インクル126号 2020(令和2)年5月25日 特集:良かったこと調査 Contents 再び3兆円を超えた共用品の市場規模 2ページ 2020年に向けた案内用図記号 4ページ アクセシブルデザイン(AD)製品の国際標準化 5ページ 公共トイレに関する『良かったこと調査』 6ページ 千代田区が実施した「良かったこと調査」 8ページ 電池の向きの入れ間違い、補聴器側で解決 10ページ MRIを受けて考えたこと 11ページ 点字名刺の手作り講座とお薦めの書籍 12ページ 電話で音声認識は使えるの? 13ページ 障害のある医師と志望者をつなぐサイト開設 14ページ キーワードで考える共用品講座第116講 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 表紙写真:透明マスクをして手話をする小川光彦さん(一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 理事〈情報文化部長〉) 2,3ページ 【トピックス】再び3兆円を超えた共用品の市場規模 日本能率協会総合研究所 凌竜也(しのぎたつや)  調査対象とした各品目の合計値にみる、2018年度の共用品市場規模金額は、3兆455億円と推計され、前年比で2.3%( 680億円)増となり、 2011年度以来、7年ぶりに3兆円を超える金額となった(図表参照)。 調査の経緯  本調査は、共用品(アクセシブルデザイン製品)の出荷額ベースの市場動向を把握するために、1996年に経済産業省(当時は通商産業省)の委託事業としてスタートし、 以来現在に至るまで共用品推進機構によって継続して実施されてきた、国内唯一の共用品市場規模に関する定点調査である。 今回の調査のポイント上位品目の動向をみると、「家庭電化機器(10,614億円:+3.6%、372億円増)」は、今回も継続して金額を増やした。 主力のルームエアコンが猛暑の影響などで大きく出荷額を伸ばし、冷蔵庫、洗濯機等の主力製品も引き続き大容量製品を中心に需要が伸び、堅調に推移したことが背景と考えられる。  「ビール・酒(4984億円:1.2%、59億円増)」は、前年度同様ほぼ横ばいとなった。ビール系飲料は、新ジャンルの出荷数量を増やしたもののビール、発砲酒は出荷数量を減らし、ビール系全体での出荷額は引き続き減少した。 前年6月の酒税法改正による安売規制の影響によるビール系以外の低価格飲料への需要シフトもあり、猛暑であってもビール系全体として出荷額を伸ばすことはできなかった。 ただしビール系以外の飲料の出荷額増により、全体では横ばいを維持している。  「映像機器(2845億円:+5.4%、146億円増)」については2年ぶりに増加に転じた。主力のテレビで、有機ELテレビの登場や50型以上を含めた。 大型製品が需要を伸ばし、出荷額の増加に貢献した。また住宅設備は2804億円(+3.2%、88億円増)、ガス機器は2462億円(▲1.8%、46億円減)となった。 新規住宅着工件数は対前年度でほぼ横ばいとなる中、ガス機器は暖冬の影響等も受けたが、住宅設備とあわせてほぼ横ばいで推移した。 このほか、(入替時期等の周期性のある品目を除き)対前年度から大きく出荷額を伸ばしたものとして、設置駅数が着実に伸びている「ホーム用自動ドア・自動改札(170億円:+25.9%、35億円増)」や、 前年度に引き続き電動製品が堅調に出荷額を増やした「机(天板上下)(19億円:+46.4%、6億円増)」等がある。  一方、今回調査より新規品目としてタクシーを取り上げた。高齢者・障害者に配慮されたタクシー(UDタクシー)が、東京オリンピックを控える中、 行政も認定制度等を通じて積極的に関与することで、東京を中心に急速に普及した。  出荷額ベースでは今回、同じ乗用車の座席シフト(2017年度時点で172億円)とほぼ同水準の174億円と推計された。 【UDタクシー】  新たにUDタクシーが対象に高齢者・障害者に配慮した、通常料金で誰もが利用できるUDタクシーでは、車椅子使用者はこれまでのように車椅子をしまい座席に移乗するか、車椅子ごと乗るかを選択できる。 横から乗り車内で方向を変えるタイプと後ろから乗り込むタイプの2種類があるが、横から乗り込むタイプが主流。 どちらのタイプも座席を折りたたみ、車内にあるスロープを設置して乗車となる。乗車後はベルトで車椅子を固定して、シートベルトを装着し準備が整う。 担当ドライバーは講習を受けているため平均8分半で準備が完了し乗車可能となる。今は、車椅子から移乗して乗車される人の方が多い。 そのため、タクシー会社各社では、一連の作業が必要な時に備え、イラスト付きの作業手順書を作り備えている。 最初に導入されたタイプでは、運転手がスロープを設置するのに60もの工程が必要であったが、改訂版では24の工程に減り、改善されている。 標準仕様には「乗降口」「スロープ」「乗降用手すり」「床の材質・形状」「車いすスペース」「室内座席」 「車いす固定方法」「車いす補助具・収納場所」「その他の設備・表示」の各視点から要件が提示され、これらを満たすことが求められる。 普及率に関して  調査対象品目のうち、製品本体の一部機能に共用化配慮が取り入れられている品目の一部について、その品目の全体出荷額との比較の視点から、 「共用品普及度(全体出荷額に占める共用品出荷額の割合〈%〉)」を試算している。今回の試算では「ガス器具」「家庭用電化機器」等が普及度50%を超え、 これらに加えて「エレベータ」「映像機器」「情報通信機器」等を含めた品目群は、共用化配慮が高い水準で維持され、共用品であることが「当たり前」となっている。 今後に向けて  今回新たに加えた「ボディソープ」についても、包装容器の配慮として、シャンプー・リンスと区別するための触覚記号が普及していることから、 新規対象品目の候補として検討した。この他にも、新規品目の追加や修正、また配慮点の見直し等を含め、今後も改善を加えながら調査を継続していく予定である。 図表:1995~2018年度の共用品市場規模金額の推移 写真1:UDタクシーの車椅子使用者の乗車まで 4ページ 【トピックス】2020年に向けた案内用図記号 公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団 竹島恵子(たけしまけいこ) 案内用図記号とは  案内用図記号(以下図記号)は、不特定多数の人々が利用する公共施設や公共交通機関、観光施設において、 文字や言語によらず対象物、概念または状態に関する情報を提供する図形です。 文字情報と比較して、だれもがひと目でその表現内容を理解でき、遠方からの視認性も優れていると言われています。  