インクル125号 2020(令和2)年3月25日 特集:玩具・おもちゃ Contents(目次) 「総理大臣表彰」及び「共遊玩具の活動」 2ページ おもちゃを通じて子どもたちに伝えたいこと 4ページ 共遊玩具への取り組み 5ページ 難病児向けおもちゃのセット「あそびのむし」 6ページ 強化段ボールと国産木材を使った大型遊具 7ページ 「音の出るおもちゃ」のすごい実力 8ページ 日本のおもちゃ図書館活動 9ページ 米国における障害のある子供のためのおもちゃ 10ページ キーワードで考える共用品講座第115講 11ページ AD(アクセシブルデザイン)シンポジウム2020開催 12ページ 台湾交流と、EB世界大会に参加して 13ページ ユニバーサルデザインフェスタIN銚子映画 14ページ 「インディペンデントリビング」 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 表紙写真:共遊玩具第一号「対戦型テトリス」 写真提供:株式会社タカラトミー 2~3ページ 「総理大臣表彰」及び「共遊玩具の活動」 一般社団法人日本玩具協会 中田誠(なかだまこと)  内閣府が実施している「令和元年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰」において、 一般社団法人日本玩具協会(会長:富山幹太郎〈とみやまかんたろう〉)が、共遊玩具推進の功績により内閣総理大臣表彰を受けました。  表彰式は、昨年12月26日夕刻に、総理官邸・大ホールにて執り行われ、安倍(あべ)総理大臣から富山会長に表彰状が授与されました。 活動開始(平成2年〈1990年〉3月)から30年にわたり、地道な努力を続けてきたことが評価されたものと思います。 活動について ①共遊玩具の認定制度の構築  教育機関、点字図書館、視覚特別支援学校(盲学校)、聴覚特別支援学校(ろう学校)等に集中して配布しています。 共遊玩具を必要とする方々に「情報源」として幅広く活用されており、発行を楽しみにされている方も多くおられます。 ②「共遊玩具カタログ」の作成  当協会では、毎年6月に共遊玩具を取りまとめた「おもちゃカタログ」を作成し、 関係教育機関、点字図書館、視覚特別支援学校(盲学校)、聴覚特別支援学校(ろう学校)等に集中して配布しています。 共遊玩具を必要とする方々に「情報源」として幅広く活用されており、発行を楽しみにされている方も多くおられます。 ③玩具業界内での啓発  玩具業界内で本活動への幅広い理解と支持を得るため、以下の対応を続けています。 (1)当協会が主催する「新入社員研修」「業界セミナー」で、共遊玩具の研修を実施しています。 (2)「東京おもちゃショー」「クリスマスおもちゃ見本市」等においてブース展示をしています。 ④共遊玩具の開発の促進  「日本おもちゃ大賞」の創設時から「共遊玩具部門」を設け、優れた共遊玩具とその開発者を顕彰しています。 前述の研修では、受賞玩具を例に、優れた工夫点の事例説明を行い、玩具業界内での触発を図っています。 また、受賞メーカーの代表者には、視覚特別支援学校を訪問し、生徒と受賞玩具で遊んでいただく機会を設けることで、 よりユーザーを身近に感じていただき、さらなる共遊玩具の開発のヒントにして貰っています。 ⑤社会への啓発  国際福祉機器展に出展し、福祉事業関係者・専門学校の学生等に共遊玩具を啓発しています。 その他、自治体等の行う展示会やイベントへの参加、共遊玩具や紹介ビデオ等の貸出による一般向けPRを実施しています。 ⑥今後の活動  「共遊玩具」は、「障害」と「玩具の工夫」を直接にリンクさせた、メーカーサイドの製品作りの取組みですが、 それと共に、ユーザーサイドの直接の反応や要望を今後の製品作りにフィードバックしていくことが課題と考えています。 「共遊玩具」の活動も30年を迎え、当初に「共遊玩具」で遊んだ子ども達も立派な大人になっています。 玩具は子どもが初めて手にする工業製品ですが、業界の枠を越えた共通配慮点を設けることで、「共遊玩具」を卒業した子ども達も、 引き続き「共用品」を利用していくことができると思います。 「共遊玩具」と理念を同じくする「商品・サービス」がより多くの業界で開発され、「みんなが暮らしやすい社会」が実現されていくことを願っています。 写真1~3:表彰式の様子 写真4:おもちゃカタログ 写真5:盲導犬マーク 写真6:うさぎマーク 4ページ おもちゃを通じて子どもたちに伝えたいこと 株式会社タカラトミー 渡辺俊之(わたなべとしゆき)  「誰もが楽しめるおもちゃづくり」で「世の中のためになる経営」 これは創業者・富山栄市郎(とみやまえいいちろう)が遺した私たちの活動の原点となります。  タカラトミーグループのおもちゃには、障害のあるなしにかかわらず共に楽しく遊べるように、いろいろな工夫がされています。  違いを超えて、共に遊ぶ楽しさを経験した子どもたちは、皆が共に生きられる社会をつくる大人へと成長してくれると信じています。  誰もが共に楽しく生きられる社会の実現を目指して、タカラトミーグループはおもちゃに工夫をし続けています。  私たちのおもちゃの企画開発はいつの時代も、最新の時流を意識しています。 その一例として、「プラレール」は60年の歴史があり、その開発理念として「本物の鉄道体験」「時代に合わせた商品開発」を念頭に 過去にもたくさんの大型駅などを商品化してまいりました。  今回、「ガチャッと!アクションステーション」では近年プラットホームへの設置が進められている「ホームドア」を プラレール車両の停車/発車アクションに合わせて本物のように稼働させる新しいギミックを取り入れてみました。  電車がホームに入線するワクワク感や発車させる気持ちよさがより一層楽しめるよう、目の不自由な方にも判りやすく効果音や音声もアレンジいたしました。 実際の鉄道でのバリアフリー化をおもちゃで再現するにあたり、まだまだ再現出来ていない部分がたくさんありますが、工夫をしながら今後も商品に落とし込んでいきたいと思います。  