インクル118号 2019(平成31)年1月25日号 特集:共用品と標準化 目次 練馬UDパーク 2ページ 共用品・アクセシブルデザインと標準化 4ページ ISO/IECガイド71に感じること 5ページ 音・音声に関する標準化 6ページ 視覚に関するアクセシブルデザインの標準化の現状 7ページ 触覚表示に関する標準化 8ページ コミュニケーション絵記号からの発展 ~ANAの試み~ 9ページ 子供達と考える標準化~“なぜ?”と“もっと”~ 10ページ キーワードで考える共用品講座第108講「共用品と標準化」 11ページ サイトワールド 12ページ 『片手でクッキング』~食を通じた共生社会の実現へ~ 13ページ 沖縄のバリアフリー観光案内所 14ページ 日本消費者協会講座 15ページ 2018年度 共用品研究所 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 表紙写真:各団体・製品のマーク JISC(日本工業標準調査会) JSA(一般財団法人日本規格協会) JISマーク SGマーク 盲導犬マーク うさぎマーク 2ページ 練馬UDパーク ねりまユニバーサルフェス 2018年12月15日、東京の西武池袋線練馬駅の2階出口から通路でつながっている練馬区立区民・産業プラザの3階にあるココネリホールを中心に、同階にある複数の会議室を使って練馬区主催のイベント「みんなのUDパーク」が開催されました。 このイベントは、練馬区が昨年、区独立70周年を記念し、障害のある人、高齢者、子供、外国の人など様々な人が共に暮らせる地域社会の実現を目指して、スポーツや音楽、アートを楽しみながらお互いに理解を深めるため計画した「ねりまユニバーサルフェス」という8つのイベントの1つです。 「ねりまユニバーサルフェス」 では、障害者・高齢者等の地域の施設等をめぐる「ねりあるきラリー」、「ノーマライゼーション水泳フェスティバル」、「ユニバーサルスポーツフェスティバル」、福祉団体・障害者施設の利用者による歌・踊り・展示・物販等を行う「障害者フェスティバル・障害者福祉大会」、「障害者ふれあい作品展」、「Nerimaユニバーサルコンサート」、「障害者差別解消法普及啓発事業(パネル展示・講演会)」そして、今回ご紹介する「みんなのUDパーク」です。 みんなのUDパーク みんなのUDパークは、UD製品(日用品、玩具、食器・調理器具・嗜好品)などの「モノ」と共に、各種体験(バリア体験〈車椅子・手話・点字〉・アイメイト・ダーツ・ボッチャ・風船バレー)及びダンス、楽器演奏、劇などの「コト」を通じて目的の「共に暮らす」を、参加する人すべてでそれぞれの立場で考 え、実行するきっかけになることを目指したイベントです。 練馬区としては、昨年に続き2回目のイベントですが、今回はじめて共用品推進機構として、企画段階から関わらせていただきました。 そんな立場から、イベント内容を紹介していきます。 今回のメインテーマは、「楽しみながらUDにふれよう!」、としてそれを実現するためにそれぞれのコーナーを「見る」、「知る」、「体験する」の3つの切り口で行いました。 「知る」コーナー 「知る」コーナーでは、18年の国際福祉機器展の主催者コーナーで行った「片手でも使えるモノ展」に商品を展示された企業に協力を求め、 テーブルをロの字にし、中に説明員が入るタイプには日用品を、直径2メートルほどの丸いテーブルには、白いテーブルクロスをかけ、 食器類を並べ、多くの人に片手でも使えるモノを実際に手に取り、実感してもらうことができました。 今回新たな試みとして、練馬区在住の視覚障害並びに聴覚障害当事者の人たちに、100円ショップに行ってもらい、自分たちが使いやすい商品を選んでもらいました。 その商品と共に使いやすい理由を書いたカードを展示したところ、同じ障害のある来場者はもとより、多くの人に各障害の不便さとその解決方法まで同時に伝えることができました。 床を傷つけないために椅子の足先につける「布製のソックス」は、外から室内に入った時に白杖の先につけ、 屋外での汚れを室内に落とさないために使用する、「ペットボトル入れ」は、折りたたんだ白杖を入れるケースとして使う等、 本来の使用方法ではない使い方には、多くの人が「へ~!」を連発されていました。 「体験する」コーナー 今年初めて登場した「ダーツ」では、車椅子使用者の的の高さが、一般に比べて少し低いものや、マグネットが先についている矢や、的が床にシート状になっているダー ツなど、障害があるなしに関わらず共にできるスポーツが紹介されました。 このコーナーも、開始当初から終わりまで、人が途切れることなく歓声があがっていました。 「見る」コーナー 字幕や音声ガイドがついた邦画の上映は、障害の無い人も多く鑑賞し、字幕や音声ガイドがあることによって、 普段気にしていないことに気づくことができたと、新たな映画の見方を発見されている人もいました。 イベント会場では、開場から閉会まで、さまざまなパフォーマンスが主に障害のある人たちによって繰り広げられました。 オープニングは、ダウン症のある人たちのダンスグループ「ウィングス」による迫力ある踊りで、会場中が大きな手拍子で包まれました。 全盲の女優、美みつき月めぐみさんが参加する演劇結社「ばっかりばっかり」は、「悪い人じゃないんだけど」と題して、 障害の無い人が障害のある人に持っている勘違いや偏見を、ユーモアを含め伝える見事な劇を見せてくれました。 区内の連携 今回、もう一つの目玉だった のは、練馬区内にある日本大学芸術学部デザイン学科で、UDを学ぶ学生さんたちが、指導の教授と共に参加してくれたことでした。 学生たちが今までに調査研究し、試作した60種類ほどのペットボトルオープナーは、若い柔らかな頭で考えたアイディアでした。 さらには、来場した子供たちも作成できる紙コップホルダーは熱さ対策に、レジ袋の柄につける取っ手は、荷物が重いときにも持ち手が指に食い込まず、 誰にでも便利なUDになるように工夫されていました。 まとめ イベントの多くは、準備に時間をかけた割に、あっけなく終わってしまいます。 それだからこそ、来場者に印象に残ること、そして継続することが必要になります。 