また、言語の知識を要しないといった利点があり、視力の低下した高齢者や障害のある方、 日本語のわからない外国人観光客等にも理解できる有効な情報提供手法として、日本を含め世界中の公共交通機関や観光施設等で広く掲示されています。 交通エコロジー・モビリティ財団では、2002年日韓ワールドカップ開催を控えた1999年から図記号を検討し、「標準案内用図記号ガイドライン」を作成、 「JIS Z8210」(案内用図記号)として制定されるに至っています。 新たに作成した図記号  2020東京オリンピック・パラリンピック(以下2020オリパラ)に向けて、わかりやすいサイン環境を目指すため、 15、16年に19個の図記号を新規作成及び見直し、「標準案内用図記号ガイドライン改訂版」としてとりまとめ、 そのうち17個がJIS Z 8210に登録されました。 しかし、当時検討項目としてあがっていたものの議論が過渡期であり引き続き検討が必要とされる項目が残されていました。 そこで、18年に2020オリパラ以降も視野にインクルーシブな社会構築の一助として残された項目を含め、改めて検討を進めました。 障害者団体やサイン関係者、公共交通機関や公共施設関係者等へのヒアリング調査、意見交換会、説明会を通して図案を作成し、 理解度や視認性試験を経て、新たな図記号8項目を作成するに至りました(図1参照)。  現在、「JIS Z 8210」への追加提案を進め、「標準案内用図記号ガイドライン改訂版」の改正を予定しています。 検討過程での特記すべき事柄今回検討した中で今までと大きく異なるところが2点あります。  1点目は、施設建築に間に合うよう急ピッチで作業を行ったことです。 これについては、東京都オリンピック・パラリンピック準備局、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会及び、 独立行政法人日本スポーツ振興センター新国立競技場設置本部に意見交換会に参画いただき、情報を共有し、図記号の最も重要な使命であるデザインの統一を諮ることができました。  2点目は、急速に変化する社会事情に適合するよう、今までにない概念の図記号作成に挑戦したことです。 今までは街中にあふれたバラバラの図記号を統一することを主眼としてきた活動が、未知のニーズを先取りする活動に変わってきた今回の検討は、 案内用図記号作成の大きなターニングポイントであると考えられます。  2020オリパラは延期となりましたが、今後もより一層の標準案内用図記号の開発と啓発活動を継続して参りたいと考えております。 図1 新たに作成した図記号 こどもお手洗おむつ交換台 カームダウン・クールダウン※1 男女共用お手洗※2 簡易型 オストメイト用設備 着替え台 ベビーチェア介助用ベッド ※1:文字による補助表示を付ける場合は、「カームダウン・クールダウン Calm down,cool down」とする。 「この部屋は気持ちを静めるための部屋です」など、運用に適した利用説明を表示することが望ましい ※2:文字による補助表示を付ける場合は、「男女共用 ALL gendar」またはどちらかとする。色彩はモノトーンが望ましい 5ページ 【トピックス】アクセシブルデザイン(AD)製品の国際標準化~国内規格(JIS)から国際規格(IS)へ~  2014年1月に国連障害者権利条約が批准され、またISO/IECガイド71も改訂される中、障害のある人を取り巻く環境は、よりアクセシブルデザインの方向へと進みつつある。 また、日本が先導して高齢者及び障害者配慮の国際標準の開発を行うとともに、消費者と生産者とを繋ぐ仕組みの構築を進め、開発する国際標準はAD製品であることを評価するための基準としても活用できるよう取り組みを行っている。 これらの事業は、(国研)産業技術総合研究所との共同開発体制で実施しており、同研究所は、TC159(人間工学)/WG2(特別な配慮を必要とする人々のための人間工学)、 SC4(人間とシステムのインタラクション)、SC5(物理的環境の人間工学)の国際規格案作成とそれに付随する技術的検討等を行い、 共用品推進機構は、ISO/TC173(福祉用具)及びTC159の規格案の提案準備、国内委員会設置と運営等を行っている。  ここでは、これまでに国内規格から国際規格になったものを紹介する。また新たに国際規格化された際は本誌で報告を行う予定である。 森川美和(もりかわみわ) No TC159関連規格 ① ISO 24500 “Ergonomics – Accessible design – Auditory signals for consumer products ” (JIS S 0013、高齢者・障害者配慮設計指針-消費生活製品の報知音) ② ISO 24501 “Ergonomics – Accessible design – Sound pressure levels of auditory signals for consumer products ” (JIS S 0014、高齢者・障害者配慮設計指針-消費生活用製品の報知音―妨害音及び聴覚の加齢変化を考慮した音圧レベル) ③ ISO 24502 “Ergonomics – Accessible design – Specification of age-related luminancecontrast for coloured light ” (JIS S 0031、高齢者・障害者配慮設計指針-視覚表示物-色光の年代別輝度コントラストの求め方及び光の評価方法) ④ ISO 24503 “Ergonomics – Accessible design – Tactile dots and bars on consumer products ” (JIS S 0011、高齢者・障害者配慮設計指針-消費生活製品の凸点及び凸バー) ⑤ ISO 24504 “Ergonomics – Accessible design – Sound pressure levels of spoken announcements for products and public address systems ” (JIS 未提案、人間工学-アクセシブルデザイン-製品及び場内放送設備の音声アナウンスの音圧レベル) ⑥ ISO 24505 “Ergonomics – Accessible design – Method for creating colour combinations taking account of age-related changes in human colour vision ” (JIS S 