる望遠鏡などの模型を触っていただくことのほかに、 太陽系惑星の太陽との大きさ比較、太陽から惑星までの距離比較をさわるコーナーもあります。 文字・言葉から受けるイメージ、数値情報から推し量る長さ・体積、それらは受け取る側個々に違います。 実際に触り、体験することにより、思っていた通りの確認や、思っていたこととの違いを知ることになります。 さわることは晴眼者にも有効な伝える手段です。 さわれる展示へ行こう 「展示物には手を触れないでください」 よく目にする表示です。手にして、質感、量感を感じたい思いは誰にでもあります。 それは内から発する「どんなのだろう」という情報への欲求ではないでしょうか。 いま、いくつものミュージアムへ、さわれる展示の試みが広がっています。 視覚障害者だけでなく、晴眼者もさわって様々な情報を得てみましょう。新鮮な楽しさ、驚きがあるはずです。 写真1:110分の1のすばる望遠鏡模型(資料提供・国立天文台) 写真2:5千分の1の小惑星イトカワの模型(資料提供・国立天文台) 8ページ ダイアログ・イン・サイレンスの「伝える」 きっかけ 今回、インクルの特集を「伝える」に決めたきっかけの一つが、ダイアログ・イン・サイレンスを、 松森果林(まつもりかりん)さんのフェイスブックで知ったことだった。 主催の(一社)ダイアローグ・ジャパン・ソサエティによると「聴覚障害者の案内により、 音のない世界で言葉の壁を超えた対話を楽しむエンターテイメント」とワクワクするキャッチコピーに辿りつき、 今回案内役も務めている松森さんに原稿を依頼した。返ってきた返事は「是非、体験してインクルで伝えてほしい!」との提案に、 8月10日、事務局の金丸淳子(かなまるじゅんこ)と共に体験させていただいた。 会場であるルミネゼロ(新宿)5階に予約時間前にいくと受付けには12脚の椅子が車座に置かれ、既に数名が神妙な面持ちで座っていた。 スマホ以外の持ち物は全てロッカーにしまうように指示があり、全員そろったところで12名はスタッフに導かれ、案内役の「エミルさん」と対面。 静寂の空間へと移動すると、最初の指令は「ヘッドホンをすること」と「音声でのおしゃべりを禁止」だった。 音声禁止の指令は、口にチャックをし、話し言葉を袋に閉じ込める動作で示された。既に、そこで戸惑う人も出た。 他人のように書いたがそれは、私である。 「手のダンス」の部屋では、中央の上からライトのあたった丸い白テーブルを13名で囲み、 エミルさんの問いかけに対して12名は指を使って答えを表現していく。 最後は全員の手をつなげ太陽を作ると、照明が消え、再び明かりがつくとそこには、みなで作った見事な太陽が影絵になって現れた。 次に、顔の表情で、どこまで自分の気持ちを伝えられるか、手の形を工夫することによって、 異なる動物をどのように示せるかを学び、体験の終盤には、相手が見えないモノや位置を、いかにして伝えるかを学んだ。 そして最後の「対話の部屋」では、封印していた話し言葉が戻り、 さらにサイレンス・インタープリターと呼ばれる手話のできるスタッフが加わり、 14名で、それまでの体験を述べ合う時間となった。 小学生の子どもは、「話せないので難しかった。でも、楽しかった」、他の参加者からは「いかに普段、話し言葉にたよっているかと反省した」、 「手が、こんなに伝えられる道具になるんだ!と思った」、「顔の表情が、これまで固かったと反省した!」などの感想が聞かれた。 エミルさんから「今までに聞こえない人と話したことはありますか?」の質問に手があがったのは我々を入れて3名の25%。 残りの75%の人は、今までに接したことがない状況での参加。一般社会では、もっと少ないだろう。 ドイツではじまったこのイベント、参加した人が得たものは異なるが、音や音声が聞こえないことが、マイナスではなく、 さまざまな工夫のはじまりであり、その工夫は一人では完結しないという気づきは体験者の多くが教えられたことである。 