このイベントが、練馬区に関わりある人に浸透するまで継続することを祈っています。 星川安之(ほしかわやすゆき) 写真:みんなのUDパークチラシ 写真:全体図 写真:片手でも使えるモノコーナー 写真:100円ショップでのUD製品 写真:シート状になっているダーツ 写真:演劇結社「ばっかりばっかり」 4ページ 共用品・アクセシブルデザインと標準化 ことはじめ 1993年に、市民団体E&Cプロジェクトが行なった目の不自由な人への調査では、多くの不便さが明らかになりました。 大別すると、平面に書かれた表示が読めないことと、移動の際の不便さです。E&Cでは、不便さの解決にむけ、 チームを家の中、家の外に分け、さらに個別の製品やサービスに細分化し、作る側、使う側、中間の立場が同じテーブルにつきました。 「カード班」はテレフォンカードを始めとする異なる種類のプリペイドカードの識別が困難という課題に取り組みました。 永ながい井武たけし志班長を中心に検討を重ね、挿入方向左手前に、テレフォンカードは半円、交通系は三角、買い物系は四角の切り欠きを付ける案に辿り着きました。 東京銀座のソニービルで行った共用品の展示会でも紹介したところ、多くの反響がありました。 けれども、関係する全ての機関に説明し理解を求めるのは現実的ではないと思っていた時に、E&Cのメンバーでもあり、 通産省(当時)に勤務していた後藤芳一(ごとうよしかず)さんからの、 「エビデンスがあり、使う側、作る側及び中立者が合意しているルールであれば、日本工業規格(JIS)にする道がある」 とのアドバイスが、共用品のJISと出会いでした。 その後、日本規格協会内に設置されたプリペイドカードのJIS作成委員会に参加し、1996年3月、「JIS X 6310プリペイドカード―一般通則」の名称で発行されました。 今回は、プリペイドカードから始まった共用品の規格を特集します。 星川安之(ほしかわやすゆき) 写真:プリペイドカード 表紙のマークについてのご説明 JISC(日本工業標準調査会) 工業標準化法に基づいて経済産業省に設置されている審議会で、工業標準化全般に関する調査・審議を行っています。 JSA(一般財団法人日本規格協会) 工業標準化及び規格統一に関する普及、啓発等を図り、技術の向上、生産の能率化に貢献することを目的としています。 JISマーク 国が登録した民間の第三者機関(登録認証機関)の認証を取得することで、JIS(日本工業規格)に適合する製品に表示することができるマーク。 SGマーク 製品安全協会が定めるSG基準に適合するものとして認証された製品に表示される安全・安心のマーク。SGマーク付き製品の欠陥により人身事故が発生したときは賠償措置が講じられる。 盲導犬マーク 目の不自由な人たちのために配慮された玩具に付けられるマーク。 うさぎマーク 耳の不自由な人たちのために配慮された玩具に付けられるマーク。 5ページ ISO/IECガイド71に感じること NPO支援技術開発機構 山内繁(やまうちしげる) 2014年末にガイド71が改訂・発行されてから4年が経過した。その審議は「誰にも不満が残った」ものであった。 審議経過については作業委員会ごとに会議の様子を松岡光一(まつおかこういち)氏が本誌に逐次報告している。 また、2001年版の事務局を担当し、2014年版の改訂作業委員会のコンビーナとして紛糾した会議のとりまとめにあたられた 宮崎正浩(みやざきまさひろ)氏(跡見学園女子大学教授)による解説(日本生活工学会誌、14巻2号7ページ、2014年)が詳しい経過を紹介している。 ガイド71の概要 ガイド71のタイトルは2001年版の「高齢者および障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針」から 2014年版では「規格におけるアクセシビリティ配慮のための指針」と改められた。この変更は国連の障害者権利条約において強調された 「アクセシビリティ」が中心概念として確立したことによるところが大きい。 国際標準における「ガイド」とは、「国際標準作成のための規則・方向性・アドバイスまたは推奨事項」であり、規格作成のためのガイドラインである。 ガイド71は、本来は製品、環境、サービスなどの規格にアクセシビリティの要件を取り入れるための指針であるが、これら の計画・デザイン等の実務上の指針としても役立つように策定されている。ガイド71はJISの翻訳規格としてJIS Z 8071となっている。 ガイド71の本文は、 ①適用範囲、②用語と定義、③アクセシビリティ、④アクセシビリティのプロセス、⑤ガイドの適用法、⑥アクセシビリティ目標、⑦人間の能力と特性、⑧アクセシビリティのための戦略の8つの章から構成されている。 アクセシビリティの11原則 ここで注目したいのが第5章「アクセシビリティ目標」である。聞き慣れない言葉であるが、宮崎教授も解説しているように、 元々は「アクセシビリティの原則」として11の原則が提案されたが、その可否を巡って厳しい対立が発生した。結局、「目標」で折れ合った。 最近の国際規格は設計あるいは記述的特性ではなく、性能特性として記述することが求められている。そのために、「原則」を明確にした演繹的記述が多くなっている。 そのようなものとして提案された11の原則であるが、内容的によく見てみると、ロン・メイスによる「ユニバーサル・デザインの7つの原則」との重複もある。 むしろ、7つの原則を整理して記述したものと解釈できる。 「アクセシビリティの11原則」として位置づけ直してみると、それなりに筋が通っているし、「7つの原則」よりも判りやすい。 そうしてみると、「プロセス」や「戦略」等の章の組み直しも視野に入りそうである。さらに、具体例に則した検討が必要であろう。 策定作業時のホットな議論は横に置いて、熟慮を要する時期にさしかかっている。 ISO/IEC ガイド71アクセシビリティの11原則 1.より多くのユーザーへの適応 2.ユーザーの予測との一致 3.個々のニーズへの対応 4.アプローチしやすさ 5.知覚しやすさ 6.理解しやすさ 7.操作しやすさ 8.ユーザビリティ 9.エラーの許容性 10.公平な利用 11.