0033、高齢者・障害者配慮設計指針-視覚表示物-年齢を考慮した基本色領域に基づく色の組合せ方法) ⑦ ISO 24508 “Ergonomics – Accessible design – Guidelines for designing tactile symbols and characters ” (JIS S 0052、高齢者・障害者配慮設計指針-触覚情報-触知図形の基本設計方法) ⑧ ISO/TR 22411:2008 “Ergonomics data and guidelines for the application of ISO/IEC Guide 71 to products and services to address the needs of older persons andpersons with disabilities ”  (高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した製品及びサービスに関する規格 ISO/IEC ガイド71を適用するための人間工学的データ及び指針) No TC173関連規格 ① ISO/IEC Guide71:2014 “Guide for addressing accessibility in standards” (規格におけるアクセシビリティ配慮のためのガイド) ② ISO 17069:2014 “Accessible design - Consideration and assistive products for accessible meeting” (アクセシブルデザイン-アクセシブル会議の留意事項及び支援製品) ③ ISO 19026:2015 “Accessible design - Shape and colour of a flushing button and a call button, and their arrangement with a paper dispenser installed on the wall in public restroom” (アクセシブルデザイン―公共トイレの壁面の洗浄ボタン、呼出しボタンの形状及び色並びに紙巻器を含めた配置) ④ ISO 19028:2016 “Accessible design - Information contents, figuration and display methods of tactile guide maps” (アクセシブルデザイン-触知案内図の情報内容、形状及び表示方法) ⑤ ISO 19027:2016 “Design principles for communication support board using pictorial symbols” (絵記号を使用したコミュニケ―ション支援用ボードのためのデザイン原則) ⑥ ISO 19029:2016 “Accessible design - Auditory guiding symbols in public facilities” (アクセシブルデザイン-公共施設における聴覚的誘導信号) (国際規格の概要や購入はISO のウェブサイトから※注:英語での提供です。) https://www.iso.org/home.html 6、7ページ 【特集】良かったこと調査 公共トイレに関する『良かったこと調査』 ~設備の充実拡大、そして利用客などの自然な声かけの大切さ~  共用品推進機構は、2013年度の「旅行に関する良かったこと調査」を契機に、毎年良かったこと調査を継続して行っています。  2019年度のテーマは「公共トイレ」。私たちの暮らしには「衛生設備機器」はなくてはならないものであり、 外出の際などには「公共トイレ」の位置情報やその空間や設備が整っているかどうかは大事な使用要件です。 今年度は、公共トイレの良い点を伺うと共に、どのようなことに配慮すればより使いやすい公共トイレが実現するか意見を伺い報告書としてまとめました。 この調査は、調査方法や調査内容を検討するため委員会を設け、委員長には公益財団法人日本障がい者スポーツ協会会長 鳥原光憲(とりはらみつのり)氏に就任いただき、 実際に調査を行っていただいた各団体の方々に委員としてご出席をいただきました。 さらに(一社)日本レストルーム工業会の方々には、委員としてご出席いただくだけでなく、専門的な視点からのご意見も多くいただきました。  ここでは、その成果報告の一部をご紹介します。 調査概要 【調査形式】自由記入が多いアンケート調査形式及びグループ インタビュー並びにヒアリング形式 【調査協力団体(順不同)】 ア.社会福祉法人日本視覚障害者連合 イ.社会福祉法人日本点字図書館 ウ.一般財団法人全日本ろうあ連盟 エ.公益社団法人日本リウマチ友の会 オ.社会福祉法人全国盲ろう者協会 カ.公益社団法人全国脊髄損傷者連合会 キ.社会福祉法人国際視覚障害者援護協会 ク.NTTクラルティ株式会社 ケ.株式会社高齢社 コ.一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 サ.一般社団法人全国パーキンソン病友の会 シ.国立研究開発法人国立がん研究センター ス.特定非営利活動法人全国LD親の会 セ.認知症の人の家族の会 【回答者属性】  アンケートは354名の方にご回答をいただきました。障害及び身体特性については以下の通りです。 全盲43名、弱視18名、ろう34名、難聴・中途失聴14名、盲ろう8名、失語症1名、上肢障害1名、下肢障害3名、上肢・下肢障害3名、 脊髄損傷12名、頸髄損傷11名、難病(リウマチ)46名、パーキンソン病42名、知的障害1名、発達障害27名、知的障害・発達障害9名、 精神障害5名、認知症5名、高齢者42名、がん1名、内部障害3名、障害はない19名、無回答6名。  良いと思った公共トイレの設備など良いと思った公共トイレの場所における設備については、 「百貨店」、「高速道路(NEXCO)」、「病院」、「空港」、「スーパー」、「ホテル」、「JR駅や私鉄」、「コンビニエンスストア」など様々な異なる場所において、良かったことの回答があった。  共通して多かった回答は、トイレ環境/空間全般においての「清潔さ、綺麗さ」、「トイレがあること、設備が充実していることへの安心感」である。 ・大きな駅の近くの百貨店のトイレは、キレイに清掃されて悪臭がしないので利用できる。(発達障害20代男性) ・トイレの中が清潔で、利用しても気持ちが良かった。(高齢者60代男性) ・便器すぐそばの床に流水のポイントが大きく印されており、座ったままでもその印を踏むだけでよく、安心して立ち上がる事ができる。