体験を促してくれた松森さんに心からの感謝と共に、このイベントが期間限定でなく、常設になりしかも、 進化し続けるイベントになることを強く願っている。 星川安之(ほしかわやすゆき)・金丸淳子 ダイアログ・イン・サイレンス 2019年夏、開催予定 https://www.dialogue-in-silence.jp/ 写真:「手のダンス」の様子 9ページ 分かりやすく伝えるには? 株式会社ブライト 小川益男(おがわますお) 「印刷物で分かりやすく伝えるには?」という質問をよくいただく。 その答えは「情報を伝える人と読者のギャップ解消」。 伝える人は「これもあれも多く情報を伝えたい」「役立つ情報なら難しい内容でも読んでくれる」とびっしり原稿を作る。 ところが読者は「情報が多すぎて何が言いたいのか分からない」「知らない言葉は読み飛ばしてしまう」とギャップが生まれる。 読者から声を聞く ギャップを解消するには、読者の声を聞くことが最も大切。 ブライトでは、高齢者や障害者のモニター調査で、読者から意見や要望をお聞きし、ギャップを解消するよう取り組んでいる。 事例「全銀協ADR」冊子 ※全銀協ADRとは、銀行とのトラブルを裁判ではなく話し合いで解決する機関。 高齢者からは「銀行とどんなトラブルが多いのか知りたい」 「難しい専門用語ではなく、日常使う言葉で説明してほしい」などの要望が多かった。 そこで、身近なトラブル事例を2コマ漫画と日常会話で伝えたところ「こんな時にADRが利用できるのか」 と周知が進み「家族にも教えるよ」と冊子の活用も向上した。 障害者からの要望は? 「困ったときはすぐ電話できることが大切。話番号が裏表紙にあるとルーペを持ったまま、 片手で電話をかけられるので助かる」などの要望が、弱視の方からあがった。 そこで、電話番号を裏表紙に大きく表示したところ、障害者以外からも「とても親切で相談しやすい」と好評を得た。 実践してみよう! これから印刷物を作る予定の方は、分かりやすく伝えるための5つのポイントをチェックしてみよう。 さらに詳しいポイントは、弊社ホームページUDチェック(QRコード)により自己診断ができるので、ご活用いただきたい。 分かりやすく伝えるポイント 1 情報量が多すぎませんか? 2 専門用語で難しくない? 3 文字サイズは適切ですか? 4 問合せ先は分かりやすい? 5 印刷物以外の情報手段は? 写真1:高齢者モニター調査の様子 写真2:2コマ漫画と日常会話 写真3:冊子「全銀協ADR」表紙 写真4:障害者モニター調査の様子 写真5:裏表紙の電話番号 10ページ 妖精インクルさんがやってきた 山名清隆(やまな・きよたか) 妖精インクル この機関誌『インクル』の名前は、マーケティング用語でよく使われていた「エクスクルーシブ」(特別な・限定的な)の 反対語の「インクルーシブ」(一緒に・包括的な)という言葉を見つけたことに由来します。 ちょっと長いので略して「インクル」と声に出したら響きがいい。 「アンクル」のようにやさしく「トゥインクル」みたいにキラキラした感じがする。 「コロボックル」とか「ティンカーベル」のような不思議で小さい生命体のイメージにつながる。 そこで仮に「インクル」という妖精がいるとして、現代を生きる私たち人間に共用品という新しい領域を拓くように促している。 共用品を作ろうとする人には、インクルさんが降りてくる。 そんな妄想を星川さんに伝えたら、それはいいねと採用。 そういえばインクルの初号には妖精のイラストがあったことを思い出しました。 あいまいさと怪しさ 僕は広報企画の仕事をしています。広く伝える仕事ですが、 ずっと意識しているのは「正しく正確である」ことより「曖昧さと怪しさ」が混じっていることです。 曖昧さのベールの向こうで素敵な事実を見つけた方が楽しいし、正しいことを教え込まれるより、 疑いながら自分の答えを見つける方がいいじゃないですか。 そこから思いもよらぬ連想や誤解が生まれたらチャンスです。 