同様に「リカちゃん」も3年前に50周年を迎え、国内の女児に向けたドール&ハウス遊びを提供し続けております。 こちらもプラレールと同様に「時代に合わせた商品開発」を行い、昨年発売された「チャイムでピンポーン♪かぞくでゆったりさん」には 目の不自由な方にも楽しめる共遊玩具としていくつか意識されたポイントがあります。 1つめ。商品パッケージを開くとそのままハウス遊びができるよう、大きな家具が固定化されているので、おうちの中での位置関係が判りやすく手で触ってもずれたりしないで遊べます。 2つめ。玄関の音声スイッチ部分では規定どおりに起動のONの部分にさな凸を入れており、どちらがONかが触ってわかります。 3つめ。この商品ではお風呂のごっこ遊びも楽しめるよう、小物の1つとしてシャンプーとリンスもセット内に混在されています。 ここにも、本物もそうであるようにシャンプー容器の側面にはギザギザの凸面を施し、触って判別が出来る工夫をいたしました。 「リカちゃん」においても、皆が楽しく遊べるごっこ遊びの提案としておもちゃを通じて、正確に共生社会に貢献できる情報を提供していきたいと思います。 写真1:©TOMY「ガチャッと!アクションステーション」全体 写真2:停車/発車に合わせて稼働するホームドア 写真3:©TOMY「チャイムでピンポーン♪かぞくでゆったりさん」 写真4:ギザギザのついたシャンプー容器の玩具 5ページ 共遊玩具への取り組み 株式会社バンダイ プロダクトマネジメント部 高野麻里子(たかのまりこ)  日本玩具協会主催の共遊玩具推進部会を通じて、弊社商品も目や耳の不自由なお子様も一緒に楽しめる、共遊玩具仕様になるよう努めております。 ここでは、弊社で行っている具体的な施策と、実際に共遊玩具として遊んでいただいている商品を紹介させていただきます。 企画段階で気づきを促す施策  製品企画時は、仕様や品質など検討する内容がたくさんあります。 その中で、共遊玩具化の検討も忘れず、確実に行うように、打合せで使う書類には「共遊玩具に申請できるポイント」を書く欄を設けています。 品質基準での社内ルール化  玩具は、お子様に遊んでいただくことが多い製品のため、安全性や性能面に高い品質が求められます。 それを社内ルール化しているものが品質基準です。弊社ではその基準の中に、次の3つの内容を含めています。 1)製品の操作きっかけ部分(例えば、パソコンのキーボードの「F」と「J」、計算機のようなテンキーの数字の「5」)に、凸点を付けてホームポジションがわかるようにする 2)左右にON/OFFを切り替える電源スイッチがある商品は、ON側に凸点記号を付けて、どちらがONかわかるようにする 3)乾電池を使う商品の電池ボックスの蓋がねじでとめられているときは、電池ボックスのねじ穴の周囲に凸状のリングを付けて、他のねじの穴と区別できるようにする  この3つを取り入れると、目や耳の不自由な方だけでなく、ユニバーサルデザインの観点から、より多くのユーザーに使いやすい仕様になります。 品質基準にこの内容があることで、弊社の多くの製品にこの要素を取り入れることができるだけでなく、仕様を決める時点で玩具の共遊化に気づくことができる施策にもなっています。 優秀賞受賞商品  「ディズニー ライト&オーケストラバイオリンDX」は2019年の日本おもちゃ大賞 共遊玩具部門の優秀賞をいただきました。  この商品は、先ほどの社内ルール上の配慮に加え、遊ぶ時に、「どのモードを選択しているか」を声で案内する仕様になっており、 目の不自由なお子様も操作が容易であり、疑似体験を含め、楽しく遊んでいただけること等を評価していただきました。  弦の中央で弓を横に動かすと音が出る玩具楽器で、子供用バイオリンとして使われる1/8の分数サイズに合わせており、持ちやすくなっています。  遊びのモードは3つあります。  メロディーが流れた後に同じようにひいて練習する「レッスンモード」、一人で演奏する「演奏モード」、 オーケストラの伴奏と一緒に演奏できる「オーケストラモード」です。 これらを段階的に練習することでリズム感を養うこともできます。 収録楽曲は20曲あり、はじめてバイオリンを手にしたお子様も、本格的な演奏気分を楽しめる商品となっています。  このバイオリンで、実際に、目の不自由なお子様が演奏を楽しまれている姿を見て、共遊できることは素敵なことであると実感しており、 今後も、自社製品の共遊玩具化に努めていきたいと思っております。 写真:ディズニー ライト&オーケストラバイオリンDX ©Disney ©Disney. Based on the "Winnie the Pooh" works by A.A. Milne and E.H.Shepard. 6ページ 難病児向けおもちゃのセット「あそびのむし」~東京おもちゃ美術館の難病児支援~ 東京おもちゃ美術館 副館長 石井今日子(いしいきょうこ) 多世代交流の美術館 ベビーカーの赤ちゃん連れに幼児、小学生、シニアのグループやデートのカップルまで、新宿四谷の東京おもちゃ美術館を訪れる人々は多世代にわたります。 廃校をリノベーションした施設で、展示されているおもちゃのほとんどは実際に手に取って遊ぶことができます。多世代に喜ばれる理由はそこにあります。 デジタルゲームではなく、人と人がかかわりあって遊ぶコミュニケーション・ツールとなるおもちゃを大切にしています。 また、おもちゃの遊び方を伝え、おもちゃと来館者をつなぐ役割を果たす「おもちゃ学芸員」という資格を持つ約360名のボランティアが日々館内で活動しています。 東京おもちゃ美術館以外でも、当団体が育成した「おもちゃコンサルタント」が日本全国でおもちゃを使った子育て広場、子ども食堂、子ども病院のプレイルームなどで同様の活動を行っています。 通学や通信教育で資格を取った「おもちゃコンサルタント」は、全国で4500名を超え、それぞれの地域でおもちゃによる社会活動を盛んに行っています。 