(難病〈リウマチ〉70代女性) ・換気が良いので快適です。(知的障害・発達障害30代男性) ・ウォシュレットにちゃんと点字が表示してあること。(全盲20代女性) ・高速道路のトイレはほとんど問題なく使える。(脊髄損傷70代男性) ・高速道路のトイレはいつもきれいに清掃してあるのできもちがいい。(パーキンソン病60代男性) ・(高速道路は)トイレ使用中なのかどうか、視覚的に分かるように設備されている。(ろう40代女性) ・トイレの空き状態が外から見てわかりやすい(トイレの天井に使用中、空きのランプや、プレートが付いている)。(難聴・中途失聴50代女性) ・個室内にステッキホルダーがあった。(弱視50代女性) ・障害者を考慮した位置に手すり、荷物置きがあると嬉しくなる。(難病〈リウマチ〉50代女性) ・安心してトイレ使用ができるように、荷物台が設備されているので、心配したことがありません。(パーキンソン病80 代女性) ・バッグや傘がおけるちょっとしたところがいいと思いました。(発達障害20代女性) ・ドアの開閉ボタンが非接触式で自動ドアだったため、衛生的で、車いすでも開けやすい。(上肢障害があるため、物理的に押すことが難しく、手動開閉ドアだと開けにくい。)(頸髄損傷30代男性) 良いと思った公共トイレでの人的応対公共トイレを利用する時に良かった応対で多かったものは、利用客やその場に居合わせた人の自然な声かけであった。 ・大便用のトイレの空き室がわからず、ウロウロしていたら、同じ利用者が空き室を教えてくれ、誘導まで頂き助かった。(全盲70代男性) ・商業施設のトイレ内で、中の作りが複雑で迷っていたところ、近くにいた方が小便器や洗面台の場所を言葉で説明してくださいました。トイレ内では、体に触れての案内よりも、言葉での説明のほうが良いと感じました。(全盲30代男性) ・女子トイレの長い列に並んでいるとき、周りが静かで進んでいるかどうかがわからなくて困っていたら、近くの方が声をかけてくれて、一緒に進んでくれた。とてもありがたかった。(全盲40代女性) ・イベントをやっている公共施設の男性用トイレで、洋式トイレがわからず困っていた時、他の利用者の方が誘導してくれた。(盲ろう50代男性) ・ここ数年、ショッピング施設のトイレに車いすで入る際に、扉を押さえてもらった(お願いしていないにも関わらず)。 扉が固定されていないと自動で戻ってくるため、車いすと扉が接触してしまう。上記の経験が複数回あった。当事者としてはとてもうれしい。(上下肢障害30代男性) ・クリスマス間近な寒い冬の夕方でした。買い物で行ったスーパーの多目的トイレの扉がとてつもなく重たくて、挟まりながらもがいていました。 するとそこへ、小学生ガールが二人やってきて、扉を開けて押さえていてくれたのです。心がほっと温かくなりました。あの子たちの背中には、羽が生えていたのかもしれない…。(頸髄損傷50代女性) 森川美和 良かったこと調査ウェブサイト https://www.kyoyohin.org/ja/research/report_goodthings.php 写真:公共トイレに関する良かったこと調査成果報告書 8、9ページ 【特集】良かったこと調査 千代田区が実施した「良かったこと調査」  東京都千代田区では、障害等のあるなしに関わらず、地域を構成するすべての人が互いを尊重し、支え合う共生社会の実現をめざして、さまざまな障害者施策を推進しています。 その施策の一環で同区が令和元年度行ったのが「良かったこと調査」です。  「良かったこと調査」は、千代田区内の5つの障害者団体・グループ(家族を含む)の会員の方々にお願いし、インタビュー調査では30名、アンケート調査では11名の方々から回答がありました。 インタビュー調査は、区障害者福祉課職員と共用品推進機構の調査担当者が、各団体・グループによる会合等に赴き、当事者及びその家族の方に直接行いました。 アンケート調査11名は、インタビュー調査では言い足りなかった方や、当日参加できなかった方が回答されたものです。 調査項目は7項目で、ソフト面は、「人的な応対で良かったと感じたこと」、ハード面は「施設や機器などの良かったこと」です。合計165件の回答をいただきました。  これらの調査結果で得られた回答をイラストと共にご紹介します。  今後も千代田区の方々と共に、各地域で良かったことの輪が広がっていくよう調査、普及活動を進めていきたいと思っています。 星川安之・森川美和 表1:良かったことの回答種別(件数) (1)駅や交通機関(ソフト29件/ハード16 件) (2)飲食店(ソフト13 件) (3)スーパーやコンビニエンスストア(ソフト15 件/ハード1件) (4)商店街(ソフト5件) (5)郵便局や銀行(ソフト13 件) (6)千代田区内の施設(ソフト43 件/ハード8件) (7)その他(ソフト18 件/ハード4件) 図1:千代田区の街で見つけた良かったこと~こんなところにも、良かったことがたくさん~ 駅・交通機関  近くに知的障害や発達障害などの人たちが利用する施設があると、その人たちが駅を使用するので駅員さんはよく理解していて、安心して利用できる。(知的障害)  市ヶ谷駅は子どもの学校の関係で乗り換えに利用するが、警備員さんが視覚障害のある子どもたちをよく見てくれている。 こちらが言わない場合はさり気なく安全に配慮してくれ、お願いすると一緒について行ってくれる。ホームドアの設置が始まったがとても助かる。(知的障害・視覚障害)  風ぐるまは便利です。作業所に行くときに使用します。女性の運転手さんがやさしい。(男性もやさしいです。)(知的障害) 千代田区の施設  対応は気を遣ってくれる。必ず誰かが出て用を聞いてくれる。(肢体不自由)  保険などの書類にサインをしなくてはいけないが、息子は記述に時間がかかる。けれども局員さんは、じっくり待ってくれて助かる。(知的障害)  銀行で、手続きの窓口を探していると、すぐに係に人がそばに来てくれ、案内してくれました。 また、番号を呼ばれたのに気付かずにいると、番号を覚えていてくれたようで、教えていただきました。(知的障害)  交番には、とても感謝している。娘が、街を徘徊し、いなくなってしまうと、最寄りの交番に連絡をしている。 連絡した交番は、周りの交番にも知らせてくれて、見つかったら、母親に連絡が行く仕組みになっており、大変ありがたい。(精神障害) スーパー・コンビニエンスストア・お店  (娘に対して)子ども扱いでない言葉づかいで、対等に応対してくれて嬉しかった。(精神障害)  子ども連れのとき、子どもの椅子が必要かどうか聞いてもらえるのは嬉しい。(知的障害)  家を出て行ってしまって帰ってこないときには、24時間営業のファストフード店に行っていることもあった。 