素敵な偶然の物語が動き出します。 伝えたいことを、遥かに超えた創造性が外からやってきたときに、 僕は伝わった喜びを全身に感じます。 愛妻家という未確認生物 群馬県の嬬恋村(つまごいむら)で男たちがキャベツに向かって「愛してるよーッ」と叫ぶ「キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ」略して キャベチューという催しがあります。 日本愛妻家協会という僕が作った怪しい会が主催しています。「愛妻家が集まる会ですか?」と毎度素敵な誤解が来ますので、 「いいえ愛妻家という未確認生物を探して調査する会です」と答えています。 するとみなさん、なぜかホッとします。 誤解は世界に広まって、CNNやBBCを通じて、日本人の男性が愛情表現をするなんて奇跡だ、世界は見習うべきだ、というとんでもないニュースが流れたりします。 キャベチューといったので、ジャガチューが現れ、チャバチューが出現し、伊勢の夫婦岩の前で叫ぶメオチューまで登場しました。 行動変容 そんな風に誰かが自由に、主体的な行動を起こしたときに伝わったと感じます。 線引きをせず領域を固定しない。意図的に心の中にハミダシを許すスペースを作ります。 すると新しい連携やアイディアが生まれ、限定を超えます。常識や定義に縛られない創造の翼が開きます。 広報の研究領域では、広報のゴールは伝えた数ではなく、行動変容を如何に起こしたかにその価値基準が移っています。 伝えるとは、社会により良き変化を起こすことそのものであるという解釈です。 あの日からインクルさんは僕の中にいます。新しい創造性の妖精は、未知の領域を楽しむときにだけ現れます。 写真1:嬬恋村「愛妻の丘」 写真2:インクル創刊号 11ページ キーワードで考える共用品講座第106講 「伝える」と共用品 日本福祉大学客員教授 後藤芳一(ごとうよしかず) 「伝える」目的は情報の伝達か相手を動かすことか。 伝える内容は情報かメッセージか。方法は標的に照準を当てるのか不特定に流すのか。媒体は何か。 発信者に意思や意図がなく受け手が感じることもある。これらのすべてを含め、共用品との関わりを考える。 ▼1.「伝える」とは何か 送り手の関わり方を発信する・しないで分けると、 X:特定の相手に向けた発信(他動詞的な発信)、 Y:対象を意識しない発信(自動詞的な発信)、 Z:発信しない、 の3つに分けられる。 受け手への作用については、 1:事実や情報を記録・保存される(時間を超えて参照される)、 2:受け手の判断に介入したり行動が促される(積極的なコミュニケーション)、 3:価値観が変わる(気づきなど)、 に分けられる。 送り手側の3つ(X~Z)と、受け手側に3つ(1~3)を組み合わせると、伝え方は9通り(=3×3)になる。 例えばX2の組合せとは、標的顧客に向けてコマーシャル・メッセージを発信すること(X)を通じて、顧客を購買行動につなげる(2)ということである。 ▼2.主な「伝える」 X~Zの具体例を見よう(複数に当てはまる事例は関わりの深い項目でふれる)。 (1)他動詞的な発信(X)  先に触れたX2が代表例である。 ほかには通達、仕事の指示・命令、災害の情報、POP広告、ダイレクトメールも同じ性格を持つ。 伝えたい相手に正確に届けるために、媒体の選択・情報を正確に伝える表現・表現の手段(例:文字情報、数値、図表)の組合せ が適切に選ばれているかが鍵になる。 (2)自動詞的な発信(Y) 特定の相手向けではないが、情報を公共的に共有する(Y1)こと。 多数が情報を共有することで世論を通じて社会を動かす、 知的財産の権利を確認(発信者、発信時点を記録)する、などが目的になる。 マスメディアの報道、学術論文、特許公報などがある。 ここでは情報媒体や手順が正当であるか、内容が正確であるかなどが鍵になる。 不特定多数を対象に、受け手の判断や行動に働きかける(Y2)。 