他のシステムとの互換性 6ページ 音・音声に関する標準化 早稲田大学 人間科学学術院 教授 倉片憲治(くらかたけんじ) 家電製品をはじめとする私たちの身の回りの製品(消費生活用製品)には、お知らせ音(報知音)や音声案内で製品の動作状態や使用方法を教えてくれるものが数多くあります。 これらの機能によって、表示パネルを見なくても製品を確実に操作でき、また取扱説明書を読まなくても使い方を理解できるようになっています。 特に、使い慣れない製品や多機能化が進んだ製品を使用する際には、報知音や音声案内は、製品を正しく使用するために欠かせない機能と言えるでしょう。 報知音の標準化 しかし、報知音はかつて、製品の種類やメーカーによって鳴らし方(音のON/OFFパターン)が異なっていたり、 聴力が低下した高齢者には聞き取りにくい音であったりすることが問題となっていました。 そこで、一般財団法人家電製品協会などが中心となって、報知音のON/OFFパターンや、周波数・音量の設定方法の標準化が進められました。 これによって、同じ報知目的には同じパターンの音が割り当てられ(図1参照)、周波数も音量も多くの人にとって聞き取りやすく設定されるようになっています。 筆者は、裸眼では手元の新聞の文字も読めないヒドい近眼なのですが、このJISが制定されてからは、報知音を頼りに家電製品の操作がとても楽になりました。 報知音の標準化は、手がけた私自身が最も恩恵を受けている者の一人かもしれません。 なお、制定されたJIS S 0013及びS 0014の2つのJIS(日本工業規格)は、その後、ISO(国際標準化機構)規格としても発行され、世界的に通用しています。 音声案内の標準化 近年、家電製品等で多く搭載されるようになってきた機能の一つが音声案内です。 以前から音声案内を使用した製品は存在していましたが、技術の進歩に伴って音質が向上するとともに、多様な案内を組み込むことができるようになりました。 使用者の好みに応じて音声のスピード(話速)を選べるものがあるのも、最近の製品の特徴です。 音声案内は、製品を見て操作することのできない使用者にとっては、便利で大切な機能です。 そこで、聞き取りやすく、理解しやすい音声案内の普及を目的に、家電製品協会と産業技術総合研究所が主導して標準化を進めてきました。 2018年にJIS S 0015として日本工業規格が制定されたのに続き、現在、ISO規格化の作業が進められています。 図1 報知音のON-OFFパターン(JIS S 0013) 写真:報知音の聴取実験の様子 7ページ 視覚に関するアクセシブルデザインの標準化の現状 (国研)産業技術総合研究所 伊藤納奈(いとうなな)、佐川賢(さがわけん) 標準化にはそれぞれの課題があり、その解決を規格という社会的ルールで図っていく。 視覚のアクセシブルデザインに関する標準化も、高齢者や障害者が抱える様々な視覚的問題や不便さを解決しようとする。 その課題を挙げてみると、良く指摘されるものとして以下のようなものがあり、図1にそのいくつかのイメージを示す。 ・高齢になると青色光が暗く見え、サイン表示や印刷情報を見落とす ・高齢になると色の識別・弁別が悪くなり、色分けされた地図や表示盤を見間違う ・高齢になると文字・文章が読みづらくなり、新聞、商品パンフ、地図などの小さな文字を読み間違う ・高齢になると視野が狭くなり標識や重要サインの見落としが出てくる ・ロービジョンは細かな識別が難しく、文字等は極端に大きくないと読めない ・ロービジョンは色の識別がかなり難しく、色分けされた表示が分からない ・色弱は赤と緑の識別が難しく、信号の色や充電器のランプの色なども見分けがつかない ここで列挙した課題は代表的例であって、この他にもまだ数えきれないほどの様々な問題がある。 例えば、文字・文章の課題をとっても様々な検討要素があるだけでなく、ディスプレイ、包装ラベル、標識・看板等、各応用分野でそれぞれ配慮すべき事項がある。 そこで、視覚のアクセシブルデザインでは、具体的課題を踏まえつつ、そこから横断的なデザイン技術を抽出し、その基盤技術の標準化を段階的に進めている。 表1はこれまでにJISやISOで視覚的課題として取り組んできたもので、すでに規格化されているものや審議中のものである。 JISが先行しISO国際規格に発展したものもあれば、JISを飛ばしていきなりISOという迅速化したものもある。 例えば、JIS S 0032は一文字の最小可読文字サイズを推定するものであるが、文字を扱うすべてのデザインに共通して用いられる技術である。 家電製品のラベル、取扱説明書、ウェブデザインなどはもちろん、高齢者向け金融商品のパンフレットなどのトラブル防止(金融庁指針)などにも役に立つ。 JIS S 0033も同様に、高齢者の識別しやすい色の組み合わせという基盤技術であり、色を扱うすべての家電製品や建物内の視覚表示物全般に展開できる。 明るさやコントラスト問題もJIS S 0031で検討されているが、適正なコントラストについては今後の課題である。 視覚障害に関しては、人間工学的データベースの欠如から規格開発がやや遅れているものの、検討は着実に進められている。 ロービジョンや色弱に関しては、色の組み合わせや報知光という規格で検討が進められており、今後、他の文字サイズやコントラストなどでも近い将来規格化されるものと思われる。 視覚のアクセシブルデザインの標準化は今後基盤技術の開発とともに、ロービジョンや色弱に関する規格、さらに報知光などの個別規格の開発を進めていくと思われる。 図1 アクセシブルデザインの視覚的課題の例 表1 視覚に関するアクセシブルデザインのJIS/ISO規格対照表 JIS規格/ISO規格 JIS S 0031:2004 高齢者・障害者配慮設計指針.視覚表示物.