難病児のためのイベント  東京おもちゃ美術館では、三年前から「スマイルデー」(難病の子どもとその家族のための招待デー)を実施しています。 人工呼吸器や胃ろうなどの医療的ケア児は、感染の心配などから気軽に外出することができません。 スマイルデーは、子どもだけでなく、24時間自宅で看護しているお父さん、お母さんにもホッと一息ついてもらえるよう工夫を凝らした楽しいイベントです。 地方の難病児施設におもちゃと遊びを届ける「出張スマイルデー」も開催しました。 もちろん、おもちゃコンサルタントらボランティアもイベントに駆けつけます。 「あそびのむし」 昨年度、東京おもちゃ美術館は日本財団との共同事業で、難病の子ども向けのおもちゃセットを制作しました。きっかけはスマイルデーに参加したお母さんの一言でした。 「おもちゃ=知育、リハビリのための道具、という、できる、役に立つ、効能の判断でおもちゃを選びがちだけど、楽しいおもちゃが病気の子どもの近くにあって、その子の周りにきょうだいや友達、施設のスタッフなど多くの人 が集まる場になってくれたら…」 児童発達支援施設等にも協力いただき、ヒアリングや検証を重ねました。 難病のお子さんが興味の幅を広げ、自分から遊びたくなるような、美しい音や優しい手触りのおもちゃ、 小さな力でも操作しやすく動きや変化が面白いおもちゃを約40点、「あそびのむし」と名付けたおもちゃ箱に詰め込みました。 本好きな人は「本の虫」、仕事に打ち込む人は「仕事の虫」と呼ばれます。「遊ぶこと」が大好きな人は大人も子どもも「あそびのむし」。 難病児だけでなく、施設スタッフや親やきょうだいにとってもみんなが遊びでつながり笑顔になる。そんな楽しいセットが出来上がりました。 次のステップでは、全国の難病児施設、子ども病院へ「あそびのむし」を届け、さらに笑顔の輪を広げていくことを夢見ています。 写真1:東京おもちゃ美術館(元小学校の11教室を利用しています) 写真2:あそびの虫セット(4箱のうちの1箱) 7ページ 強化段ボールと国産木材を使った大型遊具 東洋大学 ライフデザイン学部 繁成剛(しげなりたけし)  強化段ボールは重量物を輸送するために開発され、一辺を1mの箱に組むと3.7トンの荷重に耐える強度があり、普通のカッターナイフで切ることも可能です。 筆者は北九州市立総合療育センターでリハビリ工学技士として勤めていた1990年頃から、強化段ボールを使って障害のある子どもを対象とした椅子や遊具を作り始めました。  作るときのポイントは段ボールの方向です。段ボールの中芯は波板状のフルート構造になっていますが、フルートを荷重がかかる方向に合わせると強い構造になります。 写真1の揺り籠は座位保持のできない障害児でも安心して揺らすことができるのが特長です。また大人や子ども4人が乗っても壊れない強度があります。  これまで全国のおもちゃ図書館や障害児施設において両親と職員が参加して遊具を作るワークショップを実施し、好評を得ています。 遊具の製作例や作り方は昨年出版した「強化段ボールで作るテクノエイド」(はる書房)に詳しく書いていますのでご参照ください。  15年前に北九州市の建築士と共同で杉の角材をアルミ製ジョイントで接合し、分解組立ができるシステムを開発し、「JOSY」という名称で製品化しました。 角材は断面が3cm×4cmで長さは約1mです。厚さ1cmのアルミプレートを木製フレームの小口に木ネジ4個で取り付けます。 そのプレートをアルミジョイントとボルトで接合します。角材を5方向に直角に接合できるのが特徴です。 このJOSYを使って最初に製作した遊具は「ホッピングベンチ」で、上下に揺れる長椅子です。 JOSYで作ったフレームにバンジーゴムを2本張り、その上に長方形のベンチを載せて固定します。 ベンチの下にバランスボールを置くと、子どもが飛び跳ねても床まで底付きしません。 座位がとれない子どもはベンチの上に寝せて揺らすことができます。 ホッピングベンチは数ヵ所の特別支援学校で教員に長期間モニターしてもらいましたが、 座位のバランス訓練や腹臥位でタッピングしながら排痰させることに有効なことが判りました。 学生たちと製作した小型のブランコが大変好評で、大学の近くのおもちゃライブラリーや重症児施設に寄贈したのですが、 5年間毎日のように子ども達が遊んでいます(写真2)。  このブランコの特徴は分解組立が簡単なことと揺れるボードが広いので座っても寝ても揺らして遊べることです。 JOSYを使った製作例や入手方法は次のホームページをご参照ください。 JOSYジョシー 部品・購入 http://www.josy.jp/buhin/  以上、紹介した強化段ボールと木製フレームはホームページから注文できますし、コツを覚えれば比較的簡単に自分の作りたいサイズとデザインで作ることができます。 今回紹介した遊具だけでなく障害児用の姿勢保持具や被災地の避難所で使う家具など、アイデア次第で様々な分野に応用できる共用品と言えるでしょう。 写真1:揺り籠(ナッツロール) 写真2:JOSY ブランコ 8ページ 「音の出るおもちゃ」のすごい実力 日本歯科新聞社 水野麻由子(みずのまゆこ) 「寂しさ」が笑顔に変わった!  夫が手術で声を失ったばかりの時、「不便さ」より「寂しさ」の方が大でした。  「ただいまー」と家に帰っても返事がなく、術後数カ月は表情もなかったので、そこはかとなく寂しい気持ちになりました。  夫(雑誌編集長)と私は一緒の会社で働いているのですが、夫が復職してからは、出社したときも帰るときも、周囲の一部の人しか気づくことができなくなりました。 必要に応じて筆談やノートパソコンでコミュニケーションをとり、淡々と記事を書く仕事をこなして知らぬ間に帰っていく夫は、存在感が薄くて、メンバーの一員から外れてしまったように感じました。  そこでふと思い出したのです。 「おなかを押すと、キューッと鳴くぬいぐるみがあったなあ」。  