消費財の成分や安全の表示、公共空間のサイン計画など。 説明者がいなくても独自で分かりやすく、情報が正確に理解される必要がある。 発信者があるグループに属していることを示す、価値観、ライフスタイル、社会的階層などを表現する(Y3)。 民族衣装や符丁、家紋、ブランド品、アパレルの様式、自動車の車種、飼う動物の種類など。 イメージを訴える宣伝もここに含まれる。価値観や生活様式と持つモノが対応することが前提にある。 利用するモノが生き方を示すという記号的な機能を持つ。 (3)発信しない(Z) 積極的な発信を行わなくても、結果として伝えることにつながることがある。 記録することで起きたことが情報として保存される。 後で利用されるかに関わらず記録すること自体に価値がある(Z1)。 伝承、記録、日記、お経・聖書、アーカイブ、標本など。 長い時を経るなかで受け手が新しい光をあて価値を生むことある。 受け手側に動機があって利用されるものもある(Z2)。基準(例:安全基準)や規格(例:工業標準)である。 作成する過程で関係者の認識や利用者の受容性が投影され、社会で共通の相場感を示す。 モノやサービスの提供者、利用者などがコミュニケーションをとる際の中継点(ハブ)の役目をする。 生活様式、社会が共有する価値観、思想などを実践すること(Z3)。 暮らし方、生き方が共感されれば人づてに広がり、それが大きくなれば文化になる。 ▼3.共用品との関係 共用品の事例はY2に多い。 シャンプー容器のギザギザ、家電製品のスイッチ、誘導ブロック、蝕知図など。 ほか点字、手話はY1、JIS規格やISO/IECガイド71はZ2である。 共用品が普及することで、不便さのある人に社会参加がウェルカムとのメッセージを送る、 共用品を見て開発と普及の取組みに加わる人が生まれる、共用の精神(類例:インクルージョン)が他の社会課題(例:環境、貧困)の解決 に活用される。これらを通じて、共用品は思想(Z3)の性格を持つ。 12ページ 国立科学博物館 2018夏休みサイエンススクエアに参加! 2018年7月27日(金)~29日(日)、(独)国立科学博物館が主催する「2018夏休みサイエンススクエア」に参加しました。 今年で10回目の参加となりました。昨年に続き、子どもたちからおもしろいと好評の、箱の中に入っているものを当てるクイズゲームを行いました。 28日はちょうど台風の接近で開催できるか心配でしたが、3日間で652人の子どもたちが共用品推進機構のブースに来てクイズに参加してくれました。 参加した子どもの中には外国から来た子もいました。 今年は、インターンシップで機構を希望した学生さん、早稲田大学の学生さん、 現役の小学校の先生方や標準化事業をご支援いただいている方たちが手伝ってくださいました。 また、(株)タカラトミーからはクイズに使った恐竜の共遊玩具をご提供いただきました。 大きい箱と小さい箱の中は? 子どもたちには受付を済ませたあと、大きな箱と小さな箱の中に入っているものを手探りで当ててもらいます。 大きな箱には代表的な共用品であるシャンプー、コンディショナー、ボディソープの3種類の容器、 小さい箱には3種類の動物のフィギュアが入っています。昨年はワニやペンギンなど誰もが知っている動物でしたが、 今年は子どもたちの興味がより広がるよう恐竜にしました。 恐竜は国立科学博物館の常設展「地球環境の変動と生物の進化―恐竜の謎を探る―」にも展示されている ティラノサウルスとトリケラトプス、それに翼竜のプテラノドンを加えました。 小さい子など恐竜にあまり馴染みがない子も多いため、クイズの問題をシルエット形式にして、 触ったときに何なのか分かりやすくしました。 大きい箱では、容器の3つの違いを触ってもらったり、説明してから箱の中に手を入れてもらいました。 「そんな工夫があるのは知らなかった。家のシャンプーにあるか確かめてみる」という子が多かったのですが、 「学校で習ったよ!