色光の年代別輝度コントラストの求め方(2012改正) /ISO 24502:2010 Ergonomics.Accessible design.Specification of age-related luminance contrast JIS S 0033:2006 高齢者・障害者配慮設計指針-視覚表示物-年齢を考慮した基本色領域に基づく色の組合せ方法 /ISO 24505:2016 Ergonomics.Accessible design.Method for creating colour combinations taking account of age-related changes in human colour vision JIS 未定(色弱者とロービジョンの色の組み合わせ) /ISO 24505-2:xxxx Ergonomics.Accessible design.Method for creating colour combinations Part 2: for people with defective colour vision and people with low vision (NWIP) JIS TR S0005:2010 ロービジョンの基本色領域データ集 /- JIS S 0032:2003 高齢者・障害者配慮設計指針-視覚表示物-日本語文字の最小可読文字サイズ推定方法 /ISO 24509:xxxx Ergonomics.Accessible design.A method for estimating minimum legible font size for people at any age (FDIS stage) JIS 未定(報知光のデザイン) /ISO 24550 Ergonomics.Accessible design.Indicator lights on consumer products (DIS stage) JIS S 0021-2包装-アクセシブルデザイン-情報と表示(審議中) /ISO 19809:2017 Packaging.Accessible design.Information and marking 8ページ 触覚表示に関する標準化 (社福)日本点字図書館 和田勉(わだつとむ) 視覚障害者にとって共用品や標準化は、とても心強い存在です。 見ることで情報が得られない・得にくい者にとって、場所が決まっていたり、形が決まっていたりすることは、それだけで大きな手がかりになるからです。 中でも触覚による手がかりは、見える人にとって気づきにくいちょっとした工夫が、視覚障害者の便利に直結するという特徴があると思います。 包装容器の触覚表示 1991年、シャンプー容器側面に短い凸の横棒線を縦に連続で並べる触覚表示を花王株式会社が考案しました。 当時実施された視覚障害者の不便さ調査で、シャンプー容器とリンス容器は見た目や形状のデザインがよく似ているため、識別困難な製品と回答したからです。 花王株式会社は、この触覚識別表示の実用新案の権利を放棄して、業界全体に取り入れることを提案しました。 各社がこれに賛同したため、今では国内のほぼ全てのシャンプー容器に表示があります。 この触覚表示は、見える人にとっても便利であることから、ユニバーサルデザイン(共用品)の代表事例として広く知られています。 近年では、ボディソープ容器側面に縦に長い凸棒線を表示する意匠が規定され、新たな触覚表示として普及し始めています。 包装容器の分野では、ほかにも、ラップ紙箱の両側面に「W」をデザイン化した浮き出し表示や、牛乳紙パックの上部の切り欠きといった触覚表示が業界標準の意匠として使われています。 こうした包装容器の触覚識別表示整理のために「JIS S 0022-3:包装・容器―触覚識別表示」(2007)が制定されています。 この規格では、どの位置に、どのような方法で、どういう内容を入れるのが望ましいかについてなどを規定しています。 機器等の触覚表示 家電製品の操作部にも触覚表示は数多く見られます。テンキーの「5」ボタンや、運転開始ボタンなどに付ける凸点、運転停止ボタンに付ける凸バーなどです。 これらは、日本玩具協会や家電製品協会の先行的な取り組みが「JIS S 0011: 消費生活製品の凸記号表示」(2000)としてまとめられたことから普及が進みました。 機器操作部への触覚表示には、他にも浮き出し文字や三角記号といったものもあります。これら触知記号の適切なサイズもJISで規定されています。 JISと言えば、共用品が、初めて規格作りに関わったのは「JIS X 6310:プリペイドカード―一般通則」(1996)でした。 挿入方向を間違えないように、テレホンカード等の端に切り欠きを付けることを定めた規格です。 近年、プリペイドカードは見なくなりましたが、交通系ICカードの端には、今も触覚の手がかりが残っています。 点字・触知案内図 広い意味では、公共設備の点字案内や触知案内図の規格も触覚表示の標準化に含まれるかもしれません。 しかし、その内容は専門的です。いわゆる点字サインと呼ばれる表示の標準化の成り立ちとしては、 公共施設での設置が法令等で義務づけられて以降、点字や視覚障害者の触知覚特性に知識のない業者が作り出す不適当な表示を減らすことを目的としているからです。 写真:シャンプー容器の触覚識別表示 9ページ コミュニケーション絵記号からの発展 ~ANAの試み~ 株式会社 アイ・デザイン 堀口仁美(ほりぐちひとみ) 指で指しながら会話するコミュニケーション支援ボード(以下、支援ボード)で使用する絵記号を標準化した 「コミュニケーション支援用絵記号デザイン原則JIS T 0103:2005」が出来てから、今年で14年目となる。 その間、銀行、鉄道、バス、空港、観光地などで支援ボードは広がりを見せ、絵記号を目にする機会も増えている。 また、支援ボードも2016年に「ISO 19027:2016 Design principles for communication support board using pictorial symbols」としてデザイン原則がまとまり、「標準化」が着実に進んでいる。 支援ボードは紙に印刷されたものが多いが、2016年からANA(全日本空輸)はタブレット端末を活用した『ANAコミュニケーション支援ボード』(※1)を開発、導入した。 同社はこれまでも紙を指で指し示すタイプを使用してきたが、活用できるシーンが限定的であった事や、訪日外国人の増加と多様化するニーズに対応できるツールの必要性が高まっていた。 