それからは家に帰ると、「ただいまー」に、「キュー」が答えてくれるようになりました。  毎朝夫が会社にもぬいぐるみを持参するようになり、行きも帰りも「キュー」が聞こえると、みんなが「あ、おはようございます!」「お疲れさまでした!」と、声をかけられるようになったのです。 振り返るとかわいいぬいぐるみの顔と目が合って、自然とみんなが笑顔になりました。 行きと帰りにあいさつを交わすだけで、夫がまたメンバーの一員に戻れた気がしてホッとしました。 音の質も心に影響  そんなある日、後輩が100円ショップで小さなヒヨコを買ってきてくれました。 「これなら持ち運びに便利ですよね!」しかし、「ピー」というヒヨコの鳴き声は、みんなに不評でした。「なんか、イライラする」「自己主張が強すぎる」。  そうか、音の質って、コミュニケーションを取る上ですごく大事なんだ…。  今では夫が電気式人工咽頭(EL)を使いこなせるようになり、会社にぬいぐるみが出勤することはなくなっています。 でも、相変わらず家での「おかえり」「おやすみ」は、「キュー」です。 操作が簡単なことに加え、ELよりやっぱり和むので。  ちなみに100円ショップのヒヨコも、夫婦げんかのときに大活躍。 「ピーピーピー」は、「そんなのおかしい!」と、相手に抗議するのにベストな音だからです。 無邪気な鳴き声のおかげで険悪な雰囲気にならずに済む効用もあります。 こんなツールがほしかった  ELが使いこなせるようになる前は、ご近所の方とすれ違った時などに、ボタン一つで「おはようございます」「ありがとう」 「すみません!」などの簡単なあいさつができるツールがあれば便利なのになーと考えた時期がありました。 相手の顔を見たら、さっと取り出せて、すぐに押せるような簡単な造りのものです。 ちなみにスマホのアプリなどは、操作に時間がかかりすぎてあいさつには不向きです。  そんなツールを作ってくださる人がいるとしたら、声の印象も考えてほしいなと思います。  「しぶいおじさま風」「ギャル風」など、選べるのもおもしろいかもしれません。 あとは、「キュー」とか「ニャー」とかのボタンも一つあると、なおさら楽しいと思うのです。 写真1:お腹を押すと、「キュー」と鳴くオコジョのぬいぐるみと、「ピー」と鳴くヒヨコのおもちゃ。 オコジョの方は、ちょっと頼もしさが感じられる鳴き声で、あいさつに最適。ヒヨコの方は、相手に不服を唱えるときに重宝する。 写真2:ELが使えるようになる前、1対1の実用的な会話では、ポケットサイズのノートで筆談していた。 みんなで一緒にワイワイお昼を食べるときには、文字を押すと音が出る『こえであいうえお』も重宝。 使い勝手が良いとは言えなかったが、「こ・れ・す・ご・く・か・ら・い・よ」など、単純な言葉で笑い合うことができた。 9ページ 日本のおもちゃ図書館活動 認定非営利活動法人おもちゃの図書館全国連絡会 理事長 小泉康代(こいずみやすよ) おもちゃの図書館の始まり  障害児のためのおもちゃ図書館は、1963年スウェーデンの2人の母親から始まった。 日本では1981年国際障害者年の頃からボランティアによるおもちゃ図書館が始まり、全国に広がった。 当時、障害児には遊ぶ仲間が不足していた事と、障害乳幼児を持つ母親のニーズが高かったことが全国に広まった理由と考えられる。 また、療育関係の専門家の中からも障害児の生活の質を高めることの重要性に気付き協力があった。 おもちゃの図書館全国連絡会は1983年に発足、当初は27館で始まり、現在は369館が登録している。 おもちゃ図書館の活動  おもちゃ図書館の活動は各々の地域のニーズに合わせて行っており、同じものはない。 全国連絡会が発足して37年が経とうとしているが、この間福祉の制度・教育の制度などが大きく変化、求められる活動も変化してきている。 しかし変わらないニーズは親子でホッとして遊べる居場所である事だ。  ボランティア活動であるため、月に1~2回の開館日の所が多いが、常設館も増えてきている。 設置主体も、行政、社協、福祉施設、NPO法人などもあり、最近は商店街・不動産屋さん・カフェなどでも開館している。  おもちゃがあって子どもがいてボランティアがいる。これは変わらない。 利用しているお子さんたちが大きくなって、成年の余暇活動に発展している所も多い。 また、ボランティアも高齢化しているが、とても良い世代間交流になっている。  療育などの場で訓練としても「おもちゃ」が活用されているが、おもちゃ図書館では「楽しく遊ぶこと」を大事にしている。 友達やボランティアと遊んでいるうちに「あら!できた」という「嬉しいおまけ」は結果的についてくるのである。 「おもちゃ」もボランティアの手で工夫してひとりひとりに合わせる事もできる。 手作りボランティアや修理のおもちゃ病院ボランティアも活躍している。  活動当初より、障害児のQOLを高める理念があり、それには地域の中で障害のある子もない子も共に遊び暮らす大事さを呼び掛けている。 年齢が高くなろうとそれは大事な事である。  また、障害児の兄弟姉妹は、自然に我慢することも多く、親御さんにとっては気がかりな事でもあるが、おもちゃ図書館の時は、お母さんを独り占めできる時間を作ることができる。 これは子育て支援でもいえる。 下の子が生まれた時の赤ちゃん返りなど、兄弟姉妹の気持ちにも寄り添ってあげたい。  保護者と一緒の参加が基本であるが、最近はヘルパーや事業所で参加される障害児者も増えた。 今後の計画  障害児教育・福祉の制度は充実してきたが、地域のつながりは薄くなっているように感じられ、 地域での居場所としての役割はさらに大きくなってきている。 ボランティアは、だれでも参加できる活動であるが、 障害に対する理解・おもちゃの事や制度の知識などを研修し、ボランティアの質を高めたい。  地域の中で、子育て支援・子ども食堂など同じような活動をする団体とのネットワークを図り、 みんなで「生まれてきてよかった」「ここに住んでよかった」と言える社会を目指したい。  「あ~。