これがシャンプーで、こっちがコンディショナー。 シャワーのときに目を開けなくてもシャンプーかどうか分かるんだよ」と説明してくれる子もいました。 小さい箱では、昨年の馴染みのある動物と違い、恐竜の名前はすぐに思い浮かべにくいため 「この頭が大きくて角が3つある恐竜はね」「口が大きく開くこの恐竜は歯が鋭いからお肉を食べてたんだよ~」と それぞれの名前や特徴を伝え、触ってもらってからクイズに挑戦してもらいました。 中には恐竜に詳しい子どももいて「プテラノドンは恐竜じゃないんだよ」 「これは口がとがっていて、お魚を食べてたんだよ」と教えてくれました。 自由研究にも使える冊子 クイズゲームを終えた子どもたちには、お土産として共用品の冊子と夏休みの自由研究にも使えるよう書き込みができる冊子を渡しました。 この冊子は、ここで行ったシャンプー・コンディショナー・ボディソープ容器の工夫以外にも、 家庭用ラップや調味料などの工夫について説明があり、後ろのページには自分で見つけた共用品の工夫を書き込めるようになっています。 サイエンススクエアで知ったシャンプー等以外にも、家の中や、街の中に共用品はたくさんあります。 そんな工夫をどんどん見つけて、この冊子を活用してもらえたらと思います。 当日の様子は当機構のブログでも紹介していますので、どうぞご覧ください。 2018夏休み サイエンススクエア――共用品ニュース http://www.kyoyohin-news.org/archives/52083102.html 田窪友和(たくぼともかず) 写真1:箱の中に入れたおもちゃ 写真2:透明な容器を触っている様子 写真3:箱に手を入れる様子 写真4:恐竜のおもちゃの工夫 写真5:恐竜を触って確かめる子 写真6:自由研究の冊子 14ページ さまざまな工夫のある製品を紹介します。 てこの原理でさらに!「エアかる」/プラス(株) 運動エネルギーが働く多くの場合、作用点(物が動く所)、力点(エネルギーを加える点)、 支点(力点の支えになる点)の3つが存在します。 そして、てこの原理「支点と作用点の距離、支点と力点の距離をそれぞれ変えることにより、 効率よく力を与えようとする働きのこと」は学校で習ったかと思います。 世の中には、てこの原理を応用したモノは、爪切り、はさみ、くぎ抜きなど数多く存在しますが、 紙を留めるクリップにもこの原理を使っているものがあり、つまみの部分を折り返すことによって、 かさばらないようにすることが可能なタイプのクリップは、今から約100年前に米国で特許登録されて以来、 ほぼ形を変えず日本でも使われてきました。 この長年定着しているダブルクリップが今年、小さな変化により大きな便利さを叶えたのです。 「てこの原理」を応用し開く力を最大約50%削減したクリップ。 本体部分に突起をつくり支点の位置を調整、さらにレバーの長さを最適化することで、大幅な省力化を実現。 また、フラットレバーが、指先の痛さを軽減します。 なお、本製品は2018年の日本文具大賞・機能部門の優秀賞を受賞しています。 是非、手にとって試してみてください! 写真:「エアかる」写真(上)、従来品との比較イラスト(下) 洗たく用洗剤「ノヴァージュ」プッシュ式で計量いらず! 第一石鹸(株) 第一石鹸製「ノヴァージュ」は、すすぎ一回のプッシュ式洗たく用液体洗剤。 キャップを使った計量は不要、ありそうでなかった方式です。 洗剤を量るときに洗剤が垂れ、容器の外側を汚すこともありません。 両手が使えない人にも便利な仕様です。 洗たくのとき、水の量が30Lなら二押し、45Lなら三押し。 使用量が少ないので「本当に汚れが落ちるの?」と心配になっても、もう一押しは禁物。 「少量でも確かな洗浄・抗菌力」を発揮するこの洗剤の良さが台無しです。 以前、「液体洗剤はなくなるのが早い」と思っている人がいると聞いたことがあります。 その人は、洗剤を〝勘〟で投入していたそうですが、ノヴァージュなら洗剤のむだ使いが防げます。 