タブレット端末を活用した支援ボードでは、最大17言語に対応し、絵記号に加え親しみやすいイラストでお客様との円滑なコミュニケーションを可能にしている。 機内や空港など、シチュエーションに応じた項目を選択でき、音声が流れるボタンやタブレット画面上で筆談できる機能も備えており、お客様一人ひとりの要望に応じた更なるサービスの向上に役立っている。 導入から3年目を迎えるが、職員の使用状況やお客様のお声などを日々収集し、不足している項目や不便だった点、便利だった点などを分析し、支援ボードをアップグレードしている。 これもタブレット端末ならではの利点であり、さらなる発展、進化をしていることが何より素晴らしいと感じる。 今回、弊社は画面のデザインをお請けした。〝相手に意思を伝えたい〟と思う時に感じるストレスが少しでも和らぐよう、 絵記号やイラストのデザインなど、「見て楽しい支援ボード」となるように心掛けた。 今後も様々な場所で支援ボードが利用され、共生社会の一助として定着することを願っている。 (※1)全日本空輸株式会社・ANAウィングス株式会社【プロペラ機への搭乗アダプターの開発等、空港・機内・搭乗時の各シーンにおけるバリアフリー化】の取り組みの一つとして、第10回国土交通省バリアフリー化推進功労者大臣表彰を受賞 写真:使用シーンイメージ 写真:タブレット端末画面イメージ 図:ANAオリジナル絵記号の例 10ページ 子供達と考える標準化~“なぜ?”と“もっと”~ 共用品推進機構では、子供達に共用品(アクセシブルデザイン)についての授業を行っていますが、 「標準化」はこの授業にとって、重要なキーワードの一つになっています。 不便なことは誰にでもある 授業で使用する共用品を教室に持ち込むと、子供達は決まって集まってきます。「なんで、これ(製品)持ってきたの?」、「これ家にもある」と興味津々です。 授業が始まり、実際の共用品を用いて、様々な工夫を子供達と会話をしながら見つけていきます。 いくつかラベルのない容器を持って行くと、視覚から得られる情報がないため、中味の識別ができません。工夫を知らない子供達は何が入っているか〝勘〟に頼ることになります。 情報の表示がなければ、自分達にも不便であることを知ります。そのような中、自信をもって手を上げる子供達がいます。シャンプー容器にある工夫を知っているのです。 なぜ工夫があるの? 「シャンプーの横と、手を押して出す所に『きざみ』があります」、「目が見えない人に助けになる工夫です」、 「シャンプーをする時、目をつぶるから、みんなに分かる印だと思います」と次々に意見が飛び交います。 続けて、「シャンプーやリンスと間違えてしまう容器(入れ物)はありますか?」と尋ねると、ボディソープなど、似たよ うな容器を挙げます。 同じような容器には、決まったルールが必要で、情報がまちまちだと、使う人が困ることに気付くようになります。 障害が有る無しに関わらず、だれでも十分な情報や環境が得られなければ、分からないことがあることを知ると、目の前にある共用品に対しての興味がどんどん湧いてきます。 「標準化」の大切さに気付くと、「これ(製品)の工夫はいいけれど、中味が何か分からないから、分かるように〇〇をつけるといいと思います」という発言も聞かれるようになります。 そして聴覚からの情報が得られない場合はどうすればよいかなど、どんどんアイディアを考えてくれます。 標準化を取り入れた共用品授業は〝教える〟というより、〝一緒に見つけていく〟、そして〝解決策を考えていく〟ものだと子供達に教えてもらったように思います。 これからも弊機構は標準化を含めた共用品授業を進めていきたいと思っています。 森川美和もりかわみわ 写真:ラベルのない容器 11ページ キーワードで考える共用品講座第108講「共用品と標準化」 日本福祉大学客員教授 後藤芳一(ごとうよしかず) 共用品の標準化は、共用品推進機構ほかの関係者や業界団体が定めた識別方法や、それをJIS(日本工業規格)やISO(国際標準化機構)の規格にして用いている。これらを念頭に整理する。 ▼1.標準化の目的 「標準化とはコミュニケーションである」(垣田行雄(かきたゆきお)氏)。仕様や識別方法を共通化することで、供給者や利用者がモノやサービスの用途や役割を共有できる(例えばJISは生産者、消費者、学識経験者の意見を総合して定める)。 関係者の利害が調整され、仕様の基準ができることで需給が効率化され、利用環境とすり合わせやすくなる。こうしたことから、社会基盤という公共的性格をもつ。標準化に沿わないものは排除されるので、競争戦略に利用されることもある。いずれもコミュニケーションの機能に発している。 ▼2.標準化の法的枠組と手法 (1)ソフトローとしての標準化 社会で規範を運営する方法にはハードローとソフトローがある。前者は国などの主体があって法的な拘束力をもち、時には罰則で義務づける。後者は強制的に実行させる主体がない。その結果、前者は手続きや証拠を要するのに対し、後者は形式的な証拠がなくても関係者が(暗黙も含め)合意していればルールとしての力を持つ。 (2)標準化におけるデファクトとデジュール 標準化の方法にはデファクト(de facto)とデジュール(dejure)標準がある。前者は広く普及することで結果的に市場で共有されるルールとなった、後者は公的な機関で合意して定めたものである。 前者は市場が適切に機能している場合は問題はないが、意図的・非意図的に市場の失敗(例:独占)が生じると公正さが失われることがある。後者も、最後は議会の多数決で決めるので、多数派の意見が通ることになる。 ▼3.標準化の手法と変遷 これらをまとめると、「ハードロー(X1)とソフトロー(X2)」〈上の(1)〉と、「デファクト(Y1)とデジュール(Y2)」〈同(2)〉を組み合せて、理屈の上では4つ、現実には3つの組合せが生じる。「ハードロー・デジュール(X1Y2)」には、法律や条約がある。「ソフトロー・デジュール(X2Y2)」には、JIS、JAS、ISO/IECなどがある。「ソフトロー・デファクト(X2Y1)」には、マイクロソフトのWindows、VTRやDVDの規格、ムラやコミュニティの約束ごと、社是、CSRなどがある。 