楽しかった!」という瞬間を、たくさんのお子さん、お母さん、お父さん、 おじいちゃん、おばあちゃん、ボランティアさんに一つでも多く、感じていただけるように願っている。 写真1:おもちゃ図書館の様子 10ページ 米国における障害のある子供のためのおもちゃ オレゴンOT 協会 理事 ジャスミン・ショーケット  すべての子供には、遊びという行為を含め、子供として行動し、生きる権利があります。 これは、遊ぶ行為が子供の発達の重要な部分であり、器用さ、認知、感情的な強さ、創造性、想像力を発達させるなどのスキル習得の基礎となるため、不可欠です。  障害のある子供たちは、障害のない子供たちよりも遊ぶ回数が少ないと感じられます。 これは、障害のある子供たちが環境の障壁の影響を受けやすく、そのため、他の子供たちよりもうまくいかない可能性があるということが原因かもしれません。 日本では、盲導犬とうさぎのマークを表示して、視覚や聴覚に障害のある子供がおもちゃを使えることが分かるようにしているおもちゃ会社がたくさんあります。 しかし、米国では、使いやすくするための機能をおもちゃに示すための国で認められた特別なマークはありません。  実際、通販でも店舗でも、市場に出回っている多くのおもちゃは、障害のある子供にとって常に使いやすいとは限りません。 したがって、この問題に取り組むために、うまく遊べるおもちゃを作り、適応させ、販売することを目的とする企業、組織、およびボランティアグループがあります。  1つは、身体に障害のある子供向けのスイッチに対応したおもちゃの開発です。 コンピューターソフトウェアとゲームを開発するよく知られたテクノロジー企業であるマイクロソフトは、 Xbox Adaptiveコントローラー用のLogitech-G AdaptiveGaming Kitを最近リリースしました。 これにより、改良したコントローラーで同じゲームで遊べます。  米国には、おもちゃ協会、アメリカ盲人基金、全国ろう協会などの組織もあり、視覚や聴覚障害、その他の障害のある子供向けのおもちゃを探している人に援助や助言をしています。 また、障害のある子供がおもちゃを使えるように、専門家が自分の時間で努力して行うボランティアプログラムもあります。 例えば、「Go Baby Go」と呼ばれるボランティアプログラムが存在し、人々がコミュニティで構築されたワークショップに参加して、 身体に障害のある子供向けにおもちゃを改造したり、電動の車をカスタマイズしたりしています。 「エイブルゲーマー」と呼ばれる別の慈善団体は、障害のある人々に、改造されたコントローラーや特別な支援技術機器を含むカスタムゲームを提供します。  アクセシブルなおもちゃに関連するニーズ、教育、支援の高まりにより、米国では障害のある人向けのアクセシブルなおもちゃの販売に積極的に取り組んでいる多くの企業があります。 これにより、視覚障害、聴覚障害、身体障害、感覚障害のある子供たちに、仲間との遊びに参加する機会が増えました。 また、人々がコミュニティ内の店舗で入手できないような使えるおもちゃを購入する機会にもなっています。  (訳・金丸淳子〈かなまるじゅんこ〉) 写真1:点字付きウノと米国の手話ブロック 写真2:配慮されたXbox コントローラー 写真3:ジャスミン・ショーケット氏(2018 年インターンシップ) 11ページ キーワードで考える共用品講座第115講「玩具と共用品」 日本福祉大学客員教授 後藤芳一(ごとうよしかず)  玩具は遊ぶ道具であり、その使い方に不便さがあるとき、共用の配慮が必要になる。 1.遊び遊びは、生存(食事や睡眠)や仕事以外の活動であり、自由意思、結果が未確定、非生産的、ルールがあるという特徴を持つ。 遊びには①競争、②運、③模擬や表現、④めまいのうちの1つか複数の要素を含むとされる(R・カイヨワの説。表現〈③〉は筆者が追加)。 ①は運動や格闘技、囲碁や将棋、クイズなど、②はクジ、じゃんけん、賭博など、③は演劇、絵画、積み木、ごっこ遊び(人形、模型)など、 ④は遊園地や公園の遊具(ジェットコースター、ブランコ)などである。トランプや麻雀は①と②(両方)である。 ①は闘争、②は決断、③は模倣や表現、④は忍耐という、人に不可欠な資質を必要とする。学問や政治は①が進化したものとする説もある。  なおそれに加えて、子供にとって遊びは、発達に不可欠であり生活の一部という意味をもつ。 運動能力や知的能力を発達させ、闘争本能を磨き、ルールに沿うことで社会性を身につける。 知的刺激という点は、認知症(予防)に遊びを取り入れる場合と通じる。 2.玩具  遊びはモノや設備などの道具を用いることが多い。 遊具と比べつつ整理すると、遊具は公園や学校などにおかれ公共性をもつ、複数の利用者が共有する、 身体全体を用いる、利用法は比較的自由(例:ブランコ)という性格をもつ。  一方、玩具は個人が所有・利用し、所定の動作や用途に用いる、手にとれる小ささであり、 身体の一部や知的能力を用いるものが中心という特徴をもつ。  子供には発達を支える知育玩具(例:ブロック、積み木、楽器)がある一方、 身の回りのもの(例:文房具、生活用品、道具、木切れ)を玩具として遊ぶこともある。  認知症関連の高齢者には、言葉や指の感覚を通じて脳をトレーニングしたり、回想を助ける玩具がある。 3.用いる玩具の性格と遊び方  第1に、玩具の利用形態には、玩具なし(Ⅰ)、玩具あり・不便さ(身体、発達など)への配慮なし(Ⅱ)、 玩具あり・不便さへの配慮あり(Ⅲ)に分けられる。子供の理解度に合わせた玩具(例:知育玩具)や高齢対応はⅢに含まれる。  第2に、利用の体制(人数)は、独り(A)、複数・対面(B)、複数・非対面(C)がある。 その結果、用いる玩具の性格と遊ぶ体制の関係は、Ⅰ~ⅢとA~Cの組合せになる。  遊びの4類型(上記1.の①~④)との関係では、①競争(運動、囲碁・将棋)は通常は道具を用いて相手と競うのでⅡB、ネット対戦はⅡCになる。 ②運は、くじはⅡA、トランプや麻雀はⅡB、競馬(遠隔地で投票)はⅡCである。 ③模擬や表現は、絵画はⅡAとⅢA、カラオケはⅡB、ごっこ遊びはⅢBとなる。 ④めまいのうち、アトラクションはⅡA、遊具はⅢAである。 4.玩具と共用品  不便さのある人には、X1:利用者自身の機能を補う(補装具的)(例:マジックハンド、左手用のハサミ)、 X2:玩具の側の表示で補う(例:点字シール)、 X3:玩具に機能を持たせて補う(例:テルミ〈点字と墨字を併記した絵本〉、晴盲共遊玩具、らくらくホン、各種オーディオ用品) という方法がある。共遊玩具の多くは、X1~X3に含まれる。  知的や発達の障害がある当事者は、絵を描くなどで表現すること(4類型では③、例:アールブリュット)(Y)がある。 独自の表現世界を築くことがある。  囲碁・将棋はⅡBやⅡC(上記3)であるが、近年、専門家を凌ぐ棋力に達したAIを研究に用いることで(ⅡA)、棋士は能力の上限を伸ばしている。 元々将棋には、暗譜で指し手を口頭で告げて対戦する目隠し将棋(ⅠB)もある。  目隠し将棋を基準とすれば、用具を用いて指すのは、記憶が追いつかない知的不便さを用具で補う姿ともいえる。 将棋の神様(Ⅰ)からみれば、Ⅱ以下はみな不便さのある人たちということになる。 12ページ AD(アクセシブルデザイン)シンポジウム2020開催  令和2年(2020年)2月14日(金)、YMCAアジア青少年センター(東京・千代田区)にて、 「ADシンポジウム2020」を開催した。当日は120名に参加いただいた。 主催はアクセシブルデザイン推進協議会  ADシンポジウムは、任意団体「アクセシブルデザイン推進協議会(ADC)」が、毎年2月に開催しADに関する情報提供を行っている。 ADCは、2003年に家電製品、ガス・石油機器、住宅機器、福祉用具、パッケージ、公共交通機関などへのADの普及・促進に取り組む業界団体が、 高齢者ならびに、障害のある人たちへの製品やサービスに関する工夫をどのようにしていけば良いかを業界の枠を越えて検討し、 関連する情報を共有するために発足した団体で、世界でも類を見ない業界横断的な組織である。  発足当初から年1回、その時々の社会的背景とAD・福祉用具に関連するテーマでシンポジウムを開催している。 ADシンポジウム2020のテーマ  今年度のテーマは「誰もが参加する社会を目指して~スポーツ、雇用、様々な機会を通じて~」であった。  基調講演では、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会会長で、日本パラリンピック委員会会長の鳥原光憲(とりはらみつのり)氏に、 「共生社会の実現を目指して~東京2020パラリンピックを成功させよう~」と題してご講演をいただいた。  参加者からは、「パラリンピックの全体像が理解できた」、 「公平性の担保、競技用具の工夫、ルールの工夫に、共生社会実現の要素が凝縮されていることがとても印象に残った」、 「共生社会の実現を目指して“I'm POSSIBLE”。あらためて応援したいなと思っています。孫といっしょに!」などの感想をいただいた。 農業と福祉のいい関係  続いて、京丸園(株)総務取締役鈴木緑(すずきみどり)氏より、ユニバーサル農園を通じて 「障がい者雇用を考えるために、農業と福祉のいい関係」について、たくさんの事例を用いてご講演をいただいた。  作業療法士(OT)である参加者からは、「もっと多くのOTに知らせたいと思いました。 また、障がいがある子供達の将来を考える上で重要だと思いました」や、「農業の話ですが、企業と同じだと思いました」、「すべての仕事に活用できそう」という感想もあった。  また二つの講演を通じて、「ひとりひとりの持っている能力、スキルをいかに伸ばすか、 活躍できる場(環境)を整えることも必要だが、関心を持ち、理解することが大切であるとあらためて感じました」というご意見もあった。  最後にADC幹事から、AD最新情報報告があった。  参加者からは次年度のテーマに関して、たくさんの要望をいただいており、 来年度も有用な情報提供、共有ができるよう努めたい。 森川美和(もりかわみわ) 写真:講演の様子 13ページ 台湾交流と、EB世界大会に参加して NPO法人表皮水疱症友の会DebRA Japan 代表理事 宮本恵子(みやもとけいこ) 台湾患者会のマンパワーに感銘  台湾患者会との交流は3度目。今回は1月、台南国立成功大学医学部皮膚科教授が企画した表皮水疱症チャリティ『愛と傷跡コンサート』に招待されました。 3日に台中市、5日に高雄市の豪華な会場でのフルオーケストラに詩的な啓発映像をコラボさせた画期的な音楽会は夢の世界でした。  台湾では表皮水疱症(EB)のことを、泡泡龍=バブルドラゴンと表現し、国内患者数は約200人、 日本と比べるとはるかに少ないにもかかわらず、成功大学専門医チームと、社團法人台灣泡泡龍病友協會の理事長家族の、 志高い活動が大きく結実したコンサートであり、日本の私たちを招待してくれたことにも台湾の人たちの惜しみない愛を感じます。  6日間の滞在中、移動中も観光、食事時も、いつも私の手を笑顔でそっと握る理事長。歩く時間や階段、食事の特別メニューや飲み物の手配と完璧な気遣い。 台北、台中、台南各地の患者家族との会食では、日本との情報交流に積極的で、刺激を受けたのは私の方でした。 最後の会食での、EBを持つ理事長の次女ロージュン手製の贈り物は、カタコトの言葉以上にかけがえのない喜びとなり、また近い日に台湾との交流の約束を交わしました。 54か国参加の世界EB大会へ  表皮水疱症患者は世界で50万人、その希少性ゆえ、これまで情報共有していた医療研究学会と患者家族の大会を統一し、 今年初めて両者が一堂に会すEB World Congressの第1回大会が1月19日~23日ロンドンで開催され、54か国、2000人を超す参加者が集まりました。 