視覚に障害のある人たちも、プッシュ式が便利だと感じているそうです。 このことを会社に知らせたのは、同社社員のAさんでした。 「目が不自由な義理の両親に、使いやすいかなと思ってノヴァージュをすすめたら、便利だと喜んでくれた」。 現在、ノヴァージュは、一部の店舗と通信販売で購入が可能です。 販売しているお店を探すより、商品を届けてくれる通信販売の方が助かる、という人もいるかもしれません。 様々な人に試して欲しい製品です。 写真:ノヴァージュ 15ページ マニュアル・書籍紹介 コンビニエンスストア版『お客様応対マニュアル』発行 お客様に快く、安全に買い物を (一社)日本フランチャイズチェーン協会は、コンビニエンスストアの店員向けに、 コンビニエンスストア版『お客様応対マニュアル』を発行し、全国のチェーン店に展開しました。 車椅子使用者、視覚障害、聴覚障害などのお客様、補助犬(盲導犬・介助犬・聴導犬)同伴で来店されたお客様の援助を行うことによって、 快く安全に買物をしていただくことを目的としたマニュアルには、お客様応対の基本から、 ケース別応対方法まで、様々な視点や場面のポイントが分かりやすく記載されています。 より使いやすいコンビニエンスストアへ このマニュアルでは2014年度に弊機構とともに行った「コンビニエンスストアに関する良かったこと調査」の結果等も紹介して下さっています。 コンビニエンスストアが、お客様にとってより快適で安心して利用でき、「良かった!」が増えることを期待しています。 110規格が収録 6月29日、(一財)日本規格協会より、『JISハンドブック38 高齢者・障害者等2018』が発行されました。 高齢者・障害者配慮設計指針―アクセシブルデザイン、福祉用具に関する110規格が収録されています。 アクセシブルデザイン製品等の普及と市場の拡大に向けて 高齢者・障害者配慮分野の標準化は、すでに超高齢社会を迎えた日本にとって、今後ますます重要なテーマになります。 このハンドブックは、高齢者・障害者配慮分野のアクセシブルデザイン規格が分かる必携の一冊です。 【目次項目】 高齢者・障害者配慮設計指針ーアクセシブルデザイン 〔基本規格/視覚的配慮/聴覚的配慮/触覚的配慮/包装・容器/衣料品/施設・設備/情報通信/コミュニケーション/その他〕、 福祉用具〔用語/義足/義手/装具/車椅子・歩行補助具/移動・移乗機器/ベッド・関連用具/排泄用具/浴槽用具/聴覚障害機器/リスクマネジメント/生活支援ロボット〕 【価格】 15,444円(税込) (本体価格:14,300円) 【日本規格協会Webdesk】 https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0100/index/?syohin_cd=318645 『JISハンドブック38 高齢者・障害者等アクセシブルデザイン2018』 写真1:『コンビニエンスストア版お客様応対マニュアル』2018年4月発行 写真2:『JISハンドブック38』発行 16ページ 伝える…Think Globally, Act Locally 【事務局長だより】 星川安之 20年程前、高齢者・障害者配慮(アクセシブルデザイン:以下AD)分野の国際規格を作る事務局を共用品推進機構で引き受けることになった時、 必要なのは、Think Globally, Act Locally”だと国際規格作りのベテランから教わりました。 「世界規模で考え、行動は足元から行う」という意味の深さは、その時には気付きもしませんでした。 2001年に「規格作成者のための高齢者・障害のある人々への配慮設計指針(ガイド)」が日本提案で国際標準化機構(ISO)から発行されて以来、個別の国際規格作りが始まりました。 2001年にできた国際ガイド作成に加わった国はアジアからは日本のみだったこともあり、中国、韓国に理解を求めるところから始めました。 