お金をほとんど持っていない娘が、家に帰らずに夜中、ある意味安心して過ごせる場所があることで、事件等にまきこまれないでいられる要因かもしれない。(精神障害)  お花屋さんは声をかけてくれる。(知的障害)  クリーニング屋さんが声をかけてくれる。(知的障害)  「娘さん、行きは店の前を通ったけど、帰りは通ってないけど、だいじょうぶ?」と、心配して声をかけてくれる地域の人がいることはとても嬉しい。(知的障害)  車椅子のバッテリーがなくなりかけたので、親子連れの男性にバッテリー交換をお願いしたところ換えてくれた。女性より、男性の方が気軽に応対してくれる。男性は若くても年配でも親切。(肢体不自由)  千代田区の地域での良かったことやモノなどについて、区内の障害等のある人や、 その家族を対象にしたヒアリング及びアンケートによる調査(千代田区委託)に基づいて作成しています。 なお、記載はアンケートの原文を尊重しており、イラストはイメージです。 作成:(公財)共用品推進機構 2019.12 10ページ 電池の向きの入れ間違い、補聴器側で解決 世界初の補聴器  電池を使用する製品を扱っている企業のお客さま相談室には、電池の入れ間違いに気づかないままでの、「製品が動かない」との問い合わせが、昔も今も上位を占めています。  リオン株式会社は、1948年、日本初の量産型補聴器を販売以降、人工中耳、防水耳かけ 型補聴器、軟骨伝導補聴器と、世界初の補聴器を数多く世に送り出してきました。 96年発売の「おまかせ回路搭載補聴器」もその一つです。きっかけを作った田中順子さんは長年、小林理学研究所が運営する「母と子の教室」で聴覚に障害のある子どもたちに、話し言葉を獲得する指導を行っていました。  そんな経験を活かし、田中さんがリオンの補聴器を販売する部署に転籍したのは93年。はじめは直接お客さまと接することはない業務でしたが、 店頭で直にお客さまの声に触れないと仕事に反映できないと、上司に相談し、時間を決め店頭に立つようになりました。店頭に立つと、 お客さんの来店目的が、修理・きこえ難さの苦情・音漏れ・買い替え・取扱方法・電池購入など多岐に亘っていることを実感したのです。 その日、彼女が応対したお客さんは「補聴器が故障した。電池を交換したのにきこえない」と額の汗を拭きながら耳かけ型補聴器を取り出しました。 受け取った補聴器を修理室へ持っていくと「電池はまだ新しく、正常に動作している」と言われました。 電池が逆さまに電池のプラスとマイナスがさかさまに入っていたのです。当時の補聴器に使用されていたボタン型電池は水銀電池で、プラス面が銀色でマイナス面が金色で区別がつきやすいものでした。 しかし、水銀は公害問題のために製造中止となり、代わりに空気電池が主流となりました。片方のシールをはがすと小さな穴が片方に現れますが、両面が銀色のため、プラスとマイナスを間違える人が後をたたなかったのです。 社内での提案から  これをこのままにしてはいけない、何とか改善せねばと社内の提案制度を利用して①電池のマイナス面の色の変更、 ②片面を艶消しにする、③触って感じ取れる程度の形状の変更が必要だと94年9月書類を提出したのです。 半年後の95年3月、審査委員会から審査結果が届きました。そこには、電池業界に問い合わせたところ、金メッキや片面だけの光沢はコスト高、形状変更は寿命短縮との回答でした。  しかし電極識別は今後も検討していくとありました。一年後田中さんは、当時の技術部長から「貴女の提案が製品化されます」との連絡を受けました。 同社の技術部門が、電池側でできないのならばと、補聴器本体側でこれを解決する仕組みを目指したのです。  96年2月に発売した耳かけ型補聴器「HB-55S」に、補聴器では世界初となる電池無極性機能が搭載されたのです。 この機能は、間違わない、迷わない、を総称して「おまかせ回路」と命名され、今ではリオンのボタン電池使用の補聴器全てに搭載されています。 星川安之(ほしかわやすゆき) 写真1:電池のプラス・マイナスを気にせずに入れることができる(上)、リオネットピクシー(下) 写真2:HB-55S(世界初のおまかせ回路搭載補聴器) 11ページ MRIを受けて考えたこと  「検査は20分で終わりますが、その間工事現場のような音がします、そのためこのヘッドホンをしてください。BGMが流れますが、工事現場の音が消えるわけではありません。 ヘッドホンには、検査技師が音声で指示を出しますのでそれに従ってください」と説明をされた時私は、MRIの検査を受けるために、ガウンに着替え高さ50センチほどのベッド上にいた。 その一週間前、私は自宅近くのクリニックで「血糖値が高いので、すい臓がんの可能性もある。万一のためにMRIの検査をした方が良い」と言われた。 がんの可能性?と初めは驚いたが、そろそろ仕事をセーブする時期かと思い受診することにした。 MRIが、磁気と電波だけを利用して体の内部を画像化する検査装置であること、放射線を使わないため被ばくすることがないことはその時初めて知り、当日を迎えたのである。  検査技師の説明後、高さ50センチほどのベッドに仰向けに横になると、ベッドがドーム状の小さなトンネルの中に吸い込まれた。ドームの中は白く、天井までは約30センチ、ヘッドホンからはBGMが流れている。 すると「ガッガッガッ…」と検査技師が言っていた工事現場の音と共にヘッドホンから検査技師の声で「今から始めます。まずは息を吸ってください。止めてください。吐いてください。」の指示があり、 それが約20回、繰り返し行われた。 20分後、「これで終わりです。おつかれさまでした」の検査技師からの声と共に、工事現場の音が止まり、ほどなくベッドが動きドームから出ることができ、検査が終了となった。  と、ここである疑問が湧いてきた。それは、聴覚に障害のある人は、ドーム内での検査技師からの音声による重要な指示を、どうやって知ることができるのだろうということだ。  調べてみると、公益社団法人日本診療放射線技師会から、『聴覚障害者のための放射線部門におけるガイドライン』が出されていた。そこには聴覚に障害がある人の場合、 「すべての検査について説明用のパンフレットや字幕入りビデオなどを準備しておく事が望ましい。」とあり、「検査前の説明には十分時間をかけ、検査の流れをフローチャート化し、それを基に説明する。」と書かれてあった。 さらに「視線を合わせ表情をつけて話す。マスクをはずして口元をみせ、口をはっきり動かして話す。専門用語は、できるだけわかりやすい言葉で説明する」とあった。 そして、「合図をする必要がある場合は、事前に合図の方法等について説明する」とあり、息止めの指示は、合図を決めて、それを事前に確認しておく」とあった。  