同じ範疇で性格が異なるものがある。例えば絵文字(ピクトグラム)は、交通標識(警察庁)は強制法規や罰則と連動するのに対し、行政が規則で決めた地図(国土地理院)や海図(海上保安庁)記号(X1Y2)、慣習的に用いてきた床屋の回転標識(X2Y1)など識別を目的とするものがある。 社会環境の変化に応じて、当初は任意に用いられた(X2Y1)が、後に一部がデジュール規格(X2Y2)になるものもある。 絵文字は元は任意に用いられたものが、公共性の高さや安全性から2002年以後に一部がJIS化された。最近では2017年に、2020年東京オリ・パラに伴う外国人観光客の増加などに備えて追加で規格化された。 ▼4.共用品と標準化 共用品の標準化の経緯にも変遷がある。古くから柏餅の粒あんとこしあんを区別するため包む柏の葉の表裏で分ける(供給者の識別目的、X2Y1)などがあった。 1990年頃までに5の凸点(電話機)や晴盲共遊玩具(日本玩具協会)などが導入された。90年代には触覚でリンスと識別できるシャンプー容器(花王から日本化粧品工業連合会に拡大)が提供されるようになった(X2Y1)。 98年にはプリペイドカードを切り込みの形状によって識別する方法が規格化され、共用品として初めてのJISとなった(X2Y2)(A)。 同98年に日本政府を通じてISOへ提案し、2001年に「規格作成における高齢者・障害者のニーズへの配慮ガイドライン(ISO/IECガイド71)」が発行した。同ガイドは個別規格を定める際に横断的にかかる原則であり、日本は議長国として推進した(B)。Aは一般にあるが、Bは、日本の共用品への取組みの国際的な先進性と普遍性を反映している。 12ページ サイトワールド 昨年11月1日から3日間、13回目となる、視覚障害者の使う用具・機器の展示会「サイトワールド」が行われました。 会場のすみだ産業会館8階にエレベーターであがり右に15メートル視覚障害者誘導用ブロック沿いに行くと受付があり、 そこには活字のガイドブックと共に点字版があり配布されます。受付横の壁には会場のレイアウトが触ってわかる地図、触知案内図で示されています。 今回は、歩行、読書、パソコン、プリンター、情報、家電、サービス、日常生活用製品など、15カテゴリーに、66機関の出展がありました。 その中から、共用品・共用サービスの観点から、いくつか紹介したいと思います。 転倒防止機能が付いた液晶テレビ 最近のテレビは技術の進歩により薄型になっていますが、薄型になったことで、地震の時などに転倒する可能性もあります(メーカーはベルトで台に固定するなど転倒防止対策をお願いしている)。そのため、今回展示されていたパナソニック社が直営店で販売するデジタルテレビには吸着操作スイッチがあり、押してオンにするだけでスタンド底面の吸着機能が働き、本体と設置面が固定されて倒れにくくなる仕組みになっていました。 レンジグリル(オーブンレンジ) 三菱電機のオーブンレンジは、操作の補助をする音声の音量や速さの設定が、使う人に合わせて調整できるようになっています。 さらに、レンジ機能とグリル機能の両方が付いているため、食材を中から温めるレンジ機能と、外から温めるグリル機能が、 音声ガイドの付いたボタン操作で行え、香ばしく焼き色をつけることも可能です。 エポスカード触覚表示 丸井グループのクレジットカード事業会社であるエポスカードは、「触れることで他のカードと識別できるクレジットカード」への対応を計画、 一昨年サイトワールドにて来場者に意見を聞きました。その結果、昨年の6月よりすべてのエポスカードに、識別マークとして3つの凸点を入れて発行しています。 今年のブース内では、同クレジットカード発行開始についての報告がされていました。 サイトワールドで来場者に意 見を聞き、自社の製品やサービスに工夫をするきっかけにしている例ですが、このように展示会での意見を製品に反映させることも、 この展示会の大きな役割の一つと言えます。 その他にも、視覚障害者へのネールアート、視覚障害者のための部屋探しなど、モノばかりでなく、コトに関しての展示が増えてきているのは、 それだけ視覚障害者の社会参加が進んできたことを意味するように思います。 今後も、多くのニーズに耳を傾けながら、さらに多くの人にこの貴重な情報が届くことを願っています。 星川安之 写真1:レイアウトが触ってわかる触知案内図 写真2:ボタンを押すと転倒防止の機能が働くテレビ 写真3:3つの凸点を入れたカード 13ページ 『片手でクッキング』~食を通じた共生社会の実現へ~ 東京ガス(株)東京2020オリンピック・パラリンピック推進部 原口 聖名子(はらぐちみなこ) 目からウロコ! 『片手でクッキング』 東京ガスは、東京2020オリンピック・パラリンピックのオフィシャルパートナー(ガス・ガス公共サービス)として、 この東京2020大会をきっかけと捉え、年齢、性別、障がいの有無にかかわらず、全ての人がいきいきと暮らしやすい共生社会の実現に向けて、さまざまな取り組みを実施しています。 その取り組みの一環として、脳卒中の後遺症などで片まひになった方やケガで片手しか使えない方、先天的に四肢に障がいのある方なども、 楽しく簡単に調理ができるよう、ちょっとしたアイディアやコツを盛り込んだレシピ集『片手でクッキング』(横浜市リハビリテーション事業団監修)を発行しています。 レシピ集発行後の反響 レシピ集は「ツナトマトソースのペンネ」「鶏肉の炭火焼き風とグリル野菜」など、栄養バランスや彩りに配慮し、作りやすく食べやすい7品を掲載。 食材を固定できる釘がついたまな板や滑り止めマットなどを活用して料理を完成させる手順を分かりやすく紹介。 ウェブサイトでも公開しており、印刷して取り出すことができます。 また、公開後からホームページのアクセス数が飛躍的に増え、テレビや新聞・雑誌でも多数取り上げられ、反響を呼んでいます。 食を通じ、共生社会実現へ レシピ集発行後から、各地域行政で開催されるイベントなどにも片手でクッキングPRブー スを出展。ブース内では、『片手でクッキング』レシピ集の紹介と「片手でチャレンジしてみよう!