日中韓での会議は、当初日本語→中国語→韓国語と、順番に通訳の人が訳していくので、会議の時間は通常の3倍はかかっていました。 規格を作る意味を知らせるのに、日本でその工夫が始まっていたリンス容器と触って識別できる側面と上部にギザギザの付いたシャンプー容器は大変説得力がありました。 説得力は、通常の3倍かかっていた他国間での通訳の時間、じっくり考える時間があったことも「伝わる」に影響していたようにも思います。 さらに規格作りは進み、さらにシンガポール、マレーシア、タイの政府機関にもADの標準化作業への参加を呼びかけました。 その結果は、「大筋、ADの規格作りには賛同するが、障害及び高齢の当事者のニーズが我が国であるのかが不明」という理由で積極的な参加を得ることができませんでした。 そこで今度は、ミャンマー、ベトナム、インドネシアの障害者団体に対しての働きかけを行いました。 シャンプーのギザギザなど具体例を見せて話したところ「我々はADの普及に賛同するが、不便さは欧米や日本とは異なり、 教育や医療に関する命に係わることの優先順位の方が高い」との回答でした。 そこで、ADの標準化の元となっているのが「日常生活における不便さ調査」であり、 その調査は個別に陳情するよりもはるかに多くの公的、民間機関がその結果に耳を傾けその中の多くが不便さ解決に向けて動き、 AD製品やサービスの提供者になっていることを話しました。 その結果、是非、自分たちの国でもその「不便さ調査」を行いたいとなり実施し、各国で調査結果と共に、AD製品の展示まで行うに至ったのです。 規格はそのような背景で、既に40テーマが、国内規格となり、その内約6割が国際規格にもなっています。 ところで、提案国の日本はというと、いまだシャンプー容器のギザギザを知らない人がいるのが現状です。 遅まきながら「伝える」を足元である国内でも全力を入れてと思っているところです。 共用品通信 【イベント】 平成29年度活動報告会:東京ドームホテル(7月11日) 【会議】 第1回AD国際標準化検討委員会(本委員会)(7月20日) 第1回TC159国内検討委員会(7月20日) 【講義・講演】 宮城県仙台第一高等学校 共用品講座(7月6日、森川) 早稲田大学 障がい学生支援室(7月21日、星川) 消費生活コンサルタント養成講座「アクセシブルデザインの発想」(8月25日、星川) 【報道】 日本経済新聞「改札と切符」(6月23日) 日本経済新聞「電話」(7月28日) 日本経済新聞「UDタクシー」(9月1日) 時事通信社 厚生福祉「NTTクラルティの実践」(7月20日) 時事通信社 厚生福祉「みんなを元気にするダンスグループ」(7月31日) 月刊トイジャーナル8月号「かしわ餅のパンフレット」 月刊トイジャーナル9月号「日本玩具博物館」 エルダリープレス 高齢者住宅新聞8月号「夢見るのは『共用品』という言葉が消える日」 アクセシブルデザインの総合情報誌 第116号 2018(平成30)年9月25日発行 "Incl." vol.18 no.116 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2018 隔月刊、奇数月に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:http://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 編集長 山川良子 事務局 星川安之、森川美和、金丸淳子、田窪友和 執筆 伊藤宣真、小川益男、後藤芳一、鈴木厚志、中村さおり、前田晃秀、松田高加子、山名清隆 表紙デザイン ㈱グリックス 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。 その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。