日本からは『間葉系骨髄細胞移植の新手法』で関心を集めた大阪大学の玉井克人(たまいかつと)先生と北海道大学、新潟大学から専門医の先生たち、 表皮水疱症友の会からは3名が参加。  各国が取り組む治療研究と治験の意見交換を皮切りに創傷ケア、食道狭窄や胃瘻造設、口腔ケア、目や歯のケア、成長と栄養管理、貧血、手指の分離、皮膚ガンの切除、 足のケアなど、表皮水疱症に関するテーマ発表が続いたほか、患者からのスカイダイビング挑戦や数十年の闘病体験など貴重なスピーチが特に大きな共感を呼びました。 一方、患者同士の交流もランチタイムの合間にフォトセッションで賑わい、挨拶がわりの「夢ありがとう」コースターは、 ドイツ、ブラジル、イギリスの当事者達や、スペインや台湾の仲間達との再会にも、翻訳機以上の役目を果たしてくれました。 写真1:台南国立成功大学医学部との晩餐交流会(1月2日) 写真2:高雄コンサート後の記念写真(1月5日) 写真3:大会長のUitto(米)教授と 写真4:フォトセッション 14ページ ユニバーサルデザインフェスタIN銚子 銚子市社会福祉協議会 篠塚拓也(しのつかたくや)  令和元年11月23日に「ユニバーサルデザイン(以下UD)フェスタIN銚子」が千葉県銚子市の保健福祉センターにて開催されました。 銚子市が福祉教育推進指定地域に指定  千葉県では、福祉教育推進の目的で、中学校区を一つのエリアとし、そこに含まれる小学校・高等学校、 その中学校区を圏域とする地区社会福祉協議会をセットで福祉教育推進校・福祉教育推進団体として指定しています。  この事業の一環で銚子市は平成30年度~令和2年度の間、銚子市を福祉教育推進地域とし、 福祉教育推進団体に興野・若宮・春日地区社会福祉協議会を、福祉教育推進校に市立銚子中・市立双葉小・県立銚子高校が指定され、 各団体が協力し合い「つながろう、かかわろう、わたしたちの銚子」をスローガンとし、福祉教育を推し進めていくこととなりました。 「UDフェスタIN銚子」開催  現代社会において地域との関わりが希薄となっている中、地域には高齢者や子ども、障がいのある人とない人が生活しています。 この様な時代背景と福祉教育推進地域の指定を機に「どのような人が、どういったことに困っていて、 どうすればより良いのか」ということに気づき「誰もが安心して暮らせる街づくり」を実現していく第一歩として、 銚子地区福祉教育推進連絡会議主催により「UDフェスタIN銚子」を開催いたしました。  開催するに当たり、私達は見る・聴く・触るといった、なるべく多くの感覚でUDとその意義を知ってもらうために、 ①共用品推進機構 望月庸光(もちづきのぶあき)理事による講演「全ては『楽しい』のために」、 ②共用品体験セットを活用した「共用品体験コーナー」、 ③銚子の企業のUDを紹介する「銚子オリジナルコーナー」、 ④銚子の福祉教育推進校および福祉団体の「活動紹介コーナー」、 ⑤体験と点字の読み書きを教える「点字絵本コーナー」、 ⑥福祉について学べる「福祉ビデオコーナー」、 ⑦高齢者の困りに気づく「高齢者疑似体験コーナー」、 ⑧車いすの不便に気づく「車いす体験コーナー」といった様々なコーナー を用意しました。  私自身UDに関しては、恥ずかしながら素人なところもあり、体験をとおして様々なことに気づかされました。 そして、このイベントを通して驚いたことは、銚子にUDに着目して商品作りをしている企業や、 UD的視点で商品作りをしている企業があると知ったことです。 参加者からも「新しい企業を知ることができたり、今まで知っていた商品に色々な工夫がされていてビックリした」などの感想を聞くことができました。  最後に、このイベントをとおして、UDを知り、困りごとに気づき、自分のできることを考える機会とできたことはもちろん、 銚子という町には、魅力的な企業や、物や人が多くあるというPRにもなったのではないかと思いました。 写真1:講演「全ては楽しいのために」 写真2:共用品体験コーナー 15ページ 映画「インディペンデントリビング」  映画「インディペンデントリング」の全国公開が始まった。  映画の冒頭、ライブハウスでギターを奏で歌う青年、川﨑悠司(かわさきゆうじ)さんにはもう一つの顔がある。 それは、一人暮らしをする渕上賢治(ふちがみけんじ)さん達の自立生活を支援する新人ヘルパーの顔だ。  上肢・下肢に障害があり電動車椅子で生活する渕上さんの指示により、彼の口に煙草をくわえさせ、火をつけ、灰が落ちそうになると灰皿を差し出し受ける。 タオルを駆使して彼の顔をゴシゴシ洗うと、何度も一人で練習を重ねた成果か「うまいなぁ」との渕上さんの一言に繋がった。 入浴はもう一人のヘルパーと共に洋服を脱がせ二人で抱え上げる。 入浴後、ベッドへの移動も二人がかりで行う。これらは全て渕上さんの指示で行われている。 淵上さんの介助方法は、マニュアルがあるわけではないため、川﨑さんは先輩のヘルパーそして多くは渕上さんから直接学ぶ。  渕上さんは、17歳の時オートバイ事故で頸椎に損傷をきたし、障害者となった。その後15年間家に閉じこもった。 介護してくれていた母親が病で倒れ逝去、その時彼が出会ったのが自立生活(インディペンデントリビング)センターだった。  1972年カリフォルニア大学で学ぶポリオの学生エド・ロバーツさんが、大学の介助や住宅、車椅子修理、当事者同士で行うピアカウンセリングが、 社会に出てからは使えなくなることを機に、立ち上げたのがインディペンデントリビング=自立生活センターである。 地域で暮らす障害者を支援する同センターでは障害者は、「施設収容ではなく、地域で暮らすべき」、「保護される子供でも崇拝される神でもなく」、 「援助を管理する立場」、「偏見の犠者になっている」との思想と現実を掲げた結果多くの国に広まった。 日本では1986年、第一号の自立生活センターが発足、30数年たった現在121のセンターが事業を行っている。 共通点は、構成員の過半数が障害者、意思決定の責任者が障害者、障害の種別に関わりなくサービスを提供し、関連する情報提供を行っていることだ。 