また、機器によっては、仰向けになっている所にテレビモニターを設置し、閉所恐怖症の人のために癒し系の動画がモニターに映るものもあることも分かった。 モニターでは、聴覚障害者のために呼吸のタイミングを知らせ図や文字で知らせることもできる。 命を守るに直結する医療機器は、ハード又は人的応対のどちらかで、誰でも利用できることに大きな意味がある。 ところで私の結果は、がんは発見されずで、それはまだ仕事が足りなくて「もっと働きなさい」のメッセージと受けとった次第である。 星川安之 参考 時事通信社『厚生福祉』 写真:『聴覚障害者のための放射線部門におけるガイドライン』(社団法人日本放射線技師会) 12ページ 点字名刺の手作り講座とお薦めの書籍 Web会議方式で「手作り点字名刺講座」  新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの人が活用し始めたのが、Web会議です。 主催者から事前に送られてきているサイトにアクセスするとすぐに、ネット上の会議室に入ることができます。 既に入っている人と挨拶し、時間になると、事務局が本日の議事次第を紹介し、委員長が選出され、 その後は、通常の委員会と同じように会議が進んでいきます。 Web会議の利点は、会議室まで移動する必要がないのでこれまで参加できなかった人も参加することができます。  共用品に関する講座もできるのではと、先日、個人賛助会員の芳賀優子(はがゆうこ)さんに相談し、 Web会議による「点字名刺の手作り講座」をトライアルで行ってみました。 受講者には、あらかじめ点字の筆記具と、名刺大の紙を準備してもらい、当日を迎えました。 当日、講師の芳賀さんから、点字のなりたち、点字の歴史を、ネット上で聞いている人に声で伝えます。 画像でも紹介し、そして点字名刺の作り方を、順番に伝えながら進めていきました。 受講した人は、点字の存在は知っていても、それがどんな歴史があるか、 どんな構成になっているかを学ぶ機会がなかったとのことでしたが、 一つ一つの疑問にも、画面の向こうにいる弱視の芳賀さんが直接答えてくれるので、 今まで漠然と持っていた疑問がスーと取れていくのが傍から見ていてもわかりました。今後、 共用品推進機構として、Web共用品講座が開催できたらと思っています。 星川安之 写真1:講師の芳賀優子さん 絵本『だるまさんが』ブロンズ新社  数年前、児童書専門店で手にとった本が、かがくいひろしさん作の『だるまさんが』(ブロンズ新社)でした。 子どもの頃遊んだ「だるまさんが、ころんだ」の「ころんだ」の部分が、5つの異なる言葉に置き換えられている絵本です。 その5つの言葉、1つ目のだるまさんを見ると昔、友達と野原をかけまわっていた頃の自分にタイムスリップし、 5つ目で、あの頃の心を連れて今の自分にそっと戻してくれたのです。 それはまるで魔法のようでした。  作者を調べると、すい臓がんで54歳の若さでご逝去されていること、絵本作家になったのは、50歳をすぎてからだったこと、 それまでは長年、養護学校の教員だったことを知りました。  2年前、東京原宿で開かれた「かがくいひろし絵本原画展」では、原画と共に、教員時代の映像が繰り返し流れていました。 重度障害のある生徒と共に合奏をするかがくいさん、麻痺した手で懸命に直線を書く子供を見つめるかがくいさん、 どちらも終わると「すごいね~、いい音だね~!」、「すごいね~!いい線だね~!」と心からの声で伝える彼の言葉に、 言葉の不自由な子どもたちの返事は、心からの「にこっ」。  ふと、映像が流れる部屋で画像を見つめる大人の顔を見ると、いつのまにか皆、「にこっ」に変わっていました。 現在、共生社会の実現が喫緊の課題と報じられています。その目標に向けて解決や実現に向けた貴重な議論が、 多くの場合、眉間にしわを寄せて行われています。私もしばしば眉間にしわが寄ってしまいます。 そんな時はいつも『だるまさんが』を本棚から取り出しています。 星川安之 写真2:絵本『だるまさんが』 13ページ 電話で音声認識は使えるの? (一社)全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 小川光彦(おがわみつひこ) 1 実験の目的  全難聴は日本財団助成金を受け、19年度まで2年間「電話利用における音声認識ソフトの調査」事業に取り組みました。 聞こえにくい人が電話を使えるようにする方法として、国内では日本財団の電話リレーサービス・モデルプロジェクトの取り組みがあります。 聴覚障害者等と聴者を、通訳オペレーターが『手話や文字』と『音声』を通訳することにより、電話で即時双方向につなぐサービスです。  通訳オペレーターが仲介する方法が有効であることは実証されていましたが、ここで電話音声を文字化する方法として、 オペレーターのかわりに音声認識ソフトを活用して文字化する方法も考えられます。 オペレーターなしに機械的にできる等の大きなメリットが考えられますが、従来の音声認識ソフトは通信環境や話者の発音などによって、 認識精度が左右されるのではないかという懸念があります。  このため今回の調査事業では、共用品推進機構の星川安之専務理事を委員長とした委員会のアドバイスを受けながら、 電話音声を音声認識ソフトで文字化する方法が、当事者にとってどれだけ実用的なのかを分析・評価することを目的としました。 2 実験の方法と結果  この事業は合同会社シーコミュの協力で開発された「文字付き電話」のシステムで行われました。スマートフォンにアプリをダウンロードして利用します。  2019年6月から10月まで行われた実証実験期間中、応募いただいたモニターのうち109名に、のべ2304回電話利用いただいた結果得られたアンケートと、 登録された利用者属性のデータ等をもとに分析・考察を行いました。実験の分析は三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の協力を得ました。  結果から、電話音声の文字化に高い利用ニーズが確認されましたが、音声認識ソフトの実用性の評価項目(内容・ニュアンスの理解、テンポの良さ)は低く、 オペレーターによる入力の優位性が確認されました。  文字化アプリを開発する際、スマホのOSの機能の中に、音声認識の精度が低下してしまうような、環境的制約があったことが評価に影響しています。 3 今後の課題  現在総務省を主管官庁として電話リレーサービスの公的制度化が進められていますが、これまでの発表で文字付き電話はサービス開始時期には間に合わないとされています。 音声認識については、電話リレーサービスの実現を前提として、技術開発を並行して進めるとあり、積極的な取り組みが期待されます。 