ミニ体験コーナー」を設け、 来場者に片手だけを使ったペットボトルのフタ開け、ラップかけの体験を実施し、多くの方に関心を寄せていただいています。 同時に、片手でも使いやすく、人にやさしい便利な調理道具や食器なども展示しました。 展示・体験が誰もが積極的に参加・貢献していける社会環境、全員参加型の共生社会づくりには健常者が障がい者の日常生活への理解を深めること、 そしてちょっとした工夫が大切ということなどへの気づきの場となっています。 さらには、東京ガスのイベントでは、親子ペアでの片手でクッキング体験料理教室や「目からウロコ!片手でクッキングショー」を実施。 今後も、片手でも楽しく料理するためのノウハウを多くの方にお伝えし、共生社会実現のための取り組みを進めていきたいと思っています。 写真1:アイディアやコツを盛り込んだレシピ集『片手でクッキング』 写真2:目からウロコ!片手でクッキングショー 14ページ 沖縄のバリアフリー観光案内所 はじめに 沖縄県の那覇空港国内線旅客ターミナルを降りると、1階に「しょうがい者・こうれい者観光案内所」があり、多くの人が訪れています。 平成19年11月に設立された同案内所では、主に左記の業務が行われてています。 1.バリアフリー観光に関する各種問い合わせ・相談への応対 2.福祉用具のレンタル 3.介助、サポートの手配並びに介護タクシーの情報提供 その他、那覇空港内にある盲導犬のトイレの管理、手荷物の預かり、授乳室・おむつ替えベッドのためのスペースの提供、さらに官公庁からの受託業務として、 1.沖縄県のWebによるバリアフリーマップのサイト作成協力 2.バリアフリー観光ガイド冊子「そらくる沖縄」の作成協力 以上のように幅広く事業を展開しています。 きっかけ この一連の事業を行っている特定非営利活動法人バリアフリーネットワーク会議代表の親川修(おやかわおさむ)さんは、 この仕事を始める前は大阪に本社のある広告代理店に勤務し、全国各地を駆け回って仕事をしていました。 沖縄の観光バリアフリーに関する事業を始めるきっかけになったのは、知人からの一言でした。 それは「沖縄旅行に行きたいけれど、自分は透析をしているので、一時滞在の観光客に透析を行ってくれる病院がないので行けない」。 その一言で、親川さんの「気になることはとことん調べて納得する」という信条に火がつき、地元住民に透析を行っている病院に 「なぜ、観光客に透析ができないのか?行うためにはどんな条件が必要か?」と繰り返し問いかけました。 受けられない理由が、患者自身の透析条件が明確でないことだと分かりました。ということは、透析条件さえ明確であれば、透析を行っている病院で、観光客でもできるということです。 次の課題は、各病院ではいつ透析が可能かを、沖縄への旅行者に知らせることでした。 親川さんは、再び各病院に問い合わせ、エクセルを駆使して透析が可能な日時を表にしていったのです。 人工透析の患者会である全国腎臓病協議会(全腎協)に知らせたところ、全国各地から直接、親川さんに連絡が数多くくるようになり、 腎臓病の人達が、沖縄観光に訪れることができるようになったのです。 観光に来たくても来れない人は、腎臓病の人だけではありません。 県の人たちと何度も協議を重ねた結果、全国に先駆けて「沖縄観光バリアフリー宣言」が平成19年2月に出されました。 親川さんは、自ら立ち上げたNPO法人バリアフリーネットワーク会議を中心に、さまざまな事業を展開していったのです。 那覇空港「しょうがい者こうれい者観光案内所」は、25年には那覇国際通りにも同センターを開設しました。 那覇空港「しょうがい者こうれい者観光案内所」には、毎年問い合わせが約10万件、相談件数が約1万件。 この数字は毎年着実に伸びており、この事業が浸透してきていることを表しています。 まとめ 親川さんたちの貴重な努力が全国に広がり、誰もが楽しめる旅行、そして「共生社会」が「特別」でなく一刻も早く「普通」になることを願っています。 星川安之 写真1:「しょうがい者・こうれい者観光案内所」(那覇空港) 写真2:バリアフリー観光ガイド冊子「そらくる沖縄」 写真3:親川修さん 15ページ 日本消費者協会講座 アクセシブルデザイン標準化の根幹であるISO/IECガイド71を、国際ガイドにする時にも尽力下さった松岡萬里野(まつおかまりの)さんが代表理事を務める日本消費者協会は、 1961年に認可を受けた歴史ある法人です。消費者教育、情報収集・提供及び、消費者からの相談、苦情処理を、関係団体と連携しながら行っています。 「消費生活コンサルタント養成」講座は、昭和37年に開設され、修了生が3400名を超えました。 講座では、消費生活の基本から関連する法律、契約や衣食住をはじめとした基礎知識を、各分野の専門家から体系的に学びます。 修了者は消費者団体、各種講座の講師、消費生活相談員・啓発員、企業・団体の消費者対応、地域サポーターなどで広く活躍しています。 共用品推進機構にも声をかけていただき、「障害の有無、年齢の高低に関わらず共に使える共用品・共用サービス」と題した講座では、 誰もが利用したくなる店などをテーマに議論し、最後に発表しました。どのチームのアイディアも秀逸なものばかりでした。 同協会では多くの自治体からの要請で、消費者講座を引き受けています。今年は、そこにも共用品の講座もまぜていただきました。 こちらは、座学のみでしたが、活発な質問や感想があり、あらためて「消費者講座」の重要性を感じました。 可能であれば、来年度以降も、連携させていただき、さらに多くの方々に、共用品・共用サービスのアイディアを多くの企業等に伝えていただけたらと思います。 星川安之 写真:講座の様子 2018年度 共用品研究所 共用品研究所(2017年1月1日機構内に設置、後藤芳一所長)では今年度も勉強会を開催しています。 研究に関心はあるが取り組み方がわからないという感想を多くいただきましたので、今年度は「研究」について共通認識を持っていただけるよう、 「共用品と研究―不便さをかたちにする―」をテーマに三回構成の勉強会を計画しました。 6月29日の「第一回不便さ対応と研究」では、早稲田大学人間科学学術院長の藤本浩志(ふじもとひろし)氏(当研究所運営委員)から、 研究としての取組みを具体的な事例でご紹介いただきました。