渕上さんも、9年前に大阪で自立生活センターを立ち上げ、自立を支援する側の代表も務め、「自分は、この仕事をするために頸髄損傷になった」と言いきる。  この映画が初監督となる田中悠輝(たなかゆうき)さんは、江戸川区の自立生活センターの代表と出会い、 「僕らのことを撮ってほしい」の一言が、この映画の出発点となったという。 田中さんは、同センターで介助ヘルパーをしながら、社会や世間に伝えるべきモノやコトを探りつづける。 映画では、大阪にある3つの自立生活センターで働く人、支援を受ける人たちの生活の断片を紹介しながら、 障害とは、自立とは、家族とは、共生とはなど、数多くの問いを見る側に投げかけてくれる。この映画の凄さは、 それらの問いに答えを出す多くのヒントもさりげなく伝えてくれている点である。  字幕と音声ガイドが利用できるUD Castも上映中に使用可能なため、全ての人におすすめしたい映画である。 星川安之(ほしかわやすゆき) (参考)時事通信社 『厚生福祉』 写真:映画「インディペンデント リビング」チラシ 16ページ おもちゃを通じて教わったこと 【事務局長だより】星川安之  大学3年の時、東京世田谷にある重症心身障害児療育相談センター「あけぼの学園」に見学に行った。 その後、何回か通ううちに、指導員がふともらした「ここの子供たちが遊べる市販のおもちゃが少ない」が、数学の応用問題のように聞こえた。 この応用問題を解いてみたいと思い、玩具メーカートミー工業株式会社(現タカラトミー)の試験を受け入社したのが1980年4月だった。 入社5ヶ月目の9月1日、トミーの創業者である富山栄市郎氏の3回忌に、同社内に障害のある子どもたちが遊べる玩具を研究・開発する部署が新設され配属された。 発足1年目は、見えないほど細いコネにもすがり、障害のあるさまざまな子供たち約1000人に会い、どんなおもちゃがあれば良いかをひたすら聞きまわった。 1年目の結論は、全ての子供たちが遊べるおもちゃを作ることは限りなく不可能・・、それを役員会で報告した。 けれど、1000人の子どもたちからは多くのヒントをもらった。 誰もが満足して遊べる玩具は無理でも、それぞれの不便さを一つ一つ解決していくおもちゃならできる、そう思えたのは、目の不自由な子供たちに会った時だった。  発足2年目は、市販できるおもちゃを開発することに目的を定め、東京都心身障害者福祉センターに紹介してもらった 20軒の目の不自由な子供がいる家庭を1軒1軒訪問してまわった。  1軒目のHさんの家では、箱いっぱいに入った多様な大きさの鈴を見せてくれた。 箱の中の鈴を一つ取り出して振ると、幼稚園のHさんは「去年の3月20日、Mさんにもらった鈴」、次を振ると「3年前の2月1日、Kさんがくれた鈴」と、即座に教えてくれた。  2軒目のNさん宅では、お母さんが手作りしたNさん宅の家の模型にくぎ付けになった。 目の見えない娘は、自分の住む家の形を部分的に触っても、全体像を理解することが難しい。 そのために、屋根は取り外しができ、外と内も、触って確認できる大きさに仕上がっている。  3軒目のOさんの家では、おもちゃやゲームは、目の不自由な子供だけでなく、目の不自由な大人も遊べるものがあったらよいと聞いた。 その理由は、「自分たち視覚障害者は、目の見える人のように、ウィンドショッピングはできない。そのため、室内で遊べるゲームがあれば嬉しい」と教えてくれた。 そうして20軒訪問し、全ての家庭であったら良いと言われたのが、動きが止まってもしばらく音が鳴っているボールだった。 その後、多くの人の協力で、ボールは1年後に、メロディボールの名称で商品化された。 商品化できた報告と共に、商品を持参した時のそれぞれの家庭での笑顔が今でも心に強く残っている。 その笑顔は、それから今まで仕事を続ける原動力になっている。 共用品通信 【イベント】 AD シンポジウム2020(2月14日) 【会議】 第2回TC159国内検討委員会(1月28日) 第1回TC173国内検討委員会(1月28日) 第2回AD本委員会(2月4日) 第2回公共トイレにおける良かったこと調査委員会(2月19日) 【講義・講演】 共用品講座 UDアンバサダー講座(1月25日、星川) 共用品授業 東京大学教育学部附属中等教育学校(2月18日、田窪) 共用品講演 包装と薬に関する講演(2月21日、星川) 【報道】 時事通信社 厚生福祉 2月14日 台湾で見つけた工夫 時事通信社 厚生福祉 3月3日 玩具に反映された工夫 トイジャーナル2月号 祝 日本玩具協会 総理大臣表彰を受賞 福祉介護テクノプラス 2月号 あゆみシューズ 徳武産業 アクセシブルデザインの総合情報誌 第125号 2020(令和2)年3月25日発行 "Incl." vol.20 no.125 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2020 隔月刊、奇数月に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:http://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 事務局 星川安之、森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、田窪友和 執筆 石井今日子、小泉康代、後藤芳一、繁成剛、篠塚拓也、ジャスミン・ショーケット、高野麻里子、中田誠、水野麻由子、宮本恵子、渡辺俊之 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙写真 共遊玩具第一号「対戦型テトリス」 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。 その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。