そのためには今回の調査事業でわかった環境的制約等の課題を解消する研究・実証を、今後も継続することが非常に重要だと考えられます。 本事業の実施については、実証実験にご協力いただいた皆さまはじめ、関係者の皆さまに多大なご支援をいただきました。 心より御礼申し上げます。課題解決の取り組みのため、今後ともご理解・ご協力のほどお願い申し上げます。 ※本事業の報告書を作成しました。データをご希望の方は、全難聴のサイトからダウンロードしてください。 https://www.zennancho.or.jp/3005/ 14ページ 障害のある医師と志望者をつなぐサイト開設  医師を目指す障害のある人と医師、障害のある医師を結ぶホームページのサイトが立ち上がりました。 名称は、「〝夢をつなぐ〟Doctor's Network」、「先輩医師」のコーナーでは、障害のある現役医師たちの、 「医師になった経緯」、「医師として働く上での工夫や配慮」、「医師を目指す人や医師を続けることに不安を感じている人へのメッセージ」が記されています。  障害の種別は現段階で、肢体不自由、聴覚・言語障害、視覚障害、内部障害、他と多岐に分かれ、さらに、発症の時期も医学部入学前、学生時代、医師になってからと分かれています。  生まれた時から両下肢に障害のあるHさんは、現在リハビリテーション科の医師として働いています。 幼い頃の小児整形の主治医に憧れたことが原点となり、その後周りの友人に支えられて生活を送れたことへの感謝が重なり医師になる道を選びました。 しかし当時は、インターネットも普及していなかったため、障害のある学生が医学を学べるのか、障害のある人が医師になっているのか、何科であれば可能なのかといった情報がなかったのです。  同じく下肢障害で車椅子使用のSさんは、高校の時、医大のオープンキャンパスに行き、「車椅子での生活ですが、この大学で医学を学べますか?」と大学側に問いかけました。 大学側は、その問いかけに対し、車椅子を使用する学生が医学を学ぶ過程で、それを阻害する要因を確認しました。 その結果、動線上の段差はスロープになり、重い扉は自動ドアになるなどしましたが、それらはほんの一例です。  医師になってから事故で障害を負ったRさんは、それまで外科医として勤務していましたが、手技が困難となりました。 外科医への執着よりも医師への復帰がリハビリを行う時の動機付けとなり、手技が困難でも手術に関係する画像診断医になりました。 外科医の経験のあるRさんには、手術に関するアドバイスを求める同僚の外科医も多くいるとのことです。  Rさんの経験は、医師は幅広い分野で活躍できることを証明しています。 「先輩医師」で示されている体験から、病院はさまざまな病気や障害のある人が多く来院するため、特にハード面においては、 バリアフリーになっており、そのため、医師に障害があっても、移動等に関しては大きな問題がないとの報告が多くあがっています。  多くの先輩医師たちが伝えているのは、「自分ができないことは、ちゃんと人に頼むことが重要」というメッセージです。 多くの場合、医療はチームワークで行われます。それは、障害があるなしにかかわらず、お互いにリードしあい、支援しあうことで成り立つことを、経験を通じて伝えています。  このサイトを立ち上げた依田晶男(よだあきお)さんは、一貫して共生社会の実現に向けて公私共に活動しているかたで、 「障害のある子供達の中では、憧れる大人として主治医がイメージされることが多く、また、医療で助けられた分、将来は医療の仕事をと考える若者がいます。 けれど、障害のある医師の情報が少なく、自分が働くイメージを持てず、医師への夢を断念しがちです。 自分と同じ障害でも活躍している医師の存在を知れば、夢に向かって努力できるのではないでしょうか」と問いかけられています。 星川安之 写真:「“ 夢をつなぐ”Doctor's Network」https://dream-doctor.net/ 15ページ キーワードで考える共用品講座第116講「新型コロナと共用品」 日本福祉大学客員教授 後藤芳一(ごとうよしかず) 「いま生きている人すべてにとって人生最大の出来ごとになる。10年の変化を18ヶ月で体験する」(イアン・ブレマー)。 コロナ後は元に戻らない(ニューノーマル=新たな日常に)といわれる。 1.疫病と歴史  感染症のうち人や動物からうつるのを伝染病、そのうち死者数など被害の大きいのが疫病だ。ハンセン病、インフルエンザ、赤痢、天然痘、ペスト、新興感染症(SARS)など。 疫病が生じた原因(十字軍、蒙古の西進、産業革命、熱帯の開発)と結果(病院、東ローマ帝国の滅亡、ルネサンス、アステカ文明の崩壊、大仏建立、祇園祭、文学)をみると、 国や民族の活動が原因になり、文明、文化、社会制度、暮らしに影響を与えてきた。新型コロナも疫病だ。 2.社会や意識  3密を避ける、家にいる、経済活動を控える――1人1人の行動が社会を支え、個人が社会と直結していると実感させた。 見えない仲間が同じ目的にむけ責任をはたす、それを互いに思いやる「連帯」の意識は「ペスト」(カミュ)のテーマでもあった。  現代の社会はデジタル化と第4次産業革命(IoT、AI)という変化の中にいた。新型コロナはそれを加速させる。医療は安全保障問題だと認識させた。 ネット診療など規制緩和も試された。他方、各国の対応(例:自国主義、私権制限、公衆衛生)は、元の路線を先鋭化させた。前者は変わること、後者は変わらないこと。 連帯意識は自然災害のつど高まったが、後に減衰した。 今度はどうか。 3.政治と経済  経済と安全(感染抑制)、自由と安全など多くのトレードオフが生じ、政治の判断は結果を分けた。過去にないほど自治体側の発信と独自の対策が目立った。 活動自粛、経営支援、PCR検査、出口戦略、9月入学など。 国一辺倒だったリーダーシップが変わりつつある。産業経済は効率や収益性指向への傾斜から、持続や安定の価値が見直されている。 レバレッジや株主利益から雇用や手元資金など。企業の存続を支えたのは批判されてきた内部留保だ。 地方分散や持続経営の必要性は以前から唱えられてきた。これらが慣習として定着するか、さらに制度改正にも及ぶか、そのいずれでもなく元に戻るか。  経済を支えてきた観光はいま、不要不急とされる。生活に必要な活動とは何か、業種で分類できるのか、議論は経済活動だけでよいか、文化はどうかと模索が続く。 4.個人の暮らしと働き方  都市集中を生んだ仕事や学びの方法が直撃をうけた。テレワーク、WEB会議、オンライン講義が広がった。 WEBでできる作業が広いことを発見し、対面を要する領域が選別されつつある。 