皆様には研究をより身近に感じていただけたようです。 11月21日の「第二回知と研究」では、支援技術開発機構理事長の山内繁氏(当研究所運営委員)から、 共用品関連領域の研究の位置づけ、その方法と方向性、可能性についてお話しいただきました。 共用品関連の領域は学問分野としてはいまだに形成途上にあるとわかり、研究に対する意欲がさらに高まったという感想をいただきました。 今後も研究に関心のある皆様のご参加をお待ちしています。 松森ハルミ(まつもりはるみ) 写真1:第2回 勉強会での様子 写真2:第1回勉強会で講演する藤本氏 16ページ 先生は、どこにでも 【事務局長だより】 星川安之 自由学園の創設者、羽仁もと子(はにもとこ)の著作集第12巻の「子供読本」の中に、「先生はどこにでも」という題の話があります。 昨年の夏、日本規格協会より、品質月間期間中に地方で講座をおこなってほしいとの依頼を受け、場所はどこですか?とたずねると、 希望を聞かれ、「沖縄」と答えたところ、何とそのままの希望が通り、周りには気づかれないようにしながらも心の中では浮き浮きしていました。 講演日が11月26日と決まったとの連絡の後、11月の初旬に、受講者名簿が送られてきました。 約50名、しかも一人5,000円と有料の講座であることもその時知ったのですが、さらに目が点になったのは、 その内90%以上が、セメントかコンクリートの会社の工場で勤務する人たち! えっ!、セメントとユニバーサルデザイン??完全アウェー! そこから、周りでセメント、コンクリート業界に詳しそうな人たちに何を話せばいいでしょうか?を、藁をもすがる思いで聞きまわりました。 その結果、それぞれの人は、とても親切にセメント、コンクリート業界のことや、配合の仕方など、今まで私の知識の中にまるでなかったことが、 短期間でたまっていったのですが、私が今回知りたいのは、業界の詳細ではなく、その人たちに何をどのように話せば良いかなので、 それぞれの人が熱を込めて業界事情を話し終わるのを見計らって、「ところで、その人たちに、何を話せば良いか?」をたずねるとみな、 「それは、わかんないな…」と同じ答えが返ってくる間に、前日、沖縄入り。 沖縄でユニバーサルツーリズムをすすめる親川修さんに会い、元気をもらうも、翌日の講演では、 前日になってもどう臨めば良いかの話の方向にまよっていることを、たまたま乗ったタクシーの運転手さんに、なかば愚痴のように話したのです。 「なるほど、大変ですね、がんばってくださいね」といった類の答えを予想していたところ、その運転手さん、突然、声色が変わり、怒りモード。 「お客さん、前日になって何を悩んでいるのだ!沖縄のコンクリート、セメントのプロたちが、コンクリート、セメントの素人に、コンクリート、 セメントの話を期待なんかしていない!お客さんが専門としている目の不自由な人も識別できるシャンプーのギザギザの話の方が、彼らにとっては100倍有効! 自分の仕事とどう結びつき付けるかは、彼らが考えること!」と、こちらは一言も口を挟めないままに、目的地に到着!乗車運賃を払うとき、 払うお金が、アドバイス料にしてはずいぶん安い!と思った次第。そして翌日の本番の講座。 昨夜の運転手の言われたとおり、シャンプーのギザギザの話からはじめ、セメント、コンクリートには触れずの1時間半は、工場で着る作業服を着た50名、 それはそれは熱心にメモはとってくれるは、ここぞというところで、大笑いしてくれるという時間になったのでした。 共用品通信 【イベント】 文京ボランティアまつり(11月17日) 千代田区障害者週間(12月3~10日) 練馬区UDフェス(12月15日) 【講義・講演】 平成30年度習志野圏域地域相談員研修会(11月16日、森川) 「障害の理解と就労について」講演会(11月17日、星川) 聖心女学院初等科共用品授業(11月19日、森川) 品質月間特別講演会 沖縄会場(11月26日、星川) 大塚商会講習会(11月29日、星川) 平成30年度安房圏域地域相談員等研修会(12月7日、森川) JANNETセミナー(12月15日、森川) 都立秋留台高校共用品授業(12月21日、森川) 【報道】 日本経済新聞 「大人用おむつカバー」(10月27日) 日本経済新聞 「オセロ」(12月1日) 日本経済新聞 「バイキングカート」(1月5日) 時事通信社 厚生福祉「障害福祉専用の本屋さん」(11月20日) 時事通信社 厚生福祉「誰もが使えるモノ・コトに」(12月11日) 時事通信社 厚生福祉 映画「いろとりどりの親子」(12月21日) トイジャーナル12月号「もう一つの母子手帳」 トイジャーナル1月号「介護が生まれた所」 アクセシブルデザインの総合情報誌 第118号 2019(平成31)年1月25日発行 "Incl." vol.20 no.118 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2019 隔月刊、奇数月に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電 話:03-5280-0020 ファックス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:http://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 編集長 山川良子 事務局 星川安之、森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、田窪友和 執 筆 伊藤納奈、倉片憲治、後藤芳一、佐川賢、原口聖名子     堀口仁美、山内繁、和田勉 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙デザイン ㈱グリックス 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。 その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。