一方、数年前にテレワークを進めた米IT企業は対面の価値を再認識して戻している。思わぬネックもみえた。 在宅のネット・PC環境、ハンコ・紙文化、電子決済・社外からネットに入っての決済、回線の容量など、1つ欠けても在宅ワークの支障になる。  消費やサービスは徒歩圏、観光も地元を見直している。地域や地方の再発見になる可能性がある。 暮らしは仕事のおまけという人生から、家と地域に根ざして仕事をする、別の自分を発見しつつある。 ネットがこれを支える。一方、接触を要するシェア経済(例:ライドシェア)には逆風も吹く。 5.バリアフリーと共用品  WEB会議を音声だけでやると視覚に不便さがある人も同じ条件になる。 ドアノブにつけて腕で回転させる補助バーは、操作に指の巧緻性を要しない。 これらは接触削減が不便さを抑えた例だ。  一方、高齢者や障害者に生じた問題は大きい。 自宅待機で社会から途絶、介助者が訪問できない・チームが組めない、通所できない、家族や専門職と会えない(認知症、知的障害)、就業機会を失う、支援組織・人材が続かなくなる。 医療者への偏見は、心の弱さを衛かれた。生存を保障すべき国、SDGsを唱える企業、自ら動くべき個人、不便さを支える共用品、障害者権利条約、皆が真価を問われている。 16ページ マスクがないことで… 【事務局長だより】 星川安之  新型コロナウルスの感染拡大によりマスクの不足が深刻化しました。 街の薬屋やスーパー、コンビニなどで50~100枚が箱に入ったものや、数枚が1セットになって袋に入っているモノが、所狭しと置かれていたあのマスクが、どの店からも消えてしまいました。 感染拡大は花粉が飛ぶ時期や風邪の流行時期とも重なり、需要と供給のバランスが完全に崩れてしまいました。それでもこの事態の初期段階では入荷する店もあり、 そこには朝から長蛇の列ができ、ニュースでも度々報道されました。さらに、その頃は大量に仕入れてネットで高価格による転売を行い荒稼ぎする業者が現れ、転売禁止の法を出すまでに至りました。  そんな中、発想の転換をする人たちも現れはじめたのです。 以前、マスクといえば中にガーゼを入れる布製で、何度も洗って使えるタイプでした。 布製であれば、手作りもできます。布製マスクの型紙を掲載する雑誌やサイトも登場しました。  学校が休校となる中で、マスクのこの状況を知り、家での時間で500枚もマスクを手作りし、 喫緊にマスクが必要な高齢者施設に寄付した小学生がマスメディアで紹介され、大切なことに気づかせてくれました。 使い捨て文化への警告、非常時でも他者のことを思える気づきと実行力です。  企業によっては、感染防止率を増すマスクの開発に取り組んだり、左右の耳にかけるゴムにクリップを付け、 品薄になっていないキッチンペーパーや布をマスクの大きさにしたものを挟んでマスクの代わりができるものを考え販売したりと、さまざまな試みが生まれています。  そんな中、聴覚に障害のある人たちの中で「自分は音や音声が聞きづらい難聴で、普段は補聴器を付けながら、 会話は相手の声と相手の口の形を見て補いながら理解している。 それがマスクでは口の形が見えずに相手が何を話しているかが分かりづらくなるのです」とのネットへの書き込みが複数ありました。  以前、台北に行った時、101タワーに入っているフードコートの店員さんと調理をしている人たちが、使い捨てマスクではなく、 透明なプラスチックでできたマスクで接客や調理をしていたのを思い出しました。 その後、日本の飲食のチェーン店のいくつかの店舗で透明マスクを見かけました。 でも、この時期、この透明マスクも品薄だろうと思いながら、サイトを検索しているとある動画に目が留まりました。  それは、ウイルス感染が日本より拡大しているアメリカの学生の試みです。  手作りのマスクを作るまでは、日本の小学生の試みと同じなのですが、一つ違うのは布のマスクの中央を長方形に切り取り、そこに透明なシートを縫い込んでいくのです。 その報道のタイトルには、「耳の不自由な人のためのマスクを作る学生」とありました。  緊急事態での中ではありますが、貴重な工夫も生まれています。  表紙で、小川光彦さんがしている透明マスク・ルカミィは5月1日現在、製造企業募集中とのことです。 共用品通信 【会議】 第21回理事会(書面審議)(3月23 日) 【報道】 時事通信社 厚生福祉 3月10日 高尾山の「世間」と「社会」 時事通信社 厚生福祉 3月17日 障害のある医師と志望者をつなぐ 時事通信社 厚生福祉 4月7日 スロープはどっちが? 時事通信社 厚生福祉 4月14日 岡山県のUD アンバサダー トイジャーナル 3月号 笛付き玩具の使い方 トイジャーナル 4月号 共用品の情報誌『インクル』 クオリティ・クラブ 3月・4月号 AD の普及 クオリティ・クラブ 5月・6月号 AD とサービス 福祉介護テクノプラス 3月号 台南・高雄で見かけたモノやコト 福祉介護テクノプラス 4月号 トランプ 福祉介護テクノプラス 5月号 共用品の情報誌『インクル』 高齢者住宅新聞 3月11日 子機が持ち運べるドアホン 高齢者住宅新聞 4月1日・8日 振動・音声で知らせる『体温計』 シルバー産業新聞 3月10日 多くの不便さを解消してきた共用品 日本ねじ研究会誌 1月 その1 共用品とは 日本ねじ研究会誌 2月 その2 福祉用具から共用品へ 日本ねじ研究会誌 3月 その3 共に遊べる玩具 アクセシブルデザインの総合情報誌 第126号 2020(令和2)年5月25 日発行 "Incl." vol.20 no.126 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2020 隔月刊、奇数月に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電 話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:https://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 編集長 山川良子 事務局 星川安之、森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、田窪友和 執筆 小川光彦、後藤芳一、凌竜也、竹島恵子 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙写真:撮影 小川光彦 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。 その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。